説明

高炉炉体構造および高炉炉体形成方法

【課題】粉塵などを発生しにくく、工期を短縮しつつ、冷却性能が確保できる高炉炉体構造および高炉炉体形成方法を提供すること。
【解決手段】高炉1の外殻を形成する壁体2と、壁体2の炉内側に沿って設置された耐火材層3と、耐火材層3の炉内側に沿って設置された炉壁煉瓦4と、を有する高炉炉体構造において、耐火材層3が、カーボン質固形材31の層とカーボン質液状材34が固化したカーボン質固化物32の層とで構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉炉体構造および高炉炉体形成方法に関し、鉄皮の炉内側に炉壁煉瓦を有する高炉炉体の構造およびその形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉の炉体は、鉄皮を筒状に形成した外殻(マンテル)を基本構造とするとともに、その炉内側に耐火材層を形成して内部の高熱から鉄皮を保護している。耐火材層としては、十分な層厚を確保できることから、カーボン煉瓦等の炉壁煉瓦を積み上げた構成が多用されている。
また、高炉においては、炉壁煉瓦による鉄皮の保護に加えて、循環式の水冷等による冷却装置が用いられる。近年の冷却装置としては、鉄皮のすぐ炉内側に金属製板状のステーブを設置する構成が多用されている。
この際、炉壁煉瓦に対するステーブの冷却性能を高めるために、ステーブの炉内側面と炉壁煉瓦との間に不定形の耐火材を充填し、炉壁煉瓦からステーブへの伝熱性能を確保することがなされている。
【0003】
このような高炉の構築においては、まず鉄皮を設置し、その炉内側面にステーブを取付け、その炉内側に炉壁煉瓦を最下段から設置し、順次上段へと積み上げてゆく。
この際、ステーブの炉内側面と炉壁煉瓦との間に、例えば100mm程度の間隔を空けておき、ここに不定形の耐火材を充填する。
具体的には、炉壁煉瓦を一段積む毎に、耐火性のスタンプ材(あるいはラミング材、突き固めることで固化する粉体など)を前述した隙間に注入し、更にランマー等でスタンプすることにより、隙間内にスタンプ材を密に充填している。
この際、サンドランマー、バイブロランマー、電磁振動により直接または間接的に打撃あるいは振動を与え、スタンプ材中の空気を追い出すことにより、炉壁煉瓦と壁体つまり鉄皮あるいはステーブ等との間に充填されるスタンプ材の組織が均一かつ密な状態とされる(特許文献1参照)。
【0004】
このようなスタンプ材を有する高炉においては、密に充填されたスタンプ材を介して炉壁煉瓦からの熱をステーブに伝え、約1500℃もの高温にさらされる炉壁煉瓦を効果的に冷却し、その損耗を防いで炉壁の寿命を確保することができる。
さらに、充填する不定形のスタンプ材に冷却のための高熱伝導性に加えて高可縮性を用いることで、炉壁煉瓦が高温により膨張した際にもその膨張をスタンプ材の可縮性で許容することができる。これにより、炉壁煉瓦に発生する熱応力を緩和し、カーボン煉瓦のセリ割れを低減させることができ、高炉の高寿命化を図ることができる。
さらに、ステーブをもたない高炉においても、鉄皮の炉内側と炉壁煉瓦との間に同様なスタンプ材を充填することで、炉壁煉瓦の膨張の吸収あるいは鉄皮を介しての放熱に寄与することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−295875号公報
【特許文献2】特開2002−121080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、実際の充填工事において、電磁振動による直接または間接的な振動の付与では、振動がスタンプ材全般に十分に伝達されず、このためスタンプ材の充填が十分に密にならない。一方、作業者が道具を保持して行うサンドランマー、バイブロランマーによるスタンプ材料への打撃、振動の付与によれば、十分に密な充填が行えるが、この方法では以下のような問題がある。
人の手を介してスタンプ材に打撃あるいは振動を与え、スタンプ材中の空気を追い出し、高炉炉底部、炉腹部に充填させるので、施工時間を多く要し、その結果、高炉の改修工期が長くなるという問題がある。
【0007】
また、高炉の外郭形状が変化する部分、例えばシャフト部と炉腹部との移行部分あるいは朝顔部と炉腹部との移行部分では、鉄皮あるいはステーブの炉内側が傾斜しているため、スタンプ材の打設に用いる長尺棒状のランマーが壁体内面と干渉することがあり、このような煉瓦の背面部分を斜めに削り取ることがある。その結果、当該部位ではスタンプ材の層が厚くなり、冷却性能の低下あるいは不均一を生じる等の問題もある。
更には、スタンプ材の打設施工の際には、スタンプ材の層から粉塵が舞い上がり、作業環境としても好ましくないととともに、炉外へ漏れ出すことで環境上好ましくないと言う問題もある。
【0008】
また、特許文献1、2には、スタンプ材を予め圧縮成形してプレフォーム状態で施工できることも記載されている。このプレフォーム材は、弾性能が大きな成形体であり、施工の際は、このプレフォーム材を充填空間に嵌め込んだ後にランマー等で打撃すればよく、比較的施工時間の短縮化を図れるものの、プレフォーム材は通常のスタンプ材と比較して充填空間の形状に合わせた変形能が低く、プレフォーム材の充填が十分に密にならずに空間を生じ、結果として冷却能力が低下するという問題があった。そのため、プレフォーム材は一般的な部位には使用されず、スタンプ材による施工が難しい、羽口の下部のような局部的使用に限定されていた。
【0009】
本発明の主な目的は、粉塵などを発生しにくく、工期を短縮しつつ、冷却性能が確保できる高炉炉体構造および高炉炉体形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の高炉炉体構造は、高炉の外殻を形成する壁体と、前記壁体の炉内側に沿って設置された耐火材層と、前記耐火材層の炉内側に沿って設置された炉壁煉瓦と、を有する高炉炉体構造において、前記耐火材層が、カーボン質固形材とカーボン質液状材が固化したカーボン質固化物とで構成されていることを特徴とする。
【0011】
