説明

高炉用コークス製造装置

【課題】 高度な築炉技術を必要とせず、高環境対応性かつ高生産弾力性を有し、かつ優れた経済性を有す高炉用コークス製造装置を提供する。
【解決手段】 石炭を装入して乾留するための炭化室が実質的に断熱材料で形成されており、一方石炭を乾留するための加熱源が波長1mm以上の電磁波であることを特徴とする高炉用コークス製造装置。石炭を乾留するための炭化室を従来の珪石煉瓦に替えて断熱材料で形成することにより、高度な築炉技術が不要になりまた炭化室外表面温度が低下するので経済性、作業性あるいは環境対応力が改善する。これらの効果は、炭化室を移動式とすることで更に顕著になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鉱石を還元して銑鉄を製造する高炉において、鉄鉱石とともに高炉に装入される高品質塊コークスを製造するためのコークス炉に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄は産業用の基幹素材であり、我が国においては年間約1億トンが生産、消費されている。そしてこの様に大量に生産される鉄の多くは、高炉法によって作られる。高炉では上部から原料の鉄鉱石を投入し、下部に向かって移動していくに連れて還元され、最終的には溶けた金属鉄(溶銑)が得られることになる。この様な高炉において、鉄鉱石と共に不可欠な原料がコークスである。高炉内でのコークスの役割は幾つか有るが、鉄鉱石の還元剤として重要であるばかりでなく、高炉内の物質移動を円滑に行うための構造支持材としても大いに寄与している。そして一般的には銑鉄1tあたり0.5t程度のコークスが必要であり、このために国内では年間約5千万トンのコークスが生産されている。
【0003】
高炉で使用されるコークスは、石炭を乾留するための炭化室と、この炭化室に熱を供給するための燃焼室とが交互にサンドイッチ状に配置された室炉型水平式コークス炉で製造される。この場合の炭化室の大きさは、一般的には高さが6〜7m、長さが15〜17m、幅が40〜50cm程度であり、ここに通常30t前後の石炭が一度に装入される。既に述べた通り、炭化室の両側は燃焼室であり、両者は厚さ約10cmの珪石煉瓦で仕切られており、炭化室に装入された石炭は珪石煉瓦の壁を通じて燃焼室の熱が伝熱されて昇温し、一番温度の低い炭化室中心部が800〜1000℃程度に到達した時点で乾留終了となる。このたった20〜25cmの幅の石炭粉体層の温度を1000℃にまで昇温する時間、即ち乾留時間は、通常20h程度であるので、炭化室内の石炭層の熱伝達効率が非常に悪いと言うことが理解出来る。言い換えれば、このような伝熱方式によって昇温しようとする限り、乾留速度を大幅に短縮することはほとんど不可能であることが予想される。
【0004】
一方、石炭を乾留してコークスに転換するためには1000℃程度での熱処理が不可欠であるため、コークス炉は高温使用が可能で熱伝導性が良く且つ強度を有する煉瓦が築炉材料として使用される。特に1000℃前後での熱膨張率が非常に小さい珪石煉瓦が好んで使用されている。しかしながら、コークス炉は、通常炭化室が横に50〜100室程度並んだ形が一つのユニット(炉団)となっており、1炉団のコークス炉を作り上げるためには莫大な数と形の煉瓦が必要になる。更にこれらの煉瓦を使ってコークス炉を作り上げるためには高度な技術が必要であり、結局このような煉瓦積みのコークス炉を建設するためには莫大な資金が必要である。
【0005】
その上、通常のコークス炉は、乾留が終了すると炭化室長手方向両端に設置された扉が開けられ、いわゆるトコロテン方式で炭化室内のコークスが外に取り出される。この際大気中に種々の環境汚染物質が飛散するため、これを如何に抑制するかが肝要である。水平式コークス炉におけるこの大気汚染を緩和する方法として、特開平6−184540では垂直式コークス炉が提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開平6−184540号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高炉用コークスは、これまで述べてきたように石炭を800〜1000℃程度まで乾留して製造される。そのために、製造装置であるコークス炉の大部分が煉瓦ブロックを積み上げて構成されている。通常、構造物の強度維持あるいは補強は鉄が担っているが、コークス炉のような高温下では鉄が使用出来ないため、強度の維持をも煉瓦が担っており、その構造は非常に複雑なものとなっている。