説明

高水溶性2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンを有効成分として含有する、肥満疾患の予防および治療用組成物

本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体(β−cyclodextrin derivatives)を有効成分とする、肥満の予防および治療用組成物に関するものであって、具体的には、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体、特に、2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリン(2−hydroxypropyl−β−cyclodextrin、HP−β−CD、HPBCD)を含有する組成物は、高脂肪食餌(high fat diet)により誘導される体重増加量を抑制し、食餌摂取量の減少による食欲抑制効果を有し、体脂肪を減少させ、肝重量を減少させ、空腹時にブドウ糖(glucose)および麦芽糖(maltose)の摂取により誘発される急激な血糖の上昇を顕著に阻害させることにより、肥満を予防および治療、肥満により誘発された多様な疾患を予防および治療、および食後の急激な血糖上昇を抑制するのに有用に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体、特に、2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンを有効成分とする、肥満の予防および治療用組成物、食欲抑制用組成物、または血糖降下用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満は全世界的に最も多い栄養障害の一つであって、消耗する熱量に比べて過度の熱量を摂取することにより、余分な熱量が体内に脂肪の形態で蓄積される現象をいう。WHOの統計資料によれば、現在、2億5千万人あまりの人口が肥満患者と分類され、20年後は約3億人の人口が肥満に苦しめられるものと予測される。米国の成人の約50%がBMI≧25の過体重あるいは肥満であることが分かり、最近の韓国国内の統計資料においても、成人4人中1人が体質量指数25以上の肥満であることが報告されている(Ministry of Health and Welfare.,Report on 1998 National health and nutrition survey,2000;Lee BG.,et al.,J.Kor.Soc.Study Obesity,11(2),pp131−140,2002)。
【0003】
肥満は、遺伝的影響、西欧化される食生活による環境的な影響、ストレスによる心理的な影響など、多様な原因により誘発されることが考えられているが、まだその正確な原因や機序については明確に定められていないのが現状である。しかし、肥満は、肥満そのものが有する問題のみならず、心血関係の疾患や糖尿のような疾病の原因としても作用し得るため、全世界的に肥満治療に多くの関心が集まっている(Manson,et al.,New England J,Med.,333,pp677−685,1995;Kopleman PG.,Nature,404,pp635−643,2000;Must,et al.,JAMA,282,pp1523−1529,1999)。
【0004】
また、肥満は、外形的な問題のみならず、各種成人病の発病と非常に深い関わりがあるが、肥満度が高くなるほど、糖尿病、胆石症、高血圧、心臓疾患および脳卒中などの有病率が増加する(Field AE.,et al.,Arch.Intern,Med,.161(13),pp1581−1586,2001;Cha BR.,et al.,Kor.J.Nutr.,36(5),pp483−490,2003)。したがって、肥満からもたされる財政的負担と人名的損失は多大である。米国で行われた疫学調査の結果は、1991年、肥満に関連する疾病による死亡者が28万人であり、その約80%がBMI≧30の高度肥満者であり、年間約120兆ウォンが肥満関連疾病の治療に消耗していることを示した。
【0005】
このように、体重調節への関心が高まるにつれ、20代女性の48.1%、30代女性の40%が、ここ1年間、体重減量を試みた経験があることが報告されている(Kae SH.,Patterns of body weight and diet for Korean−1998 National health and nutrition survey−Proceeding for Korean Cummunity Nutrition.,Society spring Conference,7−28,2001)。韓国国内のダイエット市場の規模は急速な速度で成長し、2001年には2000億ウォン、2002年には3000億ウォンと推定されており、正常な価格で輸入承認された体重調節食品は、ここ2年間で110倍も増加していることが発表された。しかし、このような製品が効果の面で問題になっており、使用期間中の副作用に関する事例が多数報告されている(Lee BG.,et al.,J.Kor.Soc.Study Obesity,11(2),pp131−140,2002;Food and environment.,2002年9月18日)。
【0006】
一方、肥満治療のための多様な方法と研究結果が提示されているが、肥満はエネルギーの過度の摂取または消耗量の減少により余剰エネルギーが体内に蓄積されるものであるため、肥満を治療し、適切な体重を維持するためには、根本的に生活習慣の改善が必要になる(Lee BG.,et al.,J.Kor.Soc.Study Obesity,11(2),pp131−140,2002;Wadden TA.,et al.,arch.of Intern.Med.,161,pp218−27,2001)。生活習慣を改善する過程で、低熱量食事療法は、基礎代謝率を上回る熱量を摂取させることにより、諸脂肪および基礎代謝率の減少を予防することができるという理論的根拠を持っている(Kang JH.,et al.,J.Kor.Acad.Fam.Med.,19(2),pp167−176,1998)。
【0007】
一方、食事療法とともに、肥満治療のもう1つの軸は運動療法である。規則的な運動が体重調節に有益であることは明らかな事実であるが、低熱量食事療法の併行が体重調節に追加的な効果があるかは、研究によって相反する結果を示す(Moyer CL.,et al.,Am.J.clin.Nutr.,50,pp1324−327,1989;Donnelly JE.,et al.,Am.J.clin.Nutr.,54,pp56−61,1991)。
【0008】
また、様々な食品の生体調節機能に関する研究が盛んに行われており、肥満分野においても、紅参、アロエ、ヒドロキシクエン酸(hydroxycitrate、HCA)、フラボノイド(flavonoid)、カルニチン(carnitine)、キトサン(chitosan)、カプサイシン(capsaicin)などの多様な食品素材を用いた体重減量効果に関する研究が行われている(Oh SJ.,et al.,J.Kor.Soc.Study Obesity,9,pp209−218,2000;Lee HY.,J.Kor.Soc.Study Obesity,6,pp75−84,1997;Moon SJ.,et al.,Korean J.Nutrition,30,pp155−169,1997)。
【0009】
このように、多様な肥満治療剤が開発されているにもかかわらず、これら肥満治療剤の肥満抑制活性が期待に及ばない場合が多く、持続的な服用時、目眩、喝き、嘔吐など、多様な副作用の症状を誘発する場合が多く、依然として肥満に対する効果的な治療の提供が要求されている。
【0010】
糖尿病(diabetes mellitus;DM)は、主に、膵膓のベータ細胞によるインシュリンの分泌が部分的にまたは完全に不足したり、あるいは細胞インシュリン受容体が不足するために生ずる炭水化物、脂肪および蛋白質代謝の複合的な慢性障害である。正常人の場合には、生体内ではインシュリンとグルカゴンというホルモンを作り、相互補完的に血糖を降下させたり増大させたりし、生体内の適正な血糖濃度を維持する。インシュリンは、ベータ−細胞で生産された後、貯蔵されていながら、血糖が高くなるとインシュリンを血液に分泌し、分泌したインシュリンは筋肉細胞や肝細胞表面のインシュリン受容体と結合して細胞に流入した後、血液内のD−ブドウ糖を体内に流入させ、糖代謝過程を稼働させる。
【0011】
韓国の場合、1970年代前は糖尿病患者が人口全体の0.5%程度であったため、医療界の関心が少なかったが、1980年代は2〜3%、1990年代に入っては、人口全体の4〜6%(約150〜200万人)が糖尿病患者と推定されており、糖尿病が発病した事実も知らないまま生活している人も相当数に及ぶ。
【0012】
糖尿病の症状は様々であるが、代表的なものとして、多尿、多飲、多食などを挙げることができるが、糖尿病患者の場合には、ブドウ糖がエネルギー源として使用できないため、すでに貯蔵された蛋白質と脂肪をエネルギー源として消耗することになり、このような現象の悪循環により体重減少をもたらす。
【0013】
糖尿病は、大別して、インシュリン依存型糖尿病(第1型糖尿病)と、インシュリン非依存型糖尿病(第2型糖尿病)とに分けられる。第1型糖尿病は、遺伝的原因、ウイルス感染などにより膵膓β細胞の機能が低下し、インシュリンがほとんど分泌されない状態であって、主に、10〜20代に急に発病し、若年発症性(juvenile−onset)、不安定性(brittle)またはケトン症性糖尿病であることが知られている。第2型糖尿病は、発病の原因が確かでないが、糖尿病に対する家族歴、肥満、ストレスなどの原因により40代以降によく現れる。第2型糖尿病の場合、膵膓でのインシュリン分泌は十分であるが、インシュリン抵抗性とブドウ糖利用率が正常人と異なり、高インシュリン血症であるにもかかわらず、血糖が正常化されず、成熟期発生性、成年発生性、ケトン症抵抗性または安定性糖尿病があるものとされている。
【0014】
糖尿病は、それ自体が深刻な疾患というよりは、糖尿病の治療が遅れて慢性になると発病する合併症、例えば、糖尿病性網膜症(視力障害、失明、網膜出血、網膜病症および白内障を招く)、糖尿病性腎症、糖尿病性末梢神経症、心臓および循環系疾患(血管症を招く)、歯周炎、骨減少症、皮膚疾患などが問題になる。このような糖尿病の病理学的合併症は高血糖症に根本的に比例することが知られている(Porte,Jr.等、1996)。
【0015】
現在よく用いられる糖尿病治療剤は、経口用血糖降下剤と、インシュリン注射剤とに大別される。一般的に、体内でインシュリン分泌のないインシュリン依存型糖尿病患者や、姙娠性糖尿病患者、経口用血糖降下剤では血糖調節がまともにできないインシュリン非依存型糖尿病患者にはインシュリン注射を、食事療法と運動療法を並行しているにもかかわらず、適切な血糖調節ができないインシュリン非依存型糖尿病患者には経口用血糖降下剤を服用させることが通説である。
【0016】
