説明

高炉水砕スラグの固結防止剤および固結防止方法

【課題】殺菌処理を施さなくても、または殺菌剤を添加しなくても、工業用水中に生存する微生物によって分解されず、固結防止効果を長期間維持することができる固結防止剤および固結防止方法を提供することを課題とする。
【解決手段】水性媒体に固結防止有効成分として硫酸アルミニウムを含有することを特徴とする高炉水砕スラグの固結防止剤により、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉水砕スラグの固結防止剤および固結防止方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、鉄鋼製造工程において副生される高炉水砕スラグの固結を防止する固結防止剤およびそれを資材として利用する前の野積み状態の高炉水砕スラグに散布して、その固結を防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼製造工程において副生される鉄鋼スラグは、高炉由来の高炉スラグと、転炉および電気炉由来の製鋼スラグに大別される。
高炉スラグは、溶けた銑鉄を製造する高炉で鉄鉱石に含まれる鉄以外の成分と、副原料の石灰石やコークス中の灰分が一緒に溶融分離回収されたものであり、その冷却方法により徐冷スラグと水砕スラグに分類される。
【0003】
高炉水砕スラグは、溶融状態のスラグに加圧水を噴射するなどして急激に冷却処理をすることにより得られるガラス質の粒状スラグであり、一部では粒度調整などの処理を施し、主に土木、建築分野で利用されている。
例えば、高炉水砕スラグは、微粉砕による強い潜在水硬性を有するために、高炉セメント、ポルトランドセメントの混合材、コンクリート用混和材などとして利用されている。
また、高炉水砕スラグは、天然砂より軽量で同等の透水性を有するために、土木工事用材、地盤改良材などとしても利用されている。
しかしながら、一般に高炉水砕スラグは、資材として利用される前に野積み状態で保管されるために、潜在水硬性が発現して岩塊のように固結し、そのままの状態では資材として利用できなくなる、あるいは利用し難くなるだけでなく、輸送などに障害を生じるという課題があった。
【0004】
そこで、高炉水砕スラグの保管時や輸送中の固結を防止するために、従来から種々の化合物を用いる固結防止剤や固結防止方法が提案され、実用されている。
そのような化合物としては、例えば、糖類、澱粉類、カゼイン類、フミン酸類、ポリアクリル酸アミド、ポリエチレングリコール、燐酸、燐酸塩、酸化亜鉛、リグニンスルホン類、オキシカルボン酸類およびオキシカルボン酸類(特許文献1)、脂肪族オキシカルボン酸のアルキレンオキサイド付加物(特許文献2)、アクリル酸系架橋重合体(特許文献3および4)、アクリル酸系重合体とグルコン酸類との併用(特許文献5)、カルボキシル基含有ポリマーとソルビトールとの併用(特許文献6)、オキシカルボン酸またはアクリル酸系重合体のナトリウム塩とメチルセルロース類との併用(特許文献7)、ソルビトールとグルコン酸との併用(特許文献8)、ホスホン酸誘導体またはその誘導体とポリカルボン酸類または糖アルコールとの併用(特許文献9)、ポリ塩化アルミニウム(特許文献10)などが挙げられる。
【0005】
また、ソルビトールなどの糖アルコール類やグルコン酸などの脂肪族オキシカルボン酸類は、アクリル酸系重合体などに比較して有効な(長期間の)固結防止効果が得られることが知られている。しかし、これらの化合物は、希釈する工業用水中に生存する微生物などにより容易に分解され、固結防止効果が低下することも知られている。そこで、固結防止成分を含む水溶液に殺菌処理を施す技術が提案されている(特許文献11)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭58−9779号公報
【特許文献2】特開2001−58855号公報
【特許文献3】特開2005−29970号公報
【特許文献4】特開2006−188381号公報
【特許文献5】特開2004−99389号公報
【特許文献6】特開2005−82427号公報
【特許文献7】特開2007−290905号公報
【特許文献8】特開2008−280192号公報
【特許文献9】特開2005−82426号公報
【特許文献10】特開2009−102210号公報
