説明

高分子電解質膜とその製造方法、及び高分子電解質膜積層体とその製造方法

【課題】 品質のばらつきが少ない高分子電解質膜とその製造方法、及び、カールや剥離などが発生しにくく、取り扱い性に優れた高分子電解質積層体とその製造方法の提供。
【解決手段】 イオン性基含有高分子電解質膜を連続的に水又は水を主成分とする溶液を入れた一つ以上の槽(湿式処理槽)を通過させる湿式処理をした後ロール状に巻き取る高分子電解質膜の製造方法において、該湿式処理を施した高分子電解質膜を、温度及び相対湿度を一定に制御した空間を通過させた後、巻き取ることを特徴とする高分子電解質膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、品質のばらつきが少ない高分子電解質膜とその製造方法、及び、カールや剥離などが発生しにくく、取り扱い性に優れた高分子電解質積層体とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー効率や環境性に優れた新しい発電技術が注目を集めている。中でも高分子固体電解質膜を使用した固体高分子型燃料電池はエネルギー密度が高く、また、他の方式の燃料電池に比べて運転温度が低いため起動、停止が容易であるなどの特徴を有するため、電気自動車や分散発電などの電源装置としての開発が進んできている。
【0003】
高分子固体電解質膜には通常プロトン伝導性のイオン交換膜が使用される。高分子固体電解質膜にはプロトン伝導性以外にも、燃料の水素などの透過を防ぐ燃料透過抑止性や機械的強度などの特性が必要である。これら特性を支配する要因として電解質膜の厚みムラやシワ、凹凸が影響することがわかっている。
【0004】
従来、輸送時や保存時のシワや凹凸の発生を防止する手段として、フッ素系の柔らかい高分子固体電解質膜においてはその自己粘着性を利用することで、電解質膜をフィルムに挟みこみ、これらの問題を解決する方法が報告されている(例えば、非特許文献1)。
【0005】
また、自己粘着性を持たない高分子固体電解質膜においては、燃料電池用電極構造体の製造方法として、粘着シート上に固体高分子電解質膜を設置、固定し、シワを発生させずに電極触媒層を塗布・形成する方法が報告されている(例えば、特許文献1)。
【0006】
しかし、これらの対策だけでは、ロール作成時の環境温湿度とその使用時の環境温湿度が大きく異なる場合、高分子電解質膜及び併せて用いるフィルム、粘着シート間の吸湿や温度に対する寸法変化率の違いによりカールが発生する問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−339062号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】デュポン社 “ナフィオン”(登録商標)カタログ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、品質のばらつきが少ない高分子電解質膜とその製造方法、及び、カールや剥離などが発生しにくく、取り扱い性に優れた高分子電解質積層体とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討した結果、高分子電解質膜積層体における取り扱い性の問題は、高分子電解質膜と、粘着シート、フィルムなどの積層する支持体との間の吸湿時の寸法変化の違いに起因すること、高分子電解質膜の品質のばらつきは、高分子電解質膜を製造する際において、湿式処理を経た後での含水率の変動に起因することを見出した。さらに、高分子電解質の製造工程において、湿式処理を経た後で、高分子電解質膜が、雰囲気の温度及び相対湿度が一定に制御された空間を通過させることによって、高分子電解質膜の含水率を調整することが可能であること、加えて、調節後の高分子電解質膜の含水率、あるいは、高分子電解質膜と支持体を積層して高分子電解質積層体を製造する際の高分子電解質膜の含水率を、高分子電解質膜あるいは高分子電解質膜を使用する際の雰囲気の温度及び相対湿度における高分子電解質膜の平衡含水率と同等にすることによって、電極との接合性などの高分子電解質膜の品質のばらつきの発生や、高分子電解質積層体におけるカールや剥離といった取り扱い性の悪化といった問題を解消できることを明らかにし、本発明の完成に至った。
すなわち本発明は以下の構成からなる。
[1] イオン性基含有高分子電解質膜を連続的に水又は水を主成分とする溶液を入れた一つ以上の槽(湿式処理槽)を通過させる湿式処理をした後ロール状に巻き取る高分子電解質膜の製造方法において、該湿式処理を施した高分子電解質膜を、温度及び相対湿度を一定に制御した空間を通過させた後、巻き取ることを特徴とする高分子電解質膜の製造方法。
[2] 該温度及び相対湿度が一定に制御された空間が、2つ以上の空間からなり、各空間の温度又は相対湿度の少なくとも一方が異なることを特徴とする[1]に記載の高分子電解質膜の製造方法。
[3] 該空間において、湿式処理槽側を上流側、巻取り側を下流側とした際、最上流側に位置する空間の相対湿度が、最下流側に位置する空間の相対湿度よりも低いことを特徴とする[2]に記載の高分子電解質膜の製造方法。
[4] 最上流側の空間の相対湿度が、最下流側に位置する空間の相対湿度より5〜60%RH低いことを特徴とする[3]に記載の高分子電解質膜の製造方法。
[5] 最上流側に位置する空間の相対湿度が15〜30%RHの範囲であり、かつ最下流側に位置する空間の相対湿度が20〜50%RHの範囲であることを特徴とする[4]に記載の高分子電解質膜の製造方法。
[6] いずれの空間においても温度が15〜40℃の範囲であり、かつ相対湿度が10〜70%RHの範囲であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載の高分子電解質膜の製造方法。
[7] いずれの空間における滞留時間が10分以内であることを特徴とする[1]〜[6]のいずれかに記載の高分子電解質膜の製造方法。
[8] 温度及び相対湿度の制御された空間が、3つ以上の空間からなり、湿式処理槽側を上流側、巻取り側を下流側、上流側と下流側の間に位置する空間を中流部とした際、最上流側に位置する空間の相対湿度が、中流部に位置する少なくとも一つの空間の相対湿度よりも高く、かつ、中流部に位置する少なくとも一つの空間の相対湿度が、最下流側に位置する空間よりも低いことを特徴とする[2]〜[7]のいずれかに記載の高分子電解質膜の製造方法。
[9] 巻き取られる際の高分子電解質膜の含水率が、高分子電解質膜が使用される環境における温度及び相対湿度における平衡含水率に対して、80〜120%の範囲であるように、各空間の温度及び相対湿度を設定することを特徴とする、[1]〜[8]のいずれかに記載の高分子電解質膜の製造方法。
[10] [9]の方法で得られた高分子電解質膜に、支持体を付与して高分子電解質膜積層体を製造する方法において、高分子電解質膜の含水率が、高分子電解質膜が使用される環境における温度及び相対湿度における平衡含水率に対して、80〜120%の範囲であるように、工程の温度及び相対湿度を設定することを特徴とする高分子電解質膜積層体の製造方法。
[11] 請求項1〜9のいずれかに記載の方法で製造され、含水率が、23℃、50%RH雰囲気下における平衡含水率の80〜120%の範囲内であることを特徴とする高分子電解質膜。
[12] 請求項10に記載方法で製造され、高分子電解質膜の含水率が、23℃、50%RH雰囲気下における平衡含水率の80〜120%の範囲内であることを特徴とする高分子電解質膜積層体
