説明

高強度ポリエチレン繊維の製造方法及び高強度ポリエチレン繊維

本発明は、延伸性に優れた,より高い強度及びより高い弾性率を有する生産性の高い高強度ポリエチレン繊維の製造方法及び当該方法により得られた高強度ポリエチレン繊維を提供する。当該方法は、(1)超高分子量ポリエチレンの溶媒に、化学的に表面が修飾されたカーボンナノファイバーを分散させ、(2)前記(1)で得られた分散液に前記ポリエチレンを混合させ、ポリエチレン濃度が0.5重量%以上50重量%未満である、ポリエチレン、前記修飾カーボンナノファイバー及び溶媒を含む混合ドープを作製し、(3)前記(2)で得られたドープを口金から押出し、冷却させた後、前記ドープを、0.005s−1以上0.5s−1以下の変形速度で、フィラメント糸条に延伸することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願のクロスリファレンス)
本出願は、2008年7月8日に提出された米国非仮特許出願第12/169,300号の優先権を主張し、その内容はすべて、ここで言及することにより本明細書に包含される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、延伸性に優れ、より高い強度及びより高い弾性率を有する生産性の高い高強度ポリエチレン繊維の製造方法、及びその方法によって得られた高強度ポリエチレン繊維に関する。
【背景技術】
【0003】
従来より、有機繊維の高強度化・高弾性率化の検討が多くなされており、分子量が高い屈曲性分子よりなる樹脂を、より高い延伸倍率で延伸することにより、繊維の高強度化・高弾性率化を実現する技術が広く知られている。そして、かかる技術に関する代表的な紡糸方法として、超高分子量のポリエチレンを原料とし、溶媒を用いて超延伸を可能とする、いわゆる“ゲル紡糸法”が知られており、既に産業上広く利用されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
近年、高強度ポリエチレン繊維は、上記の用途のみならず幅広い分野でその使用が拡大しており、その要求性能に関してさらなる均一かつ高強度・高弾性率化が強く求められている。
【0005】
これらの広範囲な要求を満足するための手段として、昨今、カーボンナノチューブ(以下、CNTと表記する)を複合させる手法が提案されている。良く知られているように、CNTは、六員環構造をした炭素(グラファイト面)が円筒状の構造を有している。その直径は約0.5nm〜約100nm、長さは約50nm以上の、極めて高いアスペクト比を有しており、構成する六員環構造に起因して、非常に高い力学強度を有している。このようなCNTの優れた特性は、ポリマーマトリクスに対するフィラーとして非常に有望であり、これまで多くの研究がなされてきた(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
しかしながら、相反する問題として、カーボンナノチューブは表面の結晶性が高く、ナノチューブ同士間の引力(しばしばπ−π相互作用と呼ばれる)が極めて大きいため、ポリマーマトリクスへの分散性が乏しく、コンポジット化したときの特性が十分に出にくいという難点があった。加えて、従来のフィラーに比べてコストが高く、工業化の面で大きな課題となっている。
【0007】
ところで、カーボンナノチューブに類似した形状の炭素材料として、カーボンナノファイバー(以下、CNFと表記する)がある。CNFは一般的に直径が数100nm〜1μm、長さが数μm〜数100μmの繊維状炭素材料である。CNTに比べて直径が大きいが、内部は実質的に結晶性の炭素で構成されてなるものである。CNFの力学特性はCNTに比べるとやや低くなるが、従来の高分子素材に比べるとその力学特性は格段に高く、フィラーとしての性能はCNTに劣らない素材である。加えてCNFは、CNTに比べて直径が大きいことに起因して、CNF同士の引力相互作用が小さく、分散性に優れるという利点がある。
【0008】
さらに、CNFの優位性として挙げられる点は、化学反応による表面修飾がCNTに比べて容易であるということである。通常、CNTの表面は高い結晶性を有しており、これがCNT特有の優れた力学特性の要因となっているのだが、その反面、高い結晶性は、表面の化学反応性に劣るという特性を抱えている。一方、CNFの構造は、内部は結晶性の高い構造であるものの、表面は非晶性炭素(アモルファスカーボン)に覆われている。この非晶性炭素は結晶性炭素に比べて、炭素原子同士の結合力が弱いため、化学反応を受け易いと考えられる。この特性は、表面を化学修飾する場合においては、CNFはCNTに比べて、化学修飾が容易であることを示している。
【0009】
CNFのこのような特性を活かして、CNFの表面に化学修飾を施し、ポリプロピレンや超高分子量ポリエチレンに複合させることで、材料の力学特性を向上させる試みが報告されている。しかしながら高強度ポリエチレン繊維への応用に関する具体的な報告例はなく、具体的な適正条件などは未知であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公昭60―47922号公報
