説明

高強度・超塑性材料の製造方法

本発明は、金属材料の組織が微細結晶粒からなる高強度・超塑性材料を簡便に得ることのできる高強度・超塑性材料の製造方法を提供するものである。 金属材料に超音波を印加した後、この金属材料を絶対温度で表されたその融点に0.35乃至0.6を乗じた温度で加熱処理する。金属材料は固有減衰能10%以上の高減衰金属材料、特にMgまたはMg合金が最適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を利用した金属材料の結晶粒微細化に係るものであり、高強度・超塑性特性を有する金属材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料は、結晶粒が小さくなるほど強度、靱性および耐食性が大きくなることが知られている。その結晶粒を数μm以下にすると超塑性現象が発現し、常温では極めて高強度でありながら特定の加熱条件下で加工性が飛躍的に向上する。
一般的な超塑性の定義は、多結晶材料の引張変形において、変形応力が高い歪み依存性を示し、局部収縮を生じることなく数百%以上の巨大な伸びを示す現象とされており、具体的には、等軸状で10μm以下の小さな結晶粒を有する材料は、絶対温度で表された融点の1/2以上の温度で、歪み速度10−4/s程度で変形したとき、10MPa以下の低い変形応力で巨大な伸びを発現すると言われている。
【0003】
鉄鋼材料および非鉄金属材料の結晶粒微細化方法としては、結晶粒の成長抑制元素を添加する方法、加工熱処理による変態、析出、再結晶を利用する方法、強せん断加工を加える方法などが知られている(例えば、特開2003−041331号公報、特開2002−194472号公報、特開2002−105568号公報、特開2000−271693号公報参照)。
【0004】
鉄鋼材料は、加工熱処理による変態、析出、再結晶を利用する方法が有効で、実験室規模で1μm未満の微細結晶粒組織が得られているが、大量生産に対応するため如何に工程を簡素化できるかが課題である。
一方の非鉄金属材料、特にアルミニウムについては、従来10μm以下の微細結晶粒組織を均一に作ることが難しく、日本においては3μm以下の微細結晶粒組織創製のため新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によるプロジェクトとして平成9年から5年計画で技術開発が行われたが、その基本となる技術は材料に強せん断加工を加える方法である。
【0005】
また、最近では、軽量かつ強靱で高い振動吸収性を有するマグネシウム合金がノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話の筐体に使用されているが、結晶構造が六方最密充填構造であるマグネシウムは室温で低延伸性のためプレス等の二次加工が難しく、ダイキャストやチクソモールディングで成形しなければ良質の部品や筐体ができない欠点がある。このような製造方法の制限は、マグネシウム合金の用途を狭めている原因でもある。
【0006】
さらに、マグネシウム合金の強度の不足は、自動車や航空機といった輸送機器への適用が進まない一因ともなっている。
この課題を解決するため、1μm以下の微細結晶粒を得る技術開発が検討されている。その一つはアルミニウムと同様に強せん断加工を加える方法である。
強せん断加工を加える方法は、金属材料では、押出し、ロール圧延が一般的であるが、最近ではECAP法(Equal Channel Angular Pressing法)などが研究されている。
【0007】
押出しは、文字通りビレットまたはスラブを所定の形状の穴を有するダイスから押出す方法で、一般的にはダイスのオリフィスを通して押出す直接法が用いられる。例えば、純マグネシウムは350〜400℃にビレットまたはスラブを加熱し押出すが、アルミニウムに較べるとビレット温度と押出し速度のバランスが難しく、温度が少しでも低いと押出されず、温度を上げると酸化してしまう欠点があり、Mg−Al−Zn合金(AZ合金)
などはさらに精密な制御が必要である。
【0008】
ロール圧延は、金属材料を上下のロールで加圧しながら一方向に送り出す方法で、繰り返し接合圧延(Accumulative Roll Bonding)、極低温圧延、異周速圧延、溶湯圧延、温間圧延などが研究されている。
