説明

高温高湿度条件下において発症する疾病の予防又は改善剤

【課題】夏バテ(夏まけ)、暑気あたり(暑さあたり)、又は、熱による疲労の予防又は改善に優れた効果を有する医薬組成物を提供する。
【解決手段】ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミン、及び/又は、グルコン酸またはその塩、を含有する、高温度及び/又は高湿度環境において発症する疾病の予防又は改善用医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミン、及び/又は、グルコン酸又はその塩を含有する、夏バテ(夏まけ)、暑気あたり(暑さあたり)、又は、熱による疲労の予防又は改善用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化や都市部ヒートアイランド化とともに、特に夏季の高温多湿の気候に基づく日射病を代表とする諸疾病の報告が増加しつつあるが、これらは体熱の放散を妨げるような条件、例えば、高温多湿環境下での労働や密閉防護服を着用した長時間作業では、夏季のみならず発症し得るものである。
現在のところ、日射病等の予防法としては充分な水分補給や定期的な冷所での休憩が有効と言われており、治療法としても水分摂取又は輸液や身体の冷却しかないのが現状である。
【0003】
薬剤として、漢方薬の清暑益気湯が夏バテによる食欲低下に有効であることが動物実験によって証明されている(例えば、非特許文献1参照)が、これが熱による疲労の予防又は改善にまで有効であるかは不明である。
本邦で医療用医薬品として認められている効能・効果の中に、清暑益気湯では「暑気あたり」、補中益気湯では「夏やせ」が該当する(例えば、非特許文献2参照)。しかし、上述と同様に、単に「暑気あたり」による食欲低下に起因する「夏やせ」に効果があるのみで、熱による疲労の予防又は改善にまで有効であるかは不明である。
なお、清暑益気湯は医療用医薬品であるため、高温度及び/又は高湿度環境において発症する疾病等の予防と自己治療のために一般消費者が店頭で購入することができず、購入可能な一般用医薬品(OTC医薬品)の補中益気湯は、当該効能・効果を持たない。
【0004】
ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミン(Diisopropylamine dichloroacetate、以下、DADAと省略する場合がある)は、慢性肝疾患における肝機能の改善の効能・効果を有し、(1)肝再生促進作用、(2)抗脂肪肝作用が記載されている(例えば、非特許文献2参照)。しかし、夏バテ(夏まけ)、暑気あたり(暑さあたり)、又は、熱による疲労の予防又は改善用途としてDADAが有効であるという報告は見当たらない。
【0005】
有機酸のグルコン酸又はその塩は、医薬添加剤としてpH調整剤、賦形剤、安定化剤として使用され、医薬品有効成分としてはカリウムやカルシウム補給用にグルコン酸塩として使用されている。しかし、グルコン酸又はその塩が、夏バテ(夏まけ)、暑気あたり(暑さあたり)、又は、熱による疲労の予防又は改善に有効であるという報告は見当たらない。
【0006】
また、DADAとグルコン酸カルシウムを含有する抗疲労組成物が開示され、同組成物を摂取した場合には運動負荷後の血中乳酸値が非摂取より減少することが報告されている(特許文献1参照)。しかし、当該組成物が、高温高湿度下での活動に伴う熱による疲れ及び/又は疲労感にも有効かどうかの記載はなく、示唆もない。
上述したように、これまでに、夏バテ(夏まけ)、暑気あたり(暑さあたり)、又は、熱による疲労の予防又は改善用途としてDADA単剤、グルコン酸又はその塩の単剤、又はそれらの併用が有効であるという報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開第2010−138170号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】和漢医薬学会大会要旨集 No.11,1994,p.33
【非特許文献2】2009年版 医療用医薬品集 JAPIC 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、夏バテ(夏まけ)、暑気あたり(暑さあたり)、又は、熱による疲労の予防又は改善に優れた効果を有する医薬組成物を見出し提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決する薬剤を見出すために鋭意研究を進めてきた。その結果、意外なことに、肝機能改善剤のDADAや、有機酸のグルコン酸又はその塩に優れた効果があることをつきとめた。さらに、両者を併用することによって、よりいっそう効果が高まることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(4)を提供するものである。