【特許文献11】特開2009−143752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような従来技術の有する課題を解決し、殺菌処理を施さなくても、または殺菌剤を添加しなくても、工業用水中に生存する微生物によって分解されず、固結防止効果を長期間維持することができる固結防止剤および固結防止方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、従来から都市上下水道、工業用水、産業排水などの浄水剤(凝集剤)、製紙工程におけるサイジング剤、土壌中和剤、医薬品、コンクリート急結剤(凝結促進剤)として用いられている硫酸アルミニウム水溶液を野積み状態の高炉水砕スラグに特定量散布したところ顕著な固結防止効果を有することを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
この知見は、従来、硫酸アルミニウムがコンクリートの凝結促進剤、セメントの硬化促進剤、高炉セメントの水硬性反応促進剤として用いられていることからみると意外な事実である(例えば、特表平9−501390号公報および特開平11−157906号公報参照)。
【0010】
かくして、本発明によれば、水性媒体に固結防止有効成分として硫酸アルミニウムを含有することを特徴とする高炉水砕スラグの固結防止剤が提供される。
また、本発明によれば、上記の高炉水砕スラグの固結防止剤またはその水希釈物を、高炉水砕スラグの1トン当り硫酸アルミニウム(14〜18水和物)として500〜10000グラムとなるように高炉水砕スラグに散布して、高炉水砕スラグの固結を防止することを特徴とする高炉水砕スラグの固結防止方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、殺菌処理を施さなくても、または殺菌剤を添加しなくても、工業用水中に生存する微生物によって分解されず、固結防止効果を長期間維持することができる固結防止剤および固結防止方法を提供することができる。すなわち、資材として利用する前の野積み状態の高炉水砕スラグの固結を長期間にわたり防止することができる。
したがって、本発明によれば、長期間貯蔵された高炉水砕スラグを、余計な粉砕などの処理を施すことなしに、そのまま高炉セメント、ポルトランドセメントの混合材、コンクリート用混和材や土木工事用材、地盤改良材などの資材として有効に利用することができる。
【0012】
また、本発明の高炉水砕スラグの固結防止剤が、14〜18水和物換算の硫酸アルミニウムを10〜50重量%の割合で含む水溶液であることにより、公知の固結防止有効成分として、1−ヒドロキシエチレン−1,1−ジホスホン酸およびその塩ならびにグルコン酸およびその塩から選択される少なくとも1種をさらに含有することにより、さらに優れた固結防止効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の高炉水砕スラグの固結防止剤は、水性媒体に固結防止有効成分として硫酸アルミニウムを含有することを特徴とする。
【0014】
固結防止有効成分である硫酸アルミニウムは、アルミニウムの硫酸塩であり、純粋物には化学式Al2(SO4)3・16H2Oで表される16水和物と無水物とがあり、工業品としては、14重量%以上、15重量%以上および17重量%以上のアルミナ(Al23)成分をそれぞれ含有する固形品ならびに8.0〜8.2重量%のアルミナ成分を含有する液体などがあり硫酸バンドと呼称されている。
本発明では、純粋物であってもよいが、製造コストの点で工業品が好ましい。
【0015】
本発明の高炉水砕スラグの固結防止剤は、上記の水和物、無水物または工業品の固形品を水性媒体に溶解させるか、上記の工業品の液体を水性媒体で希釈することにより調製することができる。
水性媒体は、硫酸アルミニウムを溶解させ得るものであれば特に限定されないが、製造コストの点で水が好ましい。
この溶解および希釈に用いる水は、上水(水道水)、工業用水、イオン交換水などいずれであってもよいが、製造コストの点で工業用水が好ましい。
【0016】
本発明の高炉水砕スラグの固結防止剤は、14〜18水和物(固形分)換算の硫酸アルミニウムを10〜50重量%の割合で含む水溶液であるのが好ましく、工業的には貯蔵や輸送コストの点で高濃度であることが好ましい。より好ましくは、30〜50重量%である。
本発明の高炉水砕スラグの固結防止剤は、使用に際しては、さらに適宜水に希釈して用いることができる。
【0017】
本発明の高炉水砕スラグの固結防止剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、公知の固結防止剤をさらに含有していてもよい。
