説明

高強度ゲルおよびそのゲルの製造方法

【課題】 高い強度を有する新規なハイドロゲルとその製造方法を提供する。
【解決手段】架橋網目構造を有する第1のポリマーを含む微粒子の架橋網目構造に第2のポリマーが侵入した構造を有するハイドロゲル、また下記の工程を含むハイドロゲルの製造方法。1)架橋網目構造を有する第1のポリマーを含む微粒子ゲルを調製する工程;2)前記微粒子を、第2のポリマーを構成するモノマーの溶液に浸漬する工程;及び3)前記モノマーを重合させて、前記微粒子の架橋網目構造に侵入した第2のポリマーを形成させる工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のポリマーを含む高強度のハイドロゲルおよびそのハイドロゲルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロゲルは、柔軟性や保水性等に優れるという特性を有することから注目を集めている有用な素材であり、医療・医薬、食品、土木、バイオエンジニアリング、スポーツ関連などの多岐にわたる分野に対する利用が期待されている。この様なハイドロゲルの利用を可能にするための課題として、ハイドロゲルの機械的強度の向上が挙げられる。
【0003】
ハイドロゲルの機械的強度を向上させる様々な方法が提唱されている(例えば特許文献1〜5および非特許文献1〜3参照)。本発明者らは、前記の方法とは異なるアプローチとして、2以上のポリマー、特に架橋網目構造を有するポリマー同士が又は架橋網目構造を有するポリマーと直鎖ポリマーとが互いに絡み合った構造を有するハイドロゲルを開発した(例えば特許文献6、非特許文献4)。この架橋網目構造を有する2以上のポリマーが絡み合った構造を有するハイドロゲル(以下、この様なハイドロゲルをネットワーク型ゲルと表す)は、人工半月板(特許文献7)や細胞培養基材(特許文献8)などに利用されている。
【0004】
また、特定量の重合開始剤とモノマーとの重合溶液を用いて架橋網目構造を有するポリマーを形成し、この架橋網目構造の内部に前記ポリマーとは異なるポリマーを導入したゲル(特許文献9)や、架橋ポリマーからなる空洞部の散在する網目構造に、前記空洞部を満たす大きさのランダムコイル形態を取る非架橋ポリマーが絡み付いた構造を有するハイドロゲル(特許文献10)など、より高い強度を有するネットワーク型ゲルも提唱されている。
【特許文献1】特開2004-91724号公報
【特許文献2】特開2002-053762号公報
【特許文献3】特開2002-053629号公報
【特許文献4】特開昭57-130543号公報
【特許文献5】特開昭58-36630号公報
【特許文献6】国際公開第03/093337号パンフレット
【特許文献7】国際公開第06/013612号パンフレット
【特許文献8】特開2006-42795
【特許文献9】特開2006-213868
【特許文献10】国際公開第06/001313号パンフレット
【非特許文献1】H. Haraguchiら、“Nanocomposite Hydrogels: A Unique Organic-Inorganic Network Structure with Extraordinary Mechanical, Optical, and Swelling/De-swelling Properties”、Advanced Materials、2002年、第14巻、第1120-1123頁
【非特許文献2】Y. Okumuraら、"The Polyrotaxane Gel: A Topological Gel by Figure--of-Eight Cross-links”、2001年、第13巻、第485-487頁
【非特許文献3】Long Zhaoら、“Radiation synthesis and characteristic of the hydrogels based on carboxymethylated chitin derivatives”、Carbohydrate Polymers、2003年、第51巻、第169-175頁
