説明

高収率でグルタミン酸を生産する微生物およびこれを用いたグルタミン酸生産方法

微生物コリネバクテリウムグルタミカム(Corynebacterium glutamicum)KFCC−11074から遺伝子操作によって得た変異菌株KCCM−10784PとKCCM−10785P、およびそれを用いたグルタミン酸生産方法を開示する。前記変異菌株はグルタミン酸を高収率で生産することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高収率でL−グルタミン酸を生産する微生物、および前記微生物を用いてL−グルタミン酸を生産する方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、コリネバクテリウムグルタミカム(Corynebacterium glutamicum)KFCC−11074の変異株であって、カナマイシン(Kanamycin)および/またはクロラムフェニコール(Chloramphenical)に対する耐性を有し且つL−グルタミン酸を高収率で生産する微生物、および前記変異株を用いたL−グルタミン酸生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
L−グルタミン酸は、発酵により生産される代表的なアミノ酸であって、全世界の年間生産量が100万トンを超えて規模の側面で化学産業の汎用化合物と比較すべきものであり、例えば医薬品、食品、その他の動物飼料などに広く用いられる重要なアミノ酸である。
【0003】
従来から知られているL−グルタミン酸の製造方法としては、主にブレビバクテリウム(Brevibacterium)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)、マイクロバクテリウム(Microbacterium)またはその変異体に属するいわゆるコリネ型(coryneform)のグルタミン酸生産バクテリアを用いる発酵による生産が通常的であり(“Amino Acid Fermentation”, Gakkai Shuppan Center, pp.195−215, 1986)、他のバクテリア菌株を発酵させてL−グルタミン酸を生産する方法としては、バチルス(Bacillus)、ストレプトミセス(Streptomyces)、フェニシリウム(Penicillum)属などの微生物を用いる方法(米国特許第3,220,929号)、シュードモナス(Pseudomonas)、アルスロバクター(Arthrobacter)、セラチア(Serratia)、カンジダ(Candida)属などの微生物を用いる方法(米国特許第3,563,857号)、バチルス、シュードモナス、セラチア属などの微生物またはアエロバクターアエロゲネス(Aerobacter aerogenes)(現在、エンテロバクターアエロゲネス(Enterobacter aerogenes)と称する)を用いる方法(日本特開昭32−9393号(1957))、エシェリキアコリ(Escherichia Coli)の変異体菌株を用いる方法(日本特開平5−244970号(1993))などがある。
【0004】
また、グルタミン酸の生産量を増加させるための方法として、培地造成の変化や耐性菌株の開発などに関する多くの研究も行われてきた。一例として、グルタミン酸生成代謝経路上で中間物質として使用されるピルビン酸の供給を増やすために、β−フルオロピルビン酸耐性を持つ菌株が開発された。
【0005】
前述した方法によってもL−グルタミン酸の生産性が相当改善されたが、アミノ酸の需要が相当増加するものと予想されるところ、これを充足させるためにはより低廉で効率的なL−グルタミン酸生産方法の開発が必要である。
【0006】
本発明者らは、より収率のよいL−グルタミン酸生産菌株を得るための鋭意研究を行った結果、cg2624とcg2115遺伝子がノックアウトされて発現しないように変異された菌株は、L−グルタミン酸生成能を有する親株に比べて、向上したグリセロール利用能力を有するうえ、少ない菌体量でも高濃度のL−グルタミン酸を生産することを見出し、本発明を完成した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第3,220,929号
【特許文献2】米国特許第3,563,857号
【特許文献3】日本特開昭32−9393号
【特許文献4】日本特開平5−244970号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】“Amino Acid Fermentation”, Gakkai Shuppan Center, pp.195−215, 1986
【発明の概要】
【0009】
〔技術的課題〕
