説明

高周波シール材料

【課題】高周波電圧の印加によりシールが可能であり、ポリプロピレンが有する剛性や耐熱性を維持しつつ、透明性でシール速度及び低エネルギーでのシール性に優れ、高いシール強度が得られる高周波シール材料を提供する。
【解決手段】(A)融点が140℃以下のランダムポリプロピレンと、(B)エチレンと不飽和カルボン酸とが少なくとも共重合したランダム共重合体のカルボキシル基の一部又は全部がカリウムで中和されたアイオノマーとを含む、あるいはアイオノマー(B)及びポリプロピレン(C)を含む発熱層と(A)ランダムポリプロピレンを含み、この発熱層の少なくとも一方の側に設けられて熱で溶融する熱溶融層とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波電圧の印加により熱融着する高周波シール材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンは、透明で剛性があるので、各種包装材料に広く使用されている。ポリプロピレンをシール材として用いる手段としては、加熱により溶融して圧着するヒートシール法が一般的である。
【0003】
ところが、ヒートシール法では、一般に数種類の熱するためのシール棒が必要とされ、シール棒を何種類も揃えておくことは難しい。また、ヒートシール法は、シール形状も直線状になる。これに対して、高周波シールの場合、高分子に高周波電界を与え、高分子の誘電損失によって発生する熱によって溶融させて融着させるが、簡単な装置で様々な形状のシール、例えば曲線状にシールすることが可能である。
【0004】
上記状況に関連する技術として、高周波シールが行なえるアイオノマー組成物としてカリウムアイオノマーを用いることが開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、カルボキシル基の一部又は全部が所定量のアルカリ金属で中和されたアイオノマー樹脂とメタロセン触媒によって製造されたポリオレフィン樹脂とからなる高周波発熱性樹脂組成物が開示されており(例えば、特許文献2参照)、具体的な組成物として、メタロセンポリエチレンとカリウムイオンで中和されたアイオノマーとを混合して層形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−35699号公報
【特許文献2】特開2008−88308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、高周波シールできる汎用高分子は、誘電損失の大きいポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデンに限られているのが実情であり、例えばポリプロピレンのようなポリオレフィンは誘電損失が小さく、一般に高周波シールには適さない。そのため、ポリ塩化ビニルをポリプロピレンと混合することで、ポリプロピレンに高周波シール性を付与する方法が考えられている。ところが、ポリエチレンとポリプロピレンなどのように材質の異なる樹脂を添加、混合した場合、両者間の相溶性に劣るために透明性が低下するばかりか、衝撃強度や剛性などの機械的特性の低下など、ポリプロピレンの他の優れた性質も損なわれる。
【0007】
また、フィルムや繊維あるいはICパッケージ材料などに使用する場合、電子材料への静電気による悪影響を避ける又は埃付着防止などを目的に表面抵抗値で1×1012Ω/□以下の帯電防止性能が求められるが、ポリプロピレンではこの値を達成することは難しい。このため、低分子タイプの帯電防止剤を配合して表面抵抗値を下げることになるが、長期間使用していると帯電防止剤が表面に浮き出るブリードアウト現象が発生しやすく、表面がべたつく、あるいは透明性が低下する等がある。また、配合された帯電防止剤がブリードアウトにより減少し、帯電防止性能の長期持続ができないこともある。
【0008】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、高周波電圧の印加によりシールが可能であり、ポリプロピレンが有する剛性や耐熱性を維持しつつ、透明でシール速度及び低エネルギーでのシール性に優れ、高いシール強度が得られる高周波シール材料を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、従来から樹脂間の相溶性、懸濁などの理由から、エチレンを共重合成分に含むアイオノマーとの混合には一般に同系のポリエチレンが用いられてきたが、他のポリオレフィンのうちポリプロピレンについては、エチレン系のアイオノマーと併用しても特異的に高いシール性(特にシール強度,速度、低エネルギーでのシール性)を示し、透明性、剛性、耐熱性を損なわないとの知見を得、かかる知見に基づいて達成されたものである。
