説明

高剛性セラミックス材料およびその製造方法

【課題】緻密かつ高比剛性でありながら更に加工性に優れた炭化ホウ素セラミックス材料とその製造方法を提供する。
【解決手段】炭化ホウ素粉末と、焼結助剤としてケイ素の酸化物、窒化物、酸窒化物、アルミニウムの酸化物、窒化物、酸窒化物、アルミニウムとケイ素の複合酸化物、複合窒化物、複合酸窒化物の中からSi、Al、O、Nを全て含むように選択した1種または複数種とを準備し、これらの原料を混合、成形後、焼成することで、炭化ホウ素を90〜99.5質量%含有し、結晶粒界に少なくともケイ素、アルミニウム、酸素、窒素が共存している高剛性セラミックス材料を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械部材、精密部材、光学部材、耐熱部材、摺動部材として有用な高剛性セラミックス材料およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セラミックスは、鉄などの金属材料と比べて軽量かつ剛性の高い材料であることから様々な構造用材料として用いられている。セラミックスの中でも剛性の高い材料としてアルミナ(Al)や炭化ケイ素(SiC)などのセラミックスがある。
【0003】
アルミナは、セラミックスの中でも比較的安価であることから広く用いられている材料であるが、理論密度は約4.0g/cmで、緻密な焼結体でもヤング率は390GPa程度で、ヤング率を比重で割った比剛性の値は100GPa程度である。炭化ケイ素は、理論密度が約3.2g/cmとアルミナより低比重であり、一般的なセラミックスの中でも比較的比重の低い材料である。炭化ケイ素の場合、緻密な焼結体はヤング率400GPa以上の高剛性を示し、比剛性は130GPa程度の高い比剛性値を示す。
【0004】
しかしながら、高速で移動するステージ等の機械部材等では、より高速で高精度の駆動制御を達成するために、より剛性の高い材料、あるいは同等の剛性でもより軽量の材料が望まれている。
【0005】
セラミックスの中でも炭化ホウ素は、ダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素に次ぐ高硬度を有する材料であり、耐摩耗部材、研磨材などに用いられている。炭化ホウ素は、密度が2.5g/cm程度とセラミックスの中でも低比重の材料の一つである。また、炭化ホウ素は、共有結合性の高い材料であるため、ヤング率も400GPa程度と高剛性であり、比剛性が150GPa以上という高比剛性材料を得ることが可能である。
【0006】
しかしながら、炭化ホウ素は、共有結合性が高い材料であるため、熱的に安定な材料であり、極めて難焼結性であることが知られている。このため、一般に炭化ホウ素焼結体の製造には、ホットプレスなどの加圧焼結法が用いられている。しかし、ホットプレスなどの加圧焼結では、複雑形状品の製造が困難であり、高コストであることから、一般的な常圧焼結法により、緻密な炭化ホウ素焼結体を製造することが望まれている。
【0007】
炭化ホウ素の常圧焼結による緻密化では、焼結助剤を使用することが必要である。炭化ホウ素の焼結助剤としては、炭素を添加したものが知られており、特許文献1などで開示されている。これらの技術により、比較的緻密な炭化ホウ素焼結体を得ることができるが、炭素を焼結助剤とする場合、焼結は固相拡散により進行するため、炭化ホウ素を緻密化するためには、2300℃といった高温で焼結することが必要である。このような高温で焼成を行うには、一般的なカーボン炉では最高使用温度ないしそれ以上の温度となり、使用できる炉が限られるとともに、ヒーターや断熱材など炉の損耗も大きく、エネルギーコストもかかることから、製造コストが高くなってしまう。このため、炭化ホウ素を、より低温で焼結する技術が望まれている。
【0008】
他の焼結助剤を用いた技術では、金属ホウ素、金属シリコン、炭素粉末を用いた例が特許文献2等で開示されている。しかしながら、この技術では真空中1600〜2100℃で熱処理した後、緻密化のための不活性ガス雰囲気中で焼結を行う必要があり、2段階で熱処理および焼成を行うか、加熱途中で真空からガス雰囲気に切り替える必要があり、製造する上でプロセスが煩雑になる問題がある。
