説明

高周波増幅器

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、周囲温度の変化に対して利得や雑音指数が安定でかつ消費電力効率を高め、量産性を向上させた高周波増幅器に関する。
【0002】
【従来の技術】従来から通信機等の受信部の入力回路には受信感度向上の目的で低雑音増幅器が用いられてきたが、ガリュウムヒ素を用いた電界効果トランジスタ(以下、FETという。)は優れた雑音指数を示すことから低雑音増幅器を実現する格好の増幅素子として利用されてきた。
【0003】このように増幅素子として大変有効なFETではあるが通信機、とりわけ携帯電話機のように手軽な持ち運びを要求される機器に使用された場合には他の代替素子、例えばバイポーラトランジスタ等に比べて使いづらい欠点を有していた。以下、図面を参照し説明する。
【0004】図2は、従来技術によるFETを使用した高周波増幅器の一例であって、11はFET,12と17は結合コンデンサ、16と18はバイパスコンデンサ、13と14はインピーダンスのマッチング用コイル、15はチョークコイル、19はバイアス抵抗、101は信号入力端子、102は信号出力端子、103は電源端子で正極性の電圧が供給される。
【0005】図2の回路において、バイアス抵抗19にドレイン直流電流が流れてソース電位を正極性にバイアスする。ゲート電極はコイル14と13を通して直流的に接地されているのでソースを基準電位とした場合にはゲートの方が電位が低いから、結局このFETはソースに対してはゲートを負極性にバイアスした状態で動作する。高周波信号は信号入力端子101に入力され、コイル13、14からなるマッチング回路を経てFET11により低雑音増幅された後に結合コンデンサ17を経由して信号出力端子102より取り出される。又、利得が不足する場合は、次段に同様の増幅器又はバイポーラトタンジスタ増幅器を縦属接続する。
【0006】次に、図3に従ってFETの温度特性について説明する。図3は典型的なFETのゲート電圧に対するドレイン電流の特性例であり、横軸はソースを基準電位とするゲートの電圧(以下、Vgsという。)、縦軸はドレイン電流(以下、Idという。)、T1は常温におけるVgs対Idの特性、T2は高温におけるVgs対Idの特性を示す。
【0007】図3は温度が上昇するとドレイン電流Idが低下することを示している。もしVgsとして一定のバイアス電圧が与えられていれば、動作点はP点からQ点へ移動しドレイン電流はId1からId2に低下する。この状態は、図2においてバイアス抵抗19を限りなく零に近い抵抗値としてゲートへ何らかの手段で(図示せず。)一定の負のバイアス電圧を与えたのと等価である。
【0008】図3によれば、Q 点のゲート電圧微少変化に対するドレイン電流の微少変化すなわちGmはP点のそれよりも小さくなる事が分かる。もし図2におけるバイアス抵抗19を大きくしていくとそれに伴って直流的な負帰還量が多くなるので温度に対する電流変化は幾分小さくなるが、その場合には後述する様に抵抗19による消費電力が大きくなる。次に、図4に従って更に詳しくドレイン電流対利得と雑音指数の関係について説明する。
【0009】図4は、ドレイン電流に対する利得と雑音指数の関係について示したもので、横軸はドレイン電流Id,縦軸は利得(以下、PGという。)および雑音指数(以下、NFという。)である。図4によれば利得が大きく雑音指数の小さい最良のドレイン電流が存在し、図4の例ではId1がそれに該当する。そしてもしドレイン電流がId1からId2まで低下すると、利得はPG1からPG2まで低下し、雑音指数はNF1からNF2まで増加する。
【0010】従って、従来技術によるFETを用いた高周波増幅器においては周囲温度の上昇に伴ってドレイン電流が減少し利得の低下と雑音指数の増加を招く事が理解されよう。
【0011】また、従来技術においてはゲートバイアス電圧を抵抗19に流れるドレイン電流によって作っているので、該抵抗に消費される電力は単なる熱損失となり信号増幅には何ら有効に利用されない。
