高強度合金及びその高強度合金によって被覆された金属材料とその高強度合金を用いたマイクロ構造体
【課題】マイクロ構造体用材料として好適に用いることのできる、十分な靱性を備えた高強度合金及びその高強度合金を被覆してなる金属とその高強度合金を用いたマイクロ構造体を提供すること
【解決手段】NiイオンまたはCoイオンとWイオンまたはMoイオンの総和が0.1〜0.3モル/Lの範囲で、上記金属イオンにおけるNiイオンまたはCoイオンの含有比率が20〜40%の範囲にある組成の電解浴を用いて、40〜80℃の浴温で電解析出させて高強度合金を得る。その高強度合金はアモルファス構造または平均結晶粒径が100nm以下のナノ結晶構造を有している。
【解決手段】NiイオンまたはCoイオンとWイオンまたはMoイオンの総和が0.1〜0.3モル/Lの範囲で、上記金属イオンにおけるNiイオンまたはCoイオンの含有比率が20〜40%の範囲にある組成の電解浴を用いて、40〜80℃の浴温で電解析出させて高強度合金を得る。その高強度合金はアモルファス構造または平均結晶粒径が100nm以下のナノ結晶構造を有している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の電解条件を適用することにより得ることのできるマイクロ構造体用材料として好適な高強度合金及びその高強度合金を被覆してなる金属並びにその高強度合金を用いたマイクロ構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電解析出合金は、基板となる素材に耐食性・耐摩耗性等の機能を付与させることを目的に、主として表面被覆材料として利用されてきた。しかしながら、近年になって、LIGAプロセス(ドイツのカールスルーエ研究センターにおいて開発された、放射光を利用したリソグラフィー、電解析出および金型成形を組み合わせたマイクロ成形技術)に代表されるように、主として電解析出合金を用いた複雑なマイクロ構造体の作製技術の開発が進められている。
【0003】
さらに、半導体集積回路の技術開発とともに電子機器もますます高密度化、多機能化が求められている。特に、携帯電子機器では、電子部品の実装密度は100μm以下の配線密度のものが必要とされている。これらの微小な電子回路の部品の補修、交換または機能拡張のための手段として、半田付けによる接続方法は、作業が極めて困難で、しかも、周辺の基板に許容されない熱影響を与える可能性がある。この問題を解消するために、上記マイクロ構造体を利用したコネクタが提供されている。しかし、これまでマイクロ構造体に利用されている金属材料は、ニッケル、銅、金などの電解析出の容易な軟質材料に限定されており、これら材料はマイクロ金型材料や、駆動摺動機能を必要とするマイクロ部品用材料として利用するには軟らかすぎるという問題があり、構造材料としての十分な強度と靱性を備えていない。
【0004】
一方、Ni−P系合金を代表とする硬質電解析出合金も各種提案されているが、いずれの合金も非常に脆く、マイクロ構造体用材料として利用することはできない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は従来の技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、マイクロ構造体用材料として好適に用いることのできる十分な靱性を備えた高強度合金及びその高強度合金によって被覆された金属材料並びにその高強度合金を用いたマイクロ構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、特定量のNiイオンまたはCoイオンとWイオンまたはMoイオンを含む特定組成の電解水溶液を用いることとしている。この特定組成の電解水溶液中では、陰極基板への水素の共析が抑制され、高い電解析出効率の下で電解析出された、超微細な結晶粒組織もしくは非晶質組織を有する高強度のNi−W、Ni−Mo、Co−WまたはCo−Mo合金を提供することができる。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の第一ないし第五の発明より構成されている。
【0008】
第一の発明の高強度合金は、NiイオンまたはCoイオンとWイオンまたはMoイオンの総和が0.1〜0.3モル/Lの範囲で、上記金属イオンにおけるNiイオンまたはCoイオンの含有比率(モル濃度)が20〜40%の範囲にある組成の電解浴を用いて40〜80℃の浴温で電解析出させることにより得た高強度合金であって、アモルファス構造または平均結晶粒径が100nm以下のナノ結晶構造を有することを特徴としている。
【0009】
第二の発明の高強度合金は、WまたはMoを8〜30原子%含有し、水素原子含有量が1.00原子%以下で且つ酸素原子含有量が0.50原子%以下である組成を有し、残部がNiまたはCoよりなることを特徴としている。
【0010】
第三の発明は、第二の発明の高強度合金を、NiイオンまたはCoイオンとWイオンまたはMoイオンの総和が0.1〜0.3モル/Lの範囲で、上記金属イオンにおけるNiイオンまたはCoイオンの含有比率(モル濃度)が20〜40%の範囲にある組成の電解浴を用いて40〜80℃の浴温で電解析出させることにより得たことを特徴としている。
【0011】
第四の発明の金属材料は、第一、第二または第三の発明の高強度合金によって被覆されたことを特徴としている。
【0012】
第五の発明のマイクロ構造体は、第一、第二または第三の発明の高強度合金を用いたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1、2、3記載の発明によれば、十分な靭性を備えた超高強度合金を提供することができる。また、請求項4記載の発明によれば、超高強度合金によって被覆された金属材料を提供することができる。さらに、請求項5記載の発明によれば、マイクロ部品用材料として好適のマイクロ構造体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
第一の発明は、NiイオンまたはCoイオンとWイオンまたはMoイオンの総和が0.1〜0.3モル/L(リットル)の範囲で、上記金属イオンにおけるNiイオンまたはCoイオンの含有比率(モル濃度)が20〜40%の範囲にある組成の電解浴を用いて40〜80℃の浴温で電解析出させることにより得た高強度合金であって、アモルファス構造または平均結晶粒径が100nm以下のナノ結晶構造を有する高強度合金であるが、本発明における数値限定理由は、以下に説明するとおりである。
(イ)電解浴の浴温が40℃未満であるか、または80℃を超える場合、金属原子の電解析出効率が下がり、陰極板上で水素元素が発生しやすくなり、得られた合金は水素脆化により高強度を示さなくなる。
(ロ)NiイオンまたはCoイオンとWイオンまたはMoイオンの総和が0.1モル/L未満であると、金属イオン濃度が過小であることにより、電解析出速度が低すぎて一定以上の厚さ(例えば、LIGAプロセスの場合、100μm以上の厚さ)の合金膜の形成が困難になり、また、焼きつき現象が見られるので好ましくない。一方、NiイオンまたはCoイオンとWイオンまたはMoイオンの総和が0.3モル/Lを超えると、電解析出合金の引っ張り残留応力が増大し、激しい脆化状態を呈するので好ましくない。
(ハ)NiイオンまたはCoイオンとWイオンまたはMoイオンからなる金属イオンにおけるNiイオンまたはCoイオンの含有比率(モル濃度)が20%未満では、NiイオンまたはCoイオンの濃度が過小であることにより、電解析出速度が低すぎて一定以上の厚さ(例えば、LIGAプロセスの場合、100μm以上の厚さ)の合金膜の形成が困難になり、また、焼きつき現象が見られるので好ましくない。一方、NiイオンまたはCoイオンとWイオンまたはMoイオンからなる金属イオンにおけるNiイオンまたはCoイオンの含有比率(モル濃度)が40%を超えると、電解析出合金の引っ張り残留応力が増大し、激しい脆化状態を呈するので好ましくない。
【0015】
そして、アモルファス構造または平均結晶粒径が100nm以下のナノ結晶構造を有することにより、飛躍的に強度向上を図ることができる。一方、ナノ結晶構造を有する合金の場合、硬質ナノ粒子が互いにぶつかり合うことなく粒界すべりが生じ、高靭性を発現できるという点より、高強度合金の平均結晶粒径は15nm以下であることがさらに好ましい。
【0016】
第二の発明は、WまたはMoを8〜30原子%含有し、水素原子含有量が1.00原子%以下で且つ酸素原子含有量が0.50原子%以下である組成を有し、残部がNiまたはCoよりなる高強度合金であるが、WまたはMoの含有量、水素原子含有量および酸素原子含有量の数値限定理由は、以下に説明するとおりである。
【0017】
すなわち、水素原子含有量が1.00原子%以下であれば、いわゆる水素脆性を生じず、靱性を改善することができる。この水素脆性の原因は、粒界における水素化物の形成や、粒界に吸着した水素あるいは塑性変形中に転位によって粒界に運ばれた水素による粒界結合力の低下によるものであると言われているが、水素と同時に酸素が存在する場合には、激しい水素割れが発生する。というのは、電解析出中及び熱処理中に金属原子に吸着した酸素が水素と安定な化合物を生じることによって粒界面等における結合力を著しく低下させたり、その結果として微小のクラックを生成させることによって、脱水素ガス後も脆化を避けることができないからである。この点で、酸素原子含有量を0.50原子%以下にするのが好ましい。これら水素と酸素の存在による脆化を避け、靱性を高めるためには、水素原子含有量は0.20原子%以下とし、酸素原子含有量は0.20原子%以下とするのがさらに好ましい。最も好ましくは、水素および酸素を全く含まないことであるが、電解析出法の原理によって0.01原子%程度の水素原子および酸素原子を含むことは避けられず、この程度の含有量であれば、強度および靭性に悪影響を及ぼすことはない。
【0018】