従って、この様な複雑な構造体を建設することそのものが非常な困難さを伴うことになるが、一旦炉が完成して操業が始まると、その後数十年間停止することなく運転を継続しなければならない。何故なら、常温から積み上げた煉瓦が1000℃程度に達すると、通常のコークス炉では常温の時に較べて50cm以上煉瓦壁が膨張している。そのため炉の温度を下げると、逆に膨張した分だけ煉瓦が収縮するので構造体としての形状を保てなくなり崩壊してしまう。故に一旦火入れをしたコークス炉は、炉命が尽きるまで燃焼室でガスを焚き続けることになる。その上、従来のコークス炉では生産変動に対する柔軟性が低く、減産時にも十分減産することが出来ず余計なコークスを作らざるを得ないという事態をも招くことになる。このように、従来のコークス炉は経済性あるいは生産柔軟性の面で大きな欠点を有している。さらに、コークス排出時等における環境阻害物質の大気中への放散による環境への懸念という問題も払拭されるべきであり、またコークス炉の操業は正に暑熱重勤の過酷な作業環境であり、その改善も大いに望まれている。本発明は、このような従来のコークス炉の欠点を解消した次世代型の高炉用コークス製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は、石炭を装入して乾留するための炭化室が実質的に断熱材料で形成されていること、および石炭を乾留するための加熱源が波長1mm以上の電磁波であることを特徴とする高炉用コークス製造装置であり、好ましくは炭化室が移動式のものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、これまでの室炉式コークス炉の欠点であった煉瓦を使った高度な築炉技術が不要になり、また煉瓦構造物であるが故の操業制約も解除されて操業の弾力性が劇的に向上する等、顕著な経済性の向上が図られることになる。さらに、高環境対応型コークス炉が実現し、同時に作業環境も改善されることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明では、石炭を装入して乾留するための炭化室を従来の珪石煉瓦に替えて断熱材料で形成する。断熱材料としては珪酸カルシウム系をはじめとした各種ロックウール、セラミックファイバー等が使用可能であり、これらを単独あるいは複合した形で使用することが可能である。またその形状等は特に制約はないが、断熱材外表面温度が400℃以下程度になるような材質、形状あるいは構造を採用することが好ましい。何故なら、この程度以下の温度で有れば断熱材で形成される炭化室外周部を鉄部材で支持、補強することが可能となり、頑強な構造体を安価に構築することが可能となるからである。なお、断熱材外表面温度を200℃以下程度に保持出来る場合には、特有の性能を有すプラスチックスまでもが装置材料として使用することが可能となるため、更に好ましい。
【0011】
一方、このような炭化室に装入された石炭を加熱、乾留するための手段として、波長1mm以上の電磁波を使用する。波長が1mmよりも短い電磁波としては、γ線、X線、紫外線等が挙げられるが、これらは取扱が難しく実用的ではない。一方、波長が1mm以上の電磁波としては、例えばマイクロ波や高周波があげられる。これらは既に一般的な加熱源として用いられており、特にマイクロ波は家庭用電子レンジとして広く普及している。本発明では、好ましくはマイクロ波を加熱源として使用する。マイクロ波の発振器としてはマグネトロン、ジャイロトロンあるいはクライストロン等が知られているが、本発明ではこれらの何れも使用可能である。また、周波数についても2450MHzが典型的であり価格も安くて好ましいが、これ以外の周波数を用いても何ら問題はない。さらに発振器の使用個数についても任意であり、適宜決定すればよい。
【0012】
本発明法を、その使用形態に基づいて更に詳しく説明すると、先ず炭化室に一定量の原料石炭が装入される。装炭の方法は本発明法に何ら制約を及ぼさないので任意である。現行の室炉式コークス炉ではコークス炉の炉上に装炭車と呼ばれる石炭装入設備が設置されており、これから炭化室上部の装炭孔を通じて炭化室内に石炭が装入される。本発明法でも、これと同様の方法を採用することが可能である。他の方法としては、石炭原料を気流搬送方式等によってパイプ輸送し、炉上部等に直結して装炭することも可能である。一方、炭化室を移動式にすれば、システム面あるいは環境面等から適正と考えられる位置まで炭化室を移動して装炭することが可能になるので、この方法は本発明法にとってより好ましい。