【特許文献2】特公昭64−8732号公報
【特許文献3】国際公開WO00/69958号パンフレット
【特許文献4】国際公開WO03/69032号パンフレット
【特許文献5】国際公開WO05/84167号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】マクロモルキュールズ(Macromolecules)、2005年、第38巻、3883頁
【発明の概要】
【0012】
本発明者らは鋭意検討し、表面が化学修飾されたCNF(m−CNF)を複合させ、かつその条件を適性化することで、従来のゲル紡糸法では得られなかったような高延伸倍率を得ることのできる、高強度ポリエチレン繊維の新規な製造方法および該方法で得られる高強度ポリエチレン繊維の提供に成功し本発明に至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
[1](1)超高分子量ポリエチレンの溶媒に、化学的に表面修飾されたカーボンナノファイバーを分散させる工程と、
(2)前記工程(1)で得られた分散液に前記ポリエチレンを混合させ、ポリエチレン濃度が0.5重量%以上50重量%未満である、ポリエチレン、前記修飾カーボンナノファイバー及び溶媒からなる混合ドープを作製する工程と、
(3)前記工程(2)で得られたドープを口金から押出し、冷却させた後、前記ドープを、0.005s−1以上0.5s−1以下の変形速度で、フィラメント糸条に延伸する工程と
を含む、高強度ポリエチレン繊維の製造方法。
[2]前記表面修飾カーボンナノファイバーを作製する工程をさらに含み、該工程が、
(4)カーボンナノファイバーを酸化させることにより、カーボンナノファイバー表面にカルボキシル基を導入し、
(5)末端にアミンを含むアルキル鎖を前記(4)のカルボキシル基と反応させて、カーボンナノファイバー表面にアルキル鎖を導入すること
を含む、上記[1]に記載の方法。
[3]前記表面修飾カーボンナノファイバーがアルキル鎖で修飾されたカーボンナノファイバーであり、超高分子量ポリエチレンの極限粘度が5dL/g〜40dL/gである、上記[1]に記載の方法。
[4]前記カーボンナノファイバーの含有量が0.05wt%〜10wt%である上記[3]に記載の方法。
[5]前記修飾カーボンナノファイバー中に占めるアルキル鎖の重量分率が、8〜20%である、上記[3]に記載の方法。
[6]前記修飾カーボンナノファイバーにおけるアルキル鎖が、炭素数8以上の直鎖アルキルである、上記[3]に記載の方法。
[7]アルキル鎖が炭素数18のオクタデシル鎖である、上記[6]に記載の方法。
[8]上記[1]に記載の方法で製造されてなる高強度ポリエチレン繊維。
[9]上記[2]に記載の方法で製造されてなる高強度ポリエチレン繊維。
[10]上記[3]に記載の方法で製造されてなる高強度ポリエチレン繊維。
[11]上記[4]に記載の方法で製造されてなる高強度ポリエチレン繊維。
[12]上記[5]に記載の方法で製造されてなる高強度ポリエチレン繊維。
[13]上記[6]に記載の方法で製造されてなる高強度ポリエチレン繊維。
[14]上記[7]に記載の方法で製造されてなる高強度ポリエチレン繊維。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、表面修飾カーボンナノファイバーを微量添加するだけで高延伸倍率を得ることができ、その結果、従来のゲル紡糸技術では成し得なかった優れた強度・弾性率を有する高強度ポリエチレン繊維を提供することができるという利点を有する。
【0015】
加えて、従来のゲル紡糸技術では、多段延伸工程にて糸切れが最も多く、生産性を低下させる原因となっていたが、本発明にかかるポリエチレン繊維は、糸切れが発生する限界の延伸倍率が上昇することで、従来の強度・弾性率を維持したまま糸切れ発生率を低下させることが可能となり、生産性が高いポリエチレン繊維を提供することができるという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は融点近傍におけるポリエチレン相図の模式図である。
【図2】図2は延伸中における繊維中の、六方晶分率のアルキル鎖分率依存性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に記述する。本発明に係る繊維を得る手法に関しては、新規な手法が必要であり、例えば以下のような方法が推奨されるが、それに限定されるものでは無い。
【0018】
まず、表面がアルキル鎖で化学修飾されたカーボンナノファイバー(m−CNF)の製造方法について説明する。
【0019】
本発明におけるカーボンナノファイバー(CNF)とは、上述の通り、直径が100nm〜1μm、長さが数μm〜数100μmの繊維状炭素材料である。CNTに比べて直径が大きいが、内部は実質的に結晶性の炭素で構成されているものである。
【0020】
