説明

高温超電導コイル及びその製造方法

【課題】加速器用マグネットで必要とされるような曲率の小さい高温超電導コイルを作製する。
【解決手段】本発明に係る高温超電導コイルは、金属基板4と、金属基板4上に形成された高温超電導薄膜3と、高温超電導薄膜3上に形成された安定化金属層5と、を含む高温超電導薄膜線材を具備し、高温超電導薄膜線材を面内2次元方向に、スリット部2を含む電流経路を有する形状に加工された複数のプレート1を接続しながら積層して構成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速器用マグネットが対象である超電導コイルの高磁場発生に有効である高温超電導コイル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の加速器用マグネットは、小さな空間に高い磁場を発生させる必要があるために、長手方向に均一な断面形状を持つ超電導線が巻回されてコイルが形成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図12は、従来の超電導コイルの基本的な構成を示す概略斜視図であり、図13は、従来の超電導多極コイルの基本的な構成を示す概略構成図である。
【0004】
本図に示すように、超電導コイル11は超電導導体の丸線又は平角線12を巻回して製作しレーストラック形状に構成されている。従来の基本的な構成の超電導マグネットは、上記の超電導コイル11を6個配置した6極コイルから構成されている。
【0005】
この加速器用マグネットは小さな空間に高い磁場(磁場勾配)を発生させる必要がある。このため、多極コイルにおいては、コイルのエンド部分の内径を小さくすることにより、高磁場を発生させている。また、別の従来例として、6極コイルとしての磁場発生効率を高めるために、鞍型コイル形状を採用する場合もある。
【0006】
上述の構成例において、超電導コイルは液体ヘリウム等の極低温冷媒で浸漬冷却されるときもあるし、小型冷凍機により伝導冷却されるときもある。いずれの場合においても、長手方向に均一な断面形状を持つ超電導線が巻回されてコイルが形成されている。
【特許文献1】特開平3−95806号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来の加速器用マグネットは、小さな空間に高い磁場を発生させる必要があるために、長手方向に均一な断面形状を持つ超電導線が巻回されてコイルが形成されている。このコイルは、高い磁場を発生させる必要があるので、NbTi超電導線やNbSn超電導線等から形成されている。
【0008】
しかしながら、従来使われているNbTi超電導線は高磁場中では超電導特性が著しく低下し、発生磁場及び磁場勾配に限界がある。またNbSn超電導線はNbTiよりは高い磁場中で運転できるものの、超電導相生成熱処理後に絶縁のためのガラス繊維の強度が低下して絶縁耐圧が低下する恐れがある、熱処理後コイル形状が変形し巻乱れを起こす、線材を熱処理した後に巻線するには許容曲げ歪がコイル内径の制約になる等の課題があった。
【0009】
上記の従来のNbTi又はNbSn等の低温超電導線材と比較してみると、高温超電導(HTS:High Temperature Superconducting)線材は低温高磁場中で高いポテンシャルを持ち、有力な材料である。ただし、この高温超電導体はひずみに弱いため、曲げ曲率に制限があり、加速器用マグネットで必要とされるような曲率の小さいコイルをリアクトアンドワインド(線材を超電導相生成熱処理してからに巻線)して製作することができない、という課題があった。また、超電導相生成熱処理温度に耐え得る電気絶縁技術が困難であるので、ワインドアンドリアクト(コイル巻線後に熱処理して超電導相生成)によるコイル化の実現も困難である、という課題があった。
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、加速器用マグネットで必要とされるような曲率の小さいコイルを作製できる高温超電導コイル及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の高温超電導コイルにおいては、金属基板と、この金属基板上に形成された高温超電導薄膜と、この高温超電導薄膜上に形成された安定化金属層と、を含む高温超電導薄膜線材を具備し、この高温超電導薄膜線材を面内2次元方向にスリット部を含む電流経路を有する形状に加工してなるプレートを複数接続しながら積層して構成されることを特徴とする。
