説明

高温機器の寿命評価装置および高温機器の寿命評価方法

【課題】実機における所定部分の温度を実測し、その実測された温度を用いた熱伝導解析および熱応力解析の結果に基づいて損傷評価を行い、高精度な寿命評価を行うことができる高温機器の寿命評価装置および高温機器の寿命評価方法を提供することを目的とする。
【解決手段】高温機器の寿命評価装置は、高温機器の所定部位の、温度を計測する温度計測手段20と、応力を計測する応力計測手段50と、計測された温度を用いて熱伝導解析を行う熱伝導解析手段30と、解析された温度分布を用いて熱応力解析を行う熱応力解析手段40と、計測された応力値と解析された応力値を比較する応力値比較手段60と、応力差に基づいて、熱伝導解析に用いられる境界条件を解析し、すでに設定されている境界条件を変更する境界条件変更手段70と、熱応力の解析結果を用いて寿命を評価する寿命評価手段80とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば火力発電プラント、原子力発電プラントなどで使用される高温機器の寿命評価装置および高温機器の寿命評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、高温の蒸気が機器内に流れる高圧給水加熱器などは、その機器構成の特異性により蒸気の流れが複雑である。そのため、高温機器を構成する部材における温度勾配が大きくなり、熱疲労やクリ−プなどによる損傷を生じることがあった。このような高温機器の損傷寿命を評価する従来の一般的な方法として、例えば、予測される損傷部位のレプリカを採取し、組織観察上からクリ−プ損傷を評価するAパラメータ法やボイド面積率法などがある(例えば、特許文献1参照。)。また、高温機器を構成する部材の硬さからクリ−プ損傷を評価する硬さ法や、実際に実機より微小試験片を切り出し、この微小試験片に対して材料試験を実施することにより損傷度合いを評価する方法などもある(例えば、特許文献2−3参照。)。
【特許文献1】特開2003−315251号公報
【特許文献2】特開平10−19204号公報
【特許文献3】特開平8−105882号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の寿命評価方法では、高温機器における損傷部位を予測する必要があるが、複雑な温度条件下ではこの損傷部位を特定することが困難であった。また、従来の寿命評価方法では、高温機器を構成する材料と同種の材料からなる試験片に基づいて測定された結果を、寿命評価の際に評価パラメータとして用い、寿命評価を行っていた。また、従来の寿命評価方法では、プラント監視用として備えられた温度計による計測値を用いて、応力解析を行う際に用いる温度分布が算出されることがあった。このように、従来の寿命評価方法では、上記した試験片に基づいて測定された結果や、他の用途のために備えられた情報を用いて熱応力解析などを行い、その結果に基づいて寿命評価を行っていたため、高い信頼性を有する寿命評価結果が得られるものではなかった。
【0004】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、実機における所定部分の温度を実測し、その実測された温度を用いた熱伝導解析および熱応力解析の結果に基づいて損傷評価を行い、高精度な寿命評価を行うことができる高温機器の寿命評価装置および高温機器の寿命評価方法を提供することを目的とする。また、実機における所定部分の応力を実測し、実測された応力と熱応力解析によって算出された応力との差異に基づいて熱伝導解析に用いる境界条件を変更して高精度な寿命評価を行うことができる高温機器の寿命評価装置および高温機器の寿命評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の高温機器の寿命評価装置は、高温下で使用される高温機器の寿命を評価する装置であって、高温機器の所定部位の温度を計測する温度計測手段と、高温機器の所定部位の応力を計測する応力計測手段と、前記温度計測手段による計測結果を用いて熱伝導解析を行う熱伝導解析手段と、前記熱伝導解析手段による解析結果を用いて熱応力解析を行う熱応力解析手段と、前記応力計測手段によって計測された応力値と熱応力解析手段によって解析された応力値を比較する応力値比較手段と、前記応力値比較手段で算出された応力差に基づいて、前記熱伝導解析手段において用いられる境界条件を解析し、すでに設定されている境界条件を前記解析された境界条件に変更する境界条件変更手段と、前記熱応力解析手段による解析結果を用いて高温機器の寿命を評価する寿命評価手段とを具備したことを特徴とする。
【0006】
