説明

高濃度のセロビオースを蓄積できる酵素組成物、及びそれを用いたセロオリゴ糖の製造方法

【課題】セルロース系物質を原料としセルラーゼの存在下で酵素分解することでセロビオースを選択的に生産する際に、煩雑な工程を経ることなくセロビオース蓄積濃度を高めることができるセルラーゼを含む酵素組成物を提供すること。
【解決手段】セルラーゼ生産菌を培養して得られる培養液由来の酵素組成物であって、水溶性セルロース分解活性(CMC−ase)と結晶セルロース分解活性(MCC−ase)との活性比(CMC−ase/MCC−ase)が8.0以下であり、β−グルコシダーゼ活性(β−Glucosidase)と結晶セルロース分解活性(MCC−ase)との活性比(β−Glucosidase/MCC−ase)が0.016以下であるセルラーゼを含む酵素組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セロオリゴ糖の中でも特にセロビオースを高濃度に蓄積できるセルラーゼを含む酵素組成物、該酵素組成物の製造方法、並びに該酵素組成物を用いた効率的なセロオリゴ糖の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セロオリゴ糖は、セロビオース、セロトリオース、セロテトラオース、セロペンタオース、セロヘキサオースの総称であり、グルコピラノース単位が1〜6個、β−1,4結合した少糖類である。近年、セロオリゴ糖は、他のオリゴ糖と同様に、その生理機能が明らかになりつつあり、機能性食品の新素材として期待されている(非特許文献1参照)。
【0003】
一般に、セロビオースを得る方法としては、セルロース系物質をセルラーゼにより分解する方法が知られている。セルラーゼによるセルロースの分解機構は、(1)まず、セルロース分解酵素の作用で、セルロースからセロビオースを含むセロオリゴ糖が生成する反応、(2)セルロースから直接グルコースを生成する反応、(3)β−グルコシダーゼの作用で、セロオリゴ糖からグルコースが生成する反応が含まれる(非特許文献2)。この反応系において、セロオリゴ糖の生産性を高めるには、(a)セロオリゴ糖からグルコースへの分解を抑制し、セロオリゴ糖の選択率を高めること、(b)セロビオースの蓄積濃度を高めることが有効である。
【0004】
従来、(a)の観点で、セロオリゴ糖の選択率を高めることにより、セロオリゴ糖の生産性を高める検討は、数多くなされてきた(特許文献1〜7)。一方で、(b)の視点に立つと、セロビオースの蓄積濃度を高められれば、反応液当たりに多くの生成物が得られるため、セロオリゴ糖の生産性向上に非常に効果がある。しかし、セルラーゼは、セロビオースによる生成物阻害(生成物が高濃度になると酵素の作用が休止する現象)を生じることも知られている。(非特許文献3、4)このため、セロビオースの蓄積濃度を高める有効な手段は知られていなかった。
【0005】
本発明は、セルラーゼの結晶セルロース分解活性(MCC−ase)、水溶性セルロース分解活性(CMC−ase)、及びβ―グルコシダーゼ活性(β−Glucosidase)の活性比を特定の範囲に制御することで、セロビオース蓄積濃度を高められることを見出したものである。以下に、従来技術と本発明の違いについて説明する。特定のセルラーゼを使用し、セルロースを酵素分解することで、セロオリゴ糖の選択率を向上させる方法としては、以下のものが挙げられる。
【0006】
特許文献1は、セロビブリオ属に属する微生物が生産するセルラーゼの作用により、水性反応液中にてセルロース系物質からセロオリゴ糖を製造する方法において、限外ろ過反応器を組み合わせることにより生成物阻害を解除して、セロオリゴ糖を生成蓄積せしめるセロオリゴ糖の製造方法が開示されている。この方法を用いると、限外ろ過により、酵素と生成物を分離し、酵素の活性低下を防ぐことができる。しかし、この方法では、酵素の本質的な組成を制御できないため、セロビオース濃度を高めることはできない。
【0007】
特許文献2には、セルロースをセルラーゼで分解し、セロオリゴ糖を生成させる方法において、予めセルラーゼをpH3.5〜5.0に平衡化した弱酸性陽イオン交換樹脂に接触させることにより、セルラーゼ中のβ−グルコシダーゼを選択的に除去し、かかるβ−グルコシダーゼを除去したセルラーゼをセルロースに接触させるセロオリゴ糖の製造方法が開示されている。この製造方法によると、セルロースの酵素分解により、グルコースを低減し、セロオリゴ糖が60%以上の分解生成物を得ることができる。しかしながら、該製造方法では、セルロース中のβ−グルコシダーゼを除去する工程が必要となり、セロオリゴ糖製造工程が複雑になるという問題があった。また、このセルラーゼ精製工程では、未処理セルラーゼに対し、75〜1000倍の陽イオン交換樹脂が必要となるため、セルラーゼ処理量が制限され、セロオリゴ糖の生産性が充分ではなく、セルラーゼ精製コスト、陽イオン交換樹脂の分離精製剤コストが高くなるという問題があった。
【0008】
特許文献3には、不溶性セルロースまたはセルロース含有物質とTrichoderma由来のセルラーゼを水性媒体中で保温した後、固形画分を分離し、該固形画分に水溶性溶液を加え、セロビオースを得る方法が開示されている。特許文献4には、セルロースまたはセルロース含有物質に対し、セルラーゼに含まれる酵素成分のうちβ−グルコシダーゼ以外の酵素成分を予め吸着し、その後、酵素分解するセロオリゴ糖の製造方法が記載されている。特許文献5には、セルロース性原料を管式あるいは塔式反応器に充填し、セロビオハイドロラーゼを含みかつ不純物としてβ−グルコシダーゼを含むセルラーゼ溶液を一方向から連続的に通液させ、β−グルコシダーゼを含む画分を選択的に分離除去することを特徴とするセルラーゼからのβ−グルコシダーゼの分離除去方法が記載されている。