また、WまたはMoが30原子%を超える高強度合金を得る場合、電解浴温度および電解電流密度が高くなり、金属原子の電解析出効率が下がり、陰極板上で水素原子が発生しやすくなり、得られた合金は水素脆化により高強度を示さなくなる。WまたはMoが8原子%未満の場合、WまたはMoが電解析出する前に、低い電解電流密度でNiまたはCoが電解析出し、合金中のWまたはMoの含有量が少なくなるので、高強度を確保することができない。
【0019】
そこで、WまたはMoを8〜30原子%含有し、残部がNiまたはCoよりなり、水素含有量が1.00原子%以下で且つ酸素含有量が0.50原子%以下である組成のものを電解析出してなる合金は高強度且つ高靱性を有する。
【0020】
第三の発明は、第二の発明の高強度合金を、NiイオンまたはCoイオンとWイオンまたはMoイオンの総和が0.1〜0.3モル/Lの範囲で、上記金属イオンにおけるNiイオンまたはCoイオンの含有比率(モル濃度)が20〜40%の範囲にある組成の電解浴を用いて40〜80℃の浴温で電解析出させることにより得たことにあって、電解浴の浴温、NiイオンまたはCoイオンとWイオンまたはMoイオンの総和、上記金属イオンにおけるNiイオンまたはCoイオンの含有比率(モル濃度)についての数値限定理由は上記(イ)、(ロ)、(ハ)のとおりである。
【0021】
第四の発明は、第一、第二または第三の発明の高強度合金によって被覆された金属材料である。本明細書において、「被覆」とは「メッキ」と同義であり、電気メッキ、化学メッキ、溶融メッキなどを含む意である。上記特徴を有する高強度合金を、例えば、電気製品の金属枠体や石油輸送金属パイプの内面などに被覆すれば、靱性が良好で高強度で耐食性に優れた被覆層により、上記金属枠体や金属パイプの亀裂や腐食を防止できる。
【0022】
上記第一または第三の発明において、電解析出に引き続いてベーキングを施すことにより、電解析出に伴って生成する共析水素を放出し(以下「ベーキング効果」という)、水素脆化を防止して一層の強度向上を図ることができるので好ましい。
【0023】
上記ベーキング温度が50〜200℃であることが好ましい。ベーキング温度が50℃未満では、ベーキング効果が十分でなく、200℃を超えても、ベーキング効果は向上せず、余分なエネルギーを必要とするので経済的に不利である。そこで、電解析出に引き続いて50〜200℃に加熱することにより、効率的にベーキング効果を享受し、超高強度合金を得ることができる。しかし、そのベーキング時間が長くなると、合金中の酸素と水素の化合物の生成反応の進行及び雰囲気からの酸素の侵入という理由により脆化することがあるので、ベーキング時間は、Feをベースとする合金系では1〜3時間とするのが好ましく、1.5〜2.5時間とするのがさらに好ましい。鉄と水素の結合力よりニッケルと水素の結合力の方が強いので、Niをベースとする合金系のベーキング時間は、鉄をベースとする合金系のベーキング時間より長くするのが好ましい。
【0024】
第五の発明は、第一、第二または第三の発明の高強度合金を用いてなるマイクロ構造体である。かかる合金を用いることにより、マイクロ部品用材料として好適の高強度のマイクロ構造体を提供することができる。
【実施例】
【0025】
以下に本発明の実施例を説明する。
1.Ni−W系合金の作製
(1)電解浴の組成が下記のAの場合
電解浴の組成が、濃度0.06モル/Lの硫酸ニッケル(NiSO4)と、 濃度を0.14〜0.5モル/Lの範囲で変化させたクエン酸ナトリウム(Na3 C6H5O7−2H2O)と、濃度0.14モル/Lのタングステン酸ナトリウム(Na2WO4−2H2O )と、濃度0.5モル/Lの塩化アンモニウム(NH4Cl)を主成分とする組成Aの場合において、0.5mm×30mm×40mmの大きさの白金製陽極板と0.2mm×30mm×40mmの大きさの銅製陰極板を用いて電解を行った。また、電解電流密度は、5〜20A/dm2 の範囲で変化させ、これにより合金のW含有量を変化させた。なお、銅製陰極板の片面にフロンマスクを塗布し、マスクのない片面にのみ合金を析出させた。また、銅製陰極板には前処理としてリン酸:水=2:1の溶液を用いて電解研磨処理を施した。また、電解析出中は、ホットスターラーを用いて電解浴を常時撹拌して以下に示す各実験中のそれぞれの浴温が一定になるようにし、同時にpHコントローラーを用いて電解析出中のpHを一定(約7.4〜7.5)に保持した。また、電解析出時間は、0.5時間とした。
【0026】
電解析出後、銅製陰極板(以下、銅板ともいう)は、クロム酸−硫酸混合水溶液(クロム酸250g/Lと硫酸15cc/Lの混合液)で溶解除去することにより、Ni−W合金のみを銅板上に残留させた。
【0027】
以下に、実験結果について順次説明する。
(a)電解浴組成がAの場合における浴温と合金の析出速度
電解浴の浴温を20〜90℃の範囲で変化させたときの浴温(℃)と電解析出速度(mg/cm2hr)との関係を図1に示す。このときの電解電流密度は5A/dm2 であった。図1において、符号「△」「●」「○」はそれぞれ、クエン酸ナトリウムの濃度が0.50モル/L、0.25モル/L、0.14モル/Lを示す。電解析出速度は、電解析出前後の銅板の重量差より銅板1cm2 上に析出した1時間当たりの重量(mg)を算出した。
【0028】
各符号において、記号tで指したものは、完全密着曲げ後も破断しない「高靱性」のものであることを示す。靱性を評価するための曲げ試験は、図2に示すように、透明な石英製平板1、1の間に、厚さdの試験片(Ni−W系合金を電解析出させた銅製陰極板)2を折り曲げるようにして挟み、平板1、1を密着させるように互いに接近させるようにして行い、試験片2が破断したときの平板1、1間の間隔Lをマイクロメーターにより測定し、湾曲した試験片2の中心の歪み量をゼロとすると、湾曲した試験片の表面の歪みεは、ε=d/(L−d)となるので(以下「εの式」という)、このεの値により靱性を評価した。「完全密着曲げ後も破断しない」とは、上側の平板1に当接する試験片と下側の平板1に当接する試験片が破断せずに完全に密着した状態にあることをいい、このとき、L=2dで、ε=1.0となる。
【0029】
すなわち、Ni−W系合金においては、クエン酸ナトリウムの濃度が0.5モル/Lのときは浴温が75℃、クエン酸ナトリウムの濃度が0.25モル/Lのときは浴温が60℃、クエン酸ナトリウムの濃度が0.14モル/Lのときは浴温が40℃と50℃の条件でそれぞれ電解析出させることによって、極めて靱性に優れたNi−W系合金を得ることができる。
【0030】
図1に明らかなように、クエン酸ナトリウムの濃度が増えると、高靱性を示す点(記号tで指したもの)は、より高温の浴温側に移行している。
(b)電解浴組成がAの場合における浴温と結晶粒径
図1に示すクエン酸ナトリウムの濃度が0.14モル/Lの場合の浴温(℃)とNi−W系合金の平均結晶粒径(×10-9m)との関係を図3に示し、図1に示すクエン酸ナトリウムの濃度が0.25モル/Lの場合の浴温(℃)とNi−W系合金の平均結晶粒径(×10-9m)との関係を図4に示す。図3において、高靱性を示すもの(記号tで指したもの)は、結晶粒径が約5.15×10-9mおよび約7.0×10-9mであり、図4において、高靱性を示すもの(記号tで指したもの)は、結晶粒径が約6.1×10-9mであり、いずれも微細な結晶である。なお、結晶粒径は、下記に説明する方法により求めた。
(c)電解浴組成がAの場合における浴温とW含有量
図1に示すクエン酸ナトリウムの濃度が0.14モル/Lの場合の浴温(℃)とNiーW系合金中のW含有量(原子%)との関係を図5に示し、図1に示すクエン酸ナトリウムの濃度が0.25モル/Lの場合の浴温(℃)とNi−W系合金中のW含有量(原子%)との関係を図6に示す。図5と図6から、高靱性を示すもの(記号tで指したもの)のNi−W系合金のW含有量は、約10〜12原子%である。なお、W含有量は、角度分散型EPMA(X線マイクロアナライザ)分析装置(日本電子データム株式会社製JXA−8900R)を用い、ZAF補正による定量分析法により求めた。
(d)電解浴組成がAの場合におけるX線回折パターン
理学電気社製のX線回折測定装置(RINT−1500)により、Ni−W系合金の構造の同定および結晶粒径の算出を行った。測定条件は、40kV−200mAとし、ターゲットにCu対陰極(Cu−Kα線)を使用した。また、結晶粒径(cdia)は、回折ピークの半価幅より、以下に示すシェーラーの式を用いて求めた。
【0031】
cdia =0.9λ/(Bcosθ) なお、λは波長(nm)、Bは半価幅(ラジアン)、θは回折角(度)である。
【0032】
図1に示すクエン酸ナトリウムの濃度が0.14モル/Lの場合のNi−W系合金のX線回折パターンを図7に示し、図1に示すクエン酸ナトリウムの濃度が0.25モル/Lの場合のNi−W合金のX線回折パターンを図8に示す。図7において、線a、b、c、dの「浴温、合金中のW含有量、合金の平均結晶粒径」は、それぞれ「40℃、10.6原子%、10.6nm(ナノメーター)」、「50℃、12.3原子%、5.2nm」、「60℃、15.1原子%、3.3nm」、「70℃、12.8原子%、5.4nm」である。同様に、図8において、線e、f、g、hの「浴温、合金中のW含有量、合金の平均結晶粒径」は、それぞれ「40℃、7.2原子%、9.9nm」、「50℃、9.1原子%、8.0nm」、「60℃、11.7原子%、6.3nm」、「70℃、9.4原子%、13.2nm」である。
【0033】
図7より、W含有量が約12原子%以上で、幅広いX線回折ピークを有するアモルファス構造を示すことが分かる。図7および図8から、W含有量が約15原子%以下では、平均結晶粒径が15×10-9m以下のナノ結晶構造を示すことが分かる。
(2)電解浴の組成が下記のBの場合
