説明

高比重リポ蛋白コレステロールの測定方法

【課題】沈殿試薬を用いて、HDL以外のリポ蛋白を選択的に沈殿させるHDLコレステロールの測定方法において、沈殿試薬の溶解性の良化、攪拌効率の向上、沈殿物の分離を容易とする。
【解決手段】体液試料中のHDLコレステロール以外のリポ蛋白コレステロールを選択的に分画して沈殿させる沈殿試薬を用いて高比重リポ蛋白コレステロールを分画して測定する高比重リポ蛋白コレステロールの測定方法において、前記沈殿試薬に不溶性粒子を添加する。これにより、不溶性粒子が、沈殿試薬の結晶の中に入り込み、試薬溶解性が向上する。また、攪拌時に不溶性粒子が攪拌子の役割を果たして攪拌効率が向上し、少ない攪拌時間で良好に攪拌することができる。また、単に、沈殿試薬に不溶性粒子を添加するだけなので、沈殿試薬と不溶性粒子とを結合させる場合のような制限を生じない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高比重リポ蛋白中のコレステロールを測定する測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リポ蛋白には複数の種類があり、比重の差によって分類すると、カイロミクロン(比重<0.96)、超低比重リポ蛋白(以下、VLDLと称す)(0.96≦比重<1.006)、低比重リポ蛋白(以下、LDLと称す)(1.006≦比重<1.063)、高比重リポ蛋白(以下、HDLと称す)(1.063≦比重<1.21)に分けられる。
【0003】
単にコレステロール値が高いと言っても、LDL中のコレステロールが多いのか、HDL中のコレステロールが多いのかによって臨床的な意義がまったく異なるため、臨床的な意義を知る必要がある場合には、リポ蛋白を分画して定量する必要性が生じている。
【0004】
HDLを分画する方法としては、現在までに、HDL以外のリポ蛋白を選択的に沈殿させる沈殿試薬を用いてHDLを分画する方法が報告されており、広く利用されている。
これら従来の沈殿試薬を用いたHDLコレステロールの測定は、試料に沈殿試薬を加えて混合して静置した後、遠心分離によりリポ蛋白中のカイロミクロン、VLDL、LDLを沈殿させ、上清中に残存するHDLを分画し、その中のコレステロールを公知のコレステロール測定法にて測定することによりHDLコレステロール濃度を求めている。
【0005】
この際に使用される沈殿試薬としては、硫酸多糖類(ヘパリン、硫酸アミロペクチン、硫酸デキストラン、硫酸アミロース、Kアガー等)、ポリアニオン(リンタングステン酸、リンモリブデン酸等)、界面活性剤(コール酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等)、ポリビニルピロリドン、二価カチオンを、それらを単独もしくは複数を共存させた状態で用いられる。
【特許文献1】特開昭63−18269号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの沈殿試薬を用いた従来のHDLコレステロールの測定方法では、沈殿試薬を乾燥させて用いる時に、十分な攪拌を行わなければ試薬が溶解せず、従って生体試料が微量である等の理由で攪拌効率が低い場合には試薬の溶解と溶液中での拡散とが均一でないという課題がある。また従来法により生じるHDL以外のリポ蛋白の沈殿は非常に粒子が小さく、かつ比重も水に近いため、検体が少量である場合には分離が困難である欠点もある。
【0007】
上記のような理由から、検体(試料液)が微量である場合には測定結果にばらつきを生じている。近年では、少量の検体を吸引して分析を自動で行うバイオセンサー等が開発されているが、上記のような課題や欠点があるため、HDLコレステロールを測定対象とするバイオセンサー等の開発は困難である。
【0008】
なお、特許文献1では、不溶性担体に、沈殿試薬としての硫酸多糖類を結合させた沈殿剤を用いる方法が記載されている。このように、沈殿試薬(硫酸多糖類)と不溶性担体を結合させることで、凝集物の比重が重くなることによって遠心分離などを行わなくても、攪拌し静置するだけで、HDLを分画できる利点がある。
【0009】
しかしながら、この方法では、不溶性担体と沈殿試薬とを結合させる必要があり、不溶性担体または沈殿試薬が反応基を有している場合等には、特定の試薬組成に限定されるだけでなく、このような条件を満たすもの(特許文献1に記載されているイオン交換セルロースや高分子アガロース等)は乾燥後、短時間で可溶化して性能を発揮するものは少なく、乾燥試薬には不向きである。また、沈殿試薬を別途に準備する必要があり、簡便性に欠けるという問題もある。
【0010】
本発明は上記課題や問題を解決するもので、沈殿試薬を用いて、HDL以外のリポ蛋白を選択的に沈殿させるHDLコレステロールの測定方法において、沈殿試薬の溶解性の良化、攪拌効率の向上、沈殿物の分離を容易とすることを目的としている。
【0011】
