説明

高圧噴射攪拌装置

【課題】固化材スラリーがノズルから噴射されるときのエネルギーの減衰を低減することができ、単純な構造かつ小径のロッドにも装着可能な高圧噴射攪拌装置を提供する。
【解決手段】ロッド4の内部には、流通経路10が設けられている。流通経路10は、ロッド4と同心円状に形成された鉛直経路11と、一端が鉛直経路11に接続されると共に他端がノズル9に接続される水平経路12とを備えている。水平経路12は、鉛直経路11の長手方向に対して垂直になるように接続され、鉛直経路11の内周面11a上における鉛直経路11と水平経路12との接続部分を接続面13とする。接続面13からノズル9の先端9aまでの距離Lは100mm以上に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は高圧噴射攪拌装置に係り、特にロッドの先端部分の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧噴射攪拌工法は、超高圧ポンプにより高圧を付された固化材スラリーがロッドの先端部分に設けられたノズルから噴射されるときのエネルギーによって地盤を切削して地盤中に改良体を造成する工法である。施工面積を大きくして本工法の効率を上昇させるためには、固化材スラリーがノズルから噴射されるときのエネルギーをできるだけ減衰させないようにすることが重要である。そのために、これまで、本工法に用いられる装置のロッド先端の固化材スラリー流路の構造について改良が行われてきた。
例えば、特許文献1には、固化材スラリー供給流路の途中に、その上流側部分及び下流側部分に比べて断面積の大きい圧力溜り部を設けた装置が開示されている。この圧力溜り部分においてロッド上流から供給される固化材スラリーの整流及び圧力安定化を図ることができ、圧力溜りのない場合に比較して流体の噴射能力が1.5倍以上になる。
また、特許文献2には、スラリー供給流路が鉛直方向から水平方向に移行する部分を、ある曲率半径で滑らかに湾曲させた装置が開示されている。湾曲した部分が滑らかであることにより、固化材スラリーが湾曲した部分を流通する際に乱れが生じないので、固化材スラリーがノズルから噴射されるときのエネルギーの減衰を低減させることができる。
【0003】
【特許文献1】特開2004−76530号公報
【特許文献2】特開平10−195862号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2の装置に設けられた圧力溜り部や湾曲した部分の構造は複雑で加工が難しいという問題点があった。また、これらの部分をロッドの内部に収めるには、ロッドの直径がある大きさ以上に限定され、小径のロッドには適用が難しいという問題点もあった。
【0005】
この発明は、このような問題点を解決するためになされたもので、固化材スラリーがノズルから噴射されるときのエネルギーの減衰を低減することができ、単純な構造かつ小径のロッドにも装着可能な高圧噴射攪拌装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
地盤中に固化材スラリーを噴射して地盤を切削すると共に、固化材スラリーと改良対象土を混合攪拌して円柱状の改良体を造成する高圧噴射攪拌工法に用いられる高圧噴射攪拌装置において、高圧噴射攪拌装置は、固化材スラリーが流通する流通経路と、流通経路に連通し固化材スラリーが噴射されるノズルとを有するロッドを備え、流通経路は、ロッドの内部に設けられ、ロッドの長手方向に延びる鉛直経路と、一端が鉛直経路に垂直に接続されると共に他端がノズルに接続される水平経路とを備え、水平経路と鉛直経路とが接続する接続面からノズルの先端までの距離が100mm以上であることを特徴とする。
ロッドは、ノズルの周囲に圧縮空気を噴出する空気経路を備えてもよい。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、水平経路と鉛直経路とが接続する接続面からノズルの先端までの距離が100mm以上であれば、ノズルから噴射された固化材スラリーの噴流束がほぼ収束する傾向を示すので、ノズルから噴射される固化材スラリーの噴射エネルギーの減衰を低減することができる。また、ロッドの先端部分の構造を単純にすることができ、さらにロッドの直径が小さくても本発明の高圧噴射攪拌装置を適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1.