次に、CNFに施す化学修飾について述べる。CNFの表面に化学修飾によってアルキル鎖を導入することで、紡糸溶媒およびポリエチレンマトリクスに対する親和性が増し、分散が容易になる。またこの他にも、ポリエチレンとの親和性が高くなることで、繊維を形成した時に、繊維内部のポリエチレンからCNFへの応力伝達効率が高くなるという観点から、化学修飾を行なうことは重要である。
【0021】
化学修飾の第一段階は、強酸を用いて、CNFの表面にカルボキシル基(−COOH)や水酸基等の、酸性の官能基を導入することである。酸性の官能基を導入するための強酸は特に限定されるものではないが、例えば塩素酸カリウム、過塩素酸カリウム、塩酸、硫酸、硝酸、およびそれらの混合物が挙げられる。酸処理に必要な温度は0〜100℃で、好ましくは30〜70℃である。
【0022】
酸処理に要する時間は、後で述べるように、表面の化学修飾の第二段階で生成するアルキル鎖が表面修飾CNFの全体量に占める割合に影響を及ぼし、繊維の延伸性に強く影響するので特に重要である。この理由は、酸処理によって表面に導入された酸性官能基と、化学修飾の第二段階で用いる分子が反応することで、CNFの表面にアルキル鎖が導入されるからである。酸処理に要する時間は10分〜48時間、好ましくは30分〜24時間である。酸処理の時間を長くすることで、より多くのアルキル鎖を後で導入することが可能となるが、酸処理の時間を長くし過ぎると、CNFが分解してしまうので好ましくない。またCNFの表面積は有限であるから、反応サイトの数にも限りがあるので、長時間の酸処理は意味をなさない。
【0023】
次に、化学修飾の第二段階として、上述の酸処理によって酸性官能基が導入されたCNF(以降、酸化CNFとする)にアルキル鎖を導入し、表面にアルキル鎖が導入されたCNF(m−CNF)を作る工程について述べる。アルキル鎖を酸化CNFに導入するための反応試剤は、酸性官能基(カルボキシル基や水酸基など)と結合できるものであれば特に限定されないが、例えばアミンを末端に含む化学構造を有するアルキル鎖(オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、および、アミンが末端に含まれているアルキル鎖、等)が挙げられる。アルキル鎖の構造は特に限定されるものではなく、分岐が含まれていても構わない。
【0024】
酸化CNFを、上述の反応試剤に分散させて反応を行なう。このとき、酸化CNFを分散させる目的で、少量の溶媒(例えば、ジメチルスルホキシド)を併用してもよい。
【0025】
酸化CNFと上述の反応試剤との反応は、100℃〜300℃、好ましくは150℃〜250℃、さらに好ましくは170〜200℃で行う。また反応は窒素やアルゴンといった、不活性ガス中で行なってもよい。反応時間は12〜30時間、好ましくは15〜25時間である。
【0026】
反応が終了したら、反応液をろ過し、洗浄溶媒で反応物の洗浄を行なう。洗浄溶媒は特に限定されないが、反応試剤に応じて適宜選択して使用することが好ましい。例えば、テトラヒドロフラン、エタノール、クロロホルム、ヘキサン等の有機溶媒、もしくはそれらの混合物が挙げられる。次いで真空乾燥(50〜90℃)を行い、残留溶媒を除去することで、表面がアルキル鎖で修飾された、m−CNFを得ることができる。
【0027】
CNFの表面を修飾するアルキル鎖の量は、熱重量分析(TGA)を用いて測定することができる。雰囲気ガスを空気とした場合、もとのCNFが分解する温度(約600℃)における重量減少と、修飾されたアルキル鎖の種類に応じて、200〜400℃におけるアルキル鎖の分解に伴う重量減少とが見られる。例えばアルキル鎖としてオクタデシル鎖を用いた場合、約370℃付近にオクタデシル鎖の重量減少が見られる。
【0028】
m−CNFに占めるアルキル鎖の含量は、本発明における繊維の延伸性を大きく左右するので特に重要である。好ましくは重量分率で8〜20%、さらに好ましくは10〜20%である。アルキル鎖の含量が8%未満の場合、ポリエチレンとCNFの間の親和性が小さくなるため、繊維を形成して延伸する時における、繊維内部のポリエチレンからCNFへの応力伝達効率が下がってしまう。一方で、アルキル鎖の含量が20%より多くなると、CNFの表面積が限られていることから、応力伝達効率が向上しない。
【0029】
次に、本発明で用いられる、原料のポリエチレンについて説明する。
【0030】
本繊維の製造に当たっては、その原料となる高分子量のポリエチレンの極限粘度[η]は5dL/g以上であることが必要であり、好ましくは8dL/g以上、さらに好ましくは10dL/g以上であることが必要である。極限粘度が5dL/g未満であると、所望する強度20cN/dtexを超えるような高強度繊維が得られない。一方、上限については、40dL/g以下が必要であり、35dL/g以下であることが好ましく、より好ましくは30dL/g以下、さらに好ましくは25dL/g以下である。極限粘度が高過ぎると、加工性が低下して繊維化が困難になり易い。
【0031】