【発明の効果】
【0011】
本発明により、品質のばらつきが少ない高分子電解質膜、及び、カールや剥離などが発生しにくく、取り扱い性に優れた高分子電解質積層体を得ることができ、加工しやすく品質の安定した燃料電池などの製品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の高分子電解質膜の製造方法は、イオン性基含有高分子電解質膜を連続的に水又は水を主成分とする溶液を入れた一つ以上の槽(湿式処理槽)を通過させる湿式処理をした後ロール状に巻き取る高分子電解質膜の製造方法において、該湿式処理を施した高分子電解質膜を、温度及び相対湿度を一定に制御した空間を通過させた後、巻き取ることを特徴とする高分子電解質膜の製造方法である。
本発明における高分子電解質膜の製造工程において、湿式処理を行うまでの高分子電解質膜(以後、高分子電解質膜1、とする)は、公知の任意の方法で得ることができる。例えば、支持体上にイオン性基含有高分子電解質を押出法、圧延法または流延(キャスティング)法によって膜状物として形成させることが挙げられる。このうち、イオン性基含有高分子電解質の溶媒溶液を支持体上に流延させるキャスティング法が好ましい。
【0013】
キャスティング法の場合は、膜形成工程(A)が、イオン性基含有高分子電解質の溶媒溶液を支持体上に流延して流延膜とする流延工程(A)、前記流延膜を乾燥する乾燥工程(A)及び前記乾燥膜を前記イオン性基含有高分子電解質の溶媒と混和する液体で脱溶媒する脱溶媒工程(A)からなることが好ましい。
【0014】
流延工程(A)における高分子電解質の溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホンアミドなどの非プロトン性極性溶媒や、メタノール、エタノール等のアルコール類から適切なものを選ぶことができるがこれらに限定されるものではない。これらの溶媒は、可能な範囲で複数を混合して使用してもよい。溶液中の化合物濃度は0.1〜50質量%の範囲であることが好ましい。溶液中の化合物濃度が0.1質量%未満であると良好な成形物を得るのが困難となる傾向にあり、50質量%を超えると加工性が悪化する傾向にある。
【0015】
支持体としてはポリエチレン、ポリエステル、ナイロン、テフロン(登録商標)などの樹脂フィルム及び樹脂シート、ガラスなどが使用できるが、水を含む溶媒及び酸に耐え得るものであれば特に限定されることは無い。また、支持体がコロナ処理や鏡面処理などにより表面改質されていてもよい。
【0016】
キャスティングする際の溶液の厚みは特に制限されないが、10〜2500μmであることが好ましい。より好ましくは50〜1500μmである。溶液の厚みが10μmよりも薄いとプロトン交換膜としての形態を保てなくなる傾向にあり、2500μmよりも厚いと不均一なプロトン交換膜ができやすくなる傾向にある。
溶液のキャスティング厚を制御する方法は公知の方法を用いることができる。例えば、アプリケーター、ドクターブレードなどを用いて一定の厚みにしたり、ガラスシャーレなどを用いてキャスト面積を一定にして溶液の量や濃度で厚みを制御したりすることができる。キャスティングした溶液は、溶媒の除去速度を調整することでより均一な膜を得ることができる。例えば、加熱する場合には最初の段階では低温で行い、後に昇温させる方法がある。また、水などの非溶媒に浸漬する場合には、溶液を空気中や不活性ガス中に適当な時間放置しておくなどして化合物の凝固速度を調整することができる。また、連続する支持体上にキャストした後、温度を制御した乾燥プロセスや浸漬槽を連続的に通過させることにより製造することができる。
【0017】
支持体上の流延膜は、支持体とともに乾燥工程(A)に送られる。乾燥工程(A)における溶媒の除去法は、加熱処理や減圧処理による乾燥がプロトン交換膜の均一性の観点からは好ましい。また、化合物や溶媒の分解や変質を避けるため、減圧下でできるだけ低い温度で乾燥することが好ましい。溶媒の70%以上が除去され、流延膜が自己支持性を発現するまで乾燥することが好ましい。
また、溶液の粘度が高い場合には、支持体や溶液を加熱して高温でキャスティングすると溶液の粘度が低下して容易にキャスティングすることができる。
【0018】
自己支持性を発現するまで流延膜を乾燥して得られた膜は、さらに溶媒含有量を減らすために、支持体とともにイオン性基含有高分子電解質の溶媒と混和する液体で脱溶媒する脱溶媒工程(A)に供することもできる。
イオン性基含有高分子電解質の溶媒と混和する液体とは、溶媒と混和し、脱溶媒できるものであれば特に限定されないが、水が好ましい。脱溶媒の槽は、必要に応じて複数設置することができる。下で述べる酸処理工程を必要としない場合は、引き続いて乾燥工程(D)で乾燥される。
【0019】
本発明においては、膜形成工程(A)で形成された膜は、必要に応じて、支持体とともに無機酸含有酸性液に接触させてイオン性基を酸型に変換する酸処理工程(B)を経ることができる。特にイオン性基含有高分子電解質のイオン性基が酸性基であり、かつ酸性イオン性基が、Na,Kなどのアルカリ金属カチオンと塩を形成している場合には、三処理工程(B)を行うことが好ましい。
酸処理工程(B)における無機酸とは、塩酸、硝酸、硫酸などの水溶液を使用することができる。酸性水溶液に接触させる際の温度は特に限定されない。
膜を支持体から剥離することなく酸性水溶液に接触させることにより、膜全面が支持体で固定され、膜平面方向の膨潤が抑制され、厚みムラやシワの発生を低減することができる。
【0020】
酸処理工程(B)を通過した酸処理膜は、次いで、膜中の遊離の酸を除去する酸除去工程(C)を経る。
酸処理膜中の過剰な酸を除去する工程は、水に接触させることが好ましい。水に接触させる方法としては、水又は水を主成分とする溶液を入れた一つ以上の槽(湿式処理槽)を通過させる湿式処理により実施される。また、水との接触前記湿式処理を繰り返し行っても構わない。除去工程は膜が支持体に保持された状態で行われることが、膜の品位の面で好ましい。
【0021】
前記、湿式処理を経た高分子電解質膜は、温度及び相対湿度を一定に制御した空間を通過させた後、ロール状に巻き取る。温度及び相対湿度が一定でないと、高分子電解質膜の品質にばらつきが発生するため好ましくない。ここで、温度及び相対湿度が一定であるとは、温度については基準となる温度に対して少なくとも±5℃の範囲であることを表し、より好ましくは±2℃の範囲であり、相対湿度について基準となる相対湿度に対して、±10%RHの範囲であることを表し、より好ましくは±5%RHの範囲であることを表す。温度及び相対湿度を一定に制御した空間を通過させることによって、巻き取られる膜中の含水率を一定することができ、品質のばらつきを減少し、品位を向上させることができる。
温度及び相対湿度を一定に制御した空間は、温度あるいは相対湿度の少なくとも一方が異なった2種以上の空間から構成されていると、膜の含水率の制御を短時間に容易にできるようになるため好ましい。その場合、該空間において、湿式処理槽側を上流側、巻取り側を下流側とした際、最上流側に位置する空間の相対湿度が、最下流側に位置する空間の相対湿度よりも低いと、高分子電解質膜の品位が向上するため好ましい。また、その差は、5〜60%RHの範囲であると、膜の含水率制御が容易になるため好ましい。
