説明

高分子電解質膜、膜/電極接合体及びそれを用いた燃料電池

【課題】メタノール透過抑制性と電極との接合性が良好で、燃料電池、特にダイレクトメタノール型燃料電池に適した高分子電解質膜及びその用途を提供する。
【解決手段】2種類以上の高分子電解質を混合された状態で有する高分子電解質膜であって、高分子電解質の少なくとも一つが、下記の化学式1で示される構造単位を含有するスルホン酸基含有ポリマーであることを特徴とする高分子電解質膜。


(ただし、Xは水素又は1価のカチオン種、Yはスルホン基又はケトン基、Arは芳香族化合物を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池のプロトン交換膜として用いることができ、メタノールや水素などの燃料の透過性を抑制しつつ、電極との接合性を両立させることができる高分子電解質膜及びその用途(膜/電極接合体、燃料電池)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー効率や環境性に優れた新しい発電技術が注目を集めている。中でも高分子固体電解質膜を使用した固体高分子型燃料電池はエネルギー密度が高く、また、他の方式の燃料電池に比べて運転温度が低いため起動、停止が容易であるなどの特徴を有するため、電気自動車や分散発電などの電源装置としての開発が進んできている。固体高分子型燃料電池の中でも、燃料としてメタノールを直接供給するダイレクトメタノール型燃料電池は、特に小型化が可能であるためパーソナルコンピューターや携帯機器の電源などの用途に向けた開発が進んでいる。
【0003】
高分子固体電解質膜には通常プロトン伝導性の高分子電解質を含む膜が使用される。高分子固体電解質膜にはプロトン伝導性以外にも、燃料の水素などの透過を防ぐ燃料透過抑止性や機械的強度などの特性が必要である。このような高分子固体電解質膜としては、例えばスルホン酸基を導入したパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーを含む膜が知られている。
【0004】
ダイレクトメタノール型燃料電池はメタノール水溶液を燃料として用いるが、メタノールが膜を透過して空気極に移行すると出力の低下を起こす。そのためメタノール透過性の大きいパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー膜をダイレクトメタノール型燃料電池に用いる場合、高濃度のメタノール水溶液を用いるとメタノールの透過量が大きくなり、出力の低下が著しいという問題があった。そこで、メタノールの透過性が小さい非パーフルオロカーボンスルホン酸系の高分子電解質膜が検討されている(例えば特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開2003−288916号公報
【特許文献2】特開2003−331868号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2002/0091225号明細書
【0005】
しかしながら、これらの炭化水素系高分子電解質膜は、パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子電解質膜よりもメタノール透過性は小さくなるものの、燃料電池としたときの性能は十分といえるものではなかった。また、パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子電解質膜では電極は通常ホットプレスなどで接合しているが、炭化水素系高分子電解質膜で同様の方法で電極を接合しようとするとしばしば剥がれなどの接合不良が生じやすかった。そのため、さらに優れた炭化水素系高分子電解質膜が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は従来技術の課題を背景になされたもので、メタノール透過抑制性と電極との接合性のいずれもが良好であり、燃料電池、特にダイレクトメタノール型燃料電池に適した高分子電解質膜、該高分子電解質膜を用いた膜/電極接合体及び燃料電池の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、ついに本発明を完成するに至った。 すなわち本発明は、下記の構成からなる。
(1) 2種類以上の高分子電解質が混合された高分子電解質組成物からなる高分子電解質膜であって、高分子電解質の少なくとも1種が、下記の化学式1で示される構造単位を有するスルホン酸基含有ポリマーであることを特徴とする高分子電解質膜。
【0008】
【化1】

(ただし、Xは水素又は1価のカチオン種、Yはスルホン基又はケトン基、Arは下記化学式2で表される分子構造であるか、又は化学式3及び4で表される分子構造の両方を同時に含む。)
【0009】
【化2】

(ただし、Arが化学式2で表される分子構造である場合、Zは酸素原子、nは2以上の任意の整数を示す。Arが化学式3及び4で表される分子構造の両方を同時に含む場合、Zは独立して酸素原子又は硫黄原子のいずれかを、Zは酸素原子、硫黄原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−CH−基、シクロヘキシル基のいずれかを示す。また、Arが化学式3及び4で表される分子構造の両方を同時に含む場合は、上記化学式1と共に下記化学式5及び6の分子構造を同時に含む。)
【0010】
【化3】

(ただし、Ar,Arは2価の芳香族結合ユニットを、Z,Zは独立して酸素原子又は硫黄原子のいずれかを、Zは酸素原子、硫黄原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−CH−基、シクロヘキシル基のいずれかを示す。)
(2) 前記スルホン酸基含有ポリマーが、下記化学式7で示される構造単位をさらに含有する(1)に記載の高分子電解質膜。
【0011】
【化4】

(ただし、Arは2価の芳香族結合ユニットを、nは2以上の任意の整数を示す)
(3) 前記スルホン酸基含有ポリマーにおける前記化学式5のAr及び化学式6のArが、下記化学式8〜11で表される分子構造から選ばれる1種以上の基である(1)に記載の高分子電解質膜。
【0012】
【化5】

(4) 前記スルホン酸基含有ポリマーにおける化学式7のArが、化学式8〜11で表される分子構造から選ばれる1種以上の基である(2)に記載の高分子電解質膜。
(5) 前記スルホン酸基含有ポリマーにおける化学式4のZ及び化学式6のZがいずれも硫黄原子である(1)に記載の高分子電解質膜。
(6) 前記高分子電解質組成物における化学式1、5及び6でそれぞれ表される構造単位及びその他の構造単位のモル比が数式1〜3を満足する(1)に記載の高分子電解質膜。
0.9≦(n1+n2+n3+n4)/(n1+n2+n3+n4+n5)≦1.0
・・・(数式1)
0.05≦(n1+n2)/(n1+n2+n3+n4)≦0.7 ・・・(数式2)
0.01≦(n2+n4)/(n1+n2+n3+n4)≦0.95・・・(数式3)
(上記数式中、n1はArが化学式3である場合の化学式1で表される構造単位のモル%を、n2はArが化学式4である場合の化学式1で表される構造単位のモル%を、n3は化学式5で表される構造単位のモル%を、n4は化学式6で表される構造単位のモル%を、n5はその他の構造単位のモル%を、それぞれ表す。)
(7) 前記スルホン酸基含有ポリマーにおいて、スルホン酸基含有ポリマーを構成するモノマー成分の少なくとも一部が、下記の化学式12で表される末端ジヒドロキシ化合物であって、nの異なる複数の成分からなり、かつnの平均値が1<n≦10の範囲にあるものである(2)又は(4)のいずれかに記載の高分子電解質膜。
【0013】
【化6】