本発明における超高分子量ポリエチレンとは、その繰り返し単位が実質的にエチレンであることを特徴とし、少量の他のモノマー、例えばα−オレフィン、アクリル酸及びその誘導体、メタクリル酸及びその誘導体、ビニルシラン及びその誘導体などとの共重合体であっても良いし、これら共重合物どうし、あるいはエチレン単独ポリマーとの共重合体、さらには他のα−オレフィン等のホモポリマーとのブレンド体であってもよい。特にプロピレン、ブテン−1などのα−オレフィンとの共重合体を用いることで短鎖あるいは長鎖の分岐をある程度含有させることは、本繊維を製造する上で、特に紡糸・延伸においての製糸上の安定を与えることとなり、より好ましい。しかしながらエチレン以外の含有量が増えすぎると反って延伸の阻害要因となるため、高強度・高弾性率繊維を得るという観点からはモノマー単位で0.2mol%以下、好ましくは0.1mol%以下であることが望ましい。もちろんエチレン単独のホモポリマーであっても良い。
【0032】
超高分子量ポリエチレンと表面修飾CNF(m−CNF)の混合は、公知の方法を用いて行なうことができる。即ち、超高分子量ポリエチレンの溶媒にm−CNFを分散させてm−CNF分散液を調製し、これを超高分子量ポリエチレンの溶液と混合させる溶液混合法、m−CNFの分散液に超高分子量ポリエチレンを添加して混合する方法、超高分子量ポリエチレンとm−CNFを二軸混練機で混合する方法、等が挙げられるが、最終的に得られる繊維中へのm−CNFの分散をより良好にするためには、m−CNFの分散液を使用する方法が好ましい。
【0033】
m−CNFをポリエチレンの溶媒に分散させる方法は特に限定されないが、超音波を照射することで、m−CNFが均質に分散した分散液を得ることができる。超音波照射は、市販の超音波洗浄機や、超音波分散機を用いればよい。
【0034】
それに続く超高分子量ポリエチレンとの複合工程は、ポリエチレン溶液と上記表面CNF分散液との混合、もしくはポリエチレンをm−CNF分散液に直接投入して攪拌する方法が挙げられるが、本発明においては後者の、ポリエチレンをm−CNF分散液に直接投入して攪拌、混合する方法が好ましい。m−CNF分散液に超高分子量ポリエチレンの粉体を投入して、加熱しながら攪拌を行なうと、100℃付近で液中にはポリエチレンとm−CNFが複合した霧状の沈殿物が生成し、溶剤とこの複合物が一旦分離する。さらに加熱攪拌を続けることで、この霧状複合体が溶剤に溶解し、紡糸可能なゲルを得ることができる。
【0035】
一方、ポリエチレン溶液と上記表面CNF分散液とを混合する手法では、最終的にできるゲルのポリエチレン濃度が低く、生産の効率が良くない。
【0036】
超高分子量ポリエチレン樹脂(A)に対するm−CNF(B)の分量は、重量比で(A):(B)=90:10〜99.95:0.05、好ましくは(A):(B)=95:5〜99.9:0.1、更に好ましくは(A):(B)=99.5:0.5〜99.9:0.1である。m−CNFの含量が少ないと、延伸性向上効果が小さい。逆にm−CNFの含量が多すぎると、分散しきれなかったm−CNFが異物となって作用し、紡糸時・延伸時の糸切れを誘発してしまい、延伸性および繊維物性を低下させてしまうので好ましくない。
【0037】
本発明の推奨する製造方法においては、先に述べたような超高分子量ポリエチレンに対する溶媒として、デカリン・テトラリン等の揮発性の有機溶剤を用いて溶解することが好ましい。常温固体または非揮発性の溶剤では、紡糸での生産性が非常に悪くなる。揮発溶媒は、紡糸の初期段階において、紡糸口金からの吐出後のゲル糸表面から若干蒸発する。この時の溶媒の蒸発に伴う蒸発潜熱による冷却効果により紡糸状態が安定するものと考えているが、定かではない。濃度は30wt%以下、好ましくは20wt%以下、さらに好ましくは15wt%以下が好ましい。原料の超高分子量ポリエチレンの極限粘度[η]に応じて最適な濃度を選択する必要性がある。さらに紡糸の段階において、紡糸口金温度をポリエチレンの融点から30℃以上、用いた溶媒の沸点以下にすることが好ましい。ポリエチレンの融点近傍の温度領域では、ポリマーの粘度が高すぎ、素早い速度で引き取ることが出来ない。また、用いる溶媒の沸点以上の温度では、紡糸口金を出た直後に溶媒が沸騰するため、紡糸口金直下で糸切れが頻繁に発生するので好ましくない。
【0038】
得られた未延伸糸をさらに加熱し、溶媒を除去しながら数倍に延伸、場合によっては多段延伸することにより前述の、延伸性に優れた高強度ポリエチレン繊維を製造することが可能となる。この時、延伸時の繊維の変形速度が重要なパラメータとして挙げられる。繊維の変形速度があまりにも速いと十分な延伸倍率に到達する前に繊維の破断が生じてしまい好ましくない。また、繊維の変形速度があまりにも遅いと、延伸中に分子鎖緩和してしまい、延伸により繊維は細くなるものの高強度と高弾性率という物性を有する繊維が得られず好ましくない。好ましくは、変形速度で0.005s−1以上0.5s−1以下である。さらに好ましくは、0.01s−1以上0.1s−1以下である。変形速度は、繊維の延伸倍率、延伸速度及びオーブンの加熱区間長さより計算可能である。つまり、
変形速度(s−1)=(1―1/延伸倍率)延伸速度/加熱区間長さ
である。また、所望の強度の繊維を得るためには、繊維の延伸倍率は10倍以上、好ましくは12倍以上、さらに好ましくは15倍以上が推奨される。
【0039】