(1)ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミン、及び/又は、グルコン酸またはその塩、を含有する、高温度及び/又は高湿度環境において発症する疾病の予防又は改善用医薬組成物。
(2)グルコン酸又はその塩が、グルコン酸、グルコン酸マグネシウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、又は、グルコン酸カルシウムである、(1)に記載の医薬組成物。
(3)グルコン酸又はその塩が、グルコン酸カルシウムである、(1)に記載の医薬組成物。
(4)高温度及び/又は高湿度環境において発症する疾病が、夏バテ(夏まけ)、暑気あたり(暑さあたり)、又は、熱による疲労である、(1)〜(3)のいずれか1に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、夏バテ(夏まけ)、暑気あたり(暑さあたり)、又は、熱による疲労の予防又は改善用に有用な医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】:DADA単剤、グルコン酸カルシウム単剤投与(100mg/kg)、及びそれらの併用群の、高温高湿負荷モデルマウスにおける負荷後の自発運動量の変化率を示したものである。
【図2】:DADA単剤、グルコン酸カルシウム単剤、及びそれらの併用群の、高温高湿負荷モデルマウスにおける負荷後の血中乳酸値を測定した結果である。
【図3】:グルコン酸カルシウム単剤投与(50mg/kg投与)、と非投与群(対照群)の、高温高湿負荷モデルマウスにおける負荷後の自発運動量の変化率を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の組成物におけるグルコン酸又はその塩は、グルコン酸、グルコン酸マグネシウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、及びグルコン酸カルシウム等をいう。
本発明の組成物におけるジクロロ酢酸ジイソプロピルアミン及びグルコン酸カリウムは、日本薬局方外医薬品規格2002に収載され、グルコン酸カルシウム水和物は第15改正日本薬局方に収載されている。また、グルコン酸、グルコン酸カルシウム、グルコン酸ナトリウム及びグルコン酸マグネシウムは医薬品添加物辞典2000等に収載されている。
【0015】
本発明の組成物におけるジクロロ酢酸ジイソプロピルアミン(DADA)、及びグルコン酸又はその塩の含有量は、いずれも、好ましくは、1〜400mg、より好ましくは10〜200mgを1日1〜3回に分けて服用できるように設定すればよい。
例えば、本発明の組成物が1日1回100mL服用する液剤であれば、その液剤におけるDADA、グルコン酸又はその塩の含有量は、いずれも、好ましくは1〜400mg/100mL、より好ましくは10〜200mg/100mLである。
【0016】
本発明の組成物におけるDADAとグルコン酸又はその塩とを併用する場合の配合比(重量比)は、本発明の効果が奏される限り特に限定されないが、1:1に近い方が好ましい。
【0017】
本発明の組成物には、本発明の効果が阻害されない限り、他のビタミン類、カフェイン類、ミネラル類、アミノ酸類、生薬類、他の有機酸類、賦形剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、防腐剤、着色剤、安定剤、pH調整剤、溶解補助剤、清涼剤、香料、色素・着色剤等を配合することができる。
【0018】
本発明の組成物は、当該分野で公知の方法で製造することができる。例えば、本発明の組成物が錠剤である場合には、日局製剤総則「錠剤」の項に準じて製造することができる。また、液剤である場合には、日局製剤総則「液剤」の項に準じて製造することができる。
【0019】
上記で得られた本発明の組成物は、夏バテ(夏まけ)、暑気あたり(暑さあたり)、又は、熱による疲労の予防又は改善用である。
