説明

高次塩素化メタン類の製造方法

【課題】 低次塩素化メタン類と塩素とを原料とした高次塩素化メタン類の製造方法において、塩素ガスの精製のための塩素ガスの損失を極めて効果的に防止することが可能な高次塩素化メタン類の製造方法を提供する。
【解決手段】低次塩素化メタン類と塩素とを反応器に供給して高次塩素化メタン類を製造するに際し、上記反応器に供給する低次塩素化メタン類及び塩素の総供給量に対して、該低次塩素化メタン類及び塩素中に含まれる総金属分の割合を5質量ppm以下、且つ、総水分の割合を総供給量に対して30質量ppm以下に調整することにより、塩素中の酸素低減ための精製においてロスしていた塩素を大幅に低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低次塩素化メタン類と塩素とを原料とした高次塩素化メタン類の製造方法に関する。詳しくは、高次塩素化メタン類の原料の一つである塩素ガスの精製のための塩素ガスの損失を極めて効果的に防止することが可能な高次塩素化メタン類の製造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
低次塩素化メタン類と塩素とを原料とした高次塩素化メタン類の製造方法において、低次塩素化メタン類をラジカル発生触媒の存在下に液相で塩素ガスと反応させる方法が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
上記反応においては、原料の塩素より発生する塩素ラジカルの連鎖反応を利用して低次塩素化メタン類を逐次塩素化する方法であるが、この反応を安定して実施する課題は、ラジカルの発生およびこれに続く連鎖反応の阻害因子を取り除くことにある。
【0004】
従来、上記課題に対して、原料として反応系に供給される塩素ガスは、一般に食塩の電気分解等の設備から供給される場合、上記阻害因子となる鉄等の金属分を含む場合が多いため、該金属分を低減することによって安定して塩素化反応を実施する方法が提案されている(特許文献2参照)。上記方法は、塩素ガスを液化した後これを気化して金属分を釜残液に残存せしめることによって、金属分が低減した塩素ガスを得るものである。また、前記特許文献2には、塩素ガス中の酸素が塩素化反応の阻害要因となることについても記載されており、塩素ガス中の酸素の低減方法として、上記塩素ガスを液化する際に酸素をガスとして分離すると共に、液化した塩素の一部をパージすることによって低減させる方法が記載されている。
【0005】
また、前記課題に対して、原料として反応系に供給される低次塩素化メタン類中の水分を低減することによって塩素化反応を安定化する方法も提案されている(特許文献3参照)。上記方法は、未反応物を反応系に循環する過程で蓄積する水分を、循環系に脱水工程を設けることによって低減させるものである。
【0006】
【特許文献1】特公昭49−24886号公報
【特許文献2】特開平8−243376号公報
【特許文献3】特開平8−325178号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記したように、原料系からラジカルの発生およびこれに続く連鎖反応の阻害因子を取り除くためにさまざまな対策が提案されており、これらの阻害因子を全てなくすることによって、低次塩素化メタン類の塩素化反応は安定して実施することができるものと推定される。
【0008】
しかしながら、かかる阻害因子を全て取り除くことは工業的に有利な方法とはいえない。特に、塩素中に含まれる酸素の低減のために行う分離操作において、塩素ガス中の酸素を低減するためには、塩素ガスを液化した後の蒸留工程において、塩素ガスに同伴して除去される酸素量を増大させるために十分な量の塩素をガスとして蒸発せしめる必要があった。上記蒸発させた塩素ガスは再度液化して回収することも考えられるが、回収設備の大型化を招き、工業的に不利である。
【0009】
従って、蒸留において得られる酸素を同伴する塩素ガスは、除外設備において、苛性ソーダに代表されるアルカリを用いて除害しているのが現状であり、塩素の損失を招くという問題がある。
【0010】