(ただし、nは0以上の整数を表す。)
(8) 前記高分子電解質組成物におけるイオン交換容量が0.3〜5.0meq/gの範囲内である(1)に記載の高分子電解質膜。
(9) 前記(1)〜(8)のいずれかに記載の高分子電解質膜を有する高分子電解質膜/電極接合体。
(10) 前記(9)に記載の高分子電解質膜/電極接合体を用いた燃料電池。
(11) メタノールを燃料とする前記(10)に記載の燃料電池。
である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の高分子電解質膜は、燃料となるメタノールの透過性が小さいにもかかわらず、電極との接合性が良好であるため、燃料電池用の優れた高分子電解質膜/電極接合体が得られ、これを用いた燃料電池は、高出力と耐久性の向上を計ることができる。本発明の高分子電解質膜は、特にダイレクトメタノール型燃料電池に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明中における重量とは、質量を意味する。
本発明の高分子電解質膜は、2種類以上の高分子電解質を混合してなる組成物で形成された高分子電解質膜であって、そのうちの少なくとも1種類の高分子電解質が化学式1で示される構造単位を含有するスルホン酸基含有ポリマーであることを特徴としている。高分子電解質組成物における化学式1で示される構造単位を有するスルホン酸基含有ポリマーの含有率は、10〜90質量%の範囲であることが好ましく、20〜80質量%の範囲であることがより好ましい。化学式1で示される構造単位を有するスルホン酸基含有ポリマーは、2種類以上用いてもよい。化学式1で示される構造単位を有するスルホン酸基含有ポリマーを複数用いる場合は、化学式1で示される構造単位を有するスルホン酸基含有ポリマー以外の高分子電解質を含んでいなくてもよい。
【0016】
本発明におけるスルホン酸基含有ポリマーは、化学式1において、Xは水素又は1価のカチオン種、Yは−S(=O)−基又はC(=O)−基を表す。燃料電池に用いる場合にはXが水素であることが好ましい。Yは、−S(=O)−基であると、モノマー及びポリマーの溶解性が向上させることができ、−C(=O)−基であると、得られるポリマーの軟化温度を低下させたり、光架橋性を付与させたりすることができる。
【0017】
化学式1の好ましい態様の一つは、Arが化学式2で表される場合の分子構造である。Arが化学式2で表される分子構造であると、得られる高分子電解質膜の電極との接合性が特に良好であるため好ましい。このとき、Zは酸素原子を、nは2以上の任意の整数を示す。nは、異なる複数の成分からなっていてもよく、その平均値が3〜20の範囲にあることが好ましく、4〜10の範囲にあることがより好ましい。
【0018】
化学式6において、Arが化学式2で表される場合、化学式1で示される構造単位を有するスルホン酸基含有ポリマーは、化学式7で表される構造単位をさらに有することが好ましい。化学式7において、nは2以上の任意の整数を示す。また、nは、異なる複数の成分からなっていてもよく、その平均値が3〜20の範囲にあることが好ましく、4〜10の範囲にあることがより好ましい。Arは任意の芳香族基を表すが、他の部位と結合している芳香環に電子吸引性基が結合しているものが好ましく、結合部位に対してオルト位もしくはパラ位に結合しているものがより好ましい。さらに、電子吸引性基としては、例えば、スルホン基、スルホニル基、カルボニル基、フォスフィンオキシド基、ニトロ基、シアノ基、フッ素原子などを挙げることができる。また、他の部位とは、同一の芳香環で結合していても、別々の芳香環で結合していてもよい。具体的な例として、オクタフルオロビフェニル基や、化学式8〜11で表される分子構造を挙げることができる。化学式8の分子構造はポリマーの溶解性を高めることができ好ましい。化学式9の分子構造はポリマーの軟化温度を下げて電極との接合性を高めたり、光架橋性を付与したりするので好ましい。化学式10又は11の分子構造はポリマーの膨潤を少なくできるので好ましく、化学式11の分子構造がより好ましい。化学式8〜11の中でも化学式11の分子構造が最も好ましい。
【0019】
化学式1において、Arが化学式2で表される場合、化学式12で表される末端ジヒドロキシ化合物であって、nの異なる複数の成分からなり、かつnの平均値が1<n≦10の範囲にあるものをモノマー成分の一部として使用することが好ましい。
【0020】
化学式1の好ましい別の態様は、Arが、化学式3で表される分子構造と化学式4で表される分子構造の両方を含む場合である。このとき、Zは独立して酸素原子又は硫黄原子のいずれかを表すが、硫黄原子であるとポリマーの耐酸化性が向上する。Zは酸素原子、硫黄原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−CH−基、シクロヘキシル基のいずれかを示すが、酸素原子、硫黄原子、シクロヘキシル基が好ましい。
【0021】
化学式1におけるArが化学式3及び4の分子構造の両方を含む場合は、化学式1で示される構造単位を有するスルホン酸基含有ポリマーは、化学式1と共に化学式5及び6の分子構造も同時に含む。化学式5及び6において、Ar及びArは、それぞれ任意の芳香族結合ユニットを表すが、他の部位と結合している芳香環に電子吸引性基が結合しているものが好ましく、結合部位に対してオルト位もしくはパラ位に結合しているものがより好ましい。さらに、電子吸引性基としては、例えば、スルホン基、スルホニル基、カルボニル基、フォスフィンオキシド基、ニトロ基、シアノ基、フッ素原子などを挙げることができる。また、他の部位とは、同一の芳香環で結合していても、別々の芳香環で結合していてもよい。具体的な例として、オクタフルオロビフェニル基や、化学式8〜11で表される分子構造を挙げることができる。化学式8の分子構造はポリマーの溶解性を高めることができ好ましい。化学式9の分子構造はポリマーの軟化温度を下げて電極との接合性を高めたり、光架橋性を付与したりするので好ましい。化学式10又は11の分子構造はポリマーの膨潤を少なくできるので好ましく、化学式11の構造がより好ましい。化学式8〜11の中でも化学式11の分子構造が最も好ましい。
【0022】
化学式1におけるArが化学式3及び4の分子構造の両方を含む場合、化学式5及び6におけるZ,Zは独立して酸素原子又は硫黄原子のいずれかを表すが、硫黄原子であるとポリマーの耐酸化性が向上する。化学式6におけるZは酸素原子、硫黄原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−CH−基、シクロヘキシル基のいずれかを示すが、酸素原子、硫黄原子、シクロヘキシル基が好ましい。
【0023】
化学式1におけるArが化学式3及び4の分子構造の両方を含む場合、化学式4におけるZ、及び化学式6におけるZがいずれも硫黄原子であると得られる高分子電解質膜が電極との良好な接合性を示すため好ましい。
【0024】
本発明の高分子電解質膜を形成する高分子電解質組成物中の、化学式1で示される構造単位を有するスルホン酸基含有ポリマーにおいて、化学式1におけるArが化学式3及び4の分子構造の両方を含む場合には、化学式1、5、6でそれぞれ表される構造単位、及びその他の構造単位のモル比が、数式1〜3を満たすことが好ましい。数式1〜3において、n1はArが化学式3である場合の化学式1で表される構造単位のモル%を、n2はArが化学式4である場合の化学式1で表される構造単位のモル%を、n3は化学式5で表される構造単位のモル%を、n4は化学式6で表される構造単位のモル%を、n5はその他の構造単位のモル%を、それぞれ表す。
【0025】
数式1において、(n1+n2+n3+n4)/(n1+n2+n3+n4+n5)が0.9よりも小さいと、高分子電解質膜で良好な特性が得られないことがある。より好ましいのは0.95〜1.0の範囲である。
【0026】
数式2において、(n1+n2)/(n1+n2+n3+n4)が0.05よりも小さくなると、高分子電解質膜のイオン伝導性が十分に得られないことがある。また、0.9よりも大きいと高分子電解質膜の膨潤性が著しく大きくなることがある。より好ましい範囲は0.1〜0.7の範囲である。
【0027】
水素を燃料とする燃料電池の高分子電解質膜として用いる場合には、数式2における(n1+n2)/(n1+n2+n3+n4)が0.3〜0.8の範囲であることが好ましく、0.4〜0.7の範囲であることがより好ましい。0.3よりも小さいと十分な出力が得られないことがある。0.8よりも大きいと膨潤が著しく大きくなる場合がある。
【0028】
メタノールなどの液体を燃料とする燃料電池の高分子電解質膜として用いる場合には、数式2における(n1+n2)/(n3+n4+n5+n6)が0.07〜0.5の範囲であることが好ましく、0.1〜0.4の範囲であることがより好ましい。0.5よりも大きいと、燃料透過性が大きくなる場合がある。0.07よりも小さいと、イオン伝導性が低下して抵抗が増大することがある。
【0029】
数式3において、(n2+n4)/(n1+n2+n3+n4)が0.01よりも少ないと、高分子電解質膜としたときに電極触媒層との接合性が低下するため好ましくない。0.95よりも大きいと、高分子電解質膜としたときの膨潤性が大きくなりすぎる場合がある。0.05〜0.8がより好ましい範囲である。水素を燃料とする燃料電池の高分子電解質膜に用いる場合には、0.05〜0.4の範囲であることが好ましく、メタノールなどの液体を燃料とする燃料電池の高分子電解質膜に用いる場合には、0.5〜0.8の範囲であることがより好ましい。
【0030】
本発明のスルホン酸基含有ポリマーにおいて、上記各化学式で表される各構造単位の結合様式は特に限定されるものではなく、ランダム結合、交互結合、連続したブロック構造での結合など、いずれでもよい。
【0031】
本発明の高分子電解質膜のイオン交換容量は0.3〜5.0meq/gの範囲内であることが好ましい。0.3よりも小さいと十分なイオン伝導性が得られず、燃料電池にしたときに十分な出力を得ることができない。また、5.0よりも大きいと高分子電解質の膨潤が大きくなりすぎるため膜の変型が大きくなり好ましくない。より好ましくは0.5〜3.0meq/gの範囲である。メタノールを燃料とする燃料電池に用いる場合には0.5〜1.5meq/gの範囲であることが、水素を燃料とする燃料電池に用いる場合には1.5〜2.5meq/gの範囲であることが、それぞれ好ましい。
【0032】
本発明の高分子電解質膜を形成する高分子電解質組成物に用いられる化学式1で示される構造単位を有するスルホン酸基含有ポリマー構造の好ましい例を以下に示すが、これらに限定されるものではなく、本発明の要件を満たすものであれば、燃料電池用高分子電解質膜を構成するポリマーとして好適に使用することが可能である。以下のポリマー骨格の具体例において、n、n’、n”、m、m’、m”、o、o’、o”、p、p’、p”はそれぞれ独立して1以上の整数を表す。fは3以上の整数を表す。
【0033】
【化7】