【0009】
特許文献3では、焼結助剤としてAl元素含有物質とSi元素含有物質の少なくとも1種以上を使用する技術が開示されており、具体的な例として、Al+Si、Al+Si、AlSiCを焼結助剤として適用している。これらの手法により比較的低温で常圧焼結法により緻密な炭化ホウ素セラミックスを得ることが可能である。しかしながら、炭化ホウ素は、セラミックスの中でも高硬度であることから、難加工性が著しい材料である。一般にセラミックスの硬度は、粒径がおよそ50μmまでの範囲では、粒径が大きくなるほど低くなることが非特許文献1などに示されており、セラミックスの加工性も粒径が大きくなるほど加工性が良くなることが知られている。しかしながら、炭化ホウ素は、セラミックスの中でも難焼結性であるため、特許文献3の手法では焼結後の結晶粒径を大きくすることが困難であり、更に炭化ホウ素自体が高硬度であるため、加工性が極めて悪い。このことが炭化ホウ素セラミックスを製品化する際に高コストとなる大きな要因となっている。このため、高剛性でありながら加工性に優れた炭化ホウ素セラミックスが強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−201178号公報
【特許文献2】特開2000−154062号公報
【特許文献3】特開昭62−12663号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Journal of the American CeramicSociety,Vol.77,No.10, p.2539(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、緻密かつ高比剛性でありながら、更に加工性に優れた炭化ホウ素セラミックス材料とその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)炭化ホウ素を90〜99.5質量%含有し、結晶粒界に少なくともケイ素、アルミニウム、酸素、窒素が共存している高剛性セラミックス材料。
(2)結晶粒界が不可避的不純物を除いて、Si=0.04〜1.0質量%、Al=0.25〜5.5質量%、O=0.05〜1.1質量%、N=0.13〜3.0質量%からなる(1)に記載の高剛性セラミックス材料。
(3)炭化ケイ素を5質量%以下含有する(1)または(2)に記載の高剛性セラミックス材料。
(4)遊離炭素を5質量%以下含有する(1)〜(3)のいずれか1項に記載の高剛性セラミックス材料。
(5)ヤング率が370GPa以上である請求項(1)〜(4)のいずれか1項に記載の高剛性セラミックス材料。
(6)(1)〜(5)のいずれか1項に記載の高剛性セラミックス材料の製造方法であって、
炭化ホウ素粉末と、焼結助剤としてケイ素の酸化物、窒化物、酸窒化物、アルミニウムの酸化物、窒化物、酸窒化物、アルミニウムとケイ素の複合酸化物、複合窒化物、複合酸窒化物の中からSi、Al、O、Nを全て含むように選択した1種類または複数種とを準備し、これらの原料を混合、成形後、焼成する高剛性セラミックス材料の製造方法。
(7)焼結助剤として少なくともアルミニウムとケイ素の複合酸窒化物の粉末を使用する(6)に記載の高剛性セラミックス材料の製造方法。
(8)アルミニウムとケイ素の複合酸窒化物としてSiOとAlNのモル比が1:6の割合の化合物を使用する(7)に記載の高剛性セラミックス材料の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、比剛性が高くかつ加工性に優れた炭化ホウ素セラミックス材料が得られ、各種の機械部材、精密部材、光学部材、耐熱部材、摺動部材として有用な高剛性セラミックス材料を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】表3に示した実施例13のSEM写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の高剛性セラミックス材料およびその製造方法を実施するための形態を詳細に説明する。
