説明

高温超伝導体およびその作製法

【目的】 Tlを含まず、あるいはTl濃度の低い高温超伝導体を実現する。
【構成】 超伝導体は(M1-xxy CuO1+z の組成、ただしMはCa,Sr,Ba,Hg,Cd,Pbの2価イオンの少なくとも1種類、AはLi,Na,K,Rb,Cs,Agの1価イオンまたはTl,BiあるいはY,Laランタニド系列の3価イオンの少なくとも1種、0<x<0.5、0.8<y<2.0、1.6<z<2.4、を有し、かつ層状構造を持つ。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は高温超伝導体およびその作製法に関し、特に液体窒素温度以上で使用することができる超伝導体およびその作製法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来の銅酸化物超伝導体でTcが110K以上のものとしてはTl系のものがある。従来の高温超伝導体であるTl系超伝導体には、Tl1 Ba2 Ca2 Cu3 Oy(通称1223),Tl2 Ba2 Ca2 Cu3 Oy(通称2223)およびTl1 Ba2 Ca3 Cu4 Oy(通称1234)などがあった。このうち、Tl2 Ba2 Ca2 Cu3 Oyの超伝導臨界温度Tcは最高128Kであり、高いTc値を持つが、従来のTl系超伝導体はTlの含有濃度が高いものが多かった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】従来のTc110K以上の超伝導体としてはTl系があるが、これらは有害物質であるTlを含み、かつTcも128K止まりでありそれ以上の高いTcを達成することは困難であった。Tlは毒性がある上に資源的にも乏しいにもかかわらず、従来のTl系超伝導体はTlの使用量が多く、作製技術上の除毒対策、コストの低減および資源確保の困難等の点で大きな問題があった。
【0004】本発明の目的は上述の問題点を解決し、Tlを含まず、あるいはTl濃度の低い超伝導体およびその作製法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記従来の問題点を解決するために、本発明においてはTlを減らすか含まずにアルカリ土類金属の元素Ba,Sr,Caと銅の酸化物を主体としてキャリアの導入のため2価のHgおよびCd、1価のアルカリ金属元素またはCu,Ag、あるいは3価のYあるいはランタン系列元素、または過剰の酸素を用いて、層状銅酸化物を形成しTc=120K以上の超伝導体を実現しようとしたものである。すなわち、本発明は(M1-xxy CuO1+z の組成、ただしMはCa,Sr,Ba,Hg,Cd,Pbの2価イオンの少なくとも1種類、AはLi,Na,K,Rb,Cs,Cu,Agの1価イオンまたはTl,BiあるいはY,Laランタニド系列の3価イオンの少なくとも1種、0<x<0.5、0.8<y<2.0、1.6<z<2.4、を有し、かつ層状構造を持つことを特徴とする。
【0006】
【作用】本発明によれば格子定数の大きい絶縁体の
【0007】
【外1】


