説明

高圧コンデンサ電流推定方法及びその装置

【課題】安全にしかも精度良く高圧コンデンサの電流を推定できる高圧コンデンサ電流推定方法及びその装置を提供することである。
【解決手段】三相高圧配電系統の高圧コンデンサの電圧を所定のサンプリング周期で測定し、測定した高圧コンデンサの電圧の1サイクル分の測定電圧波形をフーリェ変換し、測定電圧波形に含まれる各高調波の次数毎に微分を行った後に逆フーリェ変換し、高圧コンデンサの容量を乗算して高圧コンデンサの電流を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、三相高圧配電系統に接続される力率改善用コンデンサ等の高圧コンデンサの電流を推定する高圧コンデンサ電流推定方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、三相高圧配電系統には力率改善用コンデンサ等の高圧コンデンサが数多く散在しており、これらは配電線インピーダンスとともにLRC閉回路を構成している。このLRC閉回路の近傍に整流器負荷が存在し、整流器の転流等により周期的な過渡動揺が発生すると、LRC閉回路の固有周波数による振動が誘起される。これにより、高圧コンデンサに過電流が流れ電磁騒音や過熱などが生じる。従って、電磁騒音や過熱の発生時には、実態把握のため高圧コンデンサの電流の測定が必要となる。
【0003】
高圧コンデンサの電流の測定は、高圧測定用の変流器により直接測定している。例えば、需要家の変電設備内に設置されている力率改善用コンデンサ(SC)のうちの1つに変流器を挿入して充電電流を計測し、これを周波数分析して共振周波数とその強度を求め、配電系統内の障害となる高調波を発生する整流器負荷を短時間で高精度かつ確実に特定するようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−64372号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、高圧コンデンサの電流の測定を高圧測定用の変流器により直接測定するには、需要家の変電設備内に設置されている力率改善用コンデンサのうちの1つに変流器を挿入することになり、高圧活線作業となるため安全性に十分注意を払わなければならない。また、狭いキュービクル内に高圧の変流器を設置することが難しい。
【0005】
本発明の目的は、安全にしかも精度良く高圧コンデンサの電流を推定できる高圧コンデンサ電流推定方法及びその装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明に係わる高圧コンデンサ電流推定方法は、三相高圧配電系統の高圧コンデンサの電圧を測定し、測定した高圧コンデンサの電圧の1サイクル分の測定電圧波形をフーリェ変換し、測定電圧波形に含まれる各高調波の次数毎に微分を行った後に逆フーリェ変換し、高圧コンデンサの容量を乗算して高圧コンデンサの電流を推定することを特徴とする。
【0007】
請求項2の発明に係わる高圧コンデンサ電流推定方法は、三相高圧配電系統の高圧コンデンサが接続された2つの線間電圧を測定し、測定した2つの線間電圧の差電圧から測定ノイズを抑制した高圧コンデンサの電圧を求め、求めた高圧コンデンサの電圧の1サイクル分の測定電圧波形をフーリェ変換し、測定電圧波形に含まれる各高調波の次数毎に微分を行った後に逆フーリェ変換し、高圧コンデンサの容量を乗算して高圧コンデンサの電流を推定することを特徴とする。
【0008】
請求項3の発明に係わる高圧コンデンサ電流推定方法は、三相高圧配電系統の高圧コンデンサの電圧を所定のサンプリング周期で測定し、あるサンプリング時点のサンプリング値とそのサンプリング時点の1サンプリング前または後のサンプリング値との差分により差分近似して測定電圧の微分値を求め、求めた微分値に高圧コンデンサの容量を乗算して高圧コンデンサの電流を推定することを特徴とする。
【0009】