これらの製造方法では、セロビオース製造工程に混入するβ-グルコシダーゼを低減することが可能となり、選択的にセロビオースを得ることができる。しかしながら、β−グルコシダーゼ以外の酵素成分の活性の制御については、記載も示唆もなく、これらの方法により、それらを制御することは困難である。また、これらの方法は、固形画分へのセルラーゼ吸着工程および固形画分分離工程が必要となるため、プロセスが複雑となる問題があった。
【0009】
特許文献6には、セルラーゼ生産菌を培養して得られる培養液中の、β−グルコシダーゼ活性と結晶性セルロース分解活性の活性比(β−グルコシダーゼ活性/結晶性セルロース分解活性)が0.35以下であるセルラーゼの製造方法、及び培養液中のpHをpH3.5未満に制御するセルラーゼの製造方法が開示されている。また、特許文献7には、綿実粕を0.1〜10質量%含有する液体培地にTrichoderma属に属する微生物を接種し、これを培養することにより製造するセルラーゼを含む酵素液の製造方法、及び液体培地が、さらに0.01〜10質量%の硫酸アンモニウムを含有するセルラーゼを含む酵素液の製造方法が開示されている。これらの文献は、セルロース分解活性が高く、β−グルコシダーゼ活性が低いセルラーゼの製造を目的とするため、本発明のように、セロビオース蓄積濃度を高めるために、β−グルコシダーゼ活性のみならず、結晶セルロース分解活性、水溶性セルロース分解活性を高度に制御したものとは異なる。
【0010】
従って、従来は、特定の活性比を有し、セロビオース蓄積濃度が高められるセルラーゼ、その製造方法、及び該セルラーゼを用いた効率的なセロオリゴ糖の製造方法は知られていなかった。
【0011】
【非特許文献1】Cellulose Communications,5,No2,91−97(1998)
【非特許文献2】「セルラーゼ」講談社サイエンティフィック発行、97−104(1987)
【非特許文献3】Applied Biochemistry and Biotechnology, vol101, p41−60,2002
【非特許文献4】Food, Pharmaceutical and Bioengeneering −1976/77,No172,vol74,p77−81
【特許文献1】特開平01−256394号公報
【特許文献2】特開平05−115293号公報
【特許文献3】特開昭63−226294号公報
【特許文献4】特開2006−204294号公報
【特許文献5】特開2006−34206号公報
【特許文献6】特開2006−296358号公報
【特許文献7】特開2007−215505号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、セルロース系物質を原料としセルラーゼの存在下で酵素分解することでセロビオースを選択的に生産する際に、煩雑な工程を経ることなくセロビオース蓄積濃度を高めることができるセルラーゼを含む酵素組成物、該酵素組成物の製造方法、並びに該酵素組成物を用いたセロオリゴ糖の製造方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、セルロース系物質を酵素分解するセロオリゴ糖の製造において、水溶性セルロース分解活性(CMC−ase)と結晶セルロース分解活性(MCC−ase)との活性比(CMC−ase/MCC−ase)が8.0以下であり、β−グルコシダーゼ活性(β−Glucosidase)と結晶セルロース分解活性(MCC−ase)との活性比(β−Glucosidase/MCC−ase)が、0.016以下であるセルラーゼが、セロビオースを高濃度蓄積できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下記の通りである。
【0014】
(1) セルラーゼ生産菌を培養して得られる培養液由来の酵素組成物であって、水溶性セルロース分解活性(CMC−ase)と結晶セルロース分解活性(MCC−ase)との活性比(CMC−ase/MCC−ase)が8.0以下であり、β−グルコシダーゼ活性(β−Glucosidase)と結晶セルロース分解活性(MCC−ase)との活性比(β−Glucosidase/MCC−ase)が0.016以下であるセルラーゼを含む酵素組成物。
(2) 前記結晶セルロース分解活性(MCC−ase)が9.0U/mL以上である、(1)に記載の酵素組成物。
(3) 前記セルラーゼ生産菌が、Tricoderma属に属する菌株である、(1)又は(2)に記載の酵素組成物。
(4) 前記セルラーゼ生産菌が、Tricoderma reesei NBRC31329株及び/又はTricoderma reesei NBRC31329株から変異させて得られる変異株である、(1)から(3)の何れかに記載の酵素組成物。
(5) 前記セルラーゼ生産菌が、Trichoderma reesei AKC−015株(受託番号FERM BP−10839)である、(1)から(3)の何れかに記載の酵素組成物。
(6) セルラーゼ生産菌を培養し、水溶性セルロース分解活性(CMC−ase)と結晶セルロース分解活性(MCC−ase)との活性比(CMC−ase/MCC−ase)が8.0以下であり、β−グルコシダーゼ活性(β−Glucosidase)と結晶セルロース分解活性(MCC−ase)との活性比(β−Glucosidase/MCC−ase)が0.016以下であるセルラーゼを含む培養液を回収することを含む、(1)から(5)の何れかに記載の酵素組成物の製造方法。
(7) (1)から(5)の何れかに記載の酵素組成物の存在下で、セルロース系物質を酵素分解することを含む、セロオリゴ糖の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、セロビオース蓄積濃度が高い酵素組成物を製造することができ、該酵素組成物をセロオリゴ糖の製造に使用することで、酵素の分画等の煩雑な工程を経ることなくセロオリゴ糖を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明におけるセルラーゼとは、セルロースを分解する酵素の総称であり、セルロースの分解活性を有していれば、本発明でいうセルラーゼに含まれる。また、本発明におけるセルラーゼ活性は、水溶性セルロース(カルボキシメチルセルロースナトリウム塩)を分解する酵素活性(CMC−ase)と、結晶セルロース(MCC)を分解する酵素活性(MCC−ase)で表すことができ、下記に記す方法で測定することができる。これらのセルラーゼ活性は高い程、セルロースの分解速度、分解率が向上する。また、セロオリゴ糖をグルコースに分解する酵素活性は、β−グルコシダーゼ(β−Glucosidase)として表すことができる。
