説明

高強度土木建設資材用網体

【課題】縦糸1や横糸2に用いる被覆樹脂テープの芯材と被覆材の密着性を高めることにより、被覆材によって融着を確実かつ容易にすると共に、芯材の強度を十分に発揮させることができる高強度土木建設資材用網体を提供する。
【解決手段】一軸延伸したポリプロピレン又は超高分子ポリエチレンからなる芯材の周囲を熱可塑性樹脂からなる被覆材で被覆した被覆樹脂テープを縦糸1と横糸2とし、これら複数本ずつの縦糸1と横糸2をそれぞれ間隔をあけて互いに交差させ、各交差部分CPで縦糸1と横糸2の表層部の熱可塑性樹脂同士を融着させた土木建設資材用網体において、この被覆樹脂テープにおける引張降伏強さが、被覆材の樹脂材料のみからなる被覆樹脂テープと同じ太さの樹脂テープにおける引張降伏強さよりも大きい構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、盛土の崩れを防止するために土中に埋設する等の用途に用いる高強度土木建設資材用網体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
土木建設資材用網体は、幅広長尺な合成樹脂製のテープからなる縦糸と横糸をそれぞれ間隔をあけて互いに交差させると共に各交差部分を融着させたものが既に提案されている(例えば、特許文献1参照。)。そして、この土木建設資材用網体の合成樹脂製のテープとしては、一軸延伸したポリプロピレン又は超高分子ポリエチレンが引張降伏強さが大きく適度な可撓性と剛性を有するため好適に用いられる。
【0003】
ただし、一軸延伸したポリプロピレンや超高分子ポリエチレンからなるテープを交差部分で超音波融着により融着させると、摩擦熱によって溶融した樹脂が超音波振動を受けるために劣化して引張降伏強さが大幅に低下するので、この交差部分の融着が剥がれやすくなる。しかも、一軸延伸したポリプロピレンや超高分子ポリエチレンは、誘電率が低いために高周波誘導加熱が困難となるので、テープの交差部分を高周波融着により確実に融着させることもできない。
【0004】
そこで、一軸延伸したポリプロピレン又は超高分子ポリエチレンからなる芯材の周囲を誘電率の高い熱可塑性樹脂からなる被覆材で被覆した被覆樹脂テープからなる縦糸と横糸をそれぞれ間隔をあけて互いに交差させると共に各交差部分を高周波融着させたものも提案されている(例えば、特許文献2参照。)。このようにすれば、縦糸と横糸の交差部分で被覆樹脂テープの被覆材同士が重なるので、これら誘電率の高い熱可塑性樹脂からなる被覆材同士を高周波融着により劣化させることなく容易かつ確実に融着させることができる。
【0005】
ところが、上記被覆樹脂テープの被覆材に用いられる誘電率の高い熱可塑性樹脂であるエチレン−酢酸ビニル共重合体等に比べ、芯材に用いられる一軸延伸したポリプロピレンや超高分子ポリエチレンは、表面張力(表面自由エネルギ)が低くその差が大きいために、これら被覆材と芯材の樹脂同士の馴染み(濡れ性)が悪く密着性(接着性)が十分とは言えない場合があった。このため、被覆樹脂テープは、大きな引張力が加わると被覆材が芯材から剥離して抜け落ちるおそれがあるので、土木建設資材用網体が芯材の大きな強度を十分に発揮することができないという問題があった。
【特許文献1】実願平1−32382号公報
【特許文献2】特開平8−151634号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、縦糸や横糸に用いる被覆樹脂テープの芯材と被覆材の密着性を高めることにより、被覆材によって融着を確実かつ容易にすると共に、芯材の強度を十分に発揮させることができる高強度土木建設資材用網体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の高強度土木建設資材用網体は、少なくとも表層部が熱可塑性樹脂からなる樹脂テープを縦糸と横糸とし、これら複数本ずつの縦糸と横糸をそれぞれ間隔をあけて互いに交差させ、各交差部分で縦糸と横糸の表層部の熱可塑性樹脂同士を融着させた網体であって、少なくとも縦糸と横糸のいずれか一方に用いられる樹脂テープが一軸延伸したポリプロピレン又は超高分子ポリエチレンからなる芯材の周囲を熱可塑性樹脂からなる被覆材で被覆した被覆樹脂テープである土木建設資材用網体において、この被覆樹脂テープにおけるJIS K 6924−2と同じ引張速度で測定した荷重歪曲線の第一最大点での引張力(引張降伏強さ)が、被覆材の樹脂材料のみからなる被覆樹脂テープと同じ太さの樹脂テープにおけるJIS K 6924−2と同じ引張速度で測定した荷重歪曲線の第一最大点での引張力(引張降伏強さ)よりも大きいことを特徴とする。
