説明

高架鉄道用分岐器融雪ピット

【課題】高架鉄道において列車から落下し、或いは持ち込まれる雪塊を速やかに融雪用凹部に収容することにより、分岐器が転換不能になる事態を未然に防止し、また集中降雪にも対応でき、しかも融雪用凹部を設けることによる枕木の不安定性を解消した高架鉄道用分岐器融雪ピットを提供する。
【解決手段】鉄道用高架1に鉄道線路の分岐器16を支持すべく設置するピット躯体2は、基部3と、基部3に幅広溝状に形成した有底の融雪用凹部4と、基部3の長手方向に離間して融雪用凹部4の両側壁から対向して突出した各一対の多数の枕木受け部5とから構成してある。融雪用凹部4の底面4Aには発熱体7を配置し、ピット躯体2には載架する枕木12の端部側12Aを夫々保持する横圧支承具8が設けてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高架鉄道に設けて列車の進行方向を振り分ける分岐器が、列車の持込み雪塊や落下雪によって転換不能の状態になるのを未然に解消するための高架鉄道用分岐器融雪ピットに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道線路は踏切の廃止や高速化などの諸要請から次第に高架化しており、この鉄道用の高架は、脚柱と、その上部に形成した高架スラブとから大略構成したものからなり、高架スラブ上に路盤コンクリートを打ち、その上に枕木を列設してレールを敷設することによって高架鉄道を形成している。
【0003】
この高架鉄道にも進行方向の転換のための分岐器が設置されている。分岐器はポイント部、リード部、クロッシング部及びガードレールによって構成してあり、可動部分であるポイント部が作動上最も重要である。ところで、降雪地では列車の車体に付着した雪塊が分岐器通過時の衝撃によって分岐器上に落下し、或いは線路上に堆積した雪が列車のスノウプラウによって分岐器まで持ち込まれる結果、基本レールとトングレールとの間に雪が挟まって転換不能の事態が生じる問題があり、高架鉄道においても同様の問題がある。
【0004】
このような雪塊などによる分岐器の転換不能の問題を解決する手段として、電熱式、熱風式、温水式などの除去手段が提案されており、また圧縮空気により雪塊などの異物を吹飛ばす方式の特許も提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特許第3855144号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の電熱式、熱風式、温水式の除去手段は雪塊の除去に時間を要する、集中降雪に対応が困難という問題がある。圧縮空気による異物除去手段は相応の効果を奏するが、設備費が嵩む問題がある。
【0006】
本発明は上述した従来技術の欠点や問題点に鑑みなされたもので、高架鉄道にあっても、列車から落下し、或いは持ち込まれる雪塊を速やかに融雪用凹部に収容することによって分岐器が転換不能になる事態を未然に防止し、また集中降雪にも対応でき、しかも融雪用凹部を設けることによる枕木の不安定性を解消した高架鉄道用分岐器融雪ピットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために構成された本発明の手段は、鉄道用高架に鉄道線路の分岐器を支持すべく設置するピット躯体は、コンクリート製立方体からなる基部と、該基部に幅広溝状に形成され、上方が開放した有底の融雪用凹部と、前記基部の長手方向に離間して該融雪用凹部の両側壁から対向して突出した各一対の多数の枕木受け部とから構成し、前記融雪用凹部の底面には発熱体を配置し、前記ピット躯体には載架する枕木の端部側を夫々保持する横圧支承具を設けたものからなる。
【0008】
そして、前記融雪用凹部は、防水工に施工してあるとよい。
【0009】
また、前記横圧支承具は、枕木の端部側が嵌合する平面略コ字状の保持部と、該保持部に設けられ、前記ピット躯体に固定される固定部とから構成するとよい。
【0010】
更に、前記融雪用凹部を横断する状態で前記一対の枕木受け部に載架する枕木は、該一対の枕木受け部に各々載置する一対の枕木ブロックと、該一対の枕木ブロックを連結する棒状連結材とから構成するとよい。
