説明

高強度の溶接可能なAl−Mg合金

質量%で下記の組成、すなわちMg3.5〜6.0、Mn0.4〜1.2、Fe<0.5、Si<0.5、Cu<0.15、Zr<0.5、Cr<0.3、Ti0.03〜0.2、Sc<0.5、Zn<1.7、Li<0.5、Ag<0.4、所望により、エルビウム、イットリウム、ハフニウム、バナジウム、各<0.5質量%からなる群から選択された一種以上の分散質形成元素、および不純物または不可避元素各<0.05、合計<0.15、ならびに残部アルミニウムを有し、高強度、優れた耐食性および溶接性を有するアルミニウム合金製品。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金製品、特にAl−Mg型(アルミニウム協会により指定された5xxxシリーズアルミニウム合金とも呼ばれる)に関する。より詳しくは、本発明は、高強度、低密度の、耐食性および溶接性が優れたアルミニウム合金に関する。この新規な合金から製造された製品は、輸送工業における用途、例えば航空宇宙製品、船舶、道路および鉄道車両、造船、ならびに建築工業における用途に非常に好適である。
【0002】
この合金は、様々な製品形態、例えばシート、薄板または押出物、鍛造または時効形成された製品に加工することができる。この合金は、被覆しなくても、または別のアルミニウム合金で被覆もしくはめっきし、特性、例えば耐食性をさらに改良することができる。
【背景技術】
【0003】
建築および輸送工業、特に航空宇宙および海運工業における用途に使用する様々な製品の製造には、様々な種類のアルミニウム合金がこれまで使用されている。これらの工業における設計者および製造業者は、製品性能、製品寿命および燃料効率を常に改良しようとしており、製造、運転、および操作コストの低減にも常に努めている。
【0004】
これらの製造業者および設計者の目標を達成するための一つの方法は、合金から製造される製品が、より効率的に設計でき、より効率的に製造でき、より優れた全体的な性能を有するように、アルミニウム合金の関連する材料特性を改良することである。
【0005】
上に挙げた多くの用途で、高強度、低密度、優れた耐食性、優れた溶接性、および溶接後の優れた特性を有する合金が求められている。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、強度、損傷許容度、耐食性、および溶接性の分野における改良された特性を組み合わせたAA5xxx型の合金に関する。
【0007】
下記の内容から明らかなように、他に指示がない限り、合金の名称および焼戻しの名称は、2005年にアルミニウム協会から出版されたAluminum Standards and Data and Registration Recordsにおけるアルミニウム協会名称による。
【発明の具体的説明】
【0008】
本発明の目的は、高強度、低密度、および優れた腐食特性を有する、アルミニウム協会により指定されたAA5xxxシリーズ合金の、アルミニウム−マグネシウム合金製品を提供することにある。
【0009】
本発明の別の目的は、良好な溶接性を有するアルミニウム−マグネシウム合金製品を提供することにある。
【0010】
本発明の別の目的は、高い熱的安定性を示し、塑性成形方法、例えばクリープ成形、ロール成形、および引張成形、により形成される製品の製造に使用するのに好適なアルミニウム−マグネシウム合金製品を提供することにある。
【0011】
これらの、および他の目的およびさらなる利点は、アルミニウム合金に関する本発明により達成または突破されることができ、該合金は、質量%で、
Mg 3.5〜6.0
Mn 0.4〜1.2
Fe <0.5
Si <0.5
Cu <0.15
Zr <0.5
Cr <0.3
Ti 0.03〜0.2
Sc <0.5
Zn <1.7
Li <0.5
Ag <0.4
所望により、エルビウム、イットリウム、ハフニウム、バナジウム、各<0.5からなる群から選択された一種以上の分散質形成元素、および不純物または不可避元素各<0.05、合計<0.15ならびに残部アルミニウムを含んでなり、好ましい態様では上記成分から実質的になる。
【0012】
本発明によれば、Mgは、合金の基本的な強度を与えるために添加される。Mg含有量が3.5〜6質量%である場合、合金は、固溶体硬化または加工硬化により、その強度を達成することができる。Mgの好適な範囲は3.5〜6質量%、好ましくは3.6〜4.4質量%、より好ましくは3.8〜4.3質量%である。別の好ましい範囲では、Mg含有量は5.0〜5.6質量%である。
【0013】
Mnの添加は、本発明の合金における分散質形成元素として重要であり、その含有量は0.4〜1.2質量%である。好適な範囲は、0.6〜1.0質量%、より好ましくは0.65〜0.9質量%である。