請求項4の発明に係わる高圧コンデンサ電流推定方法は、三相高圧配電系統の高圧コンデンサが接続された2つの線間電圧を測定し、測定した2つの線間電圧の差電圧から測定ノイズを抑制した高圧コンデンサの電圧を所定のサンプリング周期で測定し、あるサンプリング時点のサンプリング値とそのサンプリング時点の1サンプリング前または後のサンプリング値との差分により差分近似して測定電圧の微分値を求め、求めた微分値に高圧コンデンサの容量を乗算して高圧コンデンサの電流を推定することを特徴とする。
【0010】
請求項5の発明に係わる高圧コンデンサ電流推定方法は、請求項3または請求項4の発明において、前記差分近似して推定された高圧コンデンサの電流に対し、含有率の最も高い高調波成分の補正係数で対周波数誤差を補正することを特徴とする。
【0011】
請求項6の発明に係わる高圧コンデンサ電流推定装置は、三相高圧配電系統の高圧コンデンサの電圧を所定のサンプリング周期でA/D変換するA/D変換器と、A/D変換器で得られた高圧コンデンサの電圧の1サイクル分の測定電圧波形をフーリェ変換するフーリェ変換手段と、測定電圧波形に含まれる各高調波の次数毎に微分を行う微分演算手段と、微分演算手段で得られた演算結果を逆フーリェ変換し微分された測定電圧波形を求める逆フーリェ変換手段と、逆フーリェ変換手段で得られた微分された測定電圧波形に高圧コンデンサの容量を乗算して高圧コンデンサの電流を求める電流算出手段とを備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項7の発明に係わる高圧コンデンサ電流推定装置は、三相高圧配電系統の高圧コンデンサの電圧を所定のサンプリング周期でA/D変換するA/D変換器と、A/D変換器で得られた高圧コンデンサの電圧のあるサンプリング時点のサンプリング値とそのサンプリング時点の1サンプリング前または後のサンプリング値との差分により差分近似して測定電圧の微分値を求める電圧微分値演算手段と、電圧微分値演算手段で求めた測定電圧の微分値に高圧コンデンサの容量を乗算して高圧コンデンサの電流を求める電流算出手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、直接高圧コンデンサの電流を測定するのではなく、電力量計などで測定している高圧コンデンサの電圧波形から電流波形を推定演算して求めるので、高圧コンデンサの接続線に変流器を挿入する高圧活線作業が不要となり安全性が確保される。また、電流推定に用いる電圧として2つの線間電圧の差電圧を用いるので、測定ノイズを抑制でき、精度良く高圧コンデンサの電流を推定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(第1の実施の形態)
まず、本発明で高圧コンデンサの電流を求める原理について説明する。高圧コンデンサの電流を変流器を設置して直接測定するのではなく、高圧コンデンサの電圧波形から電流波形を推定演算して求める。例えば、三相の高圧コンデンサのV相電流ivは、V相電圧vv、高圧コンデンサ容量をCとしたとき下記の(1)式で示されるので、三相の高圧コンデンサのV相電圧vvを電圧変成器で測定し、時間tで微分して高圧コンデンサ容量Cを乗算してV相電流ivを求める。U相電流およびW相電流についても同様に求められるが、三相平衡である場合には、U相電流およびW相電流はV相電流ivと大きさは同じで位相が120°、240°ずれた電流となる。
【数1】

【0015】
図1は本発明の第1の実施の形態に係わる高圧コンデンサ電流推定方法の工程を示すフローチャートである。まず、三相高圧配電系統の高圧コンデンサの電圧を所定のサンプリング周期で測定する(S1)。例えば、三相の高圧コンデンサのV相電圧vvを所定のサンプリング周期で測定する。これにより、所定のサンプリング周期ごとにV相電圧vvの時系列データが得られる。
【0016】
そして、測定した高圧コンデンサの電圧の1サイクル分の測定電圧波形をフーリェ変換する(S2)。すなわち、三相の高圧コンデンサのV相電圧vv(t)の電圧波形データをフーリェ変換により、(2)式のフーリェ級数に変換する。これにより、測定電圧波形に含まれる各高調波が次数毎に得られる。(2)式中、Nはサンプリング数/サイクル、nは高調波次数、ω0は商用周波数、vr,n、vi,nはcos、sinの係数である。