【0011】
また、前記ピット躯体には、前記融雪用凹部に滞留する融雪水を前記鉄道線路に向けて噴射する循環式融雪水噴射装置を設けるとよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は以上詳述した如く構成したから、下記の諸効果を奏する。
(1)鉄道線路の分岐器を支持すべく鉄道用高架に設置するピット躯体は、列車により分岐器上に持込まれる雪塊や落下雪を融雪用凹部に収容して分岐器及びその周囲から雪を排除するので、高架鉄道においても分岐器の確実な作動を確保することができる。
(2)高所でスペースが狭く、作業や除雪に制約のある高架上での除雪作業を不要にできるので、列車の円滑な運行を確保できるし、除雪作業費を節減し作業員の安全確保にも資する。
(3)融雪用凹部は防水工に施工してあるから、融雪用凹部に滞留する融雪水がピット躯体に浸透してコンクリートを劣化させる事態を防止することができる。
(4)融雪用凹部は防水工に施工してあるから、ピット躯体によって防水工を施すことができないピット躯体下面の高架スラブにピット躯体を介して融雪水が浸透する事態を防止することができる。
(5)融雪用凹部によって下方が開放している枕木は、横圧支承具によって両端部側を保持した状態でピット躯体に載架したから、列車通過時に受ける負荷や振動に対して枕木を確実に保持することにより安全性を高めてある。
(6)枕木は一対の枕木受け部に各々載置する一対の枕木ブロックと、一対の枕木ブロックを連結する棒状連結材とから構成し、隣接する枕木との間に空間を確保したから、列車からの落下雪塊や持込み雪を枕木間に堆積させることなく速やかに融雪用凹部に落下させて収容できる。
(7)ピット躯体に、融雪用凹部に滞留する融雪水を鉄道線路に向けて噴射する循環式融雪水噴射装置を設けたから、分岐器に付着する雪塊も速やかに、かつ完全に除去することができ、分岐器を確実に作動させることができる。
(8)発熱体で加温されている融雪水を循環噴射するから、氷塊も速やかに融解して除去することができるし、別途給水源を設ける必要がないから高架においても設備費を節減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳述する。図1乃至図5は第1の実施の形態を示す。図において、1は後述する鉄道線路15を設置するための鉄道用高架を示し、該鉄道用高架1は地盤Gに立設した脚柱1A、1Aの上端に高架スラブ1Bを形成した公知の構成からなるものであり、上面1Cは平坦面に形成してある。
【0014】
2は前記鉄道用高架1上に設置したピット躯体を示す。該ピット躯体2はコンクリートにより立方体に成形した基部3と、底部4Aを有し、該基部3の上面3Aに上向きに開口する幅広の溝からなり、基部3の中央に長手方向に沿って形成された融雪用凹部4と、基部3の長手方向に離間して該融雪用凹部4の両側壁4B、4Bから略コ字状に突出して対向する各一対の多数の枕木受け部5、5、・・・とから構成してある。
【0015】
6は前記融雪用凹部4の内面に例えばウレタンなどの防水塗料を塗布することにより形成した防水工を示す。該防水工6を施すことにより、コンクリート製のピット躯体2が滞留する融雪水の浸透により劣化する事態を防止している。また、施工の順序としてピット躯体2を設置した状態で高架スラブ1Bの上面1Cに防水工を施すが、ピット躯体2下面の防水工を施すことができない高架スラブ1にピット躯体2を介して融雪水が浸透する事態をこの防水工6によって防止する効果がある。そして、融雪用凹部4の底面4Aには、遠赤外線面状ヒーターからなる発熱体7を敷設してあり、冬期間は一定の温度で発熱させてある。
【0016】
8、8は後述する枕木12を拘持することにより、列車の通過時に枕木12が受ける横圧、振動等をピット躯体2によって支承するための一対の横圧支承具を示す。該各横圧支承具8は、対向する一対の前後片9A、9Aと、該前後片9A、9Aに平面略コ字状に連結され、枕木12の端面12Cを受ける横受け片9Bとから形成し、枕木12の長手方向端部側12Aが嵌合するようにした保持部9と、各前後片9Aの下端から外側に略L字状に突設され、ボルト挿通穴が形成してある固定部10、10とを鋼板によって構成してある。
