説明

高炉水砕スラグ又はその粒度調整物の固結防止剤

【課題】高炉水砕スラグ等の品質乃至性状の変動に影響されることなく、長期間に亘り安定して高炉水砕スラグ等の固結を充分に防止できる固結防止剤を提供する。
【解決手段】高炉水砕スラグ等の固結防止剤として、下記のA成分を30〜99質量%及び下記のB成分を70〜1質量%含有しており、且つ双方を合計で100質量%となるよう含有して成るものを用いた。
A成分:質量平均分子量1000〜100000のアクリル酸系重合体及びそのアルカリ金属塩から選ばれる少なくとも一つ
B成分:リン酸、リン酸ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、トリポリリン酸及びトリポリリン酸ナトリウムから選ばれる少なくとも一つ

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高炉水砕スラグ又はその粒度調整物の固結防止剤に関する。近年、天然砂が枯渇しつつあるなかで自然保護の観点から、天然砂の代替として高炉水砕スラグやこれを粉砕して粒度調整した粒度調整物(以下、これらを単に高炉水砕スラグ等という)がコンクリート用細骨材に使用される機会が増えている。高炉水砕スラグ等は、出荷待ちや使用待ちのために野積み状態で長期間貯蔵されたり、また船舶等で長期間輸送されることが多いが、これをそのまま長期間に亘って貯蔵したり輸送したりすると、固結して遂には岩塊のようになってしまい、前記したような天然砂の代替として使えなくなってしまうので、高炉水砕スラグ等を天然砂の代替として使用する場合には、それを長期間に亘り貯蔵や輸送してもそれが固結しないようにすることが強く要求される。本発明はかかる要求に応える高炉水砕スラグ等の固結防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高炉水砕スラグ等の固結防止剤として、1)脂肪族オキシカルボン酸やその塩のアルキレンオキサイド付加物(例えば特許文献1及び2参照)、2)アクリル酸系重合体(例えば特許文献3及び4参照)、3)ホスホン酸誘導体(例えば特許文献5参照)等が知られている。ところが、これら従来の固結防止剤には、相応の効果が認められるものの、長期間に亘る安定した固結防止性の要求に対して効果の発現が不充分という問題がある。高炉水砕スラグ等の品質乃至性状はその製造時の条件によって変動するが、かかる品質乃至性状の変動によって、これらに用いた固結防止剤の固結防止性も影響を受け、例えば高炉水砕スラグ等からカルシウムイオン等が溶出して粒子相互間に存在する間隙水のpHが上昇し、固結性が高くなると、そのような高炉水砕スラグ等に用いた固結防止剤の固結防止性は著しく低下してしまうのである。
【特許文献1】特開平6−127986号公報
【特許文献2】特開2001−58855号公報
【特許文献3】特開2003−160364号公報
【特許文献4】特開2004−99389号公報
【特許文献5】特開2005−82426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が解決しようとする課題は、高炉水砕スラグ等の品質乃至性状の変動に影響されることなく、長期間に亘り安定して高炉水砕スラグ等の固結を充分に防止できる固結防止剤を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
しかして本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、特定の2成分系から成るものを高炉水砕スラグ等の固結防止剤として用いることが正しく好適であることを見出した。
【0005】
すなわち本発明は、高炉水砕スラグ等の固結防止剤であって、下記のA成分を30〜99質量%及び下記のB成分を70〜1質量%含有しており、且つ双方を合計で100質量%となるよう含有して成ることを特徴とする固結防止剤に係る。
【0006】
A成分:質量平均分子量1000〜100000のアクリル酸系重合体及びそのアルカリ金属塩から選ばれる少なくとも一つ
【0007】
B成分:リン酸、リン酸ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、トリポリリン酸及びトリポリリン酸ナトリウムから選ばれる少なくとも一つ
【0008】
本発明の固結防止剤に用いるA成分は、質量平均分子量が1000〜100000、好ましくは3000〜50000のアクリル酸系重合体及びそのアルカリ金属塩から選ばれる少なくとも一つである。アクリル酸系重合体のアルカリ金属塩としては、アクリル酸系重合体のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等が挙げられるが、工業的見地からナトリウム塩が好ましい。本発明において、質量平均分子量はGPC法によるポリエチレングリコール換算の質量平均分子量を意味し、またアクリル酸系重合体のアルカリ金属塩はアクリル酸系重合体を例えばアルカリ金属水酸化物を用いて完全中和したものだけではなく、部分中和したものも含むことを意味する。
【0009】