【0017】
本発明のセラミックス材料は、炭化ホウ素を90〜99.5質量%含有し、結晶粒界に少なくともケイ素、アルミニウム、酸素、窒素が共存していることを特徴とする。
【0018】
炭化ホウ素の含有量を90〜99.5質量%としているのは、90質量%未満の場合、剛性が低下してしまい、目的とする高剛性材料が得られないためであり、99.5質量%を超えると、緻密化に必要なケイ素、アルミニウム、酸素、窒素の含有量が少なくなるため、焼結が進まず、緻密な焼結体を得ることができないためである。
【0019】
ケイ素、アルミニウム、酸素、窒素は、炭化ホウ素の焼結を促進し、緻密な焼結体を得るために必要である。これらの成分は、炭化ホウ素の焼結の際に、液相を生成して焼結を促進するため、固相拡散による焼結に比べて、低温で緻密化することが可能となる。これらの成分を添加することにより、2200℃以下の焼成温度でも相対密度95%以上の緻密な焼結体を得ることが可能となる。
【0020】
更に、この液相を利用した焼結には、得られる焼結体の結晶粒を成長させる効果がある。固相拡散による焼結の場合、炭化ホウ素の結晶粒径は数μm程度と微細であるため、焼結体の硬度が高く、加工抵抗が高くなり難加工性のものしか得られない。これに対して、本発明による材料は、炭化ホウ素の結晶粒径を10μm以上に成長させることが可能であり、結晶粒径の大径化に伴う硬度の低下により、加工性に優れた炭化ホウ素セラミックス焼結体を得ることが可能となる。
【0021】
また、得られる焼結体では、炭化ホウ素結晶粒の粒界に少なくともケイ素、アルミニウム、酸素、窒素が共存した結晶粒界が形成される。この結晶粒界は、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸窒化ケイ素、酸窒化アルミニウム、アルミニウムとケイ素の複合酸化物、アルミニウムとケイ素の複合窒化物、アルミニウムとケイ素の複合酸窒化物などの形態で存在する。
【0022】
ケイ素、アルミニウム、酸素、窒素を結晶粒界に共存させる方法としては、アルミナ、窒化アルミニウム、シリカ、窒化ケイ素、酸窒化アルミニウム、酸窒化ケイ素、アルミニウムとケイ素の複合酸窒化物などのようなアルミニウムとケイ素の化合物を焼結助剤として添加する。ただし、ケイ素、アルミニウム、酸素、窒素のすべての元素が含有されるように焼結助剤を選択する必要がある。
【0023】
焼結助剤としてこれら全ての元素を含有させるのは、炭化ホウ素の焼結温度で安定な液相を生成させて、炭化ホウ素の緻密化を促進するためである。例えば、アルミナや窒化アルミニウムだけを添加した場合も、無添加に比べると炭化ホウ素の焼結を促進する効果が得られるが、液相を生成しないため、十分に緻密な焼結体を得ることが困難である。また、シリカとアルミナなどの酸化物同士を組み合わせた場合、液相を生成するものの炭化ホウ素の焼結に必要な2200℃といった高温では蒸発などが起こり易いため、焼結促進の効果が得られず、緻密な焼結体を得ることが困難である。このため、緻密な焼結体を得るためには、高温で比較的安定なケイ素、アルミニウム、酸素、窒素を含む液相が生成するように、アルミニウムとケイ素の酸化物、窒化物、酸窒化物、複合酸窒化物を焼結助剤として用いることが必要である。
【0024】
焼結助剤の選択方法としては、酸化物や窒化物を組み合わせて添加しても良いが、均一な液相が生成し易く高い緻密化効果が得られるため、アルミニウムとケイ素の複合酸窒化物を用いることが最も好ましい。アルミニウムとケイ素の複合酸窒化物は、サイアロン(Sialon)と呼ばれる化合物が知られているが、ケイ素の比率が高い場合、窒化ケイ素と同様に1700〜1800℃で分解が起こる。このため、高温で安定なアルミニウムの含有量が高い複合酸窒化物を用いることが望ましい。特に、SiOとAlNが1:6の割合の化合物(SiAl)は、菱面体晶で21Rの結晶構造を有し、高温でも安定な酸窒化物であるため、これを用いることにより特に高い緻密化効果を得ることができる。このようにしてケイ素、アルミニウム、酸素、窒素からなる液相を生成することで得られる焼結体は、ケイ素、アルミニウム、酸素、窒素を含む結晶粒界が形成され、緻密な焼結体を得ることができる。特に、結晶粒界がアルミニウムとケイ素の複合酸窒化物からなる炭化ホウ素セラミックスは緻密でかつ加工性に優れており好ましい。