繰り返し接合圧延は、圧延された板を長さの方向に半割りし、脱脂等の表面処理を施した後、二枚の板を重ね合わせて再度圧延する方法である。この方法は板厚を変化させずに強せん断加工できる特徴が有るが、製造コストが高い欠点がある。
【0009】
極低温圧延は、圧延で導入した歪みを可能な限り回復させない液体窒素温度で圧延し、その後急速加熱で微細な再結晶粒の形成をねらった方法であるが、十分な効果は得られていない。
異周速圧延は、上下のロールの周速を変えて材料に強せん断加工を加える方法であるが、無潤滑で圧延するため不均一なせん断力を受け易く、表面状態が荒れる欠点がある。
【0010】
溶湯圧延は、添加元素を過飽和に固溶させた溶湯を水冷したロールに流し込むなどで急速冷却する方法で、添加元素が再結晶核発生を促すと同時に粒成長を抑制させる効果があるが、酸化されやすい金属材料は、十分な雰囲気調整が必要で大量生産に向かない。
温間圧延は、再結晶温度以上で圧延する熱間圧延と常温で圧延する冷間圧延の中間に相当する温度で圧延する方法で、例えばAl−Zn−Mg−Cu合金に適当量のZrを添加した合金では、微細結晶粒組織が得られるなど一部の合金で効果が確認されている。しかし、中間温度の制御は非常に難しく、他の金属材料に対して効果が得られるか不明な点が多い。
【0011】
ECAP法は、ある角度を持った穴を有するダイスの中にビレットまたはスラブを入れ、加圧、押出すことでビレットまたはスラブに強せん断力を加える方法で、微細結晶粒組織を得る方法として非常に効果的であり注目を集めているが、強せん断力を受けたビレットまたはスラブは非常に強靱であるため、例えば圧延などの二次加工が難しく、加工性を良くするために熱間圧延を行うと結晶粒が成長し実用レベルで十分な強度、靱性および高延性を満たしていないのが実状である。
【0012】
なお、ECAP法の欠点を補う方法として、ECAP法を連続化した連続せん断変形加工法(Conshearing法)も提案されている(Saitou外2名、「PROPOSAL OF NOVEL CONTINUOUS HIGH STRATING PROCESS−DEVELOPMENT OF CONSHEARING PROCESS」、Advanced Technology of Plasticity、Vol.III、Proceedings of the 6th International Conference on Technology of Plasticity、Sept,19〜24,1999、p.2459〜2464参照)。
【0013】
何れの方法も溶製したビレット等を強せん断加工する方法であり、せん断加工に非常に大きな応力を必要とするか、または金属材料の初期形状を維持することができない。
【発明の開示】
【0014】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決するものであって、金属材料の組織が微細結晶粒からなる高強度・超塑性材料を簡便に得ることのできる高強度・超塑性材料の製造方法を提供することを目的とする。
本発明の高強度・超塑性材料の製造方法では、金属材料に超音波を印加した後、この金属材料を絶対温度で表されたその融点に0.35乃至0.6を乗じた温度で加熱処理することで上記課題を解決している。
【0015】
金属材料は、多くの場合、振動が与えられるとやがて減衰し、最後に振動は停止する。振動が減衰する機構は二つあり、一つは外部摩擦(external friction)と呼ばれ、振動し
ている金属材料から外部へ空気等を介して振動エネルギーが放出される機構である。他の一つは内部摩擦(internal friction)で、金属材料内部で振動エネルギーが熱あるいは歪み等に変換される機構である。内部摩擦は減衰能(damping capacity)とも呼ばれる。
【0016】
減衰能は、振動エネルギーの変換機構の違いによって次の四つに分類される。(1)母相と第2相との間の界面で粘性流動または塑性流動をおこすことによるもの。
(2)磁区壁の非可逆移動によるもの。
(3)転位が不純物原子による固着点から離脱することによるもの。