【0012】
また、上記目的を達成するため、本発明の高温超電導コイルにおいては、金属基板と、この金属基板上に形成された高温超電導薄膜と、この高温超電導薄膜上に形成された安定化金属層と、を含む高温超電導薄膜線材を具備し、この高温超電導薄膜線材からなるプレートを複数積層しフラットワイズ曲げ方向に曲げ加工して構成されることを特徴とする。
【0013】
また、上記目的を達成するため、本発明の高温超電導コイルにおいては、金属基板と、この金属基板上に形成された高温超電導薄膜と、この高温超電導薄膜上に形成された安定化金属層と、を含む高温超電導薄膜線材を具備し、この高温超電導薄膜線材を面内2次元方向にループ状の電流経路を有する形状に加工してなるプレートを複数接続しながら積層して構成されることを特徴とする。
【0014】
また、上記目的を達成するため、本発明の高温超電導コイルの製造方法においては、金属基板と、この金属基板上に形成された高温超電導薄膜と、この高温超電導薄膜上に形成された安定化金属層と、を含む高温超電導薄膜線材を形成する高温超電導薄膜線材形成ステップと、この形成された高温超電導薄膜線材を面内2次元方向に電流経路を有するプレートに加工するプレート加工ステップと、この加工された複数のプレートを接続しながら積層する積層ステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の高温超電導コイル及びその製造方法によれば、高温超電導薄膜線材を用いて幅広に作製することにより、加速器用マグネットで必要とされるような曲率の小さいコイルを作製できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る高温超電導コイル及びその製造方法の実施の形態について、図面を参照して説明する。ここで、同一又は類似の部分には共通の符号を付すことにより、重複説明を省略する。
【0017】
図1は、本発明の第1の実施の形態の超電導コイルを形成するプレートの構成を示す説明図で、(a)はこの平面図、(b)はこの正面図である。また、図2は、本発明の第1の実施の形態の超電導コイルの電流経路を示す斜視図であり、図3は、本発明の第1の実施の形態の超電導コイルの電流経路を示す正面図である。
【0018】
本図に示すように、例えば、高温超電導コイルは、超電導薄膜線材から形成される複数の高温超電導薄膜線材プレート1a、1b、1cを積層して構成される。
【0019】
この積層された高温超電導薄膜線材プレート1a、1b、1cの間には、絶縁材としての絶縁材シート6a、6bが介在している。上段の高温超電導薄膜線材プレート1aには、面内2次元方向に電流経路7が形成され、この電流が矢印7a、7b、7c、7dに示すように順次下段の高温超電導薄膜線材プレート1dに流れることにより、積層体全体として電流流路が確保されるようになっている。
【0020】
上記の高温超電導薄膜線材プレート1は、後述するYBCO、SmBCO等からなる高温超電導薄膜3から形成されレーストラック形状をなしている。この超電導薄膜プレート1の内径側はくり貫かれ、またループの一部は切断されてスリット部2が形成されている。このスリット部2の切断端部が次層のプレート1の端部に接続されてコイルが構成される。
【0021】
この高温超電導薄膜線材プレート1は、高温超電導薄膜3が、金属基板4と安定化金属層5とに挟まれて構成されている。この安定化金属層5は比較的電気抵抗率が低いために電気抵抗の小さい接続が可能である。
【0022】
ここで、超電導薄膜3の組成について説明する。この超電導薄膜は、YBaCu7−X(以下、YBCOという。)やSmBaCu7−X(以下、SmBCOという。)等のRE−123系酸化物超電導体(REBaCu7−X:REはY、La、Nd、Sm、Eu、Gd等の希土類元素)から形成される。
【0023】
次に、高温超電導薄膜線材プレート1の製造方法について説明する。
【0024】
高温超電導薄膜線材プレート1は、例えば、Ni又はNi合金等からなる金属基板4から形成される。この金属基板4上にイオンビームアシスト法(IBAD法:Ion Beam Assist Deposition System)により蒸着した中間層と、この中間層上にパルスレーザ蒸着法(PLD法:Puluse Laser Deposition System)等により蒸着したCeOからなるキャップ層と、このキャップ層上に酸化物超電導層3が形成される。さらに、この酸化物超電導層3上には、Au、Ag等からなる比較的電気抵抗率が低い安定化金属層5が形成される。