このような本発明では、耐火材層がカーボン質固形材とカーボン質液状材が固化したカーボン質固化物とによって構成されるため、従来のスタンプ材のように不定形粉末材を取り扱うことがなく、粉塵を発生させることがない。
また、構築作業においては、カーボン質固形材は壁体と炉壁煉瓦との間に挿入して固定等するだけでよく、作業が簡単かつ迅速にできる。従って、従来のプレフォーム材のように充填空間に嵌め込んだ後にランマーで打撃する必要は無い。
【0012】
また、カーボン質液状材は、液体の注入であるため取り扱いが簡便であり、作業が簡単かつ迅速にできる。とくに、カーボン質液状材を注入するのは、壁体と炉壁煉瓦との間の隙間のうちカーボン質固形材が設置された残りの充填隙間に充填させるだけでよく、充填体積が大幅に抑制されるため、注入を迅速に行うことができる。
なお、カーボン質液状材が液状であることから、これを注入する充填隙間が狭くても、充填不良等を生じる可能性が低減される。そして、元々液状であることから、カーボン質固化物は隣接する炉壁煉瓦あるいはカーボン質固形材、ステーブ表面あるいは鉄皮表面とよくなじみ、高い伝熱性能を確保して高炉としての冷却性能を高めることができる。
【0013】
壁体と炉壁煉瓦との間に配設される耐火材層として必要な機能は主に二つある。
第1に、炉壁煉瓦からの熱をステーブに伝え炉壁煉瓦を効果的に冷却し、その損耗を防いで炉壁の寿命を確保することであり、そのために高い熱伝導率が必要である。
第2に、炉壁煉瓦が高温により膨張した際、炉壁煉瓦に発生する熱応力を緩和し、炉壁煉瓦のせり割れを低減させるため、また、前記炉壁煉瓦の膨張による高炉鉄皮への熱応力を緩和させるため、前記炉壁煉瓦の膨張を吸収することができるよう耐火物層には可縮性が必要である。
【0014】
ここで、耐火物層の全てを、カーボン質液状材とした場合、前記炉壁煉瓦の可縮性をもたせることができなく、更に熱伝導も低いため炉壁煉瓦の冷却能が低下する。
また、耐火物層の全てを、カーボン質固形材とした場合、炉壁及び炉壁煉瓦の製作・据え付け精度のバラツキに伴い耐火部層の間隔は、高炉の周囲で種々相違し、このバラツキに対応する寸法のカーボン質固形材が必要となり、実用技術として困難である。
すなわち、本発明は、カーボン質固形材によって、前記の炉壁煉瓦の熱膨張を吸収し、かつ高熱伝導度を付与するとともに、カーボン質液状材によって、前記製作・据え付け誤差による隙間を吸収するものである。
【0015】
本発明における壁体は、鉄皮とその炉内側に設置されたステーブとで構成され、耐火材層がステーブと炉壁煉瓦との間に設置される構成とすることができる。しかし、壁体は鉄皮のみで構成され、耐火材層が鉄皮と炉壁煉瓦との間に設置される構成としてもよい。
【0016】
ここで、本発明で用いるカーボン質液状材について説明する。
カーボン質液状材は、耐火骨材100質量%に対し、樹脂溶液及び/又はタール類からなる液状バインダを外がけで、例えば20質量%以上、40質量%以下加えてなるものとする。20質量%未満であると液状化が困難となる場合が多く、40質量%を超えると耐火骨材のカーボン質の割合が低下し過ぎて、カーボン質液状材が固化してカーボン質固化物となった際に、熱伝導性が悪化したり、液状バインダ中の揮発性物質が高炉稼働後の温度上昇によって一部が揮発して空間が発生したりして熱伝導度が悪化する危険性が生じるためである。
【0017】
カーボン質液状材に必要とされる耐火骨材の条件は、耐火骨材に占めるカーボン質原料の割合が60質量%以上である。
耐火骨材中のカーボン質原料としては、例えば、鱗状黒鉛や土状黒鉛等の天然黒鉛、製鋼用電極の破砕材等の人造黒鉛、等の黒鉛の他、カーボンブラック、コークス、仮焼無煙炭、ピッチ粉、カーボン煉瓦屑等から選択される一種以上が挙げられる。中でも、熱伝導率の点から黒鉛が好ましく、流動性の面から人造黒鉛が好ましい。耐火骨材に占める黒鉛の割合は、熱伝導率向上のためには90質量%以上が好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
【0018】
なお、耐火骨材は、カーボン質原料以外に、銅やアルミニウム等の金属粉、炭化珪素、窒化珪素、焼結アルミナ、電融アルミナ、仮焼アルミナ、ロー石、シャモット、陶石、粘土、シリカフラワー等のシリカ超微粉、カオリン、ベントナイト、ムライト、ボーキサイト、及びバン土頁岩等から選択される一種以上を含んでもよい。
耐火骨材の粒度は、特に限定されないが、ポンプ圧送性を考慮すると、最大粒径が、ホース径の1/3以下であることが好ましい。また、ホース詰りを起こさないためには、最大粒径は10mm以下が好ましく、施工体の充填性を考慮すると、3mm以下がより好ましい。
【0019】
樹脂溶液とは、樹脂を溶剤で溶いたものであり、樹脂としては、フェノール樹脂やフラン樹脂やシリコン樹脂が挙げられ、溶剤としては、一価又は二価アルコール、多価アルコール、ケトン類、エステル類、エーテル類、ケトンエステル類、エステルエーテル類、芳香族系溶剤、脂肪族系溶剤等が挙げられる。
なお、上記各樹脂の中でも、残炭率の点でフェノール樹脂が好ましい。フェノール樹脂には、ノボラック型とレゾール型とがある。レゾール型は熱硬化時に縮合水を放出するため、ノボラック型の方がより好ましい。但し、ノボラック型フェノール樹脂は熱可塑性樹脂であるため、それを硬化させるための硬化剤、例えば、ヘキサメチレンテトラミンやレゾール等の併用が必要である。
【0020】
タール類としては、例えば、無水タールの他、ピッチをクレオソート油、アントラセン油、軽油、又は吸収油等の溶剤で溶解したカットバックタールも使用できる。これらは成分として多環芳香族炭化水素が多く、その分子量は数百程度と低いが高い融点をもっており、例えば、600℃前後まで加熱しても、液体状態を保っている。このことから加熱すると低温で蒸発して空隙を形成し易い他の液体バインダと比較して圧入材バインダとして有利である。
なお、樹脂溶液とタール類とを各々単味で使用してもよいが、これらを併用してもよい。
【0021】
前述したカーボン質液状材の具体例としては、例えば次の表1の組成物1〜4が挙げられる。
【0022】
【表1】

【0023】