【0008】
請求項2の高強度土木建設資材用網体は、前記被覆樹脂テープの芯材の表面張力が40mN/m以上、50mN/m以下であり、この被覆樹脂テープの被覆材の表面張力が40mN/m以上、50mN/m以下であり、これら芯材と被覆材の表面張力の差が5mN/m以下であることを特徴とする。
【0009】
請求項3の高強度土木建設資材用網体は、前記被覆樹脂テープが、芯材の周囲を接着剤を介在させて被覆材で被覆したものであることを特徴とする。
【0010】
請求項4の高強度土木建設資材用網体は、前記接着剤がオレフィン系樹脂を含有するものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1において、被覆樹脂テープの芯材に用いられる一軸延伸したポリプロピレン又は超高分子ポリエチレンの樹脂材料自体の引張降伏強さは、被覆材に用いられる熱可塑性樹脂の樹脂材料自体の引張降伏強さに比べ十分に大きい。このため、もし芯材と被覆材とが全く密着していなかったとすれば、被覆樹脂テープの引張降伏強さを測定すると、芯材の周囲で被覆材のみが伸びて破断することになる。しかも、被覆樹脂テープの被覆材は、芯材の分だけ断面積が小さいので、この被覆材の樹脂材料のみからなる被覆樹脂テープと同じ太さの樹脂テープに比べて、引張降伏強さも小さくなる。
【0012】
従って、被覆樹脂テープの引張降伏強さが、被覆材の樹脂材料のみからなる被覆樹脂テープと同じ太さの樹脂テープの引張降伏強さより大きいということは、被覆樹脂テープの被覆材が芯材から剥離することなく密着し、この芯材の強度が十分に発揮されているからに他ならない。つまり、この被覆樹脂テープの引張降伏強さを測定すると、被覆材が芯材から剥離するときに最も大きな引張力を記録し、その後より小さい引張力によって被覆材のみが伸びて破断することになる。また、被覆材の樹脂材料のみからなる被覆樹脂テープと同じ太さの樹脂テープの引張降伏強さは、一般にこの樹脂テープや被覆樹脂テープを融着させた交差部の引張降伏強さに相当するので、被覆樹脂テープの引張降伏強さが、被覆材の樹脂材料のみからなる被覆樹脂テープと同じ太さの樹脂テープの引張降伏強さより大きいということは、一般に土木建設資材用網体が樹脂テープ(被覆樹脂テープを含む)の交差部分で融着が剥がれるよりも先に、被覆樹脂テープの被覆材が芯材から剥離するようなことがなくなることを意味する。
【0013】
このため、請求項1の発明によれば、被覆樹脂テープの被覆材が芯材と強く密着し容易に剥離することがないので、この芯材の大きな強度を十分に発揮させることができ、土木建設資材用網体の強度を高めることができるようになる。
【0014】
請求項2の発明によれば、被覆樹脂テープの芯材の表面張力が被覆材の表面張力と同様の40mN/m以上、50mN/m以下となり、これらの表面張力の差も5mN/m以下の小さい値となるので、これら芯材と被覆材の樹脂同士の馴染みが良くなり密着性が高くなる。このため、被覆樹脂テープの引張降伏強さが大きくなり、被覆材に大きな引張力が加わっても芯材から剥離して抜け落ちるおそれがなくなるので、この芯材の大きな強度を十分に発揮させることができ、土木建設資材用網体の強度を高めることができるようになる。
【0015】
なお、一軸延伸したポリプロピレン又は超高分子ポリエチレンからなる芯材の本来の表面張力は30mN/m前後であるため、この表面張力を40mN/m以上、50mN/m以下の範囲に高めるには、適宜の表面処理が必要となる。芯材の表面張力を高める表面処理としては、コロナ放電表面処理による方法やその他のプラズマ放電表面処理等があり、酸化剤等による化学処理による方法等も考えられる。
【0016】
請求項3の発明によれば、被覆樹脂テープの芯材と被覆材との界面が接着剤によって接着されるので、これら芯材と被覆材の密着性が高くなる。このため、被覆樹脂テープの引張降伏強さが大きくなり、被覆材に大きな引張力が加わっても芯材から剥離して抜け落ちるおそれがなくなるので、この芯材の大きな強度を十分に発揮させることができ、土木建設資材用網体の強度を高めることができるようになる。
【0017】
