説明

高強度鋼板の製造方法

【課題】連続焼鈍を行う前の組織がばらついている場合や、連続焼鈍時の温度条件等にばらつきがある場合であっても、最終的に製造される高強度鋼板の組織や特性のばらつきを極力低減することができる高強度鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】所望の成分組成、組織の鋼材を、600℃までの平均昇温速度を3℃/sec以上、600℃〜750℃の平均昇温速度を0.2〜2.5℃/secで昇温し、その後、Ac3〜(Ac3+50℃)の温度範囲まで昇温する加熱工程を実施した後、その温度範囲で600sec以下保持する均熱工程を実施し、次いで、焼入れおよび焼戻しを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用等に用いられる高強度鋼板を連続焼鈍により製造する高強度鋼板の製造方法、より詳しくは、組織ばらつきやその組織ばらつきに起因する機械的特性ばらつきを低減することが可能な高強度鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用等に用いられる高強度鋼板の代表例として、フェライトおよびマルテンサイトからなる組織を有する複合組織鋼(DP鋼)が従来から知られている。このDP鋼は、軟質なフェライトと硬質なマルテンサイトを混在する組織とすることにより、軟質なフェライトで延性(伸び)を確保し、硬質なマルテンサイトで強度を確保しようというものである。従って、このDP鋼は、強度と伸びの両立が可能であることから優れた成形性が要求される高強度自動車鋼板等として近年多く採用されており、例えば、特許文献1〜3などにはその特性が記載されている。
【0003】
しかしながら、近年の技術開発や外観デザインの向上により、自動車等の形状は年々複雑な形状になってきており、このような複雑な形状の自動車部材等をプレス成形により成形不良なく製造するために、自動車用鋼板等にはより優れた機械的特性等が求められている。このような自動車用鋼板等に要求される機械的特性としては、降伏強さ(YP)、引張強さ(TS)、伸び(EL)、伸びフランジ性(λ)等を挙げることができるが、前述したように、近年はこれらの機械特性に関してより高い性能が求められており、またこれらの特性を兼備することと相まって、その高強度鋼板の製造条件はより厳しくなってきており、製造そのものが困難になってきているというのが現状である。
【0004】
軟質なフェライトと硬質なマルテンサイトを共存する複合組織鋼であるDP鋼において、先に説明した諸特性を併存させるためには、組織の大部分を占めるフェライトとマルテンサイトの相分率や硬さを精度良く所望の値に制御する必要がある。しかしながら、フェライトとマルテンサイトの相分率や硬さは、製造時の温度や時間の条件によって大きく変動するため、諸特性を所望の値に高精度に制御することは非常に難しいと考えられる。
【0005】
また、DP鋼を製造するにあたっては、連続焼鈍ラインで熱処理を行って最終的に製造される高強度鋼板の組織や特性を制御しているのが現状である。しかしながら、既に連続焼鈍工程の前工程である熱延工程や冷延工程において、そのプロセス条件のばらつき等によって組織のばらつきが発生していることが多く、この前工程でのばらつきがある場合は、最終的に製造される高強度鋼板の組織や特性のばらつきの発生を抑制することはできない。すなわち、この前工程でのばらつきが最終的に製造される高強度鋼板の組織や特性のばらつきを、より一層大きくする要因となっている。
【0006】
従来から、均熱工程でγ単相域まで昇温すれば、このような連続焼鈍工程の前工程で発生する組織のばらつきは無害化されるといわれているが、実際には、前工程での組織のばらつきが、最終的に製造される高強度鋼板の組織や特性のばらつきとして残ってしまい易く、近年の高特性および低特性ばらつきを要求される状況においては、従来では問題視されない程度のばらつきの低減が課題として顕在化しつつあるのが現状であるといえる。
【0007】
更には、連続焼鈍ラインの中においても様々なプロセス条件がばらついてしまうことがあり、そのような場合には、最終的に製造される高強度鋼板の組織や特性の制御を行うことがより一層難しくなっている。このように最終的に製造される高強度鋼板の組織や特性にばらつきが発生してしまった場合には、高強度鋼板を材料として製造される自動車等の製造時の不具合につながる可能性が高くなる。
【0008】
