説明

高呈味低アルコール飲料及びその製造方法

【課題】低カロリー化を目的として、アセスルファムカリウムのような高甘味度甘味料を用いた低アルコール飲料において、その良好な呈味を整え、かつ、該呈味を長期保管に対して保持するために、アセスルファムカリウムのような高甘味度甘味料の安定性と酸味付与とを両立させ、長期安定した呈味の高呈味低アルコール飲料を提供する。
【解決手段】高甘味度甘味料アセスルファムカリウムを含有する低アルコール飲料の製造において、アルコール飲料のpHを3.0以上に維持しつつ、クエン酸及びリンゴ酸を、該酸の合計量が飲料全量に対して、0.3w/v%以下の割合になるよう調整することによりアセスルファムカリウムの安定性と酸味の付与を両立させた高呈味低アルコール飲料を製造する。本発明において、クエン酸及びリンゴ酸の量は、クエン酸の添加量が、飲料全量に対して、0.15w/v%以下であり、リンゴ酸の量が、飲料全量に対して、0.15w/v%以下である範囲が選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高甘味度甘味料アセスルファムカリウムを用いた低カロリーの低アルコール飲料において、アルコール飲料のpHを3.0以上に維持することにより、高甘味度甘味料アセスルファムカリウムの安定性を保持して、呈味のバランスを保持し、長期保管を可能とすると共に、該pHの維持により不足する酸味をクエン酸及びリンゴ酸の併用により付与して、アセスルファムカリウムの安定性と酸味の付与とを両立させた高呈味低アルコール飲料、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康志向の高まりによって、カロリーの過剰摂取に注意が喚起され、その対応として、カロリーオフを目指した健康機能の飲食品の提供が行われている。そのような場合に用いられる甘味料として、アセスルファムカリウム、エリスリトール、スクラロース等のノンカロリー高甘味度甘味料が知られている。アセスルファムカリウムは、カロリーが0(エネルギー係数Kcal/g)であり、砂糖の約200倍の甘味を呈する甘味料である。化学名はカリウム6−メチル−1,2,3−オキサチアゾリン−4(3H)−オン−2,2−ジオキシド(Potassium 6-methyl-1,2,3-oxathiazin-4(3H)-one-2,2-dioxide)であり、その合成法が知られている(特公昭59−7711号公報)。
【0003】
高甘味度甘味料アセスルファムカリウムは、高甘味度甘味料類の中でも安定性に優れており、飲料・食品に多用されている。特に、アセスルファムカリウムは先甘味タイプの高甘味度甘味料であるため、すっきりタイプ飲料とも相性がよく、健康・機能系の低アルコール飲料にもよく使用されている。アセスルファムカリウムの安定性について、食品衛生調査会関係資料「厚生労働省行政情報」食品添加物の指定に関する食品衛生調査会、(HP URL:http://www.ffcr.or.jp/__492565a9002172b7.nsf/0/7768026d2059d2334925686900194dab?OpenDocument&Highlight=2,_g225c644mk489ffo_)には、「0.05%アセスファカムカリウム水溶液は、20℃、pH2.6という条件下においては、12ヶ月後に、89.7%が残存している。」と記載されている。
【0004】
近年、酒類においては、消費者のニーズの多様化に伴い、様々な原料、様々な風味、及び様々なアルコール度数の酒類が開発され、市場に提供されている。そして、健康に対する危険因子となる肥満の増加、及び、生活習慣病を患う人々が増え、低カロリーの飲食物に対する関心は益々高揚してきている中で、酒類に対しても低カロリーの酒類へ指向が増大している。酒類の場合、酒類のカロリーは主としてアルコールと糖質とに由来し、そのうち、アルコール由来のカロリーは、糖質由来のカロリーより体重増加作用が低いと言われている。したがって、かかる糖質に由来するカロリーを低減するために、例えば、アセスルファムカリウムのような高甘味度甘味料を用いた酒類の製造方法が開示されている(特開2003−47453号公報、特開2007−117063号公報、WO2002/067702)。
【0005】
ところで、アセスルファムカリウムのような高甘味度甘味料は、水溶液中において、pH3.0を下回ると安定性が低下することが知られている(Altenative Sweetener 3rd ethition, P20-21, 2001)。