本発明の目的は、L−グルタミン酸を高収率で生産する、コリネバクテリウムグルタミカムKFCC−11074の変異株を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、前記変異株を製造する方法を提供することにある。
【0011】
本発明の別の目的は、前記変異株を使用してL−グルタミン酸を高収率で生産する方法を提供することにある。
【0012】
〔技術的解決方法〕
一つの様態において、本発明は、L−グルタミン酸を高収率で生産することが可能なコリネバクテリウムグルタミカムKFCC−11074の変異株を提供する。
【0013】
前記コリネバクテリウムグルタミカムKFCC−11074は、コリネバクテリウムグルタミカムKFCC10656を親株として紫外線照射、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)などの変異誘発剤を処理したもののうち、β−フルオロピルビン酸入りの培地で生育することが可能なL−グルタミン酸生産菌株であって、韓国特許出願第1999−09675号に開示されている。したがって、前記特許出願の全体内容は本願明細書に参考資料として含まれる。
【0014】
本発明に係るKFCC−11074の変異株は、cg2624および/またはcg2115遺伝子がノックアウトされて発現しないようにKFCC−11074を変異させた変異株である。本発明者らは、グルタミン酸の生産量を増加させるために、グルタミン酸を生産するにおいてさらに効率よく炭素源を使用し、炭素源がグルタミン酸以外の経路として使用されることを減らすことが可能であれば、グルタミン酸の生産量を増加させることができるだろうと予想し、他の種類の炭素源としてグリセロールを使用しようとした。したがって、KFCC−11704にグリセロール利用性を与えるために、NTGを用いた変異処理を施した後、グリセロール最小培地に塗抹して成長の速い菌株を選別した。選別された変異株を親株と共にDNAアレイ実験に提供し、DNAアレイ実験の結果、cg2624とcg2115の両遺伝子の発現量が親株に比べて約2倍程度低くなったことを確認した。これにより、cg2624および/またはcg2115遺伝子が発現しないようにKFCC−11074菌株を変異させると、グリセロールを炭素源として使用することができるため、向上したグリセロール利用能力を有するうえ、グルタミン酸の生産量も増加させることができることを予想し、これを実験によって確認した。したがって、本発明の好適な様態では、cg2624遺伝子が発現しないKFCC−11074の変異株であるKCCM−10784Pを提供する。また、さらに好適な様態では、cg2624およびcg2115遺伝子が発現しないKFCC−11074の変異株であるKCCM−10785Pを提供する。KCCM−10784PおよびKCCM−10785は韓国微生物保存センターに2006年9月28日付で寄託した。本発明に係る前記変異株は、また、親株KFCC−11074がカナマイシンに対する耐性を有することにより、カナマイシン含有培地で成長させて一次選別した。KCCM−10785Pの場合(IBT03)、クロラムフェニコール耐性遺伝子も含む。
【0015】
別の様態において、本発明は、前記変異株KCCM−10784P(IBT02)およびKCCM−0785P(IBT03)を製造する方法を提供する。
【0016】
本発明の好適な様態において、前記変異菌株は、グルタミン酸生成能を有する親株KFCC−11074のcg2624遺伝子および/またはcg2115遺伝子をノックアウトさせることにより製造できる。したがって、本発明の具体的な一様態では、cg2624遺伝子および/またはcg2115遺伝子をノックアウトさせるためのベクターを提供する。
【0017】
本発明において、「ベクター」は、当業界における公知の意味で使用される。「ベクター」は、一般に細胞の中心代謝の一部分ではない遺伝子を含む外来染色体要素であって、通常、円形の二本鎖DNAである。前記要素は、自己複製配列、ゲノム挿入配列、またはファージヌクレオチド配列を含む、線形または円形、一本鎖または二本鎖のDNAまたはRNAである。一般に、前記ベクターは、適切な遺伝子の転写および翻訳を指示する配列、選択性マーカー、および自己複製または染色体挿入を許容する配列を含む。適切なベクターは、転写開始調節を含む遺伝子の5’領域および転写終結を制御するDNA断片の3’領域を含む。
【0018】
前記「適切な調節配列」とは、前記ポリヌクレオチドが転写および翻訳できるように調節機能を行う配列をいう。前記調節配列には、例えば、リポソーム結合配列(RBS)、プロモーターおよびタミネーターが含まれる。前記プロモーターは、本発明の遺伝子の転写開始を指示することが可能な配列であればいずれでもよいが、例えば、CYC1、HIS3、GAL1、GAL10、ADH1、PGK、PHO5、GAPDH、ADC1、TRP1、URA3、LEU2、ENO、TPI(サッカロミセスにおける発現に有用である)、lac、trp、λPL、λPR、T7、taおよびtrc(E.coliにおける発現に有用である)が使用できる。また、前記タミネーター領域は、好適な宿主細胞の多様な遺伝子に由来するものであってもよく、選択的に必要ではなくてもよい。