請求項4の発明によれば、芯材にも被覆材にも馴染みの良いオレフィン系樹脂を含有する接着剤が用いられるので、これら芯材と被覆材の密着性を確実に高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の最良の実施形態について図1〜図4を参照して説明する。
【0019】
本実施形態の高強度土木建設資材用網体は、図1に示すように、複数本ずつの縦糸1と横糸2をそれぞれ平行に間隔をあけて互いに直角に交差させ、各交差部分CPで縦糸1と横糸2を高周波融着させたものである。従って、この高強度土木建設資材用網体は、交差する縦糸1と横糸2が方形の網目を形成する網体となる。
【0020】
なお、図1では、平織りのように縦糸1と横糸2を隣接する交差部分CPごとに上下入れ替えて交差させることにより、これらの縦糸1と横糸2が容易に解けることがないようにしているが、縦糸1と横糸2の織り方は任意であり、例えば全ての交差部分CPで縦糸1と横糸2のいずれか一方が上側となるような、織物構造とはならない交差の仕方であってもよい。また、これらの縦糸1と横糸2は、必ずしも直角に交差する必要はなく、例えば菱形や平行四辺形の網目が形成されるような角度で交差してもよい。さらに、複数本の縦糸1や横糸2は、必ずしも平行に並んでいる必要はなく、多少は斜めに並んでいてもよい。さらに、これらの縦糸1や横糸2は、直線状ではなく、例えば多少波形のように曲がっていてもよい。
【0021】
〔被覆樹脂テープの構成〕
上記縦糸1と横糸2は、いずれも図2に示すような被覆樹脂テープからなる。被覆樹脂テープは、一軸延伸したポリプロピレン又は超高分子ポリエチレンからなる芯材3の周囲を誘電率の高い熱可塑性樹脂からなる被覆材4で被覆した2層構造の樹脂テープである。
【0022】
芯材3は、ポリプロピレン又は超高分子ポリエチレンを溶融押出成形した帯状体を例えば90〜140℃の温度域で例えば5〜20倍(好ましくは7〜10倍)に一軸延伸した樹脂テープである。そして、ここでは、芯材3の厚さは0.05〜1.0mm(好ましくは0.2〜0.5mm)、幅は5〜20mm(好ましくは10〜15mm)に形成される。ポリプロピレン又は超高分子ポリエチレンは、一軸延伸により引張降伏強さが非常に大きくなり、被覆材4に用いる誘電率の高い熱可塑性樹脂よりも十分に大きい引張降伏強さを有する。
【0023】
なお、芯材3の延伸倍率が5倍より小さいと、延伸による分子配向が不充分なため引張降伏強さがあまり大きくならず、延伸倍率が20倍より大きいと、フィブリル化による強度低下が大きくなるので、いずれも望ましくない。また、延伸倍率が5〜20倍の芯材3であっても、厚さが0.2mmより薄く幅が5mmより狭い場合には、絶対的な強度が不足する傾向があり、厚さが1mmより大きく幅が20mmより広い場合には、剛性が高くて巻回性や取扱い性が低下する傾向があるので、やはり好ましくない。
【0024】
上記芯材3には、例えば押出被覆成形法によって被覆材4を被覆することができる。この被覆材4は、縦糸1と横糸2を交差部分CPで融着するために被覆するので、熱可塑性樹脂でなければならない。また、この熱可塑性樹脂は、超音波融着による場合のような振動による樹脂の劣化を防ぐために、高周波融着により融着しているので、高周波誘導加熱が可能となるように、できるだけ誘電率の高い熱可塑性樹脂を用いている。
【0025】
上記被覆材4に用いる誘電率の高い熱可塑性樹脂としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)が最適であり、特に酢酸ビニルの含有率が5〜35重量%(更に望ましくは15〜30重量%)であることが好ましい。エチレン−酢酸ビニル共重合体は、融点が140℃以下の低温であるため、被覆処理の際に芯材3に熱的なストレスが加わるおそれが少ない。しかも、このエチレン−酢酸ビニル共重合体は、酢酸ビニルの含有率が多くなるほど高周波融着が容易となるので、穏やかな融着条件の下で芯材3にダメージを与えることなく高周波融着することが可能となる。ただし、酢酸ビニルの含有率が5重量%未満では高周波融着が容易ではなくなり、35重量%を越えると被覆材4が被覆膜としての強度不足を招く傾向があるので、いずれも望ましくない。なお、この被覆材4に用いる誘電率の高い熱可塑性樹脂としては、塩化ビニル樹脂等を用いることもできる。
【0026】