ポリエチレンマトリクスからm−CNFへの応力伝達は、延伸中のポリエチレンの結晶形態変化によって捉えることができる。ポリエチレンの融点付近では、温度範囲、および圧縮もしくは延伸によってポリエチレン内部に印加される応力範囲に依存して、準安定相である六方晶が出現する。この、六方晶がどのように出現するかを調べることによって、延伸中のポリエチレンの応力状態を知ることができる。
【0040】
ポリエチレンの融点近傍における相図の概要は、例えばマクロモルキュールズ(Macromolecules)、1996年、第29巻、1540頁(非特許文献2)やマクロモルキュールズ(Macromolecules)、1998年、第31巻、5022頁(非特許文献3)に示されている。これらの非特許文献で用いられているポリエチレンは、本発明に好適なポリエチレンとは異なるため、具体的な温度や応力、圧力の値は本発明の繊維の場合とは異なってくるが、相図の概要は本質的に同じである。この概略図を図1に示す。ある温度(これを仮にT1とする)以上になると、ある応力範囲においてのみ、六方晶が出現するようになる。温度がT1以下では六方晶は出現せず、相転移線以下の応力では融液、相転移線以上の応力では斜方晶となる。一方で温度がT1以上となる場合、相転移線L1以下の応力・圧力では融液、L1以上L2以下の領域では六方晶、L2以上の応力・圧力では斜方晶、という挙動を示す。
【0041】
延伸中のポリエチレン繊維における結晶形態変化については、強力なX線を使用したX線回折実験によって知ることができる。このような実験は大型放射光施設を用いて実施することができる。スリット型ヒーターを備えた延伸機を用いて、スリット間の加熱領域を通過する繊維に対して強力なX線を照射することで、このような実験が可能である。かかる実験によって得られる広角X線回折(WAXD)パターンは、斜方晶と六方晶の混合パターンとして出現する。このパターンのピーク分離を行なうことで、各晶系が占めるピークの分率を求めることができる。
【0042】
このようにして求められる回折パターンのうち、ポリエチレンへの応力印加状態を反映する六方晶のピーク分率に注目する。延伸中のポリエチレン繊維には、延伸倍率が大きくなるほど、大きな応力が印加されている。従って温度T1以上で延伸した場合、延伸倍率が大きい場合は斜方晶のみが出現するが、延伸倍率が小さくなると六方晶も混合して出現するようになる。
【0043】
本発明における好適な条件下で製造されたポリエチレン繊維の場合との比較により
【0044】
濃度に対する濃度による粘度。測定に際し、ポリマーに対して1wt%の酸化防止剤(商標名「ヨシノックスBHT」吉富製薬製)をサンプルに添加し、135℃で24時間攪拌溶解して測定溶液を調整した。
【0045】
(繊維の強度、弾性率)
本発明における強度は、オリエンティック社製「テンシロン」を用い、試料長100mm(チャック間長さ)、伸長速度100%/分の条件で歪−応力曲線を雰囲気温度20℃、相対湿度65%条件下で測定し、破断点での応力と伸びから強度(cN/dTex)を計算して求めた。また曲線の原点付近の最大勾配を与える接線から弾性率(cN/dTex)を計算して求めた。尚、各値は10回の測定値の平均値を使用した。
【0046】
繊度測定は、単糸約2mを各々取り出し、該単糸1mの重さを測定し10000mに換算して繊度(dTex)とした。
【0047】
(延伸中の繊維のX線構造解析)
ポリエチレン繊維の延伸中におけるX線構造解析は、米国ブルックヘブン国立研究所 (Upton,NY,USA)内にあるシンクロトロン光源のX27Cビームラインにて実施した。間隙2mm、長さ30mmのスリットヒーターを有する延伸機を、間隙の間の、スリットヒーターの中心部をX線が通過するように設置した。ヒーターの間隙に通糸し、延伸中の繊維にX線が当たるように延伸機の位置を微調整した後、X線ディテクターとしてMar−CCD2次元X線検知器(Mar USA,Inc)を用いて、X線回折像を撮影した。波長
【0048】
濃度に対する濃度による粘度。測定に際し、ポリマーに対して1wt%の酸化防止剤(商標名「ヨシノックスBHT」吉富製薬製)をサンプルに添加し、135℃で24時間攪拌溶解して測定溶液を調整した。
【0049】
(繊維の強度、弾性率)
本発明における強度は、オリエンティック社製「テンシロン」を用い、試料長100mm(チャック間長さ)、伸長速度100%/分の条件で歪−応力曲線を雰囲気温度20℃、相対湿度65%条件下で測定し、破断点での応力と伸びから強度(cN/dTex)を計算して求めた。また曲線の原点付近の最大勾配を与える接線から弾性率(cN/dTex)を計算して求めた。尚、各値は10回の測定値の平均値を使用した。
【0050】
繊度測定は、単糸約2mを各々取り出し、該単糸1mの重さを測定し10000mに換算して繊度(dTex)とした。
【0051】
(延伸中の繊維のX線構造解析)
