説明

高分子電解質体への無電解めっき方法

【課題】高分子電解質体のイオン伝導パス中に金が必要な量だけ制御性よく形成された、高分子アクチュエータの電極を得る方法を提供する。
【解決手段】高分子電解質体1にエタノール水溶液が予備含浸(S1)されたのち、この高分子電解質体1が、塩化金酸と純水と水酸化ナトリウムからなるめっき浴に浸漬され、全面に金2が析出されて金めっきされる(ステップS2)。その後、高分子電解質体1の全面のうち表裏面以外の4つの側面を切除して表裏面のみに金2による電極3,3を形成する(S3)。そして、高分子電解質体1が含水した状態で、表裏面の電極3,3に対して電圧を印加することにより高分子電解質体1をアクチュエータとして機能させる。このとき、エタノール水溶液に膨潤剤と還元剤を兼ねさせ、予備含浸(S1)でのエタノール水溶液の濃度により析出する金の量を制御するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質体への無電解めっき方法に関し、より詳しくは高分子電解質体を湾曲および変形させることによりアクチュエータとして機能させる高分子アクチュエータの電極形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療機器での例えばカテーテルの屈曲駆動部として、屈曲可能で柔軟性を有する高分子アクチュエータを用いることが検討されている。
すなわち、小型化が容易であり、応答性が速く、しかも小電力で作動する高分子アクチュエータとして、イオン交換膜とこのイオン交換膜の表面で接合した電極とからなり、イオン交換膜の含水状態においてイオン交換膜に電位差をかけてイオン交換膜に湾曲および変形を生じさせることによりアクチュエータとして機能させることができるアクチュエータ素子(特許文献1参照)及び高分子アクチュエータの製造方法(特許文献2参照)が提案されている。
この高分子アクチュエータは、イオン交換樹脂膜とその表面に相互に絶縁状態で接合した金属電極とからなり、このイオン交換樹脂膜の含水状態において、金属電極間に電位差をかけることによりイオン交換樹脂成形品に湾曲および変形を生じさせるものである。
このような高分子アクチュエータでは、イオン交換樹脂成形品である高分子電解質体の表裏面に電極を、例えば貴金属の電気めっきや無電解めっきにより形成される。
【特許文献1】特開平4−275078号公報(第2頁,図1,図1)
【特許文献2】特開平11−235064号公報(第3頁,図1,図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、高分子電解質体として用いられる、ポリエチレン、フッ素樹脂などにスルホン酸基やカルボニル基などの官能基が導入されたものでは、電極である金属とこの高分子電解質体でのイオン伝導パスとなる官能基とは多くの電極活性点をもっている必要があるが、電気めっきによる電極形成方法では、めっき浴中の一方のめっき電極から電子が供給されることで他方の電極側にめっき金属が析出するため、高分子電解質体の電極が、イオン伝導パスと無関係に形成される傾向がある。
そして、貴金属の無電解めっきによる電極形成においては、貴金属が錯体を形成した状態でないと一般に不安定であるため、大きな分子や複数の分子と錯体を形成した状態でめっき浴に供されることになる。
このように無電解めっきによる方法を採用したとき、めっきのつきまわりは改善されるものの、大きな分子や錯体の形成状態でめっき浴に供されるため、肝心の高分子電解質体のイオン伝導パス中に貴金属が形成されにくく、効率的な電極を形成しにくい不都合があった。
【0004】
本発明はかかる点に鑑み、高分子電解質体のイオン伝導パス中に貴金属を、必要な量だけ制御性よく形成する無電解めっき方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、高分子アクチュエータでの電極形成において、予めアルコールを高分子電解質体に含浸させた後、強アルカリ性とした貴金属錯体のめっき浴に浸漬することで、新たに還元剤を用いることなく所望の金を高分子電解質体内に析出させることができることを見出した。すなわち、従来膨潤剤としてのみ用いられてきたアルコールを、還元剤と兼ねるように用いることができることを見出し、本発明に至った。
上記課題を解決するため、本発明無電解めっき方法は、