【数2】

【0017】
次に、三相の高圧コンデンサのV相電圧vv(t)の測定電圧波形に含まれる各高調波の次数毎に時間tで微分を行う(S3)。つまり、(2)式の両辺を時間tで微分して(3)式を求める。
【数3】

【0018】
ここで、(3)式のVr,n、Vi,nを新たなフーリェ級数の係数と見なし、逆フーリェ変換により波形合成する(S4)。
【0019】
逆フーリェ変換により波形合成した三相の高圧コンデンサのV相電圧vv(t)の微分値に、高圧コンデンサ容量Cを乗算して、高圧コンデンサ電流を求める(S5)。
【0020】
第1の実施の形態によれば、直接高圧コンデンサの電流を測定するのではなく、高圧コンデンサの電圧波形から電流波形を推定演算して求めるので、高圧コンデンサの接続線に変流器を挿入する高圧活線作業が不要となり安全性が確保される。なお、第1の実施の形態では、高圧コンデンサの電圧波形に含まれる高調波に対応してサンプリング定理に従いサンプリング数を定めておくので、対周波数誤差は生じない。また、離散フーリェ変換・逆フーリェ変換(DFT・IDFT)を必要とするので演算量が増すが、パソコン等の演算処理装置の演算高速化と高速フーリェ変換・逆フーリェ変換(FFT・IFFT)の適用を考慮すれば負担は重くなく、かつ、オフライン処理とすれば演算時間の制約はない。
【0021】
(第2の実施の形態)
図2は本発明の第2の実施の形態に係わる高圧コンデンサ電流推定方法の工程を示すフローチャートである。この第2の実施の形態は、図1に示した第1の実施の形態に対し、ステップS0を追加して設け、ステップS1’で測定ノイズを抑制した高圧コンデンサの電圧を所定のサンプリング周期で測定するようにしたものである。図2と同一処理内容を示すステップには同一符号(S2〜S5)を付し重複する説明は省略する。
【0022】
まず、三相高圧配電系統の高圧コンデンサが接続された2つの線間電圧を測定する(S0)。2つの線間電圧としては、電力量計で得られる2つの線間電圧を用いる。図3は計器用変成器11により三相高圧配電線12の三相uvwの2つの線間電圧vuv、vvwの測定回路図である。三相uvwのうちv相を基準として(接地して)、線間電圧vuv、vvwを測定する。
【0023】
そして、測定した2つの線間電圧vuv、vvwの差電圧(vvw−vuv)から測定ノイズを抑制した高圧コンデンサの電圧を求め所定のサンプリング周期でサンプリングして測定する(S1’)。ここで、測定ノイズは2つの線間電圧vuv、vvwで同時同量の性質を持つことが多いので、2つの線間電圧vuv、vvwの差電圧(vvw−vuv)は測定ノイズが抑制された電圧である。従って、電流推定に用いる電圧は、測定ノイズを抑制した(4)式に示すV相電圧vvを使用する。ただし、零相電圧は零と仮定している。
【数4】

【0024】
なお、ステップS0にて三相高圧配電系統の高圧コンデンサが接続された2つの線間電圧を所定のサンプリング周期で測定し、ステップS1’で測定ノイズを抑制した高圧コンデンサの電圧を求めるようにしてもよい。
【0025】
次に、第1の実施の形態と同様に、測定した高圧コンデンサの電圧の1サイクル分の測定電圧波形をフーリェ変換し(S2)、三相の高圧コンデンサのV相電圧vv(t)の測定電圧波形に含まれる各高調波の次数毎に時間tで微分を行い(S3)、逆フーリェ変換により波形合成し(S4)、高圧コンデンサ容量Cを乗算して高圧コンデンサ電流を求める(S5)。
【0026】
図4は、変流器を用いて実測した高圧コンデンサ電流と第2の実施の形態のフーリェ変換で推定した高圧コンデンサ電流とを対比して示した特性図であり、図4(a1)は実測高圧コンデンサ電流の波形図、図4(a2)は実測高圧コンデンサ電流の周波数スペクトル図、図4(b1)は第2の実施の形態によるフーリェ変換推定高圧コンデンサ電流の波形図、図4(b2)は第2の実施の形態によるフーリェ変換推定高圧コンデンサ電流の周波数スペクトル図である。