【0014】
合金化元素CrおよびTiの悪影響を阻止するために、Crは、好ましくは0.03〜0.15質量%、より好ましくは0.03〜0.12質量%、さらに好ましくは0.05〜0.1質量%であり、Tiは、好ましくは0.03〜0.15質量%、より好ましくは0.03〜0.12質量%、さらに好ましくは0.05〜0.1質量%である。
【0015】
本発明のアルミニウム合金は、CrとTiの両方がアルミニウム合金製品中に、好ましくは等しいか、またはほぼ等しい量で存在する実施態様により、さらに改良される。
【0016】
Zrレベルに好適な量は、最大0.5質量%、好ましくは最大0.2質量%である。しかし、より好ましい範囲は0.05〜0.25質量%であり、さらに好ましい範囲は0.08〜0.16質量%である。
【0017】
特性、特に溶接性は、Scが合金化元素として0〜0.3質量%、好ましくは0.1〜0.3質量%の範囲内で添加される本発明の実施態様で、さらに改良される。
【0018】
別の実施態様では、Zrおよび/またはTiの添加により、Sc添加の効果をさらに強化することができる。TiとZrの両方をScと組み合わせることにより形成される分散質は、Sc分散質単独よりも拡散性が低く、分散質とアルミニウムマトリックスとの間の格子不整合を少なくし、粗粒化速度を下げることができる。Zrおよび/またはTiを添加することのもう一つの利点は、同じ再結晶化抑制効果を得るのに必要なScが少なくて済むことである。
【0019】
本発明の合金製品で改良された特性、特に高強度および良好な耐食性、は、Cr、Ti、およびZrの少なくとも2種類を組み合わせて、すでにある量のMnを含むAl−Mg合金に添加することにより、得られると考えられる。
【0020】
好ましくは、CrをZrと組み合わせ、総量を0.06〜0.25質量%にする。
【0021】
本発明の合金の別の好ましい実施態様では、CrをTiと組み合わせ、総量を0.06〜0.22質量%にする。
【0022】
本発明の合金のさらに別の好ましい実施態様では、合金中でZrをTiと組み合わせ、総量を0.06〜0.25質量%にする。
【0023】
本発明の合金のさらに別の好ましい実施態様では、CrをTiおよびZrと組み合わせ、これらの元素の総量を0.09〜0.36質量%にする。
【0024】
別の実施態様では、Znを合金に0〜1.7質量%の範囲内で添加することができる。Znに好適な範囲は、0〜0.9質量%、好ましくは0〜0.65質量%、より好ましくは0.2〜0.65質量%、さらにより好ましくは0.35〜0.6質量%である。あるいは、Znを合金に意図的に活性量で加えない場合、この合金は実質的にZnを含まなくてもよい。しかし、痕跡量および/または不純物はアルミニウム合金製品中に存在してもよい。
【0025】
鉄は、0.5質量%の範囲まで存在することができ、好ましくは最大0.25質量%に維持する。典型的な好ましい鉄レベルは、0.14質量%までであろう。
【0026】
ケイ素は、0.5質量%の範囲まで存在することができ、好ましくは最大0.25質量%に維持する。典型的な好ましいSiレベルは、0.12質量%までであろう。
【0027】
同様に、銅は意図的に加えられる添加剤ではなく、本発明に関しては穏やかに溶解し得る元素である。本発明のアルミニウム合金製品は、0.15質量%まで、好ましくは最大0.05質量%のCuを含むことができる。
【0028】
本発明のアルミニウム合金製品中には、所望により使用する元素が存在できる。バナジウムは0.5質量%まで、好ましくは0.2質量%まで、リチウムは0.5質量%まで、ハフニウムは0.5質量%まで、イットリウムは0.5質量%まで、エルビウムは0.5質量%まで、銀は0.4質量%までの範囲内で存在することができる。
【0029】
好ましい実施態様では、本発明のアルミニウム合金製品は、実質的に、質量%で、
Mg 3.8〜4.3
Mn 0.65〜1.0
Zr <0.5、好ましくは0.05〜0.25
Cr <0.3、好ましくは0.1〜0.3
Ti 0.03〜0.2、好ましくは0.05〜0.1
Sc <0.5、好ましくは0.1〜0.3
Fe <0.14
Si <0.12
残部アルミニウム、および不純物または不可避元素各<0.05、合計<0.15からなる。好ましくは、該アルミニウム合金製品は、さらにZn0.2〜0.65質量%を有する。
【0030】
別の好ましい実施態様では、本発明のアルミニウム合金製品は、実質的に、質量%で、
Mg 5.0〜5.6
Mn 0.65〜1.0
Zr <0.5、好ましくは0.05〜0.25
Cr <0.3、好ましくは0.1〜0.3