【0017】
本発明は、これらのMCC−aseが高く、かつCMC−ase、MCC−ase、β−Glucosidaseの酵素活性を高度に制御されたセルラーゼを、セルロース系物質の酵素分解に用いることで、セロオリゴ糖の選択率を高めることに加え、セロビオースの蓄積濃度を高蓄積できるという抜群の効果を奏するものである。
【0018】
以下にそれぞれの酵素活性について説明する。
本発明のCMC−aseは、水溶性セルロースを分解するセルラーゼ活性のことであり、基質としてカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を分解する酵素活性(U/mL)として測定される。このCMC−ase活性は、セルロース系物質を酵素分解する際に、非晶質の分解が促進する。このため、本発明のセルラーゼは、この活性を有することが必要である。好ましい範囲としては、0.001U/mL以上である。
【0019】
本発明のMCC−aseは、結晶セルロースを分解するセルラーゼ活性のことであり、基質として前処理を施した結晶セルロースを分解する酵素活性(U/mL)として測定される。このMCC−ase活性が高い程、セルロース系物質を酵素分解する際の、結晶質の分解が促進される。好ましい範囲は、9U/mL以上であり、より好ましくは、10U/mL以上であり、さらに好ましくは15U/mL以上である。
【0020】
本発明におけるβ−グルコシダーゼとは、セロオリゴ糖を分解し、グルコースを生成する酵素のことであり、β−グルコシダーゼ活性(U/mL)で定量される。セロオリゴ糖を高収率で得るためには、上述のセルラーゼ活性が高く、かつβ−グルコシダーゼ活性が低い酵素液を使用することが効率的である。β−グルコシダーゼ活性の好ましい範囲は、0.20U/mL以下であり、より好ましくは、0.16U/mL以下である。特に好ましくは、0.15U以下である。
上述のCMC−ase、MCC−ase及びβ−グルコシダーゼにおける、それぞれの活性の絶対値は、後述する培養方法において、培養液の上澄み1mL中に含まれる活性量のことを差す。ただし、本発明でいう酵素活性比は、上述の培養液の上澄みに限らず、培養液を濃縮・分離・乾燥等の加工を施したものを用いて測定してもよい。
【0021】
本発明は、セルラーゼ活性の中でも、特に、CMC−aseとMCC−aseとの活性比に着目したものである。この活性比は、CMC−ase、MCC−aseとして、個別に測定された酵素活性値(U/mL)から、(CMC−ase/MCC−ase)の式を用いて得られるものである。本発明のセルラーゼは、この活性比として8.0以下を満たす必要がある。本活性比が8.0を超えると、CMC−aseとMCC−aseの相乗効果が得られなくなり、セロビオースの蓄積濃度が低下するため好ましくない。好ましい範囲は7.0以下であり、さらに好ましくは6.5以下である。下限は、特に設定されないが、セルロース系物質を分解できる現実的な範囲としては0.5以上である。
【0022】
また、本発明のセルラーゼは、β−GlucosidaseとMCC−aseの活性比も特定の範囲を満たす必要がある。この活性比も、β−Glucosidase、MCC−aseとして、個別に測定された酵素活性値(U/mL)から、(β−Glucosidase/MCC−ase)の式を用いて得られるものである。本発明のセルラーゼは、この活性比として0.016以下を満たす必要がある。この活性比が、0.016を超えると、セルラーゼ中のβ−Glucosidaseの作用が大きくなり、セロオリゴ糖の分解が進むため、結果としてセロビオースの蓄積濃度が低くなる。好ましい範囲は、0.015以下であり、より好ましい範囲は、0.010以下である。この活性比は小さい程、セロビオースの蓄積濃度が高くなるため、下限と特に設定されないが、工業的に得られる範囲としては0.001以上である。
【0023】
以下に本発明のCMC−ase、MCC−ase、β−グルコシダーゼの測定方法を示す。
(1)CMC−ase活性
20mM酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液(pH5)に溶解した1%カルボキシメチルセルロースナトリウム塩溶液を480μl用意する。これに適当に希釈した酵素液20μlを加え、40℃で30分間反応させる。95℃、15分間加熱して反応を停止させた後、3,5−ジニトロサリチル酸法により還元糖を比色定量する。セロビオース標準液を用いて標準曲線を作成し、セロビオース換算で1分間に1μmolの還元糖を遊離する酵素量を1酵素単位(1U)と定義する。
【0024】
(2)MCC−ase活性
50mM酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液(pH5)に懸濁した1.25質量%の結晶性セルロース(旭化成ケミカルズ製、商品名:セオラスPH−101を水分60%として、三英製作所製、商品名:万能攪拌混合機でフック羽根により、90分間、126rpmで混練攪拌したもの)の基質液0.4mlに適当に希釈した酵素液を0.1ml添加し、40℃で30分間反応後、95℃で15分間加熱して反応を停止させた後、3,5−ジニトロサリチル酸法により還元糖を比色定量する。セロビオース標準液を用いて標準曲線を作成し、セロビオース換算で1分間に1μmolの還元糖を遊離する酵素量を1酵素単位(1U)と定義する。
【0025】
(3)β−グルコシダーゼ活性