ポリエチレン繊維の延伸中におけるX線構造解析は、米国ブルックヘブン国立研究所(Upton,NY,USA)内にあるシンクロトロン光源のX27Cビームラインにて実施した。間隙2mm、長さ30mmのスリットヒーターを有する延伸機を、間隙の間の、スリットヒーターの中心部をX線が通過するように設置した。ヒーターの間隙に通糸し、延伸中の繊維にX線が当たるように延伸機の位置を微調整した後、X線ディテクターとしてMar−CCD2次元X線検知器(Mar USA,Inc)を用いて、X線回折像を撮影した。なおX線の波長は0.1371nm、繊維−X線検知器間距離は約10cm(実験によって異なる)とした。
【実施例】
【0052】
(実施例1)カーボンナノファイバーの表面酸化
カーボンナノファイバー(CNF)表面への酸性官能基(カルボキシル基、ヒドロキシル基)の生成は、混酸(硫酸と硝酸の混合物)を用いて行なった。カーボンナノファイバー0.5g(Pyrograf PR−24−HHT)、濃硫酸(95%、シグマ・アルドリッチ社)37.5mL、濃硝酸(シグマ・アルドリッチ社)12.5mLの混合物を10分間超音波照射してCNFを分散させたのち、60℃で24時間攪拌した。CNF懸濁液を純水で希釈し、孔径0.2μmのメンブレンフィルターでろ過した後、純水およびメタノールで洗浄し、70℃の真空中で一晩乾燥させて酸化CNFを得た。
【0053】
(実施例2)
60℃における攪拌時間を18時間とした以外は実施例1と同様にして、酸化CNFを得た。
【0054】
(実施例3)
60℃における攪拌時間を10時間とした以外は実施例1と同様にして、酸化CNFを得た。
【0055】
(実施例4)
60℃における攪拌時間を6時間とした以外は実施例1と同様にして、酸化CNFを得た。
【0056】
(実施例5)酸化カーボンナノファイバーのアルキル鎖による修飾
実施例1で得られた酸化カーボンナノファイバー0.4gと、ジメチルスルホキシド(シグマ・アルドリッチ社)8mL、1−オクタデシルアミン(シグマ・アルドリッチ社)0.4gの混合物に10分間超音波照射させた後、1−オクタデシルアミンを1.8g追加し、180℃で24時間攪拌した。これを孔径0.2μmのメンブレンフィルターでろ過した後、エタノール/クロロホルム混合溶媒(体積比2/1)で洗浄し、70℃の真空中で一晩乾燥させてm−CNFを得た。
【0057】
(実施例6)
酸化カーボンナノファイバーとして実施例2で得られたものを使用したこと以外は、実施例5と同様にして、m−CNFを得た。
【0058】
(実施例7)
酸化カーボンナノファイバーとして実施例3で得られたものを使用したこと以外は、実施例5と同様にして、m−CNFを得た。
【0059】
(実施例8)
酸化カーボンナノファイバーとして実施例4で得られたものを使用したこと以外は、実施例5と同様にして、m−CNFを得た。
【0060】
(実施例9)
実施例5で得られたm−CNF0.018gを、デカヒドロナフタレン(シス体、トランス体の混合物)291gに投入し、1時間超音波照射を行ない、表面修飾CNFをデカヒドロナフタレンに分散させた。この分散溶媒に、極限粘度が21.0dL/gの超高分子量ポリエチレンを8.982g、酸化防止剤としてBHTをポリエチレンに対して1重量%投入し、混合してスラリー状液体を形成させた。該物質を分散させながら、160℃の温度に設定した2本の撹拌翼を備えたミキサー型の混練機で溶解しゲル状物質を形成させた。該ゲル状物質を冷却することなく、170℃に設定したシリンダーに充填し、170℃に設定した、直径0.8mmのホールを1つ有する口金より0.8g/分の吐出量で押し出した。吐出したドープフィラメントを7cmのエアギャップを介した後に水浴中に投入させ、冷却し、溶媒を除去することなしに紡糸速度20m/分でドープフィラメントを巻き取った。ついで、該ドープフィラメントを40℃、24時間の条件で真空乾燥させ、溶媒を除去した。得られた繊維を80℃に設定したスリット式延伸機を用いて、0.1s−1の変形速度で、4倍の延伸比で延伸し延伸糸を巻き取った。ついで、該延伸糸を143℃、0.1s−1の変形速度で更に延伸し、糸が切れる直前の延伸倍率を測定し、その値に4を乗じた数値を最大延伸倍率とした。最大延伸倍率および得られたポリエチレン繊維の諸物性を表1に示す。
【0061】
(実施例10)
実施例9において、延伸時の変形速度を0.01s−1としたこと以外は、実施例9と同様にしてポリエチレン繊維を作製した。最大延伸倍率および得られたポリエチレン繊維の諸物性を表1に示す。
【0062】
(実施例11)
実施例6で得られたm−CNFを使用すること以外は、実施例9と同様にしてポリエチレン繊維を作製した。最大延伸倍率および得られたポリエチレン繊維の諸物性を表1に示す。
【0063】
(実施例12)
実施例7で得られたm−CNFを使用すること以外は、実施例9と同様にしてポリエチレン繊維を作製した。最大延伸倍率および得られたポリエチレン繊維の諸物性を表1に示す。
【0064】
(比較例1)
実施例8で得られたm−CNFを使用すること以外は、実施例9と同様にしてポリエチレン繊維を作製した。最大延伸倍率および得られたポリエチレン繊維の諸物性を表1に示す。
【0065】
(比較例2)
表面修飾を施さないCNFを使用すること以外は、実施例9と同様にしてポリエチレン繊維を作製した。最大延伸倍率および得られたポリエチレン繊維の諸物性を表1に示す。
【0066】
(比較例3)