これらのカーボン質液状材においては、固化してカーボン質固化物となった際の熱伝導率λがλ=5〜15[W/m・K]程度であることが望ましい。
すなわち、5[W/m・K]未満であるとカーボンブロックの冷却効果が大幅に低下するために5[W/m・K]以上が好ましい。一方、上記耐火骨材にフェノール樹脂溶液を液状バインターとして添加・製造できるカーボン質液状材の熱伝導率λは、15[W/m・K]がほぼ上限の値である。
カーボン質液状材の施工にあたっては、炉外において前述した組成物を準備し、グラウトポンプあるいはモルタルポンプ等の圧入機械を用いて高炉内へと圧送することができる。
【0024】
次に、本発明で用いるカーボン質固形材について説明する。
カーボン質固形材には、いわゆるラミング材に相当するものが利用できる。具体的には、例えば、耐火骨材100質量%に対し、樹脂溶液及び/又はタール類からなる液状バインダを、例えば外かけ10質量%以上、20質量%未満加えてなるものが利用できる。
液状バインダが10質量%未満だと、組織の緻密な施工性が得らにくく、20質量%を超えると、λが小さくなって、カーボン質固形材に求められる高熱伝導度の付与の技術的意義が小さくなる。
【0025】
耐火骨材として、人造黒鉛を使用することもできるが、より高いスプリングバックによる体積復元機能を得るためには、各粒子が鱗形状を有する鱗状黒鉛が好ましい。
また、カーボン質固形材に、金属ファイバーを添加してもよい。金属ファイバーの素材としては、鉄、鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、又はこれらの合金が熱伝導率が高いため好ましい。金属ファイバーの添加量は、耐火骨材と液状バインダとの合量に対する外かけで、1〜10質量%が好ましい。
【0026】
金属ファイバーは、打撃方向と直角方向に配向する性質をもつ。金属ファイバーの配向方向が、ステーブとカーボン煉瓦との対面方向と一致するようにカーボン質固形材を配置することで、高炉の稼動・休止に伴う繰り返しの熱膨張応力に対しても体積復元機能を示し、これによって隙間の発生が防止される。
【0027】
前述したカーボン質固形材の具体例としては、例えば次の表2の組成物1〜4が挙げられる。
【0028】
【表2】

【0029】
表2に記載の内容を以下に説明する。
比較例に示すとおり、液状バインダとしてフェノール樹脂溶液の添加量が外掛5%では、加圧成形ができない。組成物1の10%では、成形は可能であるが加圧成形時の締りが不十分となり熱伝導率λは、20W/(m・K)程度となる。組成物2の15%が液状バインダの添加物としては最も好ましく40W/(m・K)程度が得られる。更に添加量を増した組成物4の20%では、熱伝導率λは、30W/(m・K)程度となる。また、金属ファイバーを添加した組成物3では、さらに熱伝導率が向上し45W/(m・K)程度となる。組成物5は、耐火骨材として人造黒鉛塊を添加したものであり熱伝導率が60W/(m・K)程度まで向上する。
【0030】
これらの組成物を、球状、アーモンド状、板状といった形状にプレスもしくは手動により加圧成形したものがカーボン質固形材である。なお、球状に成形する場合、アンドレアゼン分布に従って、密充填構造をもつようにすることが好ましい。
カーボン質固形材の熱伝導率λについては、カーボンブロックの冷却効果を得るためにλ≧20[W/m・K]であることが好ましく、これ以上の値で、少しでも高い方がより望ましい。
また、前記組成物3で記載のとおり粉体状の耐火骨材を使用するとλの上限は、45[W/m・K]程度、組成物5に示すとおり黒鉛塊を入れても60[W/m・K]程度が最大である。なお、前記黒鉛塊を入れた組成物5は、可縮性が少ないので使用にあたってはその点の留意が必要である。
【0031】
本発明の高炉炉体構造において、前記カーボン質固形材は前記壁体と前記炉壁煉瓦との間に設置された板状の部材であり、前記カーボン質固化物は前記カーボン質固形材と前記壁体または前記カーボン質固形材と前記炉壁煉瓦との間に残された充填隙間に前記カーボン質液状材を充填して形成されたものであることが望ましい。
このような構成では、壁体と炉壁煉瓦との間の隙間に板状のカーボン質固形材を挿入するので、固形材設置工程の作業を簡便かつ迅速に行うことができる。
【0032】
本発明の高炉炉体構造において、前記カーボン質固形材は前記壁体と前記炉壁煉瓦との間に充填された粒状の部材であり、前記カーボン質固化物は前記壁体と前記炉壁煉瓦との間に残された充填隙間に前記カーボン質液状材を充填して形成されたものであるとしてもよい。
このような構成によっても、壁体と炉壁煉瓦との間の隙間にカーボン質固形材とカーボン質液状材が固化したカーボン質固化物との層を形成することができる。粒状のカーボン質固形材とカーボン質液状材とは何れを先に充填してもよく、あるいは並行して、または混合して注入してもよい。
【0033】
本発明の高炉炉体構造において、前記カーボン質固形材の層厚t1>前記カーボン質固化物の層厚t2であることが望ましい。
このような構成では、一般に熱伝導率の小さなカーボン質液状材が固化したカーボン質固化物の層厚の方を小さくすることで、熱伝導率が高くできるカーボン質固形材を効果的に利用することができ、耐火材層における熱伝導性能を高め、炉壁煉瓦の冷却を効率的に行うことができる。
【0034】
本発明の高炉炉体形成方法は、壁体とその炉内側に設置された炉壁煉瓦との間に板状のカーボン質固形材を設置する固形材設置工程と、前記カーボン質固形材と前記壁体との間または前記カーボン質固形材と前記炉壁煉瓦との間に残された充填隙間にカーボン質液状材を注入して固化させる液状材充填工程と、を有することを特徴とする。
このような本発明では、耐火材層がカーボン質固形材とカーボン質液状材が固化したカーボン質固化物によって構成されるため、従来のように不定形粉末材を取り扱うことがなく、粉塵を発生させることがない。
また、固形材設置工程では、壁体と炉壁煉瓦との間にカーボン質固形材を挿入して固定等するだけでよく、作業が簡単かつ迅速にできる。
【0035】