【非特許文献4】J.P.Gongら、“Double-Network Hydrogel with Extremely High Mechanical Strength”、Advanced Materials、2003年、第15巻、第1155-1158頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、新規な構造を有するネットワーク型ゲルとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、架橋網目構造を有する第1のポリマーを含む微粒子の架橋網目構造に第2のポリマーが侵入した構造を有するハイドロゲルが、強度等のネットワーク型ゲルの利点を保持しつつ、従来のネットワーク型ゲルに比較して成形性に優れることを見いだし、下記の発明を完成した。
【0007】
(1)架橋網目構造を有する第1のポリマーを含む微粒子の架橋網目構造に第2のポリマーが侵入した構造を有するハイドロゲル。
【0008】
(2)第2のポリマーが架橋網目構造を有するポリマー又は直鎖ポリマーである、(1)に記載のハイドロゲル。
【0009】
(3)架橋網目構造を有するポリマー又は直鎖ポリマーが電荷を有する不飽和モノマー及び/又は電気的に中性である不飽和モノマーの重合体である、(1)又は(2)に記載のハイドロゲル。
【0010】
(4)電荷を有する不飽和モノマーが酸性基及び/又は塩基性基を有する不飽和モノマーである、(3)に記載のハイドロゲル。
【0011】
(5)酸性基がカルボキシル基、リン酸基又はスルホン酸基或いはそれらの基の塩である、(4)に記載のハイドロゲル。
【0012】
(6)下記の工程を含む、架橋網目構造を有する第1のポリマーを含む微粒子の架橋網目構造に第2のポリマーが侵入した構造を有するハイドロゲルの製造方法。
【0013】
1)架橋網目構造を有する第1のポリマーを含む微粒子ゲルを調製する工程;
2)前記微粒子を、第2のポリマーを構成するモノマーの溶液に浸漬する工程;及び
3)前記モノマーを重合させて、前記微粒子の架橋網目構造に侵入した第2のポリマーを形成させる工程。
【0014】
(7)工程1)が架橋網目構造を有する第1のポリマーを含むゲルを砕いて微粒子ゲルを調製する工程である、(6)に記載の製造法。
【0015】
(8)工程1)が乳化重合法、懸濁重合法又は分散重合法によって架橋網目構造を有する第1のポリマーを含む微粒子ゲルを調製する工程である、(6)に記載の製造法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のハイドロゲルは、高い強度を有すると共に、任意の形状に容易に成形可能であり、従来のネットワーク型ゲルに比べ、ゲルの形状に制限がない、応用性に優れたゲルである。また本発明のハイドロゲルを製造する方法は、従来のネットワーク型ゲルの製造方法と比較して製造に要する時間を大幅に短縮することができ、任意の形状を有する強度の高いハイドロゲルを効率的に製造することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のハイドロゲルは、架橋網目構造を有する第1のポリマーを含む微粒子の架橋網目構造に第2のポリマーが侵入した構造を有するハイドロゲルである。本発明における架橋網目構造とは、図1に模式的に示されるように、複数の架橋点を有するポリマー(以下、この様なポリマーを架橋網目ポリマーと表す)によって形成される網目構造をいう。架橋点の数、架橋点における分岐の数には特に制限はない。この架橋網目構造に侵入する第2のポリマーは、架橋網目ポリマーでも、架橋点を有しない直鎖状のポリマー(以下、この様なポリマーを直鎖ポリマーと表す)でもよい。
【0018】
本発明のハイドロゲルの構造は、該ハイドロゲルの製造法を知ることによってより容易に理解し得ることから、以下、製造法を中心に説明することにする。
【0019】
従来のネットワーク型ゲルの製造法は、例えば特許文献6に記載されている様に、架橋網目構造を有する第1のポリマーからなるゲルを調製する工程、該ゲルを第2のポリマーを構成するモノマーの溶液に浸漬する工程(この工程で第1のポリマーからなるゲルの架橋網目構造の空隙部分に該モノマーが含浸される)、及び該モノマーを重合させる工程、を含む。ここで第1第2の両ポリマーがいずれも架橋網目ポリマーである場合には、図2aに模式的に示されるように、第1のポリマーの架橋網目構造に第2のポリマーの架橋網目構造が進入して絡みつき、結果として内部に複数の網目構造が形成されている構造ないし状態を有するネットワーク型ゲルが製造される。この構造ないし状態は、相互侵入網目構造と呼ばれている。また第1のポリマーが架橋網目ポリマーであり、第2のポリマーが直鎖ポリマーである場合には、図2bに模式的に示されるように、第1のポリマーの架橋網目構造に第2のポリマーが進入して絡みつき、結果として内部に複数の網目構造が形成されている構造ないし状態を有するネットワーク型ゲルが製造される。この構造ないし状態はセミ相互侵入網目構造と呼ばれている。