【0012】更に、従来技術においてはゲートバイアス電圧を抵抗19に流れるドレイン電流によって作っているので、FETを量産した場合の零バイアスドレイン電流(以下、Idssという。)のばらつきに伴って動作点もばらつくので高周波増幅器としての特性の分散も大きくなり、設計仕様に沿った高周波増幅器を安定して生産し提供する際の障害となっていた。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】上記従来技術の課題として、その第1は、周囲温度の上昇にともない増幅度が低下するとともに雑音指数が上昇し受信感度が低下する現象である。前記携帯電話機等は屋外で使用される機会も多く、使用環境温度が広範囲にわたる事と、もともと受信電界強度の点においても固定して使用される機器に比べて条件が厳しいことから受信感度低下の防止は重要な技術課題の一つであった
【0014】第2には、正常な増幅をさせる為にはソース電極に比べてゲート電極に負のバイアス電圧を供給しなければならない事である。その為に抵抗による電力損失が生じて電源の負担を大きくしていた。前述した抵抗によるバイアス法以外に、正負両極性の電池を用意する方法が考えられるが、手軽な持ち運びを特長とする前記携帯電話機等においては重量が重要な要素なので単電源で使用でき、かつ消費電力が有効に利用される回路の実現もまた重要な技術課題の一つであった。
【0015】第3に、FETを大量に生産した場合に零バイアスドレイン電流のばらつきが大きい事である。その為にこのようなFETを用いて実現された高周波増幅器はその利得や雑音指数のばらつきもまた大きく、設計仕様に沿った高周波増幅器を安定して生産し提供する際の障害となっていた。
【0016】この発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、周囲温度の変化にたいして安定でかつ消費電力効率の高い高周波増幅器を実現し、更に量産に適した高周波増幅器を提供する事を目的とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】請求項1に係る発明による高周波増幅器は、電解効果トランジスタからなり、ドレイン電極に電源電圧が加えられ、ゲート電極に入力された信号を増幅してドレイン電極から出力する第1の信号増幅器と、前記電解効果トランジスタのソース電極とグラウンド間に接続された定電流回路を具備し、 前記定電流回路は、バイポーラ型トランジスタからなり、コレクタ電極が前記電解効果トランジスタのソース電極に接続され、エミッタ電極がグラウンドに接続され、前記第1の信号増幅器から出力された信号をベース電極に入力して、増幅された信号をコレクタ電極から出力する第2の信号増幅器として機能することを特徴とする。
【0018】請求項2に係る発明による高周波増幅器は、前記請求項1に係る発明による高周波増幅器において、前記バイポーラ型トランジスタのベース電極とグランドとの間にダイオードを含むバイアス電圧回路を設け、前記バイポーラ型トランジスタのベースエミッタ接合電圧の温度変動と前記ダイオードを含むバイアス電圧の温度による変動とをほぼ等しくしたことを特徴とする。
【0019】
【作用】上記各構成によれば、周囲温度の変化や素子のばらつきにかかわらずFETに流れるドレイン電流が安定する。また、FETのバイアス回路の消費電力が信号の増幅に有効に利用できる。
【0020】
【実施例】以下、図面を参照し、この発明の一実施例を説明する。図1はこの発明による一実施例による高周波増幅器を示す回路図である。尚、前に説明した図2の従来例と同一機能の部分については同一番号を付与してある。
【0021】図1において、1は第1の信号増幅器、2は定電流回路兼第2の信号増幅器、20〜23はバイアス抵抗、24はバイポーラトランジスタ、25はダイオード、26はチョークコイル、27は結合コンデンサ、28、29はバイパスコンデンサである。
【0022】この回路の動作点は以下のように決定される。バイアス回路を構成するダイオード25と抵抗22および23による分圧比によってバイポーラトランジスタ24のベース電圧が決められると該トランジスタ24の固有の直流特性によって該トランジスタ24のコレクタ電流が決定される。
【0023】該トランジスタ24のベース接合電圧は負の温度係数を有するから該トランジスタ24のベースに一定のベースバイアス電圧が与えられていると温度の上昇に伴って該トランジスタ24のコレクタ電流は増加するが、該ダイオード25の接合電圧もまた負の温度係数を有するから温度の上昇に伴って分圧電圧が低下しそれに伴って該トランジスタ24のベースバイアス電圧もまた低下し、結局周囲温度の変化にかかわらず該トランジスタ24には一定のコレクタ電流が流れる。