インシュリン注射は、主に、静脈または筋肉注射であるが、長期投与が必要な場合には皮下注射がほとんどである。皮下注射はインシュリンが急激に増加せず、食物摂取時にインシュリン分泌が減少し、肝循環よりは末梢循環をしてインシュリンの効果が減少するという欠点があった(Goodman等、The Pharmacological basis of Therapeutics,p1692)。
【0017】
一般的に用いられる経口用血糖降下剤は、スルホニルウレア系薬物とビグアニド系薬物、アルファ−グルコシダーゼ阻害剤などに区分できる(DeruiterのEndocrine Pharmacology Module,Spring,2003)。スルホニルウレア系薬物としては、グリピジド、グリクラジド、グリキドン、グリベンクラミド、クロルプロパミドなどがあり、膵膓でインシュリン分泌を促進する作用を示す。そのため、これらは膵膓でインシュリン分泌が全くないインシュリン依存型糖尿病患者には使用できず、膵膓でインシュリン分泌能力が相対的に減少したインシュリン非依存型糖尿病患者には使用されるが、奇形児(巨大児)の出産、流産、死産などが懸念されるため、可妊期の女性には使用できないという欠点があった。また、これらの薬物は過容量を投与したり、空腹時に投与する場合には、低血糖をもたらし、皮膚発疹、黄疸、食慾不振、悪心(嘔吐)、下痢などの副作用も現れる。ビグアニド系薬物としては、メトホルミンなどがあり、スルホニルウレア系薬物より血糖降下効果が弱いのに対し、低血糖を起こす可能性も低い。しかし、消化器系副作用の発生頻度が高く、治療初期に悪心、嘔吐、下痢、発疹などが現れ、乳酸アシドーシス(lactic acidosis)を誘発し、生命を脅かす致命的な副作用を起こすため、現在、米国では実験用薬剤としてしか使用していない。
【0018】
このように、糖尿病を調節するための今日の方法は、いくつかの方法に制限されており、これらの接近方法が人体の自然的な糖代謝調節と異なり、人体に否定的な影響を及ぼしており、依然として既存のインシュリンや経口血糖降下剤を代替する薬物の開発が要求されている。
【0019】
シクロデキストリン(cyclodextrin)は、6〜12のブドウ糖分子がアルファ−1,4−グリコシド結合をした環状のオリゴ糖であって、6のブドウ糖分子が連結されたアルファ(α)−シクロデキストリン、7のブドウ糖分子が連結されたベータ(β)−シクロデキストリン、8のブドウ糖分子が連結されたガンマ(γ)−シクロデキストリン、9のブドウ糖分子が連結されたデルタ(δ)−シクロデキストリン、10のブドウ糖分子が連結されたイプシロン(ε)−シクロデキストリン、11のブドウ糖分子が連結されたゼータ(ζ)−シクロデキストリンがある。その他、12以上のブドウ糖分子を有するシクロデキストリンが開発されている。
【0020】
シクロデキストリンは、疎水性の内部と親水性の外部とからなる3次元構造を有し、水に溶けながらも、多様な脂溶性物質を包接できる機能を有している。シクロデキストリンのかかる機能は、難溶性物質の溶解度を増加させるだけでなく、匂いや味の遮蔽、潮解性物質の安定化、刺激性の減少などを補助する役割を果たすことができるため、医薬、食品産業などで多様に活用されている。
【0021】
これまで、シクロデキストリンの用途には、有毒性揮発性質の粉体化と長期保存、悪臭物の無臭化、香料の揮発防止と保存、および粉末香料の基剤として使用可能であり、空隙内部の香りや匂い、および薬品の有効成分を捕集して徐々に放出するため、インシュリンを含む薬物伝達システムに使用可能であり、包接により不安定な物質と混合したり、一部の官能基を保護した状態で他の物質と反応させることができるため、包接作用反応促進剤または遅延剤として使用可能であり、難溶性物質に対する乳化機能があるため、乳化剤や界面活性剤として使用可能であり、酸化や光分解を防ぐため、紫外線に不安定な化合物や酸化しやすい物質に対する安定剤として使用可能であり、有害な重金属を捕集するため、生活廃水中の毒性物質の除去に使用可能であり、食品や飲料用基剤として長期間品質の安定剤として使用可能であり、抗菌剤を包接するため、包装剤、繊維、農薬の製造に使用可能であり、ゲルおよび増粘剤として使用可能であり、食物繊維および脂肪代替剤として使用可能である(イム・ボンサム、「幻想の多機能素材シクロデキストリン」、韓国科学技術情報研究院、研究報告書、2003)。
【0022】
一方、アルファシクロデキストリンは、FBCxという商品名として体重減少用食品補助剤として米国で市販されている。40%の大豆油を含有する高脂肪飼料にFBCx(総脂肪量の10%)を添加し、6週間、ラットに給与したとき、FBCxを添加しない高脂肪飼料給与群に比べて7.4%の体重低下が観察された(Artiss JD.,et al.,Metab.Clin.Exp.,55,pp195−202,2006)。第2型糖尿病を有する肥満患者を対象とした3ヶ月間の臨床試験で脂肪含有食事のみを摂った患者では体重が増加したのに対し、FBCxを脂肪含有食事とともに服用した患者では体重減少はなかったものの、増加してもいなかった(Grunberger G.,et al.,Diabetes Metab.Res.Rev.23,pp56−62,2007)。
【0023】
アルファシクロデキストリンは、内部空洞の直径が57nmであるが、アルファシクロデキストリンよりブドウ糖1分子をさらに含むベータシクロデキストリンは、内部空洞(cavity)が78nmであって、アルファシクロデキストリンよりも大きい分子を包接できることが知られており、より多様な分子との相互作用を予想することができる(Brewster ME and Loftsson T.,dv.Drug Deliv.Rev.59,pp645−666,2007)。アルファシクロデキストリンの脂肪との結合能試験を行った研究は、アルファシクロデキストリンにより形成されたエマルジョンの程度を測定することにより、アルファシクロデキストリンと脂肪とが1:9の割合で結合することを示した(Grunberger G.,et al.,Diabetes Metab.Res.Rev.23,pp56−62,2007)。
【0024】
一方、マウスとヒトを利用した抗肥満効果測定実験において、ベータシクロデキストリンは、それぞれ体重増加抑制および体重減少効果を発揮した(Kim DW.,et al.,Food Sci.Biotechnol.,17,pp700−704,2008,Park BS.,J.Korean Soc.Food Sci.Nutr.33,pp832−838,2004)。しかし、ベータシクロデキストリンは、水に対する溶解度が相対的に低く(25℃で18.5mg/ml)、高濃度の水溶性製剤を作るのに困難があることが知られている。
【0025】
2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンは、ベータシクロデキストリンとプロピレンオキシドとの反応により生成される誘導体であって、シクロデキストリンより高水溶性を示し、人体に無害であるため、医薬および食品産業などでシクロデキストリンの代替剤として多用されている。
【0026】
具体的には、2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンの用途に関するる報告としては、大韓民国公開特許第10−1995−0018059号でオメプラゾールの直腸粘膜を通した吸収および生物学的利用率増進剤として使用されており、大韓民国登録特許第10−0473716号では、ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンを乾癬およびアトピー性皮膚炎治療用皮膚外用剤として使用されており、大韓民国公開特許第10−2009−0084925号でうっ血性心不全症の予防または治療剤として使用されており、大韓民国公開特許第10−2009−0010953号で痲酔、抗炎症性または抗発熱性薬剤として使用されており、大韓民国登録特許第10−0441121号で皮膚美容組成物として使用されており、大韓民国公開特許第10−2008−0046164号でイオン化放射線の毒性効果減少用薬剤として使用されている。
【0027】
しかし、ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンが体重および体脂肪を減少させて食欲を抑制する効果があるという報告は皆無である。また、ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンが食後血糖降下効能を有するとか、糖尿病の治療に使用できるという報告はない。
【0028】
そこで、本発明者らは、より効率的な抗肥満剤を開発するために努力を重ね、その安定性が認められたベータシクロデキストリンの誘導体を実験した結果、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体、特に、2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンが高脂肪食餌(high fat diet)により誘導される体重増加量を抑制し、食餌摂取量の減少による食欲抑制効果を有し、体脂肪を減少させ、肝重量を減少させることにより、肥満を予防および治療し、肥満により誘発される多様な疾患を予防および治療するのに有用に使用できることを明らかにして、本発明に至った。
【0029】
また、本発明者らは、新たな血糖降下剤を開発するために努力を重ねたところ、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体、特に、ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリン(HPBCD)が、正常マウス(ICR)において、空腹時にブドウ糖(glucose)および麦芽糖(maltose)の摂取により誘発される急激な血糖上昇の抑制効能を有することを検証することにより、食後血糖降下用薬学的組成物の有効成分として有用に使用できることを明らかにして、本発明に至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
本発明の目的は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体(β−cyclodextrin derivatives)を有効成分として含有する、肥満の予防および治療用組成物を提供することである。
【0031】
本発明の他の目的は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効成分として含有する、食欲抑制用組成物を提供することである。
【0032】
本発明のさらに他の目的は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効成分として含有する、肥満により誘発される疾患の予防および治療用組成物を提供することである。
【0033】
本発明のさらに他の目的は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効成分として含有する、血糖降下用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0034】