最上流側に位置する空間の相対湿度が15〜30%RHの範囲であり、かつ最下流側に位置する空間の相対湿度が20〜50%RHの範囲であると、含水率のばらつきが、より減少するだけでなく、高分子電解質膜の品位が向上し、カールや剥離が少なく取り扱い性に優れた高分子電解質膜積層体を得ることが容易になるため好ましい。
温度及び相対湿度が制御された空間は、いずれの空間においても温度が15〜40℃の範囲であり、かつ相対湿度が10〜70%RHの範囲であると、より含水率の制御が容易になり、高分子電解質膜の品位が向上することから好ましい。
温度及び相対湿度が制御された空間は、いずれの空間における滞留時間が10分以内であること高分子電解質膜の製造効率の面から好ましく、1〜10分の間であることが好ましく、3〜7分であることが好ましい。滞留時間が長くなりすぎると、生産効率の低下を招くため好ましくなく、滞留時間が短すぎると、含水率制御が困難になるため好ましくない。
【0022】
温度及び相対湿度の制御された空間が、3つ以上の空間からなり、湿式処理槽側を上流側、巻取り側を下流側、上流側と下流側の間に位置する空間を中流部とした際、最上流側に位置する空間の相対湿度が、中流部に位置する少なくとも一つの空間の相対湿度よりも高く、かつ、中流部に位置する少なくとも一つの空間の相対湿度が、最下流側に位置する空間よりも低いと、高分子電解質膜の品位が向上するだけでなく、カールや剥離が少なく取り扱い性に優れた高分子電解質膜積層体を得ることが容易になるため好ましい。
【0023】
巻き取られる際の高分子電解質膜の含水率が、高分子電解質膜が使用される環境における温度及び相対湿度における平衡含水率に対して、80〜120%の範囲であるように、各空間の温度及び相対湿度が設定されていると、高分子電解質膜の品位が向上するだけでなく、カールや剥離が少なく取り扱い性に優れた高分子電解質膜積層体を得ることが容易になるため好ましい。
また、前記の方法で得られた高分子電解質膜に、支持体を付与して高分子電解質膜積層体を製造する場合において、高分子電解質膜の含水率が、高分子電解質膜が使用される環境における温度及び相対湿度における平衡含水率に対して、80〜120%の範囲であるように、工程の温度及び相対湿度を設定すると、カールや剥離が少なく取り扱い性に優れた高分子電解質膜積層体を得ることが容易になるため好ましい。
上記の製造方法で製造され、高分子電解質膜の含水率が、23℃、50%RH雰囲気下における該高分子電解質膜の平衡含水率の80〜120%の範囲内であると、通常の使用環境において、変形が生じにくくなるため好ましく、さらに支持体を積層した場合でも、カールや剥離などの問題が生じにくくなるため好ましい。さらに好ましい範囲は、90〜110%の範囲である。
また、上記の方法で製造され、高分子電解質膜の含水率が、23℃、50%RH雰囲気下における該高分子電解質膜の平衡含水率の80〜120%の範囲内であると、通常の使用環境において、カールや剥離などの問題が生じにくくなるため好ましい。さらに好ましい範囲は、90〜110%の範囲である。
【0024】
上記の、温度及び相対湿度が制御された空間を通過させる工程においては、高分子電解質膜を支持体から剥離することなく行うことが、膜の品位の面から好ましい。さらに、本発明のおける高分子電解質膜の製造工程において、高分子電解質膜が支持体上に形成、支持された状態で行うことが好ましい。そうすることによって、製造工程中の膜の変形、厚みむらなどを抑制し、均一な高分子電解質膜を得ることができる。さらに、高分子電解質膜に、新たな別の支持体膜を積層する場合には、その積層の直前まで高分子電解質膜製造時の支持体を積層しておくことが好ましい。
【0025】
本発明の高分子電解質膜は、目的に応じて任意の膜厚にすることができるが、プロトン伝導性の面からはできるだけ薄いことが好ましい。具体的には3〜200μmであることが好ましく、5〜150μmであることがさらに好ましく、特に好ましくは5〜100μmである。高分子電解質膜の厚みが3μmより薄いと高分子電解質膜の取扱が困難となり燃料電池を作製した場合に短絡等が起こる傾向にあり、200μmよりも厚いと高分子電解質膜が頑丈となりすぎ、ハンドリングが難しくなる傾向にある。
【0026】
本発明における高分子電解質膜を形成するポリマーは以下の高分子電解質を用いることができる。
例えば、芳香族炭化水素系のイオン性基含有ポリマーとしては、ポリマー主鎖に芳香族あるいは芳香環とエーテル結合、スルホン結合、単結合、イミド結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、スルフィド結合、カーボネート結合及びケトン結合から選択される少なくとも1種以上の結合基を有する構造を持つ非フッ素系のイオン伝導性ポリマーであり、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリパラフェニレン、ポリアリーレン系ポリマー、ポリフェニルキノキサリン、ポリアリールケトン、ポリエーテルケトン、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリイミド等の構成成分の少なくとも1種を含むポリマーに、スルホン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基、及びそれらの誘導体の少なくとも1種が導入されているポリマーが挙げられる。
なお、スルホン酸基、ホスホン酸基、カルボシキル基などの官能基をポリマーに含むことで、ポリマーのイオン伝導性が発現される。この中で特に有効に作用する官能基は、スルホン酸基である。また、ここでいうポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン等は、その分子鎖にスルホン結合、エーテル結合、ケトン結合を有しているポリマーの総称であり、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンスルホンなどを含むとともに、これらのポリマーを使用することができる。これらのポリマーは、芳香族基あるいは脂肪族基からなる側鎖を有していてもよいし、その側鎖上にイオン性基を有していてもよい。
【0027】
上記官能基を含有するポリマーのうち、特に芳香環上にスルホン酸基を持つポリマーは、上記例のような骨格を持つポリマーに対して適当なスルホン化剤を反応させることにより得ることができる。このようなスルホン化剤としては、例えば、芳香族系炭化水素系ポリマーにスルホン酸基を導入する例として報告されている、濃硫酸や発煙硫酸を使用するもの(例えば、Solid State Ionics,106,P.219(1998))、クロル硫酸を使用するもの(例えば、J.Polym.Sci.,Polym.Chem.,22,P.295(1984))、無水硫酸錯体を使用するもの(例えば、J.Polym.Sci.,Polym.Chem.,22,P.721(1984)、J.Polym.Sci.,Polym.Chem.,23,P.1231(1985))等が有効である。本発明のイオン性基含有ポリマー、特にイオン伝導性がスルホン酸基であるポリマーを得るためには、これらの試薬を用い、それぞれのポリマーに応じた反応条件を選定することにより実施することができる。また、特許第2884189号に記載のスルホン化剤等を用いることも可能である。
【0028】