この高温機器の寿命評価装置によれば、温度計測手段によって実測された高温機器の所定部位の温度を用いて熱伝導解析手段が熱伝導解析を行い、この熱伝導解析によって得られた温度分布に基づいて熱応力解析手段が熱応力解析を行い応力を算出する。また、応力値比較手段が、この熱応力解析によって算出された応力値と、実測された高温機器の所定部位の応力とを比較し、熱伝導解析に用いる境界条件を変更する。このように最適化された境界条件を用いて算出された熱伝導解析結果を用いて解析された熱応力解析の結果から高温機器の寿命が評価させるので、高精度な寿命評価が可能となる。
【0007】
本発明の高温機器の寿命評価方法は、高温下で使用される高温機器の寿命を評価する方法であって、高温機器の所定部位の温度を計測する温度計測工程と、高温機器の所定部位の応力を計測する応力計測工程と、前記温度計測工程における計測結果を用いて熱伝導解析を行う熱伝導解析工程と、前記熱伝導解析工程における解析結果を用いて熱応力解析を行う熱応力解析工程と、前記応力計測工程において計測された応力値と熱応力解析工程において解析された応力値を比較する応力値比較工程と、前記応力値比較工程において算出された応力差に基づいて、前記熱伝導解析工程において用いられる境界条件を解析し、すでに設定されている境界条件を前記解析された境界条件に変更する境界条件変更工程と、前記熱応力解析工程による解析結果を用いて高温機器の寿命を評価する寿命評価工程とを具備したことを特徴とする。
【0008】
この高温機器の寿命評価方法によれば、温度計測工程において実測された高温機器の所定部位の温度を用いて熱伝導解析工程で熱伝導解析を行い、この熱伝導解析によって得られた温度分布に基づいて熱応力解析工程で熱応力解析を行い応力を算出する。また、応力値比較工程において、この熱応力解析によって算出された応力値と、実測された高温機器の所定部位の応力とを比較し、熱伝導解析に用いる境界条件を変更する。このように最適化された境界条件を用いて算出された熱伝導解析結果を用いて解析された熱応力解析の結果から高温機器の寿命が評価させるので、高精度な寿命評価が可能となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の高温機器の寿命評価装置および高温機器の寿命評価方法によれば、実機における所定部分の温度を実測し、その実測された温度を用いた熱伝導解析および熱応力解析の結果に基づいて損傷評価を行い、高精度な寿命評価を行うことができる。また、実機における所定部分の応力を実測し、実測された応力と熱応力解析によって算出された応力との差異に基づいて熱伝導解析に用いる境界条件を変更して高精度な寿命評価を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0011】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明に係る第1の実施の形態の寿命評価装置10の構成図である。図2は、熱伝導解析モデルの一例を示す斜視図である。図3は、寿命評価装置10の動作を示すフロチャートである。なお、この寿命評価装置10は、例えば火力発電プラント、原子力発電プラントなどに備えられる高温給水加熱器や蒸気タービンのケーシングなどの高温機器の寿命を評価するものである。
【0012】
図1に示すように、寿命評価装置10は、温度計測手段20と、熱伝導解析手段30と、熱応力解析手段40と、応力計測手段50と、応力値比較手段60と、境界条件変更手段70と、寿命評価手段80とを備えている。
【0013】
温度計測手段20は、寿命評価の対象となる高温機器の所定部位の温度を実測し、その実測した温度に係る情報を熱伝導解析手段30に出力するものである。この温度計測手段20によって、例えば、熱伝導解析手段30において熱伝導解析を行う際に必要となる高温機器の表面などの温度が実測される。この温度計測手段20は、例えば、熱電対のような接触型温度計や、赤外線放射温度計のような非接触型温度計などで構成される。温度計測手段20を接触型温度計で構成する場合には、接触型温度計は、熱伝導解析手段30において熱伝導解析を行う際に必要となる高温機器の表面の複数の部位に設置される。また、温度計測手段20を非接触型温度計、特に赤外線放射温度計などで構成する場合には、高温機器の表面の温度を面計測することができる。
【0014】
熱伝導解析手段30は、温度計測手段20によって計測された、高温機器の表面の複数の部位における温度情報および境界条件に基づいて熱伝導解析を行い、高温機器における温度分布を数値解析により算出する。また、熱伝導解析手段30は、解析した温度分布に係る情報を熱応力解析手段40に出力する。この熱伝導解析手段30における熱伝導解析は、有限要素法(FEM)などを用いて行われる。
【0015】