【0013】
炭化室に原料石炭が装入されると、例えば2450MHzのマイクロ波が炭化室に向けて照射される。マイクロ波は金属面では反射する性質があるため、不必要な方向にマイクロ波が漏洩しないように適宜鉄板で覆ってやればよい。これによって、基本的には発振されたマイクロ波のほとんどが炭化室に照射されることになる。この場合、マイクロ波は先ず炭化室を形成する断熱材料中を通過する。断熱材料がマイクロ波を吸収すると、炭化室内の石炭層に到達するマイクロ波の量が減少し、石炭を直接加熱、乾留する効率が低下するので、断熱材料としては基本的にはマイクロ波を吸収しにくいものが好ましい。例えば、珪酸カルシウム系の断熱材料は、好ましい一例である。なお、マイクロ波が吸収されないと言うことは、断熱材料には何の変化も生じない、即ち温度が上昇しないと言うことを意味する。これは家庭用電子レンジでプラスチックス容器に詰められた料理等を加温した際に良く経験する「外側のプラスチック容器は冷たいままで中の料理だけが昇温する」ということと全く同様であり、本発明に照らせば、プラスチック容器が断熱材料に、そして料理が石炭に相当する。
【0014】
炭化室を形成する断熱材料を通過したマイクロ波は、炭化室内に充填された石炭層に到達し、ここで一気に吸収されて減衰する。吸収されたマイクロ波は、一般的にはそのほとんどがその場で熱エネルギーに変換されるため、吸収した物質即ち石炭自身が発熱することになる。従来のガス炊き−伝熱という方法では炭化室中心部にまで熱を伝えるのに長時間を要するが、本発明法では原料の石炭自身が発熱するので非常に短時間で炭化室全体を昇温することが可能となる。このように熱応答性の良い本発明法では、乾留中の各過程において必要な熱を必要量だけ供給するという正確な熱供給制御が可能となる。更に、本発明法による炭化室は、実質的に断熱構造となっているために、炭化室内部で発生した熱エネルギーの外部への放散すなわち熱ロスを抑制することが可能である。この場合熱経済性が向上するのは勿論であるが、断熱材外表面の温度が上昇しないため従来暑熱重勤職場の代名詞にもなっているコークス炉の作業環境が格段に向上するという付加的効果をも享受することが可能である。更に、断熱材外表面の温度が低いと言うことは、マイクロ波の通過に対して実質的に悪影響を及ぼさない範囲で例えば炭化室の外枠を鉄アングル等で構成することが可能となり、これによって炭化室の形状あるいは強度を維持あるいは向上することが非常に容易になる。
【0015】
炭化室内の温度が所定の温度に達すると、乾留を終了して生成したコークスが炭化室外に取り出される。現行の水平式コークス炉では、乾留が終了すると炭化室の両端の扉が取り外され、押出機を用いて一方の側から他の側へいわゆるトコロテン方式でコークスが排出される。排出されたコークスは搬送台車によってCDQと呼ばれる熱交換を兼ねた冷却設備に送られる。本発明においても、同様に押出機を用いてコークスを排出することは可能であるが、現行のこの方法では扉開放から押出完了までの一連の操作中に環境阻害物質が大気中に飛散しやすいので、あまり好ましい方法ではない。そこで、この環境対策に注目すれば、特許文献1にも示されている垂直式タイプのコークス炉を選択することが好ましい。垂直式コークス炉では、コークス排出のための扉が炉底に設置されている。乾留が終了して炉底の扉が開放されると、炭化室内のコークスはその自重で自然と扉の下に設置されたコークス搬送台車中に落下、排出される。従って、垂直式炉では水平式の場合と異なって押出機が不要である。更に、水平式では押出に際して二ヵ所の扉を取り外す必要があるが、垂直式炉では一ヵ所で済み、水平式炉に較べて環境悪化の程度をずっと低く抑えることが可能である。この面から見れば垂直式炉の方が水平式炉よりも優れており、実用炉に採用されるべきであるが、垂直式炉には燃焼室の制御が非常に難しいという難問が存在し、現在高炉用コークス製造用として稼働している炉は全て水平式炉である。しかしながら、本発明法の加熱方式は、従来の燃焼室形式と全く異なるため、垂直式炉における燃焼制御の困難さという難問は、本発明法に対しては全く阻害要因とならない。言い換えれば、本発明法を用いることにより、初めて垂直式炉が水平式炉と同等以上の地位を獲得出来ると言える。
【0016】