また、上記芳香族炭化水素系イオン性基含有ポリマーは、重合に用いるモノマーの中の少なくとも1種に酸性基を含むモノマーを用いて合成することもできる。例えば、芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物から合成されるポリイミドにおいては、芳香族ジアミンの少なくとも1種にスルホン酸基やホスホン酸基を含有するジアミンを用いて酸性基含有ポリイミドとすることが出来る。芳香族ジアミンジオールと芳香族ジカルボン酸から合成されるポリベンズオキサゾール、芳香族ジアミンジチオールと芳香族ジカルボン酸から合成されるポリベンズチアゾール、芳香族テトラミンと芳香族ジカルボン酸から合成されるポリベンズイミダゾールの場合は、芳香族ジカルボン酸の少なくとも1種にスルホン酸基含有ジカルボン酸やホスホン酸基含有ジカルボン酸を使用することにより酸性基含有ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリベンズイミダゾールとすることが出来る。芳香族ジハライドと芳香族ジオールから合成されるポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトンなどは、モノマーの少なくとも1種にスルホン酸基含有芳香族ジハライドやスルホン酸基含有芳香族ジオールを用いることで合成することが出来る。この際、スルホン酸基含有ジオールを用いるよりも、スルホン酸基含有ジハライドを用いる方が、重合度が高くなりやすいとともに、得られた酸性基含有ポリマーの熱安定性が高くなるので好ましい。
【0029】
芳香族炭化水素系イオン性基含有ポリマーは、スルホン酸基含有ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリエーテルケトン系ポリマーなどのポリアリーレンエーテル系化合物、ポリアリーレン系化合物であることがより好ましい。
【0030】
芳香族炭化水素系イオン性基含有ポリマーの中で特に好ましいのは、一般式1で表される繰り返し単位を有するものである。
【化1】

[一般式1において、Xは−S(=O)−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、ZはO又はS原子のいずれかを、Zは、O原子、S原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−CH−基、シクロヘキシル基、直接結合のいずれかを、n1は1以上の整数を表す。]
【0031】
一般式1において、Xは−S(=O)−基であると溶剤への溶解性が向上するため好ましい。Xが−C(=O)−基であると、ポリマーの軟化温度を下げて電極との接合性をさらに高めたり、電解質膜に光架橋性を付与したりすることができるため好ましい。高分子電解質膜として用いる場合には、YはH原子であることが好ましい。ただし、YがH原子であると、熱などによって分解しやすくなるので、電解質膜の製造などの加工時にはYをNaやKなどのアルカリ金属塩としておき、加工後に酸処理によってYをH原子に変換して高分子電解質膜を得ることもできる。ZはO原子であるとポリマーの着色が少なかったり、原料が入手しやすかったりするなどの利点があり好ましい。ZがSであると耐酸化性が向上するため好ましい。n1は1〜30の範囲にあることが好ましく、n1が3以上の場合には、n1が異なる複数の単位が含まれていてもよい。Zは、O原子、S原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−CH−基、シクロヘキシル基、直接結合を表し、O原子、S原子であるとより接合性がより改良されるため好ましい。Zが直接結合である場合は、得られる高分子電解質膜の寸法安定性が改良されるために好ましい。n1が3以上の場合はZがO原子であると、高分子電解質膜にした場合の電極触媒層との接合性が特に向上するため好ましい。
【0032】
一般式1で表される繰り返し単位を有するイオン性基含有ポリマーは、さらに一般式2で表される繰り返し単位をさらに含有していることが好ましい。
【0033】
【化2】

[一般式2において、Arは二価の芳香族基を、ZはO原子又はS原子のいずれかを、Zは、O原子、S原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−CH−基、シクロヘキシル基、直接結合のいずれかを、n2は1以上の整数を表す。]
【0034】
一般式2において、ZはO原子であるとポリマーの着色が少なかったり、原料が入手しやすかったりするなどの利点があり好ましい。ZがS原子であると耐酸化性が向上するため好ましい。n2は1〜30の範囲にあることが好ましく、n2が3以上の場合には、n2が異なる複数の単位が含まれていてもよい。Zは、O原子、S原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−CH−基、シクロヘキシル基、直接結合を表し、O原子、S原子であるとより接合性がより改良されるため好ましい。Zが直接結合である場合は、得られる高分子電解質膜の寸法安定性が改良されるために好ましい。n2が3以上の場合はZがO原子であると、高分子電解質膜にした場合の電極触媒層との接合性が特に向上するため好ましい。
【0035】
本発明における高分子電解質膜を構成するイオン性基含有ポリマーが、主として、一般式1で表される繰り返し単位と、一般式2で表される繰り返し単位で構成される場合には、それぞれのモル比は、7:93〜70:30の範囲であることが好ましい。モル比が7:93とは、一般式1で表される繰り返し単位のモル数を7としたとき、一般式2で表される繰り返し単位のモル数が93であることを表す。70:30のモル比よりも一般式1で表される繰り返し単位が多くなると、高分子電解質膜としたときの燃料透過性が大きくなる場合があり好ましくない。7:93のモル比よりも一般式1で表される繰り返し単位が少なくなると、高分子電解質膜としたときのプロトン伝導性が低下して抵抗が増大するため好ましくない。10:90〜50:50の範囲であることがより好ましい。10:90〜40:60の範囲であることがさらに好ましい。本発明におけるイオン性基含有ポリマーは、一般式1及び一般式2で表される繰り返し単位を有することによって適切な軟化温度を有し、高分子電解質膜としたときに良好な電極との接合性を示す。
【0036】
一般式2におけるArは、電子吸引性基を有する二価の芳香族基が好ましい。電子吸引性基とは、例えばスルホン基、スルホニル基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、スルホン酸アミド基、スルホン酸イミド基、カルボキシル基、カルボニル基、カルボン酸エステル基、シアノ基、ハロゲン基、トリフルオロメチル基、ニトロ基などを挙げることができるが、これらに限定されず、公知の任意の電子吸引性基であればよい。
【0037】
Arの好ましい構造は、化学式3〜6で表される構造である。化学式3の構造はポリマーの溶解性を高めることができ好ましい。化学式4の構造はポリマーの軟化温度を下げて電極との接合性を高めたり、光架橋性を付与したりするので好ましい。化学式5又は6の構造はポリマーの膨潤を少なくできるので好ましく、化学式6の構造がより好ましい。化学式3〜6の中でも化学式6の構造が最も好ましい。
【0038】
【化3】

【0039】
本発明の高分子電解質膜を構成するイオン性基含有ポリマーのさらに好ましい態様の一つは、高分子電解質膜が主として、一般式1で表される構造と、一般式2で表される構造で構成され、かつ一般式1におけるZ及びZがいずれもO原子であり、かつ、n1が3以上であるイオン性基含有ポリマーである。このようなイオン性基含有ポリマーを用いると、電極との接合性が特に向上するため好ましい。