高分子電解質体を用いて形成される高分子アクチュエータの電極となる、高分子電解質体とめっき金属との複合体を形成するための無電解めっき方法において、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコールの何れかのアルコールを還元剤及び膨潤剤として用い、アルコールを高分子電解質体に予め含浸する工程と、アルコールが含浸された高分子電解質体を、めっき金属の金属錯体のめっき浴に浸漬し、高分子電解質体内のアルコールと金属錯体のめっき液とを置換し、金属錯体を還元させる工程と、を有し、高分子電解質体の表面から所定深さの領域に金属を析出させたものである。
【0006】
このように構成した本発明無電解めっき方法によれば、還元剤と膨潤剤とを兼ねるアルコールを予め含浸させることで、高分子電解質体のイオン伝導パス中に還元剤を含浸すると共にイオン伝導パスを膨潤させておくことができ、次の工程で比較的大きな貴金属の錯体をイオン伝導パス中に浸透させ必要十分な量の貴金属を還元させることで、高分子電解質体の表面の側に電極を形成することができる。そして、予め含浸させるアルコールの量により電極となる金属の量を調整することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明無電解めっき方法によれば、予め含浸させるアルコールの量により析出させる金属を量を調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の無電解めっき方法について実施例1〜7,表1,表2,図1〜図3を参照して説明する。
以下では、高分子電解質体に厚さが略250μmの帯状のフッ素樹脂系のナフィオン(Nafion:登録商標、デュ・ポン社製)を用い、エチルアルコールを還元剤と膨潤剤に用いて予備含浸を行い、金属錯体として金の錯体であるHAuClで表わされるテトラクロロ金(III)酸・n水和物(n≒3)を用いためっき浴で、無電解めっきにより金の電極を形成する例で説明する。
ここで、金錯体のめっき浴は、錯体が安定で、かつ高分子電解質体のイオン伝導パス中に含浸された錯体が還元剤で還元される必要がある。このため、テトラクロロ金(III)酸・n水和物(n≒3)を純水に溶解させ、安定剤として水酸化ナトリウムを添加した金めっき浴とする。
なお、以下ではテトラクロロ金(III)酸・n水和物(n≒3)を「塩化金酸」、エチルアルコールを「エタノール」と略述する。
【0009】
先ず、高分子電解質体への予備含浸エタノール濃度と析出金量との関係について、表1の実施例1〜4と図1を参照して説明する。
【表1】

【実施例1】
【0010】
表1に示すように、予備含浸として純水中の濃度が30vol%のエタノール水溶液に高分子電解質体を室温(25℃)で60分間浸漬する。その後、塩化金酸1gを60ccの純水に溶解し、さらに安定剤として水酸化ナトリウム1g添加した金めっき浴に、室温(25℃)で18時間浸漬して高分子電解質体の表面に金を析出させ、乾燥した。
そして、含浸後の高分子電解質体中のエタノール水溶液の重量aと、このときの実質的なエタノールの重量bと、乾燥後の高分子電解質体の重量から算出した析出した金の重量cを、含浸前の高分子電解質体重量wとの比で表わした。
【0011】
この結果、含浸後の高分子電解質体の重量wに対するエタノール水溶液の重量aの比(a/w)はa/w=0.6、実質的なエタノールの重量bとの比(b/w)はb/w=0.15、析出金の重量cとの比(c/w)はc/w=0.6を得た。
このとき、析出金量cと予備含浸による実質エタノール重量bとの比は、c/b=(c/w)/(b/w)から求められ、c/b=3.9であった。
なお、この場合、金属錯体浴での塩化金酸の重量濃度(wt%)は、1.6%であり、実質的なエタノールの重量bは、純水の比重が1でエタノールの比重をρとすると、エタノール濃度がy(vol%)であるとき、エタノール水溶液の重量aから次の式で求める。
b=a×((y/100)×ρ)/((y/100)×ρ+(1−y/100)×1)
すなわち、
b/w=(a/w)×((y/100)×ρ)/((y/100)×ρ+(1−y/100)×1)
となる。ここでエタノールの比重ρをρ=0.789として算出する。
【実施例2】
【0012】
表1に示すように、純水中の濃度が50vol%のエタノール水溶液に高分子電解質体を室温(25℃)で60分間浸漬した以外は実施例1と同じ内容で、高分子電解質体の表面に金を析出させた。
この結果、含浸後の高分子電解質体の重量wに対するエタノール水溶液の重量aの比(a/w)はa/w=0.88、実質的なエタノールの重量bとの比(b/w)はb/w=0.39、析出金の重量cとの比(c/w)はc/w=0.8を得た。
このとき、析出金量cと予備含浸による実質エタノール重量bとの比は、c/b=(c/w)/(b/w)から求められ、c/b=2.1であった。
【実施例3】
【0013】
