説明

高周波温熱治療装置

【課題】高周波を利用して、患部を含めた人体の体表から深部までの各部について、ほぼ均一な発熱分布を形成するための、新規な温熱治療装置を提供する。
【解決手段】高周波磁場を形成するための一対のコイルと、高周波電場を形成させるための一対の電極及び高周波電源から構成される高周波温熱治療装置において、上記コイルとして誘導加温用コイルを用い、かつ上記電極として、高周波渦電流を防ぐための誘電加温用のすだれ状若しくは樹枝状の電極を用い、誘電加温及び誘導加温を同時若しくは若干の時間差を設けて交互に加温可能にした高周波温熱治療装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者に対し、患部を含めた人体全体の体表から深部まで、ほぼ均一な発熱分布を形成させることができる高周波温熱治療装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高周波を利用した温熱治療装置としては、数多くのものが知られており、これまでに例えば、ホットスポットを生じることなく、深部加温を効率よく行うものとして、高周波磁界を被加温体に照射して被加温体に渦電流を発生させる磁極と、上記被加温体内の表面部付近の渦電流を吸収する吸収ボーラスとを備えた高周波温熱治療装置(特許文献1参照)、被加温体を挟むように設置された2つの磁芯と、この磁芯各々の同一方向端面が同一極性となるように巻着されるコイル巻き線と、このコイル巻き線に高周波電力を供給する高周波電力発生部とを備えた高周波温熱治療装置(特許文献2参照)、磁極を誘電体で構成した匡体に埋設し、非導電性冷却液で冷極するもので、磁極のコイルの一部を変形した磁界制御部とこれと独立した磁界制御用導線を備え、渦電流吸収体を配置した系を含めて電気的な共振を起させるように周波数を変更して最適な加熱状態を生じさせる加熱装置(特許文献3参照)、磁性コア及びこの磁性コアに巻着されるコイル巻き線で構成される磁極部と、被加温体の加温不要部分を冷却する冷却ボーラスとを一体的に設けた温熱治療用誘導加熱装置(特許文献4参照)、高周波磁場によって発生する誘導電流を用いて患部を加温する高周波誘電加温用のハイパーサーミア装置において、高周波電流を発生する高周波発生器と、該高周波発生器の出力する高周波電流が供給され、生体が載置される空間に向けて高周波磁束を発生するコイルと、生体組織より電気伝導度の高い液体が内部に充填され、前記コイルに高周波磁束の周囲に生じる誘導電流の環状の電流路の内、加温を必要とする部分以外の電流路を形成するパッドとを有するハイパーミア装置(特許文献5参照)などが提案されている。
【0003】
しかしながら、これまで提案されている高周波温熱治療装置は、コイルの中央部では発熱が少なく、周辺部で発熱が多くなるのを免れない上に、人体の中の電気伝導度の低い脂肪部分では発熱しにくいため、高周波加熱では誘電加熱、誘導加熱ともに発熱が不均一になり、温熱療法の治療効果の低下の原因になっている。
【0004】
【特許文献1】特開平5−245216号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献2】特開平5−245217号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献3】特開平7−155384号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献4】特開平5−245213号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献5】特開平3−71909号公報(特許請求の範囲その他)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高周波を利用して、患部を含めた人体の体表から深部までの各部について、ほぼ均一な発熱分布を形成するための、新規な温熱治療装置を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、高周波を利用した温熱治療装置について種々研究を重ねた結果、高周波磁場を形成させるための一対のコイルと高周波電場を形成させるための渦電流の流れにくい一対の電極を用い、周波数の異なる高周波磁場と高周波電場を同時に、又は時間差を設けて人体に印加することにより、人体の体表から深部までをほぼ均一に発熱させ得ることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、高周波磁場を形成するための一対のコイルと、高周波電場を形成させるための一対の電極及び高周波電源から構成される高周波温熱治療装置において、上記コイルとして誘導加温用コイルを用い、かつ上記電極として、高周波渦電流を防ぐための誘電加温用のすだれ状若しくは樹枝状の電極を用い、誘電加温及び誘導加温を同時若しくは若干の時間差を設けて交互に加温可能にしたことを特徴とする高周波温熱治療装置を提供するものである。
【0008】
一般に、誘電加温と誘導加温の発熱分布は不均一であるが、ほぼ互いに相補的な発熱分布になっている。本発明では誘電加温と誘導加温を併用し、誘電加温の電場と誘導加温の磁場がほぼ平行になるようにして電場と磁場を人体に加えることが必要である。この場合、誘電加温と誘導加温の電流が干渉しないように誘電加温と誘導加温では異なる周波数を用いるか、誘電加温と誘導加温では組織の熱的な時定数、例えば1〜3分程度の短い若干の時間差をおいて交互に加温し、干渉の効果が起こらないようにする。
【0009】
しかし、単に誘導加温用のコイルと人体の間に誘電加温用の大きな金属板の電極を設置したのでは、電極の金属板に高周波磁場の時間変化を食い止める向きに高周波渦電流が流れ、高周波磁場が遮蔽されてしまうため人体内に高周波磁場が入っていかない。
そこで、すだれ状若しくは樹枝状の電極を用いることにより、渦電流の発生を抑え、誘電加温と誘導加温を併用する。すだれ状若しくは樹枝状の電極にすれば、高周波磁場の中に置いても円環状の電流は、電極の金属がないので流れなくなり、渦電流による高周波磁場の発生がなくなる。このため外部からの高周波磁場が電極により遮蔽されず、電極があっても通過する。
【0010】