【0040】
前記のイオン性基含有ポリマーのさらに好ましい態様の一つは、一般式2における、Z及びZがいずれもO原子であり、かつ、n2が3以上であるとより好ましい。このようなイオン性基含有ポリマーを用いると、電極との接合性がより一層向上するため好ましい。
【0041】
本発明の高分子電解質膜を構成するイオン性基含有ポリマーのさらに好ましい態様の一つは、一般式1及び一般式2に加えて、一般式7で表される繰り返し単位を有するイオン性基含有ポリマーである。一般式1及び一般式2で表される繰り返し単位に加え、一般式7で表される繰り返し単位をさらに有していることが、高分子電解質膜としたときの膜の形態安定性を高めることができるため好ましい。
【0042】
【化4】

[一般式7において、Xは−S(=O)−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、ZはO又はS原子のいずれかを表す。]
【0043】
一般式7において、Xは−S(=O)−基であると溶剤への溶解性が向上するため好ましい。Xが−C(=O)−基であると、ポリマーの軟化温度を下げて電極との接合性をさらに高めたり、電解質膜に光架橋性を付与したりすることができるため好ましい。高分子電解質膜として用いる場合には、YはH原子であることが好ましい。ただし、YがH原子であると、熱などによって分解しやすくなるので、電解質膜の製造などの加工時にはYをNaやKなどのアルカリ金属塩としておき、加工後に酸処理によってYをH原子に変換して高分子電解質膜を得ることもできる。ZはO原子であるとポリマーの着色が少なかったり、原料が入手しやすかったりするなどの利点があり好ましい。ZがSであると耐酸化性が向上するため好ましい。
【0044】
本発明の高分子電解質膜を構成するイオン性基含有ポリマーが、一般式1、2、及び7で表される繰り返し単位を有している場合には、Z及びZが、O原子又はS原子であり、かつ、n1が1であると、高分子電解質膜とした場合の電極触媒層との接合性と、膜の形態安定性がより良好になるので好ましい。また、Z及びZが、O原子又はS原子であり、かつ、n2が1であると、高分子電解質膜とした場合の電極触媒層との接合性と、膜の形態安定性がさらに良好になるので好ましい。
【0045】
本発明の高分子電解質膜を構成するイオン性基含有ポリマーは、一般式1、2、及び7で表される繰り返し単位に加え、一般式8で表される繰り返し単位をさらに有していると、高分子電解質膜としたときに、電極触媒層との接合性と、膜の形態安定性を大きく向上することができるためよりより好ましい。
【0046】
【化5】

[一般式8において、Arは2価の芳香族基を、ZはO原子又はS原子のいずれかを表す。]
【0047】
一般式8におけるZはO原子であるとポリマーの着色が少なかったり、原料が入手しやすかったりするなどの利点があり好ましい。ZがS原子であると耐酸化性が向上するため好ましい。化学式8におけるArは、電子吸引性基を有する二価の芳香族基が好ましい。電子吸引性基とは、例えばスルホン基、スルホニル基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、スルホン酸アミド基、スルホン酸イミド基、カルボキシル基、カルボニル基、カルボン酸エステル基、シアノ基、ハロゲン基、トリフルオロメチル基、ニトロ基などを挙げることができるが、これらに限定されず、公知の任意の電子吸引性基であればよい。
【0048】
Arの好ましい構造は、化学式3〜6で表される構造である。化学式3の構造はイオン性基含有ポリマーの溶解性を高めることができ好ましい。化学式4の構造はイオン性基含有ポリマーの軟化温度を下げて電極との接合性をさらに高めたり、光架橋性を付与したりするので好ましい。化学式5又は6の構造はイオン性基含有ポリマーの膨潤を少なくできるので好ましく、化学式6の構造がより好ましい。化学式3〜6の中でも化学式6の構造が最も好ましい。
【0049】
本発明の高分子電解質膜を構成するイオン性基含有ポリマーが、一般式1、2、7及び8でそれぞれ表される繰り返し単位を全て有している場合は、それぞれの繰り返し単位のモル%、及びその他の繰り返し単位のモル%が下記数式1〜3を満たすことが好ましい。
【0050】
0.9≦(n3+n4+n5+n6)/(n3+n4+n5+n6+n7)≦1.0
数式1
0.05≦(n3+n4)/(n3+n4+n5+n6)≦0.7 数式2
0.01≦(n4+n6)/(n3+n4+n5+n6)≦0.95 数式3(上記数式中、n3は一般式7で表される繰り返し単位のモル%を、n4は一般式1で表される繰り返し単位のモル%を、n5は一般式8で表される繰り返し単位のモル%を、n6は一般式2で表される繰り返し単位のモル%を、n7はその他の繰り返し単位のモル%を、それぞれ表す。)
【0051】
(n3+n4+n5+n6)/(n3+n4+n5+n6+n7)が0.9よりも小さいと、高分子電解質膜としたときに良好な特性が得られないため好ましくない。より好ましいのは0.95〜1.0の範囲である。
【0052】
(n3+n4)/(n3+n4+n5+n6)が0.05よりも小さくなると、高分子電解質膜としたときに十分なプロトン伝導性が得られないため好ましくない。また、0.9よりも大きいと高分子電解質膜としたときの膨潤性が著しく大きくなるため好ましくない。より好ましい範囲は0.1〜0.7の範囲である。
【0053】
(n3+n4)/(n3+n4+n5+n6)は0.07〜0.5の範囲であることが好ましく、0.1〜0.4の範囲であることがより好ましい。0.5よりも大きいと、燃料透過性が大きくなる場合があり好ましくない。0.07よりも小さいと、プロトン伝導性が低下して抵抗が増大するため好ましくない。
【0054】
(n4+n6)/(n3+n4+n5+n6)が0.01よりも少ないと、高分子電解質膜としたときに電極触媒層との接合性が低下するため好ましくない。0.95よりも大きいと、高分子電解質膜としたときの膨潤性が大きくなりすぎる場合があるため好ましくない。0.05〜0.8がより好ましい範囲である。0.4〜0.8の範囲であることがさらに好ましい。
【0055】
なお、本発明におけるイオン性基含有ポリマーにおいて、上記各一般式で表される各繰り返し単位の結合様式は特に限定されるものではなく、ランダム結合、交互結合、連続したブロック構造での結合など、いずれでもよい。
【0056】
本発明における上記イオン性基含有ポリマーの合成方法としては、公知の方法を採用でき、特に限定されないが、合成に用いる原料モノマーの好ましい例として、下記一般式9〜11で表される構造のモノマーを挙げることができる。さらに、一般式12で表される構造のモノマーをさらに用いると、膜の形態安定性など物理的な特性が向上するため好ましい。
【0057】
【化6】

【0058】
一般式9〜12において、Xは−S(=O)−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、Z及びZ10は、それぞれ独立してCl原子、F原子、I原子、Br原子、ニトロ基のいずれかを、Z及びZ11は、それぞれ独立してOH基、SH基、−O−NH−C(=O)−R基、−S−NH−C(=O)−R基のいずれかを[Rは芳香族又は脂肪族の炭化水素基を表す。]、Zは、O原子、S原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−CH−基、シクロヘキシル基のいずれかを、Arは分子中に、スルホン基、カルボニル基、スルホニル基、ホスフィン基、シアノ基、トリフルオロメチル基などのパーフルオロアルキル基、ニトロ基、ハロゲン基などの電子吸引性基を有する芳香族基を表す。