m−CNFを使用しないこと以外は実施例9と同様にして、ポリエチレン繊維を作製した。最大延伸倍率および得られたポリエチレン繊維の諸物性を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
(比較例4)
実施例9において、延伸時の変形速度を0.001s−1としたこと以外は、実施例9と同様にしてポリエチレン繊維を作製した。最大延伸倍率および得られたポリエチレン繊維の諸物性を表1に示す。
【0069】
(比較例5)
実施例9において、延伸時の変形速度を0.8s−1としたこと以外は、実施例9と同様にしてポリエチレン繊維を作製した。最大延伸倍率および得られたポリエチレン繊維の諸物性を表1に示す。繊維を延伸できなかったので、最大延伸倍率は得られなかった。
【0070】
表1に示されるように、本発明の実施例の繊維は、比較例の繊維と比べ、より高い最大延伸倍率、より高い強度、より高い弾性率を有していることが分かった。
【0071】
(実施例13)
実施例5で得られたm−CNF0.018gを、デカヒドロナフタレン(シス体、トランス体の混合物)291gに投入し、1時間超音波照射を行ない、表面修飾CNFをデカヒドロナフタレンに分散させた。この分散溶媒に、極限粘度が21.0dL/gの超高分子量ポリエチレンを8.982g投入し、混合してスラリー状液体を形成させた。該物質を分散させながら、160℃の温度に設定した2本の撹拌翼を備えたミキサー型の混練機で溶解しゲル状物質を形成させた。該ゲル状物質を冷却することなく、170℃に設定したシリンダーに充填し、170℃に設定した、直径0.8mmのホールを1つ有する口金より0.8g/分の吐出量で押し出した。吐出したドープフィラメントを7cmのエアギャップを介した後に水浴中に投入、冷却し、溶媒を除去することなしに紡糸速度20m/分でドープフィラメントを巻き取った。ついで、該ドープフィラメントを40℃、24時間の条件で真空乾燥させ、溶媒を除去した。得られた繊維を80℃に設定したスリット式延伸機を用いて、0.1s−1の変形速度で、4倍の延伸比で延伸し延伸糸を巻き取った。これを中間延伸糸Aとする。
中間延伸糸Aを143℃において、0.1s−1の変形速度で、2倍、3倍、4倍の延伸比で延伸し、延伸オーブン(スリットヒーター)中間部における広角X線回折パターンをそれぞれ撮影した。回折パターンを赤道線から±5°の範囲で積分した回折プロファイルからバックグラウンドを差し引き、次いでカーブフィッティングによって各結晶ピークを分離し、ピーク面積を求めた。各延伸比における六方晶の分率を、表面修飾アルキル鎖含量に対する依存性として図2に示す。
【0072】
(実施例14)
実施例7で得られたm−CNFを使用すること以外は、実施例13と同様にしてポリエチレン繊維の中間延伸糸を作製した。これを中間延伸糸Bとする。
中間延伸糸Bを143℃において2倍、3倍、4倍の延伸比で延伸し、延伸オーブン(スリットヒーター)中間部における広角X線回折パターンをそれぞれ撮影した。回折パターンを赤道線から±5°の範囲で積分した回折プロファイルからバックグラウンドを差し引き、次いでカーブフィッティングによって各結晶ピークを分離し、ピーク面積を求めた。各延伸比における六方晶の分率を、表面修飾アルキル鎖含量に対する依存性として図2に示す。
【0073】
(比較例6)
実施例8で得られたm−CNFを使用すること以外は実施例13と同様にしてポリエチレン繊維の中間延伸糸を作製した。これを中間延伸糸Cとする。
中間延伸糸Cを143℃において2倍、3倍、4倍の延伸比で延伸し、延伸オーブン(スリットヒーター)中間部における広角X線回折パターンをそれぞれ撮影した。回折パターンを赤道線から±5°の範囲で積分した回折プロファイルからバックグラウンドを差し引き、次いでカーブフィッティングによって各結晶ピークを分離し、ピーク面積を求めた。各延伸比における六方晶の分率を、表面修飾アルキル鎖含量に対する依存性として図2に示す。
【0074】
(比較例7)
表面修飾を施さないCNFを使用すること以外は、実施例13と同様にしてポリエチレン繊維の中間延伸糸を作製した。これを中間延伸糸Dとする。
中間延伸糸Dを143℃において2倍、3倍、4倍の延伸比で延伸し、延伸オーブン(スリットヒーター)中間部における広角X線回折パターンをそれぞれ撮影した。回折パターンを赤道線から±5°の範囲で積分した回折プロファイルからバックグラウンドを差し引き、次いでカーブフィッティングによって各結晶ピークを分離し、ピーク面積を求めた。各延伸比における六方晶の分率を、表面修飾アルキル鎖含量に対する依存性として図2に示す。
【0075】
(比較例8)
m−CNFを使用しないこと以外は、実施例13と同様にしてポリエチレン繊維の中間延伸糸を作製した。これを中間延伸糸Eとする。
中間延伸糸Eを143℃において2倍、3倍、4倍の延伸比で延伸し、延伸オーブン(スリットヒーター)中間部における広角X線回折パターンをそれぞれ撮影した。回折パターンを赤道線から±5°の範囲で積分した回折プロファイルからバックグラウンドを差し引き、次いでカーブフィッティングによって各結晶ピークを分離し、ピーク面積を求めた。各延伸比における六方晶の分率を、表面修飾アルキル鎖含量に対する依存性として図2に示す。