【0027】
図4(a2)と図4(b2)とを対比すると、含有率の最も高い高調波成分が5[kHz]で一致し、その含有率は、第2の実施の形態によるフーリェ変換推定高圧コンデンサ電流が実測高圧コンデンサ電流よりも若干小さいがほぼ一致する。
【0028】
第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態の効果に加え、電流推定に用いる電圧として2つの線間電圧vuv、vvwの差電圧(vvw−vuv)を用いるので測定ノイズを抑制でき、精度良く高圧コンデンサの電流を推定できる。
【0029】
(第3の実施の形態)
図5は本発明の第3の実施の形態に係わる高圧コンデンサ電流推定方法の工程を示すフローチャートである。この第3の実施の形態は、第1の実施の形態または第2の実施の形態の離散フーリェ変換・逆フーリェ変換に代えて、時系列の二つのサンプリング値との差分により差分近似して測定電圧の微分値を求めるようにしたものである。この差分近似の方法はアルゴリズムがシンプルで高速演算が可能であるが周波数に比例して誤差が増すので、誤差を無視できないときはその誤差を補正することになる。
【0030】
図5において、まず、三相高圧配電系統の高圧コンデンサの電圧を所定のサンプリング周期で測定する(S11)。例えば、三相の高圧コンデンサのV相電圧vvを所定のサンプリング周期で測定する。これにより、所定のサンプリング周期ごとにV相電圧vvの時系列データが得られる。
【0031】
そして、(5)式に示すように、あるサンプリング時点kのサンプリング値vv,kとそのサンプリング時点kの1サンプリング前(k−1)のサンプリング値vv,k-1との差分により差分近似して測定電圧の微分値を求め(S12)、求めた微分値に高圧コンデンサの容量Cを乗算してサンプリングk時点での高圧コンデンサの電流iv,kを推定する(S13)。
【数5】

【0032】
(5)式の右辺のGは一定なので、各時間ステップ(サンプリング時点)kでの演算は差のみであるので、フーリェ変換に比較し演算量は極めて少ない。従って、オンラインの測定中に高圧コンデンサの電流実効値を1サンプリング/サイクルと密に演算でき高速演算が可能である。
【0033】
以上の説明では、あるサンプリング時点kのサンプリング値vv,kとそのサンプリング時点kの1サンプリング前(k−1)のサンプリング値vv,k-1との差分により差分近似する場合について説明したが、あるサンプリング時点kのサンプリング値vv,kとそのサンプリング時点kの1サンプリング後(k+1)のサンプリング値vv,k+1との差分により差分近似するようにしてもよい。
【0034】
次に、差分近似による対周波数誤差を検討する。いま、V相電圧vvを波高値1の正弦波であるとすると、(5)式は(6)式で示される。
【数6】

【0035】
一方、差分近似によらない理論値は(7)式で示される。
【数7】

【0036】
従って、差分近似と理論値との絶対値誤差ε(f)は(8)式で示される。
【数8】

【0037】
いま、(8)式のΔt=39.0625[μs]とした場合の絶対値誤差ε(f)の対周波数特性を表1に示す。
【表1】

【0038】
表1より差分近似のもつ低域フィルタの性質から、高い周波数では誤差が拡大するため補正が必要となることが分かる。ただし、測定時には演算時間が長くかかるフーリェ変換は困難なので、測定終了後にオフラインにより高圧コンデンサの電流実効値を少なくとも含有率の最も高い高調波成分の補正係数で補正を行うようにする。なお、すべての高調波成分の周波数の補正を行わなくても、含有率の最も高い高調波成分のみの補正係数による補正で実用的には十分である。
【0039】
また、差分近似の方法として、2点のデータを用い1次式で区間近似する方法を説明したが、これに限らず、3点のデータを用い2次式で区間近似する方法や4点のデータを用い3次式で区間近似する方法など、多点データを用いた区間近似方法を適用することも可能である。