200mM酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液(pH5)に溶解した2.0質量%のセロビオース(Aldrich製:特級グレード)の基質液0.3mlに酵素液0.3mlを添加し、40℃で30分間反応後、95℃で15分間加熱し反応を停止させた後、ムタロターゼとグルコースオキシダーゼを組み合わせた酵素法試薬であるグルコース定量キット(グルコースCII-テストワコー、和光純薬工業社製)を用いて、反応液中のグルコース濃度を定量する。1分間に1μmolのグルコースを遊離する酵素量を1酵素単位(1U)と定義する。
【0026】
本発明のセルラーゼは、セルラーゼ生産菌を培養して得られる培養液由来のものである。
本発明で使用されるセルラーゼ生産菌は、酵素を分泌し、その酵素がセルロース系物質を分解するものであれば、その菌種は特に限定されない。セルラーゼの起源は、例えば、公知のセルラーゼを生産する微生物として以下のものがある。トリコデルマ(Tricoderma)属、アクレモニウム(Acremonium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、バチルス(Bacillus)属、シュードモナス(Pse−udomonas)属、ペニシリウム(Penicillium)属、アエロモナス(Aeromonus)属、イルペックス(Irpex)属、スポロトリクム(Sporotrichum)属、フミコーラ(Humicola)属等の「セルラーゼ」(講談社サイエンティフィック発行(1987))、「セルロースの事典」(朝倉書店発行(2000))に記載される菌が生産するセルラーゼを挙げることができるが、セルロースを分解する酵素であれば、上記公知の菌由来の酵素に限らず、新規の菌由来の酵素も、本発明のセルラーゼに含まれる。
【0027】
上記のうち特に適しているのは、Tricoderma属に属する微生物である。すなわち、Tricoderma属に属する微生物を接種し、培養することにより、本発明のセルラーゼ活性の高い酵素を製造することができる。
【0028】
本発明の酵素液を、セロオリゴ糖の製造に使用する場合は、上記のTricoderma属に属する微生物の中でも、Trichoderma reesei NBRC31329株を用いることが好ましい。さらに上述のNBRC31329株に公知の変異処理が施された、Trichoderma reesei GL−1株(独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センター、受託番号;FERM BP−10323)またはTrichoderma reesei AKC−015株(独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センター、受託番号;FERM BP−10839)を使用することが好ましい。上記の方法において、さらにセロオリゴ糖を高収率で製造する為には、上記のTrichoderma reesei GL−1株あるいはAKC−015株を親株として、セロオリゴ糖を高収率かつ高選択率で得られるよう、公知の変異処理を施された変異株を使用することが好ましい。
【0029】
なお、GL−1株は、独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566)に、2005年4月15日に、受託番号;FERM BP−10323として、AKC−015株は、独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566))に、2007年6月13日に、受託番号;FERM BP−10839としてそれぞれ寄託されている。また、GL−1株は、中華民国(台湾)食品工業発展研究所(FIRDI)に、2005年10月7日に受託番号BCRC930082として寄託されている。
【0030】
ここでいう公知の変異処理とは、セルラーゼ生産能を有する微生物を、必要であれば紫外線照射やニトロソグアニジンのような変異誘発剤を使用し、変異誘導処理し、それらの菌株からセロオリゴ糖生産効率の高い菌株を選ぶ処理のことである。変異誘導処理に用いる微生物としては、親株としてTrichoderma reesei GL−1株(独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センター、受託番号;FERM BP−10323)、またはTrichoderma reesei AKC−015株(独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センター、受託番号;FERM BP−10839)を用いることが好ましい。
【0031】
変異処理の一例としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
Trichoderma reesei GL−1株またはAKC−015株を、ポテトデキストロース寒天斜面培地上で28℃、3〜10日間培養する。生成した胞子を生理的食塩水に100,000〜100,000,000 個/mlになるよう懸濁し、EMS(ethyl methane sulfonate)で変異処理を施す(100〜500μg/ml、pH7.0、28℃、5〜24時間)。セロオリゴ糖生産性の高いセルラーゼを分泌する菌株の選択は、この変異誘発処理胞子の懸濁液から遠心分離により胞子を集め、よく洗浄し、グルコースなどを炭素源として培養し、培養物の酵素活性を公知の方法で測定することで達成される。例えば、各変異処理菌株の培養物を用いて、セロビオースまたは結晶セルロースを基質として酵素分解し、生成した還元糖を定量してもよく、公知の発色基質を使用し培養物と酵素反応させることで定性的に目的の菌株を選択してもよい。
【0032】
本発明の酵素組成物は、上記したセルラーゼ生産菌を培養し、水溶性セルロース分解活性(CMC−ase)と結晶セルロース分解活性(MCC−ase)との活性比(CMC−ase/MCC−ase)が8.0以下であり、β−グルコシダーゼ活性(β−Glucosidase)と結晶セルロース分解活性(MCC−ase)との活性比(β−Glucosidase/MCC−ase)が0.016以下であるセルラーゼを含む培養液を回収することによって製造することができる。