【0019】
本発明の好適な様態において、cg2624および/またはcg2115遺伝子をノックアウトさせるためのコリネバクテリウムグルタミカムに存在するcg2624および/またはcg2615遺伝子の一部のポリヌクレオチドを含む。好適な一実施例において、cg2624遺伝子の一部の配列を含むポリヌクレオチドは、配列番号1のポリヌクレオチドであり、cg2115および/または配列番号2のポリヌクレオチドである。ところが、cg2624および/またはcg2115遺伝子をノックアウトさせるためのこれら遺伝子の一部配列がこれらに限定されないことは当業者には自明であり、相同組み換えによって形質転換された菌株のゲノム内のcg2624および/またはcg2115遺伝子をノックアウトさせることが可能なものであれば、任意のこれら遺伝子の一部配列を含むポリヌクレオチドは全て含まれ得る。
【0020】
また、これら遺伝子の一部配列だけでなく全体配列を含んでも、これらの一部のヌクレオチド配列が置換されることにより、正常的なcg2624および/またはcg2115遺伝子のタンパク質が生成できないようにノックアウトされたcg2624および/またはcg2115の遺伝子配列を含むこともできる。このようなノックアウト遺伝子の製造は、当該分野の技術者における公知の方法で製造できる。
【0021】
本発明の実施例では、配列番号1のポリヌクレオチドを含むcg2624遺伝子をノックアウトさせるためのベクターを製作し、これをpCJ200ベクターと命名した。また、本発明の実施例では、配列番号2と配列番号3のポリヌクレオチドを含むcg2115遺伝子のノックアウトベクターを提供する。ここで、配列番号3のポリヌクレオチドはcmrをコードする遺伝子の塩基配列である。前記配列番号2および配列番号3のポリヌクレオチドを含むノックアウトベクターをpCJ201と命名した。
【0022】
前述したように、cg2624および/またはcg2115遺伝子の一部のポリヌクレオチドを含むベクターをコリネバクテリウムに形質転換すると、前記ベクターに含まれたポリヌクレオチドが相同組み換えによって菌株の染色体に挿入され、菌株のcg2624および/またはcg2115遺伝子をノックアウト(Knock−out)させる。この際、前記ベクターは、大腸菌(E.coli)内でのみ作用するpUCオリジン(Origin)を持つので、コリネバクテリウム内では複製できず、菌株の染色体に挿入される場合にのみ複製可能である。したがって、本発明のベクターは、ベクターそれ自体またはそれに含まれている外来遺伝子をコリネバクテリウム属微生物の染色体に安定的に挿入することに使用できる。
【0023】
したがって、pCJ200ベクターを菌株に挿入すると、菌株内にあるcg2624遺伝子のノックアウトが発生し、pCJ201ベクターを菌株に挿入すると、菌株内のcg2624およびcg2115遺伝子の作用が起こらない遺伝子ノックアウトが発生する。したがって、形質転換されたこれらの変異株は、前記遺伝子のmRNAを全く発現することができなくなる。このような方法によって、cg2624が破壊された菌株IBT02とcg2115およびcg2624が破壊された菌株IBT03を得た。これらの菌株をそれぞれ韓国微生物保存センターに寄託した。これらの変異株は、親株に比べてODが減少し、グルタミン酸生産量がそれぞれ約20%約37%増加した(実施例参照)。
【0024】
別の様態において、本発明は、これらの変異株を培養してL−グルタミン酸を生産する方法を提供する。具体的に、本発明に係るL−グルタミン酸生産方法は、親株としてのコリネバクテリウムKFCC−11074のcg2624遺伝子および/またはcg2115遺伝子をノックアウトさせ、前記遺伝子のノックアウトされた菌株を培養する段階を含む。好適な一様態において、cg2624および/またはcg2115遺伝子のノックアウトは、前述したように、これら遺伝子の一部のみを含むベクターをKFCC−11074菌株に導入して相同組み換えによってKFCC−11074菌株のゲノムに前記cg2624遺伝子の一部および/またはcg2115遺伝子の一部のみを挿入することにより、これらの遺伝子が発現しないようにしてなされ得る。こうして製造された変異株を適切な培地で培養してL−グルタミン酸を製造することができる。
【0025】
本発明の具体的実施例では、cg2624遺伝子の一部を含むベクター(pCJ200)をコリネバクテリウムに形質転換して、cg2624遺伝子の破壊された菌株IBT02を得た。また、cmr遺伝子とcg2115遺伝子の一部を含むベクター(pCJ201)を前記IBT02菌株に形質転換して、cg2624遺伝子およびcg2115遺伝子が全て破壊された菌株としてのIBT03を得た。こうして得られたKFCC−11704の変異株、KFCC−000(IBT02)およびKFCC−000(IBT03)は、親株としてのKFCC−11704に比べてグルタミン酸生産能が増加することを確認した(表1)。