【0034】
【化8】

【0035】
【化9】

【0036】
【化10】

【0037】
【化11】

【0038】
【化12】

【0039】
【化13】

【0040】
【化14】

【0041】
【化15】

【0042】
【化16】

【0043】
【化17】

【0044】
【化18】

【0045】
【化19】

【0046】
【化20】

【0047】
【化21】

【0048】
【化22】

【0049】
本発明の高分子電解質膜における高分子電解質成分において、化学式1で示される構造単位を有するスルホン酸基含有ポリマー以外の高分子電解質の例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリ(トリフルオロスチレン)スルホン酸、ポリビニルホスホン酸、ポリビニルカルボン酸、ポリビニルスルホン酸成分の少なくとも1種を含むアイオノマーや、芳香族系のポリマーとして、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリパラフェニレン、ポリアリーレン系ポリマー、ポリフェニルキノキサリン、ポリアリールケトン、ポリエーテルケトン、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリイミド等の構造単位の少なくとも1種を含むポリマーに、スルホン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基、及びそれらの誘導体の少なくとも1種が導入されているポリマーを挙げることができる。なお、ここでいうポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン等は、その分子鎖にスルホン結合、エーテル結合、ケトン結合を有しているポリマーの総称であり、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンスルホンなどを含むと共に、特定のポリマー構造に限定するものではない。
【0050】
その他の高分子電解質は、機械特性や耐熱性が優れたポリマーであることが好ましい。その例としては、スルホン酸基含有ポリスルホン、スルホン酸基含有ポリエーテルスルホン、スルホン酸基含有ポリフェニレンオキシド、スルホン酸基含有ポリフェニレンスルフィド、スルホン酸基含有ポリフェニレンスルフィドスルホン、スルホン酸基含有ポリエーテルケトン系ポリマーなどのスルホン酸基含有ポリアリーレンエーテル系ポリマーを挙げることができる。また、軟化温度が250℃以上であるような高分子電解質であると、高分子電解質膜の形態安定性が高まるため好ましい。
【0051】
その他の高分子電解質として好ましい例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0052】
【化23】

【0053】
【化24】

【0054】
【化25】

【0055】
【化26】

【0056】
本発明における、化学式1で示される構造単位を含有するスルホン酸基含有ポリマーを合成するには、例えば、下記化学式18〜21で表される分子構造のモノマーを反応させてポリマーを得る方法を例として挙げることができるが、それに限定されるものではなく、任意の原料から任意の方法で合成することができる。
【0057】
【化27】

【0058】
化学式18〜21において、Xは−S(=O)−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、Z及びZは、それぞれ独立してCl原子、F原子、I原子、Br原子、ニトロ基のいずれかを、Z及びZ10は、それぞれ独立してOH基、SH基、−O−NH−C(=O)−R基、−S−NH−C(=O)−R基のいずれかを[Rは芳香族又は脂肪族の炭化水素基を表す。]、Zは、O原子、S原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−CH−基、シクロヘキシル基のいずれかを、Arは分子中に、スルホン基、カルボニル基、スルホニル基、ホスフィン基、シアノ基、トリフルオロメチル基などのパーフルオロアルキル基、ニトロ基、ハロゲン基などの電子吸引性基を有する芳香族基を表す。
【0059】
化学式18で表される化合物の具体例としては、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホブチル−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホブチル−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホブチル−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホブチル−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、及びそれらのスルホン酸基が1価陽イオン種との塩になったもの等が挙げられる。1価陽イオン種としては、ナトリウム、カリウムや他の金属種や各種アミン類等でも良く、これらに制限されるわけではない。化学式10で表される化合物のうち、スルホン酸基が塩になっている化合物の例としては、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホン酸カリウム4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸カリウム4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸カリウム4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホン酸カリウム4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸カリウム4,4’−ジフルオロジフェニルケトンなどを挙げることができる。
【0060】
化学式19で表される化合物の具体例としては2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−チオビスベンゼンチオール、4,4’−オキシビスベンゼンチオール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどを挙げることができ、4,4’−チオビスベンゼンチオール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、末端ヒドロキシル基含有フェニレンエーテルオリゴマー(下記化学式22で表される分子構造のもの)が好ましい。
【0061】
【化28】