なお、境界条件として、高温機器の初期温度、ヒータなどの発熱体を備える場合にはその発熱量、断熱状態が放熱状態かの条件、高温機器を構成する材料の熱伝導率、高温機器の内壁と高温機器内を流れる流体との間における熱伝達率などが含まれる。これらの境界条件の中でも、特に実機を模擬した解析を行うために、熱伝達率の設定が重要となる。これらの境界条件を用いて、実機温度条件を数値解析的に模擬するためには、熱伝導解析において実測温度と同温度の結果を出力可能な熱伝達率の設定が必要となる。このような熱伝達率は、図1に示すように、境界条件変更手段70によって、熱伝導解析手段30で用いられる境界条件、特に熱伝達率の値を応力値比較手段60からの情報に基づいて繰り返し変更し、熱応力解析手段40で解析された応力値と応力計測手段50で計測された応力値との差がなくなる条件において得られる。この熱伝導解析手段30は、例えばメモリやハードディスクなどの記憶装置に記憶され、CPUなどの演算手段により実行されるプログラムなどにより実現される。
【0016】
熱応力解析手段40は、熱伝導解析手段30で解析された温度分布などに基づいて、応力やひずみなどを解析し、解析した応力やひずみなどに係る情報を応力値比較手段60に出力する。この熱応力解析手段40における熱応力解析は、有限要素法(FEM)などを用いて行われる。また、熱応力解析手段40は、例えばメモリやハードディスクなどの記憶装置に記憶され、CPUなどの演算手段により実行されるプログラムなどにより実現される。
【0017】
応力計測手段50は、寿命評価の対象となる高温機器の所定部位の応力を実測し、その実測した応力に係る情報を応力値比較手段60に出力するものである。この応力計測手段50は、例えばひずみゲージなどで構成される。なお、応力計測手段50は、温度計測手段20が設置される近傍の応力を計測できるように設置されることが好ましい。これによって、応力と温度の計測部位をほぼ対応させることができる。
【0018】
応力値比較手段60は、熱応力解析手段40で解析された応力値と、応力計測手段50で計測された応力値とを比較し、その比較した結果、双方の応力の差が小さい場合には、熱応力解析手段40で解析された解析結果に係る情報を寿命評価手段80に出力し、双方の応力の差が大きい場合には、比較した結果に係る情報を境界条件変更手段70に出力するものである。具体的には、応力計測手段50によって実測された高温機器の所定部位における応力値と、熱応力解析手段40で解析されたその所定部位に対応する部位の応力値との応力差を算出し、その応力差が実測された応力値に対して±5%の範囲内の場合には、熱応力解析手段40で解析された解析結果に係る情報を寿命評価手段80に出力する。一方、その応力差が実測された応力値に対して±5%の範囲を超える場合には、その応力差に係る情報を境界条件変更手段70に出力する。なお、双方の応力の差が小さい場合(応力差が実測された応力値に対して±5%の範囲内の場合)には、熱応力解析手段40で解析された解析結果に係る情報を熱応力解析手段40から寿命評価手段80に出力させてもよい。また、応力値比較手段60は、例えばメモリやハードディスクなどの記憶装置に記憶され、CPUなどの演算手段により実行されるプログラムなどにより実現される。
【0019】
境界条件変更手段70は、応力値比較手段60で算出された、熱応力解析手段40で解析された応力値と応力計測手段50で計測された応力値との応力差に基づいて、その応力差が最小となるように、好ましくはその応力差がなくなるように、熱伝導解析手段30で用いられる境界条件、特に熱伝達率の値を設定するための解析を行う。また、境界条件変更手段70は、解析した境界条件に係る情報を熱伝導解析手段30に出力し、熱伝導解析手段30で用いられる境界条件の各値を変更する。
【0020】
ここで、境界条件変更手段70における境界条件を設定するための解析として、例えば、複数回の解析によって得られたデータを用いて、サブルーチンプログラム処理によって熱伝導解析および熱応力解析を施し、実機条件に近い温度分布となるための境界条件、特に熱伝達率を得る方法が挙げられる。この方法の具体例として、温度計測手段20によって実測された高温機器の表面温度を制約条件とし、応力差を最小とするように目標関数を設定して、熱伝導解析に用いる熱伝達係数などの境界条件値を最適化する方法が挙げられる。このような最適化処理は、例えば、サブルーチンプログラム内に線形計画法などの最適化アルゴリズムを備えることによって可能となる。
【0021】
また、図2に示すように、境界条件変更手段70における境界条件を設定するための解析として、温度計測手段20によって実測された高温機器90の表面温度T1、高温機器90の蒸気入口における蒸気91の蒸気入口温度T2および高温機器90の蒸気出口における蒸気91の蒸気出口温度T3から熱伝達係数などを推測して境界条件値を設定する方法が挙げられる。なお、蒸気入口温度T2および蒸気出口温度T3は、一般的にプラント監視用に設置されている運転計測モニタ用の温度値が用いられる。
【0022】
