説明

高温での強度に優れた金属粉末製造用容器

【課題】容器の外側からの加熱により物理化学的に金属粉末を製造する際に用いる、金属粉末の新規製造用容器の提供。
【解決手段】本発明に係る金属粉末の製造用容器は、以下の:Ni含有量が50wt%以上かつCr含有量が10wt%以上の合金;Ni含有量が20wt%以上かつCr含有量が10%wt以上かつFe含有量が20wt%以上の合金;モリブデン;タンタル;ニオブ;及びタングステン;から成る群から選ばれる耐熱性金属と、以下の:ニッケル;銅; 銀;及び金;から成る群から選ばれる純金属とを、爆発圧着、熱間圧延、冷間圧延、拡散接合、HIP又は摩擦攪拌接合のいずれかによって冶金的に接合した、該耐熱性金属の層と該純金属の層を含む複合材からなる金属粉末の製造用容器であって、金属粉末と接する該容器の内壁を該純金属の層で構成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粉末の製造用容器に関する。より特に、本発明は、容器の外側からの加熱により物理化学的に金属粉末を製造する際に用いる、金属粉末の製造用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子分野を主体に様々な分野で、機能性の高い金属粉末の需要が急速に高まっている。金属粉末として、ニッケル、銅、モリブデン、亜鉛、コバルト、タンタル、タングステン、銀、ニオブ、アルミ等の純金属の粉末や、銅やアルミ等の合金の粉末や、アルミナ等の金属化合物の粉末が製造されており、その製造方法としては、機械的な製造方法と物理化学的な製造方法がある。
【0003】
機械的な製造方法としては、ボールミル法のように鋼球又は超硬合金球の運動によって金属塊又は金属粗粉等を粉砕して、目的とする大きさ、形状の金属粉末を製造する方法が挙げられる。物理化学的な粉末製造方法としては、CVD法等の化学反応を利用して目的とする金属粉末を製造する方法がある(以下、特許文献1を参照のこと)。近年、特に、金属粉末の微細化、均一化、高純度化等の高機能化、又は製造効率向上を目的として、CVD法においても、従来よりも高温下又は高温かつ高圧力下で、金属粉末が製造されるようになっている。このように金属粉体の製造プロセスに関する技術は進歩しているものの、金属粉末の製造用容器(反応容器)に関しては、ほとんど検討されておらず、技術データ、先行技術文献などもほとんど見当たらないのが現状である。一般に入手可能な情報から、従来の金属粉末製造用容器(反応容器)の殆どは、製造する粉末に対して不純物とならない単一の金属で容器全体が作製されたものであり、高温下又は高温かつ高圧力下での金属粉末の製造プロセスに使用した場合、該容器の寿命は非常に短くなる。そのため、高温下での強度や耐磨耗性等を向上させるために、容器の壁を厚くしなければならず、結果的に容器が非常に重くなるといった問題が生じている。
【0004】
ところで、以下の特許文献2には、精錬する内容物の熱による熱変形を防止するために、耐熱合金を外側に冶金的に接合させた構造を有する金属精錬用のルツボが開示されている。一方、本願は特に金属粉末製造容器に限定し、より製造性、安全性、経済性を高める技術改良を行った結果であり、前記した容器重量の軽減及び経済性を兼ね備え、かつ、外部加熱に対する耐熱性と内部エロージョンに対し、著しく性能を高めることができるものである。
【特許文献1】特開2004−292950号公報
【特許文献2】特許第3439499号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、近年製造プロセスが著しく進歩してきている金属粉末の製造において、容器の外側からの加熱により物理化学的に金属粉末を製造する際に用いる、金属粉末製造用容器に関する。前記したように、従来技術の金属粉末の製造用容器は、目的とする金属粉末に対して不純物とならず、かつ、容器自体を作製し易い単一の金属材質で、容器全体が作られているために、容器の外部からの加熱によって容器自体が熱変形したり損傷し易く、容器寿命が非常に短いものとなっている。容器寿命を長くするためには、容器内部における粉末流動等のエロージョンによる容器内壁の減厚を考慮した上で、高温下での強度を維持できるだけの肉厚をもって容器を作ればよいが、容器重量が増加してしまうため、容器自体の製造コストが高くなり、また、該容器の付帯設備も補強しなければならないため、該容器に関連する設備の投資額が非常に高くなるといった課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を行なった結果、金属粉末の製造用容器の内壁を、製造する金属粉末に対して不純物とならない材質(純金属)で構成し、かつ、容器内部の流動体(原材料ガスや金属粉末等)によるエロージョンによる容器内壁の損傷や磨耗に耐えうる厚みとし、さらに、該容器の外壁を、容器外部からの加熱による高温環境下でも容器全体を高い強度で維持することができる耐熱性金属で構成すること、すなわち、容器の材質として、該純金属と該耐熱性金属とを冶金的に接合させた複合材を用いることで、高温環境下でも寿命が長く、かつ、従来と同程度の重量となる容器を実際に製造・使用することができることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0007】