表1に示すように、純水中の濃度が80vol%のエタノール水溶液に高分子電解質体を室温(25℃)で60分間浸漬した以外は実施例1と同じ内容で、高分子電解質体の表面に金を析出させた。
この結果、a/w=1.18、b/w=0.9、c/w=1.1を得た。
このとき、析出金量cと予備含浸による実質エタノール重量bとの比は、c/b=1.2であった。
【実施例4】
【0014】
表1に示すように、濃度100vol%のエタノールに高分子電解質体を室温(25℃)で60分間浸漬した以外は実施例1と同じ内容で、高分子電解質体の表面に金を析出させた。
この結果、a/w=0.56、b/w=0.56、c/w=0.45を得た。
このとき、析出金量cと予備含浸による実質エタノール重量bとの比は、c/b=0.8であった。
【0015】
これら実施例1〜4の結果を、折れ線グラフで示したものが図1A〜Cである。
図1A〜Cは、予備含浸するエタノール濃度と高分子電解質体中に析出する析出金量との関係を説明する折れ線グラフで、高分子電解質体を浸漬し含浸させるエタノール水溶液の、濃度30%が実施例1、濃度50%が実施例2、濃度80%が実施例3、エタノール100%が実施例4に対応する。
【0016】
図1Aは、予備含浸でのエタノールの濃度と、高分子電解質体中に浸透するエタノール量の関係を示すもので、
横軸が予備含浸でのエタノール濃度(vol%)で、縦軸が比である。
実線の折れ線グラフa/wは、含浸前の電解質体重量wに対する含浸されたエタノール水溶液重量aの比を示し、破線の折れ線グラフb/wは、含浸前の電解質体重量wに対する含浸された実質エタノール重量bの比を示している。
図1Aのグラフから、含浸されるエタノール重量は、濃度80%付近に極値をもっている。
【0017】
また、図1Bは、予備含浸でのエタノールの濃度と、高分子電解質体中に析出した金の重量の関係を示すもので、
横軸が予備含浸でのエタノール濃度(vol%)で、縦軸が比である。
実線の折れ線グラフc/wは、含浸前の電解質体重量wに対する析出した金の重量cの比を示している。
【0018】
図1Aの折れ線b/wと図1Bの折れ線c/wとの比較から分かるように、これらは略同じ傾向を示しており、エタノールの予備含浸において、還元剤と膨潤剤を兼ねるエタノールの濃度を調整することにより高分子電解質体中に析出する金の重量を制御することができることが分かる。
なお、図1A及びBでは、エタノール濃度100%での高分子電解質体中に含浸されるエタノールの重量と析出金の重量が濃度80%に比べて少なくなっているが、これは今回使用した高分子電解質体では水を含んだ、エタノール水溶液状態の方が高分子電解質体との親和性が大きいためである。
【0019】
また、図1Cは、無電解めっき後の析出した金の重量cを測定し、予備含浸でのエタノールの濃度と、含浸された実質エタノール重量bに対する析出した金の重量cの比c/bとの関係を示すもので、横軸が予備含浸でのエタノール濃度(vol%)で、縦軸が比である。
同じめっき液を用いたとき、高分子電解質体の予備含浸でのエタノール濃度が大きいほど、析出する金の重量の比c/bが小さくなっている。
これは、エタノールを予備含浸したあとで、めっき浴に高分子電解質体を浸漬するため、予備含浸されるエタノール濃度が大きいほど、めっき液との間でのエタノールの濃度勾配が大きくなって、高分子電解質体からめっき浴に染み出すエタノールの量が多くなり、結果として高分子電解質体中で還元剤として有効に使用されるエタノールの割合が減少するためと考えられる。
【0020】
次に、めっき浴中の塩化金酸濃度と高分子電解質体での析出金量との関係について、表2の実施例5〜7と図2を参照して説明する。
【表2】

予備含浸するエタノール濃度を固定し、めっき浴の金属錯体の濃度を変えて、そのときの析出金の量、すなわち金錯体浴の濃度が金析出量に与える影響を以下の実施例5〜7で検討した。ここで、エタノールの予備含浸は、実施例3と同じエタノール濃度80vol%とし室温(25℃)で浸漬時間を60分とした。
【実施例5】
【0021】
表2に示すように、エタノールの予備含浸は実施例3と同じとし、塩化金酸1gを60ccの純水に溶解させ、さらに安定剤として水酸化ナトリウム1g添加した水溶液を10倍希釈した金めっき液をめっき浴に用い、室温(25℃)で18時間浸漬して高分子電解質体の表面に金を析出させてから乾燥した。
この結果、含浸後の高分子電解質体の重量wに対する析出金の重量cとの比(c/w)はc/w=0.3となった。
【実施例6】
【0022】
表2に示すように、エタノールの予備含浸は実施例3と同じ条件で実施する。そして、塩化金酸1gを60ccの純水に溶解させ、さらに安定剤として水酸化ナトリウム1g添加した水溶液を略3倍希釈した金めっき液をめっき浴に用い、室温(25℃)で18時間浸漬して高分子電解質体の表面に金を析出させてから乾燥した。