また、境界条件変更手段70は、例えばメモリやハードディスクなどの記憶装置に記憶され、CPUなどの演算手段により実行されるプログラムなどにより実現される。なお、例えば熱伝導解析手段30によって参照なデータベースなどを備えている場合には、境界条件変更手段70によって解析された境界条件に係る情報をそのデータベースに出力して格納してもよい。また、この境界条件変更手段70を設ける代わりに、上記した応力値比較手段60がこの境界条件変更手段70としての機能を備えて構成されてもよい。また、上記した応力値比較手段60を設ける代わりに、この境界条件変更手段70が応力値比較手段60としての機能を備えて構成されてもよい。
【0023】
寿命評価手段80は、熱応力解析手段40によって解析された応力やひずみなどに係る情報を用いて公知な寿命評価方法によって高温機器の寿命を評価するものである。公知な寿命評価方法として、特に限定されるものではないが、例えば、Aパラメータ法、ボイド面積率法、ボイド個数密度法などのボイド法による方法が挙げられる。Aパラメータ法では、ボイドが生成している粒界の割合(Aパラメータ)とクリープひずみ損傷量とのマスタカーブから寿命を求めることができる。また、ボイド面積率法では、単位面積当たりに占めるボイドの面積(ボイド面積率)とクリープひずみ損傷量とのマスタカーブから寿命を求めることができる。また、ボイド個数密度法では、単位面積当たりのボイド個数(ボイド個数密度)とクリープひずみ損傷量とのマスタカーブから寿命を求めることができる。なお、クリープひずみ損傷量を算出する際に、熱応力解析手段40によって解析された応力やひずみなどに係る情報や熱伝導解析手段30によって解析された温度分布などに係る情報が用いられる。なお、寿命評価手段80において、マスタカーブを算出する際には、熱応力解析手段40からの情報以外に、例えば、応力や温度などの各条件に対応するAパラメータ、ボイド面積率、ボイド個数密度などの情報を格納するデータベース(図示しない)の情報が用いられる。また、寿命評価手段80は、例えばメモリやハードディスクなどの記憶装置に記憶され、CPUなどの演算手段により実行されるプログラムなどにより実現される。
【0024】
次に、寿命評価装置10の動作について説明する。
【0025】
図3に示すように、まず、温度計測手段20が、寿命評価の対象となる高温機器の所定部位の温度を実測し、その実測した温度に係る情報を熱伝導解析手段30に出力する(ステップS100)。
【0026】
高温機器の表面における温度分布に係る情報を入力した熱伝導解析手段30は、温度計測手段20によって計測された、高温機器の表面の複数の部位における温度情報および境界条件に基づいて熱伝導解析を行い、高温機器における温度分布を算出し、解析した温度分布に係る情報を熱応力解析手段40に出力する(ステップS101)。
【0027】
続いて、熱応力解析手段40は、熱応力解析手段40から出力された温度分布に係る情報などに基づいて、応力やひずみなどを解析し、解析した応力やひずみなどに係る情報を応力値比較手段60に出力する(ステップS102)。
【0028】
また、応力計測手段50が、寿命評価の対象となる高温機器の所定部位の応力を実測し、その実測した応力に係る情報を応力値比較手段60に出力する(ステップS103)。
【0029】
続いて、応力値比較手段60は、応力計測手段50によって実測された高温機器の所定部位における応力値と、熱応力解析手段40で解析されたその所定部位に対応する部位の応力値との応力差を算出し、その応力差が実測された応力値に対して±5%の範囲内か否かを判定する(ステップS104)。
【0030】
ステップS104の判定で、応力差が実測された応力値に対して±5%の範囲内であると判定した場合(ステップS104のYes)には、応力値比較手段60は、熱応力解析手段40で解析された解析結果に係る情報を寿命評価手段80に出力する。
【0031】
寿命評価手段80は、熱応力解析手段40によって解析された応力やひずみなどに係る情報を用いて公知な寿命評価方法によって高温機器の寿命を評価する(ステップS105)。なお、この場合、熱応力解析手段40で解析された解析結果に係る情報を熱応力解析手段40から寿命評価手段80に出力させてもよい。
【0032】
このステップS105において、従来の寿命評価方法と同様に、予め寿命評価をするための情報を格納したデータベースからのデータに基づいて寿命評価を行い、この従来の方法で評価した寿命評価結果と、上記した寿命評価手段80による寿命評価結果とを比較し、寿命評価手段80による寿命評価結果に基づいて従来の方法で評価した寿命評価結果を修正する処理を実行してもよい。具体的には、例えば、従来の方法で評価した寿命評価結果と上記した寿命評価手段80による寿命評価結果との各評価項目における差を算出し、上記した寿命評価手段80による寿命評価結果に近づけるための、従来の方法で評価した寿命評価結果に対する修正度合を算出する。これによって、温度や応力などの実測値に基づいて評価された寿命評価結果をデータベースに格納されたデータに反映させ、より高精度なデータベースを構築することが可能となる。