【0020】
上記の方法によって製造される従来型のネットワーク型ゲルは、ゲル全体にわたって連続的に形成される第1のポリマーとその架橋網目構造を土台とし、かつ第1のポリマーの架橋網目構造に第2のポリマーが侵入した相互侵入網目構造あるいはセミ相互侵入網目構造を、ゲル全体にわたって有するものとなる。
【0021】
これに対して本発明のハイドロゲルの製造法は、下記の工程を含む。
【0022】
1)架橋網目構造を有する第1のポリマーを含む微粒子ゲルを調製する工程;
2)前記微粒子を、第2のポリマーを構成するモノマーの溶液に浸漬する工程;及び
3)前記モノマーを重合させて、前記微粒子の架橋網目構造に侵入した第2のポリマーを形成させる工程。
【0023】
工程1)の架橋網目構造を有する第1のポリマーを含む微粒子は、架橋網目構造を有する第1のポリマーを含むゲルを調製し、これを物理的に、例えば乳鉢と乳棒を用いて砕く等して、調製することが出来る。また、蓮池ら(蒲池幹治、遠藤剛監修、「ラジカル重合ハンドブック」、1999年、エヌ・ティー・エス発行)に記載されるような、ポリマーからなる微粒子を製造する一般的な方法である乳化重合法、懸濁重合法又は分散重合法などによって、架橋網目構造を有する第1のポリマーを含む微粒子を調製してもよい。
【0024】
さらに本発明は、工程1)で調製した架橋網目構造を有する第1のポリマーを含む微粒子を第2のポリマーを構成するモノマーの溶液に浸漬する工程2)(この工程で第1のポリマーを含む微粒子の架橋網目構造の空隙部分に該モノマーが含浸される)及び該モノマーを重合させる工程を含む。
【0025】
この方法によって製造される本発明のハイドロゲルは、ゲル全体にわたって不連続に存在する第1のポリマーの微粒子とその架橋網目構造を土台とし、該微粒子の架橋網目構造に第2のポリマーが侵入することで、結果的に該微粒子が第2のポリマーによってつなぎ合わされた構造を有するものとなる。第1のポリマーの微粒子の架橋網目構造に第2のポリマーが侵入している部分では、従来のネットワーク型ゲルと同様に、相互侵入網目構造(図3a)あるいはセミ相互侵入網目構造(図3b)が形成されるが、該微粒子間ならびに該微粒子が存在していない部分がある場合の当該部分には第2のポリマーのみが存在し、相互侵入網目構造あるいはセミ相互侵入網目構造は形成されない。
【0026】
この様な構造を有する本発明のハイドロゲルは、従来型のネットワーク型ゲルと同等の高い強度を有する。例えば、図4に示すように、本発明のハイドロゲルの「破壊エネルギー」は、ネットワーク型ゲルではない通常のゲルに比べて極めて高く、また従来型のネットワーク型ゲルとほぼ同等の値を示している。ここで、「破壊エネルギー」とは、試料の引裂き試験において定常的な引裂き破壊が進む際(すなわち破壊速度一定で破壊が進む際)の単位破断面を形成するのに必要な仕事量であって、試料の破壊力学的な丈夫さを示す指標である。具体的には試料に切り込みを入れ、引裂き試験を行い、その際に必要となる力と、試料の厚みから算出される値(J/m)を言う。
【0027】
前記の通り、従来型のネットワーク型ゲルの製造法は、架橋網目構造を有する第1のポリマーからなるゲルを調製し、これを第2のポリマーを構成するモノマーの溶液に浸漬する工程を含む。しかし、この架橋網目構造を有する第1のポリマーからなるゲルは大変に脆く、簡単に亀裂が入ったり、破損したりしてしまう。そのため、ネットワーク型ゲルの任意の形状に成形することは、当該ゲルの取り扱い性が低いことを理由に事実上困難であった。また、架橋網目構造を有する第1のポリマーからなるゲルは、第2のポリマーを構成するモノマーの溶液に浸漬させることで、概ね一辺が約2.2倍(体積にして2.2=約10倍)に膨潤する性質を有している。そのため、ある特定の形状にネットワーク型ゲルを成形しようとする場合、前記の取り扱い性の問題とは別に、作製したい大きさ、形状を事前に考慮に入れた上で、第一のポリマーゲルを作成する必要がある。
【0028】