公知の固結防止剤としては、例えば、1−ヒドロキシエチレン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、ホスホノブタントリカルボン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ヘキサメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)ならびにそれらの塩などのホスホン酸誘導体;グルコン酸、グルコヘプトン酸、クエン酸、酒石酸およびリンゴ酸などのオキシカルボン酸ならびにその塩;エリトリトール、アラビトール、ソルビトール、マンニトールおよびズルシトールなどの糖アルコール類;グルコース、マンノース、ガラクトースなどの糖類;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、コハク酸およびフタル酸などのポリカルボン酸ならびにその塩などが挙げられる。
これらの公知の固結防止剤の中でも、1−ヒドロキシエチレン−1,1−ジホスホン酸およびその塩ならびにグルコン酸およびその塩から選択される少なくとも1種は、長期間にわたり安定した固結防止効果が得られる点でより好ましく、1−ヒドロキシエチレン−1,1−ジホスホン酸およびその塩が特に好ましい。
【0018】
本発明の高炉水砕スラグの固結防止剤にさらに配合される1−ヒドロキシエチレン−1,1−ジホスホン酸およびグルコン酸などの塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩およびアンモニウム塩が挙げられ、ナトリウム塩やカリウム塩が好適に用いられる。
また、これらの配合割合は、硫酸アルミニウム(固形分換算)1重量部に対して、0.05〜1重量部とするのが、長期間にわたり安定した固結防止効果を発揮させることができ、硫酸アルミニウムの添加量を低減できる点で好ましい。
【0019】
本発明の高炉水砕スラグの固結防止剤を用いて高炉水砕スラグを処理する方法は、特に限定されない。
例えば、固結防止剤またはその水希釈物を高炉水砕スラグにスプレー(散布)する方法、固結防止剤またはその水希釈物を高炉水砕スラグとともに練り混ぜる(混練する)方法、固結防止剤またはその水希釈物に高炉水砕スラグを浸漬する方法などが挙げられる。
また、溶融状態のスラグから高炉水砕スラグを製造する際に用いる加圧水に固結防止剤またはその水希釈物を添加する方法などが挙げられる。すなわち、高炉水砕スラグは、溶融状態のスラグを加圧水で一次破砕して撹拌槽またはピットの水槽中に投入し、二次破砕と冷却凝固を行わせて水砕化することにより製造されているが、通常循環使用されている加圧水に固結防止剤またはその水希釈物を添加することにより、同時に固結防止の処理をすることができる。
上記の処理方法の中でも、工業的には通常、固結防止剤またはその水希釈物を高炉水砕スラグにスプレー(散布)する方法が好ましい。
【0020】
本発明の高炉水砕スラグの固結防止剤は、高炉水砕スラグの1トン当り硫酸アルミニウム(14〜18水和物)として500〜10000グラム、好ましくは1000〜10000グラム、より好ましくは2000〜10000グラムとなるように用いられる。
固結防止剤の使用量が上記の範囲内であれば、長期間にわたり安定した固結防止効果を発揮させることができる。固結防止剤の使用量が500グラム未満である場合、所望の固結防止効果が十分に発揮されないことがある。一方、固結防止剤の使用量が10000グラムを超える場合、使用量に見合った効果が得られ難く、経済的な面から好ましくない。また、多量に用いると硫酸アルミニウムが本来備えている水硬性反応を促進する作用が発揮される可能性があることから好ましくない。
【0021】
したがって、本発明の高炉水砕スラグの固結防止方法は、上記の高炉水砕スラグの固結防止剤またはその水希釈物を、高炉水砕スラグの1トン当り硫酸アルミニウム(14〜18水和物)として500〜10000グラムとなるように高炉水砕スラグに散布して、高炉水砕スラグの固結を防止することを特徴とする。
【0022】
本発明の高炉水砕スラグの固結防止剤は、使用に際しては、上記の使用量になるように適宜水に希釈して用いられるが、その希釈倍率は、通常5〜50倍程度である。
【実施例】
【0023】
本発明を製剤例および試験例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの製剤例および試験例により限定されるものではない。