【0033】
一方、ステップS104の判定で、応力差が実測された応力値に対して±5%の範囲を超えていると判定した場合(ステップS104のNo)には、応力値比較手段60は、応力差に係る情報を境界条件変更手段70に出力する。
【0034】
境界条件変更手段70は、応力値比較手段60で算出された応力差に基づいて、その応力差が最小になるように、熱伝導解析手段30で用いられる境界条件、特に熱伝達率の値を設定するための解析を行う(ステップS106)。そして、境界条件変更手段70は、解析した境界条件に係る情報を熱伝導解析手段30に出力し、すでに設定されている熱伝導解析手段30で用いられる境界条件の各値を変更する(ステップS106)。ステップS106の処理を実行後、再度ステップS101からの処理を実行する。
【0035】
ここで、上記した各動作処理において得られた、計測された温度や応力に係る情報、計測された温度や応力に基づいて評価された寿命評価に係る情報、計測された温度や応力に基づいて変更された境界条件に係る情報などを、データベースに格納する処理を実行させてもよい。なお、このデータベースとして、例えば、ハードディスクなどの記憶装置が用いられる。このように得られた情報をデータベース化することで、温度や応力などを実測しなくても、高温装置の高精度な寿命評価を行うことが可能となる。
【0036】
また、上記した寿命評価装置10における動作では、温度や応力が自動計測され、自動的に寿命評価を行うことができるので、温度や応力の計測結果、寿命評価手段80によって評価された寿命評価結果を、例えばモニタなどに出力することで、温度、応力値、寿命評価結果などをモニタリングすることができる。
【0037】
上記したように、第1の実施の形態の寿命評価装置10によれば、実測された高温機器の所定部位の温度を用いて熱伝導解析を行い、この熱伝導解析によって得られた温度分布に基づいて熱応力解析を行い応力を算出することができる。さらに、この熱応力解析によって算出された応力値と、実測された高温機器の所定部位の応力とを比較し、それそれの応力差を最小とすべく、熱伝導解析に用いる境界条件を変更することができる。また、このように最適化された境界条件を用いて算出された熱伝導解析結果を用いて解析された熱応力解析の結果から高温機器の寿命が評価されるので、高精度な寿命評価が可能となる。また、熱伝導解析において高温機器全体の複雑な温度状態を精度良く模擬することによって、熱応力解析で高精度で応力を算出することができるので、高精度な寿命評価が可能となる。また、温度や応力の計測結果、寿命評価手段80によって評価された寿命評価結果を、例えばモニタなどに出力することで、簡便かつ迅速に高温装置の寿命の評価結果を把握することができる。
【0038】
ここで、通常、高温機器の表面には保温材が設置されており、この保温材は、実機運転時において安全のため必要不可欠なものである。そこで、ここでは、高温機器の表面に保温材が設置されている場合における高温機器の表面の温度に係る情報を得る方法について、図3を参照して説明する。なお、高温機器の表面に保温材が設置されている場合、温度計測手段20として、温度の面計測が可能な赤外線放射温度計などの非接触型温度計を用いることが好ましい。
【0039】
図3に示した温度計測を行うステップS100の処理において、温度計測手段20が、寿命評価の対象となる高温機器の表面に設置された保温材の所定部位における表面の温度を実測し、その実測した温度に係る情報を熱伝導解析手段30に出力する(ステップS100)。
【0040】
続いて、熱伝導解析手段30が、温度計測手段20によって計測された、保温材の所定部位における温度情報および境界条件に基づいて熱伝導解析を行い、高温機器の表面における温度分布を算出し、解析した温度分布に係る情報を熱応力解析手段40に出力する(ステップS101)。なお、この熱伝導解析においては、予め実験などで保温材の熱伝導状態を把握しておき、この実験データを用いて熱伝導解析を行う。これによって、高温機器の表面に設置された保温材の表面の温度から高温機器の表面における温度分布を算出することができる。なお、上記した実験データは、熱伝導解析手段30によって参照可能なデータベースに格納されている。
【0041】
ステップS102以降における動作は、前述したステップS103からの動作と同じである。
【0042】