垂直式炉は本発明法の好ましい一つの例であるが、本発明法では更に別の形態を取ることも可能である。即ち、本発明法の炭化室は移動することが可能であるので、乾留終了に際してコークス搬送台車にコークスを移し替える必要はなく、炭化室をそのまま搬送台車として代用し、中にコークスを保持したままCDQ設備まで移動し、ここで直接コークスを取り出す方が効率あるいは環境対策上より好ましい。コークスを排出して空になった炭化室は、次いで装炭場に回送して原料石炭を装入し、その後電磁波照射を行うための場所(加熱室)に移動し、ここにて再び乾留、コークスが製造されるという一連のループが成立することになる。
【0017】
以上述べてきたように、本発明法は従来法と比較して多くの長所を有しているが、更に本発明法によれば高度な築炉技術を要する煉瓦が不要となり、また熱源(電磁波)の入切制御が非常に容易となるため、その結果としてコークス生産量をほぼ任意に調製することも可能となる。以下、本発明の効果を実施例によって更に詳しく説明する。
【実施例】
【0018】
石炭を乾留するための炭化室として内径100mm、厚さ50mm、長さ225mmの円筒型成型断熱材を用意し、これに同材質で作成した直径200mm、厚さが50mmの底蓋を取り付け、この中に充填密度0.75g/cm3で原料石炭を充填した。石炭充填後、底蓋と同サイズ同材質の上蓋を装着した後、蓋が外れないように全体を針金で縛って固定した。その後、底蓋と円筒胴部からはマイクロ波が侵入出来ないように、この部分にアルミホイルを巻いて遮蔽した。この状態では、マイクロ波は上蓋部からしか円筒内部に侵入することが出来ない。そこで、底蓋部の石炭最下層の温度がどのように上昇していくかを観察するため、底蓋中心に小孔を開け、ここから内部石炭層の最下部温度を測定するための熱電対を挿入した。一方、上蓋の適当位置には乾留中に発生するガス等を排出するための鉄パイプを差し込み、そしてこのパイプの周りには厚さ30mmの断熱材を巻いた。
【0019】
このようにして調製した炭化室を、一辺が450mmの立方体空間を有したマイクロ波照射装置内にセットし、ここに最大出力1500W、周波数2450MHzのマイクロ波をパルス的に照射して、炭化室内の石炭を加熱、乾留した。その結果、照射開始から約4時間後に炭化室底部に設置した熱電対が800℃を指示したため、マイクロ波の照射を停止して乾留を終了した。ここで直ちに照射装置から炭化室を取り出してみたところ、円筒内部が約1000℃の赤熱状態であったのに対し、円筒外表面は常温時と全く変わらない色をしており、200℃よりも十分低い温度と推定された。
【0020】
(比較例)
上蓋をガス抜き用パイプ付きの厚さ5mmの鉄板に変更した以外は実施例と同様の炭化室を準備し、これを壁温1200℃に保持した電気炉の炉壁に密着させて乾留を行った。その結果、炭化室底部に設置した熱電対が800℃を指示したのは、乾留開始から約20h後であった。即ち、本比較例のように石炭を伝熱方式によって乾留する場合には、非常に長時間を要するのに対し、電磁波を用いた本発明法では非常に短時間で乾留が完了し、かつ良好な環境あるいは作業性が確保出来ることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明を実施するための装置の一例であり、炭化室が固定式の場合である。
【図2】本発明を実施するための装置の一例であり、炭化室が移動式の場合である。
【符号の説明】
【0022】
a 電磁波発振器
b 鉄製炉壁補強材
c 断熱材質炉蓋
d 断熱材質炭化室壁
e 装炭孔蓋
f 上昇管
1 移動式炭化室
2 加熱室
3 CDQ
4 装炭場















【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭を装入して乾留するための炭化室が実質的に断熱材料で形成されていること、および石炭を乾留するための加熱源が波長1mm以上の電磁波であることを特徴とする高炉用コークス製造装置。
【請求項2】
炭化室が移動式であることを特徴とする請求項1の高炉用コークス製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−297377(P2008−297377A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−142713(P2007−142713)
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【出願人】(599073917)財団法人かがわ産業支援財団 (35)