【0025】
本実施の形態において、YBCOやSmBCO等から形成された超電導薄膜線材は幅広に作製することが可能である。このため、コイル軸方向垂直断面の形状に打ち抜き、切り出し等の加工により、超電導相に歪を与えずに曲率の小さな形状を形成することができる。また、高温超電導薄膜線材プレート1のスリット2の端部における接続部分が電流経路に沿って位相をずらして配置され重複することがないので、高温超電導薄膜線材プレート1の積層時のコイル厚さをほぼ一定に保つことが可能である。
【0026】
本実施の形態によれば、高温超電導体に対するコイル巻線による歪の印加要因が排除され、線材の巻線では実現できなかった極めて小さい曲率部分を有するコイルを、超電導特性を劣化させずに作製することができる。
【0027】
また、電流経路に沿って経路の幅を任意に設定することができるので、長尺線を巻回した一般的なコイルでは実現不可能な、電流経路方向に電流密度を変化させた電気設計ができる。
【0028】
図4は、本発明の第2の実施の形態の超電導コイルの電流経路を示す正面図である。
【0029】
本実施の形態は、第1の実施の形態の高温超電導薄膜線材プレート1を1枚毎に裏表にして接続するものであり、第1の実施の形態と同一又は類似の部分には共通の符号を付すことにより、重複説明を省略する。
【0030】
本図に示すように、高温超電導薄膜を基材とする高温超電導薄膜線材プレート1と絶縁材シート6とを積層してコイルとしての電流経路7が形成されている。この高温超電導薄膜線材プレート1は、高温超電導薄膜3が、金属基板4と安定化金属5とに挟まれて構成されている。この安定化金属5はAu、Ag等からなる比較的電気抵抗率が低い安定化金属層5から形成される。このため、電気抵抗の小さい接続が可能である。
【0031】
上段の高温超電導薄膜線材プレート1aには、面内二次元方向に電流経路7が形成され、この電流が矢印7a、7b、7dに示すように順次下段の高温超電導薄膜線材プレート1dに流れるようになっている。
【0032】
この高温超電導薄膜線材プレート1は1枚毎に裏表にして、すなわち層毎に表裏を変えて絶縁材シート6を介して対向するように、積層される。矢印7cにおいて、裏表された2枚目と3枚目の左右の高温超電導薄膜線材プレート1の安定化金属5が接続されている。この安定化金属5、5は比較的電気抵抗率が低いので、電気抵抗の低い接続が可能となる。
【0033】
本実施の形態によれば、左右の高温超電導薄膜線材プレート1を1枚毎に裏表にして電気抵抗の低い安定化金属5同士が接続されているので、導電率が低く接続抵抗の高くなり易い面同士が対面する接続部分においては、コイル内部の接続の電気抵抗を低く抑えることができる。
【0034】
かくして、1枚毎に閉回路を成すプレートを積層しコイルを構成することにより、接続部分の少ない超電導コイルが作製でき、これをフィールドクールすることによって減衰時定数が極めて長い永久電流マグネットを得ることができる。
【0035】
図5は、本発明の第3の実施の形態の高温超電導コイルの構成を示す平面図である。
【0036】
本実施の形態は、第1の実施の形態のプレート1を面内同心軸上に配置するものであり、第1の実施の形態と同一又は類似の部分には共通の符号を付すことにより、重複説明を省略する。
【0037】
本図に示すように、例えば、高温超電導コイルは3枚の高温超電導薄膜線材プレート1a、1b、1cが面内同軸上に配置して構成されている。すなわち、径の異なるそれぞれ積層された高温超電導薄膜線材プレート1a、1b、1cを面内同軸上に配置して構成される。符号2は、それぞれ積層された高温超電導薄膜線材プレート1のスリット部を示す。
【0038】
本実施の形態において、高温超電導コイルの内径側よりも外径側の電流経路7の幅を狭くすることにより、内径側から外径側へ向けて電流密度を下げたグレーディングを施すことができる。
【0039】
本実施の形態によれば、高温超電導コイルの内径側と外径側とで電流密度の異なる所謂グレーディングを施すことが可能になる。かくして、経験磁場に応じた高温超電導薄膜線材プレート1からなるテープを使用することにより、全体として高温超電導コイルの体積を小さくして磁場発生効率を高めることが可能になる。
【0040】
かくして、電流経路に沿って経路の幅を任意に設定することができるるので、長尺線を巻回した一般的なコイルでは実現不可能であった電流経路方向に沿って電流密度を変化させることができる。
【0041】