【0062】
化学式19で表される分子構造のモノマーが、ポリマーの柔軟性を高め、変型に対する破壊しにくくなったりすることや、ガラス転移温度が低下することによって電極との接合性が高まることなどの効果をもたらしている。
【0063】
化学式20で表される化合物としては、同一芳香環にハロゲン、ニトロ基などの求核置換反応における脱離基と、それを活性化する電子吸引性基を有する化合物を挙げることができる。具体例としては、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,4−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、2,4−ジフルオロベンゾニトリル、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、デカフルオロビフェニル等が挙げられるがこれらに制限されることなく、芳香族求核置換反応に活性のある他の芳香族ジハロゲン化合物、芳香族ジニトロ化合物、芳香族ジシアノ化合物なども使用することができる。
【0064】
化学式21で表される化合物の例としては、4,4’−ビフェノール、4、4’−ジメルカプトビフェノールなどを挙げることができ、4,4’−ビフェノールが好ましい。
【0065】
上述の芳香族求核置換反応において、化学式18〜21で表される化合物と共に他の各種活性化ジハロゲン芳香族化合物やジニトロ芳香族化合物、ビスフェノール化合物、ビスチオフェノール化合物をモノマーとして併用することもできる。
【0066】
その他のビスフェノール化合物又はビスチオフェノール化合物の例としては、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ハイドロキノン、レゾルシン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、1,4−ベンゼンジチオール、1,3−ベンゼンジチオール、フェノールフタレイン、10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナンスレン−10−オキサイド等が、挙げられるが、この他にも芳香族求核置換反応によるポリアリーレンエーテル系化合物の重合に用いることができる各種芳香族ジオール又は各種芳香族ジチオールを使用することもでき、上記の化合物に限定されるものではない。
【0067】
本発明における、化学式1で示される構造単位を有するスルホン酸基含有ポリマーを芳香族求核置換反応により重合する場合、化学式18〜21で表される分子構造の化合物と、必要に応じて他の活性化ジハロゲン芳香族化合物やジニトロ芳香族化合物や芳香族ジオール類又は芳香族ジチオール類を加えて、塩基性化合物の存在下で反応させることで重合体を得ることができる。モノマー中の、反応性のハロゲン基又はニトロ基と、反応性のヒドロキシ基及びチオール基のモル比は任意のモル比にすることで、得られるポリマーの重合度を調整することができるが、0.8〜1.2であることが好ましく、0.9〜1.1の範囲であることがより好ましく、0.95〜1.05の範囲であることが好ましく、1であると高重合度のポリマーを得ることができるため最も好ましい。
【0068】
重合は、0〜350℃の温度範囲で行うことができるが、50〜250℃の範囲であることが好ましい。0℃より低い場合には、十分に反応が進まない傾向にあり、350℃より高い場合には、ポリマーの分解も起こり始める傾向がある。反応は、無溶媒下で行うこともできるが、溶媒中で行うことが好ましい。使用できる溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、スルホランなどを挙げることができるが、これらに限定されることはなく、芳香族求核置換反応において安定な溶媒として使用できるものであればよい。これらの有機溶媒は、単独でも2種以上の混合物として使用されても良い。
【0069】
塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられるが、芳香族ジオール類や芳香族ジメルカプト化合物を活性なフェノキシド構造になしうるものであれば、これらに限定されず使用することができる。塩基性化合物は、ビスフェノール化合物及びビスチオフェノール化合物の総和に対して100モル%以上の量を用いると良好に重合することができ、好ましくはビスフェノール化合物又はビスチオフェノール化合物の総和に対して105〜125モル%の範囲である。ビスフェノール化合物又はビスチオフェノール化合物の量が多くなりすぎると、分解などの副反応の原因となるので好ましくない。
【0070】
また、上記重合反応において、塩基性化合物を用いずに、ビスフェノール化合物又はビスチオフェノール化合物を、イソシアネート化合物と反応させてカルバモイル化したものと、活性化ジハロゲン芳香族化合物やジニトロ芳香族化合物とを直接反応させることもできる。
【0071】
芳香族求核置換反応においては、副生物として水が生成する場合がある。この際は、重合溶媒とは関係なく、トルエンなどを反応系に共存させて共沸物として水を系外に除去することもできる。水を系外に除去する方法としては、モレキュラーシーブなどの吸水材を使用することもできる。芳香族求核置換反応を溶媒中で行う場合、得られるポリマー濃度として5〜50質量%の範囲となるようにモノマーを仕込むことが好ましい。5質量%よりも少ない場合は、重合度が上がりにくい傾向がある。一方、50質量%よりも多い場合には、反応系の粘性が高くなりすぎ、反応物の後処理が困難になる傾向がある。重合反応終了後は、反応溶液より蒸発によって溶媒を除去し、必要に応じて残留物を洗浄することによって、所望のポリマーが得られる。また、反応溶液を、ポリマーの溶解度が低い溶媒中に加えることによって、ポリマーを固体として沈殿させ、沈殿物の濾取によりポリマーを得ることもできる。また副生する塩類を濾過によって取り除いてポリマー溶液を得ることもできる。
【0072】
また、本発明における、化学式1で示される構造単位を有するスルホン酸基含有ポリマーは、後で述べる方法により測定したポリマー対数粘度が0.1dl/g以上であることが好ましい。対数粘度が0.1dl/gよりも小さいと、高分子電解質膜として成型したときに、膜が脆くなりやすくなる。対数粘度は、0.3dl/g以上であることがさらに好ましい。一方、対数粘度が5dl/gを超えると、ポリマーの溶解が困難になるなど、加工性での問題が出てくるので好ましくない。なお、対数粘度を測定する溶媒としては、一般にN−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドなどの極性有機溶媒を使用することができるが、これらに溶解性が低い場合には濃硫酸を用いて測定することもできる。
【0073】
本発明の高分子電解質膜における各種高分子電解質の含有率は、目的に応じて任意の値をとることができ、特に限定されるものではないが、それぞれの成分の含有率が10質量%以上であることが好ましい。
【0074】