高強度自動車鋼板等に求められる特性としては、前述の降伏強さ(YP)、引張強さ(TS)、伸び(EL)、伸びフランジ性(λ)等の機械的特性があることは勿論ではあるが、高強度自動車鋼板等においては、その組織や特性のばらつきが小さいことも求められている。しかしながら、DP鋼の組織や特性のばらつきは、従来の手法では低減することが非常に困難であるのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−215571号公報
【特許文献2】特開2009−215572号公報
【特許文献3】特開2004−18911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来の問題を解決せんとしてなされたもので、連続焼鈍を行う前の組織がばらついている場合や、連続焼鈍時の温度条件等にばらつきがある場合であっても、最終的に製造される高強度鋼板の組織や特性のばらつきを極力低減することができる高強度鋼板の製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の発明は、質量%で、C:0.05〜0.3%、Si:0.7〜3.0%、Mn:0.5〜3.0%、Al:0.01〜0.1%を含有すると共に、主としてフェライトおよびマルテンサイトからなる組織を有する高強度鋼板を連続焼鈍により製造する高強度鋼板の製造方法であって、600℃までの平均昇温速度を3℃/sec以上、600℃〜750℃の平均昇温速度を0.2〜2.5℃/secで昇温し、その後、Ac3〜(Ac3+50℃)の温度範囲まで昇温する加熱工程を実施した後、そのAc3〜(Ac3+50℃)の温度範囲で600sec以下保持する均熱工程を実施し、次いで、焼入れおよび焼戻しを行うことを特徴とする高強度鋼板の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の高強度鋼板の製造方法によると、連続焼鈍を行う前の組織がばらついている場合や、連続焼鈍時の温度条件等にばらつきがある場合であっても、最終的に製造される高強度鋼板の組織や特性のばらつきを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】DP鋼を連続焼鈍ラインで製造する場合の基本的な熱処理工程の温度と時間の関係を示すグラフ図である。
【図2】本発明の高強度鋼板の製造方法の加熱工程および均熱工程の温度と時間の関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、高強度鋼板を連続焼鈍により製造する際に、連続焼鈍を行う前の組織がばらついている場合や、連続焼鈍時の温度条件等にばらつきがある場合であっても、最終的に製造される高強度鋼板の特性のばらつきを低減することができる方法を見出すために、その検討を鋭意行った。その結果、連続焼鈍終了時のγ粒径をばらつきなく安定化させることが、最終的に製造される高強度鋼板の特性のばらつきを低減させるための有効な方法であることを見出した。
【0015】
主としてフェライトおよびマルテンサイトからなる組織を有する複合組織鋼(DP鋼)を、連続焼鈍ラインで製造する場合は、図1に示すように、加熱、均熱、徐冷、急冷、再加熱、保持、冷却という熱処理工程を経ることになる。
【0016】
この熱処理工程を経てDP鋼が製造される際の鋼材の組織は以下のように変化する。まず、加熱工程および均熱工程で鋼材の組織はγ単相組織となる。次の焼入れ開始温度までの徐冷工程で組織中にフェライトが析出し、その後の急冷工程で残部のオーステナイトがマルテンサイトに変態する。その結果、急冷工程を終了した鋼材は主としてフェライトおよびマルテンサイトからなる組織となる。更に、再加熱、保持、冷却からなる焼戻し工程によりマルテンサイトの強度が調整される。
【0017】
この際、鋼材の成分組成や熱処理条件等によっては、フェライトおよびマルテンサイトの他、ベイナイト、パーライト、セメンタイト等の他の組織を含有する場合があるが、これらの組織が少量含まれる場合においても本発明の効果はされるものであり、従って、これらは本発明の範疇に含まれる。尚、フェライトおよびマルテンサイト以外の組織の許容範囲は、面積率で10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下である。
【0018】