【0026】
〔有利な効果〕
本発明によれば、cg2624とcg2115遺伝子を破壊したとき、親株に比べてグルタミン酸生産量がさらに増加した。したがって、このような遺伝子操作は、コリネバクテリウム属微生物の菌体量を調節しながら代謝産物の量を増加させることに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】コリネバクテリウムにおいてcg2624遺伝子を破壊するために製造したpCJ200ベクターの切断地図である。
【図2】コリネバクテリウムにおいてcg2115遺伝子を破壊するために製造したpCJ201ベクターの切断地図である。
【図3】pCJ200ベクターのコリネバクテリウム染色体挿入有無をPCR反応によって確認した電気泳動写真である。
【図4】pCJ201ベクターのコリネバクテリウム染色体挿入有無をPCR反応によって確認した電気泳動写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の内容を実施例によってより詳細に説明する。これらの実施例は本発明の内容を理解するために例示的に説明するためのもので、本発明の権利範囲を限定するものではない。
【0029】
〔実施例1:cg2624とcg2115変異遺伝子の選別〕
親株としてのコリネバクテリウムグルタミカム(Corynebacterium glutamicum)KFCC−11074にグリセロール利用性を与えるために、NTGを用いた変異処理を施した後、グリセロール最小培地(グリセロール10g/L、硫酸アンモニウム5g/L、尿素2g/L、リン酸二水素カリウム(potassium phosphate monobasic)1g/L、リン酸水素ニカリウム(potassium phosphate dibasic)2g/L、硫酸マグネシウム0.4g/L、塩化ナトリウム0.5g/L、ビオチン200μg/L、チアミン3mg/L、銅1mg/L、NCA5mg/L、微量元素1mL/L)(微量元素塩化カルシウム10mg/L、硫酸銅270mg/L、塩化鉄1g/L、塩化マンガン10mg/L、モリブデン酸アンモニウム40mg/L、硼砂90mg/L、硫酸亜鉛10mg/L)に塗抹して成長の速い菌株を選別した。こうして選別された菌株をIBT01と命名した。IBT01菌株を親株と共にDNAアレイ実験に提供した結果、IBT01菌株のcg2624とcg2115の両遺伝子の発現量が親株に比べて約2倍程度低くなったことを確認した。
【0030】
〔実施例2:cg2624遺伝子のクローニング〕
本実施例では、米国国立生物情報センター(NCBI)(www.ncbi.nlm.nih.gov)からヌクレオチド検索によってコリネバクテリウムグルタミカムのcg2624遺伝子配列を確認し、それから配列番号6および7のヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーを製作した。
【0031】
次いで、コリネバクテリウムグルタミカム菌株からゲノムDNAを抽出し、これを鋳型として配列番号6および7のヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRを行い、cg2624遺伝子の一部のヌクレオチド配列(配列番号1)を増幅した。
【0032】
増幅された前記cg2624遺伝子の一部のヌクレオチド配列をTOPO TA Cloningキット(Invitrogen社、米国)を用いてpCR2.1−TOPOベクター(前記TOPO TA Cloningキットに含まれているベクターである)にクローニングし、pCR2.1−TOPO−cg2624(pCJ200)を製造した。
【0033】
〔実施例3:cg2115遺伝子のクローニング〕
本実施例では、米国国立生物情報センター(NCBI)(www.ncbi.nlm.nih.gov)からヌクレオチド検索によってコリネバクテリウムグルタミカムのcg2115遺伝子配列を確認し、それから配列番号8および9のヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーを製作した。次いで、コリネバクテリウムグルタミカム菌株からゲノムDNAを抽出し、これを鋳型として配列番号8および9のヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRを行い、cg2115遺伝子の一部のヌクレオチド配列(配列番号2)を増幅した。
【0034】
増幅された前記cg2115遺伝子の一部の配列をTOPO TA Cloningキット(Invitrogen社、米国)を用いてpCR2.1−TOPOにクローニングし、pCR2.1−TOPO−cg2115を製造した。
