説明

高比表面積ピッチの製造方法

【課題】本発明は、新規な高比表面積ピッチの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の高比表面積ピッチの製造方法は、ピッチをヨウ素処理する方法である。ここで、ヨウ素処理は、ピッチにヨウ素蒸気を接触させる処理であることが好ましい。また、ヨウ素処理は、ピッチとヨウ素を入れた容器を加熱することが好ましい。また、ヨウ素処理の温度は、60℃以上かつピッチの軟化点未満の範囲内にあることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な高比表面積ピッチの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヨウ素は、ピッチ繊維(例えば、特許文献1,2参照。)あるいはバルク材の不融化処理あるいは形状保持(例えば、非特許文献1,2参照。)に利用されている。
【0003】
ピッチはヨウ素処理により軟化点以下で脱水素化重縮合反応をおこし、構成分子が架橋化する(非特許文献3,4参照。)。ヨウ素処理の特徴の一つとして、ピッチの軟化点以下での処理が可能なことがあげられる。
【0004】
ピッチ自身の比表面積あるいはガス吸着量を向上させることができれば、ヨウ素のみではなくガスを用いる改質処理を飛躍的に改善できると考えられる。
【0005】
【特許文献1】特開平2-80620
【特許文献2】特開平1-314734
【非特許文献1】E.Yasuda et al: TANSO No.170 (1995) 286-289
【非特許文献2】H.Kajiura et al: Carbon 35 (1997) 169-174
【非特許文献3】N.Miyajima et al: Carbon 39 (2001) 647-653
【非特許文献4】Y.Tanabe et al: Carbon 42 (2004) 1555-1564
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、ヨウ素は、ピッチ繊維あるいはバルク材の不融化処理あるいは形状保持に利用されている。しかし、これらは、いずれも炭素化時の不融化あるいは形状保持、さらには得られる炭素の特性向上を目的としており、ピッチ自身の改質を目的としたものではない。
【0007】
上述したように、ピッチ自身の比表面積あるいはガス吸着量を向上させることができれば、ヨウ素のみではなくガスを用いる改質処理を飛躍的に改善できると考えられる。しかし、ピッチ自身の比表面積あるいはガス吸着量を増大させる試みは、まだなされていない。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、新規な高比表面積ピッチの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の高比表面積ピッチの製造方法は、ピッチをヨウ素処理する方法である。
【0010】
ここで、限定されるわけではないが、ピッチは、軟化点が300℃以下の石炭系ピッチまたは石油系ピッチであることが好ましい。また、限定されるわけではないが、ヨウ素処理は、ピッチにヨウ素蒸気を接触させる処理であることが好ましい。また、限定されるわけではないが、ヨウ素処理は、ピッチとヨウ素を入れた容器を加熱することが好ましい。また、限定されるわけではないが、ヨウ素処理の温度は、60℃以上かつピッチの軟化点未満の範囲内にあることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
本発明は、ピッチをヨウ素処理するので、新規な高比表面積ピッチの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、高比表面積ピッチの製造方法にかかる発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0013】
本発明の高比表面積ピッチの製造方法は、ピッチをヨウ素処理する方法である。
【0014】
ここで、ピッチは、軟化点が300℃以下の石炭系ピッチまたは石油系ピッチであることが好ましい。これ以上の軟化点のピッチを用いると試料全体にわたっての処理が難しく、処理斑が生じる。
【0015】
ピッチの形状は、特定の形状に限定されるわけではなく、あらゆる形状を採用することができる。
【0016】
ピッチの大きさは、特に限定されるわけではないが、つぎの条件を満足していることが好ましい。ピッチ内部に存在するすべての点について、その点と、その点に最も近い外表面との直線距離が、50mm以下であることが好ましい。ピッチ内部のその点と、その点に最も近い外表面との直線距離が50mm以下であると、試料全体にわたる処理が可能となり、処理斑の生成を防げる。
【0017】
本発明の適用対象として、ピッチについて説明した。本発明の適用対象はこのピッチに限定されない。このほか、例えば、ヨウ素処理時に脱水素化重合する化合物であれば、全ての化合物を採用することができる。
【0018】
ヨウ素処理とは、ピッチにヨウ素蒸気を接触させる処理である。具体的には、ヨウ素処理とは、ピッチとヨウ素を入れた容器を加熱する処理である。
【0019】
ヨウ素処理をする前に、ピッチとヨウ素を入れた容器の脱気を行うことが好ましい。脱気を行うことにより、副反応を抑制し、ヨウ素処理の効率を高めることができる。なお、ヨウ素処理をする前に容器の脱気を行うことは、必ずしも必要でない。
【0020】
ヨウ素処理においては、ピッチとヨウ素を入れた容器を加熱することにより、ヨウ素が昇華しヨウ素蒸気が発生する。これにより、ピッチにヨウ素蒸気を接触させることができる。ヨウ素蒸気の蒸気圧またはヨウ素蒸気の濃度は、特に限定されるものではない。
【0021】
ヨウ素処理における、容器の加熱方法としては、オイルバスによる加熱方法を採用することができる。加熱方法は、このオイルバスによる加熱方法に限定されるわけではなく、その他の加熱方法を採用することができる。
【0022】
ヨウ素処理における温度は、60℃以上かつピッチの軟化点未満の範囲内にあることが好ましい。また、温度は70℃以上かつ軟化点より30℃低い温度以下の範囲内にあることがさらに好ましい。
【0023】
温度が60℃以上であると、試料全体の処理ができ、特性斑を抑えることができるという利点がある。温度が70℃以上であると、この効果がより顕著になる。
【0024】
温度がピッチの軟化点未満であると、処理中の試料の形状保持性が高く、試料の変質が少ないという利点がある。温度が軟化点よりも30℃低い温度以下であると、この効果がより顕著になる。
【0025】
上記では、ピッチにヨウ素蒸気を接触させることについて説明した。ピッチに接触させるのはヨウ素蒸気に限定されない。このほか、水溶液または固体などを採用することができる。
【0026】
軟化点以下の温度でピッチにヨウ素蒸気を接触させることで、比表面積ならびにガス吸着量の向上を図ることができる。
【0027】
ヨウ素処理を施して比表面積が増加する理由としては、ヨウ素処理によりピッチの重縮合反応時に3次元的な架橋構造を形成することにより、分子間にガス吸着が可能な微細空間ができるためと考えられる。
【0028】
以上のことから、本発明を実施するための最良の形態によれば、ピッチをヨウ素処理することにより、新規な高比表面積ピッチの製造方法を提供することができる。
【0029】
なお、本発明は上述の発明を実施するための最良の形態に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【実施例】
【0030】
つぎに、本発明にかかる実施例について具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではないことはもちろんである。
【0031】
最初に、試料の作製方法について説明する。
【0032】
軟化点101℃のピッチ10gを容器内にヨウ素の粉末とともに入れ、真空脱気して70℃オイルバス中で24時間のヨウ素処理を行った。その後、室温でヒドラジンに30分浸して乾燥させて試料を作製した。また、ヨウ素処理後、さらにはヒドラジン洗浄処理後のピッチを不活性雰囲気中1000℃で炭素化した試料も作製した。これらについて、窒素ガス吸着測定を行った。
【0033】
上記作製した試料について、評価を行った。評価方法について説明する。
吸着測定は容量法を用い、試料重量500mgについて液体窒素温度下(77K)で行った。
比表面積はBET法で計算した。
【0034】
上記作製した試料についての評価結果について説明する。
【0035】
比表面積(ピッチ)
表1にBETプロットから求めたピッチの比表面積を示す。ヨウ素処理を施すことにより比表面積が10倍以上になっていることが分かる。
【0036】
【表1】