電解浴の組成が、濃度を0.06〜0.12モル/Lの範囲で変化させた硫酸ニッケルアンモニウム((NH4)2Ni(SO4)2−6H2O)と、 濃度を0.10〜0.16モル/Lの範囲で変化させたクエン酸ナトリウム(Na3C6H5 O7−2H2 O)と、濃度を0.08〜0.14モル/Lの範囲で変化させたタングステン酸ナトリウム(Na2WO4−2H2O )と、濃度0.25モル/Lの硫化アンモニウム((NH4)2SO4)と、 濃度0.15モル/Lの臭化ナトリウム(NaBr)を主成分とする組成Bの場合において、0.1mm×30mm×40mmの大きさの白金製陽極板と同じ大きさの銅製陰極板を用いて電解を行った。また、電解電流密度は、5A/dm2 とした。他の条件は、電解浴組成がAの場合と同じである。
【0034】
以下に、実験結果について順次説明する。
(a)電解浴組成がBの場合における浴温と合金の析出速度
電解浴の浴温を10〜80℃の範囲で変化させたときの浴温(℃)と電解析出速度(mg/cm2hr)との関係を図9、図10に示す。このときのクエン酸ナトリウムの濃度は0.14モル/Lであった。電解析出速度は、電解析出前後の銅板の重量差より銅板1cm2 上に析出した1時間当たりの重量(mg)を算出した。 図9において、符号「○」「●」は、それぞれ、「濃度0.06モル/Lの硫酸ニッケルアンモニウムと濃度0.14モル/Lのタングステン酸ナトリウムの組成を有する液」、「濃度0.08モル/Lの硫酸ニッケルアンモニウムと濃度0.12モル/Lのタングステン酸ナトリウムの組成を有する液」を示し、図10において、符号「△」「▲」は、それぞれ、「濃度0.10モル/Lの硫酸ニッケルアンモニウムと濃度0.10モル/Lのタングステン酸ナトリウムの組成を有する液)」、「濃度0.12モル/Lの硫酸ニッケルアンモニウムと濃度0.08モル/Lのタングステン酸ナトリウムの組成を有する液」を示す。
【0035】
図9、図10に明らかなように、浴温が高くなればなるほど合金の析出速度は上昇し、しかも、Niイオンの含有量が増えるほど(全金属イオンに対するNiイオンの比率が増えるほど)析出速度は上昇するが、浴温が20℃でNiイオンが0.06モル/L(全金属イオンに対するNiイオンの比率が30%)においても、十分に実用に供しうる析出速度を示している。
(b)電解浴組成がBの場合におけるクエン酸ナトリウムの濃度と合金の析出速度
電解浴の浴温が30℃または40℃において、クエン酸ナトリウムの濃度を0.10〜0.16モル/Lの範囲で変化させたときのクエン酸ナトリウムの濃度(モル/L)と電解析出速度(mg/cm2hr)との関係を図11に示す。電解析出速度は、同上方法により算出した。
【0036】
図11において、符号「○」「●」は、それぞれ、浴温が30℃において、「濃度0.10モル/Lの硫酸ニッケルアンモニウムと濃度0.10モル/Lのタングステン酸ナトリウムの組成を有する液」、「濃度0.08モル/Lの硫酸ニッケルアンモニウムと濃度0.12モル/Lのタングステン酸ナトリウムの組成を有する液」を示し、符号「△」「▲」は、それぞれ、浴温が40℃において、「濃度0.10モル/Lの硫酸ニッケルアンモニウムと濃度0.10モル/Lのタングステン酸ナトリウムの組成を有する液」、「濃度0.08モル/Lの硫酸ニッケルアンモニウムと濃度0.12モル/Lのタングステン酸ナトリウムの組成を有する液」を示す。
【0037】
図11に明らかなように、クエン酸ナトリウムの濃度が0.12モル/Lにおいて電解析出速度は最も高くなっている。これは、金属イオン量に対して錯化剤の量が最適であることによると考えられる。
(c)電解浴組成がBの場合におけるX線回折パターン
同上X線回折測定装置(RINT−1500)により、Ni−W系合金の構造の同定および結晶粒径の算出を行った。
【0038】
図9に示す硫酸ニッケルアンモニウムの濃度が0.08モル/Lである液のNi−W系合金のX線回折パターンを図12に示し、「図9、図10において、電解浴温度が30℃の場合における硫酸ニッケルアンモニウムの濃度が0.08モル/Lの液と0.10モル/Lの液と0.12モル/Lの液のNi−W系合金のX線回折パターン」を図13に示す。
【0039】
図12において、線i、j、k、m、n、pの「浴温、合金中のW含有量、合金の平均結晶粒径」は、それぞれ「30℃、10.7原子%、10.5nm(ナノメーター)」、「40℃、13.7原子%、9.3nm」、「50℃、13.7原子%、9.3nm」「60℃、15.4原子%、10.1nm」、「70℃、15.9原子%、16.7nm」、「80℃、11.9原子%、25.5nm」である。図13において、線q、r、sの「Niイオン濃度、合金中のW含有量、合金の平均結晶粒径」は、それぞれ「0.08モル/L、10.7原子%、10.5nm」「0.10モル/L、12.2原子%、10.9nm」「0.12モル/L、3.3原子%、13.4nm」である。
【0040】
図12および図13より、以下の点が分かる。すなわち、浴温が上昇するほど、また、Niイオン濃度が増加するほど、結晶粒径が増大し、W含有量はNi濃度が増加すると、大幅に低下することが分かる。
2.Ni−W系合金の機械的特性
イ 機械的特性
上記電解浴の組成Aにおいて、クエン酸ナトリウムの濃度が0.5モル/Lで、電解浴の浴温が60〜90℃(333〜363K)で、電解電流密度が20A/dm2 の条件で、1時間電解析出を行うことによってW含有量を変化させ、表1に示すような結果を得た。表1に明らかなように、浴温が75℃(348K)のものは、マイクロビッカース硬さHVが685と高く、しかも、破断歪み(εの式によるもの)が1.0、すなわち、完全密着曲げ後も破断しない「超高靱性」の特性を示している。また、浴温が80℃(353K)のものは、破断歪み(εの式によるもの)が0.416であり、良好な靱性を示している。
【0041】
【表1】
【0042】
また、上記電解浴の組成Aにおいて、クエン酸ナトリウムの濃度が0.14モル/Lで、電解浴の浴温が30〜80℃(303〜353K)で、電解電流密度が5A/dm2 の条件で、1時間電解析出を行うことによってW含有量を変化させ、表2に示すような結果を得た。表2に明らかなように、浴温が40℃(313K)と50℃(323K)のものは、マイクロビッカース硬さHVが696〜702と高く、しかも、破断歪み(εの式によるもの)が1.0、すなわち、完全密着曲げ後も破断しない「超高靱性」の特性を示している。
【0043】
【表2】
【0044】
ロ 熱処理(合金形成後のベーキング)による強度上昇
上記電解浴の組成Aにおいて、クエン酸ナトリウムの濃度が0.5モル/Lで、電解浴の浴温が75℃で、電解電流密度が10A/dm2または5A/dm2で、1〜4時間電解析出を行うことによってNi−W合金層の厚さを変化させ、一部のものは、Ni−W合金形成後にAr雰囲気で75℃(348K)で2時間加熱(ベーキング)した後、炉冷することによって、電解析出に伴って生成した水素を放出して強度向上を図り、表3に示すような結果を得た。表3に明らかなように、加熱前のNi−W合金の引張り強度はすでに438〜583MPaと高強度を示しているが、この合金を75℃(348K)で2時間加熱することによって、745〜1047MPaの超高強度化を達成することができた。
【0045】
【表3】
【0046】
ハ 熱処理(合金形成後のアニーリング)による強度上昇(マイクロビッカース硬さHV(荷重25g、保持時間15秒)の上昇)
上記電解浴の組成Aにおいて、クエン酸ナトリウムの濃度が0.14モル/Lで、電解浴の浴温が50℃で、電解電流密度が5A/dm2 の条件で電解析出を行うことによってNi−12.3原子%Wの合金を得た。このNi−W系合金を300℃(573K)〜600℃(873K)の範囲の温度で真空中で加熱した後、炉冷することによって、電解析出に伴う内部歪みを除去して結晶粒サイズを調整(15×10-9m程度で最大硬度を示す)し、一層の強度上昇を図った。その結果、表4に示すように、加熱温度が400〜600℃のものは、マイクロビッカース硬さHVとして、約850〜921の超高強度化を達成することができたが、加熱温度が600℃を超えると、マイクロビッカース硬さHVは低下したので、結晶粒の粗大化が進行すると推定できる。すなわち、Ni−W系合金を電解析出後に約400〜600℃に加熱(アニーリング)することにより、結晶粒が粗大化することなく超高強度合金を得ることができる。
【0047】
【表4】
【0048】
ニ 破断歪みに及ぼすNiイオン濃度と浴温の影響
上記電解浴の組成Bにおいて、クエン酸ナトリウムの濃度が0.14モル/Lにおいて、破断歪みに及ぼすNiイオン濃度と浴温の影響を図14、図15に示す。図14において、符号「○」「●」は、それぞれ、「濃度0.06モル/Lの硫酸ニッケルアンモニウムと濃度0.14モル/Lのタングステン酸ナトリウムの組成を有する液」、「濃度0.08モル/Lの硫酸ニッケルアンモニウムと濃度0.12モル/Lのタングステン酸ナトリウムの組成を有する液」を示し、図15において、符号「△」「▲」は、それぞれ、「濃度0.10モル/Lの硫酸ニッケルアンモニウムと濃度0.10モル/Lのタングステン酸ナトリウムの組成を有する液」、「濃度0.12モル/Lの硫酸ニッケルアンモニウムと濃度0.08モル/Lのタングステン酸ナトリウムの組成を有する液」を示す。
【0049】
図14に示すように、硫酸ニッケルアンモニウムの濃度が0.08モル/Lで、タングステン酸ナトリウムの濃度が0.12モル/Lである組成(符号●)の液において、破断歪み値が向上する傾向にあり(すなわち、靱性が改善され)、浴温が30℃でも破断歪み(εの式によるもの)が1.0を示す合金が得られる。しかし、電解析出効率の低下による水素等の共析という理由により、浴温が上昇すると、破断歪み値が減少する(靱性が低下する)。
ホ 破断歪みに及ぼすクエン酸ナトリウムの濃度の影響
上記電解浴の組成Bにおいて、電解浴の浴温が30℃または40℃において、クエン酸ナトリウムの濃度を0.10〜0.16モル/Lの範囲で変化させたときのクエン酸ナトリウムの濃度(モル/L)と破断歪みとの関係を図16に示す。このときの電解電流密度は、5A/dm2 である。図16において、符号「○」「●」は、それぞれ、浴温が30℃において、「濃度0.10モル/Lの硫酸ニッケルアンモニウムと濃度0.10モル/Lのタングステン酸ナトリウムの組成を有する液)」、「濃度0.08モル/Lの硫酸ニッケルアンモニウムと濃度0.12モル/Lのタングステン酸ナトリウムの組成を有する液」を示し、符号「△」「▲」は、それぞれ、浴温が40℃において、「濃度0.10モル/Lの硫酸ニッケルアンモニウムと濃度0.10モル/Lのタングステン酸ナトリウムの組成を有する液」、「濃度0.08モル/Lの硫酸ニッケルアンモニウムと濃度0.12モル/Lのタングステン酸ナトリウムの組成を有する液」を示す。