Ti 0.03〜0.2、好ましくは0.05〜0.1
Sc <0.5、好ましくは0.1〜0.3
Fe <0.14
Si <0.12
残部アルミニウム、および不純物または不可避元素各<0.05、合計<0.15からなる。好ましくは、該アルミニウム合金製品は、さらにZn0.2〜0.65質量%を有する。
【0031】
所望の特性を得るのに必要な処理条件は、合金化条件の選択によって異なる。合金化にMnを添加するには、圧延前の好ましい予熱温度は410℃〜560℃、より好ましくは490℃〜530℃である。しかし、この最適温度範囲では、元素Cr、Ti、Zr、およびScは効果的に働かず、これらの中でCrが最良の性能を示す。Cr、Ti、Zrの最適性能を、特にScとの組合せで得るには、熱間圧延前に、より低い予熱温度が好ましく、好ましくは280℃〜500℃、より好ましくは400℃〜480℃である。
【0032】
本発明のアルミニウム合金製品は、シート、板、鍛造物、押出物、溶接製品または塑性変形により得られる製品の形態である製品に加工するのに、優れた特性バランスを示す。塑性変形方法としては、時効成形、引張成形、およびロール成形が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
本発明のアルミニウム合金製品は、その高強度、低密度、高溶接性および優れた耐食性の組合せにより、航空機、船舶、または鉄道もしくは道路車両の部品としての、シート、板、鍛造物、押出物、溶接製品、または塑性変形により得られる製品の形態である製品として、特に好適である。
【0034】
別の実施態様では、特にアルミニウム合金製品が押し出されている場合、好ましくは合金製品が、その最も厚い断面地点で150mmまでの厚さを有する輪郭に押し出されている。
【0035】
押し出された形態で、この合金製品は、従来は機械加工または研削技術により、ある形状を有する構造部品に機械加工されている厚い板材料の代わりに使用することができる。この実施態様では、押出製品が、好ましくはその最も厚い断面地点で、15〜150mmの厚さを有する。
【0036】
アルミニウム合金製品の優れた特性バランスは、広い厚さ範囲にわたって得られている。板の厚さ0.6〜1.5mmでは、アルミニウム合金製品は自動車の車体シートとして特に重要である。12.5mmまでの厚さ範囲では、これらの特性は、機体シートに優れている。薄板の厚さ範囲は、航空機翼構造に使用する縦通材または一体的な翼パネルおよび縦通材を形成するのに使用できる。15〜80mmの厚さ範囲では、これらの特性は、造船および一般的な構造用途、例えば圧力容器に優れている。
【0037】
本発明のアルミニウム合金製品は、工具製造用板、またはプラスチック製品を例えばダイキャスティングもしくは射出成形により製造する型に使用する型板としても使用できる。
【0038】
本発明のアルミニウム合金製品は、損傷許容度が必要とされる用途、例えば航空宇宙用途向けの損傷に耐えられるアルミニウム製品、より詳しくは、縦通材、圧力隔壁、機体シート、下側翼パネル、機械加工される部品用もしくは鍛造用の厚板、または縦通材用の薄板に特に好適である。
【0039】
高強度、低密度、優れた耐食性、および高温における熱的安定性の組合せにより、本発明のアルミニウム合金製品は、クリープ成形(時効成形またはクリープ時効成形とも呼ばれる)により、航空機用の、機体パネルまたは他の予備成形可能な部品に加工するのに特に好適である。また、他の塑性成形方法、例えばロール成形または引張成形も使用できる。
【0040】
意図する用途の必要条件に応じて、合金製品を100〜500℃の温度範囲にアニーリングして、製品を製造することができる。これには、軟質焼戻し、加工硬化焼戻し、またはクリープ成形に必要とされる温度範囲が含まれるが、これらに限定されない。
【0041】
本発明のアルミニウム合金製品は、融接、摩擦揺動溶接(friction stir welding)、リベット留め、および接着といった(但しこれらに限定されない)従来のあらゆる接合技術により、所望の製品に接合するのに非常に好適である。
【実施例】
【0042】
ここで、下記の例を参照しながら本発明を説明する。
【0043】
例1
実験室規模で、5種類の合金を鋳造し、機械的特性に関して本発明の原理を実証した。表1−1に、合金A〜Eの組成を質量%で示す。これらの合金を実験室規模でインゴットに鋳造し、これらのインゴットを温度425℃〜450℃に予熱し、その温度に1時間保持した。これらのインゴットを80mmから8mmに熱間圧延し、続いて中間アニーリングを入れながら、最終的な冷間圧下率40%で最終厚さ2mmに冷間圧延した。最終的な板を1.5%引っ張り、温度325℃で2時間アニーリングした。
【0044】
【表1】