図6は、本発明の第4の実施の形態の超電導コイルを形成するプレートの構成を示す平面図である。
【0042】
本実施の形態は、第1の実施の形態の高温超電導薄膜線材プレート1をコイル化した際の経験磁場の高い部分を幅広に形成するものであり、第1の実施の形態と同一又は類似の部分には共通の符号を付すことにより、重複説明を省略する。
【0043】
本実施の形態において、電流経路方向に沿って高温超電導薄膜線材プレート1からなるテープ幅を変化させたものである。コイル化した際の経験磁場の高い部分を幅広にすることによって、電流経路方向に電流密度を変化させた電気設計が可能になる。かくして、磁場の高い局所のためにコイル全体の電流密度が制約を受けることなく、線内部での負荷率を均等化させることが可能になる。
【0044】
本実施の形態によれば、例えばレーストラック形状のコイルエンド部分等の経験磁場の高い部分を幅広に切り出した高温超電導薄膜線材プレート1を使用することによって、巻線内部での負荷率を均等化させている。かくして、長尺線を巻回した一般的なコイルでは実現できないような電流経路方向に沿って電流密度を変化させた超電導コイルを得ることができる。
【0045】
図7は、本発明の第5の実施の形態の超電導コイルの構成を示す説明図で、(a)はこの積層手順を示す平面図、(b)はこの正面図である。
【0046】
本実施の形態は、第1の実施の形態の外形の異なる高温超電導薄膜線材プレート1をコイル軸方向に積層して形成するものであり、第1の実施の形態と同一又は類似の部分には共通の符号を付すことにより、重複説明を省略する。
【0047】
本図に示すように、高温超電導コイルは、例えば、コイル軸方向に外形の異なる高温超電導薄膜線材プレート1a、1b、1c、・・・を積層して形成される。プレート1a、1b、1c、・・・の一部は切断されてスリット部2が形成されている。また、プレート1a、1b、1c、・・・の中央部にはボア8が形成されている。
【0048】
本実施の形態によれば、コイル軸方向に外形の異なる高温超電導薄膜線材プレート1a、1b、1c、・・・を積層して形成することにより、多極コイルを構成する際にコイル同士の間隙を少なくするような断面形状を得ることができ、多極コイルとしての磁場発生効率を高めることができる。
【0049】
図8は、本発明の第6の実施の形態の超電導コイルの構成を示す説明図で、(a)はこの積層手順を示す平面図、(b)はこの正面図である。
【0050】
本実施の形態は、第5の実施の形態の外形の異なる高温超電導薄膜線材プレート1のコイル断面が鞍型に形成されたものであり、第5の実施の形態と同一又は類似の部分には共通の符号を付すことにより、重複説明を省略する。
【0051】
本図に示すように、高温超電導コイルは、例えば、コイル軸方向に外形の異なる高温超電導薄膜線材プレート1a、1b、1cを積層して形成される。しかも、この高温超電導薄膜線材プレート1は、厚み方向に歪を加えてフラットワイズ曲げ方向に曲げ加工されている。このフラットワイズ曲げ方向に曲げ加工された高温超電導薄膜線材プレート1a、1b、1cを積層することによりコイル断面が鞍型に整形された超電導コイルを得ることができる。
【0052】
本実施の形態によれば、フラットワイズ曲げ方向に曲げ加工された高温超電導薄膜線材プレート1a、1b、1cを積層して形成することにより、鞍型コイル形状に整形することができ、多極コイルとしての磁場発生効率を高めることができる。
【0053】
また、内径側にフラットワイズ方向に巻線されたテープ線材に対して、鞍型コイル形状を有する超電導コイルではコイル磁場が平行方向に加わるように作用する。一般的にYBCO等の薄膜線材はテープ面に垂直方向の磁場成分に対する超電導特性の低下が顕著であるため、本実施の形態により経験磁場による超電導促成の低下が抑制される。
【0054】
図9は、本発明の第7の実施の形態の超電導コイルの構成を示す斜視図である。
【0055】
本実施の形態は、第1の実施の形態の高温超電導薄膜線材プレート1をフラットワイズ曲げ方向に曲げ加工されて形成された内層側コイル9と高温超電導薄膜線材プレートを切り出して形成された外層側コイル10とから構成されるものであり、第1の実施の形態と同一又は類似の部分には共通の符号を付すことにより、重複説明を省略する。
【0056】
本図に示すように、高温超電導コイルは、内層側コイル9とこの内層側コイル9の外側で、しかも曲げ方向中立軸上に外層側コイル10を配置して構成される。この内層側コイル9は、高温超電導薄膜線材プレート1をフラットワイズ曲げ方向に曲げ加工されて形成される。この内層側コイル9は、単独で使用される場合もあるし、この内層側コイル9の曲げ方向中立軸上に外層側コイル10を配置して構成される。