【0037】
窒素ガス吸着量と窒素相対圧との関係(ピッチ)
図1にヨウ素処理の有無による窒素ガス吸着量を示す。ヨウ素処理を施すことにより、吸着量が増加している。
【0038】
比表面積(炭素化処理試料)
ヨウ素処理した1000℃炭素化処理試料の比表面積は、ヨウ素処理していない1000℃炭素化処理試料の比表面積に比べて増加していた。
【0039】
以上のことから、本実施例によれば、ヨウ素処理することでピッチ自体の比表面積を一桁大きくすること、ガス吸着量を増加させることができる。これらは、ヨウ素による脱水素化重合、電荷移動錯体の形成によりもたらされるピッチ原料分子の3次元架橋化によってもたらされる。ガスを用いたピッチ原料の機能化処理に有効に作用することを意味する。また、本実施例によれば、ピッチをヨウ素処理して炭素化することで、比表面積を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】ヨウ素処理の有無による窒素ガス吸着量を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピッチをヨウ素処理する
高比表面積ピッチの製造方法。
【請求項2】
ピッチは、軟化点が300℃以下の石炭系ピッチまたは石油系ピッチである
請求項1記載の高比表面積ピッチの製造方法。
【請求項3】
ヨウ素処理は、ピッチにヨウ素蒸気を接触させる処理である
請求項1記載の高比表面積ピッチの製造方法。
【請求項4】
ヨウ素処理は、ピッチとヨウ素を入れた容器を加熱する
請求項3記載の高比表面積ピッチの製造方法。
【請求項5】
ヨウ素処理の温度は、60℃以上かつピッチの軟化点未満の範囲内にある
請求項3記載の高比表面積ピッチの製造方法。

【図1】
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