【0008】キャリアを導入することにより、Cu 3dとO p軌道が混成した価電子帯の最上位バンドによってフェルミ面を形成し、ネスティング効果を大きくしさらに感受率を大きくし、その結果電子格子相互作用を大きくできるため、Tcを120K以上に向上させることができる。
【0009】
【実施例】以下、図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。
【0010】実施例1Ba2 Cax Cu1+x2x+3(x=2〜4)の焼結試料にHgO粉末を添加し、HgBa2 Cax Cu1+x2x+5の仕込組成とし、金カプセル中で4〜6GPaの高圧下、800〜1000℃、0.5〜5時間処理した後さらに酸素中300℃で5〜20時間アニール処理するとTc=130K以上の超伝導体が得られる。
【0011】BaCO3 ,CaCO3 およびCuOの粉末をBa2 Ca2 Cu37 となるように秤量し混合して、酸素中で930℃、2時間仮焼結した。その後この仮焼結体を粉砕し、これにHgBa2 Ca2 Cu39-x となるようにHgOを秤量し混合した。混合粉末を加圧してペレットとし、直径4mm、長さ6mmの金カプセルに納め、5GPaの圧力下で800℃、1時間加熱した。加圧は口径25mmのベルト型アンビルを用いて行った。加熱後、試料に圧力を加えたまま室温まで急冷した。続いて試料を酸素気流中で300℃、5時間アニールした。
【0012】このようにして得られたHgBa2 Ca2 Cu39-x のX線粉末回折図形を図1に示す。粉末試料はSiプレートに強く押し付けられており、Siプレートに垂直な方向に強いc軸配向が見られると同時に(001)面の回折ピークが明瞭に現れている。X線回折図形はこの試料の主要部分が格子定数a=8.352Å、c=15.822Åの正方晶構造のHgBa2 Ca2 Cu39-x (1223)化合物であることを示している。xで示されるピークはHg,CuO,CaOの不純物相、未知および非晶質の相が少量存在することを示している。
【0013】得られた試料の電気抵抗の温度依存性を図2R>2に示す。抵抗は通常の4端子法で測定した。図中、曲線Aは前述した高圧下の加熱の後、酸素気流中300℃で5時間アニールした試料の抵抗の温度依存性、曲線Bは比較のために示したもので、300℃のアニール処理を行わない試料のそれである。オンセット遷移温度Tco(抵抗が10%減少する温度)、中央値遷移温度Tc(抵抗が50%減少する温度)および終端遷移温度Tce(抵抗が90%減少する温度)は、アニール処理した試料で、それぞれ131.6、130.3および127.2Kであり、これらはアニール処理を行わない試料の115.2、113.4および111.4Kより高い。アニール処理した試料について、ゼロ抵抗は115Kで観察された。遷移温度以上の温度では、アニール処理した試料の抵抗はアニール処理を行わない試料より約3倍高い。これは一部はキャリアの減少により、一部は不純物相の増加によるものと考えられる。300℃のアニールを10時間行うと、遷移温度は5時間処理のものより約1K高くなり、遷移温度以上での抵抗は約7倍になる。この物質系では帯磁率の減少が137Kから観測されており、Tcが137K以上になる可能性もある。
【0014】実施例2Ba2 (Sr0.7 Ca0.3n-1 Cun2n-1+zまたはBa2 (Sr1-x Caxn-1 Cun2n+1+zの組成になるようにSr−Ca−Cu−OまたはBa−Sr−Ca−Cu−Oの焼結体を作製し、それにHgOおよびTl23 の粉末をTl1-c Hgc Ba2 Ca2 Cua+1 Ob(a=0〜10、b=2c+2〜2c+6、c=0〜1.0)となるように仕込み、実施例1と同じ条件で高圧処理した後、300℃でアニール処理してTc=120K以上の超伝導体を得ることができた。
【0015】上述した試料においてHgをNa,K,Rb,Cs,CuあるいはAgで置換することも可能である。
【0016】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば従来不可能であったTlを含まず、あるいは低Tl濃度で超伝導遷移温度120K以上の超伝導体を得ることができる。
【0017】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるHgBa2 Ca2 Cu39-d 試料のX線回折図形である。
【図2】本発明による高温超伝導体の実施例の電気抵抗の温度依存性を示す特性図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 (M1-xxy CuO1+z の組成、ただしMはCa,Sr,Ba,Hg,Cd,Pbの2価イオンの少なくとも1種類、AはLi,Na,K,Rb,Cs,Cu,Agの1価イオンまたはTl,BiあるいはY,Laランタニド系列の3価イオンの少なくとも1種、0<x<0.5、0.8<y<2.0、1.6<z<2.4、を有し、かつ層状構造を持つことを特徴とするTc=120K以上の超伝導体。
【請求項2】 前記超伝導体がM2n-1 Cun2n+1+zまたはMNn-1 Cun2n+z、ただしMとNはCa,Sr,Baの2価イオンの少なくとも1種、n=1〜10、z=0〜1.0、の層状構造を有することを特徴とする請求項1に記載の高温超伝導体。
【請求項3】 前記超伝導体の組成がHgBa2 Ca2 Cu39-d であることを特徴とする請求項1または2に記載の高温超伝導体。
【請求項4】 前記超伝導体の組成が組成式Tl1-c Hgc Ba2 Caa Cua+1b (ただしa=0〜10、b=2c+2〜2c+6、c=0〜1.0)で表わされることを特徴とする請求項1または2に記載の高温超伝導体。
【請求項5】 前記組成式中のHgをNa,K,Rb,Cs,CuあるいはAgで置換したことを特徴とする請求項4に記載の高温超伝導体。
【請求項6】 Ba,SrおよびCaの少なくとも1種の酸化物または炭酸塩の粉末とCuの酸化物の粉末とを混合し、焼結した後に粉砕する工程、粉砕された焼結粉末にHgの酸化物の粉末を混合して高圧下で焼結する工程および酸素中でアニール処理する工程を有することを特徴とする高温超伝導体の作製法。
【請求項7】 前記粉砕された焼結粉末にHgの酸化物粉末に加えてTlの酸化物粉末を混合することを特徴とする請求項6に記載の高温超伝導体の作製法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開平7−53212
【公開日】平成7年(1995)2月28日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−222238
【出願日】平成5年(1993)8月13日
【出願人】(000001144)工業技術院長 (75)
【指定代理人】
【氏名又は名称】工業技術院電子技術総合研究所長