【0040】
第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様に、直接高圧コンデンサの電流を測定するのではなく、高圧コンデンサの電圧波形から電流波形を推定演算して求めるので、高圧コンデンサの接続線に変流器を挿入する高圧活線作業が不要となり安全性が確保される。また、フーリェ変換ではなく差分近似で微分値を求めるので、アルゴリズムがシンプルで高速演算が可能である。なお、周波数に比例して誤差が大きくなるが、高圧コンデンサの電流実効値を補正係数で補正するので、実用的には問題はない。
【0041】
(第4の実施の形態)
図6は本発明の第4の実施の形態に係わる高圧コンデンサ電流推定方法の工程を示すフローチャートである。この第4の実施の形態は、図5に示した第3の実施の形態に対し、ステップS10を追加して設け、ステップS11’で測定ノイズを抑制した高圧コンデンサの電圧を所定のサンプリング周期で測定するようにしたものである。図5と同一処理内容を示すステップには同一符号(S12、S13)を付し重複する説明は省略する。
【0042】
まず、三相高圧配電系統の高圧コンデンサが接続された2つの線間電圧を測定する(S0)。2つの線間電圧としては、電力量計で得られる2つの線間電圧vuv、vvwを用いる。測定した2つの線間電圧vuv、vvwの差電圧(vvw−vuv)から測定ノイズを抑制した高圧コンデンサの電圧を求め所定のサンプリング周期でサンプリングして測定する(S11’)。つまり、電流推定に用いる電圧として、測定ノイズを抑制した(4)式に示すV相電圧vvを使用する。
【0043】
なお、ステップS0にて三相高圧配電系統の高圧コンデンサが接続された2つの線間電圧を所定のサンプリング周期で測定し、ステップS1'で測定ノイズを抑制した高圧コンデンサの電圧を求めるようにしてもよい。
【0044】
次に、第3の実施の形態と同様に、あるサンプリング時点kのサンプリング値vv,kとそのサンプリング時点kの1サンプリング前(k−1)のサンプリング値vv,k-1との差分により差分近似して測定電圧の微分値を求め(S12)、求めた微分値に高圧コンデンサの容量Cを乗算してサンプリングk時点での高圧コンデンサの電流iv,kを推定する(S13)。この場合、あるサンプリング時点kのサンプリング値vv,kとそのサンプリング時点kの1サンプリング後(k+1)のサンプリング値vv,k+1との差分により差分近似するようにしてもよい。
【0045】
また、2点のデータを用い1次式で区間近似する方法に限らず、3点のデータを用い2次式で区間近似する方法や4点のデータを用い3次式で区間近似する方法など、多点データを用いた区間近似方法を適用することも可能である。
【0046】
図7は、変流器を用いて実測した高圧コンデンサ電流と第4の実施の形態の差分近似で推定した高圧コンデンサ電流とを対比して示した特性図であり、図7(a1)は実測高圧コンデンサ電流の波形図、図7(a2)は実測高圧コンデンサ電流の周波数スペクトル図、図7(b1)は第4の実施の形態による差分近似推定高圧コンデンサ電流の波形図、図7(b2)は第4の実施の形態による差分近似推定高圧コンデンサ電流の周波数スペクトル図である。
【0047】
図7(a2)と図7(b2)とを対比すると、含有率の最も高い高調波成分が5[kHz]で一致し、その含有率は、第4の実施の形態による差分近似推定高圧コンデンサ電流が実測高圧コンデンサ電流よりも小さい。そこで、第3の実施の形態の場合と同様に、少なくとも高圧コンデンサの電流実効値を含有率の最も高い高調波成分の補正係数で補正を行う。
【0048】
第4の実施の形態によれば、第3の実施の形態の効果に加え、電流推定に用いる電圧として2つの線間電圧vuv、vvwの差電圧(vvw−vuv)を用いるので測定ノイズを抑制でき、精度良く高圧コンデンサの電流を推定できる。
【0049】
(第5の実施の形態)
図8は本発明の第5の実施の形態に係わる高圧コンデンサ電流推定装置の一例を示すブロック構成図である。この第5の実施の形態は、第1の実施の形態や第2の実施の形態の高圧コンデンサ電流推定方法を実現するための高圧コンデンサ電流推定装置の一例を示したものである。
