説明

高反応性の生石灰とその製造方法

【課題】
消石灰の焼成により生石灰を製造するプロセスであって、既知の高反応性生石灰を超える高い反応性や吸湿性を発揮する生石灰が得られる方法を提供する。
【解決手段】
B:原料消石灰のBET比表面積、T:焼成温度、t:焼成時間、P:雰囲気圧力とするとき、式 F=(B/30)(T・t/P) で表されるプロセス関数Fが1〜90となるように、反応条件を、B:10m2/g以上、T:573〜1073K、t:0.5〜10hr、P:1〜10×102Pa以下の範囲から選択して焼成を行なう。それにより、BET比表面積:30m2/g以上、総細孔容積:1.0×10-4dm3/g以上、強熱減量:10重量%以下、平均粒径:5μm以上の高反応性生石灰が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高反応性の生石灰と、その製造方法に関する。本発明により提供される生石灰は、反応性が高いから、燃焼排ガス中の酸性ガスの除去剤として効果が高いほか、脱水作用がきわめて強いから、各種のOA機器、IT機器などの内部に使用する乾燥剤として有用である。
【背景技術】
【0002】
生石灰は、製鋼用の副原料として使用されるほか、燃焼排ガスからその中の酸性ガスを除去する排ガス処理剤として使用されている。後者の用途に向ける生石灰は、酸性ガスをなるべく多量に吸収(主として化学吸着)でき、したがってより少ない使用量で効果が得られるよう、反応性が高いものが好ましい。具体的には、高い比表面積と大きな細孔容積とを有する生石灰が有用である。
【0003】
そのような生石灰を製造する方法として提案されたのは、消石灰を焼成して脱水させる工程に従うものであるが、焼成温度を、従来採用されていた温度よりも低い、350〜650℃の範囲で実施するものである(特許文献1、非特許文献1)。このような低い温度領域では、平衡からみて脱水反応が容易に進行しないか、または逆に再加水する条件になるから、実際上は、「大気圧より0.04MPa以上低い負圧力」(「0.06MPa以下の減圧下に」という方が正しい)で焼成する必要があるという。
【特許文献1】特開2001−354414
【非特許文献1】2003年11月「石灰技術大会」講演要旨集
【0004】
上記の技術の実施例をみると、下記の反応条件で、下記の比表面積を有する生石灰を得ている。
反応条件 比表面積
大気圧(0.1MPa)、500℃×60分間 21〜33m2/g
大気圧(0.1MPa)、600℃×18分間 20〜26m2/g
0.005MPa(=5×103Pa),450℃×30〜60分間 26〜50m2/g
0.005MPa(=5×103Pa),500℃×20〜50分間 49〜58m2/g
0.005MPa(=5×103Pa),550℃×10〜40分間 42〜48m2/g
0.005MPa(=5×103Pa),600℃×10〜30分間 35〜42m2/g
【0005】
得られた高反応性生石灰の反応性は4N−HCl滴定により測定されており、滴定時間1分間で390ccに達しているが、総細孔容積など、吸着性能にとって重要なデータは示されていない。この技術は、原料とする消石灰を生石灰の水和によって調製し、それを直ちに加熱脱水する方式を推奨していて、そのときの水分含有量を適切に選ぶべきことを教示しているが、原料消石灰のもつべき物性などについての教示はない。
【0006】
発明者らは、高反応性または高吸湿性を発揮する生石灰の物理的な諸特性を求めて研究した結果、総細孔容積が、とくに水和反応性および酸性ガス等との反応性にとって重要であることを知った。さらに、そのような生石灰を与える製造条件を探求したところ、焼成温度T(K)、焼成時間t(hr)および雰囲気圧力P(Pa)に加えて、原料消石灰の比表面積が因子としてはたらくこと、また、それらを一体的に考察した反応条件が重要であることを見出した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記した発明者らが得た新しい知見を利用し、既知の高反応性生石灰を超える高い反応性や吸湿性を発揮する生石灰と、それを安定的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の高反応性の生石灰は、その物性値が、下記のレベルにあるものである。
強熱減量:10重量%以下
BET比表面積:30m2/g以上
総細孔容積:1.0×10-4dm3/g以上
平均粒径:5μm以上
【0009】
とりわけ、生石灰の反応性を測定するための ASTM C−110 にもとづく試験法に後記する変更を施した試験により測定される「t45」が、10秒以下であるものが、高性能である。
【0010】
一般に比表面積が大きい生石灰は高反応性であるが、とくにBET比表面積が30m2/g以上であると、排ガスの処理剤や乾燥剤としての性能がすぐれている。この程度の比表面積をもつ生石灰は、前掲の技術によっても得られているが、生石灰の性能にとっては、BET比表面積とともに、総細孔容積の大きいことが重要である。強熱減量が10重量%以下であることは、反応量の確保のために満たすべき条件であり、5重量%以下であることが好ましい。平均粒径は、好適なハンドリング性を確保するという観点から、5μm以上あることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
上記の物性値を有する本発明の生石灰は、後記する実施データが示すように、すこぶる反応性に富んでいるから、排ガスの処理剤や乾燥剤としての性能が、既知の高反応性生石灰と呼ばれるものに比べて高い。したがって、従来の使用量よりも少量でその役目を果たすことができる。そのことは、たとえば排ガスの処理剤としたときに発生する二次廃棄物の量を減らし、その処理の必要を軽減するという点においても寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
上記した物性を有する本発明の高反応性の生石灰を製造する方法は、消石灰を焼成して脱水することからなる生石灰の製造方法において、下式により定義されるプロセス関数Fの値が、1〜90の範囲となるように条件を選択して実施することを特徴とする。
F=(B/30)(T・t/P)
ここで、B:原料消石灰のBET比表面積(m2/g)
T:焼成温度(K)
t:焼成時間(hr)
P:雰囲気圧力(Pa)
【0013】
各因子は、下記の範囲内から選択して実施することが好ましい。
B(原料消石灰のBET比表面積):10m2/g以上
T(焼成温度):573〜1073K
t(焼成時間):0.5〜10hr
P(雰囲気圧力):1〜10×102Pa
【0014】
消石灰の加熱脱水反応という過程による生石灰の製造において、反応条件を包括するプロセス関数という観点から適切な条件を定めたことが、本発明のひとつの特徴である。プロセス関数Fが1に達しない小さい値であると、一般に得られた生石灰は強熱減量が過大になるものであり、逆に90を超える大きい値であると、比表面積が減少して、前記の物性値の条件を満たすことが困難になる。
【0015】
原料消石灰の比表面積がある限度以上であることの意義、つまり、広い比表面積をもつ生石灰を得るためには、広い比表面積をもつ消石灰を原料とすべきであるという事実を見出したことは、本発明による高反応性生石灰の製造方法のいまひとつの特徴である。原料消石灰の比表面積は、広いほど好ましいが、少なくとも10m2/gあるものを使用することが推奨される。
【0016】
焼成温度T(K)と焼成時間t(hr)とは、それらの積が投入されたエネルギーの量を決定するものといえるが、どちらも上記したような適切な範囲があり、それらの範囲内の値を組み合わせることが好ましい。より好ましい範囲は、焼成温度Tについては673〜973K、焼成時間tについては1〜5hrである。
【0017】
雰囲気圧力Pの選択は本発明の実施条件として重要であって、10×102Pa以下、より好ましくは5×102Pa以下の圧力のもとに焼成を行なう。前述した既知の技術においては、0.06MPa以下(6×104Pa)の減圧下の焼成を推奨しているものの、実施例で効果を実証した雰囲気圧力は、前掲のとおり、低いものでも5×103Paであって、本願発明で好適であるとする102Paオーダーの雰囲気圧力を選択する意義については、示唆するところがない。
【実施例】
【0018】
BET比表面積が40m2/gまたは15m2/gの消石灰を原料として使用し、高反応性の生石灰を製造した。比表面積40m2/gの消石灰は、水和遅延剤を利用することにより製造したものである。脱炭酸反応のための加熱条件と、それぞれの場合のプロセス関数を、下記の表に示す。対比のため、前記した特許文献1の実施例について推定した反応条件の加熱(参考例1)と、従来の常圧雰囲気における加熱の場合(参考例2)とを、比表面積が40m2/gの原料を対象に、あわせて実施した。
【0019】
得られたサンプルについて、強熱減量、BET比表面積、総細孔容積、平均粒径およびASTM活性度(t45、すなわちサンプル投入から温度が45℃に到達するまでの時間)を測定した。それらの結果を、あわせて表に示す。ただし、ASTM活性度は、本発明の生石灰がきわめて高活性であって、定められた試験法では測定困難であるから、つぎのように条件を変更した修正試験法によった。
ASTM標準法 修正試験法
反応媒体 水 50%エタノール溶液
撹拌翼回転数 300rpm 500rpm
試料の量 150g 80g
【0020】
表のデータから、プロセス関数を選択する意義がわかる。比較例1はプロセス関数が過小であって、強熱減量およびt45が過大であり、一方、比較例2および3はプロセス関数が過大であって、強熱減量は少ないが、比表面積および総細孔容積が減少しているうえ、t45が若干大きい。これに対し本発明の実施例が与えた製品は、目標とする物性値
強熱減量:10重量%以下
BET比表面積:30m2/g以上
総細孔容積:1.0×10-4dm3/g以上
平均粒径:5μm以上
t45(修正ASTM):10秒以下
の条件を満たした、高反応性でハンドリング性の高い生石灰である。参考例1(特許文献1)の製品は、本発明の観点からするとプロセス関数が低く、比表面積は高い値を示したものの、細孔容積がやや低く、かつ強熱減量が大きい。参考例2(従来技術)により得られる生石灰は、比表面積、細孔容積とも、高活性な生石灰に必要な物性値を満たしていない。















