上記被覆材4は、被覆厚を0.1mm以上とすることが好ましく、0.5〜0.8mm程度の被覆厚が最適である。この被覆厚が0.1mmより薄くなると縦糸1と横糸2の交差部分CPの融着強度が不足する。なお、この被覆材4の表面には、被覆樹脂テープの縦裂けを防止すると共に融着性を良くするために、図示のような凹凸皺4aを形成することが望ましい。
【0027】
〔芯材3の処理〕
ここで、上記芯材3には、被覆材4を被覆する前に、コロナ放電表面処理が施される。芯材3に用いるポリプロピレンやポリエチレンのようなオレフィン系樹脂は、表面に極性官能基がないので、そのまま被覆材4を被覆したのでは、この被覆材4との馴染み(濡れ性)が悪く密着性(接着性)が低くなる。しかし、芯材3の樹脂表面にコロナ放電を照射してコロナ放電表面処理が施されると、樹脂表面に酸素を含む極性官能基が形成されるので、表面改質されて被覆材4との馴染みが良くなり密着性が向上する。
【0028】
被覆材4に用いる誘電率の高い熱可塑性樹脂は、表面張力が本来40〜50mN/m程度であり、本実施形態ではこの表面張力が40mN/m以上、50mN/m以下のものを選択する。芯材3に用いる一軸延伸したポリプロピレン又は超高分子ポリエチレンは、表面張力が本来30mN/m程度であるが、本実施形態では、上記コロナ放電表面処理により、表面張力を40mN/m以上、50mN/m以下にすると共に、被覆材4に用いる誘電率の高い熱可塑性樹脂の表面張力との差を5mN/m以下にする。このように芯材3と被覆材4の表面張力の差を小さくすると、これら芯材と被覆材との馴染みが良くなり密着性が向上する。
【0029】
なお、ここでは芯材3の表面改質にコロナ放電表面処理を用いる例を示したが、その他のプラズマ放電表面処理等を用いてもよく、表面に極性官能基を形成する表面処理であれば、酸化剤等による化学処理を行ってもよい。
【0030】
また、芯材3と被覆材4との直接の馴染みを良くする代わりに、芯材3と被覆材4の双方に馴染みの良い接着剤を介在させることもできる。芯材3に押出被覆成形法により被覆材4を被覆する場合には、予め芯材3の表面に接着剤の薄い層を形成しておく。
【0031】
上記接着剤として、既存の10種類の製品についてせん断試験を行った結果を表1に示す。この場合、芯材3としては一軸延伸したポリプロピレン(PP)を用い、被覆材4としてはエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)を用いた。
【0032】
【表1】

【0033】
このせん断試験では、EVA系の接着剤A〜Aは、より馴染みの良い被覆材4との接着性が優れるため、芯材3との界面で剥離が生じ、PP系やオレフィン系の接着剤A,A,A,A10は、より馴染みの良い芯材3との接着性が優れるため、被覆材4との界面で剥離が生じた。また、オレフィン系の接着剤Aは、被覆材4との接着性もある程度優れていたため、界面ではなく被覆材4自体が破壊された。
【0034】
表1では、せん断試験によって測定したせん断力が40N/10mmを超えた接着剤が好ましいものとして「○」と評価した。この結果、EVA系の接着剤Aは「○」の評価であったが、全般的にはオレフィン系の接着剤A〜A10のせん断力が高く、これらのうちの接着剤Aと接着剤A10が「○」の評価となった。これは、芯材3との接着性が優れたオレフィン系の接着剤の方が、被覆材4との接着性もある程度良好であったからであると考えられる。
【0035】
〔被覆樹脂テープの引張降伏強さ〕
本実施形態の高強度土木建設資材用網体の縦糸1と横糸2に用いられる被覆樹脂テープをJIS K 6924−2と同じ引張速度の引張試験で測定した荷重歪曲線の第一最大点での引張力が示す引張降伏強さを表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
表2では、芯材3に何ら処理を行うことなくそのまま被覆材4を被覆した未処理の被覆樹脂テープと、芯材3にコロナ放電表面処理を施した被覆樹脂テープと、芯材3の周囲に接着剤(上記接着剤A10)を介在させて被覆材4を被覆した被覆樹脂テープと、芯材3にコロナ放電表面処理を施した上で、この芯材3の周囲に同じ接着剤を介在させて被覆材4を被覆した被覆樹脂テープについて、それぞれJIS K 6924−2と同じ引張速度で測定した荷重歪曲線の第一最大点での引張力が示す引張降伏強さを3回ずつ測定した結果を示す。
【0038】