なお、「夏バテ(夏まけ)」とは、厳密な医学用語ではないが、高温・多湿な状態が長く続くことにより、体に溜まった熱を外に出すことが出来なくなる症状を意味する。「夏バテ(夏まけ)」では、時には頭痛・発熱・めまいを伴った全身の倦怠感・思考力低下・食欲不振・下痢・便秘等の様々な症状を呈することもあるとされている。
「暑気あたり(暑さあたり)」とは、夏の高温、多湿の環境のために体温の調節が十分にできなくなり起こる症状のことを意味する。暑気あたり(暑さあたり)により、食欲不振、思考力低下、血圧低下、不眠、体重減少、熱虚脱、脱水、痙攣等の症状を呈することもあるとされている。
「熱による疲労」とは、放熱が充分できず体内に熱がこもって体温が上昇し、高体温の状態が長時間続くことによって起こる疲労乃至倦怠感である。従って、通常の「疲労」等と「高温・高湿度による疲労」とは発症機序も病態も同一ではなく、対処法も異なるため、両者は明確に区別されるべきものと考えられる。
【実施例】
【0020】
本発明の実施例を以下に記載するが、これらに限定されるものではない。
【0021】
(実施例1)錠剤
表1に記載の成分及び分量をとり、日局製剤総則「錠剤」の項に準じて錠剤を製造する。
【0022】
(表1)
1錠中(mg) 錠剤1 錠剤2 錠剤3
――――――――――――――――――――――――――――――――
ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミン 25 − 15
グルコン酸カルシウム − 25 15
乳糖 90 90 90
ステアリン酸マグネシウム 2 2 2
ヒドロキシプロピルセルロース 適量 適量 適量
【0023】
(実施例2)液剤
表2に記載の成分及び分量をとり、日局製剤総則「液剤」の項に準じて液剤を製造する。
【0024】
(表2)
50mL中(mg) 液剤1 液剤2 液剤3
――――――――――――――――――――――――――――――――
ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミン 25 − 15
グルコン酸ナトリウム − 25 15
白糖 4000 4000 4000
安息香酸ナトリウム 5 5 5
pH調整剤 適量 適量 適量
精製水 残部 残部 残部
【0025】
(試験例1)抗熱疲労試験
(1)被検物質
ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミン(DADA)は目黒化工社製のものを、また、グルコン酸カルシウムは和光純薬製のものを使用した。
DADA及びグルコン酸カルシウムの各単剤投与液は、それぞれ200mgを秤量し、各々0.5%CMC10mLに溶解して調製し、各単剤の被験物質として使用した。DADAとグルコン酸カルシウムの併用群は、それぞれ200mgを秤量したものを0.5%CMC10mLに溶解して調製し、併用の被験物質として使用した。
【0026】
(2)動物
ddY雄性マウスを日本SLC(株)から購入し、1群10匹を1週間予備飼育した後、一般状態に異常の認めない良好なものを実験に使用した。
【0027】
(3)被検物質の投与
マウス体重10g当り、被験物質(対照群は溶媒である0.5%CMCのみを投与した)0.05mLを5日間、1日1回経口投与した。
【0028】
(4)高温多湿負荷動物を用いた抗疲労効果の測定
マウスを設定温度34±1℃、湿度50±15%という、マウスにとっては高温多湿の条件下で72時間飼育することで高温多湿負荷モデルマウスとした。
【0029】
さらに、マウスをポリサルフォン製ケージに入れ、10分間の馴化後に自発運動量測定装置で行動量を計測した。自発運動量変化率(%)は式1のように算出した。
【0030】
(数1)
自発運動量変化率(%)=100×(B−A)/A ・・・・・・式1
【0031】
ここで、Aは高温多湿負荷前の自発運動量であり、Bは高温多湿負荷後の自発運動量である。
また、行動量測定後に尾静脈採血により得られた血液をラクテート・プロ(アークレイ社製)を用いて乳酸値を測定した。
【0032】
(5)試験群の構成
試験群の構成は、以下の通りである。
対照群(0.5%CMCのみを投与)
DADA単剤(100mg/Kg)投与群
グルコン酸カルシウム単剤(100mg/Kg)投与群
DADA(100mg/Kg)+グルコン酸カルシウム(100mg/Kg)の併用群
【0033】
(6)試験結果(抗熱疲労作用)
高温多湿負荷モデルマウスにおける自発運動量の変化率の結果を図1に示した。図1はDADA単剤、グルコン酸カルシウム単剤、及びそれらの併用におけるマウスの自発運動量に及ぼす高温及び/又は高湿度の影響を調べたものである。なお、各群とも10匹の平均値である。