また、前記した従来の技術は、個々の原料についての阻害因子の低減目標を示唆するものであり、トータル原料としての阻害因子の検討は十分なされていない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究を続けた。その結果、低次塩素化メタン類の塩素化において、塩素化反応の阻害因子を、反応器に供給する原料全ての含有量で捉え、且つ、比較的低減の容易な、原料に含まれる総金属分と総水分の割合を特定の値以下に制御することによって、他の阻害因子の一つである酸素の許容量を著しく上げることができ、酸素を除去するための塩素の損失を極めて効果的に抑えることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、 低次塩素化メタン類と塩素とを反応器に供給して高次塩素化メタン類を製造するに際し、上記反応器に供給する低次塩素化メタン類及び塩素の総供給量に対して、該低次塩素化メタン類及び塩素中に含まれる総金属分の割合を5質量ppm以下、且つ、総水分の割合を総供給量に対して30質量ppm以下に調整することを特徴とする高次塩素化メタン類の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低次塩素化メタン類を塩素化して高次塩素化メタン類を製造するにあたり、原料、特に、塩素中に含有する酸素量を60質量ppm程度まで許容することができる。これにより、従来、塩素の精製において含有される酸素を低減するためにロスしていた塩素量を大幅に低減することが可能となり、高次塩素化メタン類の効率的な製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明において、原料の一つである塩素は、公知の塩素製造設備より供給されるものが使用可能であり、代表的な供給源として、食塩の電気分解設備が挙げられる。かかる塩素は、一般に、酸素を約2000〜10000質量ppm程度含んでいる。
【0015】
また、上記塩素は、一般に、水分を2000〜10000質量ppm程度含有するとともに、鉄分を配管等の種類、経路等により異なるが、通常、10質量ppm程度含有する。
【0016】
本発明において、塩素の精製は、水分、酸素及び金属分を低減する公知の方法が特に制限なく採用される。
【0017】
先ず、水分は、塩素ガスを乾燥剤と接触することによって低減することが好ましい。具体的には、塩素ガスを濃硫酸と接触させる方法が好適である。
【0018】
また、酸素は、塩素ガスを液化させ、該液化した塩素の一部をガス化することによって塩素よりも沸点の低い成分である酸素、水素等を分離精製する方法が好適である。
上記の塩素ガスを液化する方法は、公知の方法が特に限定なく採用される。一般的には、0.1〜1.5MPaGの圧力下で、該圧力での塩素ガスの沸点以下の温度に冷却させる方法により実施されるのが好ましい。その際、冷却器の冷媒としては、水等を用いてもよいが、塩素の圧力を低くできることから、通常は、フッ化炭化水素類系溶媒を用いて−50〜0℃で冷却する方法により行うのが好ましい。
【0019】
上記ガス化にはフラッシュドラムが一般に使用される。ここで、フラッシュドラムの温度、圧力等の条件により、精製後の液化塩素中に含まれる酸素量と塩素ロス量には違いは生じるが、一定の条件下においては、一般的に、液化塩素中の酸素量を低減すれば、塩素ロス量は増加し、液化塩素中の酸素量を増加すれば、塩素ロス量は減少する。
【0020】
従って、低次塩素化メタン類の塩素化反応において、上記液化塩素中の酸素量の許容限度が高くなれば、酸素低減のためにロスしている塩素が低減できるのでこの効果は大きい。また、後述するように、ロスしている塩素は、アルカリで吸収除去する必要があり、ロス塩素の低減は、該アルカリを低減する意味においても有効である。
【0021】
また、塩素からの前記金属分の除去は、液化塩素を気化させて反応器に供給する際に、釜残液中に金属分が残存するように気化を実施することによって行なうことができる。この場合、金属分が飛沫となって塩素ガスに同伴されるのを防止するため、上記気化を行なう気化器内の上昇ガス流速を低く保つことが好ましい。一般には、ガスの上昇流速が0.5m/秒以下、好ましくは、0.1〜0.3m/秒となるように調整される。
【0022】
また、金属分の除去には、フィルターを使用することも効果的である。上記フィルターとしては、その孔径が50μm以下、好ましくは、40μm以下、特に好ましくは、5〜30μmのものが好適である。上記フィルターとしては、具体的には、焼結体、不織布等のフィルターが使用される。
【0023】
本発明において、低次塩素化メタン類としては、塩化メタン、塩化メチレンが一般に使用される。上記塩化メタンは公知の方法、例えば、メタノールと塩化水素との反応によって得られたものを使用することが一般的である。また、塩化メチレンとしては、低次塩素化メタン類を塩素化して得られた高次塩素化メタン類を分離精製する過程で得られる塩化メチレンの一部を循環して使用することができる。
【0024】
本発明において、低次塩素化メタン類の精製は、水分が中心となるが、必要に応じて金属分を低減する。かかる方法は、公知の方法が特に制限なく採用される。具体的には、水分の低減は、脱水剤と接触することによって行なうことができる。具体的には、前記塩素ガスと同様、低次塩素化メタン類を、濃硫酸と接触させる態様、無水塩化カルシウムと接触させる態様等が挙げられる。
