説明

高炉出銑孔充填用マッド材

【課題】長時間出銑を可能とし、かつ開孔性を備えた高耐用性の高炉出銑孔充填用マッド材を提供すること。
【解決手段】耐火原料と熱可塑性炭素質バインダーとを主材とし、前記耐火原料の3〜50質量%をシュンガイト鉱石とする。シュンガイト鉱石は、化学成分値でC:20〜50質量%およびSiO:40〜70質量%を含むものを使用する。これにより均一かつ十分なSiCボンドを形成することで、長時間出銑が可能でかつ開孔性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐用性の高炉出銑孔充填用マッド材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高炉出銑孔充填用マッド材(以下「マッド材」という。)は、出銑終了後の出銑孔を閉塞する練り土状の材料である。近年の高炉の大型化や高圧操業によって、マッド材の使用環境は過酷化の一途をたどっている。
【0003】
マッド材は、安定した出銑と炉壁の保護のために、高耐摩耗性および高耐食性が要求される。しかし、マッド材は、マッドガンによる炉内への圧入を可能にするために、タール、フェノール樹脂等の熱可塑性炭素質バインダーの添加量が多く、その充填組織は多孔質である。
【0004】
また、充填後のマッド材は、炉熱で硬化した後、ドリルにより開孔し、出銑を行うために強固な焼結は好ましくない。マッド材の焼結が過度になると開孔が困難となり、さらにはドリルによる衝撃で生じた亀裂への溶銑の差し込みによって、出銑作業に支障を来す。
【0005】
マッド材は、このように充填時は焼結強度が小さく、出銑時には高耐摩耗性および高耐食性に優れた強固なボンド組織であることが必要である。そこで従来のマッド材は、出銑時にその還元雰囲気下において、炭素質原料とシリカ質原料あるいはシリコン質原料とが反応してSiCボンドを形成する材料設計がなされている。
【0006】
従来技術(特許文献1〜3参照)において、前記の炭素質原料はピッチ、カーボンブラックなどの超微粉カーボンが用いられる。一方、シリカ質原料あるいはシリコン質原料として、窒化珪素系原料、金属シリコン、フェロシリコン、ろう石、揮発シリカである。
【特許文献1】特開平2003−119081号公報
【特許文献2】特開平1−108170号公報
【特許文献3】特開平9−169888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高炉における近年の長時間出銑と高圧操業によって、従来のマッド材の耐用性は決して十分なものではない。そこで、本発明は、さらなる高耐用性のマッド材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のマッド材の特徴とするところは、耐火原料と熱可塑性炭素質バインダーとを主材とし、前記耐火原料の3〜50質量%をシュンガイト鉱石としたことにある。
【0009】
本発明で使用するシュンガイト鉱石は、ロシア連邦のカレリア地方から産出する含炭素鉱石である。フラーレン分子C60が含まれるとの報告もある。本発明のマッド材は特定量のシュンガイト鉱石を使用することで、開孔性を損なうことなく、従来の材質に比べてより優れた耐摩耗性と耐食性を得ることができた。その理由は以下のとおりと考えられる。
【0010】
マッド材は前述のように、ドリルによる開孔時はSiCボンドが生成すると開孔が容易でなく、しかも開孔にともなう衝撃で亀裂が発生し溶銑が差し込む問題がある。また、出銑時は、耐食性・耐摩耗性の付与のためにSiCボンドの形成が必要となる。
【0011】
出銑孔に充填された後のマッド材が受ける温度は約1200℃であり、これが出銑時は溶銑との接触で約1500℃となると予想される。したがって出銑時の1300〜1400℃の温度域において速やかなSiCボンドの形成が求められる。
【0012】
従来のマッド材質において、SiCボンドの生成のために配合するシリカ質原料あるいはシリコン質原料と炭素質原料は、粒度・比重差によって均一混合が困難である。また、例えば炭素質原料は、速やかなボンド形成を図るためにはカーボンブラックの様な超微粉の使用が好ましいが、超微粉は凝集性が強く、機械的に分散処理を施しても均一分散が得られない。このため、出銑時の1300〜1400℃の温度域での均一且つ速やかなSiCボンドの形成が困難である。
【0013】
本発明で使用するシュンガイト鉱石は、粒径が数nm〜数百nmのナノサイズの非晶質の炭素中に、粒径が0.1μm〜から10μm程度のシリカが均一分散している。また、非晶質の炭素には、フラーレンC60が存在しているとされている。フラーレンは直径が0.7nmと微細であるため化学的反応性が高い特性を持つ。
【0014】
このシュンガイト鉱石は、微細な炭素中に微細なシリカが均一分散していることに加えて化学的反応性の高いフラーレンC60の存在のためか、1300℃という低温域からSiCボンドの生成が開始され、しかもそのSiCボンドの生成速度がきわめて速い。そして、本発明のマッド材は、このシュンガイト鉱石を特定量使用することよって出銑時に受ける1500℃以上の高温域において、既に均一且つ十分なSiCボンドの形成がなされ、長時間出銑にも絶える耐摩耗性および耐食性を備えた組織となる。
【0015】
なお、このSiCボンドの生成開始は、マッド材充填時に受ける1200℃の温度域より高い1300℃であり、ドリルによる開孔時にはSiCボンドは生成されておらず、マッド材の開孔性に支障を来すこともない。
【0016】
従来のマッド材では、SiCボンドの形成に必要な窒化珪素系原料、金属シリコン、フェロシリコンあるいは超微粉シリカは、炭素質原料であるピッチ、カーボンブラックとの組み合わせにおいてSiCボンドの生成開始は、約1400℃からである。しかもその生成は速度が遅く、また不均一である。これにより、従来のマッド材は出銑時に受ける1500℃以上の高温域に達した際に、十分なSiCボンドの生成がなされておらず、耐摩耗性および耐食性に劣り、本発明のマッド材のような長時間出銑の効果が得られない。