またアクリル酸系重合体は、アクリル酸を単独重合して得られるポリアクリル酸の他に、アクリル酸と共重合可能な他のビニル単量体を10モル%未満の範囲でアクリル酸と共重合して得られる共重合体をも含むことを意味する。ここで共重合可能なビニル単量体の具体例としては、メタクリル酸又はその塩、アクリルアミド、メタクリル酸ヒドロキシエチルエステル、アクリル酸メチルエステル、(メタ)アリルスルホン酸塩等の水溶性のビニル単量体が挙げられる。以上説明したアクリル酸系重合体それ自体は、いずれも公知の方法で合成できる。
【0010】
本発明の固結防止剤に用いるB成分は、リン酸、リン酸ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、トリポリリン酸及びトリポリリン酸ナトリウムから選ばれる少なくとも一つであるが、工業的見地からリン酸及びトリポリリン酸ナトリウムが好ましい。なかでも、A成分としてアクリル酸系重合体を用いる場合にはB成分としてトリポリリン酸ナトリウムを用いるのが好ましく、またA成分としてアクリル酸系重合体のアルカリ金属塩を用いる場合にはB成分としてリン酸を用いるのが好ましい。
【0011】
本発明の固結防止剤は、前記したA成分を30〜99質量%及びB成分を70〜1質量%、好ましくは前記したA成分を40〜97質量%及びB成分を60〜3質量%含有しており、且つ双方を合計で100質量%となるよう含有して成るものである。A成分及びB成分の含有割合は、以上のような含有割合の範囲内にて、高炉水砕スラグ等の品質乃至性状との関係で適宜に選択するのが好ましい。
【0012】
以上、本発明の固結防止剤について説明したが、本発明の固結防止剤としては、濃度1質量%の水溶液のpHが4〜10となるものが好ましく、5〜9となるものがより好ましい。濃度1質量%の水溶液のpHがかかる数値範囲となるものが、高炉水砕スラグ等の品質乃至性状の変動に影響されることなく、より優れた固結防止効果を発揮する。
【0013】
本発明の固結防止剤は、高炉水砕スラグ等100質量部当たり、通常は0.002〜0.5質量部の割合、好ましくは0.005〜0.1質量部の割合となるように用いる。
【0014】
本発明の固結防止剤は通常、水で希釈して水溶液となし、好ましくは濃度1.5〜15質量%の水溶液となし、かかる水溶液を、高炉水砕スラグ等100質量部当たり、固結防止剤として0.002〜0.5質量部の割合、好ましくは0.005〜0.1質量部の割合となるようスプレーして用いる。
【0015】
本発明の固結防止剤を用いるに際しては合目的的に他の添加剤を併用することができる。かかる他の添加剤としては、防腐剤、防錆剤、酸化防止剤等が挙げられる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明した本発明の固結防止剤によると、高炉水砕スラグ等の品質乃至性状の変動に影響されることなく、長期間に亘り安定して高炉水砕スラグ等の固結を充分に防止できる。またかくして固結を防止した高炉水砕スラグ等をコンクリート用細骨材の一部として用いたとき、コンクリートの諸物性に何ら悪影響を与えることがない。
【0017】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明が該実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例等において、別に記載しない限り、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【実施例】
【0018】
試験区分1(A成分として用いるアクリル酸系重合体及びそのアルカリ金属塩の合成)
・アクリル酸系重合体(a−1)の合成
反応容器にアクリル酸72g、3−メルカプトプロピオン酸3.5g及び水687.5gを仕込んで混合し、雰囲気を窒素置換した後、窒素雰囲気下に、反応系の温度を温水浴にて60℃に保ち、濃度20%の過硫酸ナトリウム水溶液8gを滴下して重合を開始し、4時間重合反応を行なって、アクリル酸系重合体(a−1)の10%水溶液を得た。このアクリル酸系重合体(a−1)の質量平均分子量は7300であった。
【0019】
・アクリル酸系重合体(a−2)の合成
アクリル酸系重合体(a−1)と同様にして、表1に記載したアクリル酸系重合体(a−2)の10%水溶液を得た。
【0020】
アクリル酸系重合体のアルカリ金属塩(a−3)の合成
反応容器にアクリル酸72g、3−メルカプトプロピオン酸3.5g及び水742gを仕込んで混合し、濃度30%の水酸化ナトリウム水溶液66gをかき混ぜながら加えて中和した。雰囲気を窒素置換した後、窒素雰囲気下に、反応系の温度を温水浴にて60℃に保ち、濃度20%の過硫酸ナトリウム水溶液10gを滴下して重合を開始し、4時間重合反応を行なってアクリル酸系重合体のアルカリ金属塩(a−3)の10%水溶液を得た。このアクリル酸系重合体のアルカリ金属塩(a−3)の中和度は0.5、質量平均分子量は4200であった。
【0021】
・アクリル酸系重合体のアルカリ金属塩(a−4)〜(a−6)の合成
アクリル酸系重合体のアルカリ金属塩(a−3)と同様にして、表1に記載したアクリル酸系重合体のアルカリ金属塩(a−4)〜(a−6)の10%水溶液を得た。
【0022】
【表1】