【0059】
一般式9で表される化合物の具体例としては、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホブチル−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホブチル−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホブチル−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホブチル−4,4’−ジフルオロジフェニルケトン、及びそれらのスルホン酸基が1価陽イオン種との塩になったもの等が挙げられる。1価陽イオン種としては、ナトリウム、カリウムや他の金属種や各種アミン類等でも良く、これらに制限されるわけではない。
【0060】
一般式9で表される化合物のうち、スルホン酸基が塩になっている化合物の例としては、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホン酸カリウム−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸カリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸カリウム−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホン酸カリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルケトンなどを挙げることができる。
【0061】
一般式10で表される化合物の具体例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−チオビスベンゼンチオール、4,4’−オキシビスベンゼンチオール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどを挙げることができ、4,4’−チオビスベンゼンチオール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、末端ヒドロキシル基含有フェニレンエーテルオリゴマー(下記化学式13で表される構造のもの)が好ましい。化学式13においては、nは1以上の整数からなり、nの異なる成分が混合されたものでも良い。
【0062】
【化7】

【0063】
一般式10で表される構造のモノマーは、イオン性基含有ポリマーの柔軟性を高め、変形に対する破壊を抑制することや、ガラス転移温度を低下させて電極触媒層との接合性を向上させることなどの効果をもたらすことができる。
【0064】
一般式11で表される化合物としては、同一芳香環にハロゲン、ニトロ基などの求核置換反応における脱離基と、それを活性化する電子吸引性基を有する化合物を挙げることができる。具体例としては、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,4−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、2,4−ジフルオロベンゾニトリル、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、デカフルオロビフェニル等が挙げられるがこれらに制限されることなく、芳香族求核置換反応に活性のある他の芳香族ジハロゲン化合物、芳香族ジニトロ化合物、芳香族ジシアノ化合物なども使用することができる。
【0065】
一般式12で表される化合物の例としては、4,4’−ビフェノール、4、4’−ジメルカプトビフェノールなどを挙げることができ、4,4’−ビフェノールが好ましい。
上述の芳香族求核置換反応において、一般式9〜12で表される化合物とともに他の各種活性化ジハロゲン芳香族化合物やジニトロ芳香族化合物、ビスフェノール化合物、ビスチオフェノール化合物をモノマーとして併用することもできる。
【0066】
その他のビスフェノール化合物又はビスチオフェノール化合物の例としては、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ハイドロキノン、レゾルシン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、1,4−ベンゼンジチオール、1,3−ベンゼンジチオール、フェノールフタレイン、10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナンスレン−10−オキサイド等が挙げられるが、この他にも芳香族求核置換反応によるポリアリーレンエーテル系化合物の重合に用いることができる各種芳香族ジオール又は各種芳香族ジチオールを使用することもでき、上記の化合物に限定されるものではない。
【0067】
本発明におけるイオン性基含有高分子電解質膜の製造方法においては、上記の活性化ジハロゲン芳香族化合物やジニトロ芳香族化合物や芳香族ジオール類又は芳香族ジチオール類を原料とし、塩基性化合物の存在下で、公知の芳香族求核置換反応により重合して得られるポリマーで、対数粘度が0.1〜2.0dL/gで、軟化温度が90℃以上のものが好ましく、さらに軟化温度が140〜250℃のものがより好ましい。
【実施例】
【0068】
<対数粘度>
測定対象試料を、0.5g/dLの濃度でN−メチルピロリドンに溶解し、30℃の恒温槽中でウベローデ型粘度計を用いて粘度測定を行い、対数粘度ln[ta/tb]/cで評価した(taは試料溶液の落下秒数、tbは溶剤のみの落下秒数、cは試料溶液のポリマー濃度[単位:g/dL])。
【0069】
<高分子電解質の含水率>
高分子電解質膜から、1分以内に10cm×10cmの大きさのサンプルを切り出し、切り出し後1分以内に重量を測定した(Wwet)。その後、高分子電解質膜を120℃の熱風乾燥機中で2時間乾燥し、直ちに重量を測定した(Wdry)。以下の式で含水率を求めた。
含水率(質量%)=(Wwet−Wdry)÷(Wdry)×100
【0070】
<高分子電解質の平衡含水率>
製造後の高分子電解質膜から、15cm四方のサンプルを5枚用意し、測定する雰囲気下に24時間放置した。その後、サンプルより10cm四方のサンプルを切り出し、含水率測定法により測定算出した。
【0071】
<雰囲気温湿度の測定>
各雰囲気下で、高分子電解質前駆体膜が通過する場所において、膜から5cm以内の場所に温湿度測定装置の測定プローブを配置して、温度及び相対湿度を測定した。
【0072】
<カール評価>
カールの評価方法としては、所定の温湿度に設定した恒温恒湿機に10cm×10cmの高分子電解質膜積層体サンプルを入れ30分以上経過した後、その形状を観察する方法を採用した。
カールの評価 ○:1回転未満のカール ×:1回転以上のカール
<膜品位>
高分子電解質膜(積層体の場合は支持体から剥離したもの)を10×10cmの正方形に切り出したものを10枚用意し、方眼紙上に置き、目視で外観を検査した。
○:いずれも正方形で、しわ、凹凸のないもの