【0033】
本発明の酵素組成物の製造方法で使用する本培養用培地は、炭素源を1質量%以上であることが好ましい。炭素源濃度を高めることで、セルラーゼの生産性が向上するのみならず、特にMCC−aseを高めることができる。この炭素源濃度が高い程、上述の効果が高まるため、上限は特に設定されないが、現実的な範囲としては、99質量%以下である。
【0034】
本発明で用いる炭素源としては、特に制限はないが、例えば、パルプ、セルロースパウダー、結晶セルロース、セロビオース、濾紙、一般紙類、おがくず、ふすま、もみがら、バガス、大豆粕、コーヒー粕、澱粉、ラクトース、グルコース、グリセロール、エタノール、有機酸等が挙げられる。等が使用することができる。その中でも、特に、パルプ、セルロース粉末、結晶セルロース等のセルロース系物質を多く含むものが、セルラーゼ誘導剤としても作用するため好ましい。
【0035】
本発明で用いるその他の培地成分は、セルラーゼ活性を高められるものであれば、何も用いても自由であるが、例えば次のものが挙げられる。窒素源としては、硝酸アンモニウムなどの無機アンモニウム塩、尿素、アミノ酸、植物加工品、肉エキス、酵母エキス、ポリペプトン、蛋白分解物等の有機窒素含有物を添加することができる。無機塩類としては、KH2PO4、MgSO4・7H2O、CaCl2・2H2O、FeCl3・6H2O、MnCl3 ・4H2O、ZnSO4・7H2O等が使用される。必要ならば有機微量栄養物を含有する培地が使用される。上述の窒素源でも特に、アオイ科に属する植物の種子由来の成分を含有することが好ましい。アオイ科に属する植物の種子としては、ワタ、オクラ、ハイビスカス、ムクゲ、フヨウ、タチアオイなどの種子が挙げられ、好ましくは、綿実などを使用できる。アオイ科に属する植物の種子由来の成分としては、例えば、綿実粕を用いるこができる。ここでいう綿実とは、アオイ科ワタ属に属する植物の種子、およびその外皮のことであり、綿実粕とは、綿実から綿実油を搾取した残さのことである。本発明の綿実粕は、上述の綿実に加え、種子、綿実殻、リンター、綿花、花弁等を含んでもよい。Tricoderma属に属する微生物を培養するための培地における綿実の添加量は、酵素液のセルラーゼ活性と密接に関連するものであり、高力価のセルラーゼを得る為には、培地における綿実粕の添加量は、0.1〜10質量%が好ましい。培地における綿実粕のより好ましい添加量としては、0.2〜7質量%であり、さらに好ましくは2〜5質量%である。
【0036】
本発明のセロオリゴ糖を選択的に製造するためのβ−グルコシダーゼ活性の低減された酵素組成物を得るためには、アオイ科に属する植物の種子由来の成分に加えて、硫酸イオン、硫酸水素イオンおよびアンモニウムイオンから選ばれる少なくとも一つを液体培地に添加することが好ましく、特に、硫酸アンモニウムを液体培地に添加することが好ましい。培地における硫酸アンモニウムの添加量としては、0.01〜10質量%がβ−グルコシダーゼ活性を低減させるために好ましく、0.02〜2質量%がより好ましい。特に好ましい範囲としては0.1〜0.5質量%である。
【0037】
以下に培養方法について、説明する。
培養には通常の通気撹拌培養装置あるいは固体培養装置が用いられ、前記培地を使用して、温度20〜40℃で培養すれば、3〜10日間でセルラーゼ活性は最高となる。次いで、培養液から遠心分離、濾過などの公知の方法によって菌体を除去し上澄液を得る。この上澄液は、このまま粗酵素液として使用することができる。
【0038】
本発明で用いる培養方法としては、特に通気攪拌培養装置が適しており、通気状態、攪拌状態を制御することで、酸素移動係数(KLa)を適切な範囲制御することが好ましい。このKLaは、全容10Lの通気攪拌培養装置(丸菱エンジ製、6枚羽根フラットタービン二段)を用いて、0.2vvm、イオン交換水を6L仕込んだ場合に、スタティックメソッドで測定されるものであり、培養時の通気攪拌状態を表す指標となる。好ましいKLaの範囲は、20〜300であり、より好ましい範囲は、50〜280である。このKLaは、培養槽のスケール、攪拌翼が変わっても、適宜調製されるものである。
【0039】
本発明で用いる培養方法において、培養液のpHを制御することが好ましい。好ましいpHの範囲としては、2.8〜3.5である。この範囲にpHを制御することで、セルラーゼ生産菌の生育およびMCC−aseの生産と、β−Glucosidaseの抑制のバランスがとれる。セロビオースの蓄積濃度を高めることを目的とするが、このことによりβ−グルコシダーゼを抑え、結果として、セロオリゴ糖の生産を高めることに繋がる。より好ましい範囲は、2.9〜3.1である。
【0040】
なお、本発明は、特定の活性比を有するセルラーゼが、セロビオース蓄積性、セロオリゴ糖選択性を向上することを見出したものであり、この酵素をセルロース系物質の酵素分解に用いることでセロオリゴ糖の生産性を高めたセロオリゴ糖の製造方法である。従って、セルラーゼは、本発明の活性比の範囲を満たすものであれば、上記の方法に関わらずとも、市販セルラーゼ等の公知の手段で得られた酵素を、公知の精製、分画方法を組み合わせて得られたものでもよい。
【0041】
本発明においては、上記した本発明の酵素組成物の存在下で、セルロース系物質を酵素分解することによってセロオリゴ糖を製造することができる。以下にセロオリゴ糖の製造方法を説明する。
【0042】
酵素分解方法は、公知の方法を使用すればよく、特に制限されるものではないが、一例としては、基質としてセルロース系物質を水性媒体中に懸濁させ、本発明のセルラーゼを添加し、攪拌または振とうしながら、加温して糖化反応を行う方法が挙げられる。
【0043】
上記方法において、懸濁方法、攪拌方法、セルラーゼ・基質の添加方法・添加順序、それらの濃度等の反応条件は、セロオリゴ糖がより高収率で得られるよう適宜調整されるものである。その際の、反応液のpH及び温度は、酵素が失活しない範囲内であればよく、一般的には、常圧で反応を行う場合、温度は5〜95℃、pHは1〜11の範囲でよい。