【0010】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> (A)融点が140℃以下のランダムポリプロピレンと、(B)エチレンと不飽和カルボン酸とが少なくとも共重合したランダム共重合体のカルボキシル基の一部又は全部がカリウムで中和されたアイオノマーと、を含む高周波シール材料である。
【0011】
<2> 前記ランダムポリプロピレン(A)は、メタロセン触媒を用いて製造された前記<1>に記載の高周波シール材料である。
【0012】
<3> 前記ランダムポリプロピレン(A)の、該(A)及び前記アイオノマー(B)の合計量100質量部に対する配合割合が60〜99質量部であり、前記アイオノマー(B)の、前記(A)及び前記(B)の合計量100質量部に対する配合割合が1〜40質量部である前記<1>又は前記<2>に記載の高周波シール材料である。
【0013】
<4> (B)エチレンと不飽和カルボン酸とが少なくとも共重合したランダム共重合体のカルボキシル基の一部又は全部がカリウムで中和されたアイオノマー、及び(C)ポリプロピレンを含む発熱層と、前記発熱層の少なくとも一方の側に設けられ、(A)融点が140℃以下のランダムポリプロピレンを含む熱で溶融する熱溶融層と、を有する高周波シール材料である。
【0014】
<5> 前記熱溶融層が、発熱層の少なくとも一方の側に最外層として設けられていることを特徴とする前記<4>に記載の高周波シール材料である。
【0015】
<6> 前記熱溶融層中のランダムポリプロピレン(A)は、メタロセン触媒を用いて製造されたものである前記<4>又は前記<5>に記載の高周波シール材料である。
【0016】
<7> 更に、分子内に水酸基を3個以上有する化合物を含むことを特徴とする前記<1>又は前記<4>に記載の高周波シール材料である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高周波電圧の印加によりシールが可能であり、ポリプロピレンが有する剛性や耐熱性を維持しつつ、透明でシール速度及び低エネルギーでのシール性に優れ、高いシール強度が得られる高周波シール材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の高周波シール材料について詳細に説明する。
本発明の高周波シール材料は、(A)融点が140℃以下のランダムポリプロピレンと、(B)エチレンと不飽和カルボン酸とが少なくとも共重合したランダム共重合体のカルボキシル基の一部又は全部がカリウムで中和されたアイオノマーとを含ませて構成されたものであり、好ましい形態の1つとして、更に(C)ポリプロピレンを用い、(B)アイオノマー及び(C)ポリプロピレンを含む発熱層と、該発熱層の少なくとも一方の側に設けられ、(A)ランダムポリプロピレンを含む熱で溶融する熱溶融層とを設けた構成とすることができる。
また、本発明の高周波シール材料は、必要に応じて、さらに他の成分を用いて構成することができる。
【0019】
本発明においては、α−ポリオレフィンの中でも特に低融点のランダムプロピレンを選択(特に熱溶融層として選択)し、高周波発熱性に優れるカリウム(K)で中和されたアイオノマーと併用した構成を採用することで、高周波電圧を印加した場合に誘電損失による発熱性を特異的に高く得ることができ、高周波電圧を印加して融着(シール)する際には高いシール性(特にシール速度、低エネルギーでのシール性)が得られ、しかも透明性を損なわず、シール後のシール強度に優れる。
【0020】
(A)ランダムポリプロピレン
本発明の高周波シール材料は、ランダムポリプロピレンの中でも、融点が140℃以下のランダムポリプロピレンの少なくとも一種を含有する。
【0021】
ランダムポリプロピレンは、プロピレンとプロピレン以外の他のα−オレフィンとをランダム共重合させて得られるポリプロピレンであり、少量(一般には4〜5質量%以下)のエチレンや1−ブテン等がプロピレン連鎖中にランダムに取り込まれたものである。そのため、プロピレンのみの重合体であるホモポリプロピレンや、プロピレンと例えばエチレンとがブロック状に重合したブロックポリプロピレンと異なり、低融点でありながら高剛性、耐熱性を持ち、(1)組成分布が狭い、(2)溶出成分が少ない、(3)分子量分布が狭い、等の特徴を有している。
【0022】