【0024】また、該トランジスタ24とFET11は直流的に直列接続されているから該FET11には該トランジスタ24のコレクタ電流と同一のドレイン電流が流れる。
【0025】次に、バイアス抵抗20と21の分圧比によってFET11のゲート電圧が決められると、該FET11の固有の直流特性によってドレイン電流に対応するソース電圧が決定される。該FET11のソース電極と該トランジスタ24のコレクタ電極とは直流的に直接接続されているから、該トランジスタ24のコレクタ電極には該FET11のソース電圧と同一の電圧が与えられる。
【0026】次に、高周波信号は信号入力端子101に入力され、マッチング回路を経てFET11により低雑音増幅された後に結合コンデンサ17を経由してバイポーラトランジスタ24により更に信号増幅された後に結合コンデンサ27を経由して信号出力端子102より取り出される。
【0027】このような構成によれば、FET11のドレイン電流は定電流回路2によって決定されるから該FET11のIdss特性のばらつきや周囲温度の変化があったとしても、常に一定のIdが与えられるので安定した利得や雑音指数が得られる。この場合、FET11のIdss特性のばらつきや周囲温度の変化は該FET11のソース電圧やバイポーラトランジスタ24のコレクタ電圧に変動を与えるが、FETやバイポーラトランジスタの高周波特性を決定付ける主要な因子はドレイン電流やコレクタ電流であってソース電圧やコレクタ電圧ではないから何らこの発明の目的に影響を与えない。
【0028】また本発明の一実施例に係る構成によれば、FETにバイアスを与える定電流回路は第2の高周波増幅器として動作するので回路全体の消費電力効率を高める事ができる。
【0029】
【発明の効果】以上説明したように、この発明による高周波増幅器によれば、周囲温度の変化に対して利得や雑音指数が安定でかつ消費電力効率の高い高周波増幅器を実現し、更に量産に適した高周波増幅器を提供する事ができるという効果が得られる
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施例による高周波増幅器の構成を示す回路図である。
【図2】従来技術の一実施例による高周波増幅器の構成を示す回路図である。
【図3】電界効果トランジスタの直流特性を示す。
【図4】電界効果トランジスタの高周波特性を示す。
【符号の説明】
1 第1の信号増幅器
2 定電流回路兼第2の信号増幅器
11 電界効果タランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 電解効果トランジスタからなり、ドレイン電極に電源電圧が加えられ、ゲート電極に入力された信号を増幅してドレイン電極から出力する第1の信号増幅器と、前記電解効果トランジスタのソース電極とグラウンド間に接続された定電流回路を具備し、前記定電流回路は、バイポーラ型トランジスタからなり、コレクタ電極が前記電解効果トランジスタのソース電極に接続され、エミッタ電極がグラウンドに接続され、前記第1の信号増幅器から出力された信号をベース電極に入力して、増幅された信号をコレクタ電極から出力する第2の信号増幅器として機能することを特徴とする高周波増幅器
【請求項2】 前記バイポーラ型トランジスタのベース電極とグランドとの間にダイオードを含むバイアス電圧回路を設け、前記バイポーラ型トランジスタのベースエミッタ接合電圧の温度変動と前記ダイオードを含むバイアス電圧の温度による変動とをほぼ等しくしたことを特徴とする請求項1に記載の高周波増幅器

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【特許番号】特許第3177559号(P3177559)
【登録日】平成13年4月6日(2001.4.6)
【発行日】平成13年6月18日(2001.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−21966
【出願日】平成6年1月20日(1994.1.20)
【公開番号】特開平7−212144
【公開日】平成7年8月11日(1995.8.11)
【審査請求日】平成11年2月3日(1999.2.3)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【参考文献】
【文献】特開 昭50−132881(JP,A)
【文献】特開 昭61−26313(JP,A)
【文献】実開 昭55−76517(JP,U)