【0024】
製剤例および試験例において次の化合物を用いた。
[硫酸アルミニウム]
キシダ化学株式会社製、特級試薬(14〜18水和物、酸化アルミニウム16.1重量%含有)
[1−ヒドロキシエチレン−1,1−ジホスホン酸ナトリウム、略称:HEDP]
ロンザジャパン株式会社製、製品名:ユニヒブ(unihib)106
[グルコン酸ナトリウム、略称:グルコン酸Na]
キシダ化学株式会社製、特級試薬
[ポリ塩化アルミニウム、略称:PAC]
南海化学株式会社製、ポリ塩化アルミニウム水溶液(酸化アルミニウム10.5重量%含有)
【0025】
各薬剤を水道水に溶解させて各製剤例を調製した。なお、各製剤例中の重量部は各薬剤の固形分に換算した値である。
(製剤例1)
硫酸アルミニウム 40重量部
水道水 60重量部
(製剤例2)
硫酸アルミニウム 40重量部
HEDP 3重量部
水道水 57重量部
(製剤例3)
硫酸アルミニウム 40重量部
グルコン酸Na 3重量部
水道水 57重量部
【0026】
(試験例)
ソイルミキサー(容量:5L、株式会社丸東製作所製、ハイパワーミキサー、型式:CB−34)に、某製鉄会社の高炉水砕スラグ(含水率3重量%)1kgを投入し、表1に示す所定量の薬剤を高炉水砕スラグの含水率が8重量%になる量の水で希釈した薬剤希釈液をさらに加え、高炉水砕スラグと薬剤希釈液とが均一になるまで(5分間)混練した。
次いで、容量120mL密閉蓋付きのプラスチック容器(開口部の内径57mm/底部の内径52mm×内高60mm)6個のそれぞれに、混練後の高炉水砕スラグ100グラムを入れ、専用の締固め棒の自重を利用してスラグ表面を30回押し均した。
その後、密閉蓋をしたプラスチック容器を、温度70℃に設定した恒温器に入れて、所定の期間、薬剤を含む高炉水砕スラグを養生させた。
【0027】
養生開始から1週間毎に恒温器から1個のプラスチック容器を取り出し、容器内の高炉水砕スラグを目開き5ミリメートルの篩で分級した。
篩上に残った高炉水砕スラグの重量(SW)を秤量し、予め秤量しておいた分級前の高炉水砕スラグの全重量(TW)から次式により固化率(重量%)を算出した。
固化率(重量%)=(SW/TW)×100
【0028】
得られた結果を各有効成分およびそれらの添加量(高炉水砕スラグ1トン当たりのグラム)と共に表1に示す。
表中の「NT」は「試験せず」を意味する。
なお、本発明の発明者は、温度70℃での1週間の養生が常温(20℃)での養生期間1〜3ヶ月に相当することを経験的に確認している。
【0029】
【表1】

【0030】
表1の結果から、高炉水砕スラグ1トン当たり500〜10000グラム、特に2000〜10000グラムの硫酸アルミニウムを添加した場合に、優れた固結防止効果が発揮されることがわかる(試験No.2〜7)。
また、硫酸アルミニウムと公知の固結防止剤であるHEDPまたはグルコン酸ナトリウムとを併用した場合には、硫酸アルミニウムの単独添加と比較して、優れた固結防止効果が発揮され、硫酸アルミニウムの添加量を低減できることがわかる(試験No.8〜11)
なお、試験No.12は薬剤無添加(ブランク)であり、試験No.13は公知の固結防止剤であるPAC(特許文献11参照)を高炉水砕スラグ1トン当たり1000グラム添加した場合(比較例)であり、固結防止効果に劣ることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体に固結防止有効成分として硫酸アルミニウムを含有することを特徴とする高炉水砕スラグの固結防止剤。
【請求項2】
前記高炉水砕スラグの固結防止剤が、14〜18水和物換算の硫酸アルミニウムを10〜50重量%の割合で含む水溶液である請求項1に記載の高炉水砕スラグの固結防止剤。
【請求項3】
前記高炉水砕スラグの固結防止剤が、公知の固結防止有効成分として、1−ヒドロキシエチレン−1,1−ジホスホン酸およびその塩ならびにグルコン酸およびその塩から選択される少なくとも1種をさらに含有する請求項1または2に記載の高炉水砕スラグの固結防止剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の高炉水砕スラグの固結防止剤またはその水希釈物を、高炉水砕スラグの1トン当り硫酸アルミニウム(14〜18水和物)として500〜10000グラムとなるように高炉水砕スラグに散布して、高炉水砕スラグの固結を防止することを特徴とする高炉水砕スラグの固結防止方法。