【0017】
上述した横圧支承具8は、図5に示すように枕木受け部5、5上に載置し、各固定部10のボルト穴に挿通してピット躯体2に螺入した固定ボルト11、11によってビット躯体2に締着してある。
【0018】
12、12、・・・は融雪用凹部4を跨ぐように各一対の枕木受け部5、5に載架した枕木を示す。該各枕木12は合成樹脂で角柱状に成形した公知の合成枕木からなり、長手方向端部側12A、12Aを前記横圧支持具8に上方から嵌合し、ピット躯体2に植設してある植込みボルト13を挿通穴に挿通してナット14で締着することにより、各枕木12はピット躯体2上に所定の間隔で配列してある。
【0019】
15は鉄道用高架1上に敷設した鉄道線路で、該鉄道線路15は一対のレール15A、15Aをピット躯体2上に列設した枕木12、12、・・・に締結板15Bとボルト15Cによって固定して設けてある。16はピット躯体2上に位置して鉄道線路15の途中に設置した分岐器で、該分岐器16は一対のトングレール16A、16Aと、該一対のトングレール16A、16Aに連結した転轍棒16Bと、該転轍棒16Bを駆動してトングレール16A、16Aを横方向に変位させるポイントモータからなる動力転轍機16C(但し、16B、16Cは図示せず。)とから構成してある。
【0020】
本実施の形態に係る分岐器融雪ピットは上述の構成からなり、融雪用凹部4を形成したピット躯体2を鉄道用高架1上に設置し、該ピット躯体2上に列設する枕木12は長手方向端部側12A、12Aを横圧支承具8で挟持してピット躯体2に固定してある。列車による落下雪や持込雪は融雪凹部4に収容することにより、分岐器16上に雪が残留して円滑な転換作動が阻害されることがないようにしてある。また、融雪用凹部4に収容した雪塊などは発熱体7により順次溶解し、図示しない排水溝から地上に排水している。
【0021】
また、列車の通過時には枕木12は横圧や振動を受けるが、特に融雪用凹部4によって下方が開放しており、道床によって全面的に支持されていない枕木12では両端部側12A、12Aにこれらの荷重が掛かるが、各枕木12は横圧支承具8で端部側12A、12Aを保持した状態でピット躯体2に載架することにより、植込みボルト13だけでなく横圧支承具8でも受けることにより安全性を確保している。
【0022】
図6及び図7は第2の実施の形態を示す。なお、本実施の形態及び後述する他の実施の形態の構成要素において、第1の実施の形態の構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付して援用し、その説明を省略する。図において21は、融雪用凹部4を跨ぐようにしてピット躯体2上に列設する枕木を示し、該枕木21は角柱状の一対の枕木ブロック22、22と、該一対の枕木ブロック22、22を連結する鋼管からなる棒状連結材23とから構成してある。
【0023】
本実施の形態は上述の構成からなり、レール15Aを設置する一対の枕木ブロック22、22は横圧指示具8で保持した状態で植込みボルト13、ナット14によってピット躯体2上に配置してある点では従来の枕木12と異ならない。しかし、枕木21の中間部分は鋼管の細い棒状連結材23にしてあり、隣接する枕木21との間に広い空間を形成しているから、列車による持込み雪塊や落下雪を枕木間に堆積させることなく融雪凹部4内に速やかに、確実に落下させることができ、分岐器16の作動を確保することができる。
【0024】
また、上述の構成により、枕木21は制作時に樹脂と鋼管を一体成型することにより製造できるから、低廉化を図ることができるし、軽量化も図ることができ設置工事も容易である。しかも、枕木21は端部側22Aを横圧支承具8で保持して設置するから、十分な強度性を有することができる。なお、棒状連結材23は鋼管に代えて強度性のある合成樹脂管を用いてもよい。
【0025】