一般に清涼飲料、アルコール飲料などの製造に際しては、pHの調整が行われるが、該飲料のpH調整の目的は、香味設計上、酸味を付与したり、pHを低く(pH4.0以下)することで微生物耐性を確保したりするためであることが多い。そこで、上記の通り、アスパルテームや、アセスルファムカリウムのような高甘味度甘味料は、低pHで安定性が悪いことが知られている。例えば、低pHで安定性が悪いといわれているアスパルテームは、酸性溶液中で加水分解して甘味が著しく低下する。更に、本発明者の検証したところによれば、一般に安定性が良いといわれている高甘味度甘味料アセスルファムカリウムでも、pH3.0未満のアルコール飲料では安定性が低下し、目的とした甘味を維持できないことが確認された。
【0006】
一方で、アルコール飲料においては、ノンアルコール飲料よりも酸味を感じにくく、高甘味度甘味料を使用した低アルコール飲料においても同様の現象が見られることが本発明者の検証により判明した。例えば、同量の酸味料を添加したアルコール0%の飲料と比較して、アルコール存在下では酸味を感じにくく、同程度の酸味を実現しようとすると、酸味料の添加量が多くなりpH3.0未満になる。しかしながら、上記の通り、一般に高甘味度甘味料は低pHで安定性が悪く、低pHに調整された飲料においては、安定した甘味を維持することができない。したがって、高甘味度甘味料を使用した低アルコール飲料においては、酸味付与のために、pHを下げると高甘味度甘味料の安定性が悪くなり、特に、容器詰め低アルコール飲料等においては、呈味のアンバランスや変質を起こし、長期間の保存に対して良好な呈味を保持できないという問題を生じることがわかった。
【0007】
したがって、低カロリー化を目的として、アセスルファムカリウムのような高甘味度甘味料を用いた低アルコール飲料においては、その良好な呈味を整え、かつ、該呈味を長期保存に対して保持するためには、アセスルファムカリウムのような高甘味度甘味料の安定性と酸味付与とを両立させる方法の開発が必要とされているところである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭59−7711号公報。
【特許文献2】特開2003−47453号公報。
【特許文献3】特開2007−117063号公報。
【特許文献4】WO2002/067702。
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】食品衛生調査会関係資料「厚生労働省行政情報」食品添加物の指定に関する食品衛生調査会(HP URL:http://www.ffcr.or.jp/__492565a9002172b7.nsf/0/7768026d2059d2334925686900194dab?OpenDocument&Highlight=2,_g225c644mk489ffo_)。
【非特許文献2】Altenative Sweetener 3rdethition, P20-21, 2001。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、低カロリー化を目的として、アセスルファムカリウムのような高甘味度甘味料を用いた低アルコール飲料において、その良好な呈味を整え、かつ、該呈味を長期保管に対して保持するために、アセスルファムカリウムのような高甘味度甘味料の安定性と酸味付与とを両立させ、長期安定した呈味の高呈味低アルコール飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく、高甘味度甘味料アセスルファムカリウムを用いた低アルコール飲料において、低アルコール飲料中におけるアセスルファムカリウムの安定性と酸味の付与とを両立させた高呈味低アルコール飲料の製造方法について鋭意検討する中で、アセスルファムカリウムを含有する低アルコール飲料の製造において、アルコール飲料のpHを3.0以上に維持しつつ、クエン酸及びリンゴ酸という特定の有機酸を、飲料全量に対して特定の合計量及び割合で調整することにより、アセスルファムカリウムの安定性と酸味の効果的な付与を両立させた高呈味低アルコール飲料を製造することが可能であることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、高甘味度甘味料アセスルファムカリウムを含有する低アルコール飲料の製造において、アルコール飲料のpHを3.0以上に維持しつつ、クエン酸及びリンゴ酸を、該酸の合計量が飲料全量に対して、0.3w/v%以下の割合になるよう調整することによりアセスルファムカリウムの安定性と酸味の付与を両立させた高呈味低アルコール飲料の製造方法からなる。
【0013】
本発明者は、高甘味度甘味料アセスルファムカリウムの安定性が確保されるpH3.0以上という条件を採用し、該pH条件下では、アルコーのル存在下で、酸味を感じにくいという問題を解決するために、該pH条件下で酸味を付与する方法について、鋭意検討を重ねた結果、高甘味度甘味料アセスルファムカリウムを使用した低アルコール飲料の製造において、クエン酸及びリンゴ酸を組合せ、該酸の合計量が飲料全量に対して、0.3w/v%以下の割合になるよう調整することにより、アルコール飲料のpHを3.0以上に維持した状態でも、有効に飲料に酸味を付与することができることを見い出した。該pH条件下、該高甘味度甘味料による甘味の付与、及び、該クエン酸及びリンゴ酸の組合せによる酸味の付与により、安定した甘味の維持とアルコール存在下での酸味の感じにくさの改善とを図ることができ、該製造方法により、低カロリーの健康機能系、低アルコール飲料にふさわしいすっきりとした酸味による高呈味の、かつ長期保管に対しても安定した呈味の高呈味低アルコール飲料を提供することが可能となった。