【0023】
表1において、
中和度:化学量論的にアルカリ金属水酸化物により中和されているアクリル酸系重合体のカルボキシル基のモル数/アクリル酸系重合体の全カルボキシル基のモル数
【0024】
試験区分2(固結防止剤の調製)
・実施例1{固結防止剤(P−1)の10%水溶液の調製}
A成分として試験区分1で合成したアクリル酸系重合体(a−1)の10%水溶液80部、B成分としてトリポリリン酸ナトリウムの10%水溶液20部を混合して固結防止剤(P−1)の10%水溶液を調製した。固結防止剤(P−1)を水で希釈した固形分濃度1%の水溶液のpHを測定したところ、4.3であった。
【0025】
・実施例2〜13及び比較例1〜19{固結防止剤(P−2)〜(P−13)及び(R−1)〜(R−19)の10%水溶液の調製}
固結防止剤(P−1)と同様にして、固結防止剤(P−2)〜(P−13)及び(R−1)〜(R−19)の10%水溶液を調製した。以上で調製した各固結防止剤の内容を表2にまとめて示した。
【0026】
【表2】

【0027】
表2において、
pH:固形分濃度1%の水溶液のpH
a−1〜a−6:表1記載のアクリル酸系重合体又はそのアルカリ金属塩
b−1:トリポリリン酸ナトリウム
b−2:リン酸
b−3:リン酸ナトリウム
b−4:トリポリリン酸
b−5:リン酸二水素ナトリウム
b−6:リン酸一水素ナトリウム
c−1:硫酸ナトリウム
c−2:塩化ナトリウム
c−3:硝酸ナトリウム
d−1:硫酸
【0028】
試験区分3(固結防止性の評価)
バットに高炉水砕スラグ細骨材{JFEミネラル社製の福山産高炉水砕スラグをJIS−A5011(コンクリート用スラグ骨材)に準じて5mm高炉水砕スラグ細骨材の粒度分布に調整したもので、間隙水のpH値が標準(pH値9.5〜11未満のもの)よりも高いもの(pH値11.7のもの)}を広げ、試験区分2で調製した固結防止剤の10%水溶液を表3記載の添加量となるようスプレーし、ハンドスコップで混合した。更に可傾式ミキサーで5分間混合した後、含水率10%となるように水を加え、再び可傾式ミキサーで5分間混合して、固結防止剤を付着させた高炉水砕スラグ細骨材を得た。このようにして固結防止剤を付着させた高炉水砕スラグ細骨材を内径100mmの円筒状容器に高さ125mmまで充填し、これに高炉水砕スラグの貯蔵高さ10mに相当する0.15MPaの圧力を載荷して供試体とした。供試体は、水分の蒸発を防ぐため容器を密封し、80℃の恒温室で最長16週間まで促進養生した。所定期間養生後、供試体を脱枠し、粒度測定を行なった。粒度測定は、目開き5mm篩を用いて行ない、篩を通過しないで篩上に残存したものの質量を測定し、供試体中におけるその割合を求めた(表3中の5mm篩上割合)。結果を表3にまとめて示した。表3において、5mm篩上割合(%)の数値が低いほど、高炉水砕スラグ細骨材の固結が防止されていることを意味する。


