上記の目的を達成するために、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体(β−cyclodextrin derivatives)を有効成分として含有する、肥満の予防および治療用薬学的組成物を提供する。
【0035】
また、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効成分として含有する、食欲抑制用薬学的組成物を提供する。
【0036】
さらに、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効成分として含有する、肥満により誘発される疾患の予防および治療用薬学的組成物を提供する。
【0037】
また、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効成分として含有する、体重増加抑制用薬学的組成物を提供する。
【0038】
さらに、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効成分として含有する、体脂肪減少用薬学的組成物を提供する。
【0039】
なお、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効成分として含有する、肥満の予防および改善用健康機能食品を提供する。
【0040】
また、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効成分として含有する、食欲抑制用健康機能食品を提供する。
【0041】
さらに、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効成分として含有する、肥満により誘発される疾患の予防および改善用健康機能食品を提供する。
【0042】
また、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効成分として含有する、体重増加抑制用健康機能食品を提供する。
【0043】
さらに、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効成分として含有する、体脂肪減少用健康機能食品を提供する。
【0044】
なお、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効な量で個体に投与する段階を含む、肥満の予防または治療方法を提供する。
【0045】
また、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効な量で個体に投与する段階を含む、個体の食欲を抑制する方法を提供する。
【0046】
さらに、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効な量で個体に投与する段階を含む、肥満により誘発される疾患の予防または治療方法を提供する。
【0047】
また、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効な量で個体に投与する段階を含む、個体の体脂肪を減少させる方法を提供する。
【0048】
さらに、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を肥満の予防または治療用組成物の製造に用いる用途を提供する。
【0049】
なお、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を食欲抑制用組成物の製造に用いる用途を提供する。
【0050】
また、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を肥満により誘発される疾患の予防または治療用組成物の製造に用いる用途を提供する。
【0051】
さらに、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を体脂肪減少用組成物の製造に用いる用途を提供する。
【0052】
また、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効成分として含有する、血糖降下用組成物を提供する。
【0053】
さらに、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効成分として含有する、胃腸管内での糖分解抑制用組成物を提供する。
【0054】
なお、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効成分として含有する、胃腸管内での糖吸収抑制用組成物を提供する。
【0055】
また、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効成分として含有する、血糖降下用健康機能食品を提供する。
【0056】
さらに、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効な量で個体に投与する段階を含む、個体の血糖降下方法を提供する。
【0057】
また、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効な量で個体に投与する段階を含む、個体の胃腸管内での糖分解を抑制する方法を提供する。
【0058】
さらに、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効な量で個体に投与する段階を含む、個体の胃腸管内での糖吸収を抑制する方法を提供する。
【0059】
なお、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を血糖降下用組成物の製造に用いる用途を提供する。
【0060】
また、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を胃腸管内での糖分解抑制用組成物の製造に用いる用途を提供する。
【0061】
これとともに、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を胃腸管内での糖吸収抑制用組成物の製造に用いる用途を提供する。
【発明の効果】
【0062】
本発明の高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体(β−cyclodextrin derivatives)、特に、2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリン(2−hydroxypropyl−β−cyclodextrin、HPBCD)は、顕著な体重増加抑制効果、食欲抑制効果、体脂肪減少効果および肝重量減少効果を示し、空腹時にブドウ糖および麦芽糖の摂取により誘発される急激な血糖の上昇を阻害する効果を示すことにより、肥満を予防および治療、肥満により誘発される疾患を予防および治療、および食後の急激な血糖上昇を抑制するのに有用に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
図中、weight(mg)は重量を、DAYSは日を、それぞれ意味する。
【図1】高脂肪食餌による肥満誘発マウスモデルにおいて、2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリン(2−HPBCD)を10、15、20%(W/V)含有する飲水を自主給与している間の体重減少効果を示すグラフである。
【図2】高脂肪食餌による肥満誘発マウスモデルにおいて、2−HPBCDを10、15、20%(W/V)含有する飲水を自主給与している間の飼料摂取量の変化を示すグラフである。
【図3】高脂肪食餌による肥満誘発マウスモデルにおいて、2−HPBCDを10、15、20%(W/V)含有する飲水を自主給与している間の皮下脂肪重量の変化を示すグラフである。
【図4】高脂肪食餌による肥満誘発マウスモデルにおいて、2−HPBCDを10、15、20%(W/V)含有する飲水を自主給与している間の生殖器脂肪重量の変化を示すグラフである。
【図5】高脂肪食餌による肥満誘発マウスモデルにおいて、2−HPBCDを10、15、20%(W/V)含有する飲水を自主給与している間の内臓脂肪重量の変化を示すグラフである。
【図6】高脂肪食餌による肥満誘発マウスモデルにおいて、2−HPBCDを10、15、20%(W/V)含有する飲水を自主給与している間の総脂肪重量の変化を示すグラフである。
【図7】高脂肪食餌による肥満誘発マウスモデルにおいて、2−HPBCDを10、15、20%(W/V)含有する飲水を自主給与している間の肝重量の変化を示すグラフである。
【図8】高脂肪食餌マウスにおいて、2−HPBCDを10、20、40%(W/V)含有する飲水を経口投与している間の体重減少効果を示すグラフである。
【図9】高脂肪食餌マウスにおいて、2−HPBCDを10、20、40%(W/V)含有する飲水を経口投与している間の飼料摂取量の変化を示すグラフである。
【図10】高脂肪食餌マウスにおいて、2−HPBCDを10、20、40%(W/V)含有する飲水を経口投与している間の皮下脂肪重量の変化を示すグラフである。
【図11】高脂肪食餌マウスにおいて、2−HPBCDを10、20、40%(W/V)含有する飲水を経口投与している間の生殖器脂肪重量の変化を示すグラフである。
【図12】高脂肪食餌マウスにおいて、2−HPBCDを10、20、40%(W/V)含有する飲水を経口投与している間の内臓脂肪重量の変化を示すグラフである。
【図13】高脂肪食餌マウスにおいて、2−HPBCDを10、20、40%(W/V)含有する飲水を経口投与している間の総脂肪重量の変化を示すグラフである。
【図14】高脂肪食餌マウスにおいて、2−HPBCDを10、20、40%(W/V)含有する飲水を経口投与している間の肝重量の変化を示すグラフである。
【図15】高脂肪食餌マウスにおいて、ベータシクロデキストリン(BCD)を10、20%(W/V)含有する飲水を経口投与している間の体重増加に対する抑制効果を示すグラフである。
【図16】多様な濃度の2−HPBCDが脂肪と水との混合物の形態に及ぼす影響を示す図である。
【図17】2−HPBCDを20%(W/V)の濃度で、15、30、60および90分前にそれぞれ経口投与し、空腹時にブドウ糖(2g/kg)の摂取により誘発される急激な血糖の上昇に対する抑制効果を示すグラフである。
【図18】2−HPBCDを20%(W/V)の濃度で、15、30、60および90分前にそれぞれ経口投与し、空腹時に麦芽糖(2g/kg)の摂取により誘発される急激な血糖の上昇に対する抑制効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0064】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0065】
本発明のベータシクロデキストリン誘導体(β−cyclodextrin derivatives)は、下記化1の構造を有する。
【化1】

