説明

高周波誘電体装置

【目的】 オーム損失が低減された誘電体装置、とりわけ高周波成分の損失が低減された高周波アプリケーション用の誘電体装置であって、とりわけ、そのような多層誘電体装置を提供することにある。
【構成】 本発明による誘電体装置は、導体(6)が上面に設けられた誘電体(1)と該誘電体(1)上に積層される他の誘電体(7)とを少なくとも有する誘電体装置において、前記導体(6)の側方端部(8)近傍に各前記誘電体(1、7)の誘電率よりも小さい誘電率を持つ誘電体(9)が設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、誘電体装置、とりわけ、フィルタ等の高周波アプリケーション用の誘電体装置に係り、とりわけ、多層誘電体装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、例えば、フィルタ等の高周波アプリケーション用の誘電体装置は、以下のように形成される。
【0003】先ず、誘電体材料、例えば、セラミック材料からなるグリーンシートを用意し、該シート上の所望位置に例えばシルク印刷により銀を主成分とし適量の有機バインダーが含有された電極ペーストを塗布し乾燥させ、内部電極を形成する。詳細に説明すると、図3に図的に示されるように、セラミックグリーンシート1上の所望位置に、所望の形状の開口、本例においてはスクリーンメッシュ2が設けられているスクリーンステンシルマスク3が位置合わせされる。次いで、電極ペースト4がマスク3上に与えられ、ラバースクイジー5を用いて例えば図の矢印の方向に塗り延ばされる。この結果、電極ペースト3はスクリーンメッシュ2を通してグリーンシート1上に塗布され、乾燥後内部電極が形成される。
【0004】次いで、図4に図的に示されるように、上面に内部電極6が印刷されたグリーンシート1に他のセラミックグリーンシート7が積層され、これらシート同志を密着させるためにプレスが行われる。次いで、過熱による焼結処理が施される。他のグリーンシート7は、シート1と同様に電極が上面に設けられる場合もあれば、何も設けられていないダミーのグリーンシートの場合もある。多層誘電体装置の場合、このように上面に電極が設けられたグリーンシートと電極が設けられていないダミーのグリーンシートとが所望の枚数組合わされることになる。最後に、所定の側面に所定の外部電極が設けられ、誘電体装置が形成される。
【0005】図5は、このように形成された従来の高周波誘電体装置の一部の厚さ方向に切り取った断面の概略図である。図5から明らかなように、従来の高周波誘電体装置においては、内部電極6は平坦で且つ該電極の側方端部8が鋭い先細りの形状を呈する。これは、当該誘電体装置のとりわけ焼結前のプレスにより、内部電極6が当該装置の厚さ方向に圧せられた結果もたらされたものである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】周知の通り、導体を電流が流れる場合、表皮効果により導体内部の電流は小さくなり、導体表面に電流が集まる傾向がある。これは、特に高周波数になるに連れ顕著なものになる。即ち、高周波電流が導体を流れる場合、表皮効果のため電流は導体の表面に集中し、該導体の有効断面積が小さくなる結果見かけ上電気抵抗が増大することになる。これは、電流成分のオーム損失を引き起こす。
【0007】ここで、図5に示される高周波誘電体装置に高周波電流が流れる場合、表皮効果により該電流は内部電極6の表面に集中する。とりわけ、図5に示される従来の高周波誘電体装置は、図示のように内部電極6が平坦で且つ側方端部8が鋭い先細りの形状であるため、表皮効果は横方向(図における左右方向)において強く作用し、故に、断面積が小さい前記端部8で電流が集中し、高電流密度が生じる。この結果、多大な高周波成分のオーム損失が生じる。
【0008】このような高電流密度による高周波成分のオーム損失は、高周波アプリケーション用の誘電体装置の性質上好ましくない。とりわけ、多層誘電体装置の場合、この損失による影響は大きくなる。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は以上の点に着目してなされたもので、オーム損失が低減された誘電体装置、とりわけ高周波成分の損失が低減された高周波アプリケーション用の誘電体装置であって、とりわけ、そのような多層誘電体装置を提供することにある。
【0010】又、本発明の目的は、上述のような誘電体装置を形成する方法を提供することにもある。
【0011】上記目的を達成するために、本発明による装置は、導体が上面に設けられた誘電体と該誘電体上に積層される他の誘電体とを少なくとも有する誘電体装置において、前記導体の側方端部近傍に各前記誘電体の誘電率よりも小さい誘電率を持つ誘電体が設けられていることを特徴とする。