具体的には、本発明は以下の[1]と[2]である:
[1]以下の:
Ni含有量が50wt%以上かつCr含有量が10wt%以上の合金;
Ni含有量が20wt%以上かつCr含有量が10%wt以上かつFe含有量が20wt%以上の合金;
モリブデン;
タンタル;
ニオブ;及び
タングステン;
から成る群から選ばれる耐熱性金属と、
以下の:
ニッケル;
銅;
銀;及び
金;
から成る群から選ばれる純金属とを、
爆発圧着、熱間圧延、冷間圧延、拡散接合、HIP又は摩擦攪拌接合のいずれかによって冶金的に接合した、該耐熱性金属の層と該純金属の層を含む複合材からなる金属粉末の製造用容器であって、金属粉末と接する該容器の内壁を該純金属の層で構成したことを特徴とする前記容器。
【0008】
[2]前記耐熱性金属層の厚みが前記純金属層の厚みより小さく、かつ、前記耐熱性金属の厚みが0.5mm以上10mm以下である、前記[1]に記載の容器。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る金属粉末の製造用容器は、容器外部からの加熱による高温環境下でも使用に耐えうるようにするために容器重量を大幅に増加させる必要がなく、外部からの加熱による容器自体の損傷や変形が低減され、容器自体の寿命が長いことを特徴とする。したがって、容器自体の製造コストを低く抑えることができ、また、容器の付帯設備も補強する必要がないため、容器に関連する設備の投資額を低く抑えることができる。
また、本発明に係る金属粉末の製造用容器は、純金属の金属粉末だけでなく、合金や金属化合物の金属粉末を製造する場合にも使用することができ、さらには、金属リサイクル分野における高温環境下での金属抽出プロセス用の容器としても使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明について、以下具体的に説明する。
本明細書中、用語「耐熱性金属」とは、Ni含有量が50wt%以上かつCr含有量が10wt%以上の合金;Ni含有量が20wt%以上かつCr含有量が10wt%以上かつFe含有量が20wt%以上の合金;モリブデン;タンタル;ニオブ;又はタングステンのいずれかであり、必要される高温下での容器の強度や容器の加熱方法、経済性等を考慮したうえで選択されることができる。なお、材料入手容易性、経済性や装置の製作容易性を考慮した場合、容器の外壁を構成する耐熱性合金としては、Ni基合金が好ましく、インコネル600、インコネル625がより好ましい。
【0011】
本明細書中、用語「内壁」とは、容器内部のガスなどの粉体原料や製造された金属粉末が接触する容器の内面を構成する要素をいう。内壁は、目的とする金属粉末に対して不純物にならない又はなり難い、ニッケル、銅、銀又は金のいずれかの純金属から構成されることができる。具体的には、製造する金属粉末がNiの場合、内壁は純Ni金属で構成することが好ましく、一方、外壁はNiに対して不純物になりにくいNi成分を多く含有するNi基の耐熱合金で構成することが好ましい。また、製造する粉末がAgの場合、内壁は純Ag金属で構成することが好ましく、一方、外壁はAgと固溶しないFe成分を多く含む耐熱性合金やNb、Taで構成することが好ましい。
【0012】
本明細書中、「純金属」とは、単一の金属であって、不純物が実質的に含有されていないことを意味し、不純物が全く含有されていないことを意味するものではない。
【0013】
前記したように、本発明に係る金属粉末の製造用容器は、以下の:
Ni含有量が50wt%以上かつCr含有量が10wt%以上の合金;
Ni含有量が20wt%以上かつCr含有量が10%wt以上かつFe含有量が20wt%以上の合金;
モリブデン;
タンタル;
ニオブ;及び
タングステン;
から成る群から選ばれる耐熱性金属と、
以下の:
ニッケル;
銅;
銀;及び
金;
から成る群から選ばれる純金属とを、
爆発圧着、熱間圧延、冷間圧延、拡散接合、HIP又は摩擦攪拌接合のいずれかによって冶金的に接合した、該耐熱性金属の層と該純金属の層を含む複合材から製作することができる。
【0014】
容器を製作するために用いる複合材の厚みは、容器全体の強度、容器製造の効率、容器の品質、経済性等を総合的に考慮した上で決定することができる。一般には、容器外壁を構成する耐熱性金属の厚みが、容器内壁を構成する純金属層の厚みより小さく(薄く)することが好ましく、さらに外壁層の厚み:内壁層の厚み=約1:5〜約1:3であることがさらに好ましい。また、容器外壁を構成する耐熱性金属の厚みは、0.5mm以上10mm以下であることが好ましく、さらに好ましくは1mm以上5mm以下である。
【0015】
また、容器の構造としては、容器の強度、経済性、容器の製作容器性等を総合的に考慮した上で、少なくとも応力が集中する部分に、及び/又は加熱される部分(具体的には胴体部分)のみに、複合材を使用することができるが、容器全体を複合材を用いて製作することがより好ましい。
【0016】
容器の形状は特に制限はなく、目的とする金属粉末の製造方法に適した形状であればよい。容器の形状として、具体的には、円筒状、球状、円錐状、円盤状、長方形状、柱状などが挙げられる。
【0017】
以下、図1を用いて、金属粉末の製造方法の手順の一例を説明する。
図1は、本発明に係る金属粉末の製造用容器を装置の一部として含む、金属粉末の製造システムの概略図である。
【0018】
図1中、容器の内壁3は純金属で構成され、そして外壁2は耐熱性金属で構成される。容器外部に設置された外部ヒーター5を用いて容器の外部から加熱された容器内に、ガス供給口1を通して、金属粉末原材料ガスと反応ガスが充填される。外部から加熱され高温になった容器内で金属粉末原材料ガスと反応ガスが化学反応して、目的とする金属粉末が製造され、排出口4を通して、目的とする金属粉末が回収される。
【0019】
容器の形状に関して特に制限はなく、ガス供給口1の位置、形状、数量、大きさも特段の制限はない。また、粉末などを回収する排出口4も特段の制限はない。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明に係る金属粉末の製造用容器は、容器外部からの加熱による高温環境下でも使用に耐えうるようにするために容器重量を大幅に増加させる必要がなく、外部からの加熱による容器自体の損傷や変形が低減され、容器自体の寿命が長いことを特徴とする。したがって、容器自体の製造コストを低く抑えることができ、また、容器の付帯設備も補強する必要がないため、容器に関連する設備の投資額を低く抑えることができる。したがって、本発明に係る金属粉末の製造用容器は、金属粉末の微細化、均一化、高純度化等の高機能化、又は製造効率向上を目的としたCVD法の如き、高温下又は高温かつ高圧力下での金属粉末の製造プロセスにおいて、金属粉末の製造用容器(反応容器)として、好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明に係る金属粉末の製造用容器を装置の一部として含む、金属粉末の製造システムの概略図である。
【符号の説明】
【0022】
1 ガス供給口
2 容器外壁(耐熱性金属)
3 容器内壁(純金属)
4 排出口
5 外部ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の:
Ni含有量が50wt%以上かつCr含有量が10wt%以上の合金;
Ni含有量が20wt%以上かつCr含有量が10%wt以上かつFe含有量が20wt%以上の合金;
モリブデン;
タンタル;
ニオブ;及び
タングステン;
から成る群から選ばれる耐熱性金属と、
以下の:
ニッケル;
銅;
銀;及び
金;
から成る群から選ばれる純金属とを、
爆発圧着、熱間圧延、冷間圧延、拡散接合、HIP又は摩擦攪拌接合のいずれかによって冶金的に接合した、該耐熱性金属の層と該純金属の層を含む複合材からなる金属粉末の製造用容器であって、金属粉末と接する該容器の内壁を該純金属の層で構成したことを特徴とする前記容器。
【請求項2】
前記耐熱性金属層の厚みが前記純金属層の厚みより小さく、かつ、前記耐熱性金属の厚みが0.5mm以上10mm以下である、請求項1に記載の容器。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−95763(P2010−95763A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−267729(P2008−267729)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】