さらに、液状材充填工程では、壁体と炉壁煉瓦との間の隙間のうち、先に設置されたカーボン質固形材を除いた残りの充填隙間にカーボン質液状材を充填させる。この際、カーボン質液状材は、液体の注入であるため取り扱いが簡便であり、先に設置されたカーボン質固形材により充填体積も大幅に抑制されるため、作業が簡単かつ迅速にできる。
なお、カーボン質液状材が液状であることから、これを注入する充填隙間が狭くても、充填不良等を生じる可能性が低減される。そして、元々液状であることから、カーボン質固化物は隣接する炉壁煉瓦あるいはカーボン質固形材、ステーブ表面あるいは鉄皮表面とよくなじみ、高い伝熱性能を確保して高炉としての冷却性能を高めることができる。
【0036】
本発明の高炉炉体形成方法において、前記固形材設置工程は、前記壁体と前記炉壁煉瓦との間の隙間に板状の前記カーボン質固形材を固定する固形材固定工程と、前記壁体の炉内側に間隔をあけて前記炉壁煉瓦を設置する炉壁煉瓦設置工程と、を有することが望ましい。
このような構成では、壁体と炉壁煉瓦との間の隙間に板状のカーボン質固形材を挿入するので、固形材設置工程の作業を簡便かつ迅速に行うことができる。
【0037】
本発明の高炉炉体形成方法において、前記炉壁煉瓦用の煉瓦ブロックの前記壁体側端面に、当該端面と同じ大きさの板状のカーボン質固形材を予め貼付して固形材付煉瓦ブロックを形成するブロック準備工程と、前記壁体の炉内側に間隔をあけて前記固形材付煉瓦ブロックを積んで前記炉壁煉瓦を設置するブロック構築工程と、を有し、前記ブロック構築工程により前記炉壁煉瓦設置工程と前記固形材固定工程とが行われることが望ましい
このような構成では、煉瓦ブロックの壁体側端面に、当該端面と同じ大きさの板状のカーボン質固形材を予め貼付しておくため、炉壁煉瓦を設置することで固形材の設置までが行われ、炉壁煉瓦設置工程と固形材設置工程とが同時に行われることになり、炉体形成の作業が簡便かつ迅速に行える。
【0038】
本発明の高炉炉体形成方法は、壁体とその炉内側に設置された炉壁煉瓦との間に粒状のカーボン質固形材を充填する固形材設置工程と、前記壁体と前記炉壁煉瓦との間に残された充填隙間にカーボン質液状材を注入して固化させる液状材充填工程と、を有するものとしてもよい。
あるいは、壁体とその炉内側に設置された炉壁煉瓦との間にカーボン質液状材を充填する液状材設置工程と、前記カーボン質液状材中に粒状のカーボン質固形材を充填させてから前記カーボン質液状材を固化させる固形材充填工程と、を有するものとしてもよい。
このような構成によっても、壁体と炉壁煉瓦との間の隙間にカーボン質固形材とカーボン質液状材が固化したカーボン質固化物との層を形成することができる。さらに、粒状のカーボン質固形材とカーボン質液状材との何れかを先に充填するのではなく、これらを並行して、または混合して注入してもよい。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、壁体とその炉内側に設置された炉壁煉瓦との間に、弾性能と高熱伝導能を付与するカーボン質固形材と、カーボン質液状材が固化したカーボン質固化物が充填されている高炉炉体構造となっているため、施工の際に粉塵などを発生し難く、工期を短縮しつつ、冷却性能が確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1実施形態の炉体を示す横断面図。
【図2】前記第1実施形態の1段目の固形材設置工程を示す縦断面図。
【図3】前記第1実施形態の1段目の液状材充填工程を示す縦断面図。
【図4】前記第1実施形態の2段目の固形材設置工程を示す縦断面図。
【図5】前記第1実施形態の2段目の液状材充填工程を示す縦断面図。
【図6】本発明の第2実施形態の固形材設置工程を示す縦断面図。
【図7】前記第2実施形態の液状材充填工程の注入途中を示す縦断面図。
【図8】前記第2実施形態の液状材充填工程を固化途中を示す縦断面図。
【図9】本発明の第3実施形態の炉体を示す横断面図。
【図10】前記第3実施形態で用いる固形材付煉瓦ブロックを示す斜視図。
【図11】前記第3実施形態の1段目の固形材設置工程ないし液状材充填工程を示す縦断面図。
【図12】前記第3実施形態の2段目の固形材設置工程を示す縦断面図。
【図13】本発明の第4実施形態の固形材設置工程ないし液状材充填工程を示す縦断面図。
【図14】前記第4実施形態の固形材設置工程を示す縦断面図。
【図15】本発明の第5実施形態の固形材設置工程および液状材充填工程を示す縦断面図。
【図16】本発明の第6実施形態の炉体をを示す横断面図。
【図17】前記第5実施形態の固形材設置工程を示す横断面図。
【図18】前記第5実施形態の固形材設置工程を示す横断面図。
【図19】前記第5実施形態の固形材設置工程を示す縦断面図。
【図20】本発明によるシャフト部、炉腹部、朝顔部の移行部分での耐火材層の設置状態を示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
〔第1実施形態〕
図1には本発明の第1実施形態が示されている。
図1において、本実施形態の高炉炉体構造は、高炉1の外殻を形成する壁体2と、壁体2の炉内側に沿って設置された耐火材層3と、耐火材層3の炉内側に沿って設置された炉壁煉瓦4とを有する。
【0042】
壁体2は、鉄板を継ぎ合わせて形成された円筒状の鉄皮21と、その炉内側に設置された冷却装置である短冊板状のステーブ22とで構成されている。
耐火材層3は、ステーブ22の炉内面側に沿って貼られた板状のカーボン質固形材31の層と、このカーボン質固形材31の層と前述した炉壁煉瓦4との間に充填されたカーボン質液状材が固化したカーボン質固化物32の層とで構成されている。
炉壁煉瓦4は、カーボン質の煉瓦ブロック41をステーブ22の炉内面側から所定間隔で構築されている。
【0043】
本実施形態においては、以下の手順で高炉1の炉体を形成する。
先ず、高炉1の基礎上に鉄皮21を組み立て、その炉内側にステーブ22を設置し、これらにより壁体2を形成する。
次に、壁体2の内側に、図2から図5に示す手順で耐火材層3および炉壁煉瓦4を構築する。
【0044】