【0012】上述のように誘電率の異なる誘電体を導体近傍、とりわけ導体の先端部分近傍に設けることにより、該導体を流れる電流は、より誘電率の高い誘電体に引きつけられる。即ち、前記導体の側方端部における電流の集中が緩和され、電流集中に起因する電流成分のオーム損失を低減することができる。
【0013】本発明の好ましい実施例は、前記導体の前記側方端部に面して空隙が設けられていることを特徴としている。
【0014】上述の構成によれば、前記空隙は略々空気しか存在せず、空気の誘電率は誘電体の誘電率と比較して著しく低いので、前記空隙に面する導体の側方端部における電流の集中を緩和させるのに極めて有利である。
【0015】また、本発明による誘電体装置を形成する方法は、誘電体上に導体を設ける工程と該誘電体上に他の誘電体を積層する工程とを少なくとも有する誘電体装置を形成する方法において、前記導体が設けられた前記誘電体上に前記他の誘電体が積層された後、前記導体が変形し該導体の側方端部に面して空隙を形成するように過熱温度が制御される焼結処理を施す工程と、該空隙を保つように当該装置を冷却する工程とを有することを特徴とする。
【0016】前述のように、誘電体装置の製造工程においては、通常当該装置の厚さ方向にプレスが行われる。このプレスにより誘電体間で前記導体は圧され、該導体は平坦且つその側方端部が鋭い先細りの形状を呈する。しかしながら、本発明の方法によれば、前記焼結処理において、過熱温度が、前記導体が変形するような温度で、とりわけ、該導体が溶融しその側方端部が表面張力により丸みを帯びた形状に変形するように該導体の融点以上の温度で精密に制御される。この結果、前記側方端部に面して空隙が形成される。この後、該状態を保つように冷却処理を施すことにより、当該誘電体装置は形成される。このように形成された誘電体装置は、誘電体の誘電率の差に起因して導体の側方端部における電流の集中が緩和されると共に、該端部の形状が丸みを帯びているため導体表面の電流密度の局部的集中も回避することができる。即ち、オーム損失の低減に極めて効果的である。
【0017】本発明は、いかなる高周波アプリケーション用の誘電体装置を目論むものである。
【0018】
【実施例】図1は、本発明による第1の実施例の高周波アプリケーション用の誘電体装置の一部の厚さ方向に切り取った断面の概略図である。図1において、図5に示される構成要素と同一の構成要素には、同一の参照番号が付されている。従来の装置との相違点は、とりわけ、側方端部8に面して空隙9が設けられることである。
【0019】本実施例の高周波誘電体装置は、以下のように作成されるが、焼結処理を除いては従来の装置と同様である。即ち、先ず、誘電体材料、例えば、セラミック材料からなるグリーンシートを用意し、該シート上の所望位置に例えばシルク印刷により銀を主成分とし適量の有機バインダーが含有された電極ペーストを塗布し乾燥させ、内部電極を形成する。詳細に説明すると、図3に示されるように、セラミックグリーンシート1上の所望位置に、所望の形状の開口、本例においてはスクリーンメッシュ2が設けられているスクリーンステンシルマスク3が位置合わせされる。次いで、電極ペースト4がマスク3上に与えられ、ラバースクイジー5を用いて例えば図の矢印の方向に塗り延ばされる。この結果、電極ペースト3はスクリーンメッシュ2を通してグリーンシート1上に塗布され、乾燥後内部電極が形成される。
【0020】次いで、図4に示されるように、上面に内部電極6が印刷されたグリーンシート1に他のセラミックグリーンシート7が積層され、これらシート同志を密着させるためにプレスが行われる。次いで、過熱による焼結処理が施される。他のグリーンシート7は、シート1と同様に電極が上面に設けられる場合もあれば、何も設けられていないダミーのグリーンシートの場合もある。多層誘電体装置の場合、このように上面に電極が設けられたグリーンシートと電極が設けられていないダミーのグリーンシートとが所望の枚数組合わされることになる。そして、所定の側面に所定の外部電極が設けられ、誘電体装置が形成される。
【0021】本実施例においては、焼結処理工程の過熱温度が、内部電極6の融点以上に制御される。これにより、内部電極6は溶融し、空隙9が該電極の側方端部8に面して形成され且つ溶融した該電極の該端部が表面張力により丸みを帯びた形状に変形する。そして、該状態を保つように冷却することにより、図1に示されるような誘電体装置が形成される。