【0050】
図16から明らかなように、クエン酸ナトリウムの濃度が0.14モル/Lのとき(クエン酸イオンの濃度をタングステンイオンの濃度より多くすると)、破断歪み値が向上する傾向にあり(すなわち、靱性が改善され)、浴温が30℃でも破断歪み(εの式によるもの)が1.0を示す合金が得られる。しかし、合金の電解析出効率の低下と水素等の共析という理由により、クエン酸イオンの濃度が高すぎると靱性が低下することがある。
3.Ni−W系合金の物理的特性(水素含有量および酸素含有量と靱性)
a.電流密度が5A/dm2 の場合
基本的に上記電解浴の組成Aとし、他のメッキ条件は、表5の上段に示すとおりの条件で電解析出を行った結果、そのNi−W系合金の物理的特性として、表5の下段に示すような結果を得た。表5に示すように、試料No.2〜4によれば、破断歪み(εの式によるもの)が0.1以上であって良好な靱性を具備し、特に、破断歪み(εの式によるもの)が1.0である超高靱性の試料No.3の水素原子含有量は、0.12原子%であり、酸素原子含有量は、0.18原子%であり、破断歪みがゼロである(曲げることが全くできない)試料No.5や試料No.6の水素原子含有量や酸素原子含有量に比べて遙かに少ない。なお、水素原子含有量及び酸素原子含有量は、ともに不活性ガス融解法により測定した。
【0051】
なお、表5の試料No.2及び試料No.4に、真空中75℃で2時間のベーキング(脱水素ガス処理)を施すことにより、破断歪み(εの式によるもの)が1.0まで大きく向上した。
【0052】
【表5】
【0053】
b.電流密度が10A/dm2 の場合
基本的に上記電解浴の組成Aとし、他のメッキ条件は、表6の上段に示すとおりの条件で電解析出を行った結果、そのNi−W系合金の物理的特性として、表6の下段に示すような結果を得た。表5と表6を比較すると、浴温が同じ50℃である試料No.3と試料No.7を比較すると、電流密度が高くなると、合金中の水素原子含有量もやや増えるが、試料No.7の破断歪み(εの式によるもの)は1.0であって、超高靱性を示している。表6に示すように、浴温が75℃の試料No.8の破断歪み(εの式によるもの)も1.0であって、試料No.7と同様の超高靱性を示しているが、特筆すべきは、酸素原子含有量の差である。すなわち、試料No.8の水素原子含有量は0.20原子%であって、試料No.7と同じであるが、試料No.8の酸素原子含有量は、0.03原子%と極めて少ない。このように、Ni−W系合金においては、電解電流密度が増加しても、クエン酸濃度を増加し、浴温を高くすれば、水素原子含有量および酸素原子含有量がともに少ない、超高靱性の合金を得ることが可能であることを示唆している。また、合金中の酸素濃度をさらに低下させる方法として、電解浴中の溶存酸素濃度を極めて低く保持することも有効である。
【0054】
【表6】
【0055】
試料No.8の酸素原子含有量は非常に少なく、極めて優れた靱性を備えているが、この試料No.8の電解析出直後の引張り強度はすでに670MPaと非常に高い値を示していたが、同試料をAr雰囲気で75℃(348K)で24時間加熱(ベーキング)処理した後、炉冷することによって、電解析出に伴って生成した水素を放出して強度は向上し、2333MPaという極めて高い引張り強度を達成した。なお、表6の試料No.8は粒径が2〜3nmのナノ結晶組織で、粒界部分にアモルファス相を含む構造であったが、表5の試料No.2の粒径は約5nmであり、その試料No.2の電解析出直後の引張り強度は1100MPaと極めて高い値を示した。すなわち、一般的に粒径が小さくなるほど強度は向上するが、アモルファス相や約5nm以下の極めて微小な粒径になれば、逆にやや強度が低下することがある。
4.マイクロ構造体の作製
本発明に係る高強度合金を用いたマイクロ構造体の製造方法の一例を、図17に基づいて説明する。
(1)放射光の照射
フォトマスク1を通して、導電性基板2上に塗布した感光性樹脂3に放射光4を照射する(図17(a))。
(2)感光性樹脂の現像
フォトマスク1の中で「IMT」と表示された部分5は放射光を吸収する光吸収体からなり、フォトマスク1の光吸収体5を除く部分を透過した放射光により、その放射光に露光された部分の感光性樹脂3の分子鎖が切れ、特定の現像液に選択的に溶解するようになる。この現像処理により、導電性基板2上に感光性樹脂のマイクロ構造体6が形成される(図17(b))。
(3)電解析出法による金属堆積
感光性樹脂が溶解した部分に、本発明に係る高強度合金を上記電解析出法にしたがって電解析出させる(図17(c))。
(4)残りの感光性樹脂の剥離
残った感光性樹脂を溶剤で取り除くことにより、高強度合金のマイクロ構造体7が得られる(図17(d))。この方法によれば、機械加工法では成形が困難であるマイクロメータサイズの微小な金属構造体の成形が可能であり、フォトマスクの光吸収体の形状を変えることにより、任意の構造のマイクロ構造体の成形が可能である。
5.その他
本発明によれば、以上のようにして高靱性の高強度合金を得ることができるが、密着性の良好な電解析出合金を得るためには、次に説明する条件に留意することがさらに好ましい。
(1)電流密度
電解析出時間を短縮し、緻密な合金膜を得るためには、電流密度は一般に大きい方が好ましい。しかし、電流密度が大きくなると、水素の生成量が多くなり、水素脆化の原因となるので、電流密度が大きすぎるのは好ましくない。
(2)pH
強酸性浴あるいは強アルカリ性では、電解特性はpHにそれほど敏感ではないが、本発明による高強度合金は、弱アルカリ性浴を用いるのが好ましい。なお、金属イオンと錯体の構造はpHにより変化して、Ni(またはCo)とW(またはMo)の電解析出電位がほぼ同じになったときに、Ni−W系合金が析出し、FeとW(またはMo)の電解析出電位がほぼ同じになったときに、Fe−W系合金が析出する。
(3)添加剤
添加剤の目的は、電解析出膜の平滑化、光沢化、結晶微細化、均一電解析出性の改善、残留応力低減、ピット防止などである。本発明においては、ピット防止のために公知の界面活性剤を適量添加し、ピット防止以外の上記目的のために、サッカリンを適量添加するのが好ましい。
(4)前処理
密着性のよい平滑な電解析出膜を得るためには、被電解析出面を清浄にする前処理は重要であり、公知の前処理方法を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】Ni−W系合金における電解浴温の変化に対する電解析出速度の変化を示す図である。
【図2】曲げ試験の方法を説明する図である。
【図3】Ni−W系合金における電解浴温の変化に対する結晶粒径の変化を示す図である。
【図4】Ni−W系合金における電解浴温の変化に対する結晶粒径の変化を示す別の図である。
【図5】Ni−W系合金における電解浴温の変化に対するW含有量の変化を示す図である。
【図6】Ni−W系合金における電解浴温の変化に対するW含有量の変化を示す別の図である。
【図7】Ni−W系合金における電解浴温の変化に対するX線回折パターンの変化を示す図である。
【図8】Ni−W系合金における電解浴温の変化に対するX線回折パターンの変化を示す別の図である。
【図9】Ni−W系合金における電解浴温の変化に対する電解析出速度の変化を示す別の図である。
【図10】Ni−W系合金における電解浴温の変化に対する電解析出速度の変化を示すさらに別の図である。
【図11】Ni−W系合金におけるクエン酸ナトリウムの濃度の変化に対する電解析出速度の変化を示す図である。
【図12】Ni−W系合金における電解浴温の変化に対するX線回折パターンの変化を示すさらに別の図である。
【図13】Ni−W系合金におけるNi濃度の変化に対するX線回折パターンの変化を示す図である。
【図14】Ni−W系合金における電解浴温の変化に対する破断歪みの変化を示す図である。
【図15】Ni−W系合金における電解浴温の変化に対する破断歪みの変化を示す別の図である。
【図16】Ni−W系合金におけるクエン酸ナトリウムの濃度の変化に対する破断歪みの変化を示す図である。
【図17】マイクロ構造体の製造方法のフローの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
1…フォトマスク
2…導電性基板
3…感光性樹脂
4…放射光
5…光吸収体
6、7…マイクロ構造体
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の電解条件を適用することにより得ることのできるマイクロ構造体用材料として好適な高強度合金及びその高強度合金を被覆してなる金属並びにその高強度合金を用いたマイクロ構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電解析出合金は、基板となる素材に耐食性・耐摩耗性等の機能を付与させることを目的に、主として表面被覆材料として利用されてきた。しかしながら、近年になって、LIGAプロセス(ドイツのカールスルーエ研究センターにおいて開発された、放射光を利用したリソグラフィー、電解析出および金型成形を組み合わせたマイクロ成形技術)に代表されるように、主として電解析出合金を用いた複雑なマイクロ構造体の作製技術の開発が進められている。
【0003】