【0035】
次いで、米国国立生物情報センター(NCBI)(www.ncbi.nlm.nih.gov)からヌクレオチド検索によってクロラムフェニコール耐性タンパク質をコードする遺伝子配列を確認し、それから配列番号10および11のヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーを製作した。その後、pACYC−duetベクターを鋳型とし、配列番号10および11のヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRを行ってクロラムフェニコール耐性遺伝子(cmr)を増幅した。
【0036】
増幅されたクロラムフェニコール耐性遺伝子(cmr)をpGEM−Tベクターキット(Promega社)を用いてpGEM−T−cmrを製造した。pCR2.1−TOPO−cg2115をNsiIとSacIで処理してcg2115遺伝子を分離精製し、これを、pGEM−T−cmrをNsiIとSacIで処理して分離精製したものとライゲーションさせてpGEM−T−cmr−cg2115(pCJ201)を製造した。
【0037】
〔実施例4:pCR2.1−Topo−cg2624によるコリネバクテリウムの形質転換〕
コリネバクテリウムグルタミカム菌株(KFCC−11074)を#2培地(ポリペプトン10g/L、酵素エキス5g/L、硫酸アンモニウム5g/L、 尿素1.5g/L、リン酸二水素カリウム(potassium phosphate monobasic)4g/L、リン酸水素ニカリウム(potassium phosphate dibasic)8g/L、硫酸マグネシウム0.5g/L、ビオチン100μg/L、チアミン1mg/L、銅2mg/L、NCA2mg/L、ブドウ糖20g/L)に接種して30℃で12時間培養した後、#2EPO培地(#2+イソニアジド4g/L、グリシン25g/L、ツイン80の1g/L)にOD=0.3となるように接種した後、30℃でOD=1.0となるまで培養する。その後、氷で10分間静置した後、1500g、5分の条件で遠心分離して冷たい10%グリセロールバッファ50mLで4回洗浄した。その後、0.5mLの10%グリセロールバッファに再懸濁した後、100μLずつ1.5mLの微小遠心管(micro centrifuge tube)に分注した。
【0038】
こうして作られたコンピテント細胞に、実施例1で製作されたpCJ200ベクターを添加した後、氷に保管している2mmの電気穿孔キュベットに入れ、1.5kV、25uF、600Ωで電気穿孔した後、直ちにBHIS培地(ブレインハートインフュージョン37g/L、ソルビトール91g/L)1mLを添加した。その後、46℃で6分間静置した後、氷で冷やし、しかる後に、カナマイシン25μg/mLの含まれたアクティブBHIS培地(肉汁10g/L、ポリペプトン10g/L、酵母エキス5g/L、塩化ナトリウム5g/L、ブレインハートインフュージョン18.5g/L、ソルビトール91g/L、寒天20g/L)に塗抹してコロニーを獲得した。
【0039】
〔実施例5:pCJ200ベクターのコリネバクテリウム染色体挿入有無の確認〕
本実施例では、実施例4で得た、形質転換されたコリネバクテリウム菌株からゲノムDNAを抽出した。前記ゲノムDNAを鋳型として、配列番号6および配列番号7(M13FおよびM13R)のヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRを行い、pCJ200ベクターが染色体に挿入されているか否かを最終確認した。すなわち、各PCR産物を電気泳動し、それからpCJ200ベクターに該当するバンドがあるか否かを確認することにより、前記ベクターが染色体に挿入されているかを確認した。
【0040】
図3はpCJ200ベクターで形質転換されたコリネバクテリウム菌株のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号6および配列番号7(M13FおよびM13R)のヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとしてPCRした結果を示す電気泳動写真である。図3に示すように、レーン1〜5の菌株全てがpCJ200ベクターを染色体への挿入状態で保有していることが分かる。したがって、相同組み換えによってcg2624遺伝子が破壊されたこれらの菌株をIBT02と命名し、これを韓国微生物保存センターに寄託した。
【0041】
〔実施例6:pCJ201ベクターのコリネバクテリウム形質転換〕
本実施例では、実施例5で得たIBT02菌株にpCJ201ベクターを形質転換した。形質転換方法は実施例4と同様に行った。形質転換させた後、クロラムフェニコール(chloramphenicol)7μg/mLの含まれたアクティブBHIS培地でコロニーを獲得した。