(4)母相とマルテンサイト相との境界などにおける変態双晶境界の移動によるもの。
【0017】
特に減衰能が大きな金属材料においては、振動エネルギーの一部が前記(1)〜(4)の分類のいずれかの変換機構で熱として消費されるか、あるいは歪みとして蓄積される。歪みが蓄積された金属材料には、機械的にせん断を加えるのと同等以上の大きな歪みが導入されるため、その金属材料を絶対温度で表されたその融点に0.35乃至0.6を乗じた温度で加熱処理すると、格子欠陥が再配列または相互に合体消滅することによるエネルギー開放の過程で等軸状の微細結晶粒からなる再結晶組織に変化すると考えられる。
【0018】
減衰能が大きな金属材料とは、一般的に固有減衰能(specific damping capacity:S.D.C)が10%以上のものを指し、高減衰金属材料などと総称される。純金属ではMg、Ni、Feが大きな固有減衰能を有し、合金ではMg合金、Mn−Cu合金、Mn−Cu−Al合金、Cu−Zn−Al合金、Cu−Al−Ni合金、Fe−Cr合金(12Cr鋼)、Fe−Cr−Al合金、Fe−Cr−Mo合金、Co−Ni合金、Fe−Cr−Al−Mn合金、Ni−Ti合金、Cu−Zn−Al合金、Al−Zn合金、粒界腐食処理18−8ステンレス鋼、Fe−C−Si合金(片状黒鉛鋳鉄または球状黒鉛鋳鉄を圧延した圧延鋳鉄)などが大きな固有減衰能を有し、高減衰合金、制振合金または防振合金などと呼ばれる。
【0019】
固有減衰能は、次式の通り、振動する物体の1サイクルあたりの振動エネルギー損失率で表される。
S.D.C(%)=(ΔW/W)×100
ここでWは振動エネルギー、ΔWは1サイクルに失われるエネルギーである。
固有減衰能が10%以上の高減衰金属材料の中でもMgまたはMg合金が、本方法を適用するのに最適である。Mgはすべての金属材料の中で最も減衰能が大きく固有減衰能が60%以上を示すため、振動エネルギーを歪みとして蓄積し易く適切な温度で加熱処理することで微細結晶粒からなる再結晶組織にすることが可能である。Mgは強度および耐食性が比較的小さく、この課題が改善されたAl、Zn、Zrなどを添加したMg合金は、Mgと比較すると減衰能が低下するが、超音波振動エネルギーの一部を歪みとして蓄積し、添加元素の効果との相乗効果で加熱処理によって微細結晶粒からなる再結晶組織となり、より一層の高強度と超塑性を両立することが可能である。
【0020】
Mg合金は、Mg−Al合金、Mg−Al−Zn合金、Mg−Zr合金、Mg−Zn−Zr合金、Mg−Mg2 Ni合金、Mg−RE−Zn合金(REはレアアース)、Mg−Ag−RE合金(REはレアアース)、Mg−Y−RE合金(REはレアアース)などが実用合金として知られているが、Al添加量が増加すると減衰能が低下するのでMg−Al合金およびMg−Al−Zn合金の中でもMg−10%Al合金(Al100)、Mg−9%Al−1%Zn合金(AZ91)、Mg−6%Al−3%Zn合金(AZ63)などの固有減衰能は10%未満である。
【0021】
MgまたはMg合金に印加された超音波振動エネルギーは、前記振動エネルギーの変換機構(3)に記述したように、転位が不純物原子による固着点から離脱することによって
消費されるか、または変形双晶の生成に消費されると考えられる。
超音波を印加した金属材料は、絶対温度で表された融点に0.35乃至0.6を乗じた温度で加熱処理することで再結晶化が行われるが、絶対温度で表された融点に0.6を乗じた温度より高温では、再結晶粒の成長を抑制するためのエネルギーロスがあり制御が難しく、絶対温度で表された融点に0.35を乗じた温度より低温では、金属材料内部の歪みが一部消失する現象である回復が行われるだけで再結晶粒は発生しない。
【0022】
再結晶温度は、実用上、冷間加工を受けた金属組織が、1時間の熱処理によって新たな再結晶粒を有する組織に完全に変化する温度であり、本来、金属材料の種類、純度、内部歪みの程度などによって変化する特有の値であるが、内部歪みが増加するにしたがって一定の温度に収束する傾向がある。すなわち、大きな内部歪みを受けた金属材料では、上記の温度範囲を一つの目安とすることで粒成長が抑制され、目的とする高強度・超塑性材料が得られ易いと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