さらに、半導体集積回路の技術開発とともに電子機器もますます高密度化、多機能化が求められている。特に、携帯電子機器では、電子部品の実装密度は100μm以下の配線密度のものが必要とされている。これらの微小な電子回路の部品の補修、交換または機能拡張のための手段として、半田付けによる接続方法は、作業が極めて困難で、しかも、周辺の基板に許容されない熱影響を与える可能性がある。この問題を解消するために、上記マイクロ構造体を利用したコネクタが提供されている。しかし、これまでマイクロ構造体に利用されている金属材料は、ニッケル、銅、金などの電解析出の容易な軟質材料に限定されており、これら材料はマイクロ金型材料や、駆動摺動機能を必要とするマイクロ部品用材料として利用するには軟らかすぎるという問題があり、構造材料としての十分な強度と靱性を備えていない。
【0004】
一方、Ni−P系合金を代表とする硬質電解析出合金も各種提案されているが、いずれの合金も非常に脆く、マイクロ構造体用材料として利用することはできない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は従来の技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、マイクロ構造体用材料として好適に用いることのできる十分な靱性を備えた高強度合金及びその高強度合金によって被覆された金属材料並びにその高強度合金を用いたマイクロ構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、特定量のNiイオンまたはCoイオンとWイオンまたはMoイオンを含む特定組成の電解水溶液を用いることとしている。この特定組成の電解水溶液中では、陰極基板への水素の共析が抑制され、高い電解析出効率の下で電解析出された、超微細な結晶粒組織もしくは非晶質組織を有する高強度のNi−W、Ni−Mo、Co−WまたはCo−Mo合金を提供することができる。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の第一ないし第五の発明より構成されている。
【0008】
第一の発明の高強度合金は、NiイオンまたはCoイオンとWイオンまたはMoイオンの総和が0.1〜0.3モル/Lの範囲で、上記金属イオンにおけるNiイオンまたはCoイオンの含有比率(モル濃度)が20〜40%の範囲にある組成の電解浴を用いて40〜80℃の浴温で電解析出させることにより得た高強度合金であって、アモルファス構造または平均結晶粒径が100nm以下のナノ結晶構造を有することを特徴としている。
【0009】
第二の発明の高強度合金は、WまたはMoを8〜30原子%含有し、水素原子含有量が1.00原子%以下で且つ酸素原子含有量が0.50原子%以下である組成を有し、残部がNiまたはCoよりなることを特徴としている。
【0010】
第三の発明は、第二の発明の高強度合金を、NiイオンまたはCoイオンとWイオンまたはMoイオンの総和が0.1〜0.3モル/Lの範囲で、上記金属イオンにおけるNiイオンまたはCoイオンの含有比率(モル濃度)が20〜40%の範囲にある組成の電解浴を用いて40〜80℃の浴温で電解析出させることにより得たことを特徴としている。
【0011】
第四の発明の金属材料は、第一、第二または第三の発明の高強度合金によって被覆されたことを特徴としている。
【0012】
第五の発明のマイクロ構造体は、第一、第二または第三の発明の高強度合金を用いたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1、2、3記載の発明によれば、十分な靭性を備えた超高強度合金を提供することができる。また、請求項4記載の発明によれば、超高強度合金によって被覆された金属材料を提供することができる。さらに、請求項5記載の発明によれば、マイクロ部品用材料として好適のマイクロ構造体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
第一の発明は、NiイオンまたはCoイオンとWイオンまたはMoイオンの総和が0.1〜0.3モル/L(リットル)の範囲で、上記金属イオンにおけるNiイオンまたはCoイオンの含有比率(モル濃度)が20〜40%の範囲にある組成の電解浴を用いて40〜80℃の浴温で電解析出させることにより得た高強度合金であって、アモルファス構造または平均結晶粒径が100nm以下のナノ結晶構造を有する高強度合金であるが、本発明における数値限定理由は、以下に説明するとおりである。
(イ)電解浴の浴温が40℃未満であるか、または80℃を超える場合、金属原子の電解析出効率が下がり、陰極板上で水素元素が発生しやすくなり、得られた合金は水素脆化により高強度を示さなくなる。
(ロ)NiイオンまたはCoイオンとWイオンまたはMoイオンの総和が0.1モル/L未満であると、金属イオン濃度が過小であることにより、電解析出速度が低すぎて一定以上の厚さ(例えば、LIGAプロセスの場合、100μm以上の厚さ)の合金膜の形成が困難になり、また、焼きつき現象が見られるので好ましくない。一方、NiイオンまたはCoイオンとWイオンまたはMoイオンの総和が0.3モル/Lを超えると、電解析出合金の引っ張り残留応力が増大し、激しい脆化状態を呈するので好ましくない。
(ハ)NiイオンまたはCoイオンとWイオンまたはMoイオンからなる金属イオンにおけるNiイオンまたはCoイオンの含有比率(モル濃度)が20%未満では、NiイオンまたはCoイオンの濃度が過小であることにより、電解析出速度が低すぎて一定以上の厚さ(例えば、LIGAプロセスの場合、100μm以上の厚さ)の合金膜の形成が困難になり、また、焼きつき現象が見られるので好ましくない。一方、NiイオンまたはCoイオンとWイオンまたはMoイオンからなる金属イオンにおけるNiイオンまたはCoイオンの含有比率(モル濃度)が40%を超えると、電解析出合金の引っ張り残留応力が増大し、激しい脆化状態を呈するので好ましくない。
【0015】
そして、アモルファス構造または平均結晶粒径が100nm以下のナノ結晶構造を有することにより、飛躍的に強度向上を図ることができる。一方、ナノ結晶構造を有する合金の場合、硬質ナノ粒子が互いにぶつかり合うことなく粒界すべりが生じ、高靭性を発現できるという点より、高強度合金の平均結晶粒径は15nm以下であることがさらに好ましい。
【0016】
第二の発明は、WまたはMoを8〜30原子%含有し、水素原子含有量が1.00原子%以下で且つ酸素原子含有量が0.50原子%以下である組成を有し、残部がNiまたはCoよりなる高強度合金であるが、WまたはMoの含有量、水素原子含有量および酸素原子含有量の数値限定理由は、以下に説明するとおりである。
【0017】
すなわち、水素原子含有量が1.00原子%以下であれば、いわゆる水素脆性を生じず、靱性を改善することができる。この水素脆性の原因は、粒界における水素化物の形成や、粒界に吸着した水素あるいは塑性変形中に転位によって粒界に運ばれた水素による粒界結合力の低下によるものであると言われているが、水素と同時に酸素が存在する場合には、激しい水素割れが発生する。というのは、電解析出中及び熱処理中に金属原子に吸着した酸素が水素と安定な化合物を生じることによって粒界面等における結合力を著しく低下させたり、その結果として微小のクラックを生成させることによって、脱水素ガス後も脆化を避けることができないからである。この点で、酸素原子含有量を0.50原子%以下にするのが好ましい。これら水素と酸素の存在による脆化を避け、靱性を高めるためには、水素原子含有量は0.20原子%以下とし、酸素原子含有量は0.20原子%以下とするのがさらに好ましい。最も好ましくは、水素および酸素を全く含まないことであるが、電解析出法の原理によって0.01原子%程度の水素原子および酸素原子を含むことは避けられず、この程度の含有量であれば、強度および靭性に悪影響を及ぼすことはない。
【0018】
また、WまたはMoが30原子%を超える高強度合金を得る場合、電解浴温度および電解電流密度が高くなり、金属原子の電解析出効率が下がり、陰極板上で水素原子が発生しやすくなり、得られた合金は水素脆化により高強度を示さなくなる。WまたはMoが8原子%未満の場合、WまたはMoが電解析出する前に、低い電解電流密度でNiまたはCoが電解析出し、合金中のWまたはMoの含有量が少なくなるので、高強度を確保することができない。
【0019】
そこで、WまたはMoを8〜30原子%含有し、残部がNiまたはCoよりなり、水素含有量が1.00原子%以下で且つ酸素含有量が0.50原子%以下である組成のものを電解析出してなる合金は高強度且つ高靱性を有する。
【0020】
第三の発明は、第二の発明の高強度合金を、NiイオンまたはCoイオンとWイオンまたはMoイオンの総和が0.1〜0.3モル/Lの範囲で、上記金属イオンにおけるNiイオンまたはCoイオンの含有比率(モル濃度)が20〜40%の範囲にある組成の電解浴を用いて40〜80℃の浴温で電解析出させることにより得たことにあって、電解浴の浴温、NiイオンまたはCoイオンとWイオンまたはMoイオンの総和、上記金属イオンにおけるNiイオンまたはCoイオンの含有比率(モル濃度)についての数値限定理由は上記(イ)、(ロ)、(ハ)のとおりである。
【0021】
第四の発明は、第一、第二または第三の発明の高強度合金によって被覆された金属材料である。本明細書において、「被覆」とは「メッキ」と同義であり、電気メッキ、化学メッキ、溶融メッキなどを含む意である。上記特徴を有する高強度合金を、例えば、電気製品の金属枠体や石油輸送金属パイプの内面などに被覆すれば、靱性が良好で高強度で耐食性に優れた被覆層により、上記金属枠体や金属パイプの亀裂や腐食を防止できる。
【0022】
上記第一または第三の発明において、電解析出に引き続いてベーキングを施すことにより、電解析出に伴って生成する共析水素を放出し(以下「ベーキング効果」という)、水素脆化を防止して一層の強度向上を図ることができるので好ましい。
【0023】