【0025】
なお、後述するように本発明では炭化ケイ素や遊離炭素を添加する場合があるが、これらは粒状に独立して存在するため、ケイ素、アルミニウム、酸素、窒素を含む焼結助剤から形成される結晶粒界とは存在形態も作用も異なる。従って、本発明で言うケイ素、アルミニウム、酸素、窒素を含む結晶粒界とは炭化ケイ素や遊離炭素を含まないものと定義する。
【0026】
本発明では前述の焼結助剤成分に加えて炭化ケイ素を添加することにより、緻密かつ高剛性の焼結体を得ることが可能である。炭化ケイ素は、炭化ホウ素と反応せず、炭化ホウ素の焼結温度でも安定であるため、炭化ホウ素の粒界に粒子状で存在することにより、炭化ホウ素の粒成長を抑制する効果を得ることができる。前述したように、ケイ素、アルミニウム、酸素、窒素を含有する焼結助剤を添加することにより、炭化ホウ素の粒成長が起こり、加工性を改善することが可能となるが、50μmを超えるような異常粒成長が発生した場合、50μm以下の粒径のものに対して硬度が高くなるとともに、強度の低下を引き起こす。従って、炭化ケイ素を適量添加して異常粒成長を抑制し、硬度の低下による加工性改善の効果の高い、10〜50μmの範囲に粒径を制御することが可能となる。
【0027】
炭化ケイ素の含有量は5質量%以下が望ましい。5質量%を超えた場合、粒成長を抑制する効果が過剰となり、粒径が数μm程度と小さくなってしまうため、加工性が低下してしまう。また、5質量%を超えた場合、炭化ケイ素の比重3.2は炭化ホウ素の2.5より高く、比剛性が低下してしまうため、5質量%以下であることが望ましい。
【0028】
また、遊離炭素を添加することにより、炭化ケイ素と同様に異常粒成長を抑制して、加工性に優れた高強度の炭化ホウ素セラミックスを得ることが可能である。遊離炭素の含有量は5質量%以下が望ましい。5質量%を超えた場合、炭化ホウ素に比べて炭素の剛性が低いため、剛性が大きく低下してしまう。このため、目的とする高剛性を得るためには、遊離炭素の量は、5質量%以下であることが望ましい。
【0029】
焼結後の炭化ホウ素セラミックスの密度は、2.3g/cm以上2.6g/cm以下であることが望ましい。密度が2.3g/cm未満の場合、焼結体中のポアなどの欠陥が多くなり、目的とする剛性が得られない。密度が2.6g/cmより大きい場合、炭化ホウ素の比重が2.5であることから、剛性が低く高比重の化合物を多く含有するということであり、炭化ホウ素の最大の特徴である軽量かつ高剛性という特徴を損ねるため、密度は2.6g/cm以下であることが望ましい。
【0030】
更に、機械部材等で有用な剛性を得るためには、ヤング率が370GPa以上であることが望ましい。ヤング率が370GPaより小さい場合、本発明が目的とする高比剛性の材料を得ることが困難となる。
【0031】
次に、本発明のセラミックス材料の製造方法について説明する。
【0032】
炭化ホウ素の原料として使用する炭化ホウ素粉末は、平均粒径10μm以下のものを用い、望ましくは平均粒径が5μm以下のものを用いる。平均粒径が10μmより大きいものを用いた場合、緻密化するのが困難となる。また、平均粒径が3μm以下のものを用いることにより、緻密かつ高剛性の材料を得ることが容易となる。
【0033】
また、焼結助剤としては前述したようにアルミナ、窒化アルミニウム、シリカ、窒化ケイ素、酸窒化アルミニウム、酸窒化ケイ素、アルミニウムとケイ素の複合酸窒化物(SiAlON)などを用いることができる。いずれも炭化ホウ素と均一に混合するために10μm以下の微粉末を用いることが望ましい。
【0034】
炭化ケイ素の原料として使用する炭化ケイ素粉末は、平均粒径5μm以下のものを用い、望ましくは平均粒径が2μm以下のものを用いる。平均粒径が5μmより大きいものを用いた場合、粒界に分散して粒成長を抑制する効果が十分に得ることができない。平均粒径が2μmの粉末を用いることで、少ない添加量でも粒成長を抑制するのに十分な数の粒子を粒界に分散させることが可能となり、目的とする粒成長抑制の効果を得ることができる。