ランダムポリプロピレンには、プロピレンと共重合されるα−オレフィンの種類と共重合体に含まれるα−オレフィンの含有量によって様々な融点のランダムポリプロピレンがある。その中でも、融点が140℃以下のランダムポリプロピレンと特定のアイオノマーと組み合わせて構成した場合に、他のポリオレフィンやアイオノマーによる場合に比して特異的に、高周波電圧を印加したときに実用に耐えるシール強度が得られ、シール速度も速いという優れた高周波シール性が得られる。
【0023】
また、ランダムポリプロピレンには、チーグラーナッタ触媒で製造されたものと、メタロセン触媒で製造されたものとがあるが、短時間で確実に高周波シールできる点で、メタロセン触媒で製造されたものが特に好ましい。
【0024】
ここで、メタロセン触媒は、チタン、ジルコニウム又はハフニウムなどの遷移金属に、少なくとも1つのシクロペンタジエニル骨格を有する配位子を有するメタロセン化合物と、アルモキサン及びアルキルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物及び有機アルミニウムオキシ化合物並びにイオン化イオン性化合物などの共触媒成分とから構成される触媒である。また、前記シクロペンタジエニル骨格を有する配位子としては、シクロペンタジエニル環インデニル環及びフルオレニル環などが挙げられる。これらの配位子は、置換基を有していてもよい。また、配位子同士が炭化水素基、シリル基などを介して結合していてもよい。
【0025】
前記メタロセン触媒としては、特開昭58−19309号、特開昭59−96292号、特開昭60−35005号、特開昭61−130314号、特開平3−163088号、欧州特許公開420,436号明細書、及び米国特許5,055,438号明細書などに記載のものが挙げられる。但し、これらに限定されるものではない。メタロセン化合物の具体例としては、シクロペンタシエニルチタニウム(ジメチルアミド)、ジメチルシリルテトラメチルシクロペンタジエニル−t−ブチルアミドジルコニウムジクロリド、インデニルチタニウム(ジエチルアミド)、ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドおよびビス(インデニル)ジルコニウムビス(メチルホスホナト)などを挙げることができる。
【0026】
メタロセン触媒を用いてランダムポリプロピレンを製造する方法としては、従来公知の方法を適宜採用することができる。例えば、エチレン及びα−オレフィンを重合させる圧力として100Kg/cm2以下の中低圧法を採用してもいいし、300〜3000Kg/cm2の高圧法を採用することもできる。
【0027】
プロピレンと共重合されるα−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン等が挙げられる。本発明におけるランダムプロピレンは、これらから選ばれる1種又は複数種をプロピレンと共重合させることで得られる。
【0028】
共重合されるα−オレフィンの共重合比率としては、ランダムポリプロピレン全体に対し、40モル%以下が好ましく、ポリプロピレンとしての剛性や耐熱性を損なわないためには、ランダムポリプロピレン全体に対し、30モル%以下、特に20モル%以下の範囲が選択される。ランダムポリプロピレン中におけるα−オレフィンの共重合比率の下限値としては、2モル%が望ましい。
【0029】
ランダムポリプロピレンの融点は、140℃以下とする。融点が140℃を超えると、高周波電圧を印加したときのシール性が低下し、実用に耐えるシール強度が得られない。また、耐熱性の点では120℃以上が好ましい。ランダムポリプロピレンの融点としては、高周波シールの強度、速度、低エネルギーでのシール性の観点から、120〜140℃が好ましい。
【0030】
ランダムポリプロピレンの融点は、JIS K7121−1987に準拠した方法(DSC法)で測定されるものである。
【0031】
また、ランダムポリプロピレンのJIS K7210−1999(230℃、2160g荷重)に準拠したメルトフローレート(MFR)は、0.1〜20g/10分の範囲が好ましい。
【0032】
ランダムポリプロピレンとしては、例えば、プロピレン/エチレン共重合体やプロピレン/1−ブテン共重合体などの2元共重合体、プロピレン/エチレン/1−ブテン共重合体などの3元共重合体を挙げることができる。また、ランダムポリプロピレンの具体例としては、市販品として、日本ポリプロ(株)製のウィンテックシリーズ(例:Wintec WFX6T,同WFX4T,同WFX4TA,同WFW4等)、(株)プライムポリマー製のF794NVなどを使用することができる。