上記ベーキング温度が50〜200℃であることが好ましい。ベーキング温度が50℃未満では、ベーキング効果が十分でなく、200℃を超えても、ベーキング効果は向上せず、余分なエネルギーを必要とするので経済的に不利である。そこで、電解析出に引き続いて50〜200℃に加熱することにより、効率的にベーキング効果を享受し、超高強度合金を得ることができる。しかし、そのベーキング時間が長くなると、合金中の酸素と水素の化合物の生成反応の進行及び雰囲気からの酸素の侵入という理由により脆化することがあるので、ベーキング時間は、Feをベースとする合金系では1〜3時間とするのが好ましく、1.5〜2.5時間とするのがさらに好ましい。鉄と水素の結合力よりニッケルと水素の結合力の方が強いので、Niをベースとする合金系のベーキング時間は、鉄をベースとする合金系のベーキング時間より長くするのが好ましい。
【0024】
第五の発明は、第一、第二または第三の発明の高強度合金を用いてなるマイクロ構造体である。かかる合金を用いることにより、マイクロ部品用材料として好適の高強度のマイクロ構造体を提供することができる。
【実施例】
【0025】
以下に本発明の実施例を説明する。
1.Ni−W系合金の作製
(1)電解浴の組成が下記のAの場合
電解浴の組成が、濃度0.06モル/Lの硫酸ニッケル(NiSO4)と、 濃度を0.14〜0.5モル/Lの範囲で変化させたクエン酸ナトリウム(Na3 C6H5O7−2H2O)と、濃度0.14モル/Lのタングステン酸ナトリウム(Na2WO4−2H2O )と、濃度0.5モル/Lの塩化アンモニウム(NH4Cl)を主成分とする組成Aの場合において、0.5mm×30mm×40mmの大きさの白金製陽極板と0.2mm×30mm×40mmの大きさの銅製陰極板を用いて電解を行った。また、電解電流密度は、5〜20A/dm2 の範囲で変化させ、これにより合金のW含有量を変化させた。なお、銅製陰極板の片面にフロンマスクを塗布し、マスクのない片面にのみ合金を析出させた。また、銅製陰極板には前処理としてリン酸:水=2:1の溶液を用いて電解研磨処理を施した。また、電解析出中は、ホットスターラーを用いて電解浴を常時撹拌して以下に示す各実験中のそれぞれの浴温が一定になるようにし、同時にpHコントローラーを用いて電解析出中のpHを一定(約7.4〜7.5)に保持した。また、電解析出時間は、0.5時間とした。
【0026】
電解析出後、銅製陰極板(以下、銅板ともいう)は、クロム酸−硫酸混合水溶液(クロム酸250g/Lと硫酸15cc/Lの混合液)で溶解除去することにより、Ni−W合金のみを銅板上に残留させた。
【0027】
以下に、実験結果について順次説明する。
(a)電解浴組成がAの場合における浴温と合金の析出速度
電解浴の浴温を20〜90℃の範囲で変化させたときの浴温(℃)と電解析出速度(mg/cm2hr)との関係を図1に示す。このときの電解電流密度は5A/dm2 であった。図1において、符号「△」「●」「○」はそれぞれ、クエン酸ナトリウムの濃度が0.50モル/L、0.25モル/L、0.14モル/Lを示す。電解析出速度は、電解析出前後の銅板の重量差より銅板1cm2 上に析出した1時間当たりの重量(mg)を算出した。
【0028】
各符号において、記号tで指したものは、完全密着曲げ後も破断しない「高靱性」のものであることを示す。靱性を評価するための曲げ試験は、図2に示すように、透明な石英製平板1、1の間に、厚さdの試験片(Ni−W系合金を電解析出させた銅製陰極板)2を折り曲げるようにして挟み、平板1、1を密着させるように互いに接近させるようにして行い、試験片2が破断したときの平板1、1間の間隔Lをマイクロメーターにより測定し、湾曲した試験片2の中心の歪み量をゼロとすると、湾曲した試験片の表面の歪みεは、ε=d/(L−d)となるので(以下「εの式」という)、このεの値により靱性を評価した。「完全密着曲げ後も破断しない」とは、上側の平板1に当接する試験片と下側の平板1に当接する試験片が破断せずに完全に密着した状態にあることをいい、このとき、L=2dで、ε=1.0となる。
【0029】
すなわち、Ni−W系合金においては、クエン酸ナトリウムの濃度が0.5モル/Lのときは浴温が75℃、クエン酸ナトリウムの濃度が0.25モル/Lのときは浴温が60℃、クエン酸ナトリウムの濃度が0.14モル/Lのときは浴温が40℃と50℃の条件でそれぞれ電解析出させることによって、極めて靱性に優れたNi−W系合金を得ることができる。
【0030】
図1に明らかなように、クエン酸ナトリウムの濃度が増えると、高靱性を示す点(記号tで指したもの)は、より高温の浴温側に移行している。
(b)電解浴組成がAの場合における浴温と結晶粒径
図1に示すクエン酸ナトリウムの濃度が0.14モル/Lの場合の浴温(℃)とNi−W系合金の平均結晶粒径(×10-9m)との関係を図3に示し、図1に示すクエン酸ナトリウムの濃度が0.25モル/Lの場合の浴温(℃)とNi−W系合金の平均結晶粒径(×10-9m)との関係を図4に示す。図3において、高靱性を示すもの(記号tで指したもの)は、結晶粒径が約5.15×10-9mおよび約7.0×10-9mであり、図4において、高靱性を示すもの(記号tで指したもの)は、結晶粒径が約6.1×10-9mであり、いずれも微細な結晶である。なお、結晶粒径は、下記に説明する方法により求めた。
(c)電解浴組成がAの場合における浴温とW含有量
図1に示すクエン酸ナトリウムの濃度が0.14モル/Lの場合の浴温(℃)とNiーW系合金中のW含有量(原子%)との関係を図5に示し、図1に示すクエン酸ナトリウムの濃度が0.25モル/Lの場合の浴温(℃)とNi−W系合金中のW含有量(原子%)との関係を図6に示す。図5と図6から、高靱性を示すもの(記号tで指したもの)のNi−W系合金のW含有量は、約10〜12原子%である。なお、W含有量は、角度分散型EPMA(X線マイクロアナライザ)分析装置(日本電子データム株式会社製JXA−8900R)を用い、ZAF補正による定量分析法により求めた。
(d)電解浴組成がAの場合におけるX線回折パターン
理学電気社製のX線回折測定装置(RINT−1500)により、Ni−W系合金の構造の同定および結晶粒径の算出を行った。測定条件は、40kV−200mAとし、ターゲットにCu対陰極(Cu−Kα線)を使用した。また、結晶粒径(cdia)は、回折ピークの半価幅より、以下に示すシェーラーの式を用いて求めた。
【0031】
cdia =0.9λ/(Bcosθ) なお、λは波長(nm)、Bは半価幅(ラジアン)、θは回折角(度)である。
【0032】
図1に示すクエン酸ナトリウムの濃度が0.14モル/Lの場合のNi−W系合金のX線回折パターンを図7に示し、図1に示すクエン酸ナトリウムの濃度が0.25モル/Lの場合のNi−W合金のX線回折パターンを図8に示す。図7において、線a、b、c、dの「浴温、合金中のW含有量、合金の平均結晶粒径」は、それぞれ「40℃、10.6原子%、10.6nm(ナノメーター)」、「50℃、12.3原子%、5.2nm」、「60℃、15.1原子%、3.3nm」、「70℃、12.8原子%、5.4nm」である。同様に、図8において、線e、f、g、hの「浴温、合金中のW含有量、合金の平均結晶粒径」は、それぞれ「40℃、7.2原子%、9.9nm」、「50℃、9.1原子%、8.0nm」、「60℃、11.7原子%、6.3nm」、「70℃、9.4原子%、13.2nm」である。
【0033】
図7より、W含有量が約12原子%以上で、幅広いX線回折ピークを有するアモルファス構造を示すことが分かる。図7および図8から、W含有量が約15原子%以下では、平均結晶粒径が15×10-9m以下のナノ結晶構造を示すことが分かる。
(2)電解浴の組成が下記のBの場合
電解浴の組成が、濃度を0.06〜0.12モル/Lの範囲で変化させた硫酸ニッケルアンモニウム((NH4)2Ni(SO4)2−6H2O)と、 濃度を0.10〜0.16モル/Lの範囲で変化させたクエン酸ナトリウム(Na3C6H5 O7−2H2 O)と、濃度を0.08〜0.14モル/Lの範囲で変化させたタングステン酸ナトリウム(Na2WO4−2H2O )と、濃度0.25モル/Lの硫化アンモニウム((NH4)2SO4)と、 濃度0.15モル/Lの臭化ナトリウム(NaBr)を主成分とする組成Bの場合において、0.1mm×30mm×40mmの大きさの白金製陽極板と同じ大きさの銅製陰極板を用いて電解を行った。また、電解電流密度は、5A/dm2 とした。他の条件は、電解浴組成がAの場合と同じである。
【0034】
以下に、実験結果について順次説明する。
(a)電解浴組成がBの場合における浴温と合金の析出速度
電解浴の浴温を10〜80℃の範囲で変化させたときの浴温(℃)と電解析出速度(mg/cm2hr)との関係を図9、図10に示す。このときのクエン酸ナトリウムの濃度は0.14モル/Lであった。電解析出速度は、電解析出前後の銅板の重量差より銅板1cm2 上に析出した1時間当たりの重量(mg)を算出した。 図9において、符号「○」「●」は、それぞれ、「濃度0.06モル/Lの硫酸ニッケルアンモニウムと濃度0.14モル/Lのタングステン酸ナトリウムの組成を有する液」、「濃度0.08モル/Lの硫酸ニッケルアンモニウムと濃度0.12モル/Lのタングステン酸ナトリウムの組成を有する液」を示し、図10において、符号「△」「▲」は、それぞれ、「濃度0.10モル/Lの硫酸ニッケルアンモニウムと濃度0.10モル/Lのタングステン酸ナトリウムの組成を有する液)」、「濃度0.12モル/Lの硫酸ニッケルアンモニウムと濃度0.08モル/Lのタングステン酸ナトリウムの組成を有する液」を示す。
【0035】
図9、図10に明らかなように、浴温が高くなればなるほど合金の析出速度は上昇し、しかも、Niイオンの含有量が増えるほど(全金属イオンに対するNiイオンの比率が増えるほど)析出速度は上昇するが、浴温が20℃でNiイオンが0.06モル/L(全金属イオンに対するNiイオンの比率が30%)においても、十分に実用に供しうる析出速度を示している。
(b)電解浴組成がBの場合におけるクエン酸ナトリウムの濃度と合金の析出速度
電解浴の浴温が30℃または40℃において、クエン酸ナトリウムの濃度を0.10〜0.16モル/Lの範囲で変化させたときのクエン酸ナトリウムの濃度(モル/L)と電解析出速度(mg/cm2hr)との関係を図11に示す。電解析出速度は、同上方法により算出した。