【0014】
本発明においては、低アルコール飲料は、高甘味度甘味料アセスルファムカリウムの安定化のために、pHは3.0以上に維持されるが、該pHの維持を、飲料全量に対して、0.06w/v%以下のクエン酸三ナトリウムを添加することによって行うことができる。また、本発明において、クエン酸及びリンゴ酸の量は、クエン酸の量が、飲料全量に対して、0.15w/v%以下であり、リンゴ酸の量が、飲料全量に対して、0.15w/v%以下であることが好ましい。本発明において、低アルコール飲料中のアセスルファムカリウムの含有量は、0.01〜100ppmの範囲であることが好ましい。
【0015】
本発明の高呈味低アルコール飲料におけるアルコール濃度(度数)は、高甘味度甘味料アセスルファムカリウムの安定性にアルコール濃度の影響は無いため、アルコール度数の制限はないが、通常、低アルコール飲料として提供されているアルコール濃度4〜8v/v%を、好ましいアルコール濃度として挙げることができる。本発明は、本発明の低アルコール飲料の製造方法によって製造されたアセスルファムカリウムの安定性と酸味の付与を両立させた、長期保管に対しても呈味の安定性を保持した高呈味低アルコール飲料を包含する。
【0016】
すなわち、具体的には本発明は、(1)高甘味度甘味料アセスルファムカリウムを含有する低アルコール飲料の製造において、アルコール飲料のpHを3.0以上に維持しつつ、クエン酸及びリンゴ酸を、該酸の合計量が飲料全量に対して、0.3w/v%以下の割合になるよう調整することによりアセスルファムカリウムの安定性と酸味の付与を両立させた高呈味低アルコール飲料の製造方法や、(2)アルコール飲料のpH3.0以上の維持を、飲料全量に対して、0.06w/v%以下のクエン酸三ナトリウムを添加することによって行うことを特徴とする上記(1)記載の高呈味低アルコール飲料の製造方法や、(3)クエン酸の量が、飲料全量に対して、0.15w/v%以下であり、リンゴ酸の量が、飲料全量に対して、0.15w/v%以下であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の高呈味低アルコール飲料の製造方法からなる。
【0017】
また、本発明は、(4)アセスルファムカリウムの含有量が、0.01〜100ppmの範囲であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか記載の高呈味低アルコール飲料の製造方法や、(5)アルコール濃度が4〜8v/v%であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか記載の高呈味低アルコール飲料の製造方法や、(6)上記(1)〜(5)のいずれか記載の低アルコール飲料の製造方法によって製造されたことを特徴とするアセスルファムカリウムの安定性と酸味の付与を両立させた高呈味低アルコール飲料や、(7)高甘味度甘味料アセスルファムカリウムを含有する低アルコール飲料において、アルコール飲料のpHを3.0以上に維持し、クエン酸及びリンゴ酸を、該酸の合計量が飲料全量に対して、0.3w/v%以下の割合になるように調整されたアセスルファムカリウムの安定性と酸味の付与を両立させた高呈味低アルコール飲料からなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、高甘味度甘味料アセスルファムカリウムを用いた低カロリー化健康機能の低アルコール飲料において、アセスルファムカリウムの安定性を保持し、かつ、該アセスルファムカリウムの安定性を保持した条件で、有効な酸味付与とを両立させ、良好な呈味の付与と該呈味を長期保管に対して安定化した高呈味低アルコール飲料を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例におけるレモン系フレーバーの試験液におけるアセスファムカリウムの熱虐待後残存率のpH依存性評価試験において、50℃保管日数に対する残存率(%)の関係について示す図である。
【図2】本発明の実施例における低アルコール飲料における酸味度の評価試験において、クエン酸濃度(w/v%)に対する酸味度の関係について示す図である。
【図3】本発明の実施例におけるアルコール存在下でクエン酸−リンゴ酸組合せによる酸味度への影響評価の試験において、アルコール濃度4%における合計酸味料(w/v%)に対する酸味度の関係を示す図である。