合金はすべてFe0.06質量%およびSi0.04質量%、残部アルミニウムおよび不純物を含む。
【0045】
合金A〜Eで得られる機械的特性および物理的特性を表1−2に、AA2024−T3およびAA6013−T6に関する典型的な値と比較して示す。合金B、C、およびDは、本発明の一部である。合金Aおよび合金Eは基準として使用される。
【0046】
【表2】

機械的特性は、ASTM EM8に準拠して測定した。Rp、TYSは、(引張)降伏強度を意味し、Rm、UTSは、極限引張強度を意味し、Aは破断点伸びを意味する。
【0047】
本発明は、競争力のある強度特性を達成するのに必要な合金化元素の一種としてMnを含んでなる。Mnを0.9質量%含む基準合金Aは、Mnを0.1質量%しか含まない基準合金Eに対して、降伏強度(TYS)において約12%の改良を示す。降伏強度のさらなる改良は、本発明の合金により達成することができる。合金Bは、Ti0.10質量%を意図的に添加しており、合金Bは、基準合金Aと比較して約9%の降伏強度改良を示し、合金Eに対しては約21%の降伏強度改良を示している。合金CおよびDにより示されるように、CrとTiを組み合わせて添加することにより、降伏強度の最適な改良を達成することができる。本発明(合金CおよびD)に記載されるようにCrとTiを組み合わせることにより、基準合金Aに対して約14%の降伏強度改良を示し、合金Eに対しては27%の降伏強度改良を示している。本発明の合金CおよびDは、優れた降伏強度特性を示すのみならず、確立されているAA2024およびAA6013合金より低い密度も有する。
【0048】
耐食性に関する本発明の原理を実証するために、合金A、C、およびEを腐食試験にも付した。
【0049】
合金の組成を表1−3に質量%で示す。
【0050】
【表3】

これらの合金は、Fe0.06質量%およびSi0.04質量%、残部アルミニウムおよび不純物を含む。
【0051】
合金AおよびEの化学組成は本発明の範囲外であり、合金Cの化学組成は、本発明の合金の化学組成の範囲内である。
【0052】
3種類の合金を、これらの合金を最終厚さ3mmに冷間圧延した以外は、上記のように処理した。
【0053】
処理した合金から製造した板を溶接し、ASSET試験とも呼ばれる標準ASTM G66試験を使用して腐食を測定した。
【0054】
溶接試験には、レーザー光線溶接を使用した。溶接出力は4.5kW、溶接速度2m/分で、ER 5556溶加材ワイヤを使用した。
【0055】
腐食試験の結果を表1−4に示す。
【0056】
母材ならびに溶接した状態における腐食性能を試験した。
【0057】
【表4】

HAZは、熱の影響を受けた区域を意味する。
N、PB−A、PB−B、およびPB−Cの判定は、それぞれ点食なし、僅かな点食、中程度の点食および深刻な点食を意味する。判定E−Dは非常に深刻な剥離を意味する。
【0058】
本発明は、良好な機械的特性と良好な耐食性の組合せを備えた低密度合金を開示する。したがって、本発明の組成物は、輸送市場、特に航空宇宙用途における優れた候補になる。
【0059】
表1−4に示すように、本発明の合金を代表する合金Cは、本発明の範囲に入らない合金AおよびEに対して、母材、HAZおよび溶接部において腐食特性が改良されている。
【0060】
例2
表2−1に質量%で示される化学組成を有するAA5xxxシリーズのアルミニウム合金を、実験室規模でインゴットに鋳造した。これらのインゴットを温度410℃に1時間予熱し、続いて温度510℃で15時間加熱した。これらのインゴットを80mmから8mmに熱間圧延し、続いて中間アニーリング工程を入れ、最終的な冷間圧下率40%で、最終厚さ2mmに冷間圧延した。最終的な板を1.5%伸長させ、続いて温度460℃で30分間アニーリングした。
【0061】
【表5】