先ず、図2に示すように、壁体2の炉内側の面(ステーブ22の炉内側表面)に厚さC2のカーボン質固形材31を貼り付けて固定し、その内側に所定間隔C3を空けて、炉壁煉瓦4となるべき煉瓦ブロック41を1段分並べて設置してゆく。この際、煉瓦ブロック41とカーボン質固形材31とは同じ高さとされ、これらにより1段分のカーボン質固形材31および煉瓦ブロック41が設置される(固形材設置工程)。
カーボン質固形材31と煉瓦ブロック41との間の間隔C3により充填隙間33が形成される。カーボン質固形材31の厚みC2、壁体2の炉内側の面から煉瓦ブロック41の炉外側の面までの距離C1とすると、充填空間33の間隔C3=C1−C2である。
【0045】
図3に示すように、充填隙間33にはカーボン質液状材34を注入する。注入されたカーボン質液状材34は、所定時間経過すると固化し、図4に示すようにカーボン質固化物32となる。これにより、充填隙間33にカーボン質固化物32が充填された状態となり、壁体2と炉壁煉瓦4との間に1段目の耐火材層3が形成される(液状材充填工程)。
【0046】
次に、図4に示すように、1段目のカーボン質固形材31の上に2段目のカーボン質固形材31を配置して壁体2(ステーブ22)に固定するとともに、1段目の煉瓦ブロック41の上に2段目の煉瓦ブロック41を積み重ねてそれぞれ固定する(固形材設置工程)。これにより2段目の充填隙間33が形成されるので、図5に示すように、この2段目の充填隙間33にカーボン質液状材34を注入し、これを固化させることで1段目のカーボン質固化物32の上に2段目のカーボン質固化物32を積み重ねてゆく(液状材充填工程)。
以上のように、本実施形態では、1段毎の固形材設置工程と液状材充填工程とを繰り返すことで、複数段の炉壁煉瓦4および耐火材層3が構築される。
【0047】
なお、前述したカーボン質固形材31および煉瓦ブロック41の設置(固形材設置工程)とカーボン質液状材34の注入(液状材充填工程)とは1段分ずつ順次繰り返せばよいが、各々の工程は交互に限らず、一部重複させてもよい。例えば、前の段のカーボン質液状材34の注入(液状材充填工程)を行っている時期に並行して次の段のカーボン質固形材31の設置(固形材設置工程)を進めてもよく、このような工程重複により作業効率の向上、施工期間の短縮が期待できる。
【0048】
また、カーボン質固形材31を先に壁体2に固定し、その後に充填隙間33を空けて煉瓦ブロック41を積む手順に限らず、カーボン質固形材31を先に壁体2に固定し、その後に充填隙間33を空けて炉体2の炉内側の面から間隔C1を空けて煉瓦ブロック41を並べ、後からカーボン質固形材31を挿入して炉体2の炉内側の面に固定してもよい。
この際、煉瓦ブロック41を壁体2の炉内側の面(ステーブ22の炉内側表面)から間隔C1を空けて設置すれば、カーボン質固形材31の厚みC2として、充填空間33の厚さC3=C1−C2となる。
【0049】
カーボン質固形材31を炉体2の炉内側の面に固定する際、予めモルタルを塗布すれば、カーボン質固形材31を炉体2の炉内側の面に押しつけるだけで容易に貼り付けることができる。
【0050】
カーボン質固形材31の高さ寸法は、煉瓦ブロック41と同じ高さに限らず、複数段分の高さ(煉瓦ブロック41の高さの整数倍)等としてもよい。この場合、カーボン質固形材31の設置1回に対して(固形材設置工程)、煉瓦ブロック41の設置およびこれにより形成される充填隙間33へのカーボン質液状材34の注入(液状材充填工程)が複数回繰り返されることになる。
一方、カーボン質固形材31と煉瓦ブロック41とを同じ高さとする場合に、これらを複数段積み上げた後(固形材設置工程)、各々の間の複数段分の充填隙間33に一括してカーボン質液状材34の注入(液状材充填工程)を行ってもよい。
【0051】
〔第2実施形態〕
本発明の第2実施形態は、基本構成である高炉1、壁体2、耐火材層3および炉壁煉瓦4が前述した第1実施形態と同様である(図1参照)。
本実施形態では、耐火材層3および炉壁煉瓦4の構築手順が異なり、煉瓦ブロック41の3段分をまとめて施工してゆく。
【0052】
先ず、図6に示すように、壁体2の炉内側の面に煉瓦ブロック41の3段分の高さのカーボン質固形材31を貼り付けて固定し、その内側に所定間隔C3を空けて3段分の煉瓦ブロック41を積み上げる。壁体2の炉内側に、所定間隔C1を空けて炉壁煉瓦4となるべき煉瓦ブロック41を3段分積み上げ、3段分の煉瓦ブロック41と同じ高さのカーボン質固形材31を壁体2の炉内側に貼り付けてもよい。
これらにより、壁体2の炉内側には、3段分の煉瓦ブロック41およびこれと同じ高さのカーボン質固形材31が構築され、各々の間には3段分の高さの充填隙間33が形成される(固形材設置工程)。
【0053】
次に、図7に示すように、充填隙間33にカーボン質液状材34を3段分の高さまで注入してゆく(液状材充填工程)。図8に示すように、3段分の高さまで充填されたカーボン質液状材34が固化することで、壁体2の炉内側には3段分のカーボン質固化物32が形成され、壁体2の炉内側に貼られたカーボン質固形材31と併せて3段分の耐火材層3が形成される。
以上のように、本実施形態では、3段毎の固形材設置工程と液状材充填工程とを繰り返すことで、複数段の炉壁煉瓦4および耐火材層3が構築される。
【0054】
本実施形態では、一般的な煉瓦ブロック41の高さが約600mmであることから、3段毎に作業を分けることで、カーボン質固形材31の貼り付け高さは1800mmとなる。この高さであれば、足場等を特に使用することなく、かつ同種の作業を連続して効率よく行え、作業性を好適なものとすることができる。
【0055】
〔第3実施形態〕
図9には本発明の第3実施形態が示されている。
本実施形態は、基本構成である高炉1、壁体2、耐火材層3および炉壁煉瓦4が前述した第1実施形態(図1参照)と同様である。
但し、図1の第1実施形態の耐火材層3では外側がカーボン質固形材31で内側がカーボン質固化物32であったのに対し、本実施形態では、逆に耐火材層3の外側がカーボン質固化物32で内側がカーボン質固形材31となっている。
また、本実施形態では、図10に示すように、煉瓦ブロック41の外側(壁体側)の端面に、当該端面と同じ大きさの板状のカーボン質固形材31を予め貼付した固形材付煉瓦ブロック42を用いる。
【0056】
本実施形態においては、以下の手順で高炉1の炉体を形成する。