上記したように、高温機器の表面に保温材が設置される場合には、直接、高温機器の表面の温度を計測してはいないが、高温機器の表面に設置された保温材の表面の温度を実測し、この実測値と、予め実験などで把握された保温材の熱伝導状態に係る情報とから、高温機器の表面の温度を算出することで、高温機器の表面の温度を実測した温度に近い結果を得ることができる。これによって、上記した、高温機器の表面の温度を実測した場合における高温機器の寿命評価と同様に、高精度な寿命評価が可能となる。また、保温材の表面から実機相当の温度分布を推定することが可能となり、温度計測をより簡便に広範囲に亘って行えるので、高精度な寿命評価を簡便に行うことが可能となる。
【0043】
(第2の実施の形態)
図4は、本発明に係る第2の実施の形態の寿命評価装置200の構成図である。図5は、寿命評価装置200の動作を示すフロチャートである。なお、第1の実施の形態の寿命評価装置10の構成と同一の構成部分には同一の符号を付して、重複する説明を省略または簡略する。
【0044】
図4に示すように、寿命評価装置200は、温度計測手段20と、熱伝導解析手段30と、熱応力解析手段40と、応力計測手段50と、応力値比較手段60と、境界条件変更手段70と、寿命評価手段80と、試験片情報入力手段210とを備えている。
【0045】
試験片情報入力手段210は、寿命評価の対象となる高温機器の所定部位から切り出された微小な試験片を用いて材料評価を行った結果に係る情報入力し、その入力した情報を寿命評価手段80に出力するものである。試験片を用いて行われる材料評価項目として、クリープ強度、ボイド面積率、ボイド個数密度などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。ここで、試験片が切り出される所定部位として、例えば応力や温度を実測した部位や熱応力解析により応力が高い部位などが好ましい。また、試験片情報入力手段210は、キーボード、マウス、外部入力インターフェースなどの入力手段を備えている。また、入力した情報を寿命評価手段80に出力するための外部出力インターフェースなどの出力手段も備えている。
【0046】
寿命評価手段80は、熱応力解析手段40によって解析された応力やひずみなどに係る情報を用いて公知な寿命評価方法によって高温機器の寿命を評価するものである。公知な寿命評価方法として、前述したように、例えば、Aパラメータ法、ボイド面積率法、ボイド個数密度法などのボイド法による方法が挙げられる。これらの方法で寿命評価する際、試験片情報入力手段210から出力された、実際に高温機器の所定部位から切り出された試験片において計測された、クリープ強度、ボイド面積率、ボイド個数密度などが評価パラメータとして用いられる。すなわち、寿命評価手段80では、熱応力解析手段40から入力さた、試験片が置かれた例えば温度や応力などの情報と、実際の試験片において計測された、クリープ強度、ボイド面積率、ボイド個数密度などの情報とに基づいて、高温機器の寿命を評価する。
【0047】
次に、寿命評価装置200の動作について説明する。
【0048】
図5に示すように、まず、温度計測手段20が、寿命評価の対象となる高温機器の所定部位の温度を実測し、その実測した温度に係る情報を熱伝導解析手段30に出力する(ステップS100)。
【0049】
高温機器の表面における温度分布に係る情報を入力した熱伝導解析手段30は、温度計測手段20によって計測された、高温機器の表面の複数の部位における温度情報および境界条件に基づいて熱伝導解析を行い、高温機器における温度分布を算出し、解析した温度分布に係る情報を熱応力解析手段40に出力する(ステップS101)。
【0050】
続いて、熱応力解析手段40は、熱応力解析手段40から出力された温度分布に係る情報などに基づいて、応力やひずみなどを解析し、解析した応力やひずみなどに係る情報を応力値比較手段60に出力する(ステップS102)。
【0051】
また、応力計測手段50が、寿命評価の対象となる高温機器の所定部位の応力を実測し、その実測した応力に係る情報を応力値比較手段60に出力する(ステップS103)。
【0052】
続いて、応力値比較手段60は、応力計測手段50によって実測された高温機器の所定部位における応力値と、熱応力解析手段40で解析されたその所定部位に対応する部位の応力値との応力差を算出し、その応力差が実測された応力値に対して±5%の範囲内か否かを判定する(ステップS104)。
【0053】
ステップS104の判定で、応力差が実測された応力値に対して±5%の範囲内であると判定した場合(ステップS104のYes)には、応力値比較手段60は、熱応力解析手段40で解析された解析結果に係る情報を寿命評価手段80に出力する。
【0054】
また、試験片情報入力手段210は、寿命評価の対象となる高温機器の所定部位から切り出された微小な試験片を用いて材料評価を行った結果に係る情報を入力し、その入力した情報を寿命評価手段80に出力する(ステップS220)。
【0055】