この実施の形態1に係る高圧噴射攪拌装置の全体図を図1に示す。図1には、改良を行う地盤6の上に置かれた高圧噴射攪拌装置1が示されている。高圧噴射攪拌装置1は、地盤6に挿入可能なロッド4を備えている。ロッド4は回転しながら上下方向に移動可能となっている。ロッド4の一方の端部は、スイベル3を介してホース7の一端に接続されている。ホース7の他端は、固化材スラリーを調製、圧送する図示しないプラントに接続されている。ロッド4の他方の端部には、固化材スラリーを噴射するノズル9が設けられている。
【0009】
図2に示されるように、ノズル9は外周面に形成された図示しないねじ溝によって、ロッド4の長手方向に対して垂直にねじ込まれている。ロッド4の内部には、流通経路10が設けられている。流通経路10は、ロッド4と同心円状に形成された鉛直経路11と、一端が鉛直経路11に接続されると共に他端がノズル9に接続される水平経路12とを備えている。水平経路12は、鉛直経路11の長手方向に対して垂直になるように接続され、鉛直経路11の内周面11a上における鉛直経路11と水平経路12との接続部分を接続面13とする。接続面13からノズル9の先端9aまでの距離Lは300mmに設定されている。ここで、ノズル9の先端9aとは、ノズル9の内径が最も小さい部分の端部である。鉛直経路11の図示しないもう一方の端部は、ホース7(図1参照)に接続されている。これにより、図示しないプラント、ホース7、流通経路10、及びノズル9が順次連通されている。
【0010】
次に、この実施の形態1の高圧噴射攪拌装置を用いた高圧噴射攪拌工法の動作を、図1及び2に基づいて説明する。
改良を行う地盤6に高圧噴射攪拌装置1を設置し、ロッド4を回転させながら下降させて地盤6に挿入する。ロッド4を所定の深さまで挿入したらロッド4の下降を止め、図示しないプラントからホース7を介して高圧で圧送される固化材スラリーをノズル9から噴射しながら、定位置にて所定回転数で回転させ、その後ステップ方式で引き上げる動作を繰り返す。固化材スラリーは、ホース7及び流通経路10を順次流通する。流通経路10内では、固化材スラリーは、鉛直経路11を流下した後、90°方向を変えて水平経路12を流通する。水平経路12を流通する固化材スラリーは、ノズル9から地盤6内に噴射され、そしてロッド4が回転すると共に引き上げられる。これにより、地盤6内に円柱状の改良体8が造成される。一箇所の造成が終了したら、高圧噴射装置1を移動させて上記動作を繰り返すことにより、地盤6内に複数の改良体8が造成され、地盤6の改良が終了する。
【0011】
ここで、高圧噴射攪拌工法の効率を向上させるためには、円柱状の改良体8の直径を大きくして改良体8の個数を減少させればよい。そのためには、鉛直経路11を流通する高圧の固化材スラリーのエネルギーを、水平経路12へ切り替わるところからノズル9の先端9aを通過するまでに、如何に減衰させないようにするかが重要である。一般に、鉛直経路11からノズル9の先端9aまでの距離が長くなるほど、ノズル9から噴射される固化材スラリーは、噴射方向に対して垂直な方向への広がりが小さくなる。すなわち、噴射される固化材スラリーの収束が向上する。これにより、噴射される固化材スラリーのエネルギーの減衰が低減するので、地盤6内を切削する固化材スラリーの切削距離が長くなり、改良体8の直径が大きくなる。ただし、鉛直経路11からノズル9の先端9aまでの距離が長くなるほど、ロッド4を地盤6に挿入するときの抵抗が大きくなり、貫入抵抗の観点からはできるだけこの距離が小さいほうが好ましい。これらを考慮して、接続面13からノズル9の先端9aまでの距離Lを300mmに設定した。
【0012】
このように、接続面13からノズル9の先端9aまでの距離Lを300mmに設定することにより、ノズル9から噴射される固化材スラリーの噴流束が収束するので、ノズル9から噴射される固化材スラリーのエネルギーの減衰を低減することができる。これにより、造成される改良体8の直径が大きくなるので、高圧噴射攪拌工法の効率を向上させることができる。また、接続面13からノズル9の先端9aまでの距離Lを300mmに設定するだけの構成のため、高圧噴射攪拌装置1の先端モニター構造を単純にすることができ、これにより高圧噴射攪拌装置1の加工を容易にすることができる。さらに、ロッド4の直径を大きくする必要がないので、小径のロッドを用いることができる。
【0013】
実施の形態2.
