説明

高圧ガス放電ランプ

本発明は、壁が主としてセラミック材料、すなわち多孔質アルミニウム酸化物材料(PCA)、YbAG、またはYAG材料で構成された、内部ランプ外囲器またはバーナーを少なくとも有する高圧ガス放電ランプであって、前記壁の表面の少なくとも一部には、少なくとも干渉フィルタが配置され、前記干渉フィルタは、いくつかの層で構成され、この層構造内には、屈折率の高い層と屈折率の低い層とが交互に設置され、前記屈折率の低い層は、主としてAlで構成され、当該ランプの作動の際に、前記壁の最大温度は、1400Kを超えることを特徴とする高圧ガス放電ランプに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁が主としてセラミック材料、すなわち多孔質アルミニウム酸化物材料(PCA)、YbAG、またはYAG材料で構成された、内部ランプ外囲器またはバーナーを少なくとも有する高圧ガス放電ランプであって、
前記壁の表面の少なくとも一部には、少なくとも干渉フィルタが配置された、高圧ガス放電ランプに関する。前記干渉フィルタは、いくつかの層で構成され、この層構造内には、屈折率の高い層と屈折率の低い層とが交互に設置される。
【背景技術】
【0002】
市販の高圧ガス放電ランプ(HID−[高強度放電]ランプ)および特にUHP−(超高特性)ランプは、それらの光学特性のため、例えば投射目的で使用されることが好ましい。通常の場合、これらのランプは、バーナーまたは内部ランプ外囲器を有し、この外囲器は、主として石英材料で構成される。従って、これらのランプの作動温度は、使用石英材料により制限され、外囲器の最も高温となる箇所でも、最大で約1200から1370Kである。
【0003】
また、少なくともバーナーまたは内部ランプ外囲器を有し、その壁が主としてセラミック材料で構成されるセラミック高圧ガス放電ランプも、高圧ガス放電ランプの範疇に属する。そのような材料は、例えば、多結晶アルミニウム酸化物(PCA[多結晶アルミナ])、イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)またはイッテリビウムアルミニウムガーネット(YbAG)である。
【0004】
セラミック高圧ガス放電ランプのランプ外囲器またはバーナー上に、例えば干渉フィルタの光学層を一体化することにより、光装置の設計が実質的に単純化される。
【0005】
そのような干渉フィルタは、規則的な多層構造を有する。干渉フィルタの多層構造により、大きな屈折率を有する層と、小さな屈折率を有する層とが交互に設置される。各層の屈折率は、特に、選択された層の材料によって定められ、層構造内には、少なくとも2つの異なる誘電体材料が形成される。
【0006】
フィルタの透過特性および反射特性は、フィルタの異なる層の構造によって定められ、特に、それらの層の厚さによって定められる。基本的に、フィルタの個々の層の間の屈折率の差異が大きくなると、所望のスペクトルの目的機能を実現しやすくなる。層の材料間で屈折率の値の差が大きくなると、しばしば交互積層される層の数、さらには干渉フィルタの総厚を抑制することができる。
【0007】
ランプ外囲器が特に石英等で構成される場合、しばしば、屈折率のより小さな層の材料としてSiOが使用される。屈折率の大きな層材料を選択する場合、UHPランプの通常の作動温度では、通常、温度の上限が約1000℃であることを考慮する必要がある。この点に関して、例えばジルコニウム酸化物(ZrO)は、十分な温度安定性を有する。しかしながら、ジルコニウム酸化物は、石英に比べて、実質的にかなり高い熱膨張係数を有する。従って、特にUHPランプのような高圧ガス放電ランプの高い作動温度では、干渉フィルタの層間に歪みが生じ、この歪みによって、フィルタ内にその破壊につながるクラックが形成され、あるいは好ましくない大きな光散乱が生じる恐れがある。
【0008】
また、少なくともバーナーまたは内部ランプ外囲器を有するセラミック高圧ガス放電ランプがあり、これは、主として、例えば米国特許第6,741,033B2号で知られる、またはそれに記載の、多結晶アルミニウム酸化物材料(PCA)で構成される。これらのランプの最大作動温度は、通常1400K以上である。例えば、HPS−[高圧ナトリウム]フィリップスランプのような高圧ガスナトリウム蒸気ランプ、およびCDM−[セラミック放電金属ハロゲン化物]フィリップスランプのような高圧金属ハロゲン蒸気ランプは、セラミック高圧ガス放電ランプの範疇に属する。