式中、
Rは、C−Cの直鎖または側鎖アルキル、C−Cの直鎖または側鎖ヒドロキシアルキル、またはC−Cの直鎖または側鎖スルホアルキルであり、好ましくは、メチル(methyl)、ヒドロキシプロピル(hydroxypropyl)、2−ヒドロキシプロピル(2−hydroxypropyl)、またはスルホブチル(sulfobutyl)であり、より好ましくは、2−ヒドロキシプロピルである。
【0066】
本発明において、ベータシクロデキストリン誘導体は、上記参考文献に記載されたように、ベータシクロデキストリンにおいて、分子構造の一部を改造したり、新たな官能基を導入することにより製造することができる。このとき、前記ベータシクロデキストリンは、有機溶媒法、非有機溶媒法、酵素工程法、または生物反応器を用いた連続生産工程法などの多様な製造方法で製造可能である。前記製造方法は、参考文献(イム・ボンサム、「幻想の多機能素材シクロデキストリン」、韓国科学技術研究院研究報告書、2003年8月)に詳細に記載されたとおりである。
【0067】
本発明において、2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンは、商業的に市販されているものを用いるか、または公知の製造方法(WO/1990/012035)から分かるようにベータシクロデキストリンとプロピレンオキシド(propylene oxide)との合成により製造されたものを用いることができる。
【0068】
本発明において、Rが2−ヒドロキシプロピルであるヒドロキシプロピルシクロデキストリンは、白色粉末形態であって、分子量が1380〜1480Daで、水溶解度が25℃で65g/mLおよび50℃で80g/mLであり、分解温度が約300℃で、含水率が約5%で、内部直径が0.62nmで、表面張力が52〜69mN/mである物理化学的性質を有する。
【0069】
2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンは、単味があり、溶解度が高く、水に溶かして飲むなど服用しやすく、多量を摂ることができ、効果を極大化させることができる。
【0070】
また、前記2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンは、食品医薬品安全庁に賦形剤として告示されてその安定性が立証されたものであって、多量服用しても安全性の問題はない。
【0071】
本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効成分として含有する、肥満の予防および治療用薬学的組成物を提供する。
【0072】
また、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効成分として含有する、肥満により誘発される疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0073】
前記肥満により誘発される疾患は、高血圧、高脂血、動脈硬化、冠状動脈性心臓疾患、脳疾患および糖尿からなる群より選択されるいずれか1つであることが好ましいが、これに限定されない。
【0074】
また、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効成分として含有する、体重増加抑制、食欲抑制または体脂肪減少用薬学的組成物を提供する。
【0075】
前記高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体は、塩の形態であり得る。
【0076】
本発明の実施例1において、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体の効果を調べるために、高脂肪食餌(high fat diet)による肥満誘発動物モデルを用いて、前記2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンを濃度ごとに自主飲水させた後、体重変化および食餌摂取量を測定した。その結果、2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンは、滅菌蒸溜水を投与した対照群に比べて濃度依存的に体重を減少させ、初期体重対比で顕著な体重の減少効果を示した(図1参照)。また、飼料摂取量が減少する食欲抑制効果を示した(図2参照)。
【0077】
本発明の実施例2において、高脂肪食餌による肥満誘発動物モデルを用いて、前記2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンを濃度ごとに自主飲水させた後、剖検を実施し、皮下脂肪、生殖器脂肪、内臓脂肪、総脂肪量および肝重量の変化をそれぞれ測定した。その結果、2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンは、滅菌蒸溜水を投与した対照群に比べて濃度依存的に皮下脂肪、生殖器脂肪および内臓脂肪を減少させる効果を示し(図3〜図5参照)、総脂肪量を減少させる効果を示し(図6参照)、肝重量も減少させる効果を示した(図7参照)。
【0078】
したがって、本発明の高水溶性2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンは、肥満誘発マウスモデルにおいて、体重増加を抑制し、体重を減少させ、食欲抑制効果を有し、体脂肪を減少させ、肝重量を減少させることが分かる。
【0079】
本発明の実施例3において、正常マウスに対する効果を調べるために、正常マウスに高脂肪食餌(high fat diet)を与えながら、2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンを濃度ごとに経口投与した後、体重変化および食餌摂取量を測定した。その結果、2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンは、滅菌蒸溜水を経口投与した対照群に比べて濃度依存的に体重が減少し、初期体重対比で顕著な減少効果を示した(図8参照)。また、一時的に食欲抑制効果を示した(図9参照)。
【0080】
本発明の実施例4において、正常マウスに高脂肪食餌(high fat diet)を与えながら、2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンを濃度ごとに経口投与した後、剖検を実施し、皮下脂肪、生殖器脂肪、内臓脂肪、総脂肪量および肝重量の変化をそれぞれ測定した。その結果、2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンは、滅菌蒸溜水を経口投与した対照群に比べて濃度依存的に高脂肪食餌により誘導される皮下脂肪、生殖器脂肪および内臓脂肪を減少させる効果を示し(図10〜図12参照)、総脂肪量を減少させる効果を示し(図13参照)、肝重量も減少させる効果を示した(図14参照)。
【0081】
したがって、本発明の高水溶性2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンは、正常体重のマウスにおいて、高脂肪食餌により誘導される体重増加を抑制し、体重を減少させ、食欲抑制効果を有し、体脂肪を減少させ、肝重量を減少させることができることが分かる。
【0082】
本発明の実施例5において、正常マウスに高脂肪食餌を与えながら、ベータシクロデキストリンを濃度ごとに経口投与した後、体重変化を測定した。その結果、ベータシクロデキストリンは、滅菌蒸溜水を経口投与した対照群に比べて体重増加の抑制効果を示した(図15参照)。
【0083】
したがって、ベータシクロデキストリンは、高脂肪食餌の摂取に応じた体重増加を減少させることが分かる。
【0084】
本発明の実施例6は、2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンがアルファシクロデキストリンと類似の方式で作用するかを確認するために、オリーブ油あるいはトウモロコシ油と水との混合物を用いて、アルファシクロデキストリンのエマルジョン形成能確認実験と類似の方法で実験を行ったものである。実験の結果、2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンは、実験に用いられた全体濃度範囲でアルファシクロデキストリンにより形成されたようなエマルジョンを全く形成しなかった。このことは、本発明の2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンが、アルファシクロデキストリンとは異なる作用機序を有することを表す。
【0085】
本発明のベータシクロデキストリン誘導体、特に、2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンは、ベータシクロデキストリンに比べて溶解度が顕著に高く(溶解度:2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリン:25℃で>600mg/mL)より多い容量を用いることができ、多様な剤形で活用することができ、生体内利用率が高いという利点がある。
【0086】
したがって、本発明の高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体、特に、2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンは、既存のベータシクロデキストリンで観察されなかった顕著な体重増加抑制効果を有し、溶解度が顕著に高く、より多量を用いることができ、生体内利用率が高いため、より効果的に体重および体脂肪の抑制に使用できることが分かる。
【0087】
本発明の実施例では、2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンとベータシクロデキストリンとの体重減少効果を比較するために、高脂肪食餌による肥満誘発動物モデルを用いて、前記2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンとベータシクロデキストリンをそれぞれ濃度ごとに経口投与した後、体重変化を観察して比較した。その結果、2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンは、対照群に比べて濃度依存的に初期体重対比で顕著な減少効果を示すのに対し、ベータシクロデキストリンは、対照群に比べて若干の体重増加抑制効果があったものの、体重減少効果はなかった(図8および図15参照)。また、2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンは、濃度に応じた体重減少効果が明確に現れたのに対し、ベータシクロデキストリンは、濃度に応じた効果が不明確であった。さらに、2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンは、40%(W/V)の濃度条件で投与できたのに対し、ベータシクロデキストリンは、40%(W/V)の濃度条件で投与することが不可能であった。
【0088】
したがって、本発明の2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンは、ベータシクロデキストリンに比べて初期体重対比の体重減少効果が優れており、ベータシクロデキストリンに比べて溶解度が高く、生体利用率が高く、容量反応が明確であるという利点があり、ベータシクロデキストリンの場合、溶解度が低く、投与後毒性を誘発する可能性があることが分かる。
【0089】
また、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効成分として含有する、血糖降下用組成物を提供する。
【0090】
さらに、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含有する、胃腸管内での糖分解抑制用組成物を提供する。
【0091】
なお、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含有する、胃腸管内での糖吸収抑制用組成物を提供する。
【0092】
前記高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体は、塩の形態であり得る。
【0093】