【0036】
図11において、符号「○」「●」は、それぞれ、浴温が30℃において、「濃度0.10モル/Lの硫酸ニッケルアンモニウムと濃度0.10モル/Lのタングステン酸ナトリウムの組成を有する液」、「濃度0.08モル/Lの硫酸ニッケルアンモニウムと濃度0.12モル/Lのタングステン酸ナトリウムの組成を有する液」を示し、符号「△」「▲」は、それぞれ、浴温が40℃において、「濃度0.10モル/Lの硫酸ニッケルアンモニウムと濃度0.10モル/Lのタングステン酸ナトリウムの組成を有する液」、「濃度0.08モル/Lの硫酸ニッケルアンモニウムと濃度0.12モル/Lのタングステン酸ナトリウムの組成を有する液」を示す。
【0037】
図11に明らかなように、クエン酸ナトリウムの濃度が0.12モル/Lにおいて電解析出速度は最も高くなっている。これは、金属イオン量に対して錯化剤の量が最適であることによると考えられる。
(c)電解浴組成がBの場合におけるX線回折パターン
同上X線回折測定装置(RINT−1500)により、Ni−W系合金の構造の同定および結晶粒径の算出を行った。
【0038】
図9に示す硫酸ニッケルアンモニウムの濃度が0.08モル/Lである液のNi−W系合金のX線回折パターンを図12に示し、「図9、図10において、電解浴温度が30℃の場合における硫酸ニッケルアンモニウムの濃度が0.08モル/Lの液と0.10モル/Lの液と0.12モル/Lの液のNi−W系合金のX線回折パターン」を図13に示す。
【0039】
図12において、線i、j、k、m、n、pの「浴温、合金中のW含有量、合金の平均結晶粒径」は、それぞれ「30℃、10.7原子%、10.5nm(ナノメーター)」、「40℃、13.7原子%、9.3nm」、「50℃、13.7原子%、9.3nm」「60℃、15.4原子%、10.1nm」、「70℃、15.9原子%、16.7nm」、「80℃、11.9原子%、25.5nm」である。図13において、線q、r、sの「Niイオン濃度、合金中のW含有量、合金の平均結晶粒径」は、それぞれ「0.08モル/L、10.7原子%、10.5nm」「0.10モル/L、12.2原子%、10.9nm」「0.12モル/L、3.3原子%、13.4nm」である。
【0040】
図12および図13より、以下の点が分かる。すなわち、浴温が上昇するほど、また、Niイオン濃度が増加するほど、結晶粒径が増大し、W含有量はNi濃度が増加すると、大幅に低下することが分かる。
2.Ni−W系合金の機械的特性
イ 機械的特性
上記電解浴の組成Aにおいて、クエン酸ナトリウムの濃度が0.5モル/Lで、電解浴の浴温が60〜90℃(333〜363K)で、電解電流密度が20A/dm2 の条件で、1時間電解析出を行うことによってW含有量を変化させ、表1に示すような結果を得た。表1に明らかなように、浴温が75℃(348K)のものは、マイクロビッカース硬さHVが685と高く、しかも、破断歪み(εの式によるもの)が1.0、すなわち、完全密着曲げ後も破断しない「超高靱性」の特性を示している。また、浴温が80℃(353K)のものは、破断歪み(εの式によるもの)が0.416であり、良好な靱性を示している。
【0041】
【表1】
【0042】
また、上記電解浴の組成Aにおいて、クエン酸ナトリウムの濃度が0.14モル/Lで、電解浴の浴温が30〜80℃(303〜353K)で、電解電流密度が5A/dm2 の条件で、1時間電解析出を行うことによってW含有量を変化させ、表2に示すような結果を得た。表2に明らかなように、浴温が40℃(313K)と50℃(323K)のものは、マイクロビッカース硬さHVが696〜702と高く、しかも、破断歪み(εの式によるもの)が1.0、すなわち、完全密着曲げ後も破断しない「超高靱性」の特性を示している。
【0043】
【表2】
【0044】
ロ 熱処理(合金形成後のベーキング)による強度上昇
上記電解浴の組成Aにおいて、クエン酸ナトリウムの濃度が0.5モル/Lで、電解浴の浴温が75℃で、電解電流密度が10A/dm2または5A/dm2で、1〜4時間電解析出を行うことによってNi−W合金層の厚さを変化させ、一部のものは、Ni−W合金形成後にAr雰囲気で75℃(348K)で2時間加熱(ベーキング)した後、炉冷することによって、電解析出に伴って生成した水素を放出して強度向上を図り、表3に示すような結果を得た。表3に明らかなように、加熱前のNi−W合金の引張り強度はすでに438〜583MPaと高強度を示しているが、この合金を75℃(348K)で2時間加熱することによって、745〜1047MPaの超高強度化を達成することができた。
【0045】
【表3】
【0046】
ハ 熱処理(合金形成後のアニーリング)による強度上昇(マイクロビッカース硬さHV(荷重25g、保持時間15秒)の上昇)
上記電解浴の組成Aにおいて、クエン酸ナトリウムの濃度が0.14モル/Lで、電解浴の浴温が50℃で、電解電流密度が5A/dm2 の条件で電解析出を行うことによってNi−12.3原子%Wの合金を得た。このNi−W系合金を300℃(573K)〜600℃(873K)の範囲の温度で真空中で加熱した後、炉冷することによって、電解析出に伴う内部歪みを除去して結晶粒サイズを調整(15×10-9m程度で最大硬度を示す)し、一層の強度上昇を図った。その結果、表4に示すように、加熱温度が400〜600℃のものは、マイクロビッカース硬さHVとして、約850〜921の超高強度化を達成することができたが、加熱温度が600℃を超えると、マイクロビッカース硬さHVは低下したので、結晶粒の粗大化が進行すると推定できる。すなわち、Ni−W系合金を電解析出後に約400〜600℃に加熱(アニーリング)することにより、結晶粒が粗大化することなく超高強度合金を得ることができる。
【0047】
【表4】
【0048】
ニ 破断歪みに及ぼすNiイオン濃度と浴温の影響
上記電解浴の組成Bにおいて、クエン酸ナトリウムの濃度が0.14モル/Lにおいて、破断歪みに及ぼすNiイオン濃度と浴温の影響を図14、図15に示す。図14において、符号「○」「●」は、それぞれ、「濃度0.06モル/Lの硫酸ニッケルアンモニウムと濃度0.14モル/Lのタングステン酸ナトリウムの組成を有する液」、「濃度0.08モル/Lの硫酸ニッケルアンモニウムと濃度0.12モル/Lのタングステン酸ナトリウムの組成を有する液」を示し、図15において、符号「△」「▲」は、それぞれ、「濃度0.10モル/Lの硫酸ニッケルアンモニウムと濃度0.10モル/Lのタングステン酸ナトリウムの組成を有する液」、「濃度0.12モル/Lの硫酸ニッケルアンモニウムと濃度0.08モル/Lのタングステン酸ナトリウムの組成を有する液」を示す。
【0049】
図14に示すように、硫酸ニッケルアンモニウムの濃度が0.08モル/Lで、タングステン酸ナトリウムの濃度が0.12モル/Lである組成(符号●)の液において、破断歪み値が向上する傾向にあり(すなわち、靱性が改善され)、浴温が30℃でも破断歪み(εの式によるもの)が1.0を示す合金が得られる。しかし、電解析出効率の低下による水素等の共析という理由により、浴温が上昇すると、破断歪み値が減少する(靱性が低下する)。
ホ 破断歪みに及ぼすクエン酸ナトリウムの濃度の影響
上記電解浴の組成Bにおいて、電解浴の浴温が30℃または40℃において、クエン酸ナトリウムの濃度を0.10〜0.16モル/Lの範囲で変化させたときのクエン酸ナトリウムの濃度(モル/L)と破断歪みとの関係を図16に示す。このときの電解電流密度は、5A/dm2 である。図16において、符号「○」「●」は、それぞれ、浴温が30℃において、「濃度0.10モル/Lの硫酸ニッケルアンモニウムと濃度0.10モル/Lのタングステン酸ナトリウムの組成を有する液)」、「濃度0.08モル/Lの硫酸ニッケルアンモニウムと濃度0.12モル/Lのタングステン酸ナトリウムの組成を有する液」を示し、符号「△」「▲」は、それぞれ、浴温が40℃において、「濃度0.10モル/Lの硫酸ニッケルアンモニウムと濃度0.10モル/Lのタングステン酸ナトリウムの組成を有する液」、「濃度0.08モル/Lの硫酸ニッケルアンモニウムと濃度0.12モル/Lのタングステン酸ナトリウムの組成を有する液」を示す。
【0050】
図16から明らかなように、クエン酸ナトリウムの濃度が0.14モル/Lのとき(クエン酸イオンの濃度をタングステンイオンの濃度より多くすると)、破断歪み値が向上する傾向にあり(すなわち、靱性が改善され)、浴温が30℃でも破断歪み(εの式によるもの)が1.0を示す合金が得られる。しかし、合金の電解析出効率の低下と水素等の共析という理由により、クエン酸イオンの濃度が高すぎると靱性が低下することがある。
3.Ni−W系合金の物理的特性(水素含有量および酸素含有量と靱性)
a.電流密度が5A/dm2 の場合
基本的に上記電解浴の組成Aとし、他のメッキ条件は、表5の上段に示すとおりの条件で電解析出を行った結果、そのNi−W系合金の物理的特性として、表5の下段に示すような結果を得た。表5に示すように、試料No.2〜4によれば、破断歪み(εの式によるもの)が0.1以上であって良好な靱性を具備し、特に、破断歪み(εの式によるもの)が1.0である超高靱性の試料No.3の水素原子含有量は、0.12原子%であり、酸素原子含有量は、0.18原子%であり、破断歪みがゼロである(曲げることが全くできない)試料No.5や試料No.6の水素原子含有量や酸素原子含有量に比べて遙かに少ない。なお、水素原子含有量及び酸素原子含有量は、ともに不活性ガス融解法により測定した。
【0051】
なお、表5の試料No.2及び試料No.4に、真空中75℃で2時間のベーキング(脱水素ガス処理)を施すことにより、破断歪み(εの式によるもの)が1.0まで大きく向上した。
【0052】
【表5】
【0053】
b.電流密度が10A/dm2 の場合
