説明

高圧放電ランプ

【課題】内部に一対の電極が配置された発光部と、該発光部の両端に形成された封止部とからなる発光管を有し、前記電極の電極軸には封止部に対応する個所に複数の軸方向溝が形成されていて、前記封止部内で前記電極軸と金属箔とが接合されてなる高圧放電ランプにおいて、電極軸と金属箔との溶接接合を強固なものとして剥離を防止することができる構造を提供することにある。
【解決手段】前記電極軸は、前記軸方向溝が形成された箇所で前記金属箔と接合されるとともに、その接合部分には、前記軸方向溝に交差して周方向の溝が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高圧放電ランプに関するものであり、特に、プロジェクター装置用光源、露光装置用光源に利用される高圧放電ランプに係るものである。
【背景技術】
【0002】
この種の高圧放電ランプにおけるシール構造としては、電極の電極軸の根元が封止部に埋設された金属箔と接合する、いわゆる箔シール構造が採用される。
通常、電極軸はタングステンから構成され、一方で発光管は石英ガラスから構成されているために、かかる箔シール構造においては、封止部での両者の熱膨張係数の違いにより、封止部の損傷、破損という問題がしばしば発生する。
特に、プロジェクター装置に使う高圧放電ランプにおいては、例えば、発光部に0.15mg/mm以上の多量の水銀が封入されており、点灯時には水銀蒸気圧が100気圧以上の高圧になるため、この問題は一層深刻となっている。
【0003】
このような問題を解決するために、例えば、特表2008−529252号公報(特許文献1)には、電極軸(芯棒)に軸方向に沿って伸びるように溝を形成する技術が紹介されている。
図6(A)は上記従来例にかかるランプの概略構成図であり、図6(B)は電極の拡大図である。
図6(A)に示すように、放電ランプ1は、発光部3とその両端の封止部4、4とからなる発光管2を有し、発光部3内には一対の電極5、5が対向配置されている。電極5の電極軸6は封止部4内に延在していて、抵抗溶接などにより金属箔7と接合されている。
そして、図6(B)に示すように、該電極軸6には複数の軸方向の溝8、8が形成されていて、この溝形成部分において前記金属箔7と接合される。該溝8は化学研磨処理やレーザ加工によって形成される。
上記従来技術は、電極軸6に複数の軸方向溝8を設けることで、円周方向の表面粗さを、長手方向の表面粗さよりも大きくして、電極軸6の材料(タングステン)と封止部4の材料(石英ガラス)との熱膨張率の違いに起因する封止部の破損を解消しようとするものである。
【0004】
しかしながら、該従来技術において、電極軸6に複数の連続した軸方向溝8を形成したものを金属箔7に溶接接合すると、しばしば接合個所が剥離してしまうという問題が発生することが判明した。
本発明者らは、この現象について鋭意検討の結果、該接合個所が剥離する原因は以下のものであることを突き止めた。
図7に示すように、電極軸6を化学研磨すると、該電極軸6には軸方向の溝8が多数形成されるが、その溝8を形成する複数の凸条9、9は先端に行くほどその幅が小さくなり、その先端部9aは尖った形状となっている。
【0005】
この溝8が形成された個所で金属箔7と溶接により接合すると、図8に示すように、凸条9は僅かにその先端部9aのみが溶融して金属箔7と接合する。これは、該凸条9が軸方向に連続して延在するものであるため、その熱容量が大きくて、抵抗溶接などによって部分的に加熱してもその凸条9は十分には溶融せず、僅かにその先端部9aのみしか溶融しないからである。
そのため、金属箔7との十分な接触面積を得ることができず、強固な接合がなされないで、しばしば剥離現象が生じてしまうという問題が生じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2008−529252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、上記従来技術の問題点に鑑みて、電極軸に複数の軸方向の溝が形成され、該電極軸が溝形成部分で金属箔と接合されている高圧放電ランプにおいて、前記金属箔と、前記溝を形成する凸条との接合面積を十分大きなものとして、その接合を強固なものとすることができる構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明に係る高圧放電ランプは、複数の軸方向溝が形成された電極軸の金属箔との接合部分に、前記軸方向溝と交差して周方向の溝を形成されていることを特徴とするものである。
また、前記周方向溝が複数形成されていることを特徴とする。
更には、前記軸方向溝が化学研磨処理によって形成され、前記周方向溝がレーザ加工によって形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電極軸に形成した複数の軸方向溝に交差して周方向溝を形成したので、軸方向溝を形成する凸条が軸方向において寸断されて小さな独立した凸部となり、その熱容量が小さくなって、当該凸条の先端が抵抗溶接などによって十分に溶融して金属箔との接合面積が増大し、強固な接合が得られるものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る高圧放電ランプの部分断面図。
【図2】本発明の電極軸の溝部分の拡大図。
【図3】本発明の金属箔と電極軸の接合部の断面図。
【図4】本発明の電極軸の軸方向溝と周方向溝の関係を表す説明図。
【図5】周方向溝と溶接代の比率による溶接剥がれの関係を示すグラフ。
【図6】従来の高圧放電ランプの断面図。
【図7】従来例の電極軸の断面図。
【図8】従来例の金属箔と電極軸の接合部の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1はこの発明の高圧放電ランプの電極軸と金属箔の接合部の断面図である。
図1において、電極5の電極軸6には軸方向に多数の溝8、8が形成されている。
この軸方向溝8は電極軸部材を化学研磨処理することにより形成される。棒状のタングステンからなる電極軸部材の表面をエッチング処理すると、部材が本来持っている軸方向に延びる一次再結晶粒の形状が現れる。図5に示すように、この一次再結晶粒が、電極軸の軸方向に伸びた凸条9、9であって、軸方向に直交する断面円周全体に亘って微細な凸条が形成され、これにより、軸方向に延在する軸方向溝8、8が形成される。
ところで、この軸方向溝8は、化学研磨処理以外のレーザ加工などの機械加工によって形成できることも、前記特許文献1には示唆されている。
図1に示すように、この電極軸6は、前記軸方向溝8の形成部分において、金属箔7と抵抗溶接などにより接合されている。
【0012】
そして、前記電極軸6の金属箔7との接合部分には、前記軸方向溝8と交差するように周方向溝10が形成されている。この周方向溝10は、好適にはレーザ加工によって形成される。
図2に詳細に示されるように、前記軸方向溝8を形成する凸条9は、この周方向溝10によって軸方向で寸断されて、小さな独立した凸部9b、9bとなる。
前記周方向溝10は、軸方向に複数設けてもよく、その例が図1および図2に示されている。また、この周方向溝10は、図2(A)に示すように、電極軸6と直交する形状であってもよいし、また、図2(B)に示すように、斜めに交差するものであってもよい。
さらには、前記周方向溝10は螺旋状に形成されるものであってもよい。
【0013】
上記のように、電極軸6の周方向溝10によって前記軸方向溝8を形成する凸条9は、軸方向で寸断されて小さな凸部9b、9bとなり、その熱容量が、軸方向に連続した凸条よりも小さくなる。
これにより、金属箔7との溶接接合時には、図3に示すように、凸条9(9b)の先端部9aが十分溶融して金属箔7との接合面積が大きくなって、強固な接合が得られるものである。
【0014】
電極軸6に形成される軸方向溝8、周方向溝10および該周方向溝によって形成される凸部9bの一数値例をあげると以下のようである。
軸方向溝(8):幅5μm深さ、深さ5μm
周方向溝(10):幅20〜30μm、深さ:15μm
凸部(9b):軸方向長さ30μm