先ず、高炉1の基礎上に鉄皮21を組み立て、その炉内側にステーブ22を設置し、これらにより壁体2を形成する。
次に、壁体2の内側に、図11から図12に示す手順で耐火材層3および炉壁煉瓦4を構築する。
【0057】
先ず、図11に示すように、壁体2の炉内側に、充填隙間33となる所定間隔C3を空けて、固形材付煉瓦ブロック42を1段分並べてゆく。並べられた固形材付煉瓦ブロック42のうち煉瓦ブロック41部分が連続することで1段目の炉壁煉瓦4が形成され、その外側面には板状のカーボン質固形材31が連続した状態で配置される(固形材設置工程)。
次に、1段分の充填隙間33にカーボン質液状材34を注入する。注入されたカーボン質液状材34は、所定時間経過すると固化し、図12に示すようにカーボン質固化物32となる(液状材充填工程)。これにより、充填隙間33で固化したカーボン質固化物32と前述した固形材付煉瓦ブロック42に貼られていたカーボン質固形材31とで、壁体2と炉壁煉瓦4との間に1段目の耐火材層3が形成される。
【0058】
次に、図12に示すように、1段目の固形材付煉瓦ブロック42の上に2段目の固形材付煉瓦ブロック42を積み重ねる(固形材設置工程)ことで、2段目の充填隙間33が形成される。この2段目の充填隙間33にカーボン質液状材34を注入し、これを固化させる(液状材充填工程)ことで1段目と同様に2段目以降が形成されてゆく。
以上のように、本実施形態では、1段毎の固形材設置工程と液状材充填工程とを繰り返すことで、複数段の炉壁煉瓦4および耐火材層3が構築される。
【0059】
なお、本実施形態において、カーボン質液状材34の充填高さは固形材付煉瓦ブロック42と同じ高さとしてもよいが、数十mm低くすることが望ましい。これは、カーボン質液状材34の充填時のばらつきによるオーバーフローの防止や、カーボン質液状材34が固化したカーボン質固化物32となった際の上下の段の接続部分と固形材付煉瓦ブロック42とがずれることで炉内外のガスリーク防止に有効となるからである。
【0060】
〔第4実施形態〕
本発明の第4実施形態は、基本構成である高炉1、壁体2、耐火材層3および炉壁煉瓦4が前述した第3実施形態と同様であり(図9参照)、固形材付煉瓦ブロック42(図10参照)を用いる点も同じである。
本実施形態では、耐火材層3および炉壁煉瓦4の構築手順が異なり、煉瓦ブロック41の3段分をまとめて施工してゆく。
【0061】
先ず、図13に示すように、壁体2の炉内側に、充填隙間33となる所定間隔C3を空けて、固形材付煉瓦ブロック42を3段分積み上げる(固形材設置工程)。これにより、壁体2の炉内側には3段分の高さの充填隙間33が形成される。
次に、充填隙間33にカーボン質液状材34を3段分の高さまで注入してゆく。図14に示すように、充填隙間33に充填されたカーボン質液状材34が固化することで、壁体2の炉内側には3段分のカーボン質固化物32が形成され(液状材充填工程)、固形材付煉瓦ブロック42のカーボン質固形材31と併せて3段分の耐火材層3が形成される。
以上のように、本実施形態では、3段毎の固形材設置工程と液状材充填工程とを繰り返すことで、複数段の炉壁煉瓦4および耐火材層3が構築される。
【0062】
なお、本実施形態において、固形材設置工程として固形材付煉瓦ブロック42を3段分積み上げた後、液状材充填工程として3段分のカーボン質液状材34を充填する手順に限らず、固形材付煉瓦ブロック42を1段分または2段分積み上げた段階でカーボン質液状材34の充填を開始する等、各々の工程を一部並行させてもよい。このような工程重複により作業効率の向上、施工期間の短縮が期待できる。
【0063】
〔第5実施形態〕
本発明の第5実施形態は、基本構成である高炉1、壁体2および炉壁煉瓦4が前述した第1〜第4の各実施形態と同様である(図5,図8,図12または図14参照)。
第1〜第4の各実施形態においては、カーボン質固形材31は壁体2と炉壁煉瓦4との間に配置された板状の部材であり、カーボン質固化物32は充填隙間33に充填されたカーボン質液状材34により形成されていた。
これに対し、本実施形態では、図15に示すように、炉壁煉瓦4と炉壁2の炉内側の面との間に粒状のカーボン質固形材31およびカーボン質液状材33を充填し、カーボン質液状材33が固化してカーボン質固化物32となることで、粒状のカーボン質固形材31を含んだ耐火材層3を形成する。
【0064】
本実施形態において、粒状のカーボン質固形材31の粒径は直径20〜50mmであることが望ましい。直径20mmより小さいとプレフォームが難しく、直径50mmより大きいと充填時にブリッジを生じて充填不良となる可能性が増大する。
壁体2と炉壁煉瓦4との間へ充填にあたっては、カーボン質固形物31を先に充填してカーボン質液状材34を後から注入してもよく、カーボン質液状材34を先に注入しておき後からカーボン質固形物31を充填してしてもよく、あるいはカーボン質固形物31とカーボン質液状材34とを同時に充填してもよく、または各々を混合物として充填してもよい。
【0065】
カーボン質固形物31を先に充填する場合、壁体2と炉壁煉瓦4との間に充填されたカーボン質固形物31の粒の隙間に、カーボン質液状材34が注入されてゆく。
カーボン質液状材34を先に注入する場合、カーボン質固形物31の比重が一般にカーボン質液状材34よりも大きく、かつカーボン質液状材34の固化には2〜3時間は要するため、後から充填されたカーボン質固形物31の粒がカーボン質液状材34中を沈降し、壁体2と炉壁煉瓦4との間に密に充填された状態とすることができる。
さらには、カーボン質固形物31を所定高さまで充填し、次にカーボン質液状材34を所定高さまで充填する工程を繰り返してもよく、各々を同時並行に注入してもよい。
【0066】
以上のような粒状のカーボン質固形物31およびカーボン質液状材34の充填は、炉壁煉瓦4の1段分の積み上げ毎に行ってもよいし、数段分の炉壁煉瓦4を積み上げてから行ってもよい。
【0067】
〔第6実施形態〕