【図4】本発明の実施例におけるアルコール存在下でクエン酸−リンゴ酸組合せによる酸味度への影響評価の試験において、アルコール濃度8%における合計酸味料(w/v%)に対する酸味度の関係を示す図である。
【図5】本発明の実施例におけるアルコール濃度4,6,8%でのクエン酸−リンゴ酸比の決定における官能評価結果についての試験において、リンゴ酸濃度(w/v%)に対する酸味度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、高甘味度甘味料アセスルファムカリウムを含有する低アルコール飲料の製造において、アルコール飲料のpHを3.0以上に維持しつつ、クエン酸及びリンゴ酸を、該酸の合計量が飲料全量に対して、0.3w/v%以下の割合になるよう調整することによりアセスルファムカリウムの安定性と酸味の付与を両立させた高呈味低アルコール飲料の製造方法からなる。
【0021】
本発明の高呈味低アルコール飲料の製造に用いられる高甘味度甘味料アセスルファムカリウムは、カリウム6−メチル−1,2,3−オキサチアゾリン−4(3H)−オン−2,2−ジオキシド(Potassium 6-methyl-1,2,3-oxathiazin-4(3H)-one-2,2-dioxide)の構造のもので、砂糖の約200倍の甘味を呈する低カロリーの甘味料として知られているもので、その合成法が知られており(特公昭59−7711号公報)、市販品として容易に入手できるものである。
【0022】
本発明の高甘味度甘味料アセスルファムカリウムを含有する低アルコール飲料としては、高甘味度甘味料アセスルファムカリウムを含有し、かつ、アルコールを含有する飲料として特に限定されず、果汁を含有するもの、麦汁を含有するもの、発酵性のもの、発泡性のもの等、各種のものを挙げることができる。低アルコール飲料のアルコール濃度も特に限定されないが、低アルコール飲料として通常採用されている4〜8v/v%のものが、好ましいアルコール濃度として挙げることができる。また、本発明の低アルコール飲料において、アセスルファムカリウムの含有量は、特に限定されないが、通常、高甘味度甘味料アセスルファムカリウムを含有する低アルコール飲料において採用される0.01〜100ppmの範囲を挙げることができる。
【0023】
本発明の高甘味度甘味料アセスルファムカリウムを含有する低アルコール飲料の製造方法は、アルコール飲料のpHを3.0以上に維持し、クエン酸及びリンゴ酸を所定割合に調整する点を除いて、通常、アセスルファムカリウムのような高甘味度甘味料を用いた低アルコール飲料の製造方法と特に変わるところはない。すなわち、所定の方法によって、高甘味度甘味料をアセスルファムカリウムを含有する低アルコール飲料を調合する。これは、例えば、柑橘系果汁や柑橘系のフレーバー等を添加することができる。本発明においては、たとえば通常の低アルコール飲料の製造において行われる工程、例えば、脱気水などによる最終濃度の調節、殺菌(パストリゼーション)、容器(例えば樽、壜、缶)への充填(パッケージング)、容器のラベリングなどを行うことができる。
【0024】
本発明の高呈味低アルコール飲料の製造方法においては、高甘味度甘味料アセスルファムカリウムの安定性を保持するために、アルコール飲料のpHを3.0以上に維持する。かかるアルコール飲料のpHの維持に際して、飲料全量に対して、0.06w/v%以下のクエン酸三ナトリウムを添加することによって、pHの調整を行うことができる。また、本発明の高呈味低アルコール飲料の製造方法においては、アセスルファムカリウムの安定性を保持するために、アルコール飲料のpHを3.0以上に維持した条件で、アルコール飲料に酸味を付与するために、クエン酸及びリンゴ酸を、0.3w/v%以下の割合になるよう調整するが、かかるクエン酸及びリンゴ酸の割合は、クエン酸の量が、飲料全量に対して、0.15w/v%以下であり、リンゴ酸の量が、飲料全量に対して、0.15w/v%以下である。
【0025】
以下、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによってなんら限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
[低アルコール飲料中のアセスルファムカリウム安定性−pH依存度評価]
レモン系低アルコール飲料をモデルに、アルコール、レモン果汁、レモン香料、高甘味度甘味料(アセスルファムカリウム)、酸味料(クエン酸、クエン酸三ナトリウム、リンゴ酸)を含み、更に、酸味料の添加量を変化させた試験液を調合し、熱虐待試験を実施した(熱虐待条件:50℃保管0〜21日間)。
【0027】