本発明の実施例7では、ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンがブドウ糖の摂取により誘発される急激な血糖の上昇を阻害する効果およびブドウ糖の吸収/分解を抑制する活性があるかを調べるために、マウスにヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンを経口投与してから、ブドウ糖を経口投与した後、血糖を測定した。その結果、ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリン投与群は、対照群に比べてブドウ糖の摂取による血糖の上昇を約19〜24%抑制した(表20および図17参照)。
【0094】
本発明の実施例8では、ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンが麦芽糖の摂取により誘発される急激な血糖の上昇を阻害する効果があるかを調べるために、マウスにヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンを経口投与してから、麦芽糖を経口投与した後、血糖を測定した。その結果、ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリン投与群は、対照群に比べて麦芽糖の摂取による血糖の上昇を約38〜47%抑制した(表21および図18参照)。
【0095】
したがって、ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンを含む高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体が経口投与による食後血糖降下効果を有し、糖の分解を抑制して胃腸管内の糖の吸収を抑制することが分かる。
【0096】
結論として、本発明のヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンを含む高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体は、正常マウスにおいて、空腹時にブドウ糖または麦芽糖の摂取により誘発される急激な血糖の上昇を顕著に阻害する効果を有するため、食後の急激な血糖上昇抑制用組成物の有効成分として有用に使用できることが分かる。
【0097】
本発明の高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を含有する組成物は、前記成分に追加的に同一または類似の機能を示す有効成分を1種以上含有することができる。
【0098】
本発明の組成物は、薬剤学的に許容可能な添加剤をさらに含むことができ、このとき、薬剤学的に許容可能な添加剤としては、デンプン、ゼラチン化デンプン、微結晶セルロース、乳糖、ポビドン、コロイダルシリコンジオキシド、リン酸水素カルシウム、ラクトース、マンニトール、飴、アラビアゴム、前糊化デンプン、トウモロコシデンプン、粉末セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、オパドライ、デンプングリコール酸ナトリウム、カルナバワックス、合成ケイ酸アルミニウム、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、白糖、デキストロース、ソルビトール、およびタルクなどが使用できる。本発明にかかる薬剤学的に許容可能な添加剤は、前記組成物に対して0.1〜90重量部含まれることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0099】
本発明の組成物は、実際の臨床投与時に経口および非経口の様々な剤形で投与可能である。経口投与のための固形製剤には、精製、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれる。経口のための液状製剤には、懸濁剤、内用液剤、乳剤およびシロップ剤などが含まれる。非経口投与のための製剤には、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤が含まれる。非経口投与時、皮膚外用または腹腔内注射、直腸内注射、皮下注射、静脈注射、筋肉内注射または胸部内注射の注入方式を選択することが好ましい。
【0100】
本発明の組成物の投与量は、患者の体重、年齢、性別、健康状態、食餌、投与時間、投与方法、排泄率および疾患の重症度に応じてその範囲が多様である。前記投与量は、患者の体重、年齢、性別、健康状態、食餌、投与時間、投与方法、排泄率および疾患の重症度に応じてその範囲が多様であり、1日の投与量は、ベータシクロデキストリン誘導体の量を基準として0.00001〜10g/kgで、好ましくは、0.0001〜1g/kgであり、1日1〜6回投与可能である。
【0101】
本発明の組成物は、肥満疾患の予防および治療のために、単独、または手術、ホルモン治療、化学治療および生物学的反応調整剤を用いる方法と並行して用いることができる。
【0102】
本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効成分として含有する、肥満または肥満により誘発される疾患の予防および改善用健康機能食品を提供する。
【0103】
前記肥満により誘発される疾患は、高血圧、高脂血、動脈硬化、冠状動脈性心臓疾患、脳疾患および糖尿からなる群より選択されるいずれか1つであることが好ましいが、これに限定されない。
【0104】
また、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含有する、体重増加抑制、食欲抑制または体脂肪減少用健康機能食品を提供する。
【0105】
さらに、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効成分として含有する、血糖降下用健康機能食品を提供する。
【0106】
前記高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体は、塩の形態であり得る。
【0107】
本発明の健康食品は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体をそのまま添加するか、あるいは他の食品または食品成分とともに使用でき、通常の方法により適切に使用可能である。
【0108】
前記健康食品の種類には特別な制限はない。前記高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を添加可能な食品の例としては、肉類、ソーセージ、パン、チョコレート、キャンディー類、スナック類、お菓子類、ピザ、ラーメン、その他の麺類、チューイングガム類、アイスクリーム類を含む酪農製品、各種スープ、飲料水、お茶、ドリンク剤、アルコール飲料およびビタミン複合剤などがあり、通常の意味での健康食品をすべて含む。
【0109】
本発明の健康飲料組成物は、通常の飲料のように様々な香味剤または天然炭水化物などを追加成分として含有することができる。前述した天然炭水化物は、ブドウ糖、果糖のような単糖類、マルトース、スクロースのような二糖類、およびデキストリン、キシリトール、ソルビトール、エリトリトールなどの糖アルコールである。甘味剤としては、タウマチン、ステビア抽出物のような天然甘味剤や、サッカリン、アスパルテームのような合成甘味剤などを用いることができる。前記天然炭水化物の割合は、本発明の組成物100mlあたり、一般的に、約0.01〜0.04g、好ましくは、約0.02〜0.03gである。
【0110】
その他、本発明の健康食品は、様々な栄養剤、ビタミン、電解質、風味剤、着色剤、ペクチン酸およびその塩、アルギン酸およびその塩、有機酸、保護性コロイド増粘剤、pH調整剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に用いられる炭酸化剤などを含有することができる。その他、天然フルーツジュース、フルーツジュース飲料および野菜飲料の製造のための果肉を含有することができる。このような成分は、独立にまたは混合して用いることができる。このような添加剤の割合は大して重要ではないが、本発明の組成物100重量部あたり0.01〜0.1重量部の範囲で選択されることが一般的である。
【0111】
また、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効な量で個体に投与する段階を含む、肥満の予防または治療方法を提供する。
【0112】
さらに、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効な量で個体に投与する段階を含む、個体の食欲を抑制する方法を提供する。
【0113】
また、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効な量で個体に投与する段階を含む、肥満により誘発される疾患の予防または治療方法を提供する。
【0114】
さらに、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効な量で個体に投与する段階を含む、個体の体脂肪を減少させる方法を提供する。
【0115】
なお、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効な量で個体に投与する段階を含む、個体の血糖降下方法を提供する。
【0116】
また、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効な量で個体に投与する段階を含む、個体の胃腸管内での糖分解を抑制する方法を提供する。
【0117】
さらに、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効な量で個体に投与する段階を含む、個体の胃腸管内での糖吸収を抑制する方法を提供する。
【0118】
また、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を肥満の予防または治療用組成物の製造に用いる用途を提供する。
【0119】
さらに、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を食欲抑制用組成物の製造に用いる用途を提供する。
【0120】
なお、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を肥満により誘発される疾患の予防または治療用組成物の製造に用いる用途を提供する。
【0121】
また、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を体脂肪減少用組成物の製造に用いる用途を提供する。
【0122】
さらに、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を血糖降下用組成物の製造に用いる用途を提供する。
【0123】
また、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を胃腸管内での糖分解抑制用組成物の製造に用いる用途を提供する。
【0124】
これとともに、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を胃腸管内での糖吸収抑制用組成物の製造に用いる用途を提供する。
【0125】
以下、本発明を実施例および製造例により詳細に説明する。
【0126】
ただし、下記の実施例および製造例は本発明を具体的に例示するものであり、本発明の内容が実施例および製造例により限定されるものではない。
【0127】
<実施例1>
高脂肪食餌(high fat diet)による肥満誘発マウスモデルにおける、HPBCDの自主飲水による体重変化および食餌摂取量の測定
雄C57BL/6Jのマウス(5週齢、KRIBB、Korea)を1週間順化後、高脂肪食餌(high fat diet)(60%fat kcal、Research Diets)を15日間給与して肥満を誘導した。肥満誘発動物は体重を均等に3匹ずつ群分離をした後、溶媒対照群に滅菌蒸溜水を自主飲水させ、ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリン(2−hydroxypropyl−β−cyclodextrin、HPBCD)は、滅菌蒸溜水に溶解し、10、15および20%(W/V)の濃度で3日間自主飲水させた。試験期間の間、すべての動物に対して毎日1回体重変化を測定し、体重測定日に飼料の定量を給与した後、翌日に残量を測定し、1群あたりの摂取量(g/day)として算出した。
【表1】