なお、本発明における周方向10の加工に用いるレーザは、定常発振のレーザではなくパルスレーザを用いることが望ましい。パルスレーザは瞬時に高出力を出すことができ、レーザ照射領域を比較的短時間で溶融でき、局所的な加工に適している。また、パルス幅、パルス間隔、パルス回数を調整することで、溝の加工深さを調整でき、所望の溝加工が行える。
また、レーザ加工には様々な発振波長のレーザを用いることができるが、一般的に波長が長くなるとレーザの単位時間当たりのエネルギー出力が小さくなり、加工深さが浅くなる。本発明のような10μmオーダーの加工を行う際は、波長域が500nm程のグリーンレーザが最適である。
【0015】
本発明における電極軸6に形成される周方向溝10の幅の合計と溶接代との関係を実験によって求めた。
図4に示されるように、電極軸6には軸方向溝8が形成されており、これに交差する複数の周方向溝10の幅の合計値Xは、この例では、4本の各周方向溝10の幅の合計(X1+X2+X3+X4)である。
これら電極軸6や軸方向溝8の寸法は上記段落0014で示した一数値例に記載したものである。
この電極軸6に対して、金属箔7をスポット溶接機により溶接しており、その溶接棒は1.5mm×1.5mmの4角形状であって、つまり、その溶接代Yは1.5mmである。この溶接代Yに対して前記周方向溝10の合計幅Xの値を振って実験した結果が図5である。
【0016】
図5において、横軸は溶接代Y(=1.5mm)に対する周方向溝10の合計幅Xの比率(X/Y)であって、該比率が0のものは、周方向溝が形成されていない従来例を示す。
これらのランプ、具体的には電極軸6と金属箔7の溶接構造を、各100例ずつ作成して、溶接作業時に箔の剥がれを起こした発生率を検証したものである。
図5から明らかなように、周方向溝10を形成しない従来例においては、10%の箔剥がれが発生していたものが、周方向溝10の比率を増していくと箔剥がれ率が減少していき、50%で発生率0%となる。周方向溝10の比率が大きくなり、軸方向溝8を形成する凸条9の面積が減り、その熱容量が減少していくことにより、溶接時にその先端が十分に溶融し金属箔7との溶接部分が大きくなっていくためである。
【0017】
しかしながら、前記比率が60%を超えると再び箔剥がれ率が上昇してしまう。
これは、周方向溝比率が大きくなりすぎて、凸条9が小さな凸部9bに分断されすぎて、溶接する総面積が減少してしまうためである。
これらの結果から、周方向溝10の合計幅Xの溶接代Yに対する比率(X/Y)は、好ましくは、30%〜80%程度であり、箔剥がれ率が5%未満に抑えられる。更に最も好ましい比率は50%〜60%であって、箔剥がれ率が0%である。
【符号の説明】
【0018】
1 高圧放電ランプ
2 発光管
3 発光部
4 封止部
5 電極
6 電極軸
7 金属箔
8 軸方向溝
9 溝8を形成する凸条
9a 先端部
9b 凸部
10 周方向溝




【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に一対の電極が配置された発光部と、該発光部の両端に形成された封止部とからなる発光管を有し、前記電極の電極軸には封止部に対応する個所に複数の軸方向溝が形成されていて、前記封止部内で前記電極軸と金属箔とが接合されてなる高圧放電ランプにおいて、
前記電極軸は、前記軸方向溝が形成された箇所で前記金属箔と接合されるとともに、その接合部分には、前記軸方向溝に交差して周方向の溝が形成されていることを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項2】
前記周方向溝が複数形成されていることを特徴とする請求項1に記載の高圧放電ランプ。
【請求項3】
前記軸方向溝は前記電極軸部を化学研磨処理することで形成され、前記周方向溝はレーザ加工によって形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の高圧放電ランプ。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−89542(P2013−89542A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231311(P2011−231311)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】