結果を表1(レモン系フレーバーの試験液におけるアセスルファムカリウムの熱虐待後残存率のpH依存性評価)、及び図1(アセスルファムカリウム残存率)に示す。50℃21日保管後、pHが低いサンプルほどアセスルファムカリウムの残存率が低く、pH2.7のサンプルでは残存率が約80%にまで低下していた。更に、pH3.0未満のサンプルでは減少率の傾きが大きく、減少速度も速いが、pH3.0以上であれば、アセスルファムカリウムの減少率も同等であり、熱虐待後の残存率が高いことを見い出した。すなわち、アセスルファムカリウムを使用したアルコール飲料において、安定した甘味を維持するためには、製品液をpH3.0以上にコントロールする必要があることを明らかにした。
【0028】
【表1】

【実施例2】
【0029】
[酸味度の定義及び低アルコール飲料における酸味度の評価]
実施例1により、アセスルファムカリウムを使用した低アルコール飲料において、安定した甘味を維持するためには、製品液をpH3.0以上にコントロールする必要があることが明らかになった。そこで、低アルコール飲料において、酸味料の添加濃度によってpHがどのように変化するか調査した。更に、アルコールの有無で酸味の感じ方がどのように変化するか官能試験により評価した。ここで、酸味度はアルコール濃度0%でクエン酸添加量を段階的に変えたものによって定義し(表2:酸味度の定義)、低アルコール飲料とノンアルコール飲料(清涼飲料)との差をみるため、アルコール濃度0%の飲料と同量のクエン酸を添加したサンプルを濃度別に用意し、アルコール4%、8%存在下で酸味がどのように変化するのかそれぞれ官能評価により検証した。
【0030】
結果を表3(アルコール飲料中の酸味度評価)及び図2(酸味評価比較:アルコール依存度)に示す。その結果、アルコール存在下では、酸味を感じにくく、アルコール濃度依存的に酸味を感じにくくなっていることが明らかとなった。例えば、アルコール濃度0%の酸味定義3(クエン酸0.15[w/v%]添加)と同量のクエン酸を添加したアルコール4%含有飲料の官能評価より、酸味度が1.58となっており、アルコール非存在下のクエン酸濃度として0.07[w/v%]の添加量(クエン酸濃度として約半量)に相当する酸味度しか有していなかった。
【0031】
清涼飲料や低アルコール飲料ではpHの調整にクエン酸がよく使用されるが、アルコール飲料では清涼飲料よりも酸味を感じにくいことから、クエン酸等を多く添加しなければならなく、pHが低くなる傾向があると考えられる。更に、健康・機能系低アルコール飲料では、酸味がしっかりと感じられ、すっきりとした香味を有するものが多く、香味設計上もpHが低くなることが多い。一般に、pHが下がると酸味が強くなることは良く知られているが、高甘味度甘味料の甘味を維持できる範囲、すなわちpH3.0以上ですっきりとした香味を実現することは非常に難易度が高かった。だが、高甘味度甘味料を使用したアルコール飲料であってもクエン酸とリンゴ酸を組み合わせて使用することで、アルコール存在下の酸味の感じにくさを大幅に改善し、かつ安定した甘味を維持できるアルコール飲料を製造できることを見出した。
【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【実施例3】
【0034】
[クエン酸との相性のよい酸味料の選抜及びクエン酸に対する添加バランスの決定]
清涼飲料をはじめ、低アルコール飲料では酸味料としては一般にクエン酸を使用することが多い。そこで、実施例2で生じた課題解決(高甘味度甘味料の甘味を維持できる範囲、すなわちpH3.0以上ですっきりとした酸味を実現する)のために、クエン酸を軸に低アルコール飲料の香味設計を行う場合、添加クエン酸量に応じた酸味及びpH3.0以上を実現するための検討を実施した。その結果、クエン酸とクエン酸以外の酸味料と併用することで、課題を解決できることを見出した。すなわち、クエン酸と他の酸味料を併用することで、pH3.0以上を保ちながら、アルコール存在下の酸味の感じにくさを大幅に改善することができた。
【0035】
第一に、クエン酸をベースとしたすっきりとした柑橘系飲料にふさわしい酸味を実現することを目標に、クエン酸と相性の良い酸味料をリンゴ酸、酒石酸、乳酸、リン酸のなかから選抜し、官能評価により決定した。その結果、組み合わせの酸味料としてリンゴ酸が最も評価が高く、今後の検討にはリンゴ酸を使用することとした(表4:クエン酸と相性の良い酸味料の選抜;表5:クエン酸と相性の良い酸味料の選抜(官能評価結果))。
【0036】
ここで、試験液にクエン酸三ナトリウムを添加しているが、クエン酸三ナトリウムは添加量が少量の場合はpH調整、添加量が多い場合はボディ感の付与と、添加量によって製品液の性質に与える影響が異なっている。クエン酸0.30[w/v%]以下のとき、クエン酸三ナトリウムが0.06[w/v%]以下であれば、味質に影響を及ぼさない。
【0037】