【0042】
〔実施例7:pCJ201ベクターのコリネバクテリウム染色体挿入有無の確認〕
本実施例では、実施例6で得た、形質転換されたコリネバクテリウム菌株からゲノムDNAを抽出した。前記ゲノムDNAを鋳型として、配列番号8、配列番号12および配列番号13のヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRを行い、前記ベクターが染色体に挿入されているか否かを最終確認した。本実施例で使用した配列番号12と配列番号13は、pGEM−Tベクターの一部分を有するオリゴヌクレオチドである。
【0043】
図4はpCJ201ベクターで形質転換されたコリネバクテリウム菌株のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号8、配列番号12および配列番号13のヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとしてPCRした結果を示す電気泳動写真である。図4に示すように、レーン1〜3の菌株全てがpCJ201ベクターを染色体への挿入状態で保有していることが分かる。したがって、cg2624遺伝子およびcg2115遺伝子が破壊された菌株をIBT03と命名し、これを韓国微生物保存センターに寄託した。
【0044】
〔実施例8:グルタミン酸力価実験〕
本実施例では、実施例1、実施例5および実施例6から得たIBT01、IBT02およびIBT03菌株を親株菌株としてのコリネバクテリウムグルタミカムKFCC−11074菌株と共にグルタミン酸力価実験に提供した。力価実験は、フラスコで行い、菌株をアクティブプレート(肉汁10g/L、酵母エキス5g/L、ポリペプトン10g/L、塩化ナトリウム5g/L、寒天20g/L)に接種して30℃で12時間培養した後、フラスコ力価培地(ブドウ糖3%、糖蜜1%、硫酸マグネシウム0.04%、リン酸第2カリウム0.1%、硫酸アンモニウム0.3%、硫酸鉄0.001%、硫酸マンガン0.001%、ビオチン500μg/L、チアミン塩酸塩2mg/L、尿素0.1%、pH7.1)40mL(250mLのフラスコ)に1ループ(loop)接種して30℃で40時間培養した後、グルタミン酸の量を測定した。表1に示すように、IBT01菌株の場合、親株に比べてODが減少し、グルタミン酸の量が若干増加することを確認した。IBT02とIBT03菌株の場合は親株に比べてODが減少し、グルタミン酸の生産がそれぞれ約20%および37%増加する様相を示した。上記結果より、変異株IBT02およびIBT03が親株よりさらに高い収率でL−グルタミン酸を生成するという事実が分かる。
【0045】
【表1】

【受託番号】
【0046】
KCCM10784P
KCCM10785P

【特許請求の範囲】
【請求項1】
L−グルタミン酸を高収率で生産する、コリネバクテリウムグルタミカム(Corynebacterium glutamicum)KFCC−11074のcg2624遺伝子をノックアウトさせた変異株。
【請求項2】
L−グルタミン酸を高収率で生産する、コリネバクテリウムグルタミカム(Corynebacterium glutamicum)KFCC−11074のcg2624とcg2115遺伝子をノックアウトさせた変異株。
【請求項3】
受託番号KCCM−10784Pのコリネバクテリウムグルタミカムである、請求項1に記載の変異株。
【請求項4】
受託番号KCCM−10785Pのコリネバクテリウムグルタミカムである、請求項2に記載の変異株。
【請求項5】
クロラムフェニコール耐性を有する、請求項2に記載の変異株。
【請求項6】
コリネバクテリウムグルタミカムKFCC−11074のcg2624および/またはcg2115遺伝子をノックアウトさせることを含む、向上したグリセロール利用性を有し且つL−グルタミン酸を高収率で生産する変異株の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項の変異株を培養してL−グルタミン酸を高収率で生産する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−506585(P2010−506585A)
【公表日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−533237(P2009−533237)
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際出願番号】PCT/KR2007/004970
【国際公開番号】WO2008/048017
【国際公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(508064724)シージェイ チェイルジェダン コーポレイション (32)
【Fターム(参考)】