これに対して、本発明のハイドロゲルとその製造法の一態様は、架橋網目構造を有する第1のポリマーからなるゲルを砕く等して調製される微粒子を使用することによって、取り扱い性が低いという問題並びに大きく膨潤するという問題をいずれも解消して、成形性の高いゲルを提供することができる。
【0029】
また、従来型のネットワーク型ゲルの製造法では、第1のポリマーからなるゲルの架橋網目構造に第2のポリマーを構成するモノマーの溶液を含浸させる時間が、第1のポリマーからなるゲルの大きさに比例して長くなるのに対して、本発明のハイドロゲルの製造法では、架橋網目構造を有する第1のポリマーを含む微粒子に第2のポリマーを構成するモノマーの溶液を含浸させればよいので、含浸に要する時間をゲル全体の大きさに関わりなく大幅に短縮することが出来る。
【0030】
なお、上記の説明における「第1のポリマー」並びに「第2のポリマー」という表記は、本発明のハイドロゲルを2つのポリマーのみからなるハイドロゲルに限定するためのものではなく、本発明の製造法の工程に現れるポリマー、すなわち微粒子を構成するポリマーと微粒子をつなぎ止めることになるポリマーとの区別のために用いたものである。すなわち、本発明のハイドロゲルには、2つのポリマーのみからなるハイドロゲルも、3つ又はそれ以上のポリマーから構成されるハイドロゲルも含まれる。例えば、架橋網目構造を有する第1のポリマーからなる微粒子に対して第2第3のポリマーを侵入させたハイドロゲルも本発明の一態様である。また、従来の製造法によって調製される2以上のポリマーからなるネットワーク型ゲルを砕いた微粒子に対して第3のポリマーを侵入させたハイドロゲルも、本発明の一態様である。また「2以上の」とは、本発明のハイドロゲルを形成するポリマーが2つ以上であることを意味し、種類の異なる、すなわち互いに異なる化学物質である2種以上のポリマーからなるハイドロゲル、化学物質として同じ種類であるポリマーの2以上からなるハイドロゲルのいずれも含む意味である。
【0031】
本発明で利用可能な架橋網目ポリマー又は直鎖ポリマーを構成する原料モノマーとしては、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、アクリルアミド(AAm)、アクリル酸(AA)、メタクリル酸、N−イソプロピルアクリルアミド、ビニルピリジン、ヒドロキシエチルアクリレート、酢酸ビニル、ジメチルシロキサン、スチレン(St)、メチルメタクリレート(MMA)、トリフルオロエチルアクリレート(TFE)、スチレンスルホン酸(SS)またはジメチルアクリルアミド等が例示される。また、フッ素含有モノマー、具体的には2,2,2−トリフルオロエチルメチルアクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメタクリレート、3−(ペルフルオロブチル)−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロノニメタクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、2,3,4,5,6−ペンタフルオロスチレンまたはフッ化ビニリデン等も利用可能である。さらに、ジェラン、ヒアルロン酸、カラギーナン、キチンまたはアルギン酸等の多糖類、あるいはゼラチンやコラーゲン等のタンパク質を使用することもできる。
【0032】
本発明のハイドロゲルを構成する2以上のポリマーは、上記に例示するポリマーにおいて、正又は負に荷電し得る基を有する不飽和モノマーからなるポリマーと、電気的に中性の基を有する不飽和モノマーからなるポリマーとの組み合わせであることが好ましい。正又は負に荷電し得る基を有する不飽和モノマーとしては、好適には、酸性基(例えば、カルボキシル基、リン酸基及びスルホン酸基)や塩基性基(例えば、アミノ基)を有する不飽和モノマー、例えば、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、アクリル酸(AA)、メタクリル酸又はそれらの塩を挙げることができる。また、電気的に中性な基を有する不飽和モノマーとしては、例えば、ジメチルシロキサン、スチレン(St)、アクリルアミド(AAm)、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチル−アクリルアミド、ビニルピリジン、スチレン、メチルメタクリレート(MMA)、フッ素含有不飽和モノマー(例えば、トリフルオロエチルアクリレート(TFE))、ヒドロキシエチルアクリレート又は酢酸ビニルを挙げることができる。