本発明の高分子電解質膜は高分子電解質ではないポリマーを含んでいてもよい。高分子電解質ではないポリマーとしては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12などのポリアミド類、ポリメチルメタクリレート、ポリメタクリル酸エステル類、ポリメチルアクリレート、ポリアクリル酸エステル類などのアクリレート系ポリマー、ポリアクリル酸系ポリマー、ポリメタクリル酸系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンやジエン系ポリマーを含む各種ポリオレフィン、ポリウレタン系ポリマー、酢酸セルロース、エチルセルロースなどのセルロース系ポリマー、ポリアリレート、アラミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾールなどの芳香族系ポリマー、エポキシポリマー、フェノールポリマー、ノボラックポリマー、ベンゾオキサジンポリマーなどの熱硬化性ポリマー等、特に制限はない。ポリベンズイミダゾールやポリビニルピリジンなどの塩基性ポリマーとの組み合わせは、ポリマー寸法性の向上のために好ましい組み合わせといえる、これらの塩基性ポリマー中に、さらにスルホン酸基を導入しておくと、組成物の加工性がより好ましいものとなる。本発明の高分子電解質膜における、高分子電解質でないポリマーの含有量は50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。含有量が50質量%以上であると、高分子電解質膜のスルホン酸基濃度が低くなり良好なイオン伝導性が得られない傾向にあり、また、スルホン酸基を含有するユニットが非連続相となり伝導するイオンの移動度が低下する傾向にある。なお、本発明の高分子電解質膜は、必要に応じて、例えば酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、粘着付与剤、可塑剤、架橋剤、粘度調整剤、静電気防止剤、抗菌剤、消泡剤、分散剤、重合禁止剤、などの各種添加剤を含んでいても良い。
【0075】
本発明の高分子電解質膜を形成するポリマー組成物において、ポリマー組成物を構成する化学式1で示される構造単位を有するスルホン酸基含有ポリマー及び他のポリマーは、お互いに混合された状態で存在していることが好ましい。それぞれのポリマーは、分子レベルで混合していてもよいし、海島構造や、相互貫入構造などの相分離構造を示すような状態に混合されていてもよい。高分子電解質膜が海島構造の相分離構造を有する場合、島の部分の大きさは1mmを越えないことが好ましい。1mmを越えると、高分子電解質膜の均一性が低下し、加工性や発電特性の低下の原因となる。
【0076】
本発明の高分子電解質膜は、上記の化学式1で示される構造単位を有するスルホン酸基含有ポリマーを含むポリマー組成物を、押し出し、圧延又はキャストするなど任意の方法で製造することができる。中でも適当な溶媒に溶解した溶液組成物から製膜することが好ましい。本発明の高分子電解質膜を形成する高分子電解質組成物の各構造単位は、一度に溶媒に溶解してもよいし、順次溶解することもできる。用いる溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホンアミドなどの非プロトン性極性溶媒や、メタノール、エタノール等のアルコール類、及びこれらの有機溶媒と水の混合溶媒から適切なものを選ぶことができるがこれらに限定されるものではない。これらの溶媒は、可能な範囲で複数を混合して使用してもよい。溶液中のポリマー濃度は0.1〜50質量%の範囲であることが好ましい。溶液中のポリマー濃度が0.1質量%未満であると良好な成膜体を得るのが困難となる傾向にあり、50質量%を超えると加工性が悪化する傾向にある。溶液からの製膜方法は従来から公知の方法を用いて行うことができる。例えば、加熱、減圧乾燥、溶媒と混和することができる化合物による処理、非溶媒への浸漬等によって、溶媒を除去し成膜することができる。溶媒が、有機溶媒の場合には、加熱又は減圧乾燥によって溶媒を留去させることが好ましい。溶解挙動が類似する化合物と組み合わせた場合には、良好な成形体(膜)ができる点で好ましい。このようにして得られた成形体(膜)中のスルホン酸基はカチオン種との塩の型のものを含んでいても良いが、必要に応じて酸処理することによりフリーのスルホン酸基に変換することもできる。
【0077】
本発明における高分子電解質膜を成膜する手法として最も好ましいのは、溶液からキャストする方法であり、キャストした溶液から上記のように溶媒を除去して高分子電解質膜を得ることができる。当該溶液としてはN−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の有機溶媒を用いた溶液や、場合によってはアルコール系溶媒等も挙げることができる。溶媒の除去は、乾燥によることが高分子電解質膜の均一性からは好ましい。また、化合物や溶媒の分解や変質を避けるため、減圧下できるだけ低い温度で乾燥することもできる。また、溶液の粘度が高い場合には、基板や溶液を加熱して高温でキャストすると溶液の粘度が低下して容易にキャストすることができる。キャストする際の溶液の厚みは特に制限されないが、10〜2000μmであることが好ましい。より好ましくは50〜1500μmである。溶液の厚みが10μmよりも薄いと高分子電解質膜としての型態を保てなくなる傾向にあり、2000μmよりも厚いと不均一な高分子電解質膜ができやすくなる傾向にある。溶液のキャスト厚を制御する方法は公知の方法を用いることができる。例えば、アプリケーター、ドクターブレードなどを用いて溶液のキャスト厚みを一定の厚みにすることや、ガラスシャーレなどを用いてキャスト面積を一定にすると共に溶液の量や濃度で厚みを制御すること、などの方法を用いることができる。キャストした溶液は、溶媒の除去速度を調整することでより均一な膜を得ることができる。例えば、加熱する場合には最初の段階では低温にして蒸発速度を下げたりすることができる。また、水などの非溶媒に浸漬する場合には、溶液を空気中や不活性ガス中に適当な時間放置しておくなどして化合物の凝固速度を調整することができる。高分子電解質膜として使用する場合、膜中のスルホン酸基は金属塩になっているものを含んでいても良いが、適当な酸処理によりフリーのスルホン酸に変換することもできる。この場合、硫酸、塩酸、等の水溶液中に加熱下あるいは加熱せずに膜を浸漬処理することで行うことも効果的である。
【0078】
本発明における高分子電解質膜は任意の厚みにすることができるが、20μm未満であると所定の特性を満たすことが困難になるので20μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましい。また、300μmを超えると製造が困難になることがあるため、300μm以下であることが好ましい。
【0079】
本発明の膜/電極接合体は、本発明の高分子電解質膜を電極と接合することによって得ることができる。この接合体の作製方法としては、従来から公知の方法を用いて行うことができ、例えば、電極表面に接着剤を塗布し高分子電解質膜と電極とを接着する方法や、高分子電解質膜と電極とを加熱加圧する方法等がある。接着剤としては、ナフィオン(商品名)溶液など市販の高分子電解質組成物の他に、上記の、化学式1で示される構造単位を有するスルホン酸基含有ポリマーなどの炭化水素系高分子電解質を用いることができる。
【0080】