図1に示したように、DADA単剤投与群、グルコン酸カルシウム単剤投与群、及び両薬剤の併用群のいずれの投与群においても、自発運動量に対し改善作用が認められた。
【0034】
(7)試験結果(乳酸値低下作用)
高温多湿負荷モデルマウスにおける疲労度の汎用的な指標となっている血中の乳酸値について測定した結果を図2に示した。各群とも10匹の平均値である。
DADA単剤、グルコン酸カルシウム単剤のいずれも、わずかに血中乳酸値の上昇抑制が認められた。DADAとグルコン酸カルシウムの併用群における血中乳酸値の上昇抑制作用は、それぞれ単剤の抑制効果に比べて相乗的な抑制効果であった。なお、併用群では、高温多湿負荷をかけない通常状態マウスにおける血中乳酸値[概ね2.4mmol/L程度]とほぼ同レベルまでの改善効果であった。
【0035】
(試験例2)抗熱疲労試験
(1)被検物質
グルコン酸カルシウムは和光純薬製のものを使用した。
グルコン酸カルシウムの単剤投与液は、100mgを秤量し、各々0.5%CMC10mLに溶解して調製し、被験物質として使用した。
【0036】
(2)動物
ddY雄性マウスを日本SLC(株)から購入し、1群10匹を1週間予備飼育した後、一般状態に異常の認めない良好なものを実験に使用した。
【0037】
(3)被検物質の投与
マウス体重10g当り、被験物質(対照群は溶媒である0.5%CMCのみを投与した)0.05mLを5日間、1日1回経口投与した。
【0038】
(4)高温多湿負荷動物を用いた抗疲労効果の測定
マウスを設定温度35±1℃、湿度50±15%という、マウスにとっては高温多湿の条件下で72時間飼育することで高温多湿負荷モデルマウスとした。
さらに、マウスをポリサルフォン製ケージに入れ、10分間の馴化後に自発運動量測定装置で行動量を計測した。自発運動量変化率(%)は式1のように算出した。
【0039】
(数2)
自発運動量変化率(%)=100×(B−A)/A ・・・・・・式2
【0040】
ここで、Aは高温多湿負荷前の自発運動量であり、Bは高温多湿負荷後の自発運動量である。
【0041】
(5)試験群の構成
試験群の構成は、以下の通りである。
対照群(0.5%CMCのみを投与)
グルコン酸カルシウム単剤(50mg/Kg)投与群
【0042】
(6)試験結果(抗熱疲労作用)
高温多湿負荷モデルマウスにおける自発運動量の変化率の結果を図3に示した。図3はグルコン酸カルシウム単剤投与群、及び、非投与群(対照)における、マウスの自発運動量に及ぼす高温及び/又は高湿度の影響を調べたものである。なお、各群とも15匹の平均値である。
図3に示したように、グルコン酸カルシウム単剤(50mg/Kg)投与群の場合も、グルコン酸カルシウム単剤(100mg/Kg)投与群の結果(図1)と同様に、自発運動量に対し改善作用が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
夏バテ(夏まけ)、暑気あたり(暑さあたり)、又は、熱による疲労の予防及び/又は改善用の新規医薬組成物が提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミン、及び/又は、グルコン酸またはその塩、を含有する、高温度及び/又は高湿度環境において発症する疾病の予防又は改善用医薬組成物。
【請求項2】
グルコン酸又はその塩が、グルコン酸、グルコン酸マグネシウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、又は、グルコン酸カルシウムである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
グルコン酸又はその塩が、グルコン酸カルシウムである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
高温度及び/又は高湿度環境において発症する疾病が、夏バテ(夏まけ)、暑気あたり(暑さあたり)、又は、熱による疲労である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−28596(P2013−28596A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−140528(P2012−140528)
【出願日】平成24年6月22日(2012.6.22)
【出願人】(306014736)第一三共ヘルスケア株式会社 (176)
【Fターム(参考)】