【0033】
本発明で利用可能なハイドロゲルの場合、正又は負に荷電し得る基を有する不飽和モノマーを重合させて第一の架橋網目構造を有するポリマーを含む微粒子を形成しておき、この架橋網目構造の空隙に電気的に中性の基を有する不飽和モノマーを含ませた後に、電気的に中性の基を有する不飽和モノマーを重合、または重合及び架橋させることが好ましい。架橋網目ポリマーの架橋度は、第一の架橋網目構造において概ね0.1モル%〜20モル%の範囲内で、第二の架橋網目構造は概ね0モル%〜20モル%の範囲内で任意に設定することができる。好ましくは第一の架橋網目構造は、概ね0.5モル%〜10モル%の範囲内で、第二の架橋網目構造は概ね0モル%〜5モル%の範囲内で任意に設定することができる。さらに好ましくは第一の架橋網目構造は、概ね2モル%〜6モル%の範囲内で、第二の架橋網目構造は概ね0モル%〜2モル%の範囲内で任意に設定することができる。ここで「架橋度」とは、モノマーの仕込みモル濃度に対する架橋剤のモル濃度の比をパーセントで表した値をいう。また、「相互侵入網目構造」における2以上の架橋網目ポリマーの架橋度はそれぞれ独立して設定することができる。例えば、荷電し得る基を有する架橋網目ポリマーの架橋度を電気的に中性の基を有する架橋網目ポリマーの架橋度より大きく設定してもよいし、またその逆でも良い。架橋剤は、モノマー成分に応じて適宜選択して使用すればよい。
【0034】
また、本発明の発明者らによる発明にかかる特許文献6〜10又は非特許文献4などに開示されている、ハイドロゲルの強度を高めるための好ましい方法、条件、利用可能なポリマーやその組み合わせ、さらにはハイドロゲルに要求される諸特性とこれを付与するための処理などを、架橋網目構造を有するポリマーを含む微粒子を使用するという特徴を損なわない限り、本発明のハイドロゲルとその製造法において適宜利用することができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を開示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はかかる実施例の記載された具体的な発明に限定されるものではない。
【0036】
<実施例>
1mol/Lの2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、0.04mol/L (AMPSに対し4mol%)のN,N'-メチレンビスアクリルアミド(MBAA)、及び0.001mol/l (AMPSに対し0.1mol%)のα-ケトグルタル酸を含む水溶液12mLにUV(波長365nm)を7時間当て、架橋度4mol%のポリAMPS ゲル(PAMPSゲル)12gを得た。このPAMPSゲルを乳鉢に入れてすりつぶしてPAMPSゲルの微粒子を調製した。ここに、4mol/Lのアクリルアミド(AAm)、0.0008mol/L(AAmに対し0.02mol%)のMBAA、及び0.004mol/L(AAmに対し0.1mol%)の過硫酸アンモニウムを含む水溶液(AAm水溶液)を、微粒子の総体積の10倍量加えて混合し、ペーストを調製した。ペーストをシャーレに入れ、封をした後、60℃の水浴中に10時間置いてAAmを重合させ、本発明のハイドロゲルを製造した。
【0037】
<試験例>
1mol/Lの2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、0.04mol/L (AMPSに対し4mol%)のN,N'-メチレンビスアクリルアミド(MBAA)、及び0.001mol/l (AMPSに対し0.1mol%)のα-ケトグルタル酸を含む水溶液にUV(波長365nm)を7時間当て、架橋度4mol%のポリAMPS ゲル(PAMPSゲル)を得た。このゲルを、2mol/Lのアクリルアミド(AAm)、0.0004mol/L(AAmに対し0.02mol%)のMBAA、及び0.002mol/L(AAmに対し0.1mol%)のα-ケトグルタル酸を含む大過剰の水溶液(AAm水溶液)に1日以上浸漬した。AAm水溶液で膨潤したPAMPSゲルを取り出し、さらにUV(波長365nm)を10時間当てて従来のネットワーク型ゲルを作製し、比較サンプル1とした。また、AAm水溶液のみを60℃の水浴中に10時間置いてポリAAmゲル(PAAmゲル)を作製し、比較サンプル2とした。