【表2】

【0128】
その結果、表1および図1から明らかなように、高脂肪食餌マウスにおいて、HPBCDを前記濃度で自主飲水させた場合、滅菌蒸溜水の自主飲水群に比べて濃度依存的に体重が減少し、加えて、初期体重対比で大きな体重減少も観察された(図1)。また、表2および図2から明らかなように、HPBCDは、食餌摂取量の減少による食欲抑制効果を示した(図2)。
【0129】
<実施例2>
高脂肪食餌による肥満誘発マウスモデルにおける、HPBCDの自主飲水による体脂肪および肝重量変化の測定
上記<実施例1>の肥満誘発動物において、HPBCDは10、15および20%(W/V)の濃度で3日間自主飲水後、マウスの剖検を実施した。マウスはCOガスを用いて致死後開腹し、皮下脂肪、生殖器脂肪、内臓脂肪、肝臓を摘出してから、化学秤(chemical balance)を用いて重量を測定した後、3匹の平均重量を算出した。
【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

【0130】
その結果、表3〜表7、および図3〜図7から明らかなように、HPBCDを前記濃度で自主飲水させた場合、滅菌蒸溜水の自主飲水群に比べて濃度依存的に高脂肪食餌により誘導されるマウスの皮下脂肪、生殖器脂肪、内臓脂肪および総脂肪量が減少し、肝重量の減少を確認することができた(図3〜図7)。
【0131】
<実施例3>
高脂肪食餌マウスにおける、HPBCDの経口投与による体重変化および食餌摂取量の測定
雄C57BL/6Jのマウス(5週齢、KRIBB、Korea)を1週間順化後、動物は体重を均等に5匹ずつ群分離をした後、高脂肪食餌(high fat diet)(60% fat kcal)の給与と同時に、滅菌蒸溜水およびHPBCD10、20および40%(W/V)を、マウス20g体重あたり0.2mlずつ、5日間、1日3回(朝、昼、夕方)経口投与した。試験期間の間、すべての動物に対して毎日1回体重変化を測定し、体重測定日に飼料の定量を給与した後、翌日に残量を測定し、1匹あたりの平均摂取量(g/mouse/day)として算出した。
【表8】

【表9】

【0132】
その結果、表8および図8から明らかなように、高脂肪食餌マウスにおいて、HPBCDを前記濃度で経口投与した場合、滅菌蒸溜水の経口投与群に比べて濃度依存的に体重が減少し、加えて、初期体重対比で大きな体重減少も観察された(図8)。また、表9および図9から明らかなように、HPBCDは、試験期間の間、一時的な食餌摂取量の減少効果を示した(図9)。
【0133】
<実施例4>
高脂肪食餌マウスにおける、HPBCDの経口投与による体脂肪および肝重量変化の測定
上記<実施例3>の動物順化および投与条件で、HPBCDを10、20および40%(W/V)の濃度で5日間経口投与後、マウスの剖検を実施した。マウスはCOガスを用いて致死後開腹し、皮下脂肪、生殖器脂肪、内臓脂肪、肝臓を摘出してから、化学秤(chemical balance)を用いて重量を測定した後、5匹の平均重量を算出した。
【表10】

【表11】

【表12】

【表13】

【表14】

【0134】
その結果、表10〜表14、および図10〜図14から明らかなように、HPBCDを前記濃度で経口投与した場合、滅菌蒸溜水の経口投与群に比べて濃度依存的に高脂肪食餌により誘導されるマウスの皮下脂肪、生殖器脂肪、内臓脂肪および総脂肪量が減少し、肝重量の減少を確認することができた(図10〜図14)。
【0135】
<実施例5>
高脂肪食餌マウスにおける、BCDの経口投与による体重変化の測定
上記<実施例3>において、HPBCD10、20および40%(W/V)の代わりに、BCD10、20%(W/V)を用いることが異なるだけで、残りは同一の条件を用いて体重変化を測定した。BCDは、溶解度が>600mg/mLであるため、40%(W/V)の溶液は作ることができず、10、20%(W/V)のみを持って実験した。
【表15】

【0136】
その結果、表15および図15から明らかなように、高脂肪食餌マウスにおいて、BCDを前記濃度で経口投与した場合、滅菌蒸溜水の経口投与群に比べて体重増加の抑制が観察されたが、初期体重対比の体重減少は観察されなかった(図15)。また、10および20%(W/V)で大きな差がないのは、BCDの低溶解度により生体利用率が低く、容量に応じた効果の差がないものと見られる。
【0137】
<実施例6>
アルファシクロデキストリンと本発明のHPBCDとの作用機序比較実験
2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンがアルファシクロデキストリンと類似の方式で作用するかを確認するために、オリーブ油あるいはトウモロコシ油と水との混合物を用いてエマルジョン形成能を確認した。
【0138】
まず、水6mlとオリーブ油あるいはトウモロコシ油4mlとを混合した溶液に、HPBCDを0、1.25、2.5、5、10、20%(w/v)の割合で入れてよく混ぜた後、遠心分離を行った(80xg、2分)。その後、層間の区分が明確となるように、青色の水溶性染色薬(trypan blue、Sigma Co.)を添加した。
【0139】
その結果、HPBCDは、図16から明らかなように、実験に用いられたいずれの濃度においてもエマルジョンを形成しなかった。参照として、アルファシクロデキストリンを用いた類似の実験(Grunberger G.,et al.,Diabetes Metab.Res.Rev.23,pp56−62,2007)において、アルファシクロデキストリンを水と脂肪混合液と混ぜて振ったとき、エマルジョンを形成することが報告された。したがって、2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンは、アルファシクロデキストリンとは異なる作用機序を有することが分かる。
【0140】
<比較例1>
<1−1>高脂肪食餌による肥満誘発マウスモデルにおける、アルファシクロデキストリンの自主飲水による体重変化の測定
上記<実施例1>と同様の方法として、2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリン(HPBCD)の代わりに、アルファシクロデキストリン(α−CD)を用いて、試験期間の間、体重変化を測定した。
【表16】