【0057】
上記の外層側コイル10は、高温超電導薄膜線材プレート1を切り出して形成される。または、図12に示す丸断面形状又は角型断面形状の超電導線材12を巻回して形成される。
【0058】
本実施の形態によれば、内層側コイル9は、高温超電導薄膜線材プレート1をフラットワイズ曲げ方向に曲げ加工して形成されているので、コイルの発生する磁力線に沿うようにテープ線材を配置できる。このため、テープ面に対して垂直方向の磁場成分を低減させることが可能になる。
【0059】
図10は、本発明の第8の実施の形態の超電導コイルの積層手順を示す平面図である。
【0060】
本実施の形態は、第1の実施の形態の高温超電導薄膜線材を切り出し積層して、しかも超電導閉回路を有するように構成されたものであり、第1の実施の形態と同一又は類似の部分には共通の符号を付すことにより、重複説明を省略する。
【0061】
本図に示すように、超電導コイルは高温超電導薄膜線材プレート1を打ち抜き又は切り出し等の加工により製作される。しかも、この切り抜きされた高温超電導薄膜線材プレート1を積層して超電導閉回路を有するように構成される。さらに、ヒーター加熱等の方法によりコイルの一部を常電導状態にされる。すなわち、高温超電導薄膜線材の一部を加熱して熱的又は磁気的な常電導転移機構が設けられている。
【0062】
本実施の形態によれば、個々の高温超電導薄膜線材プレート1a、1b、1cは超電導閉ループを形成している。さらに、加熱等の方法でコイルの一部を常電導状態にして外部磁場を与え、この磁場中で極低温に冷却することにより、接続抵抗等において常電導抵抗成分を含まない永久電流コイルの作製が可能となる。
【0063】
図11は、本発明の第9の実施の形態の超電導コイルの積層手順を示す平面図である。
【0064】
本実施の形態は、第1の実施の形態の高温超電導薄膜線材プレート1a、1b、1cを複数巻き状に切り出し積層して形成されたものであり、第1の実施の形態と同一又は類似の部分には共通の符号を付すことにより、重複説明を省略する。
【0065】
本図に示すように、例えば、超電導コイルは高温超電導薄膜線材プレート1a、1b、1cを複数巻き状に切り出し積層して形成される。この積層された高温超電導薄膜線材プレート1a、1b、1cの間には、絶縁材としての絶縁材シート6a、6bが介在している。
【0066】
本実施の形態によれば、個々の高温超電導薄膜線材プレート1a、1b、1cは複数巻き状に切り出し積層して形成されているので、多極コイルとしての磁場発生効率をさらに高めることができる。
【0067】
さらに、本発明は、上述したような各実施の形態に何ら限定されるものではなく、高温超電導薄膜線材プレートの基板である超電導相をスパッタリングにより製造してもよく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の第1の実施の形態の超電導コイルを形成するプレートの構成を示す説明図で、(a)はこの平面図、(b)はこの正面図。
【図2】本発明の第1の実施の形態の超電導コイルの電流経路を示す斜視図。
【図3】本発明の第1の実施の形態の超電導コイルの電流経路を示す正面図。
【図4】本発明の第2の実施の形態の超電導コイルの電流経路を示す正面図。
【図5】本発明の第3の実施の形態の超電導コイルの構成を示す平面図。
【図6】本発明の第4の実施の形態の超電導コイルを形成するプレートの構成を示す平面図。
【図7】本発明の第5の実施の形態の超電導コイルの構成を示す説明図で、(a)はこの積層手順を示す平面図、(b)はこの正面図。
【図8】本発明の第6の実施の形態の超電導コイルの構成を示す説明図で、(a)はこの積層手順を示す平面図、(b)はこの正面図。
【図9】本発明の第7の実施の形態の超電導コイルの構成を示す鳥瞰図。
【図10】本発明の第8の実施の形態の超電導コイルの積層手順を示す平面図。
【図11】本発明の第9の実施例にかかる超電導プレートの構成例を示す概略図。
【図12】従来の超電導コイルの基本的な構成を示す概略斜視図。
【図13】従来の超電導多極コイルの基本的な構成を示す概略構成図。
【符号の説明】
【0069】
1,1a,1b,1c, 1d…高温超電導薄膜線材プレート、2…スリット部、3…高温超電導薄膜層、4…金属基板、5…安定化金属層、6,6a,6b…絶縁シート、7,7a,7b,7c, 7d…電流経路、8…ボア。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板と、