この結果、含浸前の高分子電解質体の重量wに対する析出金の重量cとの比(c/w)はc/w=0.7となった。
【実施例7】
【0023】
表2に示すように、エタノールの予備含浸及びめっきは実施例3と同じ条件で再度実施した。
この結果、含浸後の高分子電解質体の重量wに対する析出金の重量cとの比(c/w)はc/w=1.1となった。
なお、実施例5〜7において、含浸後の高分子電解質体中のエタノール水溶液の重量aと、このときの実質的なエタノールの重量bと、析出した金の重量cを、含浸前の高分子電解質体重量wとの比で表わした、a/w,b/wは、実施例3と略同じ値となった。
すなわち、表1の「予備含浸後重量変化」は実施例3の同じエタノール濃度80%の条件で行われるため、実施例5〜7で得られた含浸されるエタノール重量の値は、さほどばらつかず略一定である。
エタノール濃度80%付近での予備含浸によって高分子電解質体中に染み込んだエタノール水溶液の量は再現性があるといえる。
【0024】
これら実施例5〜7の結果を、折れ線グラフで示したものが図2である。
図2は、予備含浸におけるエタノール濃度を一定(80vol%)とし、高分子電解質体中に析出する析出金量の塩化金酸の濃度(wt%)との関係を説明する折れ線グラフである。めっき浴中の塩化金酸の濃度が、濃度0.16%が実施例5、濃度0.5%が実施例6、濃度1.61%が実施例7に対応する。
【0025】
すなわち、図2は、含浸前の高分子電解質体の重量wに対する析出金の重量cとの比(c/w)を、めっき浴の塩化金酸の濃度に対してプロットしたものである。
析出した金の重量は、めっき浴の塩化金酸の濃度が増加するとともに増加しており、塩化金酸の濃度によって高分子電解質体への金の析出量が制御できることが分かる。
【0026】
以上、実施例1〜7で示したように、高分子電解質体へ含浸する還元剤としてのエタノールの濃度、及びこのエタノールが予め含浸された高分子電解質体を浸漬するめっき浴の、金錯体である塩化金酸の濃度を調整することで、高分子電解質体に析出する金の量を制御できる。
ここで、実施例1〜7においてエタノールが含浸された高分子電解質体が金錯体浴に浸漬されたときのイオン伝導パス中における推定反応を示すと次のように考えられる。
【0027】
高分子電解質体中の膨潤したイオン伝導パスの中にはめっき液が浸入し、塩化金酸(HAuCl)、水酸化ナトリウム(NaOH)、エタノール(COH)、水(HO)が共存しているのでこれらが次のように反応するものと考えられる。
4・HAuCl+ 19・NaOH+ 3・COH+ 3・H
→ 4・Au↓+ 16・NaCl+ 3・CHCOONa(酢酸ナトリウム)+19・H
すなわち、不溶性の金が析出し、NaCl(塩化ナトリウム)とCHCOONa(酢酸ナトリウム)と水が生成される。
【0028】
以下、高分子アクチュエータとして用いるための高分子電解質体の処理の概略を図3を参照して説明する。
【0029】
図3は高分子電解質体をアクチュエータとして用いるときの処理フローを示すものである。ここで、1で示す高分子電解質体は、例えば厚さが略250μmで帯状に切り出されたものである。
先ず、帯状の高分子電解質体1にエタノール水溶液が予備含浸される。すなわち、この高分子電解質体1が例えば濃度が80vol%のエタノール水溶液に室温で60分浸漬され、高分子電解質体1のイオン伝導パスが膨潤されるとともに高分子電解質体1の全表面から内部にエタノール水溶液が染み込まされる(ステップS1)。
そして、この高分子電解質体1が、例えば、塩化金酸1gと純水60ccと水酸化ナトリウム1gからなるめっき液に室温で18時間浸漬される(ステップS2)。これにより、高分子電解質体1の全表面に金2が析出する。
そして、高分子電解質体1の金2が析出した面のうち表裏面のみに電極を形成するため、表裏面以外の4つの側面を切除する(ステップS3)。
そして、高分子電解質体1が含水した状態で、表裏面の電極3,3に対して電圧を印加することにより高分子電解質体1を湾曲・変形させ、アクチュエータとして機能させることができる。
【0030】
本例の無電解めっき方法によれば、高分子電解質体へ含浸するエタノールが還元剤となり、このエタノール濃度と、エタノールが含浸された高分子電解質体を浸漬するめっき浴中の金錯体の濃度を調整することにより、に析出する金の量を制御することができる。
【0031】
本発明の無電解めっき方法は、上述例に限ることなく本発明の要旨を逸脱することなく、その他種々の構成を採り得ることは勿論である。