これらの被覆樹脂テープの試験片の両端をクランプして所定の引張速度で引っ張ると、引張力が上昇して一旦第一最大点でピークとなってから急激に弱まり、その後再び上昇し第二最大点でピークとなってから急激に弱まった。これは、被覆樹脂テープの被覆材4が引張力の第一最大点のときに、図3に示すように芯材3から剥離し、その後被覆材4のみが伸びて引張力の第二最大点のときに破断したことを表す。そして、第一最大点での引張力は、いずれの場合でも第二最大点よりも大きかったので、この第一最大点での引張力の平均値を求め、これらを各被覆樹脂テープの引張降伏強さとした。
【0039】
上記引張試験で測定した各被覆樹脂テープの引張降伏強さを、被覆材4に用いたものと同じエチレン−酢酸ビニル共重合体のみからなる樹脂テープについて同じ引張試験で測定した引張降伏強さと比較した結果を表3に示す。
【0040】
【表3】

【0041】
被覆材4に用いたものと同じエチレン−酢酸ビニル共重合体のみからなる樹脂テープの単位面積あたりの引張降伏強さは、180kg/cmで既知である。そこで、表3では、上記引張試験で測定した各被覆樹脂テープの引張降伏強さの単位をそれぞれニュートン単位からキログラム重単位に換算し、試験に用いた被覆樹脂テープの断面積である0.161cmで除算することにより、各被覆樹脂テープの単位面積あたりの引張降伏強さを求めた。そして、既知の単位面積あたりの引張降伏強さである180kg/cmに対する、これらの各被覆樹脂テープの単位面積あたりの引張降伏強さの比を示す百分率を、被覆材4の引張降伏強さとの比として求めた。従って、これらの引張降伏強さの比は、上記引張試験で測定した各被覆樹脂テープの実際の引張降伏強さと、被覆材4に用いたものと同じエチレン−酢酸ビニル共重合体のみからなるこの各被覆樹脂テープと同じ太さの樹脂テープの引張降伏強さとの比と同じものとなる。
【0042】
表3に示す計算の結果、未処理の被覆樹脂テープにおける被覆材4の引張降伏強さとの比は89%であり、未処理の被覆樹脂テープの引張降伏強さの方が小さかった。これは、被覆樹脂テープの芯材3と被覆材4との密着性が低く弱い引張力で剥離したためであると考えられる。しかし、コロナ放電表面処理を施した被覆樹脂テープにおける被覆材4の引張降伏強さとの比は110%であり、コロナ放電表面処理を施した被覆樹脂テープの引張降伏強さの方が大きかった。しかも、接着剤を介在させた被覆樹脂テープやコロナ放電表面処理を施した上に接着剤を介在させた被覆樹脂テープにおける被覆材4の引張降伏強さとの比は132%と143%であり、これら接着剤単独やコロナ放電表面処理に接着剤を組み合わせた被覆樹脂テープの引張降伏強さの方が遥かに大きかった。これは、被覆樹脂テープの芯材3と被覆材4との密着性がコロナ放電表面処理や接着剤によって強くなり容易には剥離しなかったためである。
【0043】
この表3の結果からも、被覆樹脂テープの引張降伏強さが、被覆材4に用いたものと同じエチレン−酢酸ビニル共重合体のみからなるこの被覆樹脂テープと同じ太さの樹脂テープの引張降伏強さよりも大きければ、被覆樹脂テープの芯材3と被覆材4とが強く密着し、この芯材3の強度が十分に発揮されていることが分かる。また、一般的にも、もし芯材3と被覆材4とが全く密着していなければ、被覆樹脂テープの引張降伏強さを測定したときに、芯材3の周囲で被覆材4のみが伸びて破断することになり、被覆材4の樹脂材料のみからなる被覆樹脂テープと同じ太さの樹脂テープよりも実際の被覆材4は断面積が小さいため、この樹脂テープに比べて引張降伏強さは小さくなる。従って、被覆樹脂テープの引張降伏強さが、被覆材4の樹脂材料のみからなる被覆樹脂テープと同じ太さの樹脂テープの引張降伏強さよりも大きければ、芯材3と被覆材4とが強く密着し、この芯材3の強度が十分に発揮されていることが原因となる。
【0044】
以上説明したように、本実施形態の高強度土木建設資材用網体は、被覆樹脂テープの被覆材4が芯材3と強く密着し、この芯材3の大きな強度を十分に発揮させることができるので、強い力が加わっても、縦糸1や横糸2に用いられる被覆樹脂テープの被覆材4が芯材3から容易に抜け落ちるようなことがなくなり、盛土等が崩れるのを防止することができる。
【0045】