本発明でいうTricoderma reeesei NBRC31329株、GL−1株、AKC−015株、またはそれらの変異株をセルラーゼ生産菌とし、得られたセルラーゼを用いる場合には、セルロースの酵素分解は、緩衝液中で、温度50〜70℃、pH3.0〜8.0の範囲で行うことが好ましい。
【0044】
本発明で使用するセルロース系物質は、セルロースを含有する水不溶性繊維質物質であることが好ましい。その由来は、植物性でも動物性でもよく、それを産生する動植物としては、例えば、木材、竹、麦藁、稲藁、コーンコブ、コットン、ラミー、バガス、ケナフ、ビート、ホヤ、バクテリアセルロース等が挙げられる。また、本発明には、上記の動植物が産生する天然セルロース系物質に加え、天然セルロース系物質を一旦、化学的・物理的に溶解、または膨潤させた後、再生して得られる再生セルロース系物質、およびセルロース系原料を化学的に修飾させたセルロース誘導体系物質を用いてもよい。これらのセルロース系物質は、工業的には、パルプ、セルロース粉末、結晶セルロース等の天然セルロース系原料、レーヨン等の再生セルロース、アルカリセルロース、リン酸膨潤セルロース等の各種再生セルロース系原料、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩等の各種セルロース誘導体系原料のいずれでもよい。但し、得られるセロオリゴ糖を医薬品、食品、化粧品に用いるには、天然セルロース系原料を使用することがより好ましい。原料としてこれらのうち1種のセルロース系物質を使用しても、2種以上を混合したものを使用することも可能である。
【0045】
この酵素反応は、バッチ式で行っても、連続式で行ってもよい。酵素分解反応において、セロビオースによる生成物阻害を回避するためには、反応系内のセロビオース濃度を特定範囲に保つことが、セロオリゴ糖の生産性を向上する上で重要である。反応系内のセロビオース濃度を特定範囲に保つ方法としては、限外ろ過、逆浸透ろ過等の膜ろ過により、反応系から生成したセロビオースを抜き出す方法でもよく、活性炭、竹、木材等の乾燥植物粉等の有機多孔質基材、二酸化珪素等の無機多孔質基材等を反応系に導入し、それらにセロビオースを吸着させる方法でもよく、セルロース基質をカラム等に固定化し、セルラーゼを含む反応液を流通させる方法でもよく、セルラーゼを高分子等に固定化し、セルロースを含む反応液を流通させる方法でもよい。
但し、上述の酵素分解方法において、反応系内のセルロース系物質の濃度を高濃度にすることは、セロビオース蓄積をより高める上で重要である。好ましいセルロース系物質濃度は、反応液中に2質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上であり、さらに好ましくは7.5質量%以上である。この濃度は高いほど、セロビオースの蓄積濃度を高められるため、上限は特に設定されないが、通常の反応系で、均一攪拌が得られる範囲としては、30質量%以下が好ましい。上述のセルロース系物質の濃度は、バッチ式反応においては、仕込み時の濃度として設定してもよく、連続式の反応系では、分解に伴い減少したセルロース分を、適宜、添加(追加)して反応系内のセルロース系物質濃度を高めてもよい。
【0046】
上述の酵素分解により得られたセロオリゴ糖を主成分とする水溶液は、必要に応じて、脱色、脱塩、酵素除去等の精製処理を施すことができる。精製方法は、公知の方法であれば特に制限されないが、例えば、活性炭処理、イオン交換樹脂処理、クロマトグラフィー処理、精密ろ過、限外ろ過、逆浸透ろ過等の濾過処理、晶析処理等を使用してもよく、これらを単独で使用しても、2種以上を組み合わせてもよい。
【0047】
上記の方法で精製されたセロオリゴ糖を主成分とする水溶液は、そのまま使用することができるが、必要に応じて、乾燥により固化させてもよい。乾燥方法は、公知の方法であれば特に制限されないが、例えば、噴霧乾燥、凍結乾燥、ドラム乾燥、薄膜乾燥、棚段乾燥、気流乾燥、真空乾燥等を使用してもよく、これらを単独で使用しても、2種以上を組み合わせてもよい。
【0048】
上記の精製、乾燥処理時のセロオリゴ糖の媒体としては、水以外に、必要に応じて、有機溶剤等を使用してもよい。ここで使用される有機溶剤にも、特に制限されないが、例えば、医薬品、食品およびそれらの添加剤を製造する工程で使用されるものが好ましく、「医薬品添加物事典」(薬事日報社(株)発行)、「日本薬局方」、「食品添加物公定書」(いずれも廣川書店発行)に溶剤として分類されるものが挙げられる。水、有機溶剤は、それらを単独で使用しても、2種以上を併用することも自由であり、1種の媒体で一旦分散させた後、その媒体を除去し、異なる媒体に分散させてもよい。
【0049】
上記の工程を経たセロオリゴ糖の形態には、特に制限はないが、例えば、常温で固体、懸濁液、エマルジョン、シロップ、溶液状で使用できる。固体状セロオリゴ糖の一例としては、粉末、顆粒、ペレット、成形体、積層体、固体分散体等が挙げられる。
【0050】
本発明により得られるセロオリゴ糖の用途は、特に制限されないが、例えば、食品、化粧品、医薬品、一般工業製品等の分野で、食品成分、化粧品成分、色素成分、香料成分、医薬品薬効成分、農薬成分、飼料成分、肥料成分、培地成分、分析用試薬成分、および添加剤、中間原料、発酵原料等として使用してもよい。
【0051】