例えば、上述実施例1〜4では、予備含浸するエタノール水溶液濃度を変え、めっき浴中の塩化金酸の濃度を一定として析出する金の重量を制御するようにし、実施例5〜7では、予備含浸するエタノール水溶液濃度を一定とし、めっき浴中の塩化金酸の濃度を変えて析出する金の重量を制御するようにして、エタノール水溶液濃度と塩化金酸の濃度をそれぞれを個別に変化させる例で説明したが、これに限らず、必要に応じてこれらを同時に変化させ、高分子電解質体に適正な電極複合体を得ることができる。また、高分子電解質体を帯状とした例で説明したが、これに限らず円筒形状、円柱形状でも高分子電解質体の対向する面にそれぞれ電極を形成することにより種々の湾曲態様をなすアクチュエータを作製できるものである。
【0032】
また、予備浸漬でエチルアルコールの代わりに、プロピルアルコール(CHCHCHOH:1−プロパノール)又はイソプロピルアルコール(CHCH(OH)CH:2−プロパノール)を用いて還元剤と膨潤剤を兼ねるようにして不溶性の金が析出させることができ、この場合のプロピルアルコールでの推定反応式は、
4・HAuCl+ 19・NaOH+ 2・CHCHCHOH+ 3・H
→ 4・Au↓ + 16・NaCl+ 3・CHCOONa+ 18・H
となる。
また、イソプロピルアルコールでもプロピルアルコールと同様に還元剤と膨潤剤を兼ねることができるものである。
【0033】
また、めっき浴中の安定剤として水酸化ナトリウム(NaOH)を用いた例で説明したが、代わりに重炭酸ソーダ(NaHCO)を用いて、次の反応式により金を析出させることができる。
4・HAuCl+ 19・NaHCO+ 3・COH+ 3・H
→ 4・Au↓+ 16・NaCl+ 3・CHCOONa+ 19・HO+ 19・CO
すなわち、不溶性の金が析出し、NaCl(塩化ナトリウム)とCHCOONa(酢酸ナトリウム)と水とCO(二酸化炭素)が生成される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1例の結果の予備含浸エタノール濃度に対する高分子電解質体の変化を折れ線グラフで示したもので、Aは含浸前の高分子電解質体重量に対する高分子電解質体中のエタノール含浸重量の比の変化、Bは含浸前の高分子電解質体重量に対する析出した金重量の比の変化、Cは含浸された実質エタノール重量に対する析出した金重量の比の変化を示す還元剤の利用率に係る折れ線グラフである。
【図2】図3例の結果をめっき浴中の塩化金濃度に対する高分子電解質体の変化を折れ線グラフで示したもので、含浸前の高分子電解質体重量に対する析出する金重量の比の変化の示すものである。
【図3】本発明での帯状の高分子電解質体をアクチュエータとして用いるときの処理フローである。
【符号の説明】
【0035】
1…高分子電解質体、2…金、3…電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質体を用いて形成される高分子アクチュエータの電極となる、前記高分子電解質体とめっき金属との複合体を形成するための無電解めっき方法において、
エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコールの何れかのアルコールを還元剤及び膨潤剤として用い、
前記アルコールを前記高分子電解質体に予め含浸する工程と、
前記アルコールが含浸された前記高分子電解質体を、前記めっき金属の金属錯体のめっき浴に浸漬し、前記高分子電解質体内の前記アルコールと前記金属錯体のめっき液とを置換し、前記金属錯体を還元させる工程と、を有し、
前記高分子電解質体の表面から所定深さの領域に前記金属を析出させた
ことを特徴とする無電解めっき方法。
【請求項2】
請求項1記載の無電解めっき方法において、
前記高分子電解質膜体に予め含浸する前記アルコールの濃度によって前記金属の析出量を調整することを特徴とする無電解めっき方法。
【請求項3】
請求項2記載の無電解めっき方法において、
前記アルコールが予め含浸された高分子電解質体を浸漬する前記めっき浴の前記金属錯体溶液の濃度を調整し、前記金属の析出量を調整する
ことを特徴とする無電解めっき方法。
【請求項4】
請求項3記載の無電解めっき方法において、
前記めっき浴中の前記金属錯体としてテトラクロロ金(III)酸・n水和物(n≒3)を用い、安定化剤として水酸化ナトリウム及び/又は炭酸水素ナトリウムを用いて金を析出させるようにした
ことを特徴とする無電解めっき方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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