さらに本発明は上記のような沈殿試薬の問題解決により、少量検体からHDLコレステロールの測定を自動で、簡便かつ迅速に行うバイオセンサーを提供することもでき、また、このバイオセンサー上において、乾燥状態で担持し、安定した測定結果を得ることができる沈殿試薬を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明は、体液試料中のHDLコレステロール以外のリポ蛋白コレステロールを選択的に分画して沈殿させる沈殿試薬を用いて高比重リポ蛋白コレステロールを分画して測定する高比重リポ蛋白コレステロールの測定方法であって、前記沈殿試薬に不溶性粒子を添加することを特徴とする。
【0013】
この方法により、沈殿試薬に添加された不溶性粒子によって、沈殿試薬により沈殿物を生成する際に凝縮作用が促進され、良好に、高比重リポ蛋白コレステロール以外のリポ蛋白コレステロールを除去することができる。そして特に、沈殿試薬と不溶性粒子とを結合させるのではなくて、単に、沈殿試薬に不溶性粒子を添加するだけなので、沈殿試薬と不溶性粒子とを結合させる場合のような制限を生じることがなく、使用環境に応じて、例えば、液体状態での使用に適した形や、乾燥状態での使用に適した形で、容易に使用できる。さらに、乾燥状態での使用に適した形に製造する際に、不溶性粒子が沈殿試薬の結晶の中に入り込み、試薬溶解性が向上して、攪拌時に不溶性粒子が攪拌子の役割を果たして攪拌効率が向上する。従って少量の検体またはその希釈液と接触してから短い時間で溶解、攪拌することができ、その結果、測定時間の短縮化を図ることができる。
【0014】
また、本発明の高比重リポ蛋白コレステロールの測定方法は、沈殿試薬が、硫酸多糖類、ポリアニオン、界面活性剤、ポリビニルピロリドン、二価カチオンの単独もしくは複数で構成されていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の高比重リポ蛋白コレステロールの測定方法は、沈殿試薬が乾燥状態で体液試料またはその希釈液と接触することを特徴とする。
また、本発明の高比重リポ蛋白コレステロールの測定方法は、沈殿試薬によって高比重リポ蛋白以外のリポ蛋白を沈殿させた後、上清の高比重リポ蛋白中のコレステロールを測定することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の高比重リポ蛋白コレステロールの測定方法は、高比重リポ蛋白中のコレステロールを酵素法により測定すること特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
以上のように本発明によれば、沈殿試薬に不溶性粒子を添加することで、沈殿試薬により沈殿物を生成する際に凝縮作用を促進し、良好に高比重リポ蛋白コレステロール以外のリポ蛋白コレステロールを除去することができる。そして、沈殿試薬と不溶性粒子とを結合させるのではなくて、単に、沈殿試薬に不溶性粒子を添加するだけなので、沈殿試薬と不溶性粒子とを結合させる場合のような制限を生じることがなく、容易に乾燥状態での使用に適した形で使用できる。しかも、乾燥状態での使用に適した形に製造する場合に、不溶性粒子が沈殿試薬の結晶の中に入り込むことで試薬溶解性が向上し、さらに攪拌時に不溶性粒子が攪拌子の役割を果たして攪拌効率が向上する。従って少量の検体またはその希釈液と接触してから短い時間で溶解、攪拌することができ、その結果、測定時間の短縮化を図ることができる。
【0018】
また、この高比重リポ蛋白コレステロールの測定方法は、沈殿試薬を乾燥状態で容易に準備でき、かつ溶解性、攪拌性、さらには凝集効率の良化も見込めるため、少量検体からHDLコレステロールの測定を自動で、簡便かつ迅速に行うことを目的としたバイオセンサー上に乾燥状態で担持することができ、このようなバイオセンサーを用いることで、安定した測定結果を得ることも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態に係る高比重リポ蛋白コレステロール(以下、HDLコレステロールと略す)の測定方法について説明する。なお、ここで示す実施の形態はあくまでも一例であって、必ずしもこの実施の形態に限定されるものではない。
【0020】
本発明の実施の形態に係るHDLコレステロールの測定方法では、体液試料中のHDLコレステロール以外のリポ蛋白コレステロールを選択的に分画して沈殿させる沈殿試薬に対し、潮解性およびその後のコレステロール測定反応に科学的影響を与えない不溶性粒子を添加し、沈殿生成時に凝縮を促進させている。なお、不溶性粒子としてはポリスチレン粒子等の粒子径100nm以上のものが望ましい。また、沈殿試薬としては、硫酸多糖類、ポリアニオン、界面活性剤、ポリビニルピロリドン、二価カチオンの、単独もしくは複数で構成されている。
【0021】
この不溶性粒子を添加した沈殿試薬を、少量の検体(体液試料)からHDLコレステロールの測定を自動で、簡便かつ迅速に行うバイオセンサーとして用いる場合には、沈殿試薬を乾燥状態で体液試料またはその希釈液と接触させるよう構成する。
【0022】
そして、沈殿試薬によってHDL以外のリポ蛋白を沈殿させた後、上清のHDL中のコレステロールを測定することで、体液試料中のHDLコレステロールを良好に測定することができる。なお、HDL中のコレステロールは酵素法により測定することが好ましいが、これに限るものではない。