【0141】
その結果、表16から明らかなように、高脂肪食餌マウスにおいて、α−CDを自主飲水させた場合、HPBCDに比べて体重の減少程度が低かった。
【0142】
<1−2>高脂肪食餌マウスにおける、アルファシクロデキストリンの経口投与による体重変化の測定
上記<実施例3>と同様の方法として、HPBCDの代わりに、α−CDを用いて、試験期間の間、体重変化を測定した。
【表17】

【0143】
その結果、表17から明らかなように、高脂肪食餌マウスにおいて、α−CDを経口投与した場合、HPBCDに比べて体重の減少程度が低かった。
【0144】
<比較例2>
<2−1>高脂肪食餌による肥満誘発マウスモデルにおける、ベータシクロデキストリンの自主飲水による体重変化の測定
上記<実施例1>と同様の方法として、HPBCDの代わりに、ベータシクロデキストリン(β−CD)を用いて、試験期間の間、体重変化を測定した。
【表18】

【0145】
その結果、表18から明らかなように、高脂肪食餌マウスにおいて、β−CDを自主飲水させた場合、HPBCDに比べて体重の減少程度が低かった。
【0146】
<2−2>高脂肪食餌マウスにおける、ベータシクロデキストリンの経口投与による体重変化の測定
上記<実施例3>と同様の方法として、HPBCDの代わりに、β−CDを用いて、試験期間の間、体重変化を測定した。
【表19】

【0147】
その結果、表19から明らかなように、高脂肪食餌マウスにおいて、β−CDを経口投与した場合、HPBCDに比べて体重の減少程度が低かった。
【0148】
<実施例7>
経口ブドウ糖負荷試験計(Oralglucose tolerance test)でのHPBCDの血糖降下効果の測定
経口ブドウ糖負荷試験計は、マウスにまず試料を経口投与した後、ブドウ糖の摂取により誘発される急激な血糖の上昇を阻害する効果があるかどうかおよびブドウ糖の吸収/分解抑制活性などを総合的に予測する実験計である。
【0149】
正常マウス[ICR、6W、コアテック(株)、Korea]は1週間順化後、7週齢の約18〜20gの雌を用い、1実験群あたり6匹を16時間節食させて用いた。ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリン(HPBCD)は、滅菌蒸溜水に溶解し、20%(W/V)の濃度で製造した後、マウス20g体重あたり0.2mLずつ経口投与した。以後、15、30、60および90分後にそれぞれ2g/kgが投与されるように、生理食塩水に溶かしたブドウ糖をマウスに10ml/kgの液量で経口投与した。ブドウ糖を投与する直前(0時)と、投与後15、60および120分に血糖を測定した。血糖測定のための血液は、毛細管(capillary tube)を用いてマウスの眼窩静脈から採取した。採取した血液は、Accutrend alpha(Boehringer mannheim Co.)測定器を用いて血糖を測定した。対照群は、滅菌蒸溜水を同液量で投与した。
【0150】
その結果、すべての実験群において、D−ブドウ糖を投与すると、血糖値が上昇して15分頃に最高数値になり、その後減少して、120分後には正常数値になった。血糖が最高数値に上昇した15分頃の結果を見ると、対照群の場合、ブドウ糖投与前の血糖に比べて236.7mg/dl増加したが、HPBCDを20%(W/V)の濃度で15、30、60および90分前処理した投与群では、対照群に比べてそれぞれ19.7%、19.3%、22.0%および23.7%の血糖上昇の抑制が現れた。したがって、HPBCDの経口投与による食後血糖降下効果があり、前記効果が糖の分解を抑制して吸収を抑制することに起因することが分かった(表20および図17)。
【表20】

【0151】
<実施例8>
経口麦芽糖負荷試験計(Oral maltose tolerance test)でのHPBCDの血糖降下効果の測定
経口麦芽糖負荷試験計は、マウスにまず試料を経口投与した後、麦芽糖の摂取により誘発される急激な血糖の上昇を阻害する効果があるかどうかを予測する実験計である。
【0152】
正常マウス[ICR、6W、コアテック(株)、Korea]は1週間順化後、7週齢の約18〜20gの雌を用い、1実験群あたり6匹を16時間節食させて用いた。HPBCDは、滅菌蒸溜水に溶解し、20%(W/V)の濃度で製造した後、マウス20g体重あたり0.2mLずつ経口投与した。以後、15、30、60および90分後に2g/kgが投与されるように、生理食塩水に溶かした麦芽糖をマウスに10ml/kgの液量で経口投与した。麦芽糖を投与する直前(0時)と、投与後15、60および120分に血糖を測定した。血糖測定のための血液は、毛細管(capillary tube)を用いてマウスの眼窩静脈から採取した。採取した血液は、Accutrend alpha(Boehringer mannheim Co.)を用いて血糖を測定した。対照群は、滅菌蒸溜水を同液量で投与した。
【0153】
その結果、すべての実験群において、麦芽糖を投与すると、血糖値が上昇して15分頃に最高数値になり、その後減少して、120分後には正常数値になった。血糖が最高数値に上昇した15分頃の結果を見ると、対照群の場合、麦芽糖投与前の血糖に比べて309.0mg/dl増加したが、HPBCDを20%(W/V)の濃度で15、30、60、90分前処理した投与群では、対照群に比べてそれぞれ38.6%(p<0.001)、46.7%(p<0.001)、44.6%(p<0.001)および39.6%(p<0.001)の血糖上昇の抑制が現れた。したがって、HPBCDの経口投与による食後血糖降下効果があることが分かる(表21および図18)。
【表21】