【0038】
本発明のハイドロゲル、比較サンプル1及び比較サンプル2をそれぞれ水に数日間浸漬して膨潤させたたハイドロゲルを用意し、破壊エネルギーを測定した。
【0039】
破壊エネルギーは、JIS K-6252 トラウザ型 1/2サイズの金属性カッターで切り抜いた厚さ4.0〜5.0mmのゲルを、ORIENTIC社製 TENSILON型式 RTC-1150A,1310A(試験機A)にアタッチメント金具(引っ張り試験用固定器具)で固定し、定常的な破壊が起こる条件で4.2×10−3m/sの速度で引き裂き試験を3〜5回行い、その試験結果を以下の式に当てはめることによって算出した。なお、以下の式には3〜5回の測定値の平均値を代入した。
【0040】
(破壊エネルギー)=(定常的な破壊に要した仕事)/2×(破断面積)
=(定常的な破壊時の平均的な力)/2×(サンプル幅)
その結果、比較サンプル2の破壊エネルギーはゲル自体が脆く測定不能であったのに対して、本発明のハイドロゲルは100J/mを超える高い破壊エネルギーを有しており、比較サンプル1に近似するものであることが確認された(図4)。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係るゲル は、従来のネットワーク型ゲルと同等以上の強度を有することに加え、従来のネットワーク型ゲルに比べて成形性に優れており、任意の形状を有するネットワーク型ゲルとして利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明における架橋網目構造を模式的に示す図である。図中の黒丸はポリマーの架橋点を示す。
【図2a】従来型のダブルネットワーク型ゲルにおける相互侵入網目構造を模式的に示す図である。
【図2b】従来型のダブルネットワーク型ゲルにおけるセミ相互侵入網目構造を模式的に示す図である。
【図3a】本発明のハイドロゲルにおける相互侵入網目構造を模式的に示す図である。
【図3b】本発明のハイドロゲルにおけるセミ相互侵入網目構造を模式的に示す図である。
【図4】本発明のハイドロゲル、PAAmゲル及び従来型のネットワーク型ゲルの破壊エネルギーの比較を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋網目構造を有する第1のポリマーを含む微粒子の架橋網目構造に第2のポリマーが侵入した構造を有するハイドロゲル。
【請求項2】
第2のポリマーが架橋網目構造を有するポリマー又は直鎖ポリマーである、請求項1に記載のハイドロゲル。
【請求項3】
架橋網目構造を有するポリマー又は直鎖ポリマーが電荷を有する不飽和モノマー及び/又は電気的に中性である不飽和モノマーの重合体である、請求項1又は2に記載のハイドロゲル。
【請求項4】
電荷を有する不飽和モノマーが酸性基及び/又は塩基性基を有する不飽和モノマーである、請求項3に記載のハイドロゲル。
【請求項5】
酸性基がカルボキシル基、リン酸基又はスルホン酸基或いはそれらの基の塩である、請求項4に記載のハイドロゲル。
【請求項6】
下記の工程を含む、架橋網目構造を有する第1のポリマーを含む微粒子の架橋網目構造に第2のポリマーが侵入した構造を有するハイドロゲルの製造方法。
1)架橋網目構造を有する第1のポリマーを含む微粒子ゲルを調製する工程;
2)前記微粒子を、第2のポリマーを構成するモノマーの溶液に浸漬する工程;及び
3)前記モノマーを重合させて、前記微粒子の架橋網目構造に侵入した第2のポリマーを形成させる工程。
【請求項7】
工程1)が架橋網目構造を有する第1のポリマーを含むゲルを砕いて微粒子ゲルを調製する工程である、請求項6に記載の製造法。
【請求項8】
工程1)が乳化重合法、懸濁重合法又は分散重合法によって架橋網目構造を有する第1のポリマーを含む微粒子ゲルを調製する工程である、請求項6に記載の製造法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−163055(P2008−163055A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−350526(P2006−350526)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】