【0050】
図8において、三相高圧配電系統の高圧コンデンサの電圧、例えば、三相の高圧コンデンサのV相電圧vvは計器用変成器11で検出され、A/D変換器13に入力される。A/D変換器13は所定のサンプリング周期で電圧検出器11で検出されたアナログ信号の高圧コンデンサ電圧をデジタル信号に変換し記憶装置14に記憶する。これにより、所定のサンプリング周期ごとにV相電圧vvの時系列データが得られる。
【0051】
演算処理装置15のフーリェ変換手段16は記憶装置14に記憶されたV相電圧vvの時系列データのうち1サイクル分の測定電圧波形をフーリェ変換する。三相の高圧コンデンサのV相電圧vv(t)の電圧波形データをフーリェ変換手段16により、前述の(2)式のフーリェ級数に変換する。これにより、測定電圧波形に含まれる各高調波が次数毎に得られる。
【0052】
微分演算手段17は、フーリェ変換手段16で得られた三相の高圧コンデンサのV相電圧vv(t)の測定電圧波形に含まれる各高調波の次数毎に時間tで微分を行う。微分演算手段17で得られた演算結果は逆フーリェ変換手段18に入力され、逆フーリェ変換手段18は微分演算手段17で得られた演算結果を逆フーリェ変換して、微分された測定電圧波形を求める。
【0053】
逆フーリェ変換により波形合成した三相の高圧コンデンサのV相電圧vv(t)の微分値は電流算出手段19に入力され、高圧コンデンサのV相電圧vv(t)の微分値に高圧コンデンサ容量Cが乗算されて高圧コンデンサ電流が求められる。電流算出手段19で算出された高圧コンデンサ電流は、電流推定値として出力装置20に出力される。
【0054】
ここで、第5の実施の形態では、第1の実施の形態と同様に、高圧コンデンサの電圧波形に含まれる高調波に対応してサンプリング定理に従いサンプリング数を定めておくので、対周波数誤差は生じない。また、離散フーリェ変換・逆フーリェ変換(DFT・IDFT)を必要とするので演算量が増すが、パソコン等の演算処理装置の演算高速化と高速フーリェ変換・逆フーリェ変換(FFT・IFFT)の適用を考慮すれば負担は重くなく、かつ、オフライン処理とすれば演算時間の制約はない。
【0055】
また、第2の実施の形態と同様に、測定ノイズを抑制した高圧コンデンサの電圧を計器用変成器11から得るようにしてもよい。すなわち、図3に示すように、三相高圧配電電12の三相uvwのうちv相を基準として(接地して)、線間電圧vuv、vvwを測定する。そして、測定した2つの線間電圧vuv、vvwの差電圧(vvw−vuv)から測定ノイズを抑制した高圧コンデンサの電圧を求めA/D変換器13により所定のサンプリング周期でサンプリングする。
【0056】
第5の実施の形態によれば、第1の実施の形態及び第2の実施の形態と同様の効果が得られる。すなわち、直接高圧コンデンサの電流を測定するのではなく、高圧コンデンサの電圧波形から電流波形を推定演算して求めるので、高圧コンデンサの接続線に変流器を挿入する高圧活線作業が不要となり安全性が確保される。また、電流推定に用いる電圧として2つの線間電圧vuv、vvwの差電圧(vvw−vuv)を用いた場合には、測定ノイズを抑制できるので精度良く高圧コンデンサの電流を推定できる。
【0057】
(第6の実施の形態)
図9は本発明の第6の実施の形態に係わる高圧コンデンサ電流推定装置の一例を示すブロック構成図、図10は本発明の第6の実施の形態に係わる高圧コンデンサ電流推定装置の他の一例のブロック構成図である。この第6の実施の形態は、第3の実施の形態や第4の実施の形態の高圧コンデンサ電流推定方法を実現するための高圧コンデンサ電流推定装置の一例を示したものである。
【0058】
図9において、三相高圧配電系統の高圧コンデンサの電圧、例えば、三相の高圧コンデンサのV相電圧vvは計器用変成器11で検出され、A/D変換器13に入力される。A/D変換器13は所定のサンプリング周期で電圧検出器11で検出されたアナログ信号の高圧コンデンサ電圧をデジタル信号に変換し記憶装置14に記憶する。これにより、所定のサンプリング周期ごとにV相電圧vvの時系列データが得られる。