【0009】
各用途に応じて、通常HPSランプの最大作動温度は、約1450〜1600Kの間にある。例えば小売店、映画館および道路で使用されるような、通常の照明目的で使用される高光度CDM−ランプの場合、作動温度は、約1400から1500Kの間であり、例えば、主ヘッドライトのような車両用ランプのCDM−の場合、約1650から1750Kの間である。
【0010】
またこれらのセラミック高圧ガス放電ランプの場合、その壁は、主としてセラミック材料、例えば、多結晶アルミニウム酸化物(PCA)を含んでおり、これは、高圧ガス放電ランプのランプ外囲器またはバーナーに、例えば干渉フィルタのような光学層を積層することにより生じる利点を利用することに対して要望がある。石英等のランプ外囲器を有する高圧ガス放電ランプから、既知のフィルタシステムへの移行は、セラミック材料を有するランプでは難しい。しばしば、SiOは、屈折率が低い層の材料として使用され、1400Kを超える作動温度では、使用することができない。
【0011】
また、ある用途では、作動温度に到達した際に、開発されたランプの熱システムが崩壊せず、特に、ランプの作動信頼性が損なわれないことが望まれている。
【0012】
市販のランプに最適化されたこの熱システムは、しばしば、放電管の温度領域に影響を及ぼし、変化を及ぼす手段と、極めて敏感に反応する。壁の外表面への反射層の適用は、しばしば、そのような手段を表し、通常、ランプの作動温度は、コーティングされていないそのようなランプに比べて上昇する。
【0013】
例えば、多層化干渉フィルタのようなコーティングの適用によって、壁の表面に変化した熱放射線が規則的に得られ、これにより、しばしばランプは、未コーティング表面に比べて、低い温感を与え、その結果、作動温度が比較的上昇する。
【0014】
ランプの寿命をあまり短くしないようにするため、例えば、放電管の内面が最も高温になっても、その温度は、最大許容壁温度を超えることはない。
【特許文献1】米国特許第6,741,033B2号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、本発明の基本となる本発明の課題は、前述のタイプのセラミック高圧ガス放電ランプ、あるいはそのようなランプを有する照明ユニットを提供することであり、これらの内部ランプ外囲器またはバーナーは、それぞれ、有効な干渉フィルタを有し、この干渉フィルタは、最大壁温度に適合する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の課題は、請求項1の特徴的構成によって達成される。
【0017】
本発明によるこの高圧ガス放電ランプは、壁が主としてセラミック材料、すなわち多孔質アルミニウム酸化物材料(PCA)、YbAG、またはYAG材料で構成された、内部ランプ外囲器またはバーナーを有する。前記壁の表面の少なくとも一部には、少なくとも干渉フィルタが配置され、前記干渉フィルタは、複数の層で構成され、この層構造内には、屈折率の高い層と屈折率の低い層とが交互に設置され、前記屈折率の低い層は、主としてAlで構成され、当該ランプの最大温度は、1400Kを超える。
【0018】
本発明による解決策は、特に、PCAランプを用いた広範な実験、すなわち干渉フィルタに関して、最も異なる構成を用いた実験によって得られた結果に基づくものである。これらの結果は、特に、セラミック高圧ガス放電ランプでは、コーティング材料の選択、個々の層の構成および層構造内のそれらの配置が、所望のスペクトルの目的機能を得る上での実質的な重要性を持つということの認識を含む。
【0019】
また、そのような干渉フィルタを有するセラミック高圧ガス放電ランプによって、新たな構成の可能性および使用領域が広がる。
【0020】
干渉フィルタの材料の予備選定、およびフィルタの各層の適用の方法は、通常の方法で行われ、特に、各用途に関連して行われる。選択された材料は、例えば、できるだけ吸収性の低いものである必要がある。また、これらの材料は、十分な温度安定性を有し、すなわち特に、ランプの各最大作動温度に対応する必要がある。
【0021】
従属請求項には、本発明のさらなる態様の利点が含まれる。