本発明の第6実施形態は、基本構成である高炉1、壁体2、耐火材層3および炉壁煉瓦4は前述した第1〜第4の各実施形態と同様である(図5,図8,図12または図14参照)。これらの構成の構築にあたっては、前述した第1〜第4の各実施形態の何れかの手順により、高炉1の壁体2の内側に耐火材層3および炉壁煉瓦4を下方から段階的に積み上げてゆく。
ここで、本実施形態では、炉壁煉瓦4の一部に異なる寸法・形状の煉瓦ブロックを用い、ジャッキを用いて煉瓦ブロック相互の密着性を高めるように施工を行う。
【0068】
図16において、高炉1の炉壁2の内側にはカーボン質固形材31が張られ、その内側には所定間隔で炉壁煉瓦4が設置される。炉壁煉瓦4とカーボン質固形材31との間の充填隙間33にはカーボン質液状材34が充填され、これが固化することでカーボン質固化物32となる。以上は前述した第1〜第4の各実施形態と同様であり、各実施形態の何れかの手順が採用できる。
ここで、前述した各実施形態では、炉壁煉瓦4は全周にわたって同じ煉瓦ブロック41(または固形材付煉瓦ブロック42)により形成されていた。本実施形態では、周方向の大部分が煉瓦ブロック41であるが、周方向の一部に短尺煉瓦ブロック43が用いられている。
【0069】
煉瓦ブロック41は、径方向(高炉1の直径方向)に所定の厚み寸法を有するとともに、円周方向に配列された際に相互に密着するように平面形状がテーパー形状とされている。
短尺煉瓦ブロック43は、煉瓦ブロック41と同様なテーパー形状を有するとともに、径方向寸法が短く形成されている。なお、短尺煉瓦ブロック43は、煉瓦ブロック41の外周側を一部削除した形状とされ、煉瓦ブロック41と内周側面を揃えた状態で相互に密着して全周にわたる炉壁煉瓦4を形成することができる。
【0070】
このような本実施形態においては、以下に述べる手順で炉壁煉瓦4を形成する。
図16に示すように、まず、下段の炉壁煉瓦4の上面に、煉瓦ブロック41を円周のほぼ全周となるように設置する。煉瓦ブロック41は、基準となる最初の1個を図16の位置A0に設置し、以下その両側の位置A1、A2、…と順次配列してゆく。煉瓦ブロック41の設置は所定数(本実施形態では3個分)を残した位置AEで終える。
これらの煉瓦ブロック41(位置A0〜AE)の設置は、下段の炉壁煉瓦4の上面に煉瓦ブロック41を内側から載せ、水平方向外向きにスライドさせる等により設置することができる。
【0071】
次に、煉瓦ブロック41が設置されていない部分(二つの位置AEで挟まれた位置B0〜B1)に、短尺煉瓦ブロック43を設置する。設置にあたって、短尺煉瓦ブロック43は、まず位置B1に2個の短尺煉瓦ブロック43を設置し、その間の位置B0に最後の短尺煉瓦ブロック43を設置する。
この際、位置B1の短尺煉瓦ブロック43は、なるべく外周側に寄った位置に配置し、かつ位置AEの煉瓦ブロック41と接触させることで、一対の短尺煉瓦ブロック43の隙間を最大にする。この隙間を短尺煉瓦ブロック43の外周側の幅WB以上とすることで、最後の短尺煉瓦ブロック43についても、内側からのスライド設置が可能となる。
この隙間が得られない場合、最後の煉瓦ブロックは上方へ吊り上げてから位置B0に降下させる等の処置が必要となる。
【0072】
短尺煉瓦ブロック43は、ジャッキを用いて正規の位置へ移動させる。
図18および図19に示すように、短尺煉瓦ブロック43の上面に油圧式等のジャッキ44を設置し、このジャッキ44の一端を炉壁2に当接させるとともに、他端で短尺煉瓦ブロック43を高炉1の中心に向かって押すように構成する。例えば、クランク型の治具45を用い、短尺煉瓦ブロック43の上面にあるジャッキ44と短尺煉瓦ブロック43の外周側面とを接続する等により、短尺煉瓦ブロック43の外周側面を押すように設置することができる。
【0073】
このような構成により、位置B0〜B1にある短尺煉瓦ブロック43を各々内側へスライドさせることにより、位置B0〜B1にある短尺煉瓦ブロック43の内周面と他の位置A0〜AEにある煉瓦ブロック41の内周面とが同じ円筒面を形成する状態とすることができる。この状態で、位置B0〜B1にある短尺煉瓦ブロック43と位置A0〜AEにある煉瓦ブロック41との全てのブロックが互いに密接し、1段分の炉壁煉瓦4が形成される。
【0074】
なお、短尺煉瓦ブロック43とするのは位置B0〜B1の3個に限らず、1個、2個あるは4個以上であってもよい。最後の短尺煉瓦ブロック43の通過を許容するために、個数が少ない場合、短尺煉瓦ブロック43の径方向寸法は、煉瓦ブロック41よりも大幅に薄く例えば50mm程度薄くする必要があるが、個数が多ければ10mm程度薄くするだけで済む。短尺煉瓦ブロック43を薄くすることは、当該部分のカーボン質液状材34が厚くなることにつながり、冷却性能の点で薄くしすぎないほうがよい。この点で、好ましい短尺煉瓦ブロック43の個数は3〜5個である。
【0075】
〔変形例〕
なお、本発明は前記各実施形態に限定されるものではなく、以下のような変形も本発明に含まれるものである。
前記各実施形態では、高炉の壁体2が、鉄皮21とステーブ22とを有する構成としたが、冷却装置としてはステーブ22に限らず冷却水を通す配管列であってもよく、鉄皮21の外側を散水冷却する炉等であれば鉄皮21だけで壁体2が構成されていてもよい。このような場合でも、全く同じ高炉炉体形成方法が適用できる。
前記各実施形態では、高炉の炉底部、湯溜部、羽口部、朝顔部の移行部分においても、耐火材の充填のために必要であった従来の間隔を確保しなくてよい。
【0076】
図20において、高炉1は、前記各実施形態の通り、鉄皮21およびステーブ22で形成された壁体2、カーボン質固形材31およびカーボン質固化物32で形成された耐火材層3、煉瓦ブロック41で形成された炉壁煉瓦4を有する。
高炉1は、朝顔部Z3、羽口部Z2、湯溜部Z1を有し、各々の間の移行部分Z23,Z12で屈曲しており、屈曲した移行部分において、鉄皮21、カーボン質固形材31およびカーボン質固化物32も屈曲している。
【0077】
従来であれば、図20に鎖線で示すように、屈曲した移行部分では炉壁煉瓦4を控えさせ、鉄皮21との間の間隔を大きくとることで、カーボン質充填材をスタンプするランマー9の作業代を確保していた。これに対し、本発明に基づく各実施形態では、それぞれカーボン質固形材31を設置(固形材設置工程)するとともに、カーボン質液状材34を注入してカーボン質固化物32を形成する(液状材充填工程)ため、ランマー9が不要であり、図20の通り鉄皮21と炉壁煉瓦4および耐火材層3との距離を一定にすることができる。