本発明により得られるセロオリゴ糖は、食品では、例えば、ゼリー、プリン、ヨーグルト等のゲル、マヨネーズ、ドレッシング、ソース類、たれ類、スープ、野菜加工品等の調味料、カレー、ハヤシ、ミートソース、シチュー、スープ等のレトルト食品、チルド食品、ハンバーグ、ベーコン、ソーセージ、サラミソーセージ、ハム類等の畜産加工品、蒲鉾、ちくわ、魚肉ハム・ソーセージ、揚げ蒲鉾等の水練製品、パン、生麺、乾麺、マカロニ、スパゲッティ、中華饅頭の皮、ケーキミックス、プレミックス、ホワイトソース、餃子・春巻等の皮類などの小麦加工食品、カレー、ソース、スープ、佃煮、ジャムなどの缶詰、瓶詰類、キャンデー、トローチ、錠菓、チョコレート、ビスケット、クッキー、米菓、和洋菓子、洋生菓子、スナック菓子、砂糖菓子、プリンなどの菓子類、フライ類、コロッケ、餃子、中華饅頭等の調理加工品、野菜ペースト、肉のミンチ、果実ペースト、魚介類のペースト等のペースト類などに使用される。また、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、ホイップクリーム、練乳、バター、ヨーグルト、チーズ、ホワイトソース等の乳製品、マーガリン、ファットスプレッド、ショートニング等の油脂加工品等に使用される。さらに、コーラ等の炭酸飲料、炭酸入り、アルコール入り、乳製品と混合した果実飲料、果汁又は、果実入り飲料、乳性飲料等の飲料、コーヒー、牛乳、豆乳、ココア牛乳、フルーツ牛乳、ヨーグルト等の乳酸/乳性飲料等、煎茶、ウーロン茶、抹茶、紅茶等の茶飲料等に使用してもよい。
【0052】
本発明で得られたセロオリゴ糖は、乳酸菌、乳酸かん菌等の活性化等の腸内有用細菌叢賦活、血中糖濃度、血中インシュリン濃度の低減、血中コレステロールの低減、体脂肪率の低減、脂質・糖質代謝促進機能、便通・便臭改善、抗う触性等の各種生理活性が期待できるため、上記の通常食品用途に加え、生理活性物質として、機能性食品、健康食品、ダイエット食品等の用途で使用してもよい。
【0053】
また、本発明により得られるセロオリゴ糖は、高純度であるため、各種セロオリゴ糖誘導体への化学変換原料として使用してもよい。
【0054】
本発明を実施例などに基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例などにより何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0055】
[実施例1]
Tricoderma reesei AKC−015株をポテトデキストロース寒天斜面培地上で、28℃、7日間培養して胞子を十分形成させる。その1白金耳を綿実粕(ファーマメディア、トレダース社製):0.5g、KH2PO4:0.20g、(NH42SO4:0.15g、MgSO4・7H2O:0.030g、CaCl2・2H2O:0.030g、アデカノールLG109:0.10mL、微量元素液(H3BO36mg (NH46Mo724・4H2O 26mg FeCl3・6H2O 100mg CuSO4.5H2O 40mg MnSO4・5H2O 8mg ZnSO4・7H2O 200mgを水100mlに溶解並びに懸濁した液):0.10mlに水を加え全量を99.0gに溶解及び懸濁させ、pH4.0に調整し、300ml容三角フラスコに導入し、結晶セルロース(旭化成ケミカルズ製、商品名PH−101)1.0gを添加後、オートクレーブ滅菌した前培養用培地に接種して、28℃で3日間前培養した。
【0056】
次に、この培養液3本分を、綿実粕:75g、KH2PO4:12.0g、MgSO4・7H2O:1.80g、CaCl2・2H2O:1.80g、アデカノールLG109:6.0ml、微量元素液:6.0mlに水を加え、5880gに溶解及び懸濁させ、pH4.0に調整し、10L容の通気攪拌培養装置(丸菱エンジ製)に導入し、結晶セルロース(旭化成ケミカルズ製、商品名PH−101)150gを添加後、オートクレーブ滅菌した本培養用培地に接種して、28℃、0.6vvmで、600rpmで攪拌(水を用いたKLaの測定結果は250)しながら、6日間培養した。培養中のpHは10%リン酸水溶液、又は10%水酸化ナトリウム水溶液で適宜調整され、最終的に培養が終了した際のpHを測定した。(pH=3.0)
【0057】
6日目に培養液を遠心分離し、その上澄液1mLにおける、各セルラーゼ活性(CMC−ase、MCC−ase、β−Glucosidase)を測定した。その結果を表1に示す。
【0058】
〔実施例2〕
実施例1から、通気攪拌培養時の結晶セルロース濃度を4.0%、綿実粕濃度を2.0%に変更し、それ以外は同様の操作で培養した。得られた結果を表1に示す。(pH=3.0)
〔実施例3〕
実施例1から、通気攪拌培養時の結晶セルロース濃度を2.0%、綿実粕濃度を1.0%に変更し、28℃、0.6vvmで、500rpmで攪拌(水を用いたKLaの測定結果は230)それ以外は同様の操作で培養した。得られた結果を表1に示す。(pH=3.14)
【0059】
[比較例1]
Tricoderma reesei GL−1株をポテトデキストロース寒天斜面培地上で、28℃、7日間培養して胞子を十分形成させる。その1白金耳を綿実粕(ファーマメディア、トレダース社製):0.15g、KH2PO4:0.06g、(NH42SO4:0.045g、MgSO4・7H2O:0.009g、CaCl2・2H2O:0.009g、アデカノールLG109:0.03ml、微量元素液(H3BO36mg (NH46Mo724・4H2O 26mg FeCl3・6H2O 100mg CuSO4.5H2O 40mg MnSO4・5H2O 8mg ZnSO4・7H2O 200mgを水100mlに溶解並びに懸濁した液):0.03mlを水30mlに溶解及び懸濁させ、pH4.0に調整し、150ml容三角フラスコに30ml分注し、結晶セルロース(旭化成ケミカルズ製、商品名PH−101)0.3gを添加後、オートクレーブ滅菌した前培養用培地に接種して、28℃で3日間前培養した。
【0060】
次にこの培養液を綿実粕:1g、KH2PO4:0.2g、MgSO4・7H2O:0.03g、CaCl2・2H2O:0.03g、アデカノールLG109:0.1ml、微量元素液0.1mlを水100mlに溶解及び懸濁させ、pH4.0に調整し、500ml容三角フラスコに100ml分注し、結晶セルロース(旭化成ケミカルズ製、商品名PH−101)2gを添加後、オートクレーブ滅菌した本培養用培地に接種して、28℃で6日間培養した。
培養後は、実施例1と同様に、各種活性を測定した。結果を表1に示す。
【0061】
〔比較例2〕