【0154】
下記に本発明の組成物のための製造例を例示する。
【0155】
<製造例1>薬学的製剤の製造
<1−1>散剤の製造
HPBCD 200mg
乳糖 20mg
前記成分を混合した後、気密布に充填して散剤を製造した。
【0156】
<1−2>錠剤の製造
HPBCD 500mg
トウモロコシデンプン 100mg
乳糖 100mg
ステアリン酸マグネシウム 2mg
前記成分を混合した後、通常の錠剤の製造方法により打錠して錠剤を製造した。
【0157】
<1−3>カプセル剤の製造
HPBCD 500mg
結晶性セルロース 3mg
ラクトース 14.8mg
ステアリン酸マグネシウム 0.2mg
前記成分を混合した後、通常のカプセル剤の製造方法によりゼラチンカプセルに充電してカプセル剤を製造した。
【0158】
<1−4>液剤の製造
HPBCD 2g
異性化糖 10g
マンニトール 5g
精製水 適量
通常の液剤の製造方法により、精製水にそれぞれの成分を加えて溶解させ、レモンの香りを適量加えてから、前記成分を混合した後、精製水を加えて、全体として精製水を加えて、全体100mlに調整した後、褐色の瓶に充填して滅菌させ、液剤を製造する。
【0159】
<1−6>注射剤の製造
HPBCD 10mg/ml
希塩酸BP pH7.6になるまで
主利用塩化ナトリウBP 最大1ml
適当な容積の主利用塩化ナトリウムBP中にHPBCDを溶解させ、生成された溶液のpHを希塩酸BPを用いてpH7.6に調整し、主利用塩化ナトリウムBPを用いて容積を調整して十分に混合した。溶液を透明ガラスからなる5mlタイプIアンプル中に充電させ、ガラスを溶解させることにより、空気の上部格子下に封入させ、120℃で15分以上オートクレーブさせて殺菌し、注射液剤を製造した。
【0160】
<製造例2>食品の製造
本発明のHPBCDを含む食品を、次のとおり製造した。
【0161】
<2−1>生食の製造
玄米、麦、もち米、はと麦を公知の方法でアルファ化させて乾燥させたものを焙煎した後、粉砕機で粒度60メッシュの粉末に製造した。
【0162】
黒豆、黒ゴマ、エゴマも公知の方法で蒸して乾燥させたものを焙煎した後、粉砕機で粒度60メッシュの粉末に製造した。
【0163】
本発明のHPBCDを真空濃縮機で減圧濃縮し、噴霧、熱風乾燥機で乾燥して得た乾燥物を、粉砕機で粒度60メッシュに粉砕して乾燥粉末を得た。
【0164】
前記製造した穀物類、種実類およびHPBCDを次の割合で配合して製造した。
穀物類(玄米30重量部、はと麦15重量部、麦20重量部)、
種実類(エゴマ7重量部、黒豆8重量部、黒ゴマ7重量部)、
HPBCD(12重量部)、
レイシ(0.5重量部)、
ジオウ(0.5重量部)
【0165】
<2−2>健康食品の製造
HPBCD 10g
ビタミン混合物 適量
ビタミンAアセテート 70μg
ビタミンE 1.0mg
ビタミンB1 0.13mg
ビタミンB2 0.15mg
ビタミンB6 0.5mg
ビタミンB12 0.2μg
ビタミンC 10mg
ビオチン 10μg
ニコチン酸アミド 1.7mg
葉酸 50μg
パントテン酸カルシウム 0.5mg
無機質混合物 適量
硫酸第一鉄 1.75mg
酸化亜鉛 0.82mg
炭酸マグネシウム 25.3mg
第一リン酸カリウム 15mg
第二リン酸カルシウム 55mg
クエン酸カリウム 90mg
炭酸カルシウム 100mg
塩化マグネシウム 24.8mg
前記ビタミンおよびミネラル混合物の組成比は、比較的健康食品に適した成分を好ましい実施例として混合組成したが、その配合比を任意に変形実施してもよく、通常の健康食品の製造方法により前記成分を混合した後、顆粒を製造し、通常の方法により健康食品組成物の製造に用いることができる。
【0166】
<製造例3>健康飲料の製造
HPBCD 10g
クエン酸 100mg
オリゴ糖 100mg
梅濃縮液 2mg
タウリン 100mg
精製水を加えて全体500ml
通常の健康飲料の製造方法により前記成分を混合した後、約1時間、85℃で撹拌加熱した後、作られた溶液を濾過して滅菌された1l容器に取得して密封滅菌してから、冷蔵保管後、本発明の健康飲料組成物の製造に用いる。
【0167】
前記組成比は、比較的好みの飲料に適した成分を好ましい実施例として混合組成したが、需要階層、需要国、使用用途など、地域的、民族的嗜好度に応じてその配合比を任意に変形実施してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0168】
上述したように、本発明は、高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体、特に、2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリンを用いて、肥満または肥満により誘発される疾患に対する予防および治療剤、食後の急激な血糖上昇抑制用薬学的組成物、またはこれらの健康機能食品を開発することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化1の構造を有する高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体(β−cyclodextrin derivatives)を有効成分として含有する、肥満の予防および治療用薬学的組成物。
【化1】

(式中、
Rは、C−Cの直鎖または側鎖アルキル、C−Cの直鎖または側鎖ヒドロキシアルキル、またはC−Cの直鎖または側鎖スルホアルキルである。)
【請求項2】
上記化1のRは、メチル(methyl)、ヒドロキシプロピル(hydroxypropyl)、2−ヒドロキシプロピル(2−hydroxypropyl)、またはスルホブチル(sulfobutyl)であることを特徴とする、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記ベータシクロデキストリン誘導体は、2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリン(2−hydroxypropyl−β−cyclodextrin)であることを特徴とする、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
上記化1の構造を有する高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効成分として含有する、食欲抑制用薬学的組成物。
【請求項5】
上記化1の構造を有する高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効成分として含有する、肥満により誘発される疾患の予防および治療用薬学的組成物。
【請求項6】
前記肥満により誘発される疾患は、高血圧、高脂血、動脈硬化、冠状動脈性心臓疾患、脳疾患および糖尿からなる群より選択されるいずれか1つであることを特徴とする、請求項5に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
上記化1の構造を有する高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効成分として含有する、体脂肪減少用薬学的組成物。
【請求項8】
下記化1の構造を有する高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効成分として含有する、肥満の予防および改善用健康機能食品。
【化2】

(式中、
Rは、C−Cの直鎖または側鎖アルキル、C−Cの直鎖または側鎖ヒドロキシアルキル、またはC−Cの直鎖または側鎖スルホアルキルである。)
【請求項9】
上記化1のRは、メチル(methyl)、ヒドロキシプロピル(hydroxypropyl)、2−ヒドロキシプロピル(2−hydroxypropyl)、またはスルホブチル(sulfobutyl)であることを特徴とする、請求項8に記載の健康機能食品。
【請求項10】
前記ベータシクロデキストリン誘導体は、2−ヒドロキシプロピル−ベータシクロデキストリン(2−hydroxypropyl−β−cyclodextrin)であることを特徴とする、請求項8に記載の健康機能食品。
【請求項11】
上記化1の構造を有する高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効成分として含有する、食欲抑制用健康機能食品。
【請求項12】
上記化1の構造を有する高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効成分として含有する、肥満により誘発される疾患の予防および改善用健康機能食品。
【請求項13】
前記肥満により誘発される疾患は、高血圧、高脂血、動脈硬化、冠状動脈性心臓疾患、脳疾患および糖尿からなる群より選択されるいずれか1つであることを特徴とする、請求項12に記載の健康機能食品。
【請求項14】
上記化1の構造を有する高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効成分として含有する、体脂肪減少用健康機能食品。
【請求項15】
上記化1の構造を有する高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効な量で個体に投与する段階を含む、肥満の予防または治療方法。
【請求項16】
上記化1の構造を有する高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効な量で個体に投与する段階を含む、個体の食欲を抑制する方法。
【請求項17】
上記化1の構造を有する高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効な量で個体に投与する段階を含む、肥満により誘発される疾患の予防または治療方法。
【請求項18】
前記肥満により誘発される疾患は、高血圧、高脂血、動脈硬化、冠状動脈性心臓疾患、脳疾患および糖尿からなる群より選択されるいずれか1つであることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
上記化1の構造を有する高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効な量で個体に投与する段階を含む、個体の体脂肪を減少させる方法。
【請求項20】
上記化1の構造を有する高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を肥満の予防または治療用組成物の製造に用いる用途。
【請求項21】
上記化1の構造を有する高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を食欲抑制用組成物の製造に用いる用途。
【請求項22】
上記化1の構造を有する高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を肥満により誘発される疾患の予防または治療用組成物の製造に用いる用途。
【請求項23】
前記肥満により誘発される疾患は、高血圧、高脂血、動脈硬化、冠状動脈性心臓疾患、脳疾患および糖尿からなる群より選択されるいずれか1つであることを特徴とする、請求項22に記載の用途。
【請求項24】
上記化1の構造を有する高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を体脂肪減少用組成物の製造に用いる用途。
【請求項25】
上記化1の構造を有する高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効成分として含有する、血糖降下用組成物。
【請求項26】
上記化1の構造を有する高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効成分として含有する、胃腸管内での糖分解抑制用組成物。
【請求項27】
上記化1の構造を有する高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効成分として含有する、胃腸管内での糖吸収抑制用組成物。
【請求項28】
上記化1の構造を有する高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効成分として含有する、血糖降下用健康機能食品。
【請求項29】
上記化1の構造を有する高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効な量で個体に投与する段階を含む、個体の血糖降下方法。
【請求項30】
上記化1の構造を有する高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効な量で個体に投与する段階を含む、個体の胃腸管内での糖分解を抑制する方法。
【請求項31】
上記化1の構造を有する高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を有効な量で個体に投与する段階を含む、個体の胃腸管内での糖吸収を抑制する方法。
【請求項32】
上記化1の構造を有する高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を血糖降下用組成物の製造に用いる用途。
【請求項33】
上記化1の構造を有する高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を胃腸管内での糖分解抑制用組成物の製造に用いる用途。
【請求項34】
上記化1の構造を有する高水溶性ベータシクロデキストリン誘導体を胃腸管内での糖吸収抑制用組成物の製造に用いる用途。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公表番号】特表2013−507357(P2013−507357A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533090(P2012−533090)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【国際出願番号】PCT/KR2010/006912
【国際公開番号】WO2011/043630
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(512088682)ソン、ホ、バイオメッド、カンパニー、リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】SONG HO BIOMED CO., LTD
【Fターム(参考)】