先に、自動車用鋼板等に要求される機械的特性として、降伏強さ(YP)、引張強さ(TS)、伸び(EL)、伸びフランジ性(λ)等があると説明したが、これらの特性を支配する組織因子としては、主としてフェライトおよびマルテンサイトからなるDP鋼の場合には、フェライト分率とマルテンサイトの硬さを挙げることができる。このうち、フェライト分率は焼入れ開始までの温度履歴より決定され、マルテンサイトの硬さは再加熱(焼戻し)の温度履歴より決定される。
【0019】
ここで、連続焼鈍前の組織や均熱温度にばらつきがあることで連続焼鈍終了時のγ粒径に大きなばらつきが発生すると、その後の熱履歴のばらつきをたとえ最小限に抑えたとしても、最終的に製造される高強度鋼板の特性のばらつきを低減することはできない。
【0020】
前述したように、DP鋼は、その製造時に均熱工程においてγ単相域で保持された後、続く徐冷工程においてα+γ2相域でフェライトが析出されることになるが、このフェライトの析出挙動は均熱工程が終了した時点でのγ粒径により変化する。均熱工程が終了した時点でのγ粒径が粗大になると、フェライトの核生成頻度が低下する。一方、均熱工程が終了した時点でのγ粒径が微細になると、フェライトの核生成頻度が増加する。
【0021】
そのため、均熱工程が終了した時点でのγ粒径に大きなばらつきがある場合には、たとえその後の徐冷工程でばらつきを制御しようとしても、最終的なフェライト分率にはばらつきが生じてしまう。逆にいうと、均熱工程が終了した時点でのγ粒径のばらつきを低減できた場合には、たとえその後の熱履歴に多少のばらつきがあったとしても、所望のフェライト分率と、所望の焼戻し後のマルテンサイト硬さを得ることができ、最終的に製造される高強度鋼板の特性のばらつきを低減することが可能になるということができる。
【0022】
そこで、均熱工程が終了した時点でのγ粒径のばらつきがどの程度のばらつきであれば、最終的に製造される高強度鋼板の組織や特性のばらつきを低減することができるかを、具体的に予備試験を実施し、評価した。
【0023】
この予備試験では、まず均熱工程終了後、直ちに焼入れを行う熱処理を行ってオーステナイト粒径を測定した。その際に、均熱温度および保持時間を変化させることで、オーステナイト粒径を種々作り分けた。同一熱処理を3回行い、N=3の平均値によって、均熱工程の熱処理条件と、それによって変化するオーステナイと粒径の関係を明らかにした。
【0024】
次に、前記手法で均熱工程終了時のオーステナイト粒径が判明している種々の均熱工程熱処理を施した後に、図1に示すような通常のDP鋼の製造で考えられる以下に説明する熱処理条件の範囲の種々の熱処理を施した。熱処理終了後にJIS5号引張試験片を採取し、引張試験を行って引張強度を測定した。一つの均熱工程(即ち、オーステナイト粒径)に対して、その後の同一条件での熱処理および引張試験を5回行い、その平均値により引張強度を判定した。
【0025】
これらの予備試験において、最終的に製造されたDP鋼の強度ばらつきが±3%以内に収まるものを合格とした。その結果、均熱工程終了時点でのγ粒径のばらつきが4μm以下であれば、最終的に製造される高強度鋼板の組織や特性のばらつきを低減することができることを確認した。
【0026】
尚、通常のDP鋼の製造で考えられる熱処理条件とは、図1における徐冷速度R11が3〜20℃/sec、急冷開始温度T11が500〜700℃、急冷速度R12が50℃/sec以上、再加熱度T12が250〜550℃、保持時間t12が30〜1200secである。
【0027】
また、均熱工程が終了した時点でのγ粒径のばらつきは、連続焼鈍前の組織や均熱温度にばらつきがあることで増加するということができるが、本発明者らが種々検討した結果、連続焼鈍における加熱工程と均熱工程における各種条件を規定することで、連続焼鈍前の組織や均熱温度にばらつきがある場合であっても、最終的に製造される高強度鋼板の組織や特性のばらつきを低減することができることを見出した。
【0028】
具体的には、図2に示すように、まず、加熱工程を複数の段階に分けて、夫々異なる昇温速度で加熱を行うことが重要であり、600℃までの平均昇温速度を3℃/sec以上、600℃〜750℃の平均昇温速度を0.2〜2.5℃/secとすることが要点である。また、その後、Ac3〜(Ac3+50℃)の温度範囲まで昇温する加熱工程を実施した後、そのAc3〜(Ac3+50℃)の温度範囲で600sec以下保持する均熱工程を実施することも重要である。
【0029】