Tricoderma reesei由来の市販酵素「スミチームCS:粉末グレード(新日本化学製)」を用いて、10%濃度で水に懸濁し、それを用いて、各酵素活性を測定した。結果を表1に示す。
【0062】
<セルロース系物質の調整、およびセロビオース蓄積濃度の測定方法>
実施例1〜4、比較例1〜3で得られた酵素液を用いて、実際に、セルロース系物質として前処理した結晶セルロースを分解し、生成した糖をHPLCで定量する方法で、セロビオースの蓄積濃度を測定した。
【0063】
(1)セルロース基質
市販の結晶セルロース「セオラスPH−101(旭化成ケミカルズ製)」を7.5質量%濃度で水に懸濁し、市販のビーズミルを用いて、湿式で微粉砕した。粉砕装置は、アシザワファインテック製ビーズミル「スターミル2L容」を用いて、ビーズ径φ0.5mmのジルコニアビーズを、80容積%充填し、所定時間循環することで、平均径(D50)で4μm以下に微粉砕した。
【0064】
(2)酵素分解
上記で得られた微粉砕セルローススラリー、及び各実施例、比較例で得られた上澄液を、100mL容の三角フラスコに全量25gとなるように導入し、酢酸/酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)で希釈し、スターラー攪拌しながら、55℃の水浴中で4時間反応した。4時間反応後は、反応を停止し、遠心分離により得られた上澄み液を、HPLCで測定し、セロビオース濃度を測定した。結果を表1に示す。ここでセルロース濃度は、5質量%、反応液1mL当たりのMCC−aseが4Uになるように、各実施例及び比較例で得た培養液を添加した。
【0065】
表1から、セルラーゼ生産菌の培養において、菌種、炭素源濃度、KLa、pHを制御し、各セルラーゼ酵素活性(CMC−ase、MCC−ase、β−Glucosidase)の活性比を特定の範囲を満たす実施例1〜4は、セロビオースの蓄積濃度が、比較例に対し、格段に優れていることが分かる。
【0066】
【表1】

【0067】
〔実施例4〕
セルロース系物質として、市販の結晶セルロース「セオラスPH−101(旭化成ケミカルズ製)」を、15%濃度の水酸化ナトリウム水溶液中で、10質量%濃度で懸濁し、30分間攪拌した。攪拌後、遠心式ろ過装置(1μm)で、固形分を回収し、水洗した後、10質量%で水懸濁液を作成し、酢酸水溶液で中和した。中和後、上述と同様にろ過し、基質を調製した(水分66.3%)。
【0068】
この基質を用い、セルロース系物質濃度が10質量%として、実施例1及び2と同様の操作で、酢酸/酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)で希釈し、スターラー攪拌しながら、55℃の水浴中で4時間反応した。4時間反応後は、反応を停止し、遠心分離により得られた上澄み液を、HPLCで測定し、セロビオース濃度を測定した。ここで、反応液1mL当たりのMCC−aseは4Uであった。結果より、セロビオース蓄積濃度は、3.48%であった。
【0069】
〔実施例4〕
実施例3と同様の操作で、基質を調製し、セルロース系物質濃度を15質量%にする以外は、実施例3と同様の操作で酵素反応を行った。結果より、セロビオース蓄積濃度は、3.66%であった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の製造方法により得られるセロオリゴ糖は、通常の食品素材に加え、機能性食品素材、医薬品およびその他化学品の中間体合成材料等の化学変換原料、発酵原料として食品、医薬品、一般工業製品分野で好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルラーゼ生産菌を培養して得られる培養液由来の酵素組成物であって、水溶性セルロース分解活性(CMC−ase)と結晶セルロース分解活性(MCC−ase)との活性比(CMC−ase/MCC−ase)が8.0以下であり、β−グルコシダーゼ活性(β−Glucosidase)と結晶セルロース分解活性(MCC−ase)との活性比(β−Glucosidase/MCC−ase)が0.016以下であるセルラーゼを含む酵素組成物。
【請求項2】
前記結晶セルロース分解活性(MCC−ase)が9.0U/mL以上である、請求項1に記載の酵素組成物。
【請求項3】
前記セルラーゼ生産菌が、Tricoderma属に属する菌株である、請求項1又は2に記載の酵素組成物。
【請求項4】
前記セルラーゼ生産菌が、Tricoderma reesei NBRC31329株及び/又はTricoderma reesei NBRC31329株から変異させて得られる変異株である、請求項1から3の何れかに記載の酵素組成物。
【請求項5】
前記セルラーゼ生産菌が、Trichoderma reesei AKC−015株(受託番号FERM BP−10839)である、請求項1から3の何れかに記載の酵素組成物。
【請求項6】
セルラーゼ生産菌を培養し、水溶性セルロース分解活性(CMC−ase)と結晶セルロース分解活性(MCC−ase)との活性比(CMC−ase/MCC−ase)が8.0以下であり、β−グルコシダーゼ活性(β−Glucosidase)と結晶セルロース分解活性(MCC−ase)との活性比(β−Glucosidase/MCC−ase)が0.016以下であるセルラーゼを含む培養液を回収することを含む、請求項1から5の何れかに記載の酵素組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1から5の何れかに記載の酵素組成物の存在下で、セルロース系物質を酵素分解することを含む、セロオリゴ糖の製造方法。

【公開番号】特開2009−178056(P2009−178056A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−17666(P2008−17666)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】