金属材料の形状に特別な制限を設けない。例えば、粉末固化成形体または溶製材である板材、棒材、パイプあるいは目的形状にプレス成形した成形体等を用いることができる。粉末固化成形体とは、粉末焼結体あるいは粉末の圧縮せん断によって作製した固化成形体などであり、溶製材とは、鋳造物あるいは溶融後固化した金属材料を目的の形状にプレス加工または押出し加工した物などである。
【0024】
金属材料へ超音波を印加する方法としては、例えば、超音波振動子に接続されたホーンを金属材料に密着させ、一定時間超音波を印加する方法が用いられる。ホーンから金属材料へ振動を効率よく伝達するためにホーンと金属材料との間にグリース等を入れることも可能である。ただし、グリースは、振動によって劣化あるいは発火などし難い安全なものを使用しなければならない。例えばシリコーングリースなどは使用可能である。
【0025】
その他、水中または有機溶媒中に金属材料を入れ、ホーンから発せられる振動を、水または有機溶媒を介して金属材料に伝達させるなど中間媒体を介して振動を伝達させることも可能であり、効率よく安全に振動を伝達できる方法であれば、上記以外の方法を用いても差し支えない。
超音波の振動数と出力および印加時間は、金属材料の融点、固有減衰能、大きさなどを十分考慮に入れ最適値を決定しなければならないが、例えば高減衰合金のMg合金であるMg−3%Al−1%Zn合金(AZ31)展伸材(20mm×50mm×1.25mm)では、周波数19KHzで出力200Wの超音波を直径22mmのチタン合金製のホーンで5〜60秒間印加するとよい。
【0026】
超音波を印加した金属材料は、再結晶温度で1時間加熱する。例えばAZ31は、再結晶温度が180〜230℃と予想され、230℃、1h真空中で加熱する。真空以外であればアルゴン雰囲気下で加熱することが好ましい。窒素、水素または酸素中で加熱すると、これらとの化合物を形成し、表面性状や機械的性質を悪化させる。なお、耐酸化性の金属材料であれば大気中加熱でも構わない。
【0027】
超音波を印加した後、再結晶化した金属材料は、初期形状を維持したまま、その結晶粒径は、超音波を印加する前の1/10〜1/150となる。例えばAZ31展伸材(20mm×50mm×1.25mm)は、材料の大きさは変化せず、結晶粒径150〜200μmあった結晶組織が等軸状の1〜15μmの結晶組織となり、高強度で超塑性を発現するAZ31材へ改良することが可能である。
【0028】
以上に示すような本発明の高強度・超塑性材料の製造方法によれば、金属材料の形状を
変化させることなしに、内部組織が均一な微細結晶粒組織からなる高強度・超塑性材料を得ることができる。
【実施例1】
金属材料として、工業用純Al展伸材(JIS合金番号1100)から20mm×50mm×1.25mmの試験片を外周刃カッターで切り出し、エタノールで速やかに表面を洗浄した。
【0029】
超音波の印加手段として、超音波ホモジナイザーを使用し、チタン合金で作製された直径22mmのホーン端面にシリコーングリースを適量塗り、そこに上記工業用純Al展伸材試験片をジャッキで押し当てたまま、19KHzで300Wの超音波振動を60秒間印加する操作を3回行った。
超音波を印加した工業用純Al展伸材試験片は、真空加熱炉に挿入し、真空度5Pa、加熱温度468Kすなわち加熱温度/融点=0.50で、1h加熱処理を行った。
【0030】
以上の処理による工業用純Al展伸材試験片の変形および寸法の変化はほとんど認められなかった。
加熱処理を行った工業用純Al展伸材の引張強さは180MPaであり、破断伸びを473K、歪み速度10−4/sで調べたところ150%を示し、超塑性現象が発現していることがわかった。
【0031】
さらに10mm×10mm×1.25mmの組織観察試験片を切り出し、0.5%王水でエッチングした後、光学顕微鏡で簡易偏光観察を行ったところ、結晶粒径は約15μmであり、超音波印加前の結晶粒径150μmの1/10であった。
【実施例2】
金属材料として、工業用純鉄冷間圧延材から20mm×50mm×1.25mmの試験片を外周刃カッターで切り出し、エタノールで速やかに表面を洗浄した。
【0032】