【0062】
全ての合金がFe0.06質量%およびSi0.04質量%、残部アルミニウム、ならびに不純物を含む。
【0063】
これらの合金に対する機械的試験の結果を表2−2に示す。
【0064】
【表6】

機械的特性は、ASTM EM8により測定した。Rp、TYSは、(引張)降伏強度を意味し、Rm、UTSは、極限引張強度を意味し、Aは破断点伸びを意味する。
【0065】
表2−2は、Zr添加量0.1質量%しか含まない基準合金Aの降伏強度は、Cr添加量0.1質量%しか含まない基準合金Fより約5%強度が高いことを示している。合金AおよびFの性能を、Cr添加量0.1質量%およびZr添加量0.1質量%および少量のTiを含む合金Bと比較すると、降伏強度の小さな優位性が得られている。さらに、ZrおよびTiだけを含み、Crを含まない合金Cに関して、降伏強度が少し増加していることが観察される。しかし、合金Eにより代表されるように、CrをTiと組み合わせると、合金の強度は、基準合金Aと比較して11〜13%増加し、基準合金Fと比較して17〜19%増加している。3種類の元素全てを合金に添加した組合せ(合金D)では、合金Eより僅かに高い強度レベルが観察される。
【0066】
表2.1の合金を増感後の腐食試験にもかけた。結果を表2.3に示す。
【0067】
【表7】

【0068】
腐食は、ASSET試験とも呼ばれる標準ASTM G66試験を使用して測定した。
【0069】
判定NおよびPB−Aは、それぞれ点食なし、僅かな点食を意味する。
【0070】
合金化添加元素の選択は、表2−3に示すように、合金の腐食挙動にも影響を及ぼす。Crを含まない合金(合金AおよびC)に関して、腐食試験を行った後で、ある程度の点食が観察された。しかし、Cr含有合金(合金B、D、E、およびF)では、認められる攻撃は観察されなかった。
【0071】
例3
この例は、表3−1に質量%で示す化学組成を有するAA5xxxシリーズのアルミニウム合金に関する。合金A〜Fは、例2で使用された合金A〜Fに類似しているが、異なった処理を行った。表3−1には、Sc含有量も示す。表3−1の合金は実験室規模でインゴットに鋳造したものである。これらのインゴットを温度450℃に1時間予熱し、その予熱温度で厚さ80mmから厚さ8mmに熱間圧延した。続いてこれらの板を、中間アニーリング工程を入れ、最終圧下率40%で、最終的な冷間厚さ2mmに冷間圧延した。次いで、これらの板を1.5%伸長させ、温度325℃で2時間アニーリングした。
【0072】
【表8】