【0033】
(B)アイオノマー
本発明の高周波シール材料は、エチレンと不飽和カルボン酸とが少なくとも共重合したランダム共重合体(以下、「エチレン・不飽和カルボン酸共重合体」ともいう。)のカルボキシル基の一部又は全部がカリウムで中和されたアイオノマーの少なくとも一種を含有する。
【0034】
本発明におけるアイオノマーを構成するベースポリマーとして含む不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、ビニル酢酸、及びイタコン酸などが挙げられる。
【0035】
また、エチレンと不飽和カルボン酸とがランダムに共重合したランダム共重合体中における不飽和カルボン酸の含有量としては、ランダム共重合体の全質量に対して、3〜40質量%が好ましく、より好ましくは5〜25質量%である。
【0036】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、エチレンと不飽和カルボン酸との二元共重合体であってもよく、またエチレンと不飽和カルボン酸のほかに更に他のモノマー、例えば不飽和カルボン酸エステル等が所定の割合(例えば20質量%以下)で共重合された多元共重合体であってもよい。不飽和カルボン酸エステル成分を含む場合は、共重合体に柔軟性を付与できる。
【0037】
具体的には、エチレン及び不飽和カルボン酸のほかに不飽和カルボン酸エステルとして、他の極性モリマーが共重合されたランダム共重合体であってもよい。他の極性モノマーが共重合する場合、その共重合比率は、ランダム共重合体の全質量に対して40質量%以下が好ましく、0質量%超40質量%以下とすることができる。
【0038】
前記他の極性モノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸イソオクチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等の不飽和カルボン酸エステル、及び一酸化炭素などが挙げられる。中でも、不飽和カルボン酸エステル、特に(メタ)アクリル酸エステルが特に好ましい。
【0039】
好ましいエチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸エステル共重合体である。なお、本明細書中において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。
【0040】
アイオノマーとしては、一般にナトリウム、カリウム又は亜鉛などの金属で中和されたものが知られているが、本発明におけるアイオノマーは、分子側鎖に存在するカルボン酸基がカリウムイオンにより架橋されて中和されたものであり、カリウム以外の金属で中和されたアイオノマーでは高周波発熱性が乏しくあるいは高周波発熱性を示さない。
【0041】
少なくともエチレンと不飽和カルボン酸とが共重合したランダム共重合体中のカルボキシル基の一部又は全部を中和するために導入されたカリウムの含有量は、アイオノマー1g当たり0.1ミリモル以上が好ましく、より好ましくは0.4ミリモル以上 さらに好ましくは0.8〜6.0ミリモルである。カリウムの含有量がアイオノマー1g当たり0.4ミリモル以上であると、高周波発熱性が与えられ、シール強度や低エネルギーでのシール性、シール速度など良好なシール性が得られる。
【0042】
アイオノマーの中和度は、透明性、高温での貯蔵弾性率が高い点から、50%以上が望ましく、さらに高周波シール性等を考慮すると中和度があまり低いものは望ましくなく、中和度が60%以上、特に70%以上である場合が好ましい。中和度の上限値は流動性の観点から95%が望ましい。
【0043】
本発明におけるアイオノマーの分子量としては、シール材料としたときの機械的性質を維持する上で、数平均分子量(スチレン換算)で5000以上が好ましい。なお、アイオノマー中には、必要に応じて少量の不飽和カルボン酸のアルキルエステル等のセグメントが分子鎖に含まれてもよい。
【0044】
アイオノマーのJIS K7210−1999(190℃、2160g荷重)に準拠したメルトフローレート(MFR)は、0.1〜50g/10分の範囲が好ましい。アイオノマーのMFRが前記範囲内であると、ポリプロピレンとの相溶性の点で好ましい。
【0045】
本発明におけるアイオノマーは、高温、高圧下のラジカル共重合によりランダム共重合体(エチレン・不飽和カルボン酸共重合体)を得た後、このランダム共重合体と金属化合物とを反応させることにより得られる。
【0046】