超音波の印加手段として、超音波ホモジナイザーを使用し、チタン合金で作製された直径22mmのホーン端面にシリコーングリースを適量塗り、そこに上記工業用純鉄冷間圧延材試験片をジャッキで押し当てたまま、19KHzで300Wの超音波振動を60秒間印加した。
超音波を印加した工業用純鉄冷間圧延材試験片は、真空加熱炉に挿入し、真空度5Pa、加熱温度923Kすなわち加熱温度/融点=0.51で、1h加熱処理を行った。
【0033】
以上の処理による工業用純鉄冷間圧延材試験片の変形および寸法の変化はほとんど認められなかった。
加熱処理を行った工業用純鉄冷間圧延材の引張強さは700MPaであり、破断伸びを923K、歪み速度10−3/sで調べたところ200%を示し、超塑性現象が発現していることがわかった。
【0034】
さらに10mm×10mm×1.25mmの組織観察試験片を切り出し、1%硝酸エタノール溶液でエッチングした後、光学顕微鏡で簡易偏光観察を行ったところ、結晶粒径は約10μmであり、超音波印加前の結晶粒径150μmの1/15であった
【実施例3】
金属材料として、AZ31展伸材から20mm×50mm×1.25mmの試験片を外周刃カッターで切り出し、エタノールで速やかに表面を洗浄した。
【0035】
超音波の印加手段として、超音波ホモジナイザーを使用し、チタン合金で作製された直径22mmのホーン端面にシリコーングリースを適量塗り、そこに上記AZ31展伸材試験片をジャッキで押し当てたまま、19KHzで200Wの超音波振動を15秒間印加し
た。
超音波を印加したAZ31展伸材試験片は、真空加熱炉に挿入し、真空度5Pa、加熱温度503Kすなわち加熱温度/融点=0.54で、1h加熱処理を行った。
【0036】
以上の処理によるAZ31展伸材試験片の変形および寸法の変化はほとんど認められなかった。
加熱処理を行ったAZ31展伸材の引張強さは300MPaであり、破断伸びを503K、歪み速度10−2/sで調べたところ100%を示し、超塑性現象が発現していることがわかった。
【0037】
さらに10mm×10mm×1.25mmの組織観察試験片を切り出し、1%硝酸エタノール溶液でエッチングした後、光学顕微鏡で簡易偏光観察を行ったところ、結晶粒径は約5μmであり、超音波印加前の結晶粒径150μmの1/30であった。
【実施例4】
超音波を印加したAZ31展伸材試験片を、真空加熱炉に挿入し、真空度5Pa、加熱温度463Kすなわち加熱温度/融点=0.50で、1h加熱処理を行う以外は実施例3と同様の操作を行った。
【0038】
加熱処理を行ったAZ31展伸材の引張強さは310MPaであり、破断伸びを503K、歪み速度10−2/sで調べたところ130%を示し、超塑性現象が発現していることがわかった。
さらに10mm×10mm×1.25mmの組織観察試験片を切り出し、1%硝酸エタノール溶液でエッチングした後、光学顕微鏡で簡易偏光観察を行ったところ、結晶粒径は約3μmであり、超音波印加前の結晶粒径150μmの1/50であった。
【実施例5】
【0039】
超音波を印加したAZ31展伸材試験片を、真空加熱炉に挿入し、真空度5Pa、加熱温度523Kすなわち加熱温度/融点=0.57で、0.5h加熱処理を行う以外は実施例3と同様の操作を行った。
加熱処理を行ったAZ31展伸材の引張強さは300MPaであり、破断伸びを503K、歪み速度10−2/sで調べたところ100%を示し、超塑性現象が発現していることがわかった。
【0040】
さらに10mm×10mm×1.25mmの組織観察試験片を切り出し、1%硝酸エタノール溶液でエッチングした後、光学顕微鏡で簡易偏光観察を行ったところ、結晶粒径は約5μmであり、超音波印加前の結晶粒径150μmの1/30であった。
【実施例6】
金属材料として、AZ31展伸材から20mm×50mm×1.25mmの試験片を外周刃カッターで切り出し、エタノールで速やかに表面を洗浄した。
【0041】
超音波の印加手段として、超音波ホモジナイザーを使用し、チタン合金で作製された直径22mmのホーン端面を純水中に沈めたAZ31展伸材試験片と2cmの距離になるように設置し、19KHzで240Wの超音波振動を300秒間印加した。
超音波を印加したAZ31材試験片は、真空加熱炉に挿入し、真空度5Pa、加熱温度453Kすなわち加熱温度/融点=0.49で、1h加熱処理を行った。