【0035】
また、遊離炭素の原料として使用する炭素粉末は、平均粒径5μm以下のものを用いることで粒成長抑制の効果が得られる。添加する炭素粉末の形態は、カーボンブラック、グラファイトなどを用いることができる。また、フェノール樹脂などの有機系の原料を炭素源として用いても同様の効果を得ることができる。また、これらの炭素源を用いることにより、炭化ホウ素粉末の表面に存在する酸化物を還元あるいは除去する効果があり、緻密化を促進する効果も得ることができる。
【0036】
以上の各原料および焼結助剤を均一に混合し、成形後、焼成することで、本発明の高剛性セラミックス材料を製造することができる。特に炭化ホウ素粉末、アルミニウムとケイ素の複合酸窒化物の粉末、あるいは炭化ホウ素粉末、アルミニウムとケイ素の複合酸窒化物の粉末、炭化ケイ素粉末の組合せで原料粉末を混合、成形後、焼成することにより、焼結性に優れた緻密な高剛性セラミックスを製造することが可能となる。更に、アルミニウムとケイ素の複合酸窒化物の粉末としてはSiOとAlNが1:6の割合の化合物であるサイアロン21R(SiAl)を使用することが最も好ましい。
【0037】
原料粉末の混合は、均一な混合粉体を得るために、湿式混合によることが望ましい。溶媒として、水、有機溶剤などを用いるが、分散剤を用いることにより、より均一な混合が可能である。また、必要に応じて混合粉末の成形性を高めるために、結合剤や潤滑剤、可塑剤等の添加物を用いることが望ましい。これらの混合には、撹拌式混合機、回転式ボールミルなどを用いる。原料粉末と溶媒を混合した後、乾燥、成形を行うが、特にスプレードライを用いることにより流動性の良い粉体を一度に大量に製造乾することが可能である。
【0038】
粉末の成形では、一軸成形やCIP成形により、所望の形状に成形する。均一な密度分布を有する焼結体を得るためには、CIP成形法を用いることが望ましい。また、スプレードライによる乾燥を行わずに、泥しょう鋳込み成形法や射出成形法により、混合したスラリーから直接成形し、乾燥する方法を用いることもできる。
【0039】
このようにして作製した成形体を焼成し緻密な焼結体を得る。焼成には、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中での常圧成形あるいは真空中での減圧成形を行うことが望ましい。大気中等の酸化雰囲気中では、原料の炭化ホウ素が酸化してしまうため、緻密化させることが困難である。
【0040】
前述の常圧焼成あるいは減圧成形は、1800〜2200℃の温度で行うことが好ましい。1800℃より低い温度では、炭化ホウ素の焼結が進行しないため、緻密化させることが困難である。また、2200℃より高い温度では、焼結助剤や炭化ケイ素の分解が起こり易くなり、緻密な焼結体を得ることが困難である。
【0041】
本発明のセラミックス材料は常圧焼成あるいは減圧成形でも優れた特性を発揮するが、必要に応じて更に緻密化するためHIP(熱間等方圧加圧)処理を併用することも可能である。得られた焼結体をHIP処理する場合は、圧力媒体として不活性ガスを用い、焼成温度は1800〜2200℃、圧力は10〜200MPaで行うことが好ましい。
【0042】
また、ホットプレスによる加圧焼成により緻密な焼結体を得ることも可能である。ホットプレスによる焼成は、焼成温度は1800〜2200℃圧力が10〜50MPaであることが望ましい。
【0043】
以上の方法によって、機械部材、精密部材、光学部材、耐熱部材、摺動部材として有用な高剛性セラミックス材料が得られる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の高剛性セラミックスおよびその製造方法の実施例を示す。
【0045】
(実施例1)