本発明の高分子電解質膜は適度な軟化温度を有するため、加圧加熱によって高分子電解質膜と電極とを接合する方法に特に適している。また、本発明の高分子電解質膜以外の膜に対して、電極や触媒との接着剤として、本発明のスルホン酸基含有ポリマーを用いることができる。本発明のスルホン酸基含有ポリマーを接着剤として用いる場合には、スルホン酸基が酸型であることが好ましい。スルホン酸基が陽イオンと塩を型成している状態で用いる場合には、接合後、酸処理によってスルホン酸基を酸型にすることもできる。
【0081】
本発明の燃料電池は、本発明の高分子電解質膜又は高分子電解質膜/電極接合体を用いて作製することができる。本発明の燃料電池は、例えば酸素極と、燃料極と、それぞれの極に挟まれて配置された高分子電解質膜と、酸素極側に設けられた酸化剤の流路と、燃料極側に設けられた燃料の流路を有するものである。このような一つの単位セルを導電性のセパレーターで連結することによって燃料電池スタックを得ることができる。
【0082】
本発明の高分子電解質膜は、固体高分子型燃料電池に適している。本発明の高分子電解質膜は、メタノールを燃料とするダイレクトメタノール型燃料電池などの液体を燃料とする燃料電池に適している。また、本発明の高分子電解質膜は高分子電解質膜と電極との接合性に優れるため耐久性が高く、ダイレクトメタノール燃料電池などの液体を燃料とする燃料電池だけでなく、水素を燃料とする燃料電池に適している。また、ジメチルエーテル、ギ酸など他の物質を燃料として用いる燃料電池にも好適に用いることができ、電解膜、分離膜など、高分子電解質膜として公知の任意の用途に用いることができる。
【実施例】
【0083】
以下本発明を、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されることはない。なお、各種測定は次のように行った。
<溶液粘度>
ポリマー粉末を0.5g/dlの濃度でN−メチルピロリドンに溶解し、30℃の恒温槽中でウベローデ型粘度計を用いて粘度測定を行い、対数粘度ln[ta/tb]/cで評価した(taは試料溶液の落下秒数、tbは溶媒のみの落下秒数、cはポリマー濃度)。
【0084】
<プロトン伝導性>
自作測定用プローブ(テフロン(登録商標)製)上で短冊状膜試料の表面に白金線(直径:0.2mm)を押しあて、80℃、相対湿度95%の恒温・恒湿オーブン(株式会社ナガノ科学機械製作所、LH−20−01)中に試料を保持し、白金線間のインピーダンスをSOLARTRON社1250FREQUENCY RESPONSE ANALYSERにより測定した。極間距離を変化させて測定し、極間距離とC−Cプロットから見積もられる抵抗測定値をプロットした勾配から以下の式により膜と白金線間の接触抵抗をキャンセルした導電率を算出した。
導電率[S/cm]=1/膜幅[cm]×膜厚[cm]×抵抗極間勾配[Ω/cm]
【0085】
<メタノール透過係数>
高分子電解質膜の液体燃料透過速度はメタノールの透過速度として、以下の方法で測定した。25℃に調整した5M(モル/リットル)の濃度のメタノール水溶液に24時間浸漬した高分子電解質膜をH型セルに挟み込み、セルの片側に100mlの5Mメタノール水溶液を、他方のセルに100mlの超純水(18MΩ・cm)を注入し、25℃で両側のセルを撹拌しながら、高分子電解質膜を通って超純水中に拡散してくるメタノール量を、ガスクロマトグラフを用いて測定することで算出した(高分子電解質膜の面積は、2.0cm)。得られたメタノール透過速度と膜厚からメタノール透過係数を、以下の式により求めた。
メタノール透過係数[μmol・m−1・sec−1]=メタノール透過速度[mmol・m−2・sec−1]×膜厚[μm]×1000
【0086】
<電極との接合性評価>
Pt/Ru触媒担持カーボン(田中貴金属工業社TEC61E54)に少量の超純水及びイソプロピルアルコールを加えて湿らせた後、デュポン社製20%ナフィオン溶液(品番:SE−20192)を、Pt/Ru触媒担持カーボンとナフィオンの質量比が2.5:1になるように加えた。次いで撹拌してアノード用触媒ペーストを調製した。この触媒ペーストを、ガス拡散層となる東レ製カーボンペーパーTGPH−060に白金の付着量が2mg/cmになるようにスクリーン印刷により塗布乾燥して、アノード用電極触媒層付きカーボンペーパーを作製した。また、Pt触媒担持カーボン(田中貴金属工業社TEC10V40E)に少量の超純水及びイソプロピルアルコールを加えて湿らせた後、デュポン社製20%ナフィオン溶液(品番:SE−20192)を、Pt触媒担持カーボンとナフィオンの質量比が2.5:1となるように加え、撹拌してカソード用触媒ペーストを調製した。この触媒ペーストを、撥水加工を施したカーボンペーパー(東レ社製 TGPH−060)に白金の付着量が1mg/cmとなるように塗布・乾燥して、カソード用電極触媒層付きカーボンペーパーを作製した。上記2種類の電極触媒層付きカーボンペーパーの間に、膜試料を、電極触媒層が膜試料に接するように挟み、ホットプレス法により135℃、6MPaにて3分間加圧、加熱して膜−電極接合体とした。出来上がった膜/電極接合体を観察し、電極の剥がれなどから接合性を評価した。剥がれが全くなかったものを○、剥離が生じたものを×、割れが生じたものを△とした。
【0087】
<発電評価>
得られた膜/電極接合体をElectrochem社製評価用燃料電池セルFC25−02SPに組み込み、燃料電池発電試験機(東陽テクニカ社製)を用いて発電試験を行った。発電は、セル温度40℃で、アノード及びカソードにそれぞれ40℃に調整した高純度空気(80ml/min)と、5mol/lの濃度のメタノール水溶液(1.5ml/min)とを供給しながら行った。電流密度が0.05A/cmにおける電圧を出力電圧とした。
【0088】
<ハンドリング性>
得られた高分子電解質膜に1mmの切れ込みを入れ、手で軽く引っ張ったときに、容易に裂けたものを×、力を入れると裂けたものを△、裂けにくかったものを○とした。
<イオン交換容量>
100℃で1時間乾燥し、窒素雰囲気下室温で一晩放置した試料の質量を測定し、水酸化ナトリウム水溶液と撹拌処理した後、塩酸水溶液による逆滴定でイオン交換容量を求めた。
【0089】
(実施例)
<合成例1>
3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン(略号:S−DCDPS) 25.00g、2,6−ジクロロベンゾニトリル(略号:DCBN) 51.35g、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド(略号:BPS) 56.28g、4,4’−ビフェノール(略号:BP) 15.16g、炭酸カリウム51.58g、モレキュラーシーブ40.0gを1000ml四つ口フラスコに計り取り、窒素を流した。400mlのN−メチル−2−ピロリドン(略号:NMP)を入れて、160℃で60分撹拌した後、反応温度を195−200℃に上昇させて系の粘性が十分上がるのを目安に反応を続けた(約10時間)。放冷の後、モレキュラーシーブを濾過によって除いて水中にストランド状に沈殿させた。得られたポリマーは、沸騰水中で2回洗浄した後、室温の純水で3回洗浄し、乾燥した。
<合成例2〜16>
モノマー組成及び組成比を変更した他は合成例1と同様にして合成例2〜16のポリマーを合成した。結果を表1に示す。
【0090】
【表1】