本発明の高周波シール材料中における、ランダムポリプロピレン(A)とアイオノマー(B)との比率については、高周波発熱性の点で、(A)及び(B)の合計量100質量部に対するランダムポリプロピレン(A)の配合割合が60〜99質量部であって、(A)及び(B)の合計量100質量部に対するアイオノマー(B)の配合割合が1〜40質量部である場合が好ましい。更には、前記同様の理由から、ランダムポリプロピレン(A)の配合割合、及びアイオノマー(B)の配合割合はそれぞれ、(A)及び(B)の合計量100質量部に対して、70〜95質量部、及び5〜30質量部である場合がより好ましい。
【0047】
上記のほか、本発明の高周波シール材料には、必要に応じて、相溶化剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、難燃剤、滑剤、アンチブロッキング剤、加工助剤、顔料などを高周波発熱性を損なわない範囲で添加することもできる。
【0048】
例えば、本発明の高周波シール材料は、「分子内に水酸基を3個以上持つ化合物」を含むことが好ましい。前記アイオノマー(B)に「分子内に水酸基を3個以上持つ化合物」を添加して含ませると、非帯電性と高周波シール性が向上する。この化合物は、非帯電性と高周波シール性の点では、特に分子量が400以下の化合物が好ましい。この化合物は、炭素、水素及び酸素のみから構成される化合物であってもよく、また炭素、水素、酸素の他にさらに窒素のようなヘテロ原子を含有するものであってもよい。これらは、分子量が好ましくは400以下、特には80〜300が好ましく、室温で液体状であっても固体状であってもよい。
【0049】
このような化合物の具体例としては、グリセリン、ジグリセリン、トリメチロ−ルプロパン、1,1,1−トリス(ヒドロキシメチル)エタン、2,2−ジ(ヒドロキシメチレ)−1,3−プロパンジオール、ソルビトール、1.3.5−トリヒドロキシベンゼン、1,3,5−トリヒドロキシ安息香酸、トリス(ヒドロキシメチル)アミノプロパン、N,N,N’,N’−テトラキス(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラキス(2−ヒドロキシプロピル)エチレンジアミンなどが挙げられる。
【0050】
これらの「分子内に水酸基を3個以上持つ化合物」の高周波シール材料中における含有量は、前記(B)アイオノマー100質量部当たり通常は0.1〜30質量部、好ましくは1〜20質量部である。該化合物の含有量は、0.1質量部以上であると非帯電性の向上効果が良好であり、30質量部以下であるとブリードアウトによる表面汚染の懸念を抑えつつ非帯電性を向上できる。
【0051】
本発明の高周波シール材料は、カリウム中和のアイオノマーを含むことにより、吸湿させることによって高周波発熱性を更に向上させることが可能である。これは、特にカリウムで中和されたアイオノマーが吸湿性を持つためと推測される。そのため、高周波シール材料中の含水率を0.1〜5質量%とすることにより高周波発熱性がより向上する。
したがって、高周波融着(シール)時に水の気化に起因する発泡の問題が起こらない範囲で水分を含ませることが望ましい。
【0052】
本発明の高周波シール材料は、公知の方法によりフィルム、シート、チューブなど、用途に応じた所望の形状に成形、加工することが可能である。成形、加工して得られた成形・加工品は、高周波電界印加下での高い発熱性によって高周波融着加工が可能な高周波融着性成形体として各種用途に使用することができる。
【0053】
本発明の高周波シール材料は、高周波電界の印加により優れた発熱性を示すので、この高周波シール材料を発熱層に利用し、発熱層の発熱で溶融し、あるいは発熱層から伝達された熱によって他の層(熱溶融層)を溶融して熱融着する形態に構成することができる。
すなわち、本発明の高周波シール材料の好ましい一形態として、(A)融点が140℃以下のランダムポリプロピレン、及び(B)エチレンと不飽和カルボン酸とが少なくとも共重合したランダム共重合体のカルボキシル基の一部又は全部がカリウムで中和されたアイオノマーを含み、高周波電界を受けて発熱する性質(即ち発熱層としての性質)と、その発熱により溶融して融着する性質(即ち熱溶融層としての性質)との両方の性質を発現する単層構造の高周波シール材料を提供することができる。
【0054】
また別の形態として、前記(B)アイオノマー及び(C)ポリプロピレンを含む少なくとも1層の発熱層と、発熱層の少なくとも一方の側に設けられ、前記(A)ランダムポリプロピレンを含む熱で溶融する少なくとも1層の熱溶融層と、を有する積層構造に構成された高周波シール材料を提供することができる。