寿命評価手段80は、熱応力解析手段40によって解析された応力やひずみなどに係る情報、および試験片情報入力手段210から入力した材料評価を行った結果に係る情報を用いて、公知な寿命評価方法によって高温機器の寿命を評価する(ステップS221)。なお、この場合、熱応力解析手段40で解析された解析結果に係る情報を熱応力解析手段40から寿命評価手段80に出力させてもよい。
【0056】
一方、ステップS104の判定で、応力差が実測された応力値に対して±5%の範囲を超えていると判定した場合(ステップS104のNo)には、応力値比較手段60は、応力差に係る情報を境界条件変更手段70に出力する。
【0057】
境界条件変更手段70は、応力値比較手段60で算出された応力差に基づいて、その応力差が最小になるように、熱伝導解析手段30で用いられる境界条件、特に熱伝達率の値を設定するための解析を行う(ステップS106)。そして、境界条件変更手段70は、解析した境界条件に係る情報を熱伝導解析手段30に出力し、すでに設定されている熱伝導解析手段30で用いられる境界条件の各値を変更する(ステップS106)。ステップS106の処理を実行後、再度ステップS101からの処理を実行する。
【0058】
ここで、上記した各動作処理において得られた、計測された温度や応力に係る情報、材料評価に係る情報、計測された温度や応力および材料評価を行った結果に係る情報に基づいて評価された寿命評価に係る情報、計測された温度や応力に基づいて変更された境界条件に係る情報などを、データベースに格納する処理を実行させてもよい。なお、このデータベースとして、例えば、ハードディスクなどの記憶装置が用いられる。このように得られた情報をデータベース化することで、温度や応力などを実測しなくても、高温装置の高精度な寿命評価を行うことが可能となる。
【0059】
上記したように、第2の実施の形態の寿命評価装置200によれば、高温機器の所定部位から切り出された微小な試験片を用いて材料評価を行った結果に係る情報、およびこの試験片が置かれた、例えば温度や応力などの情報を得ることができる。また、実測された高温機器の所定部位の温度を用いて熱伝導解析を行い、この熱伝導解析によって得られた温度分布に基づいて熱応力解析を行い応力を算出することができる。さらに、この熱応力解析によって算出された応力値と、実測された高温機器の所定部位の応力とを比較し、それそれの応力差を最小とすべく、熱伝導解析に用いる境界条件を変更することができる。上記したように、最適化された境界条件を用いて算出された熱伝導解析結果を用いて解析された熱応力解析の結果および試験片を用いた材料評価結果から高温機器の寿命が評価させるので、高精度な寿命評価が可能となる。
【0060】
以上、本発明を実施の形態により具体的に説明したが、本発明はこれらの実施の形態にのみ限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明に係る第1の実施の形態の寿命評価装置の構成図。
【図2】熱伝導解析モデルの一例を示す斜視図。
【図3】本発明に係る第1の実施の形態の寿命評価装置の動作を示すフロチャート。
【図4】本発明に係る第2の実施の形態の寿命評価装置の構成図。
【図5】本発明に係る第2の実施の形態の寿命評価装置の動作を示すフロチャート。
【符号の説明】
【0062】
10…寿命評価装置、20…温度計測手段、30…熱伝導解析手段、40…熱応力解析手段、50…応力計測手段、60…応力値比較手段、70…境界条件変更手段、80…寿命評価手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温下で使用される高温機器の寿命を評価する装置であって、
高温機器の所定部位の温度を計測する温度計測手段と、
高温機器の所定部位の応力を計測する応力計測手段と、
前記温度計測手段による計測結果を用いて熱伝導解析を行う熱伝導解析手段と、
前記熱伝導解析手段による解析結果を用いて熱応力解析を行う熱応力解析手段と、
前記応力計測手段によって計測された応力値と熱応力解析手段によって解析された応力値を比較する応力値比較手段と、
前記応力値比較手段で算出された応力差に基づいて、前記熱伝導解析手段において用いられる境界条件を解析し、すでに設定されている境界条件を前記解析された境界条件に変更する境界条件変更手段と、
前記熱応力解析手段による解析結果を用いて高温機器の寿命を評価する寿命評価手段と
を具備したことを特徴とする高温機器の寿命評価装置。
【請求項2】
前記高温機器の所定部位から採取された試験片の損傷度合に係る情報を入力する試験片情報入力手段をさらに具備し、
前記温度計測手段および前記応力計測手段で計測された計測結果に対応させた前記高温機器の損傷度合の評価結果が得られることを特徴とする請求項1記載の高温機器の寿命評価装置。
【請求項3】
前記温度計測手段で計測される温度が、前記高温機器の表面温度であることを特徴とする請求項1または2記載の高温機器の寿命評価装置。
【請求項4】