【0059】
演算処理装置15の電圧微分値演算手段21は記憶装置14に記憶された時系列データのうち、あるサンプリング時点kのサンプリング値vv,kとそのサンプリング時点kの1サンプリング前(k−1)のサンプリング値vv,k-1(またはそのサンプリング時点kの1サンプリング後(k+1)のサンプリング値vv,k+1)との差分により差分近似して測定電圧の微分値を求める。
【0060】
電圧微分値演算手段21で求められた測定電圧の微分値は電流算出手段19に入力され、その測定電圧の微分値に高圧コンデンサの容量Cを乗算して高圧コンデンサの電流iv,kを求める。そして、電流算出手段19で算出された高圧コンデンサ電流を電流推定値として出力装置20に出力する。
【0061】
ここで、前述したように、差分近似の場合には対周波数誤差が生じるので、図10に示すように、対周波数誤差補正手段22を設けて高圧コンデンサの電流実効値を少なくとも含有率の最も高い高調波成分の補正係数で補正を行うようにする。この場合、すべての高調波成分の周波数の補正を行わなくても、含有率の最も高い高調波成分のみの補正係数による補正で実用的には十分である。
【0062】
また、第4の実施の形態と同様に、測定ノイズを抑制した高圧コンデンサの電圧を計器用変成器11から得るようにしてもよい。この場合は、図3に示すように、三相高圧配電電12の三相uvwのうちv相を基準として(接地して)、線間電圧vuv、vvwを測定する。そして、測定した2つの線間電圧vuv、vvwの差電圧(vvw−vuv)から測定ノイズを抑制した高圧コンデンサの電圧を求めA/D変換器13により所定のサンプリング周期でサンプリングする。
【0063】
第6の実施の形態によれば、第4の実施の形態及び第5の実施の形態と同様の効果が得られる。すなわち、直接高圧コンデンサの電流を測定するのではなく、高圧コンデンサの電圧波形から電流波形を推定演算して求めるので、高圧コンデンサの接続線に変流器を挿入する高圧活線作業が不要となり安全性が確保される。また、フーリェ変換ではなく差分近似で微分値を求めるので、アルゴリズムがシンプルで高速演算が可能である。なお、周波数に比例して誤差が大きくなるが、高圧コンデンサの電流実効値を補正係数で補正するので、実用的には問題はない。また、電流推定に用いる電圧として2つの線間電圧vuv、vvwの差電圧(vvw−vuv)を用いた場合には測定ノイズを抑制できるので、精度良く高圧コンデンサの電流を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係わる高圧コンデンサ電流推定方法の工程を示すフローチャート。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係わる高圧コンデンサ電流推定方法の工程を示すフローチャート。
【図3】三相uvwの2つの線間電圧vuv、vvwの測定回路図。
【図4】変流器を用いて実測した高圧コンデンサ電流と第2の実施の形態のフーリェ変換で推定した高圧コンデンサ電流とを対比して示した特性図。
【図5】本発明の第3の実施の形態に係わる高圧コンデンサ電流推定方法の工程を示すフローチャート。
【図6】本発明の第4の実施の形態に係わる高圧コンデンサ電流推定方法の工程を示すフローチャート。
【図7】変流器を用いて実測した高圧コンデンサ電流と第6の実施の形態の差分近似で推定した高圧コンデンサ電流とを対比して示した特性図。
【図8】本発明の第5の実施の形態に係わる高圧コンデンサ電流推定装置の一例を示すブロック構成図。
【図9】本発明の第6の実施の形態に係わる高圧コンデンサ電流推定装置の一例を示すブロック構成図。
【図10】本発明の第6の実施の形態に係わる高圧コンデンサ電流推定装置の他の一例のブロック構成図。
【符号の説明】
【0065】