600℃までの平均昇温速度を3℃/sec以上とした理由は、600℃までの温度では、再結晶が殆ど生じないため昇温速度を遅くする必要はないが、生産性の観点から3℃/sec以上とした。
【0030】
これに対し、600℃〜750℃は、再結晶挙動が急激に発生する温度領域であるため、600℃〜750℃の平均昇温速度を0.2〜2.5℃/secとし、600℃までの昇温速度と比べて遅くすることで、再結晶を十分に促進させることとした。昇温速度の上限を2.5℃/secとした理由は、昇温速度が2.5℃/secを超えると十分に再結晶させることができなくなるからである。一方、昇温速度の下限を0.2℃/secとした理由は、昇温速度が0.2℃/sec未満では、AlNの析出、粗大化が顕著になり、次の均熱工程でのγ粒径のピニング効果が希薄になってしまうからである。
【0031】
一方、750℃を超えてAc3〜(Ac3+50℃)の温度範囲までにある均熱温度に達するまでの昇温速度については、組織変化に及ぼす影響は極めて少ないため、この間の昇温速度は特に規定する必要はないといえるが、設備の昇温能力や生産性を考慮すると、0.3〜10℃/secの通常実施されている昇温速度の範囲で適宜決定することが望ましい。
【0032】
尚、通常のDP鋼における昇温工程においては、特に途中で昇温速度を変化させるようなことは行われていない。例えば、特許文献3の実施例に示されているように、約20℃/秒程度の昇温速度で、途中で昇温速度を変えることなく、目標の均熱温度まで加熱を行っている。
【0033】
また、Ac3〜(Ac3+50℃)の温度範囲で600sec以下保持する均熱工程を実施するとしたが、この均熱工程での保持時間もγ粒径のばらつきに影響を及ぼす。この保持時間が600secを超えると、生産性を阻害するという欠点があるばかりか、γ粒の成長が促進されてしまいγ粒径にばらつきが生じてしまう。一方、均熱工程での保持時間の下限については限定しないが、保持時間が短すぎると逆変態が不十分になる可能性があるため、60sec以上とすることが望ましい。
【0034】
次に、本発明の製造方法で製造される高強度鋼板における化学成分組成について説明する。本発明の製造方法で製造される高強度鋼板は先に説明した製造方法が適切であっても、夫々の化学成分(元素)の含有量が適正範囲内でなければ、所望の作用効果を奏することができない。従って、本発明の製造方法で製造される高強度鋼板は、夫々の化学成分の含有量が、以下に説明する範囲内にあることも要件とする。尚、下記の化学成分の含有量(%)は全て質量%を示す。
【0035】
C:0.05〜0.3%
Cは、マルテンサイトの面積率およびその硬さに影響し、降伏強度および伸びフランジ性に影響する重要な元素である。0.05%未満ではマルテンサイトの面積率が不足して十分な降伏強度を確保することができなくなる。一方、0.3%を超えるとマルテンサイトの硬さが硬くなりすぎて伸びフランジ性が確保できなくなる。従って、Cの含有量は0.05〜0.3%とする必要がある。Cの含有量の好ましい下限は0.07%、好ましい上限は0.2%である。
【0036】
Si:0.7〜3.0%
Siは、固溶強化元素として伸びを劣化させずに降伏強度を高めると共に、焼戻し時におけるマルテンサイト中に存在するセメンタイト粒子の粗大化を抑制する作用も有し、このように粗大なセメンタイト粒子の生成を抑制することで、伸びフランジ性を向上させる効果も有する有用な元素である。0.7%未満ではこのような作用を有効に発揮させることができない。一方、3.0%を超えると加熱時におけるオーステナイトの形成を阻害するため、マルテンサイトの面積率を確保できず、降伏強度と伸びフランジ性が確保できなくなる。従って、Siの含有量は0.05〜3.0%とする必要がある。Siの含有量の好ましい下限は1.0%、好ましい上限は2.0%である。
【0037】
Mn:0.5〜3.0%
Mnは、Siと同様に、固溶強化元素として伸びを劣化させずに降伏強度を高めると共に、焼戻し時におけるマルテンサイト中に存在するセメンタイト粒子の粗大化を抑制する作用も有し、粗大なセメンタイト粒子の生成を抑制することで、伸びフランジ性を向上させる効果も有する有用な元素である。また、焼入れ性を高めてマルテンサイトの面積率の確保に寄与することで、降伏強度と伸びフランジ性を向上させる効果も有する。0.5%未満では、固溶強化作用およびセメンタイト粗大化抑制作用を有効に発揮させることができなくなるうえ、焼入れのための急冷時にベイナイトが多量に形成されてしまい、マルテンサイトの面積率が不足するため、降伏強度と伸びフランジ性が確保できなくなる。従って、Mnの含有量は0.5〜3.0%とする。Mnの含有量の好ましい下限は1.0%、好ましい上限は2.5%である。