このようにして誘電加温と誘導加温を併用し、大きな体積にわたって発熱をほぼ均一にすることができる。電極とコイルの位置がずれると発熱分布が均一でなくなるので電極とコイルを一体化し、位置がずれないようにすることもできる。また電極直下の脂肪層の発熱が大きいので電極全体を冷却水の中に浸漬したり、電極と皮膚面の間に冷却水を流す袋を配置して冷却することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、誘電加温と誘導加温を併用することにより、大きな体積にわたって発熱をほぼ均一にすることができる。この結果、温熱療法の治療成績が向上し、医療の省エネルギー化、省経費化が図られることが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に添付図面に従って、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
図1は、本発明で用いるすだれ状電極とコイルの配置状態の1例を示す平面図及び側面図であり、すだれ状電極1の上方に誘電加温用コイル2が配置され、すだれ状電極1の適所から引き出された誘電加温用導線3が誘電加温用コイルのほぼ中心部を通って高周波電源に連結している。
【0013】
図2は、上記のすだれ状電極1に代えて樹枝状電極1を用いた場合の例であり、他の部品配置は図1の場合と同じである。
【0014】
図3は、1対の電極1,1´と1対のコイル2,2´を用いて人体モデル4を加温するときの状態を示す側面図であり、人体モデル4は、誘電加温用高周波電源5に2本の導線3,3´により連結された2個のすだれ状電極又は樹枝状電極1,1´とその外側に配置された、誘導加温用高周波電源6に2本の導線7,7´により連結された2個の誘導加温用コイル2,2´に挟まれた状態で処理される。8は共振用静電容量器、9は共振用インダクタである。
【0015】
参考例
銅線を10回巻き、直径6cmのコイル2つを作成し、約2cmの間隔で対向させた(24μH)。この際、一方には直列共振用コンデンサーを介在させた。銅線を直径2cmのリング状のループアンテナに形成し、2個のコイルを直列に連結し、コイルに高周波電流を流して高周波磁場を形成させた。
【0016】
この磁場をループアンテナにオシロスコープを接続して測定し、高周波磁場を測定した。次に、コイルの間にループアンテナを挟む形で2枚の銅板を挿入したところ、高周波磁場は測定できなくなった。これは銅板に高周波磁場の変動を抑える向きに渦電流が流れ、高周波磁場が遮蔽されたものと推定された。
そこで銅線を5mm間隔ですだれ状に配置し、縦の銅線とハンダで接着させ、直径3.5cmのすだれ状の電極を2つ作成した。このすだれ状の電極2枚でループアンテナを挟んでコイルの間隙に挿入して高周波磁場を発生したところ、ループアンテナで高周波電圧を測定することができた。さらに周波数を変えて直流共振を起こさせ、磁場強度が最大になる周波数を用いて誘導加温を行った。
【実施例1】
【0017】
図3に示す高周波温熱治療装置を用いて温熱実験を行った。
すなわち、寒天粉末13gに水292.6ml、食塩24.7gを加え、加熱することにより、食塩入り寒天を調製した(26.5cm:11.5cmの容器、深さ約5cm:以下7.5%濃度寒天とする)。このようにして得た、厚さ1cm、広さ11.5cm×11cmの食塩入り寒天サンプルを図3の2個のすだれ状の電極にはさみ、7.5%濃度寒天(約6.0×10.5×1.0cm)で誘電加温を行った。
【0018】
次に、サムウェイ社製高周波電源T161−5566A(周波数13.56MHz、強度調整用ターンスイッチの設定5.50)を用い、動作条件出力(FWD)90W、反射(REF)80Wの条件下で3分間加温した。この寒天の赤外線サーモグラフィーによる加温前と加温後の温度分布を観測し、加温後の温度はすだれ状電極の外側約15.4℃〜すだれ状電極の内側約18℃〜で誘電加温が行われている事を確認した。
【0019】
次いで、大きさ約11.0×10.5×0.9cmの7.5%濃度寒天を約13.0〜14.0℃で2分間加熱した。この際の条件は、誘導加温周波数9.7MHz(AEROFLEX Signal Generator 2023A + サムウェイ社製高周波増幅器T145−5546C)AEROFLEX Signal Generator 2023Aの強度設定−18dBm サムウェイ社製高周波増幅器の出力(FWD)20W、反射(REF)7W、13.56MHz(サムウェイ社製高周波電源T161−5566A、誘電加温)、出力設定5.50、反射警告ランプ点灯、出力(FWD)90W、反射(REF)100Wであった。
その結果、温度上昇及び均一的な発熱が認められた
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明で用いるすだれ状電極とコイルの配置状態の1例を示す平面図及び側面図。
【図2】図1のすだれ状電極1に代えて樹脂状電極1を用いた場合の例。
【図3】1対の電極と1対のコイルを用いて人体モデルを加温するときの状態を示す側面図。
【符号の説明】
【0021】
1,1´電極
2,2´コイル
3,3´,7,7´導線
4 人体モデル
5 誘電加温用高周波電源
6 誘導加温用高周波電源
8 共振用静電容量器
9 共振用インダクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波磁場を形成するための一対のコイルと、高周波電場を形成させるための一対の電極及び高周波電源から構成される高周波温熱治療装置において、上記コイルとして誘導加温用コイルを用い、かつ上記電極として、高周波渦電流を防ぐための誘電加温用のすだれ状若しくは樹枝状の電極を用い、誘電加温及び誘導加温を同時若しくは若干の時間差を設けて交互に加温可能にしたことを特徴とする高周波温熱治療装置。
【請求項2】
周波数の異なる高周波磁場と高周波電場とをほぼ平行に印加し得る請求項1記載の高周波温熱治療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−200296(P2008−200296A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−40086(P2007−40086)
【出願日】平成19年2月20日(2007.2.20)
【出願人】(593232206)学校法人桐蔭学園 (33)
【Fターム(参考)】