【発明の効果】
【0017】
本発明のマッド材は出銑時において均一且つ十分なSiCボンドを形成することで、従来材質に比べて長時間出銑を可能とする。またマッド材に必要な開孔性を備えている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明で使用するシュンガイト鉱石は、より十分なSiCボンドの形成のために、化学成分値でC:20〜50質量%およびSiO:40〜70質量%を含むものが好ましい。その粒度は、他の耐火原料の粒度との関係も考慮して粗粒、微粒に調整し、充填後のマッド材組織の緻密化を図る。使用量が少ない場合は、マッド材への分散性を高めるために微粒主体が好ましい。
【0019】
マッド材の耐火原料中に占めるシュンガイト鉱石の割合は3〜50質量%とする。3質量%未満では長時間出銑の効果が得られない。シュンガイト鉱石は、炭素含有原料であることから50質量%を超えると焼結性に劣り、長時間出銑に必要な耐食性および耐摩耗性が低下する。さらに好ましい範囲は5〜30質量%である。
【0020】
シュンガイト鉱石以外の耐火原料の種類は従来のマッド材と特に変わりない。例えば、アルミナ質、アルミナ−シリカ質、炭化珪素質、窒化珪素質、炭素質等を主材とする。圧入充填時の可塑性付与のために、さらに揮発シリカ、粘土等を組み合わせることが好ましい。
【0021】
アルミナ質あるいはアルミナ−シリカ質の具体例は、電融アルミナ、焼結アルミナ、ボーキサイト、ばん土けつ岩、ろう石、シリマナイト、アンダリューサイト、ムライト、シャモット等である。炭素質の具体例は、コークス、ピッチ、黒鉛、カーボンブラックなどが挙げられる。
【0022】
このうち、アルミナ質あるいはアルミナ−シリカ質の耐火原料を主体に使用することが好ましい。また、出銑温度が高い場合はアルミナ質主体、出銑温度が低い場合は例えばろう石などのアルミナ−シリカ質主体に使用するなど、炉の操業条件に合わせて耐火原料材質を適宜定めるのが好ましい。
【0023】
シュンガイト鉱石を含む耐火原料の粒度は、従来材質と同様に最大を例えば2〜5mmとし、これ以下の範囲で粗粒、微粒に調整する。
【0024】
耐火原料以外には、フェロシリコン、アルミニウム、シリコン等を適量添加してもよい。その添加量は耐火原料に対する外掛けで例えば15質量%以下とする。
【0025】
バインダーはタール、ピッチ、フェノール樹脂などの熱可塑性炭素質樹脂とする。その添加量は耐火原料に対し、外掛け5〜30質量%が好ましい。さらに好ましくは外掛け10〜20質量%である。また、必要によってはこのバインダーに対し、例えばクレオソートなどの溶剤が添加される。
【0026】
マッド材の施工は以上の配合物をミキサー等で混練後、マッドガンによる押圧で出銑孔に注入する。また、開孔時はドリル等を用いて掘削開孔する。
【実施例】
【0027】
以下に本発明の実施例およびその比較例を説明する。同時に各例の試験結果を示す。表1は、各例で使用したロシア連邦のカレリア地方から産出した二種のシュンガイト鉱石の化学成分値である。
【0028】
各例において規定した各原料の粒度は、例えばJISふるい目開きで定めることができる。ここで示した3〜0.5mmは、3mmの篩いによる篩い下を、さらに0.5mmの篩で細粒部をカットしたものである。また、1mm以下、0.5mm以下あるいは45μm以下は、それぞれ1mm、0.5mm、45μmの篩いによる篩い下である。したがって、1mm以下あるいは0.5mm以下には自ずと相当微細な粒子も含まれる。例えば0.5mm以下には例えば75μ以下あるいは45μm以下も含まれている。
【0029】
各例について表2,3に示す配合組成物を混練後、下記の試験を行った。
【0030】
耐食性:マッド材を7MPaで加圧成形した後、サヤに入れ、成形体とサヤとの間にコークス粉を詰め、還元雰囲気下で500℃×8時間加熱後、これを試験片とし、この試験片を、銑鉄および高炉スラグを侵食剤とする高周波炉に内張りし、1550℃×5時間の侵食試験を行った。試験値は、比較例1の溶損寸法(最大溶損部位)を100とする指数で示した。指数が小さいほど耐食性に優れている。
【0031】
耐摩耗性:出銑時には化学的溶損に加えて、出銑応力による摩耗作用がマッド材の損耗原因となる。この耐摩耗性の測定には、前記と同様にマッド材を7MPaで加圧成形した後、サヤに入れ、成形体とサヤとの間にコークス粉を詰め、還元雰囲気下で1450℃×3時間加熱して試験片を得た。サンドブラスト装置によって試験片に対して炭化珪素粒子を高速で吹き付け、その摩耗寸法を測定した。比較例1の摩耗寸法(最大摩耗部位)を100とする指数で示した。指数が小さいほど耐摩耗性に優れている。
【0032】
また、この耐摩耗性試験については実施例1の組成を基準とし、粒度45μm以下のシュンガイト鉱石の割合のみを変化させ(シュンガイト鉱石の割合に応じてろう石およびコークスの割合を増減した)、1250℃、1350℃、1450℃の各加熱温度におけるシュンガイト鉱石の割合と耐摩耗性の関係を試験した。ここで、加熱温度以外は前記の耐摩耗性試験と同じ条件で行った。図1は、その結果をグラフ化したものである。
【0033】
開孔性:5000mクラスの高炉の出銑孔に、マッドガンを用いて実際に充填し、出銑の際、ドリルによる開孔においてその開孔の容易性を評価した。
【0034】
出銑時間:前記高炉において、出銑の際に出銑孔の孔径が徐々に大きくなり、出銑状況に乱れが生じた際には次のマッドを充填し、出銑をストップさせる。そして、出銑開始からこの出銑ストップまでの間を出銑時間とした。
【表1】