図8は第3の実施の形態に係り、その特徴とするところはピット躯体2に循環式融雪水噴射装置31を設け、融雪用凹部4内で分岐器16に向けて噴射ノズル32、32から融雪水を噴射するようにしたことにある。図において、31は循環式融雪水噴射装置で、該循環式融雪水噴射装置31は融雪用凹部4内の横方向両側に沿って所定の間隔で、トングレール16Aに向けて配置した複数の噴射ノズル32、32と、融雪用凹部4内の融雪水を吸引して噴射する加圧ポンプ33と、該加圧ポンプ33に接続した吸水管34と、加圧ポンプ33、各噴射ノズル32、32を一連に連結する送水管35とから構成してある。なお、融雪用凹部4にある程度の融雪水を溜めて循環させるために、排水溝はオーバーフロー式にしてある。
【0026】
本実施の形態によれば、融雪用凹部4に滞留する融雪水を噴射ノズル32、32から分岐器16及び鉄道線路15に向けて噴射することにより、付着している雪塊も速やかに、かつ完全に除去することができ、分岐器16を確実に作動させることができる。また、発熱体7で加温されている融雪水を循環しながら噴射するから、氷塊も速やかに融解して除去することができるし、別途給水源を設ける必要がないから循環式融雪水噴射装置31は鉄道用高架1に過大な設備費を掛けることなく設置できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1乃至図5は本発明の第1の実施の形態に係り、図1は分岐器融雪用ピットの部分平面図である。
【図2】分岐器融雪ピットを設置した高架鉄道の縦断面図である。
【図3】ピット躯体の部分斜視図である。
【図4】図1中のIV−IV矢示方向拡大断面図である。
【図5】分岐器融雪ピットの部分外観図である。
【図6】図6及び図7は第2の実施の形態に係り、図6は枕木の斜視図である。
【図7】分岐器融雪ピットの縦断面図である。
【図8】第3の実施の形態に係る分岐器融雪ピットの縦断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 鉄道用高架
2 ピット躯体
3 基部
4 融雪用凹部
5 枕木受け部
7 発熱体
6 防水工
8 横圧支承具
9 保持部
10 固定部
12、21 枕木
12A 端部側
15 鉄道線路
16 分岐器
22 枕木ブロック
23 棒状連結材
31 循環式融雪水噴射装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道用高架に鉄道線路の分岐器を支持すべく設置するピット躯体は、コンクリート製立方体からなる基部と、該基部に幅広溝状に形成され、上方が開放した有底の融雪用凹部と、前記基部の長手方向に離間して該融雪用凹部の両側壁から対向して突出した各一対の多数の枕木受け部とから構成し、前記融雪用凹部の底面には発熱体を配置し、前記ピット躯体には載架する枕木の端部側を夫々保持する横圧支承具を設けてあることを特徴とする高架鉄道用分岐器融雪ピット。
【請求項2】
前記融雪用凹部は、防水工に施工してあることを特徴とする請求項1記載の高架鉄道用分岐器融雪ピット。
【請求項3】
前記横圧支承具は、枕木の端部側が嵌合する平面略コ字状の保持部と、該保持部に設けられ、前記ピット躯体に固定される固定部とから構成してある請求項1記載の高架鉄道用分岐器融雪ピット。
【請求項4】
前記融雪用凹部を横断する状態で前記一対の枕木受け部に載架する枕木は、該一対の枕木受け部に各々載置する一対の枕木ブロックと、該一対の枕木ブロックを連結する棒状連結材とから構成してあることを特徴とする請求項1記載の高架鉄道用分岐器融雪ピット。
【請求項5】
前記ピット躯体に、前記融雪用凹部に滞留する融雪水を前記鉄道線路に向けて噴射する循環式融雪水噴射装置を設けてあることを特徴とする請求項1記載の高架鉄道用分岐器融雪ピット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−240449(P2008−240449A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−85197(P2007−85197)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(590003825)北海道旅客鉄道株式会社 (94)
【Fターム(参考)】