次に、この発明の実施の形態2に係る高圧噴射攪拌装置を、図3に基づいて説明する。尚、図3において、図1及び2の参照符号と同一の符号は、同一又は同様な構成要素であるので、その詳細な説明は省略する。
この実施の形態2に係る高圧噴射攪拌装置は、実施の形態1に対して、ロッド4を固化材スラリー及び圧縮空気がそれぞれ流通するように二重管にしたものである。
図3に示されるように、実施の形態2に係る高圧噴射攪拌装置に用いられるロッド20は、鉛直経路11及び水平経路12を内部に含むと共に、それらの断面は同心円状に設けられた形状となっており、空気経路21が流通経路10の周りにドーナツ状に設けられている。その他の構成として、空気経路21に圧縮空気を送風するための図示しないコンプレッサーを設けること以外は、実施の形態1と同じである。すなわち、接続面13からノズル9の先端9aまでの距離Lは、実施の形態1と同様に300mmに設定されている。
【0014】
このように、ロッド20は、接続面13からノズル9の先端9aまでの距離Lを300mmに設定しているので、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。また、ノズル9から固化材スラリーが噴射すると共に、空気経路21を流通した圧縮空気がノズル9の周囲に噴出して、ノズル9から噴射した固化材スラリーの周囲を覆うことにより、地盤6内に噴射された固化材スラリーは、その周りを圧縮空気で囲繞されて地盤6内に噴射されることになる。これにより、固化材スラリーは、地盤6内の土壌から受ける抵抗が小さくなるので、地盤6内における切削距離が大きくなり、改良体8の直径を大きくすることができる。
【実施例】
【0015】
<実施例1〜3>
次に、この発明に係る高圧噴射攪拌装置に用いられるロッド4について、ノズル9から噴射された固化材スラリーのエネルギーの減衰を低減する効果を、実施例1〜3によって確認した。実施例1〜3では、固化材スラリーの代わりに水を用い、ノズル9から噴射された水の衝撃荷重を測定する衝撃荷重測定実験を行った。実験に使用したノズル9は、全長が20mm、テーパー角度が20°、直線部分の長さが10mmである。
【0016】
図4(a)及び(b)には、この衝撃荷重測定実験に用いられる実験装置30の概要図を示す。実験装置30は、衝撃荷重発生部30aと衝撃荷重測定部30bとから構成されている。衝撃荷重発生部30aは、噴射される水を貯蔵する貯蔵タンク31とロッド4内部の流通経路10とが流通配管32によって連通され、流通配管32には、流量計33、ポンプ34、及び圧力計35が設けられた構成となっている。ポンプ34は、毎分89リットルの流量で貯蔵タンク31内の水をロッド4内部の流通経路10に送水するようにし、ノズル9の開口直径d’を3.2mmとし、ノズル9から噴射される水の噴射圧力を20MPaとした。一方、衝撃荷重測定部30bは、直径30mmの円盤形状を有する鋼製の受圧板36を備えたロードセル37と、ロードセル37に電気的に接続されたブースター38と、ブースター38に電気的に接続された記録計39とから構成されている。ノズル9と受圧板36との距離Lは1.0mに設定し、ノズル9から水を噴射させて受圧板36に衝突させ、受圧板36が受けた水の衝撃荷重をロードセル37が計測する。ロードセル37によって計測された衝撃荷重は、ブースター38を介して記録計39に記録される。
【0017】
ロッド4については、表1に示されるように、水平経路12の直径である整流域口径dと接続面13からノズル9の先端9aまでの距離Lとをそれぞれ変えた、合計22種類のロッド先端部(先端モニター)を用意した。尚、いずれのロッドについても、鉛直経路11の内径Dは20mmである。それぞれのロッドについて、ノズル9から噴射された水の衝撃荷重を測定した。実施例1〜3はそれぞれ、整流域口径dの違いによって22種類の先端モニターを3つのグループに区分して、それぞれのグループに属するロッドを用いて行った実験結果をまとめたものである。
【0018】
【表1】

【0019】
実施例1〜3の結果を図5に示す。Lと衝撃荷重との関係は、Lが20mm以下の範囲では衝撃荷重がほぼ一定であり、Lが20mm以上100mm以下の範囲ではLの上昇にともない衝撃荷重が上昇し、Lが100mm以上の範囲では衝撃荷重がほぼ一定であった。実施例1〜3の測定結果からはほぼ同一の曲線が描けることから、Lと衝撃荷重との関係は、整流域口径dの違いには全く影響を受けないことが明らかになった。この結果より、Lが100mm以上であれば、それ以上に整流域を伸ばしても衝撃荷重がほとんど増加しないことがわかった。