△:正方形だが、しわや凹凸があるもの、あるいは正方形ではないが、しわや凹凸がないものの合計が5枚以下であるもの
×:正方形ではないもの、正方形だが、しわや凹凸があるもの、あるいは正方形ではないが、しわや凹凸がないものの合計が5枚以下であるものの合計が5〜10枚であるもの。
【0073】
〔実施例1〕
3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン2ナトリウム塩100.0g、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン23.3g、4,4’−ビフェノール25.2g、炭酸カリウム21.5g、N−メチル−2−ピロリドンを210g入れて、窒素雰囲気下にて155℃で1時間撹拌した後、反応温度を200℃に上昇させて系の粘性が十分上がるのを目安に反応を続けた。放冷の後、水中にストランド状に沈殿させ、得られたポリマーを水中で40時間洗浄した後、乾燥した。このポリマーのこのポリマーの対数粘度は1.16dL/gであった。
次いで、このポリマーを、N−メチル−2−ピロリドンを溶剤として用い、ポリマー濃度が25質量%となるようにポリマー溶液を調整した。調整した溶液を、支持体のポリエチレンテレフタレートフィルム上に、ブレードコーターにて厚み200μmになるよう温度20℃で連続的に流延し、温度140℃で30分間乾燥して、流延膜が乾燥によって自己支持性を示すようになったポリマー膜を支持体上に密着した状態で得た。引き続き、支持体からポリマー膜を剥がすことなく30℃、20質量%硫酸水溶液に10分間浸漬し、次いで、支持体からポリマー膜を剥がすことなく30℃純水に40分間浸漬し、さらに、支持体からポリマー膜を剥がすことなく25℃30%RHの第1空間を滞留時間10分で通過させた後、ロール状に巻き取り、高分子電解質膜を得た。本高分子電解質膜の含水率は17%であった(本高分子電解質膜の23℃、50%RHにおける平衡含水率は15%)。本高分子電解質膜を膜使用条件である、25℃50%RH雰囲気の下で、支持体から剥がし、粘着層を有するポリエステル系高分子フィルムと積層させた後、10cm×10cmのサンプルの切り出しを実施したところ、該サンプルでのカールは約半回転であった。
【0074】
〔実施例2〜7〕
実施例1において巻き取り側に第2空間を加え、温度、相対湿度、滞留時間を変えて評価した。
【0075】
<実施例8〜13>
実施例2において巻き取り側に第3空間を追加し、各空間の温度、相対湿度、滞留時間を変えて評価した。
【0076】
<実施例14>9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン60g、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン100g、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン145g、炭酸カリウム91g、N−メチルピロリドン2Lを、ディーンスタークトラップ、コンデンサー、撹拌機および窒素供給管を備えた5L容の4つ口丸底フラスコに仕込んだ。この混合物をオイルバス上100℃に加熱したのち、トルエン100mLを加え、150℃に加熱して1時間還流に供してトルエンを留去した。オイルバスを175℃、200℃と順次昇温してトルエンを留去するとともに、200℃で8時間重合を続けた。冷却後、この溶液を1.5Lのメタノール(ナカライテスク社製)中に注ぎ化合物を析出させた後、その化合物を水洗し、乾燥した。この化合物を濃硫酸2Lとともに30℃で2時間撹拌した。反応後、過剰の水中に注いで生成した沈殿を濾取した。水洗を繰り返した後、生成物を乾燥することでスルホン化した本実施例の化合物を得た。このポリマーを、N−メチル−2−ピロリドンを溶剤として用い、ポリマー濃度が25質量%となるようにポリマー溶液を調整した。調整した溶液を、支持体のポリエチレンテレフタレートフィルム上に、ブレードコーターにて厚み200μmになるよう温度20℃で連続的に流延し、温度140℃で30分間乾燥して、流延膜が乾燥によって自己支持性を示すようになったポリマー膜を支持体上に密着した状態で得た。引き続き、支持体からポリマー膜を剥がすことなく30℃純水に40分間浸漬し、さらに、支持体からポリマー膜を剥がすことなく25℃、30%RHの第1空間を滞留時間5分で通過させた後、23℃50%RHの第2空間を滞留時間5分間で通過させて巻き取り、高分子電解質膜を得た。本高分子電解質膜の含水率は13%であった(本稿分子電解質膜の23℃、50%RHにおける平衡含水率は13%)本高分子電解質膜を25℃50%RH雰囲気の下で支持体から剥がし、粘着層を有するポリエステル系高分子フィルムと積層させた後、10cm×10cmのサンプルの切り出しを実施したところ、該サンプルでのカールは約半回転であった。
【0077】
〔実施例15〕
3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン2ナトリウム塩778g、2,6−ジクロロベンゾニトリル553g、4,4’−ビフェノール893g、炭酸カリウム762g、N−メチル−2−ピロリドンを5621g入れて、窒素雰囲気下にて155℃で1時間撹拌した後、反応温度を200℃に上昇させて系の粘性が十分上がるのを目安に反応を続けた。放冷の後、水中にストランド状に沈殿させ、得られたポリマーを水中で40時間洗浄した後、乾燥した。このポリマーのこのポリマーの対数粘度は1.09dL/g、軟化温度は245℃であった。
次いで、このポリマーを、N−メチル−2−ピロリドンを溶剤として用い、ポリマー濃度が25質量%となるようにポリマー溶液を調整した。調整した溶液を、支持体のポリエチレンテレフタレートフィルム上に、ブレードコーターにて厚み200μmになるよう温度20℃で連続的に流延し、温度140℃で30分間乾燥して、流延膜が乾燥によって自己支持性を示すようになったポリマー膜を支持体上に密着した状態で得た。引き続き、支持体からポリマー膜を剥がすことなく30℃、20質量%硫酸水溶液に10分間浸漬し、次いで、支持体からポリマー膜を剥がすことなく30℃純水に40分間浸漬し、さらに、支持体からポリマー膜を剥がすことなく30℃20%RHの第1空間を滞留時間5分間で通過させた後、23℃50%RHの第2空間を滞留時間5分で通過させて巻き取り、支持体からポリマー膜を剥がして高分子電解質膜を得た。
得られた高分子電解質膜とポリエステル系高分子フィルムとが積層された高分子電解質膜積層体のロールサンプルを使用環境である20℃30%RHの環境に移した後、最外層より1mの部分で10cm×10cmのサンプルの切り出しを実施したところ、該サンプルでは全くカールが発生しなかった。
【0078】
〔実施例6〕