11…計器用変成器、12…三相高圧配電線、13…A/D変換器、14…記憶装置、15…演算処理装置、16…フーリェ変換手段、17…微分演算手段、18…逆フーリェ変換手段、19…電流算出手段、20…出力装置、21…電圧微分値演算手段、22…対周波数誤差補正手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相高圧配電系統の高圧コンデンサの電圧を測定し、測定した高圧コンデンサの電圧の1サイクル分の測定電圧波形をフーリェ変換し、測定電圧波形に含まれる各高調波の次数毎に微分を行った後に逆フーリェ変換し、高圧コンデンサの容量を乗算して高圧コンデンサの電流を推定することを特徴とする高圧コンデンサ電流推定方法。
【請求項2】
三相高圧配電系統の高圧コンデンサが接続された2つの線間電圧を測定し、測定した2つの線間電圧の差電圧から測定ノイズを抑制した高圧コンデンサの電圧を求め、求めた高圧コンデンサの電圧の1サイクル分の測定電圧波形をフーリェ変換し、測定電圧波形に含まれる各高調波の次数毎に微分を行った後に逆フーリェ変換し、高圧コンデンサの容量を乗算して高圧コンデンサの電流を推定することを特徴とする高圧コンデンサ電流推定方法。
【請求項3】
三相高圧配電系統の高圧コンデンサの電圧を所定のサンプリング周期で測定し、あるサンプリング時点のサンプリング値とそのサンプリング時点の1サンプリング前または後のサンプリング値との差分により差分近似して測定電圧の微分値を求め、求めた微分値に高圧コンデンサの容量を乗算して高圧コンデンサの電流を推定することを特徴とする高圧コンデンサ電流推定方法。
【請求項4】
三相高圧配電系統の高圧コンデンサが接続された2つの線間電圧を測定し、測定した2つの線間電圧の差電圧から測定ノイズを抑制した高圧コンデンサの電圧を所定のサンプリング周期で測定し、あるサンプリング時点のサンプリング値とそのサンプリング時点の1サンプリング前または後のサンプリング値との差分により差分近似して測定電圧の微分値を求め、求めた微分値に高圧コンデンサの容量を乗算して高圧コンデンサの電流を推定することを特徴とする高圧コンデンサ電流推定方法。
【請求項5】
前記差分近似して推定された高圧コンデンサの電流に対し、少なくとも含有率の最も高い高調波成分の補正係数で対周波数誤差を補正することを特徴とする請求項3または4記載の高圧コンデンサ電流推定方法。
【請求項6】
三相高圧配電系統の高圧コンデンサの電圧を所定のサンプリング周期でA/D変換するA/D変換器と、A/D変換器で得られた高圧コンデンサの電圧の1サイクル分の測定電圧波形をフーリェ変換するフーリェ変換手段と、測定電圧波形に含まれる各高調波の次数毎に微分を行う微分演算手段と、微分演算手段で得られた演算結果を逆フーリェ変換し微分された測定電圧波形を求める逆フーリェ変換手段と、逆フーリェ変換手段で得られた微分された測定電圧波形に高圧コンデンサの容量を乗算して高圧コンデンサの電流を求める電流算出手段とを備えたことを特徴とする高圧コンデンサ電流推定装置。
【請求項7】
三相高圧配電系統の高圧コンデンサの電圧を所定のサンプリング周期でA/D変換するA/D変換器と、A/D変換器で得られた高圧コンデンサの電圧のあるサンプリング時点のサンプリング値とそのサンプリング時点の1サンプリング前または後のサンプリング値との差分により差分近似して測定電圧の微分値を求める電圧微分値演算手段と、電圧微分値演算手段で求めた測定電圧の微分値に高圧コンデンサの容量を乗算して高圧コンデンサの電流を求める電流算出手段とを備えたことを特徴とする高圧コンデンサ電流推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−139434(P2007−139434A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−329741(P2005−329741)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(504193837)国立大学法人室蘭工業大学 (70)
【Fターム(参考)】