【0021】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
消石灰を焼成して脱水することからなる生石灰の製造方法において、下式により定義されるプロセス関数Fの値が、1〜90の範囲となるように条件を選択して実施することを特徴とする高反応性の生石灰を製造する方法。
F=(B/30)(T・t/P)
ここで、B:原料消石灰のBET比表面積(m2/g)
T:焼成温度(K)
t:焼成時間(hr)
P:雰囲気圧力(Pa)
【請求項2】
請求項1の方法において、各因子を下記の範囲内から選択して実施する高反応性の生石灰を製造する方法。
B(原料消石灰のBET比表面積):10m2/g以上
T(焼成温度):575〜1073K
t(焼成時間):0.5〜10hr
P(雰囲気圧力):1〜10×102Pa
【請求項3】
請求項1に記載の方法により製造した、下記の条件を満たす高反応性の生石灰。
強熱減量:10重量%以下
BET比表面積:30m2/g以上
総細孔容積:1.0×10-4dm3/g以上
平均粒径:5μm以上
【請求項4】
生石灰の反応性を測定するための ASTM C−110 にもとづく試験法に下記の変更を施した試験により測定される「t45」が、10秒以下である請求項3の高反応性の生石灰。
反応溶媒:水に代えて50%エタノール溶液を使用
撹拌回転数:300rpmを500rpmに増大
試料の量:150gから80gに減少

【公開番号】特開2006−21945(P2006−21945A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−200879(P2004−200879)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【出願人】(000160407)吉澤石灰工業株式会社 (38)
【Fターム(参考)】