この金属基板上に形成された高温超電導薄膜と、
この高温超電導薄膜上に形成された安定化金属層と、
を含む高温超電導薄膜線材を具備し、
この高温超電導薄膜線材を面内2次元方向にスリット部を含む電流経路を有する形状に加工してなるプレートを複数接続しながら積層して構成されることを特徴とする高温超電導コイル。
【請求項2】
前記積層されたプレートは、1枚毎に裏表を変えて前記安定化金属層が接続されることを特徴とする請求項1に記載の高温超電導コイル。
【請求項3】
前記積層されたプレートは、前記電流経路に沿って位相をずらして前記スリット部において接続されることを特徴とする請求項1又は2記載の高温超電導コイル。
【請求項4】
前記積層されたプレートは、径の異なるプレートをそれぞれ積層して複数のコイルを構成し、これらのコイルを面内同心軸上に配置して構成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の高温超電導コイル。
【請求項5】
前記積層されたプレートは、コイル径方向内側の電流経路の幅が外側の電流経路の幅よりも広いプレートから構成されることを特徴とする請求項4記載の高温超電導コイル。
【請求項6】
前記積層されたプレートは、前記電流経路の幅が電流経路に沿って変化させた形状から構成されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の高温超電導コイル。
【請求項7】
前記積層されたプレートは、コイル軸方向に外形の異なるプレートを積層して構成されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の高温超電導コイル。
【請求項8】
金属基板と、
この金属基板上に形成された高温超電導薄膜と、
この高温超電導薄膜上に形成された安定化金属層と、
を含む高温超電導薄膜線材を具備し、
この高温超電導薄膜線材からなるプレートを複数積層しフラットワイズ曲げ方向に曲げ加工して構成されることを特徴とする高温超電導コイル。
【請求項9】
前記フラットワイズ曲げ方向に曲げ加工された高温超電導薄膜線材を含む内層側コイルと、この内層側コイルの外側に設けられ前記高温超電導薄膜線材を面内2次元方向に電流経路を有する形状に加工してなるプレートを複数接続しながら積層して構成された外層側コイルと、を有することを特徴とする請求項8記載の高温超電導コイル。
【請求項10】
前記フラットワイズ曲げ方向に曲げ加工された高温超電導薄膜線材を含む内層側コイルと、この内層側コイルの外側に設けられ丸型断面形状又は角型断面形状の超電導線材を巻回して構成された外層側コイルと、を有することを特徴とする請求項8記載の高温超電導コイル。
【請求項11】
前記積層されたプレートは、コイル断面が鞍型に整形されて構成されることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の高温超電導コイル。
【請求項12】
金属基板と、
この金属基板上に形成された高温超電導薄膜と、
この高温超電導薄膜上に形成された安定化金属層と、
を含む高温超電導薄膜線材を具備し、
この高温超電導薄膜線材を面内2次元方向にループ状の電流経路を有する形状に加工してなるプレートを複数接続しながら積層して構成されることを特徴とする高温超電導コイル。
【請求項13】
前記高温超電導薄膜線材の一部を加熱して設けられる熱的又は磁気的な常電導転移機構を有することを特徴とする請求項12記載の高温超電導コイル。
【請求項14】
金属基板と、この金属基板上に形成された高温超電導薄膜と、この高温超電導薄膜上に形成された安定化金属層と、を含む高温超電導薄膜線材を形成する高温超電導薄膜線材形成ステップと、
この形成された高温超電導薄膜線材を面内2次元方向に電流経路を有するプレートに加工するプレート加工ステップと、
この加工された複数のプレートを接続しながら積層する積層ステップと、
を有することを特徴とする高温超電導コイルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−115635(P2007−115635A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−308801(P2005−308801)
【出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】