【0020】
<実施例4〜6>
次に、この発明に係る高圧噴射攪拌装置に用いられるロッド20について、ノズル9から噴射された固化材スラリーのエネルギーの減衰を低減する効果を、実施例4〜6によって確認した。
図6に示されるように、実施例4〜6に用いた実験装置40には、実施例1〜3の実験装置30に対して、ロッド4の代わりに空気経路21を有する二重管のロッド20を用いると共に空気経路21に圧縮空気を送風するためのコンプレッサー41が設けられている。その他の構成については実験装置30と同じである。尚、ポンプ34の運転条件は実施例1〜3と同じであり、一方、コンプレッサー41は、圧力0.7MPa、流量4m/分で、空気経路21に圧縮空気を送風するように稼動させる。
【0021】
ロッド20については、表2に示されるように、水平経路12の直径である整流域口径dと接続面13からノズル9の先端9aまでの距離Lとをそれぞれ変えた、合計22種類のロッド先端部(先端モニター)を用意した。尚、いずれのロッドについても、鉛直経路11の内径Dは20mmである。それぞれのロッドについて、ノズル9から噴射された水の衝撃荷重を測定した。実施例4〜6はそれぞれ、整流域口径dの違いによって22種類の先端モニターを3つのグループに区分して、それぞれのグループに属するロッドを用いて行った実験結果をまとめたものである。
【0022】
【表2】

【0023】
実施例4〜6の結果を図7に示す。図7は、実施例1〜3の結果である図5と同様の傾向を示している。すなわち、Lと衝撃荷重との関係は、整流域口径dの違いには全く影響を受けず、Lが100mm以上の範囲では、衝撃荷重がほぼ一定となる。したがって、二重管のロッド20を使用した場合でも、実施例1〜3と同様にLが100mm以上であれば、それ以上に整流域を伸ばしても衝撃荷重がほとんど増加しないことが分かった。
【0024】
実施の形態1及び2では、L及びLをそれぞれ300mmに設定したが、この値に限定するものではない。実施例1〜6の結果より、L及びLの値が100mm以上の範囲では、衝撃荷重がほぼ一定となるので、L及びLはそれぞれ、100mm以上であればよい。ただし、L及びLが大きくなるほどロッド4及び20を地盤6へ挿入する際の抵抗が大きくなるので、L及びLの値は100〜600mmの範囲がよく、好ましくは150〜400mmの範囲がよく、さらに好ましくは200〜300mmの範囲がよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の実施の形態1に係る高圧噴射攪拌装置の構成図である。
【図2】実施の形態1に係る高圧噴射攪拌装置に用いられるロッドの先端部分(先端モニター)の拡大断面図である。
【図3】実施の形態2に係る高圧噴射攪拌装置に用いられるロッドの先端部分(先端モニター)の拡大断面図である。
【図4】実施例1〜3で使用される実験装置の構成図である。
【図5】実施例1〜3の結果を示す図である。
【図6】実施例4〜6で使用される実験装置の構成図である。
【図7】実施例4〜6の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1 高圧噴射攪拌装置、4,20 ロッド、6 地盤、8 改良体、9 ノズル、9a (ノズル9の)先端、10 流通経路、11 鉛直経路、12 水平経路、13 接続面、21 空気経路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤中に固化材スラリーを噴射して地盤を切削すると共に、前記固化材スラリーと改良対象土を混合攪拌して円柱状の改良体を造成する高圧噴射攪拌工法に用いられる高圧噴射攪拌装置において、
前記高圧噴射攪拌装置は、
前記固化材スラリーが流通する流通経路と、
前記流通経路に連通し前記固化材スラリーが噴射されるノズルと
を有するロッドを備え、
前記流通経路は、
前記ロッドの内部に設けられ、前記ロッドの長手方向に延びる鉛直経路と、
一端が前記鉛直経路に垂直又は略垂直に接続されると共に他端が前記ノズルに接続される水平経路と
を備え、
前記水平経路と前記鉛直経路とが接続する接続面から前記ノズルの先端までの距離が100mm以上であることを特徴とする高圧噴射攪拌装置。
【請求項2】
前記ロッドは、前記ノズルの周囲に圧縮空気を噴出する空気経路を備えることを特徴とする請求項1に記載の高圧噴射攪拌装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate