説明

高温槽の壁厚を測定する方法及び装置

【課題】亜鉛メッキ槽の側壁が溶損により補修したり、交換する時期を適切に判断することができるようにするため、超音波センサによる壁厚測定を簡易に行うことができる方法を提供する。
【解決手段】電磁超音波センサ11を亜鉛メッキ槽1の側壁天端に沿わせて走行させる。センサ11は、側壁天端から長距離伝播性の超音波を側壁の壁厚方向と直交する方向に送信し、その反射波の振幅から検量式に基づいて側壁内面の壁厚を算出し、これより側壁のプロフィルを求めて表示部17に表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛、錫、鉛、アルミニウム等の溶融金属が入れられる高温槽の壁厚を測定する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融金属が入れられる高温槽は、長時間の使用により内壁が徐々に溶損し、放置しておくと、やがて溶融金属が漏出する事故に至るため、内壁の壁厚を定期的に計測して溶損状況を把握し、高温槽の補修や交換時期を判断することが求められている。
【0003】
超音波センサを用いて高温槽の外側から内壁の溶損量を計測することは可能であるが、高温槽の外側は通常、厚い断熱材で覆われているため、内壁の溶損量を測定するためには、断熱材を剥がす必要があり、計測に手間と時間がかかるばかりでなく、広い範囲にわたって内壁の溶損量を計測することは事実上できなかった。
【0004】
高温槽の内側から内壁の溶損量を計測する方法も知られ、下記特許文献1には高温用超音波センサを溶融金属に浸漬し、その探傷面を壁内面に向けて保持してセンサで検出した反射波の波形を解析し、壁厚を算出する方法が開示されている。
【0005】
超音波センサは圧電素子を用いた接触タイプのものが多く用いられているが、電磁超音波センサEMATのような非接触で探傷できるタイプのものも知られる。圧電素子を用いた前者のタイプのものは、超音波の変換効率がよく、構造も簡単であるが、センサと被検査体との音響的結合を確保するため、接触面の研磨処理を行うか、音響結合材を使用する必要があり、高温体への検査ができないなどの問題がある。
【0006】
これに対し、電磁超音波センサは被検査体の表面にセンサを押し当てて測定する必要がないので、表面に多少の凹凸や錆があっても検査が可能で、検査に要する時間も少なくできる、という利点がある。
【0007】
一方、下記非特許文献1には、図1に示すパイプaの探傷実験を行った結果が示されている。実験に使用したパイプは、外径12.6mmφ、肉厚1mm、長さ124cmのステンレスSUS304製のパイプaで、表面には深さ0.15mmのノッチNと、深さ0.3mmのノッチNが二か所形成されると共に、2mmφの貫通孔Dが形成されている。同文献には更に一端に磁歪効果を用いたタイプの超音波センサbを取付け、周波数165KHzの超音波で探傷を行ったときの実験データが示され、このデータから貫通孔D及び二つのノッチN、Nのいずれからも反射エコーが検出され、またノッチN、Nからのエコー振幅とノッチN、Nの深さには正の相関が見られる、と報告されている。
【特許文献1】特開2005−265456号
【非特許文献1】広島県立総合技術研究所西部工業技術センター研究報告No.45(2002) 18 パイプ探傷および厚さ測定のための電磁超音波センサの試作
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示される方法は、高温の溶融金属に超音波センサを浸漬させるが、浸漬作業には危険が伴い、またセンサに耐熱性を持たせねばならない。
本発明は、超音波センサを溶融金属に浸漬させないで、高温槽の壁厚を測定することができる方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記非特許文献1に開示されるものは、パイプ端から長距離伝播性の超音波を発してその反射波からパイプの表面疵の位置や深さを検出できる、とするものであるが、本発明者らは、このことから表面に多数の凹部を有する板についても板端から長距離伝播性の超音波を発して、その反射波を求めることにより各凹部の位置や深さを検出できること、更にはこれを応用して前述する高温槽の壁厚も同様に測定できることに想到し、本発明を完成するに至ったものである。
【0010】
したがって、請求項1に係る発明は、内部に溶融金属が入れられる高温槽の壁厚を測定する方法であって、超音波センサを高温槽の側壁天端に設置して、長距離伝播性の超音波を壁厚と直交する方向に発し、その反射波のデータから高温槽の壁厚を測定することを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明は、内部に溶融金属が入れられる高温槽の壁厚を測定する装置であって、高温槽の側壁天端から壁厚と直交する方向に長距離伝播性の超音波を発する送信部と、長距離伝播性の超音波の反射波を受信する受信部を有し、高温槽の側壁天端に配置される超音波センサと、該超音波センサで検出した反射波のデータから高温槽側壁の壁厚を算出する解析装置とからなることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項2に係る発明の超音波センサが電磁超音波センサであることを特徴とし、
請求項4に係る発明は、請求項2又は3に係る発明において、超音波センサを高温槽の側壁天端に沿って移動させる移動手段を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、超音波センサを溶融金属に浸漬しないでも高温槽側壁の壁厚を求めることができ、超音波センサを溶融金属に浸漬して壁厚を測定していた従来法に比べ、作業時の危険性が改善され、超音波センサも溶融金属に浸漬するほどの耐熱性を要求されない。
【0014】
超音波センサを電磁超音波センサとすれば、高温槽に非接触にできるため耐熱性を不要にでき、超音波センサを移動手段によって移動させるようにすれば、高温槽側壁の天端に沿う測定が容易に行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面により説明する。
図2に示す符号1は、高温槽としての亜鉛メッキ槽を示すもので、該メッキ槽1は鋼製で側壁1aと底壁1bとよりなり、外側が耐熱材2で覆われている。
【0016】
高温槽1の天端側方には、高温槽1の長手方向(図の紙片を直交する方向)に沿って山形のレール3が敷設され、該レール上に台車4が移動可能、好ましくは自走できるように取付けられている。
【0017】
台車4のブラケット5に昇降可能に取着され、ウィンチの巻胴6にワイヤ7により連結されて、ワイヤ7の巻取り或いは巻戻しにより昇降するホルダー8には、長距離伝播性の超音波の送信部9aと反射波の受信部9bを備えた超音波センサ11が取付けられている。
【0018】
側壁1aの壁厚測定時には、ワイヤ7の巻戻しにより超音波センサ11を降下させ、送信部9aと受信部9bをメッキ槽側壁1aの天端に接触させる。そして台車4の走行に伴って天端に沿って移動させ、送信部9aより長距離伝播性の超音波を側壁天端から壁厚と直交する方向に送信し、その反射波を受信部9bにて受信する。図中、12は超音波センサ11で検出した反射波のデータからメッキ槽側壁の壁厚を算出する解析装置を備えた超音波探傷器を示す。図3は、該超音波探傷器12の解析装置の一例を示すもので、パソコンにより構成され、超音波センサ11の受信部9bで受信された反射波のデータからノイズを除去した波形を求める波形処理部14と、反射波の振幅と側壁表面の凹部の深さとの検量式(反射波の振幅と側壁表面の凹部の深さには、前述の非特許文献1に示されるように正の相関がある)を格納したメモリー15と、前記波形処理部14で求めた波形の振幅からメモリー15に格納される検量式に基づいて壁厚を算出する算出部16と、算出部16で算出されたメッキ槽側壁1aの壁厚から求めた、図2に示す側壁1aのプロフィルを表示するCRT等の表示部17からなっている。
【0019】
本実施形態によると、超音波センサ11をメッキ槽側壁1aの天端に沿って移動させることにより側壁1aのプロフィルが表示部17に表示され、溶損の程度を一目で見て把握することができる。
【0020】
前記実施形態の超音波センサ11には、圧電素子式や磁歪式のものを用いてもよいが、好ましくは非接触タイプの電磁超音波センサが用いられる。
前記実施形態の解析装置は、得られた反射波の振幅からメモリー15に格納される検量式に基づいて壁厚を算出し、それより求めた側壁1aのプロフィルを表示部17に表示するようになっているが、別の実施形態では波形処理部14で処理された波形が表示部17に表示され、表示部17に表示される波形を見て、側壁内面のプロフィルを把握するようにされる。
【0021】
本発明は、亜鉛、錫、鉛、アルミニウム等の溶融金属が入れられる高温槽の壁厚を測定する方法及び装置に関するものであるが、原油等の液体の貯蔵タンクや船舶等における上部開放された構造物の側壁の壁厚の測定にも応用可能である。さらに、測定精度の向上や測定時間の短縮を図る目的で複数個の超音波センサを同時に使用して測定することも、本発明を応用することで可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】非特許文献1の実験で用いたパイプを示す図。
【図2】亜鉛メッキ槽の側壁測定時における測定装置の側面図。
【図3】解析装置のブロック図。
【符号の説明】
【0023】
1・・亜鉛メッキ槽
1a・・側壁
3・・レール
4・・台車
5・・ブラケット
6・・巻胴
7・・ワイヤ
8・・ホルダー
9a・・送信部
9b・・受信部
11・・超音波センサ
12・・超音波探傷器
14・・波形処理部
15・・メモリー
16・・算出部
17・・表示部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に溶融金属が入れられる高温槽の壁厚を測定する方法であって、超音波センサを高温槽の側壁天端に設置して、長距離伝播性の超音波を壁厚と直交する方向に発し、その反射波のデータから高温槽の壁厚を測定することを特徴とする方法。
【請求項2】
内部に溶融金属が入れられる高温槽の壁厚を測定する装置であって、高温槽の側壁天端から壁厚と直交する方向に長距離伝播性の超音波を発する送信部と、長距離伝播性の超音波の反射波を受信する受信部を有し、高温槽の側壁天端に配置される超音波センサと、該超音波センサで検出した反射波のデータから高温槽側壁の壁厚を算出する解析装置とからなることを特徴とする装置。
【請求項3】
前記超音波センサが電磁超音波センサであることを特徴とする請求項2記載の装置。
【請求項4】
前記超音波センサを高温槽の側壁天端に沿って移動させる移動手段を設けたことを特徴とする請求項2又は3記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−25555(P2010−25555A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−183293(P2008−183293)
【出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【出願人】(000133294)株式会社ダイクレ (65)
【Fターム(参考)】