【0038】
Al:0.01〜0.1%
Alは、不可避的不純物のNと結合してAlNを形成し、歪時効の発生に寄与する固溶Nを低減させることで伸びフランジ性の低下を防止すると共に、固溶強化により強度向上に寄与する。0.01%未満では鋼中に固溶Nが残存するため歪時効が発生し、伸びと伸びフランジ性を確保できなくなる。一方、0.1%を超えると加熱時におけるオーステナイトの形成を阻害するため、マルテンサイトの面積率を確保できず、伸びフランジ性が確保できなくなる。従って、Alの含有量は0.01〜0.1%とする。Alの含有量の好ましい下限は0.03%、好ましい上限は0.08%である。
【0039】
以上が本発明で規定する必須の含有元素であって、残部は鉄および不可避的不純物である。また、更に以下に示す元素を積極的に含有させることも有効であり、含有される化学成分(元素)の種類によって本発明の製造方法で製造される高強度鋼板の特性が更に改善される。
【0040】
本発明の製造方法で製造される高強度鋼板には、Ti、Nb、V、Zrのうち少なくとも1種以上を合計で0.01〜0.1%含有させることが有効である。更には、Niおよび/またはCuを合計で1%以下含有させることが有効である。また更には、Cr:2%以下および/またはMo:1%以下含有させることが有効である。また更には、Bを0.0001〜0.005%含有させることが有効である。また更には、CaおよびREMから選択される元素を合計で0.003%以下含有させることが有効である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0042】
本発明の実施例では、まず、表1に示す各成分組成の鋼を溶解し、熱延工程、酸洗工程、冷延工程を経て種々の組織を有する各種鋼板を作製した。その後、表2および図2に示す製造条件で、連続焼鈍ラインでの加熱工程および均熱工程を模擬した熱処理を行った後、最後に図2に示すように急冷し、急冷後の各種鋼板の組織のγ粒径を測定した。尚、表2の熱延後組織でBと示すのはベイナイト、Fと示すのはファライト、Pと示すのはパーライト、Mと示すのはマルテンサイトである。
【0043】
γ粒径の測定は、JIS G0551に示される手法に倣って行い、粒度番号を粒径に換算して評価を行った。
【0044】
試験結果を表2に示す。本試験では均熱工程の温度条件、保持時間が違う4つの条件を模擬して熱処理を行い、急冷後の各種鋼板の組織のγ粒径を夫々測定し、その最大値と最小値の差を連続焼鈍終了時のγ粒径のばらつきとした。本試験ではこのばらつきが4μm以内のものを合格とした。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
No.1〜6は、本発明の要件を満足する発明例であり、γ粒径のばらつきは全て4μm以内であり、試験結果は合格であった。これに対し、No.7〜9は、600℃〜750℃の平均昇温速度、あるいは保持する均熱温度条件が不適切な比較例であり、その結果、γ粒径のばらつきが4μmより大きくなり、試験結果は不合格であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.05〜0.3%、Si:0.7〜3.0%、Mn:0.5〜3.0%、Al:0.01〜0.1%を含有すると共に、主としてフェライトおよびマルテンサイトからなる組織を有する高強度鋼板を連続焼鈍により製造する高強度鋼板の製造方法であって、
600℃までの平均昇温速度を3℃/sec以上、600℃〜750℃の平均昇温速度を0.2〜2.5℃/secで昇温し、その後、Ac3〜(Ac3+50℃)の温度範囲まで昇温する加熱工程を実施した後、
そのAc3〜(Ac3+50℃)の温度範囲で600sec以下保持する均熱工程を実施し、次いで、焼入れおよび焼戻しを行うことを特徴とする高強度鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−17500(P2012−17500A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155669(P2010−155669)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】