炭化ホウ素粉末(平均粒径2μm)と酸窒化アルミニウムケイ素化合物粉末(サイアロン21R:SiAl、平均粒径1μm)を表1に示す配合割合で原料粉末とし、これに適量の蒸留水、分散剤、バインダーを添加してボールミルにより均一に混合し、スプレードライにより乾燥させた坏土を一軸加圧成形した後、CIP成形して60×90×20mmの成形体を得た。この成形体をアルゴン中2200℃で4時間常圧焼成し焼結体を得た。
【0046】
【表1】

【0047】
得られた焼結体の化学成分算出方法は次の通りとした。炭化ホウ素はアルゴン雰囲気中では高温でも安定しているが、焼結助剤のサイアロン21Rについては一部が揮発するため、バインダー等の添加剤を除いた焼成前後の重量減少量を焼結助剤の揮発量と見なし、焼結体の炭化ホウ素の含有割合は配合時の添加割合から焼結助剤の重量減少の分だけ相対的に増加させた割合とした。結晶粒界の化学成分については、焼結体を鏡面研磨し、粒界エッチング処理を施した後、EPMAによって結晶粒界のSi、Al、O、Nの質量比を5箇所分析し、その平均値を結晶粒界のSi、Al、O、Nの質量比とした。結晶粒界部分の総割合は100%から炭化ホウ素の含有割合を差し引いた割合として、全体に対するSi、Al、O、Nの含有割合を決定した。
【0048】
得られた焼結体の密度をJIS R1634に準拠し、ヤング率をJIS R1602に準拠して測定した。比剛性は厳密にはヤング率をかさ比重で割った値であるが、g/cmを単位とした密度は実質的にかさ比重の値と同じであるので、比剛性はヤング率を密度の数値で割った値とした。また、加工性は平面研削盤に取り付けたダイヤモンドホイールを用いて研削加工した際の背分力(研削抵抗)を動力計により測定することで評価した。使用したダイヤモンドホイールは、直径500mm、幅30mm、結合剤ビトリファイドボンド、粒度#170であり、回転数1100rpm、切り込み深さ10μm/pass、プランジ方式の条件にて加工を実施した。測定した研削抵抗の平均値が650N未満を◎、650N以上750N未満を○、750N以上850N未満を△、850N以上を×として表1に示した。◎、○、△、×の順に加工性が良好であることを示す。
【0049】
表1より本発明の実施例1〜5は緻密で比剛性が高く、更に加工性も良好であることが分かる。一方、焼結助剤が少なすぎる(炭化ホウ素が多すぎる)比較例1と焼結助剤が多すぎる(炭化ホウ素が少なすぎる)比較例2は、密度、ヤング率共に低い上に加工性も悪い。
【0050】
実施例および比較例の焼結体を鏡面研磨し、粒界エッチング処理を施した後、SEM観察により平均粒径を調査した。その結果、焼結助剤の添加量が増えるに従って概ね粒径が大きくなっていることが確認できた。比較例1の平均粒径はおよそ5μm程度であるのに対して、実施例は12〜45μm程度であった。なお、比較例2の平均粒径は8μm程度であった。これは焼結助剤が過剰に結晶粒界に存在したため、逆に粒成長を妨げたものと考えられる。
【0051】
(実施例2)
(実施例1)において使用した炭化ホウ素粉末とサイアロン21R粉末の他に、焼結助剤としてアルミナ粉末(Al、平均粒径0.5μm)、窒化アルミ粉末(AlN、平均粒径1μm)、窒化ケイ素粉末(Si、平均粒径0.8μm)、酸窒化ケイ素粉末(SiON、平均粒径1.7μm)を使用し、表2に示す配合割合に従って焼結体を作製した。作製方法は(実施例1)と同様であり、焼結体の特性も同様に評価した。化学成分についても前述したように焼結助剤が焼成中に揮発することを考慮して焼成前後の重量減少率と焼結体の結晶粒界をEPMAで分析することで算出した。
【0052】
【表2】

【0053】
表2の比較例3、4、6、8に示すように、焼結助剤として酸化物、窒化物、酸窒化物を単独で添加した場合や、比較例5に示すように、酸化物と窒化物の組み合わせでもケイ素を含まない場合や、比較例7に示すように窒化物同士の組み合わせでは緻密な焼結体を得ることができずヤング率、比剛性も低い。更には、粒成長が十分でないため加工性にも劣る結果となった。それと比較して、Si、Al、O、Nを全て含む焼結助剤を組み合わせた実施例6〜10は優れた特性を有していることが分かる。ただし、前述した実施例3や実施例9、10と実施例6〜8を比較すると明らかなように、焼結助剤としては、Si、Al、O、Nが予め化合しているアルミニウムとケイ素の複合酸窒化物(サイアロン21R)が特に優れていることが分かる。