【0091】
<実施例1>
合成例1のポリマー8.5g、合成例13のポリマー1.5gを、NMP30mlに溶解し、ホットプレート上ガラス板に約400μm厚にキャストして120℃で1時間、150℃で1時間乾燥してフィルムを得た。得られたフィルムは室温の純水に1時間浸漬した後、2mol/lの濃度の硫酸水溶液に1時間ずつ2回浸漬した。その後、洗浄水が中性になるまでフィルムを純水で洗浄し、空気中に放置して乾燥して、高分子電解質膜を得た。得られた高分子電解質膜について評価を行った。
【0092】
<実施例2〜12>
ポリマーの種類、質量比を変更した他は、実施例1と同様にして高分子電解質膜を得た。得られた高分子電解質膜について評価を行った。
【0093】
<比較例1〜4>
ポリマーの種類、質量比を変更した他は、実施例1と同様にして高分子電解質膜を得た。得られた高分子電解質膜について評価を行った。
【0094】
実施例及び比較例で得られた高分子電解質膜についての評価結果を表2に示す。
【0095】
【表2】

【0096】
表2から、実施例の高分子電解質膜は、燃料電池にしたときの出力電圧が良好であり、かつ電極との接合性、ハンドリング性に優れていることが分かる。それに対して、比較例1の高分子電解質膜は、接合性やハンドリング性は良好であるものの、発電出力が低く、実施例より劣っていることが分かる。また、比較例2の高分子電解質膜は、メタノール透過係数やプロトン伝導性などの膜特性は実施例と同等であるものの、電極との接合性が悪く、燃料電池にしたときに発電することができず、実施例より劣っていることが分かる。また、実施例と同程度の特性で、化学式1で表される構成単位を含むポリマーのみからなる比較例3の高分子電解質膜は、出力電圧や接合性は良好であるが、ハンドリング性にやや難があることが分かる。また、比較例4の高分子電解質膜は、膜が脆く電極との接合の際に割れが生じ、出力電圧が低く、ハンドリング性も悪く、実施例より劣っていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の高分子電解質膜は、燃料電池に用いた場合に高い出力を得ることが可能であると共に、電極との接合性が良好であり、耐久性にも優れたものである。本発明の高分子電解質膜は、メタノール透過抑制性と電極との接合性のいずれにも優れた高分子電解質膜であることが示された。本発明の高分子電解質膜は、燃料電池用高分子電解質膜に用いるのに適しており、中でもダイレクトメタノール型燃料電池に特に適しており、産業界に寄与すること大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類以上の高分子電解質が混合された高分子電解質組成物からなる高分子電解質膜であって、高分子電解質の少なくとも1種が、下記の化学式1で示される構造単位を有するスルホン酸基含有ポリマーであることを特徴とする高分子電解質膜。
【化1】