【実施例】
【0078】
本発明の実施例として、カーボン質液状材として表1の組成物4を使用し、カーボン質固形材として表2の組成物2を使用して、図2〜図5の手順で壁体2とその炉内側に設置された炉壁煉瓦4との間に、弾性能と高熱伝導能を付与するカーボン質固形材31を設置し、次にカーボン質固形材31と煉瓦ブロック41との間の間隔C3により形成された充填隙間33にカーボン質液状材を充填し、カーボン質液状材33が固化してカーボン質固化物34となった後、次のカーボン質固形材を設置することを繰り返して、図1のような断面の高炉炉体構造を構築した。
【0079】
その結果、施工の際に粉塵などの発生は殆どなく、築炉工期も従来のスタンプ材のサンドランマーによる施工方法と比べて、スタンプ施工期間として5日間程度要していたものが、カーボン質固形材とカーボン質液状材の施工期間は2.5日間に短縮した。また、冷却性能は、従来のスタンプ施工並みを確保でき順調に高炉が稼働した。
また、図15に示すように、炉壁煉瓦4と炉壁2の炉内側の面との間に粒状のカーボン質固形材31およびカーボン質液状材33を充填し、カーボン質液状材33が固化してカーボン質固化物32とした場合も実施したところ、同様に、施工の際に粉塵などの発生は殆どなく、築炉工期も従来のスタンプ材のサンドランマーによる施工方法と比べて、5日間から2.5日間に短縮した。また、冷却性能は、従来のスタンプ施工並みを確保でき順調に高炉が稼働した。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、高炉炉体構造および高炉炉体形成方法に関し、鉄皮の炉内側に炉壁煉瓦を有する高炉炉体の構造およびその形成方法として利用できる。
【符号の説明】
【0081】
1…高炉
2…壁体
21…鉄皮
22…ステーブ
3…耐火材層
31…カーボン質固形材
32…カーボン質固化物
33…カーボン質液状材
34…充填隙間
4…炉壁煉瓦
41,43…煉瓦ブロック
42…固形材付煉瓦ブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉の外殻を形成する壁体と、前記壁体の炉内側に沿って設置された耐火材層と、前記耐火材層の炉内側に沿って設置された炉壁煉瓦と、を有する高炉炉体構造において、
前記耐火材層が、カーボン質固形材とカーボン質液状材が固化したカーボン質固化物とで構成されていることを特徴とする高炉炉体構造。
【請求項2】
請求項1に記載した高炉炉体構造において、
前記カーボン質固形材は前記壁体と前記炉壁煉瓦との間に設置された板状の部材であり、前記カーボン質固化物は前記カーボン質固形材と前記壁体または前記カーボン質固形材と前記炉壁煉瓦との間に残された充填隙間に前記カーボン質液状材を充填して形成されたものであることを特徴とする高炉炉体構造。
【請求項3】
請求項1に記載した高炉炉体構造において、
前記カーボン質固形材は前記壁体と前記炉壁煉瓦との間に充填された粒状の部材であり、前記カーボン質固化物は前記壁体と前記炉壁煉瓦との間に残された充填隙間に前記カーボン質液状材を充填して形成されたものであることを特徴とする高炉炉体構造。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れかに記載した高炉炉体構造において、
前記カーボン質固形材の熱伝導率λ1=20〜60W/(m・K)であり、前記カーボン質固化物の熱伝導率λ2=5〜15W/(m・K)であることを特徴とする高炉炉体構造。
【請求項5】
請求項4に記載した高炉炉体構造において、
前記カーボン質固形材の層厚t1>前記カーボン質固化物の層厚t2であることを特徴とする高炉炉体構造。
【請求項6】
壁体とその炉内側に設置された炉壁煉瓦との間に板状のカーボン質固形材を設置する固形材設置工程と、前記カーボン質固形材と前記壁体との間または前記カーボン質固形材と前記炉壁煉瓦との間に残された充填隙間にカーボン質液状材を注入して固化させる液状材充填工程と、を有することを特徴とする高炉炉体形成方法。
【請求項7】
請求項6に記載した高炉炉体形成方法において、
前記固形材設置工程は、前記壁体と前記炉壁煉瓦との間の隙間に板状の前記カーボン質固形材を固定する固形材固定工程と、前記壁体の炉内側に間隔をあけて前記炉壁煉瓦を設置する炉壁煉瓦設置工程と、を有することを特徴とする高炉炉体形成方法。
【請求項8】
請求項7に記載した高炉炉体形成方法において、
前記固形材設置工程は、前記炉壁煉瓦用の煉瓦ブロックの前記壁体側端面に、当該端面と同じ大きさの板状のカーボン質固形材を予め貼付して固形材付煉瓦ブロックを形成するブロック準備工程と、前記壁体の炉内側に間隔をあけて前記固形材付煉瓦ブロックを積んで前記炉壁煉瓦を設置するブロック構築工程と、を有し、前記ブロック構築工程により前記炉壁煉瓦設置工程と前記固形材固定工程とが行われることを特徴とする高炉炉体形成方法。
【請求項9】
壁体とその炉内側に設置された炉壁煉瓦との間に粒状のカーボン質固形材を充填する固形材設置工程と、前記壁体と前記炉壁煉瓦との間に残された充填隙間にカーボン質液状材を注入して固化させる液状材充填工程と、を有することを特徴とする高炉炉体形成方法。
【請求項10】
壁体とその炉内側に設置された炉壁煉瓦との間にカーボン質液状材を充填する液状材設置工程と、前記カーボン質液状材中に粒状のカーボン質固形材を充填させてから前記カーボン質液状材を固化させる固形材充填工程と、を有することを特徴とする高炉炉体形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−12694(P2012−12694A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153295(P2010−153295)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】