続いて、pH3.0以上を保ちながらすっきりとした酸味を実現するため、クエン酸とリンゴ酸の量比を決定した。アルコール濃度が4〜8[w/v%]の低アルコール飲料において、合計酸味料量(クエン酸及びリンゴ酸の重量%の合算値を用いる)が0.3[w/v%]以下のとき、クエン酸三ナトリウム0.06[w/v%]以下、クエン酸、リンゴ酸 を各々 0.15[w/v%]以下となるように添加することでクエン酸のみを含むアルコール溶液より酸味度が強くなることを明らかにした(図3:アルコール存在下でクエン酸−リンゴ酸組合せによる酸味度への影響評価:酸味度比較(アルコール4%)図4:アルコール存在下でクエン酸−リンゴ酸組合せによる酸味度への影響評価:酸味度比較(アルコール8%))。
【0038】
更に、詳細には、クエン酸0.15[w/v%]のとき、リンゴ酸を0.03〜0.15[w/v%]、より好ましくは、リンゴ酸を0.07〜0.15[w/v%]の範囲で添加すると、アルコール非存在下のサンプルと同等以上の酸味(酸味度3.0以上)を実現することができた(図5)。最も酸味が強かったのが、クエン酸:リンゴ酸=1:1のとき、すなわちそれぞれが0.15[w/v%]で配合されているときであった。また、この条件であれば、pH3.0以上を維持しており、アセスルファムカリウムの安定性も確保される。リンゴ酸の添加量が0.2[w/v%]以上になると、pH3.0未満になってしまい、アセスルファムK(カリウム)の安定性が確保される条件から除外されるため、リンゴ酸の添加量は0.15[w/v%]が上限となる。アセスルファムK(カリウム)50ppm、クエン酸0.15[w/v%]、クエン酸三ナトリウム0.06[w/v%]含有サンプルを用いて、アルコール4,6,8v/v%でのクエン酸−リンゴ酸比の決定における官能評価結果を表6及び図5に示す。
【0039】
【表4】

【0040】
【表5】

【0041】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、高甘味度甘味料アセスルファムカリウムを用いた低カロリー化健康機能の低アルコール飲料において、アセスルファムカリウムの安定性を保持し、かつ、該アセスルファムカリウムの安定性を保持した条件で、有効な酸味付与とを両立させ、良好な呈味の付与と該呈味を長期保管に対して安定化した高呈味低アルコール飲料を提供する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高甘味度甘味料アセスルファムカリウムを含有する低アルコール飲料の製造において、アルコール飲料のpHを3.0以上に維持しつつ、クエン酸及びリンゴ酸を、該酸の合計量が飲料全量に対して、0.3w/v%以下の割合になるよう調整することによりアセスルファムカリウムの安定性と酸味の付与を両立させた高呈味低アルコール飲料の製造方法。
【請求項2】
アルコール飲料のpH3.0以上の維持を、飲料全量に対して、0.06w/v%以下のクエン酸三ナトリウムを添加することによって行うことを特徴とする請求項1記載の高呈味低アルコール飲料の製造方法。
【請求項3】
クエン酸の量が、飲料全量に対して、0.15w/v%以下であり、リンゴ酸の量が、飲料全量に対して、0.15w/v%以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の高呈味低アルコール飲料の製造方法。
【請求項4】
アセスルファムカリウムの含有量が、0.01〜100ppmの範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の高呈味低アルコール飲料の製造方法。
【請求項5】
アルコール濃度が4〜8v/v%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の高呈味低アルコール飲料の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか記載の低アルコール飲料の製造方法によって製造されたことを特徴とするアセスルファムカリウムの安定性と酸味の付与を両立させた高呈味低アルコール飲料。
【請求項7】
高甘味度甘味料アセスルファムカリウムを含有する低アルコール飲料において、アルコール飲料のpHを3.0以上に維持し、クエン酸及びリンゴ酸を、該酸の合計量が飲料全量に対して、0.3w/v%以下の割合になるように調整されたアセスルファムカリウムの安定性と酸味の付与を両立させた高呈味低アルコール飲料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−223961(P2011−223961A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99133(P2010−99133)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(307027577)麒麟麦酒株式会社 (350)
【Fターム(参考)】