【0055】
ここでのポリプロピレン(C)は、融点が140℃以下のランダムポリプロピレンのほかに、融点が140℃を超えるランダムポリプロピレンであってもよい。また、ポリプロピレン(C)は、プロピレンの単独重合体であるホモポリプロピレンであってもよく、ブロックポリプロピレンであってもよい。
前記ポリプロピレン(C)の中でも、シール速度、低エネルギーでのシール性、及び高いシール強度などの高周波発熱性を得る点で、ランダムポリプロピレンが好ましく、前記(A)融点が140℃以下のランダムポリプロピレンがより好ましい。
【0056】
発熱層中におけるポリプロピレン(C)とアイオノマー(B)との比率については、高周波発熱性の点で、(C)及び(B)の合計量100質量部に対するポリプロピレン(C)の配合割合が60〜99質量部であって、(C)及び(B)の合計量100質量部に対するアイオノマー(B)の配合割合が1〜40質量部である場合が好ましい。更には、前記同様の理由から、ポリプロピレン(C)の配合割合、及びアイオノマー(B)の配合割合はそれぞれ、(C)及び(B)の合計量100質量部に対して、70〜95質量部、及び5〜30質量部である場合がより好ましい。
【0057】
具体的な構成例として、熱溶融層/発熱層、熱溶融層/発熱層/熱溶融層、熱溶融層/発熱層/熱溶融層/発熱層/熱溶融層、他層/発熱層/熱溶融層、あるいは他層/発熱層/他層/発熱層/熱溶融層又は発熱層/熱溶融層などの積層構造に形成することができる。これらの積層構造を採用することによって、高周波シール材料のみでは困難な物理的および機械的性質を付与したり、温度又は湿度などの影響を比較的受けやすい高周波シール材料からなる層を他の層で保護する等が可能である。中でも、(A)を含む熱溶融層が、発熱層の一方の側又は両方の側において、最外層として設けられている形態が好ましい。
【0058】
上記のような積層構造に構成する際の各層の厚みについては、発熱層の発熱能力、高周波電圧の印加条件、積層構造の全体厚み、及び熱溶融層の融点などに応じて適宜設定することができる。具体的には、発熱層の厚みをT1 、発熱層以外の厚みをT2とした場合、T2/T1≦20を満たすことが好ましく、より好ましくはT2/T1≦15の範囲、更に好ましくはT2/T1≦10の範囲である。
【0059】
上記のような積層構造に形成する場合、共押出成形法、押出ラミネート法、ドライラミネート法などによりフィルム、シート、チューブ、パイプなどの用途に応じた形状に成形されたものを用いて行なうことができる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0061】
(実施例1〜5、比較例1〜3)
<シートの作製>
多層キャスト成形機(田辺プラスチックス機械社製のV40V40V40−F500型3種3層フィルム装置、EDI社製のコートハンガーダイ)を使用し、以下に示すランダムポリプロピレンとアイオノマーをドライブレンド後にホッパーに投入し、下記の表1〜表2に示す配合にて単層シート状又は三層シート状のシールフィルムを作製した。このとき、各層構成の総厚を300μmとした。
なお、表中の「ランダムPP」は、ランダムプロピレンを表す。
【0062】
−ランダムポリプロピレン−
(1)ランダムポリプロピレンA:
Wintec WFX4T(MFR(230℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(JIS K7210−1999に準拠)=7g/10min、融点=125℃、メタロセン触媒を用いて製造);日本ポリプロ(株)製)
(2)ランダムポリプロピレンB:
F794NV(MFR(230℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(JIS K7210−1999に準拠)=5.8g/10min、融点=133℃、チーグラーナッタ触媒を用いて製造);(株)プライムポリマー製)
(3)ランダムポリプロピレンC:
E−333GV(MFR(230℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(JIS K7210−1999に準拠)=2.4g/10min、融点=146℃、チーグラーナッタ触媒を用いて製造);(株)プライムポリマー製)
【0063】
−アイオノマー−
(1)アイオノマーA:
カリウムアイオノマー(ベースポリマー:エチレン・メタクリル酸共重合体(メタクリル酸含量13.8質量%)、金属カチオン源:カリウム、中和度:87%、カリウム含有量:1.33mol/kg、MFR(190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(JIS K7210−1999に準拠):1.0g/10min)