【0022】空隙9は、誘電体、本実施例においてはセラミックの誘電率よりも著しく低い誘電率を持つため、内部電極6を流れる高周波電流は、該電極の表面付近に集中せず、該電極の中心付近の広い領域を流れることになる。即ち、オーム損失に起因する高周波成分の損失を著しく低減させることができる。また、上述のように内部電極6の端部8が丸みを帯びた形状であるため、該電極表面の電流密度の局部的集中を回避することができる利点を有する。
【0023】内部電極の材料として銀を主成分とし適量の有機バインダーが含有された材料を用いたが、焼結処理による溶融時に表面張力が増すような金属を添加すると一層効果的であろう。
【0024】図2は、本発明による第2の実施例を示している。図2において、図1と同一の構成要素には同一の参照番号が付されている。本発明による第1の実施例と第2実施例との相違点は、内部導体6の側方端部8の近傍に誘電体1、7、即ち、この例においてはセラミックの誘電率よりも小さな誘電率を持つ誘電体10が設けられていることである。このような誘電体10の例としては、ガラス、マイカ等であり、これらを含むセラミックでも良いであろう。
【0025】図2に示される誘電体を形成する場合、例えば、誘電体1上に該誘電体1よりも誘電率の低い誘電体10の下側部11が先ず所定位置に設けられる。次いで、側方端部8が誘電体10上に配置されるように内部電極6が誘電体1上面に設けられる。その後、側方端部8上に誘電体10の上側部12が設けられた後、他の誘電体7を積層する工程に進んでいく。なお、この第2の実施例においては、焼結処理において、過熱温度を内部電極6の融点以上にする必要はないであろう。
【0026】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本願発明による誘電体装置は、とりわけ高周波成分の損失が好ましくないいかなる高周波アプリケーション用の誘電体装置において有利に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による第1の実施例の高周波アプリケーション用の誘電体装置の一部の厚さ方向に切り取った断面の概略図である。
【図2】本発明による第2の実施例の高周波アプリケーション用の誘電体装置の一部の厚さ方向に切り取った断面の概略図である。
【図3】従来の高周波アプリケーション用の誘電体装置における内部電極を設ける工程を図的に示す概略図である。
【図4】従来の高周波アプリケーション用の誘電体装置の内部電極を設けた後の積層及びプレス工程を図的に示す概略図である。
【図5】従来の高周波アプリケーション用の誘電体装置の一部の厚さ方向に切り取った断面の概略図である。
【符号の説明】
1、7:誘電体
6:内部電極
8:側方端部
9:空隙
10:誘電率の低い誘電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】 導体が上面に設けられた誘電体と該誘電体上に積層される他の誘電体とを少なくとも有する誘電体装置において、前記導体の側方端部近傍に各前記誘電体の誘電率よりも小さい誘電率を持つ誘電体が設けられていることを特徴とする誘電体装置。
【請求項2】 請求項1に記載の誘電体装置において、前記導体の前記側方端部に面して空隙が設けられていることを特徴とする誘電体装置。
【請求項3】 請求項1又は2に記載の誘電体装置において、当該誘電体装置は高周波アプリケーション用であることを特徴とする誘電体装置。
【請求項4】 誘電体上に導体を設ける工程と該誘電体上に他の誘電体を積層する工程とを少なくとも有する誘電体装置を形成する方法において、前記導体が設けられた前記誘電体上に前記他の誘電体が積層された後、前記導体が変形し該導体の側方端部に面して空隙を形成するように過熱温度が制御される焼結処理を施す工程と、該空隙を保つように当該装置を冷却する工程とを有することを特徴とする誘電体装置を形成する方法。
【請求項5】 誘電体上に導体を設ける工程と該誘電体上に他の誘電体を積層する工程とを少なくとも有する誘電体装置を形成する方法において、前記他の誘電体の積層工程に先立ち、前記導体の側方端部近傍に各前記誘電体の誘電率よりも小さい誘電率を持つ誘電体を設ける工程を有することを特徴とする誘電体装置を形成する方法。
【請求項6】 請求項4又は5に記載の方法により形成される高周波アプリケーション用の誘電体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2000−156621(P2000−156621A)
【公開日】平成12年6月6日(2000.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−329421
【出願日】平成10年11月19日(1998.11.19)
【出願人】(000112451)日本フィリップス株式会社 (2)
【Fターム(参考)】