【0076】
図2を見れば明らかなように、延伸比が大きくなるほど、六方晶の分率は表面修飾CNF中のアルキル鎖含量に依存する。すなわち、アルキル鎖含量が多くなればなるほど、六方晶分率は上昇し、延伸比が低い場合に近づく。これは、表面修飾CNF中のアルキル含量が多いほど、ポリエチレン繊維内部の応力状態が延伸比の低い状態に近づいていることを示しており、すなわち、ポリエチレンに印加されている応力が減少することを表している。この応力減少は、m−CNFへ応力が伝播したことによってもたらされることを示唆している。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明に係る高強度ポリエチレン繊維の製造方法により得られた繊維は、各種スポーツ衣料や防弾・防護衣料・防護手袋や各種安全用品などの高性能テキスタイル、タグロープ・係留ロープ、ヨットロープ、建築用ロープなどの各種ロープ製品、釣り糸、ブラインドケーブルなどの各種組み紐製品、漁網・防球ネットなどの網製品さらには化学フィルター・電池セパレーターなどの補強材あるいは各種不織布、またテントなどの幕材、又はヘルメットやスキー板などのスポーツ用やスピーカーコーン用やプリプレグ、コンクリート補強などのコンポジット用の補強繊維など、産業上広範囲に応用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)超高分子量ポリエチレンの溶媒に、化学的に表面が修飾されたカーボンナノファイバーを分散させる工程と、
(2)前記工程(1)で得られた分散液に前記ポリエチレンを混合させ、ポリエチレン濃度が0.5重量%以上50重量%未満である、ポリエチレン、前記修飾カーボンナノファイバー及び溶媒を含む混合ドープを作製する工程と、
(3)前記工程(2)で得られたドープを口金から押出し、冷却させた後、前記ドープを、0.005s−1以上0.5s−1以下の変形速度で、フィラメント糸条に延伸する工程と
を含む、高強度ポリエチレン繊維の製造方法。
【請求項2】
前記表面修飾カーボンナノファイバーを作製する工程をさらに含み、該工程が、
(4)カーボンナノファイバーを酸化させることにより、カーボンナノファイバー表面にカルボキシル基を導入し、
(5)末端にアミンを含むアルキル鎖を前記(4)のカルボキシル基と反応させて、カーボンナノファイバー表面にアルキル鎖を導入すること
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記表面修飾カーボンナノファイバーがアルキル鎖で修飾されたカーボンナノファイバーであり、超高分子量ポリエチレンの極限粘度が5dL/g〜40dL/gである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記カーボンナノファイバーの含有量が0.05wt%〜10wt%である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記修飾カーボンナノファイバー中に占めるアルキル鎖の重量分率が、8〜20%である請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記修飾カーボンナノファイバーにおけるアルキル鎖が、炭素数8以上の直鎖アルキルである、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
アルキル鎖が炭素数18のオクタデシル鎖である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法で製造されてなる高強度ポリエチレン繊維。
【請求項9】
請求項2に記載の方法で製造されてなる高強度ポリエチレン繊維。
【請求項10】
請求項3に記載の方法で製造されてなる高強度ポリエチレン繊維。
【請求項11】
請求項4に記載の方法で製造されてなる高強度ポリエチレン繊維。
【請求項12】
請求項5に記載の方法で製造されてなる高強度ポリエチレン繊維。
【請求項13】
請求項6に記載の方法で製造されてなる高強度ポリエチレン繊維。
【請求項14】
請求項7に記載の方法で製造されてなる高強度ポリエチレン繊維。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2010−538183(P2010−538183A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524269(P2010−524269)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【国際出願番号】PCT/US2009/049879
【国際公開番号】WO2010/006011
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(508095256)ザ リサーチ ファウンデーション オブ ステイト ユニバーシティ オブ ニューヨーク (11)
【Fターム(参考)】