【0022】
大きな屈折率を有する干渉フィルタの層は、主として、ジルコニウム酸化物(ZrO)材料で構成されることが好ましく、この材料は、アルミニウム酸化物Alよりも高い屈折率を有する。ZrOは、これの吸収性が低いこと、および他の材料の中でも良好な温度耐久性を有する点で、特に好ましい。
【0023】
あるいは、高い屈折率を有する干渉フィルタの層は、チタン酸化物、タンタル酸化物およびこれらの材料の組み合わせからなる群の材料で構成されることが好ましい。
【0024】
本発明の範囲では、前述の材料とは別に、あるいはこれらと混合されて、さらに別の材料を使用しても良く、これらの材料は、例えば、その適用性に関する評価に応じて変更される。
【0025】
また、ランプは、例えば、HPSランプのような、約1450から1700Kの間の最大作動温度を有する、セラミック高圧ナトリウム蒸気ランプであることが好ましい。
【0026】
あるいは、ランプは、例えば、CDMランプのような、約1450Kから1750Kの間の最大作動温度を有するセラミック金属ハロゲン蒸気ランプであることが好ましい。
【0027】
干渉フィルタを製作する好ましい方法は、既知の薄膜技術の標準的な方法であり、特に、蒸発、スパッタリング、化学気相分離、レーザ処理または浸漬法によるものである。
【0028】
さらに、本発明の課題は、請求項1乃至7のいずれか一つに記載の少なくとも一つのランプを有する、照明ユニットによって達成される。そのような本発明による少なくとも高圧ガス放電ランプを有する照明システムは、様々な用途に適用することができる。
【0029】
例えば、街灯照明としてのセラミック高圧ナトリウム蒸気ランプについて示すと、ランプがほぼ水平な位置に導入される場合(または水平に対して15゜の角度の場合)、多層干渉フィルタは、バーナーの低い部分に配置される。従って、道路の照明の均一性が改善される。
【0030】
さらに、建築物内の照明ユニット、例えば上部または下方からの放射照明としてのセラミック高圧金属ハロゲン蒸気ランプについて示すと、これらは、ダウンライトまたはアップライトと呼ばれる。これらの照明ユニットを使用した場合、反射器およびレンズは、光照明システム内に規則的に統合される。ランプが垂直位置に導入される場合、多層化干渉フィルタは、バーナー表面上のランプ軸の周囲の1または2以上の区画に配置される。バーナー表面区画の配置は、干渉フィルタで被覆され、バーナー軸に対称な干渉フィルタで被覆されたいかなる表面も、相互に対向しないようにされる。
【0031】
干渉フィルタは、それが70%以上の入射可視光を反射するように構造化される。従って、反射した光は、外囲器によって、未コーティングのバーナー壁とは反対の方向に誘導され、バーナーからそこに現れる。これにより、干渉フィルタを有さないランプでのこの方向の光強度に比べて、同方向の光強度が向上する。
【0032】
このように、ランプの光分布は、干渉フィルタの形状による影響を受ける。これにより、ランプ製造者の設計自由度が高まる。例えば、通常円形の反射器のセグメントが干渉フィルタによって陰影化されると、光の実質的な損失を補填しない限り、これらの陰影化された反射器の一部は、もはや使用できなくなる。その結果、新しいランプ設計が可能となる。
【0033】
本発明のこれらのおよび他の態様は、後述の実施例から明らかであろう。ただし、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
図1の表には、27層の干渉フィルタの層構造が示されている。これは、セラミック高圧ガス放電ランプのバーナーの外表面のサブ領域に配置される。バーナーは、従来から良く知られているものであり、特に形状および構造が従来のバーナーであり、主として多結晶アルミニウム酸化物材料(PCA)で構成される。実験室レベルの押出操作によって製作された、高圧ガス放電ランプのバーナーの管状ベース板の外表面は、研磨され平坦化される。干渉フィルタの構造は、以下のスペクトル対象機能が得られるように選択され、すなわち、400Nmから700Nmの範囲で、40%を超える部分反射が得られるように選択される。従って、干渉フィルタは、コールドミラーと呼ばれる機能に適している。
【0035】