前記高温機器の表面に保温材が設置されている場合において、前記温度計測手段で計測される温度が前記保温材の表面温度であり、前記保温材の表面温度に基づいて前記高温機器の表面温度を算出することを特徴とする請求項1または2記載の高温機器の寿命評価装置。
【請求項5】
前記境界条件変更手段において、前記高温機器の表面温度を制約条件とし、前記熱応力解析手段によって解析された応力値と応力計測手段によって計測された前記高温機器の表面における応力値との差を最小とする目標関数を設定して、前記熱伝導解析手段で用いられる境界条件を最適化することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の高温機器の寿命評価装置。
【請求項6】
寿命評価に係る情報が格納されたデータベースに基づいて高温機器の寿命を評価する第2の寿命評価手段をさらに備え、
前記寿命評価手段で評価された高温機器の寿命と、前記第2の寿命評価手段で評価された高温機器の寿命とを比較して、前記第2の寿命評価手段で評価された寿命を修正することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の高温機器の寿命評価装置。
【請求項7】
少なくとも、前記温度計測手段および前記応力計測手段で計測された計測結果、および前記境界条件変更手段によって該計測結果に基づいて設定された境界条件を格納する解析情報格納手段をさらに具備したことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の高温機器の寿命評価装置。
【請求項8】
高温下で使用される高温機器の寿命を評価する方法であって、
高温機器の所定部位の温度を計測する温度計測工程と、
高温機器の所定部位の応力を計測する応力計測工程と、
前記温度計測工程における計測結果を用いて熱伝導解析を行う熱伝導解析工程と、
前記熱伝導解析工程における解析結果を用いて熱応力解析を行う熱応力解析工程と、
前記応力計測工程において計測された応力値と熱応力解析工程において解析された応力値を比較する応力値比較工程と、
前記応力値比較工程において算出された応力差に基づいて、前記熱伝導解析工程において用いられる境界条件を解析し、すでに設定されている境界条件を前記解析された境界条件に変更する境界条件変更工程と、
前記熱応力解析工程による解析結果を用いて高温機器の寿命を評価する寿命評価工程と
を具備したことを特徴とする高温機器の寿命評価方法。
【請求項9】
前記高温機器の所定部位から採取された試験片の損傷度合に係る情報を入力する試験片情報入力工程をさらに具備し、
前記温度計測工程および前記応力計測工程で計測された計測結果に対応させた前記高温機器の損傷度合の評価結果が得られることを特徴とする請求項8記載の高温機器の寿命評価方法。
【請求項10】
前記温度計測工程で計測される温度が、前記高温機器の表面温度であることを特徴とする請求項8または9記載の高温機器の寿命評価方法。
【請求項11】
前記高温機器の表面に保温材が設置されている場合において、前記温度計測工程で計測される温度が前記保温材の表面温度であり、前記保温材の表面温度に基づいて前記高温機器の表面温度を算出することを特徴とする請求項8または9記載の高温機器の寿命評価方法。
【請求項12】
前記境界条件変更工程において、前記高温機器の表面温度を制約条件とし、前記熱応力解析工程において解析された応力値と応力計測工程において計測された前記高温機器の表面における応力値との差を最小とする目標関数を設定して、前記熱伝導解析工程で用いられる境界条件を最適化することを特徴とする請求項8乃至11のいずれか1項記載の高温機器の寿命評価方法。
【請求項13】
寿命評価に係る情報が格納されたデータベースに基づいて高温機器の寿命を評価する第2の寿命評価工程をさらに備え、
前記寿命評価工程で評価された高温機器の寿命と、前記第2の寿命評価工程で評価された高温機器の寿命とを比較して、前記第2の寿命評価工程で評価された寿命を修正することを特徴とする請求項8乃至12のいずれか1項記載の高温機器の寿命評価方法。
【請求項14】
少なくとも、前記温度計測工程および前記応力計測工程で計測された計測結果、および前記境界条件変更工程において該計測結果に基づいて設定された境界条件を格納する解析情報格納工程をさらに具備したことを特徴とする請求項8乃至13のいずれか1項記載の高温機器の寿命評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−134095(P2008−134095A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−318989(P2006−318989)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】