(ただし、Xは水素又は1価のカチオン種、Yはスルホン基又はケトン基、Arは下記化学式2で表される分子構造であるか、又は化学式3及び4で表される分子構造の両方を同時に含む。)
【化2】

(ただし、Arが化学式2で表される分子構造である場合、Zは酸素原子、nは2以上の任意の整数を示す。Arが化学式3及び4で表される分子構造の両方を同時に含む場合、Zは独立して酸素原子又は硫黄原子のいずれかを、Zは酸素原子、硫黄原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−CH−基、シクロヘキシル基のいずれかを示す。また、Arが化学式3及び4で表される分子構造の両方を同時に含む場合は、上記化学式1と共に下記化学式5及び6の分子構造の両方を同時に含む。)
【化3】

(ただし、Ar,Arは2価の芳香族結合ユニットを、Z,Zは独立して酸素原子又は硫黄原子のいずれかを、Zは酸素原子、硫黄原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−CH−基、シクロヘキシル基のいずれかを示す。)
【請求項2】
前記スルホン酸基含有ポリマーが、下記化学式7で示される構造単位をさらに有する請求項1に記載の高分子電解質膜。
【化4】

(ただし、Arは2価の芳香族結合ユニットを、nは2以上の任意の整数を示す)
【請求項3】
前記スルホン酸基含有ポリマーにおける前記化学式5のAr及び化学式6のArが、下記化学式8〜11で表される分子構造から選ばれる1種以上の基である請求項1に記載の高分子電解質膜。
【化5】

【請求項4】
前記スルホン酸基含有ポリマーにおける化学式7のArが、化学式8〜11で表される分子構造から選ばれる1種以上の基であることを特徴とする請求項2に記載の高分子電解質膜。
【請求項5】
前記スルホン酸基含有ポリマーにおける化学式4のZ及び化学式6のZがいずれも硫黄原子である請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項6】
前記高分子電解質組成物における化学式1、5及び6でそれぞれ表される構造単位及びその他の構造単位のモル比が、数式1〜3を満足する請求項1に記載の高分子電解質膜。
0.9≦(n1+n2+n3+n4)/(n1+n2+n3+n4+n5)≦1.0
・・・(数式1)
0.05≦(n1+n2)/(n1+n2+n3+n4)≦0.7 ・・・(数式2)
0.01≦(n2+n4)/(n1+n2+n3+n4)≦0.95・・・(数式3)
(上記数式中、n1はArが化学式3である場合の化学式1で表される構造単位のモル%を、n2はArが化学式4である場合の化学式1で表される構造単位のモル%を、n3は化学式5で表される構造単位のモル%を、n4は化学式6で表される構造単位のモル%を、n5はその他の構造単位のモル%を、それぞれ表す。)
【請求項7】
前記スルホン酸基含有ポリマーにおいて、スルホン酸基含有ポリマーを構成するモノマー成分の少なくとも一部が、下記の化学式12で表される末端ジヒドロキシ化合物であって、nの異なる複数の成分からなり、かつnの平均値が1<n≦10の範囲にあるものである請求項2又は4のいずれかに記載の高分子電解質膜。
【化6】

(ただし、nは0以上の整数を表す。)
【請求項8】
前記高分子電解質組成物におけるイオン交換容量が0.3〜5.0meq/gの範囲内である請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の高分子電解質膜を有する高分子電解質膜/電極接合体。
【請求項10】
請求項9に記載の高分子電解質膜/電極接合体を用いた燃料電池。
【請求項11】
メタノールを燃料とする請求項10に記載の燃料電池。

【公開番号】特開2008−97906(P2008−97906A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−276086(P2006−276086)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】