【表2】

【表3】

【0035】
表に示した試験結果のとおり、シュンガイト鉱石を添加した本発明の実施例は、耐食性、耐摩耗性に優れている。その結果、実機試験において出銑時間が従来材質に比べて10分以上の延長を図ることができた。
【0036】
図1の耐摩耗性の試験結果を示したグラフからは、マッド材の充填時を想定した1250℃の温度域において成形体の強度が小さく、耐摩耗性が低いことが確認される。これにより出銑孔の開孔に支障を来すこともない。
【0037】
出銑時に受ける温度を想定した1350℃または1450℃の温度域においては、シュンガイト鉱石を本発明の範囲内で配合したマッド材は、均一かつ十分なSiCボンドが生成され耐摩耗性が著しく向上し、本発明の効果が確認される。
【0038】
これに対し、比較例1はシュンガイト鉱石を配合しない従来材質に相当し、耐食性および耐摩耗性に劣り、実機試験における出銑時間も短い。比較例2は、シュンガイト鉱石を配合しているが、その量は本発明の限定範囲より少なく耐食性および耐摩耗性において十分なものではない。比較例3は、シュンガイト鉱石の配合量が本発明の限定範囲より多く、焼結不足により耐食性および耐摩耗性において十分なものではない。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】各加熱温度において、シュンガイト鉱石の割合と耐摩耗性の関係を示したグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火原料と熱可塑性炭素質バインダーとを主材とし、前記耐火原料の3〜50質量%をシュンガイト鉱石とした高炉出銑孔充填用マッド材。
【請求項2】
シュンガイト鉱石が、化学成分値でC:20〜50質量%およびSiO:40〜70質量%を含む請求項1記載の高炉出銑孔充填用マッド材。

【図1】
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