【0025】
また、金属分の低減は、前記塩素中の金属分の低減において採用されるフィルターによって行なうことが好ましい。
【0026】
本発明において、低次塩素化メタン類と塩素との反応、即ち、塩素化反応態様は、公知の方法が特に制限無く採用される。一般には、ラジカル発生後に水を発生しない、過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリル等のラジカル発生触媒の存在下に、低次塩素化メタン類が液相を維持する条件下で、塩素ガスを供給して塩素化を行なう方法が推奨される。この場合、反応温度は、70〜200℃、反応圧力は、1〜5MPaGが一般的である。
【0027】
本発明において重要な条件は、上記反応に供する低次塩素化メタン及び塩素中に含まれる総金属分の割合を、総供給量に対して5質量ppm以下、好ましくは、3質量ppm以下、且つ、総水分の割合を総供給量に対して30質量ppm以下、好ましくは、20質量ppm以下に調整することにある。
【0028】
即ち、本発明は、塩素化反応を阻害する要因として、前記したように、水分、金属分及び酸素が考えられるが、水分及び金属分をある量以下に調整することにより、阻害要因の一つである酸素の許容量が著しく増加し、それによって酸素の精製における塩素の損失を極めて効果的に低減することができるという知見に基づくものであり、かかる知見は本発明者らによって初めて見出されたものである。
【0029】
従って、前記低次塩素化メタン及び塩素中に含まれる総金属分の割合が、総供給量に対して5質量ppmを超えた場合、或いは、前記低次塩素化メタン及び塩素中に含まれる総水分の割合を総供給量に対して30質量ppmを超えた場合、特に、原料の塩素中の酸素量が極めて低くなるまで、具体的には、25質量ppm以下、場合によっては5質量ppm以下まで低減しなければ、安定した塩素化反応を行なうことができなくなる。
【0030】
これに対して、本発明の方法は、前記設定した水分量及び金属分の総量を、原料の総量に対して、本発明の範囲内に調整することによって、酸素の許容量を40質量ppm程度にまで挙げることができ、前記精製における塩素の損失を好都合に防止することができ、工業的に有利なプロセスを組むことができる。
【0031】
尚、上記原料からの水分及び金属分の低減は比較的容易に行なうことができ、原料から酸素を低減する程の原料の損失などの問題も無く実施することができる。
【0032】
本発明の方法を、その一実施態様を示す図1に従ってさらに具体的に説明する。
【0033】
図1において、塩素供給施設より、脱水剤と接触後(図示せず)、塩素供給配管1を通して送られてきた塩素は、フィルター2を通過させて金属分等を低減させた後、塩素冷却器3において冷却して液化塩素とする。液化塩素は配管4を通して、液化塩素受液ドラム5に送られる。液化した塩素は、ポンプ7を用いて、塩素冷却器8を通して、圧力を調整した塩素フラッシュドラム9に導き、フラッシュさせる。ここで、ガス相は配管10を介してリサイクルする。塩素フラッシュドラム9の液化塩素はポンプ11により、塩素ガス気化器12において気化させ、続いて塩素ガスフィルター13を通して、低次塩素化メタンと塩素を反応させる反応器14に供給される。
【0034】
一方、液化塩素受液ドラム5等において、凝縮しないガスとこれに同伴する塩素ガスは配管6から、アルカリ配管15によってアルカリを供給されている塩素除害塔16に導かれ吸収除害される。
【0035】
該フラッシュドラムにおいて排出される未凝縮ガスと同伴する塩素ガスは、アルカリ洗浄塔に送られる。アルカリ洗浄塔に使用されるアルカリは、一般的に使用されている石灰乳、苛性ソーダ等がなんら障害なく使用できる。また、濃度も、反応による発熱、反応により生成する成分によるスケール等を考慮して設定すればよい。一般的には、5〜20質量%の範囲が良好である。更に好ましくは、6〜10質量%の範囲がより好的である。
【0036】
一方、除害されない酸素等は未吸収ガス配管17から大気中に放出される。また、塩素を除害した排水はアルカリ除害排水18として取り出された後に処理され排出される。
また、低次塩素化メタンは、配管19とこれに続く低次塩素化メタンフィルター20を介して反応器14に供給され、高次塩素化メタンを生成する。
【0037】
本発明において、さらに具体的に説明するために、下記に実施例及び比較例を掲げて説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
実施例1