【0054】
(実施例3)
(実施例1)において使用した炭化ホウ素粉末とサイアロン21R粉末の他に、炭化ケイ素粉末(SiC、平均粒径0.6μm)、遊離炭素としてカーボンブラック粉末(C、平均粒径1μm)を使用し、表3に示す配合割合に従って焼結体を作製した。作製方法は(実施例1)と同様であり、焼結体の特性も同様に評価した。なお、化学成分の算出においては、炭化ケイ素(SiC)と遊離炭素はアルゴン雰囲気中では高温でも安定なため炭化ホウ素と同様の取り扱いとした。なお、表中に記載の焼結体の化学成分の欄において、SiCは炭化ケイ素粉末からもたらされた成分で、Siは結晶粒界に存在する成分で炭化ケイ素粉末からもたらされるSi成分を含まない。またFCは遊離炭素を意味し、炭化ホウ素(BC)や炭化ケイ素(SiC)中に含まれるC成分を含まない。
【0055】
【表3】

【0056】
表3に示すように、炭化ケイ素、カーボンを添加することによって、更に密度、弾性率、比剛性の向上と加工性の両立が可能になることが明らかである。図1には実施例13のSEM写真を示す。炭化ホウ素(BC)が20〜30μm程度粒成長していることが明らかである。
【0057】
ただし、実施例15や実施例20に示すように、炭化ケイ素やカーボンを5質量%を超えて添加すると緻密化の阻害要因となるばかりでなく粒成長の抑制効果も過剰に作用するため、比剛性、加工性共に低下し好ましくない。また、比較例9、10に示すように、サイアロン21Rを添加しないで炭化ケイ素またはカーボンを添加した場合は加工性が極めて悪く、本発明の目的を達成することができない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ホウ素を90〜99.5質量%含有し、結晶粒界に少なくともケイ素、アルミニウム、酸素、窒素が共存している高剛性セラミックス材料。
【請求項2】
結晶粒界が不可避的不純物を除いて、Si=0.04〜1.0質量%、Al=0.25〜5.5質量%、O=0.05〜1.1質量%、N=0.13〜3.0質量%からなる請求項1に記載の高剛性セラミックス材料。
【請求項3】
炭化ケイ素を5質量%以下含有する請求項1または2に記載の高剛性セラミックス材料。
【請求項4】
遊離炭素を5質量%以下含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の高剛性セラミックス材料。
【請求項5】
ヤング率が370GPa以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の高剛性セラミックス材料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の高剛性セラミックス材料の製造方法であって、
炭化ホウ素粉末と、焼結助剤としてケイ素の酸化物、窒化物、酸窒化物、アルミニウムの酸化物、窒化物、酸窒化物、アルミニウムとケイ素の複合酸化物、複合窒化物、複合酸窒化物の中からSi、Al、O、Nを全て含むように選択した1種類または複数種とを準備し、これらの原料を混合、成形後、焼成する高剛性セラミックス材料の製造方法。
【請求項7】
焼結助剤として少なくともアルミニウムとケイ素の複合酸窒化物の粉末を使用する請求項6に記載の高剛性セラミックス材料の製造方法。
【請求項8】
アルミニウムとケイ素の複合酸窒化物としてSiOとAlNのモル比が1:6の割合の化合物を使用する請求項7に記載の高剛性セラミックス材料の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−96970(P2012−96970A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247520(P2010−247520)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【出願人】(306032316)新日鉄マテリアルズ株式会社 (196)
【Fターム(参考)】