【0073】
全ての合金がFe0.06質量%およびSi0.04質量%、残部アルミニウム、ならびに不純物を含む。
【0074】
【表9】

【0075】
機械的特性は、ASTM EM8に準拠して測定した。Rp、TYSは、(引張)降伏強度を意味し、Rm、UTSは、極限引張強度を意味し、Aは破断点伸びを意味する。
【0076】
表3−2は、合金A〜Gの得られる機械的特性を示す。合金Aおよび合金Fは、この例で基準合金として使用される。表3−2は、Cr0.10質量%を添加した合金Fの降伏強度が、Zr0.10質量%を添加した合金Aより約14%優れていることを示す。これは、合金Aが合金Fよりも高い降伏強度を有していた例2とは矛盾しているように思われるかもしれない。この違いの理由は、熱間圧延の前に使用した予熱温度に関係していると考えられ、予熱の際、分散質が形成され、これが最終的な製品の機械的特性に影響を及ぼし得るためである。
【0077】
例2におけるように、高い予熱温度を使用する場合、Zr0.1質量%しか含まない合金(合金A)は、Cr0.1質量%しか含まない合金(合金F)よりも、性能が僅かに優れている。しかし、より低い予熱温度を使用すると、Cr含有合金は、Zrだけを含む合金(合金A)と比較して、より効果的に改良される。表3−2の特性は、CrをTi(合金E)、Zr(合金B)またはZrとTiの両方(合金D)と組み合わせると、基準合金AおよびFと比較して、強度が著しく改良されることを実証している。基準合金AおよびFと比較して、合金DおよびEの強度増加も例2で見ることができるが、例3で到達した値は、はるかに高かった。この効果は、熱間圧延の前に使用した予熱温度が低いためである。
【0078】
最も高い強度レベルは、4種類の主な分散質形成元素(Mn、Cr、Ti、およびZr)をSc添加と共に含む合金Gで達成された。降伏強度390MPaが達成され、これは例2および3の両方に記載する合金のいずれよりも優れている。
【0079】
本発明を十分に説明したが、当業者には明らかなように、本明細書に記載される本発明の精神および範囲から離れることなく、多くの変形および修正を行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、下記の組成、すなわち
Mg 3.5〜6.0
Mn 0.4〜1.2
Fe <0.5
Si <0.5
Cu <0.15
Zr <0.5
Cr <0.3
Ti 0.03〜0.2
Sc <0.5
Zn <1.7
Li <0.5
Ag <0.4
所望により、エルビウム、イットリウム、ハフニウム、バナジウム、各<0.5質量%からなる群から選択された一種以上の分散質形成元素、および不純物または不可避元素各<0.05、合計<0.15、ならびに残部アルミニウムを有し、高強度、優れた耐食性および溶接性を有する、アルミニウム合金製品。
【請求項2】
前記Ti含有量が0.03〜0.12質量%、好ましくは0.05〜0.1質量%である、請求項1に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項3】
前記Cr含有量が0.03〜0.12質量%、好ましくは0.05〜0.1質量%である、請求項1または2に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項4】
前記Zr含有量が0.05〜0.25質量%である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項5】
Mnが0.6〜1.0質量%、好ましくは0.65〜0.9質量%である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項6】
CrとZrを組み合わせた量が0.06〜0.25である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項7】
CrとTiを組み合わせた量が0.06〜0.22である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項8】
ZrとTiの組合せが0.06〜0.25である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項9】
CrとTiとZrを組み合わせた量が0.09〜0.36である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項10】
Scが0〜0.3質量%、好ましくは0.1〜0.3質量%である、請求項1〜9のいずれか一項に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項11】
Znが0〜0.9質量%、好ましくは0〜0.65質量%、より好ましくは0.2〜0.65質量%、さらに好ましくは0.35〜0.6質量%である、請求項1〜10のいずれか一項に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項12】
Mgが3.6〜5.6質量%、好ましくは3.6〜4.4質量%、より好ましくは3.8〜4.3質量%である、請求項1〜11のいずれか一項に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項13】
Mgが5.0〜5.6質量%である、請求項1〜11のいずれか一項に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項14】
前記製品が、圧延製品、シート、板、鍛造物、押出物、溶接製品または塑性変形により得られる製品の形態である、請求項1〜13のいずれか一項に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項15】
前記製品が、航空機、船舶、または鉄道もしくは道路車両の部品としての、シート、板、鍛造物、押出物、溶接製品、または塑性変形により得られる製品の形態である、請求項1〜14のいずれか一項に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項16】
前記製品が、前記製品の最も厚い断面地点で、15〜150mmの厚さを有する、請求項1〜15のいずれか一項に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項17】
前記製品が、押出製品である、請求項16に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項18】
前記製品が、厚さ0.6〜80mmを有する板製品の形態である、請求項1〜17のいずれか一項に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項19】
前記製品が、機体シート、機械加工された部品用の厚板、鍛造物、または縦通材用の薄板である、請求項1〜18のいずれか一項に記載のアルミニウム合金製品。

【公表番号】特表2009−504918(P2009−504918A)
【公表日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−526421(P2008−526421)
【出願日】平成18年8月14日(2006.8.14)
【国際出願番号】PCT/EP2006/008030
【国際公開番号】WO2007/020041
【国際公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(507108003)アレリス、アルミナム、コブレンツ、ゲゼルシャフト、ミット、ベシュレンクテル、ハフツング (10)
【氏名又は名称原語表記】ALERIS ALUMINUM KOBLENZ GMBH