図1に示した本発明の塩素の供給方法を採用した高次塩素化メタン類の製造プロセスにより、高次塩素化メタン類を製造した。反応器への塩化メチル、塩化メチレンの供給は9.8kg/h、塩素は、酸素を55質量ppm含有したものを9.2kg/hで供給し、ラジカル開始剤の存在下、温度100℃、圧力2.7MPaGの液相下で反応させた。このときの原料から持ち込れた鉄は2質量ppm、水分は14質量ppmであった。反応開始後の反応器内は、温度、圧力共に安定して進行した。なお、塩素中の酸素を55質量ppmに精製するための塩素ロス量は1.5質量%であった。
【0039】
実施例2
供給する塩素中の酸素濃度を40質量ppmとして、原料から持ち込れた鉄を4質量ppm、水分を18質量ppmとする以外は実施例1と同様に行った。反応開始後の反応器内は、温度、圧力共に安定して進行した。なお、塩素中の酸素を40質量ppmに精製するための塩素ロス量は2.5質量%であった。
【0040】
実施例3
供給する塩素中の酸素濃度を20質量ppmとして、原料から持ち込れた鉄を4質量ppm、水分を18質量ppmとする以外は実施例1と同様に行った。反応開始後の反応器内は、温度、圧力共に安定して進行した。なお、塩素中の酸素を20質量ppmに精製するための塩素ロス量は3質量%であった。
【0041】
比較例1
供給する塩素中の酸素濃度を5質量ppmとして、原料から持ち込れた鉄を2質量ppm、水分を35質量ppmとする以外は実施例1と同様に行った。反応開始後の反応器内は、温度、圧力共に若干変動があり、特に、温度は最大で5℃の変動があり、危険であったので反応を継続することはできなかった。なお、塩素中の酸素を5質量ppmに精製するための塩素ロス量は5質量%であった。
【0042】
比較例2
供給する塩素中の酸素濃度を5質量ppmとして、原料から持ち込れた鉄を6質量ppm、水分を18質量ppmとする以外は実施例1と同様に行った。反応開始後の反応器内は、温度、圧力共に若干変動があり、特に、温度は最大で5℃の変動があり、危険であったので反応を継続することはできなかった。なお、塩素中の酸素を5質量ppmに精製するための塩素ロス量は5質量%であった。
【0043】
比較例3
供給する塩素中の酸素濃度を5質量ppmとして、原料から持ち込れた鉄を6質量ppm、水分を35質量ppmとする以外は実施例1と同様に行った。反応開始後の反応器内は、温度、圧力共に変動し、特に、温度は最大で7℃の変動があり、危険であったので反応を継続することはできなかった。なお、塩素中の酸素を5質量ppmに精製するための塩素ロス量は5質量%であった。
【0044】
上記実施例及び比較例の条件と結果を表1にまとめて示す。
【0045】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の方法の高次塩素化メタンの好適な実施形態を示す工程図
【符号の説明】
【0047】
1:塩素供給配管
2:塩素フィルター
3:塩素冷却器
4:塩素冷却器と液化塩素受液ドラムを繋ぐ配管
5:液化塩素受液ドラム
6:液化塩素受液槽と除害設備を繋ぐ配管
7:ポンプ
8:塩素冷却器
9:塩素フラッシュドラム
10:フラッシュガス配管
11:ポンプ
12:塩素ガス気化器
13:塩素フィルター
14:反応器
15:アルカリ配管
16:塩素除害塔
17:未吸収ガス配管
18:アルカリ除害排水
19:低次塩素化メタン配管
20:低次塩素化メタンフィルター
21:高次塩素化メタントップ配管
22:高次塩素化メタンボトム配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低次塩素化メタン類と塩素とを反応器に供給して高次塩素化メタン類を製造するに際し、上記反応器に供給する低次塩素化メタン類及び塩素の総供給量に対して、該低次塩素化メタン類及び塩素中に含まれる総金属分の割合を5質量ppm以下、且つ、総水分の割合を総供給量に対して30質量ppm以下に調整することを特徴とする高次塩素化メタン類の製造方法。
【請求項2】
反応器に供給する塩素の精製工程として、塩素ガスをフィルターに通過せしめて金属分を低減する処理、塩素ガスを液化させた後蒸留して酸素を除去する処理、及び、塩素を濃硫酸と接触せしめて水分を低減させる処理を有する請求項1記載の高次塩素化メタン類の製造方法。
【請求項3】
液化した塩素ガスの気化を行なうために気化器を使用し、該気化器内において、塩素ガスの上昇流速が0.5m/秒以下となる領域を設ける請求項2記載の高次塩素化メタン類の製造方法。
【請求項4】
反応器に供給する低次塩素化メタン類の精製工程として、低次塩素化メタン類をフィルターに通過せしめて金属分を低減する処理、及び、低次塩素化メタン類を濃硫酸と接触せしめて水分を低減させる処理を有する請求項1記載の高次塩素化メタン類の製造方法。

【図1】
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