【0029】
【表3】

【0030】
表3において、
添加量:高炉水砕スラグ細骨材100質量部当たりの固結防止剤(固形分)の添加質量部
R−20:グルコン酸ナトリウム
【0031】
試験区分4(固結防止剤を混合した高炉水砕スラグのコンクリート用細骨材としての評価)
表4に記載の配合番号1の条件で、各例のコンクリートを次のように調製した。50Lのパン型強制練りミキサーに、普通ポルトランドセメント(密度3.16、ブレーン値3300)、細骨材として大井川水系砂(密度2.63)及び試験区分3と同様に固結防止剤をその添加量が0.03となるようにスプレーして混合した高炉水砕スラグ(JFEミネラル社製の福山産高炉水砕スラグ、密度2.74)の2種類並びに粗骨材(岡崎産砕石、密度2.68)を順次投入して15秒間空練りした。次いで各例いずれも目標スランプが18±1cmの範囲内となるよう、セメントに対し0.8%量の高性能AE減水剤(竹本油脂社製の商品名チューポールHP−11)を練り混ぜ水と共に投入して2分間練り混ぜた。この際、目標空気量が4〜5%となるようにAE剤(竹本油脂社製の商品名AE−300)を加えた。かくして調製した各試験例のコンクリートについて物性を次の方法で評価した。結果を表5にまとめて示した。
【0032】
スランプ:JIS−A1101に準拠して測定した。
空気量:JIS−A1128に準拠して測定した。
圧縮強度:JIS−A1108に準拠して測定した。
凝結時間:JIS−A6204に準拠して測定した。
【0033】
【表4】

【0034】
表4において、
*1:固結防止剤をスプレーして混合した高炉水砕スラグ






















【0035】
【表5】

【0036】
表5において、
固結防止剤の種類:表2に記載の固結防止剤
*2:固結防止剤を添加しないもの
*3:表4の配合番号2で練り混ぜたコンクリートであって、高炉水砕スラグを混入していないコンクリート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉水砕スラグ又はその粒度調整物の固結防止剤であって、下記のA成分を30〜99質量%及び下記のB成分を70〜1質量%含有しており、且つ双方を合計で100質量%となるよう含有して成ることを特徴とする固結防止剤。
A成分:質量平均分子量1000〜100000のアクリル酸系重合体及びそのアルカリ金属塩から選ばれる少なくとも一つ
B成分:リン酸、リン酸ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、トリポリリン酸及びトリポリリン酸ナトリウムから選ばれる少なくとも一つ
【請求項2】
濃度1質量%の水溶液のpHが4〜10となるものである請求項1記載の固結防止剤。
【請求項3】
A成分が質量平均分子量3000〜50000のアクリル酸系重合体及びそのアルカリ金属塩から選ばれる少なくとも一つである請求項1又は2記載の固結防止剤。
【請求項4】
A成分がアクリル酸系重合体のアルカリ金属塩であり、B成分がリン酸である請求項1〜3のいずれか一つの項記載の固結防止剤。
【請求項5】
アクリル酸系重合体のアルカリ金属塩がアクリル酸系重合体のナトリウム塩である請求項1〜4のいずれか一つの項記載の固結防止剤。
【請求項6】
A成分がアクリル酸系重合体であり、B成分がトリポリリン酸ナトリウムである請求項1〜3のいずれか一つの項記載の固結防止剤。