(2)アイオノマーB:
ジグリセリンとカリウムアイオノマー(ベースポリマー:エチレン・メタクリル酸共重合体(メタクリル酸共重合比:13.8質量%)、金属カチオン源:カリウム、中和度:87%、カリウム含有量:1.33mol/kg、MFR(190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(JIS K7210−1999に準拠):1.0g/10min)の混合組成物(混合比=ジグリセリン:カリウムアイオノマー8:92[質量比])
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】



【0066】
<評価>
(1)高周波ウェルダーシール
高周波ウェルダーKV3000TRA(精電舎電子工業(株)製)を用い、得られたシートフィルムを2枚重ね合わせて下記条件にて高周波電圧を印加した。このときの接合状況、すなわち高周波融着性を下記の評価基準にしたがって評価した。
<接合条件>
・発振周波数:40.46MHz
・同調:50〜85%
・発振時間:1〜8秒
・加圧:0.5MPa(ゲージ圧)×2秒間
・シールバー:3mm幅×300mm長さ
・冷却時間:2〜4秒間
・絶縁体材質:ベークライト(厚み:0.5〜2.0mm)
<評価基準>
○:充分に溶着しており、剥がそうとすると材料破壊した。
×:溶着されず、あるいは剥がそうとすると界面剥離した。
【0067】
(2)非帯電性能
温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下、得られたシートフィルムに対して印加電圧±5000Vにて電圧を印加し、印加後、シートフィルムの表面電圧が±5000Vから±500Vまで減衰(10%減衰)するまでの時間を電荷減衰測定器(Model 406D Static Delay Meter、Electro-Tech Systems Inc製)を用いて測定した。
【0068】
【表3】



【0069】
前記表3に示すように、実施例では、非帯電性が良好であると共に、高周波シール時のシール性に優れていた。これに対し、比較のシールフィルムでは、高周波電圧の印加では所望とするシール性が得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)融点が140℃以下のランダムポリプロピレンと、
(B)エチレンと不飽和カルボン酸とが少なくとも共重合したランダム共重合体のカルボキシル基の一部又は全部がカリウムで中和されたアイオノマーと、
を含む高周波シール材料。
【請求項2】
前記ランダムポリプロピレン(A)は、メタロセン触媒を用いて製造されたものである請求項1に記載の高周波シール材料。
【請求項3】
前記ランダムポリプロピレン(A)の、該(A)及び前記アイオノマー(B)の合計量100質量部に対する配合割合が60〜99質量部であり、前記アイオノマー(B)の、前記(A)及び前記(B)の合計量100質量部に対する配合割合が1〜40質量部である請求項1又は請求項2に記載の高周波シール材料。
【請求項4】
(B)エチレンと不飽和カルボン酸とが少なくとも共重合したランダム共重合体のカルボキシル基の一部又は全部がカリウムで中和されたアイオノマー、及び(C)ポリプロピレンを含む発熱層と、
前記発熱層の少なくとも一方の側に設けられ、(A)融点が140℃以下のランダムポリプロピレンを含む熱で溶融する熱溶融層と、
を有する高周波シール材料。
【請求項5】
前記熱溶融層が、発熱層の少なくとも一方の側に最外層として設けられていることを特徴とする請求項4に記載の高周波シール材料。
【請求項6】
前記熱溶融層中のランダムポリプロピレン(A)は、メタロセン触媒を用いて製造されたものである請求項4又は請求項5に記載の高周波シール材料。
【請求項7】
更に、分子内に水酸基を3個以上有する化合物を含むことを特徴とする請求項1又は請求項4に記載の高周波シール材料。

【公開番号】特開2011−57723(P2011−57723A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205283(P2009−205283)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000174862)三井・デュポンポリケミカル株式会社 (174)
【Fターム(参考)】