干渉フィルタ3の2つの異なる層3.1および3.2は、特に、異なる屈折率を有することに特徴があり、屈折率が低い層と、屈折率の高い層が、交互に続いている。屈折率の低いAlは、層3.2の材料として機能し、ZrOは、屈折率がより高い層3.1の材料として機能する。
【0036】
干渉フィルタ3の層としての適用は、既知のスパッタリング法を用いた製造過程で行われる。
【0037】
この干渉フィルタは、27の層構造を有し、Al層の全厚さは、約1064.5nmであり、ZrO層の全厚さは、約1087.5nmである。従って、フィルタの全厚は、2152nmである。この干渉フィルタは、室温から約1400Kまでの温度範囲において、要求される温度安定性を有する。
【0038】
本発明によるランプを、ほぼ水平なランプ導入位置を有する道路の照明用途に使用する場合、干渉フィルタは、ランプの低い領域に配置され、例えば、セラミック高圧ガス放電ランプのバーナーの外表面のランプ軸に対して、約150゜の領域に配置される。従って、少なくとも一つの反射器を有する照明ユニットを有するランプにおいて、ランプが作動状態にあるとき、干渉フィルタは、道路の方向を向く。従って、放射光の一部は、道路に照射される前に、干渉フィルタおよび反射器で反射される。フィルタによって、400nmから700nmの波長領域の直接放射が、そのようなフィルタを有さないランプに比べて40%以上抑制される。
【0039】
従って、ランプのぎらつきが有意に抑制され、道路の照明領域の中心領域内での、道路の照明の均一性が改善される。反射光は、直接道路に到達する光に比べて、より道路全体に分散される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】セラミック高圧ガス放電ランプの27層の干渉フィルタの層構造を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁が主としてセラミック材料、すなわち多孔質アルミニウム酸化物材料(PCA)、YbAG、またはYAG材料で構成された、内部ランプ外囲器またはバーナーを少なくとも有する高圧ガス放電ランプであって、
前記壁の表面の少なくとも一部には、少なくとも干渉フィルタが配置され、
前記干渉フィルタは、複数の層で構成され、この層構造内には、屈折率の高い層と屈折率の低い層とが交互に設置され、
前記屈折率の低い層は、主としてAlで構成され、
当該ランプの作動の際に、前記壁の最大温度は、1400Kを超えることを特徴とする高圧ガス放電ランプ。
【請求項2】
好ましくは、前記干渉フィルタの前記屈折率の高い層は、主として、Alよりも屈折率の高いジルコニウム酸化物(ZrO)材料で構成されることを特徴とする請求項1に記載のランプ。
【請求項3】
前記屈折率の高い層は、チタン酸化物、タンタル酸化物およびこれらの材料の混合物からなる群の材料で構成されることを特徴とする請求項1に記載のランプ。
【請求項4】
当該ランプは、セラミック高圧ナトリウム蒸気ランプであり、最大作動温度が約1450Kから1700Kの間にあることを特徴とする請求項1に記載のランプ。
【請求項5】
当該ランプは、街灯照明用のセラミック高圧ナトリウム蒸気ランプであることを特徴とする請求項4に記載のランプ。
【請求項6】
当該ランプは、セラミック高圧金属ハロゲン蒸気ランプであり、最大作動温度は、約1450Kから1750Kの間にあることを特徴とする請求項1に記載のランプ。
【請求項7】
当該ランプは、建造物照明用のセラミック高圧金属ハロゲン蒸気ランプであることを特徴とする請求項6に記載のランプ。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一つに記載の少なくとも一つのランプを有する照明ユニット。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2008−541369(P2008−541369A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−510699(P2008−510699)
【出願日】平成18年5月5日(2006.5.5)
【国際出願番号】PCT/IB2006/051415
【国際公開番号】WO2006/120621
【国際公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】