【0023】
この方法により、不溶性粒子が、沈殿試薬の結晶の中に入り込み、試薬溶解性が向上する。また、攪拌時に不溶性粒子が攪拌子の役割を果たして攪拌効率が向上し、少ない攪拌時間で良好に攪拌することができて測定時間の短縮化を図ることができるだけでなく、溶液を均一な濃度分布とすることができるので、測定結果のばらつきを最小限に抑えることができて、信頼性を向上させることができる。さらに、HDL以外のリポ蛋白凝集の際には不溶性粒子に凝集物が集められる結果、遠心分離が容易となるだけでなく、これらの理由から迅速に安定した測定結果を得ることができる。
【0024】
また、特に、沈殿試薬と不溶性粒子とを結合させるのではなくて、単に、沈殿試薬に不溶性粒子を添加するだけなので、沈殿試薬と不溶性粒子とを結合させる場合のような制限を生じることがなく、使用環境に応じて、例えば、液体状態での使用に適した形や、乾燥状態での使用に適した形で、容易に使用できる。したがって、沈殿試薬を乾燥状態で容易に準備でき、かつ溶解性、攪拌性、さらには凝集効率の良化も見込めるため、少量検体からHDLコレステロールの測定を自動で、簡便かつ迅速に行うことを目的としたバイオセンサー上に乾燥状態で担持することができ、このようなバイオセンサーを用いることで、安定した測定結果を得ることも可能となる。
【0025】
ここで、図1、図2は、不溶性粒子の一例としてのラテックスを添加していない場合と、添加した場合との比較例を示すもので、図1(a)、図2(a)は、不溶性粒子(ラテックス)を添加していない場合の、攪拌時間と、その後に静置した時間によるLDLの残存率を示し、図1(b)、図2(b)は、不溶性粒子(ラテックス)を添加している場合の、攪拌時間と、その後に静置した時間によるLDLの残存率を示す。
【0026】
図1(a)、図2(a)に示すように、沈殿試薬に不溶性粒子を添加していない場合において、攪拌時間が短い場合(10秒の場合)には、時間と共にLDLの残存率が極めて増加するなど、沈殿試薬自体の機能が維持されず、HDLを分画すること自体が無理である。これらに対して、沈殿試薬に不溶性粒子を添加した場合には、攪拌時間が短い場合(10秒の場合)でも、LDLの残存率が低いとともに、時間と共にLDLの残存率が減少し、良好にHDLを分画することができる。また、攪拌時間がある程度長い場合(20秒、または30秒の場合)でも、沈殿試薬に不溶性粒子を添加していない場合と比べて、沈殿試薬に不溶性粒子を添加した場合には、LDLの残存率が極めて低くなり、HDLを極めて良好に分画できていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の高比重リポ蛋白コレステロールの測定方法は、少量の検体(体液試料)からHDLコレステロールの測定を自動で、簡便かつ迅速に行うバイオセンサーとして用いる場合に、特に好適であるが、これに限るものではなく、各種の高比重リポ蛋白コレステロールの測定に対して有用である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】(a)は、沈殿試薬に不溶性粒子を添加していない場合の、攪拌時間と、その後に静置した時間によるLDLの残存率、(b)は、沈殿試薬に不溶性粒子を添加している場合の、攪拌時間と、その後に静置した時間によるLDLの残存率を示す図表
【図2】(a)は、沈殿試薬に不溶性粒子を添加していない場合の、攪拌時間と、その後に静置した時間によるLDLの残存率、(b)は、沈殿試薬に不溶性粒子を添加している場合の、攪拌時間と、その後に静置した時間によるLDLの残存率を示すグラフ図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液試料中の高比重リポ蛋白以外のリポ蛋白を選択的に沈殿させる沈殿試薬を用いて高比重リポ蛋白を分画し、高比重リポ蛋白中のコレステロールを測定する高比重リポ蛋白コレステロールの測定方法であって、
前記沈殿試薬に不溶性粒子を添加することを特徴とする高比重リポ蛋白コレステロールの測定方法。
【請求項2】
沈殿試薬が、硫酸多糖類、ポリアニオン、界面活性剤、ポリビニルピロリドン、二価カチオンの、単独もしくは複数で構成されていることを特徴とする請求項1記載の高比重リポ蛋白コレステロールの測定方法。
【請求項3】
沈殿試薬が、乾燥状態で体液試料またはその希釈液と接触することを特徴とする請求項1記載の高比重リポ蛋白コレステロールの測定方法。
【請求項4】
沈殿試薬によって高比重リポ蛋白以外のリポ蛋白を沈殿させた後、上清の高比重リポ蛋白中のコレステロールを測定することを特徴とする請求項1記載の高比重リポ蛋白コレステロールの測定方法。
【請求項5】
高比重リポ蛋白中のコレステロールを酵素法により測定すること特徴とする請求項3記載の高比重リポ蛋白コレステロールの測定方法。

【図1】
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【図2】
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