【0042】
以上の処理によるAZ31展伸材試験片の変形および寸法の変化はほとんど認められなかった。
加熱処理を行ったAZ31展伸材の引張強さは375MPaであり、破断伸びを503K、歪み速度10−2/sで調べたところ233%を示し、超塑性現象が発現していることがわかった。
【0043】
さらに10mm×10mm×1.25mmの組織観察試験片を切り出し、1%硝酸エタノール溶液でエッチングした後、光学顕微鏡で簡易偏光観察を行ったところ、結晶粒径は約1μmであり、超音波印加前の結晶粒径150μmの1/150であった。
〔比較例1〕
金属材料として、AZ31展伸材から20mm×50mm×1.25mmの試験片を外周刃カッターで切り出し、エタノールで速やかに表面を洗浄した。
【0044】
超音波の印加手段として、超音波ホモジナイザーを使用し、チタン合金で作製された直径22mmのホーン端面を純水中に沈めたAZ31展伸材試験片と2cmの距離になるように設置し、19KHzで240Wの超音波振動を300秒間印加した。
超音波を印加したAZ31材試験片は、真空加熱炉に挿入し、真空度5Pa、加熱温度303Kすなわち加熱温度/融点=0.33で、1h加熱処理を行った。
【0045】
以上の処理によるAZ31展伸材試験片の変形および寸法の変化はほとんど認められなかった。
加熱処理を行ったAZ31展伸材の引張強さは260MPaであり、破断伸びを503K、歪み速度10−2/sで調べたところ50%を示し、超塑性現象は発現していないことが確認された。
【0046】
さらに10mm×10mm×1.25mmの組織観察試験片を切り出し、1%硝酸エタノール溶液でエッチングした後、光学顕微鏡で簡易偏光観察を行ったところ、結晶粒径は約150μmであり、超音波印加前の結晶粒径150μmに対して変化が認められなかった。
〔比較例2〕
超音波を印加したAZ31展伸材試験片を、真空加熱炉に挿入し、真空度5Pa、加熱温度533Kすなわち加熱温度/融点=0.62で、1h加熱処理を行う以外は比較例1と同様の操作を行った。
【0047】
以上の処理によるAZ31展伸材試験片の変形および寸法の変化はほとんど認められなかった。
加熱処理を行ったAZ31展伸材の引張強さは280MPaであり、破断伸びを503K、歪み速度10−2/sで調べたところ80%を示し、超塑性現象が発現していないことが確認された。
【0048】
さらに10mm×10mm×1.25mmの組織観察試験片を切り出し、1%硝酸エタノール溶液でエッチングした後、光学顕微鏡で簡易偏光観察を行ったところ、結晶粒径は約30μmであり、超音波印加前の結晶粒径150μmの1/5であった。
産業上の利用の可能性
【0049】
本発明の高強度・超塑性材料の製造方法によれば、金属材料に大きな内部歪みを与えることが可能であり、金属材料の組織が微細結晶粒からなる高強度・超塑性材料を簡便に得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料に超音波を印加した後、該金属材料を絶対温度で表されたその融点に0.35乃至0.6を乗じた温度で加熱処理することを特徴とする高強度・超塑性材料の製造方法。
【請求項2】
金属材料が固有減衰能10%以上の高減衰金属材料であることを特徴とする請求項1記載の高強度・超塑性材料の製造方法。
【請求項3】
固有減衰能10%以上の高減衰金属材料が、MgまたはMg合金であることを特徴とする請求項2記載の高強度・超塑性材料の製造方法。
【請求項4】
絶対温度で表された融点に0.35乃至0.6を乗じた温度が、その金属材料の再結晶温度であることを特徴とする請求項1、2または3記載の高強度・超塑性材料の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/106577
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506503(P2005−506503)
【国際出願番号】PCT/JP2004/007370
【国際出願日】平成16年5月28日(2004.5.28)
【出願人】(000165974)古河機械金属株式会社 (211)
【Fターム(参考)】