基本的に上記電解浴の組成Aとし、他のメッキ条件は、表6の上段に示すとおりの条件で電解析出を行った結果、そのNi−W系合金の物理的特性として、表6の下段に示すような結果を得た。表5と表6を比較すると、浴温が同じ50℃である試料No.3と試料No.7を比較すると、電流密度が高くなると、合金中の水素原子含有量もやや増えるが、試料No.7の破断歪み(εの式によるもの)は1.0であって、超高靱性を示している。表6に示すように、浴温が75℃の試料No.8の破断歪み(εの式によるもの)も1.0であって、試料No.7と同様の超高靱性を示しているが、特筆すべきは、酸素原子含有量の差である。すなわち、試料No.8の水素原子含有量は0.20原子%であって、試料No.7と同じであるが、試料No.8の酸素原子含有量は、0.03原子%と極めて少ない。このように、Ni−W系合金においては、電解電流密度が増加しても、クエン酸濃度を増加し、浴温を高くすれば、水素原子含有量および酸素原子含有量がともに少ない、超高靱性の合金を得ることが可能であることを示唆している。また、合金中の酸素濃度をさらに低下させる方法として、電解浴中の溶存酸素濃度を極めて低く保持することも有効である。
【0054】
【表6】
【0055】
試料No.8の酸素原子含有量は非常に少なく、極めて優れた靱性を備えているが、この試料No.8の電解析出直後の引張り強度はすでに670MPaと非常に高い値を示していたが、同試料をAr雰囲気で75℃(348K)で24時間加熱(ベーキング)処理した後、炉冷することによって、電解析出に伴って生成した水素を放出して強度は向上し、2333MPaという極めて高い引張り強度を達成した。なお、表6の試料No.8は粒径が2〜3nmのナノ結晶組織で、粒界部分にアモルファス相を含む構造であったが、表5の試料No.2の粒径は約5nmであり、その試料No.2の電解析出直後の引張り強度は1100MPaと極めて高い値を示した。すなわち、一般的に粒径が小さくなるほど強度は向上するが、アモルファス相や約5nm以下の極めて微小な粒径になれば、逆にやや強度が低下することがある。
4.マイクロ構造体の作製
本発明に係る高強度合金を用いたマイクロ構造体の製造方法の一例を、図17に基づいて説明する。
(1)放射光の照射
フォトマスク1を通して、導電性基板2上に塗布した感光性樹脂3に放射光4を照射する(図17(a))。
(2)感光性樹脂の現像
フォトマスク1の中で「IMT」と表示された部分5は放射光を吸収する光吸収体からなり、フォトマスク1の光吸収体5を除く部分を透過した放射光により、その放射光に露光された部分の感光性樹脂3の分子鎖が切れ、特定の現像液に選択的に溶解するようになる。この現像処理により、導電性基板2上に感光性樹脂のマイクロ構造体6が形成される(図17(b))。
(3)電解析出法による金属堆積
感光性樹脂が溶解した部分に、本発明に係る高強度合金を上記電解析出法にしたがって電解析出させる(図17(c))。
(4)残りの感光性樹脂の剥離
残った感光性樹脂を溶剤で取り除くことにより、高強度合金のマイクロ構造体7が得られる(図17(d))。この方法によれば、機械加工法では成形が困難であるマイクロメータサイズの微小な金属構造体の成形が可能であり、フォトマスクの光吸収体の形状を変えることにより、任意の構造のマイクロ構造体の成形が可能である。
5.その他
本発明によれば、以上のようにして高靱性の高強度合金を得ることができるが、密着性の良好な電解析出合金を得るためには、次に説明する条件に留意することがさらに好ましい。
(1)電流密度
電解析出時間を短縮し、緻密な合金膜を得るためには、電流密度は一般に大きい方が好ましい。しかし、電流密度が大きくなると、水素の生成量が多くなり、水素脆化の原因となるので、電流密度が大きすぎるのは好ましくない。
(2)pH
強酸性浴あるいは強アルカリ性では、電解特性はpHにそれほど敏感ではないが、本発明による高強度合金は、弱アルカリ性浴を用いるのが好ましい。なお、金属イオンと錯体の構造はpHにより変化して、Ni(またはCo)とW(またはMo)の電解析出電位がほぼ同じになったときに、Ni−W系合金が析出し、FeとW(またはMo)の電解析出電位がほぼ同じになったときに、Fe−W系合金が析出する。
(3)添加剤
添加剤の目的は、電解析出膜の平滑化、光沢化、結晶微細化、均一電解析出性の改善、残留応力低減、ピット防止などである。本発明においては、ピット防止のために公知の界面活性剤を適量添加し、ピット防止以外の上記目的のために、サッカリンを適量添加するのが好ましい。
(4)前処理
密着性のよい平滑な電解析出膜を得るためには、被電解析出面を清浄にする前処理は重要であり、公知の前処理方法を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】Ni−W系合金における電解浴温の変化に対する電解析出速度の変化を示す図である。
【図2】曲げ試験の方法を説明する図である。
【図3】Ni−W系合金における電解浴温の変化に対する結晶粒径の変化を示す図である。
【図4】Ni−W系合金における電解浴温の変化に対する結晶粒径の変化を示す別の図である。
【図5】Ni−W系合金における電解浴温の変化に対するW含有量の変化を示す図である。
【図6】Ni−W系合金における電解浴温の変化に対するW含有量の変化を示す別の図である。
【図7】Ni−W系合金における電解浴温の変化に対するX線回折パターンの変化を示す図である。
【図8】Ni−W系合金における電解浴温の変化に対するX線回折パターンの変化を示す別の図である。
【図9】Ni−W系合金における電解浴温の変化に対する電解析出速度の変化を示す別の図である。
【図10】Ni−W系合金における電解浴温の変化に対する電解析出速度の変化を示すさらに別の図である。
【図11】Ni−W系合金におけるクエン酸ナトリウムの濃度の変化に対する電解析出速度の変化を示す図である。
【図12】Ni−W系合金における電解浴温の変化に対するX線回折パターンの変化を示すさらに別の図である。
【図13】Ni−W系合金におけるNi濃度の変化に対するX線回折パターンの変化を示す図である。
【図14】Ni−W系合金における電解浴温の変化に対する破断歪みの変化を示す図である。
【図15】Ni−W系合金における電解浴温の変化に対する破断歪みの変化を示す別の図である。
【図16】Ni−W系合金におけるクエン酸ナトリウムの濃度の変化に対する破断歪みの変化を示す図である。
【図17】マイクロ構造体の製造方法のフローの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
1…フォトマスク
2…導電性基板
3…感光性樹脂
4…放射光
5…光吸収体
6、7…マイクロ構造体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
NiイオンまたはCoイオンとWイオンまたはMoイオンの総和が0.1〜0.3モル/Lの範囲で、上記金属イオンにおけるNiイオンまたはCoイオンの含有比率が20〜40%の範囲にある組成の電解浴を用いて40〜80℃の浴温で電解析出させることにより得た高強度合金であって、アモルファス構造または平均結晶粒径が100nm以下のナノ結晶構造を有することを特徴とする高強度合金。
【請求項2】
WまたはMoを8〜30原子%含有し、水素原子含有量が1.00原子%以下で且つ酸素原子含有量が0.50原子%以下である組成を有し、残部がNiまたはCoよりなることを特徴とする高強度合金。
【請求項3】
NiイオンまたはCoイオンとWイオンまたはMoイオンの総和が0.1〜0.3モル/Lの範囲で、上記金属イオンにおけるNiイオンまたはCoイオンの含有比率が20〜40%の範囲にある組成の電解浴を用いて40〜80℃の浴温で電解析出させることにより得た請求項2記載の高強度合金。
【請求項4】
請求項1、2または3記載の高強度合金によって被覆された金属材料。
【請求項5】
請求項1、2または3記載の高強度合金を用いたマイクロ構造体。
【請求項1】
NiイオンまたはCoイオンとWイオンまたはMoイオンの総和が0.1〜0.3モル/Lの範囲で、上記金属イオンにおけるNiイオンまたはCoイオンの含有比率が20〜40%の範囲にある組成の電解浴を用いて40〜80℃の浴温で電解析出させることにより得た高強度合金であって、アモルファス構造または平均結晶粒径が100nm以下のナノ結晶構造を有することを特徴とする高強度合金。
【請求項2】
WまたはMoを8〜30原子%含有し、水素原子含有量が1.00原子%以下で且つ酸素原子含有量が0.50原子%以下である組成を有し、残部がNiまたはCoよりなることを特徴とする高強度合金。
【請求項3】
NiイオンまたはCoイオンとWイオンまたはMoイオンの総和が0.1〜0.3モル/Lの範囲で、上記金属イオンにおけるNiイオンまたはCoイオンの含有比率が20〜40%の範囲にある組成の電解浴を用いて40〜80℃の浴温で電解析出させることにより得た請求項2記載の高強度合金。
【請求項4】
請求項1、2または3記載の高強度合金によって被覆された金属材料。
【請求項5】
請求項1、2または3記載の高強度合金を用いたマイクロ構造体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2006−200041(P2006−200041A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−30235(P2006−30235)
【出願日】平成18年2月7日(2006.2.7)
【分割の表示】特願2001−85311(P2001−85311)の分割
【原出願日】平成13年3月23日(2001.3.23)
【出願人】(598039943)
【出願人】(598056869)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月7日(2006.2.7)
【分割の表示】特願2001−85311(P2001−85311)の分割
【原出願日】平成13年3月23日(2001.3.23)
【出願人】(598039943)
【出願人】(598056869)
【Fターム(参考)】
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