なお、上記実施形態では、高強度土木建設資材用網体の縦糸1と横糸2の双方に、芯材3と被覆材4とからなる被覆樹脂テープを用いる場合を示したが、少なくとも縦糸1と横糸2のいずれか一方に被覆樹脂テープが用いられていれば同様に実施可能である。この場合、被覆樹脂テープが用いられていない縦糸1又は横糸2は、誘電率の高い熱可塑性樹脂のみからなる樹脂テープであってもよいし、一軸延伸したポリプロピレンや超高分子ポリエチレンとは異なる芯材の周囲に誘電率の高い熱可塑性樹脂を被覆した樹脂テープであってもよく、少なくとも表層部が誘電率の高い熱可塑性樹脂からなるものであれば、構成は任意である。
【0046】
また、上記実施形態では、縦糸1と横糸2を各交差部分で高周波融着させる場合を示したが、他の融着技術を用いてもよく、この場合には、縦糸1や横糸2の熱可塑性樹脂が必ずしも誘電率の高いものである必要はない。ただし、上記実施形態のように縦糸1と横糸2を高周波融着させる場合には、少なくともポリプロピレン及び超高分子ポリエチレンよりも誘電率の高い熱可塑性樹脂を用いる必要がある。
【0047】
また、上記実施形態では、被覆樹脂テープの芯材3が1本である場合を示したが、複数本の芯材3を束ねた周囲を被覆材4で被覆したものであってもよく、例えば図4に示すように、同じ幅で厚さが薄い2本の芯材3を上下に重ねた周囲を被覆材4で被覆することもできる。このように芯材3を複数本用いると、引張降伏強さは実質的に同じでも、被覆樹脂テープの巻回性や取扱い性が向上するという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施形態を示すものであって、高強度土木建設資材用網体の部分拡大斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態を示すものであって、高強度土木建設資材用網体の縦糸や横糸に用いられる被覆樹脂テープの部分拡大斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態を示すものであって、芯材から被覆材が剥離した被覆樹脂テープの部分拡大斜視図である。
【図4】本発明の他の実施形態を示すものであって、2本の芯材の周囲を被覆材で被覆した被覆樹脂テープの部分拡大斜視図である。
【符号の説明】
【0049】
1 縦糸
2 横糸
3 芯材
4 被覆材
4a 凹凸皺

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表層部が熱可塑性樹脂からなる樹脂テープを縦糸と横糸とし、これら複数本ずつの縦糸と横糸をそれぞれ間隔をあけて互いに交差させ、各交差部分で縦糸と横糸の表層部の熱可塑性樹脂同士を融着させた網体であって、少なくとも縦糸と横糸のいずれか一方に用いられる樹脂テープが一軸延伸したポリプロピレン又は超高分子ポリエチレンからなる芯材の周囲を熱可塑性樹脂からなる被覆材で被覆した被覆樹脂テープである土木建設資材用網体において、
この被覆樹脂テープにおけるJIS K 6924−2と同じ引張速度で測定した荷重歪曲線の第一最大点での引張力(引張降伏強さ)が、被覆材の樹脂材料のみからなる被覆樹脂テープと同じ太さの樹脂テープにおけるJIS K 6924−2と同じ引張速度で測定した荷重歪曲線の第一最大点での引張力(引張降伏強さ)よりも大きいことを特徴とする高強度土木建設資材用網体。
【請求項2】
前記被覆樹脂テープの芯材の表面張力が40mN/m以上、50mN/m以下であり、この被覆樹脂テープの被覆材の表面張力が40mN/m以上、50mN/m以下であり、これら芯材と被覆材の表面張力の差が5mN/m以下であることを特徴とする請求項1に記載の高強度土木建設資材用網体。
【請求項3】
前記被覆樹脂テープが、芯材の周囲を接着剤を介在させて被覆材で被覆したものであることを特徴とする請求項1に記載の高強度土木建設資材用網体。
【請求項4】
前記接着剤がオレフィン系樹脂を含有するものであることを特徴とする請求項3に記載の高強度土木建設資材用網体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−287139(P2009−287139A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−140409(P2008−140409)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(000108719)タキロン株式会社 (421)
【Fターム(参考)】