3,3’,4,4‘−テトラアミノジフェニルスルホン30g、2,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸モノナトリウム29g、ポリリン酸(五酸化リン含量75%)400g、五酸化リン320gを重合容器に量り取る。窒素を流し、オイルバス上ゆっくり撹拌しながら100℃まで昇温 する。100℃で1時間保持した後、150℃に昇温 して1時間、200℃に昇温 して4時間重合した。重合終了後放冷し、水を加えて重合物を取り出し、家庭用ミキサーを用いてpH試験紙中性になるまで水洗を繰り返した。得られたポリマーは80℃で終夜減圧乾燥した。ポリマーの対数粘度は、1.63を示した。得られたポリマーとNMP500mlを撹拌しながら、オイルバス上で170℃に加熱してポリマー溶液を調整した。調整した溶液を、支持体のポリエチレンテレフタレートフィルム上に、ブレードコーターにて厚み200μmになるよう温度20℃で連続的に流延し、温度140℃で30分間乾燥して、流延膜が乾燥によって自己支持性を示すようになったポリマー膜を支持体上に密着した状態で得た。引き続き、支持体からポリマー膜を剥がすことなく30℃純水に40分間浸漬し、さらに、支持体からポリマー膜を剥がすことなく25℃30%RHの第1空間を滞留時間5分で通過させた後、23℃50%RHの第2空間を滞留時間5分で通過させて巻き取り、高分子電解質膜を得た。本高分子電解質膜の含水率は5%であった(本稿分子電解質膜の23℃、50%RHにおける平衡含水率は4%)本高分子電解質膜を使用環境である25℃50%RH雰囲気の下で支持体から剥がし、粘着層を有するポリエステル系高分子フィルムと積層させた後、10cm×10cmのサンプルの切り出しを実施したところ、該サンプルでのカールは約1/5回転であった。
【0079】
〔実施例17〜19〕
〔実施例2〜7〕
実施例1において第2空間を加え、温度、相対湿度、滞留時間を変えた以外は実施例1と同様に評価した。
【0080】
〔実施例20〕
実施例1で得られた高分子電解質を、25℃50%RHの環境下で連続的に製膜時の支持体から剥離し、自己粘着性の結晶性ポリプロピレンシート(50μm)と連続的に積層した。得られた高分子電解質膜積層体は、使用環境である25℃50%RHにおいてカールが発生しなかった。
【0081】
〔実施例21〕
実施例2で得られた高分子電解質を、25℃40%RHの環境下で連続的に製膜時の支持体から剥離し、自己粘着性の結晶性ポリプロピレンシート(50μm)と連続的に積層した。得られた高分子電解質膜積層体は、使用環境である25℃40%RHにおいてカールが発生しなかった。
【0082】
〔比較例1〕
実施例1において、湿式処理が完了した高分子電解質膜をそのままロールに巻き取ったほかは同様にして評価した。
【0083】
〔比較例2〕
実施例1において、湿式処理が完了した高分子電解質膜を吸水ロールで表面の水分を除去したあとで巻き取ったほかは同様にして評価した。
【0084】
〔比較例3〕
実施例1において、湿式処理が完了した高分子電解質膜を、温度が20〜40℃の範囲で、相対湿度が30〜70%RHの範囲で変動する空間に滞留時間10分で通過させて巻き取ったほかは同様にして評価した。
【0085】
〔比較例4〕
実施例1において、湿式処理が完了した高分子電解質膜を、温度が20〜40℃の範囲で、相対湿度が30〜70%RHの範囲で変動する空間に滞留時間5分で通過させ、温度が30〜50℃の範囲で、相対湿度が35〜75RHの範囲で変動する空間に滞留時間5分で通過させて巻き取ったほかは同様にして評価した。
【0086】
実施例及び比較例の評価結果を表1に示す。
【0087】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明により、品質のばらつきが少ない高分子電解質膜とその製造方法、及び、カールや剥離などが発生しにくく、取り扱い性に優れた高分子電解質積層を提供でき、固体高分子型燃料電池の発展に寄与することが期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン性基含有高分子電解質膜を連続的に水又は水を主成分とする溶液を入れた一つ以上の槽(湿式処理槽)を通過させる湿式処理をした後ロール状に巻き取る高分子電解質膜の製造方法において、該湿式処理を施した高分子電解質膜を、温度及び相対湿度を一定に制御した空間を通過させた後、巻き取ることを特徴とする高分子電解質膜の製造方法。
【請求項2】
該温度及び相対湿度が一定に制御された空間が、2つ以上の空間からなり、各空間の温度又は相対湿度の少なくとも一方が異なることを特徴とする請求項1に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項3】
該空間において、湿式処理槽側を上流側、巻取り側を下流側とした際、最上流側に位置する空間の相対湿度が、最下流側に位置する空間の相対湿度よりも低いことを特徴とする請求項2に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項4】
最上流側の空間の相対湿度が、最下流側に位置する空間の相対湿度より5〜60%RH低いことを特徴とする請求項3に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項5】
最上流側に位置する空間の相対湿度が15〜30%RHの範囲であり、かつ最下流側に位置する空間の相対湿度が20〜50%RHの範囲であることを特徴とする請求項4に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項6】
いずれの空間においても温度が15〜40℃の範囲であり、かつ相対湿度が10〜70%RHの範囲であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項7】
いずれの空間における滞留時間が10分以内であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項8】
温度及び相対湿度の制御された空間が、3つ以上の空間からなり、湿式処理槽側を上流側、巻取り側を下流側、上流側と下流側の間に位置する空間を中流部とした際、最上流側に位置する空間の相対湿度が、中流部に位置する少なくとも一つの空間の相対湿度よりも高く、かつ、中流部に位置する少なくとも一つの空間の相対湿度が、最下流側に位置する空間よりも低いことを特徴とする請求項2〜7のいずれかに記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項9】
巻き取られる際の高分子電解質膜の含水率が、高分子電解質膜が使用される環境における温度及び相対湿度における平衡含水率に対して、80〜120%の範囲であるように、各空間の温度及び相対湿度を設定することを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項10】
請求項9の方法で得られた高分子電解質膜に、支持体を付与して高分子電解質膜積層体を製造する方法において、高分子電解質膜の含水率が、高分子電解質膜が使用される環境における温度及び相対湿度における平衡含水率に対して、80〜120%の範囲であるように、工程の温度及び相対湿度を設定することを特徴とする高分子電解質膜積層体の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載の方法で製造され、含水率が、23℃、50%RH雰囲気下における平衡含水率の80〜120%の範囲内であることを特徴とする高分子電解質膜。
【請求項12】
請求項10に記載方法で製造され、高分子電解質膜の含水率が、23℃、50%RH雰囲気下における平衡含水率の80〜120%の範囲内であることを特徴とする高分子電解質膜積層体。

【公開番号】特開2011−54315(P2011−54315A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200221(P2009−200221)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】