説明

高炉用出銑孔閉塞材

【課題】出銑孔深度と出銑時間を確保しつつ、横孔の発生率を低減させ、結果として、高炉稼働率の向上、マッド材の使用量の低減、作業負荷の軽減を実現する。
【解決手段】耐火骨材及び耐火微粉末からなる粉体を、タール及び/またはフェノールレジンと混練することにより形成される高炉用出銑孔閉塞材において、揮発分が除去された後のCaO含有率が0.2〜10mass%の割合となるようにする。
CaO源として、アルミナセメント、ポルトランドセメント、高炉スラグ、転炉スラグ、カルシアクリンカー、炭酸カルシウム、消石灰からなる群より選ばれる、CaO成分を含有する複合物質を、単独、もしくは2種類以上複合して用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出銑孔閉塞材(以下「マッド材」ともいう)に関し、詳しくは、高炉の出銑孔に充填して出銑孔を閉塞するために用いられる高炉用出銑孔閉塞材に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉の安定操業にとって、高炉の出銑孔に充填して出銑孔を閉塞するために用いられる高炉用出銑孔閉塞材(マッド材)の性能の重要性が増大している。特に近年高炉の大型化、高圧化に伴う出銑滓速度の上昇により、マッド材にはより高い耐久性が要求されるようになっている。
【0003】
マッド材に要求される主要な特性としては、溶銑やスラグに対する耐食性、出銑孔をスムーズに開孔できる開孔性、出銑孔の閉塞時の充填性、出銑孔内に残留しているマッド材の堆積物(以下「旧マッド材」という)との接着性などがある。特に出銑孔の開孔性では横孔(孔切れとも言う)が少ないことが必要である。また、高炉の高寿命化に伴い、炉壁保護の観点から出銑孔深度を長く保つ必要がある。
【0004】
横孔の発生が多くなると、出銑孔を開孔する過程で溶銑滓が差し込み、ドリル先端が損耗して掘削できなくなる(すなわち、貫通できない状態となって溶銑滓を高炉炉内から排出することができなくなり、高炉操業に支障をきたすことになる。
また、横孔が発生すると掘削できなくなり、マッド材を再び充填することが必要になる場合がある。これは、マッド材の使用量増加を招き、マッド材の原単価が上昇するだけではなく、作業負荷の増大にもなり好ましくない。
【0005】
横孔の発生の態様としては、
(1)旧マッド材と新規に充填されたマッド材との接着性不足により、接着面に溶銑滓が浸入して横孔になる場合、
(2)旧マッド材に亀裂が生じ、または、新規に充填されたマッド材に亀裂が生じて、亀裂の箇所に溶銑滓が浸入して横孔になる場合、
(3)マッド材の焼成強度が高くなって、開孔する際にマッド材が硬くなり、無理やり開孔しようとして開孔機の衝撃によりマッド材に亀裂を生じさせてしまい、亀裂に溶銑滓が浸入して横孔になる場合
などが挙げられる。
【0006】
ところで、上記(1)で述べた、旧マッド材と新規に充填されたマッド材との接着性に関する問題を軽減するために、耐火骨材にろう石を使用したマッド材が提案されている(特許文献1および2参照)。
このマッド材においては、ろう石が、1200℃以上で体積膨張して出銑孔内における密着性を向上させる機能を果たす。また、ろう石成分のSiO2が低融点物質を生成し、旧マッド材との接着性を向上させる機能を果たす。
【0007】
また、上記(2)の亀裂を抑制することが可能なマッド材として、粘土とカーボンブラックの添加量を調整したマッド材が提案されている(特許文献3および4参照)。
このマッド材においては、粘土とカーボンブラックの添加量を調整することにより1400℃焼成後の気孔率を低減させることが可能で、マッド材を緻密化させ、亀裂を抑制できるとされている。
【0008】
また、上記(3)のマッド材が硬くなることを抑制することが可能なマッド材として、土状黒鉛の添加により焼結の進行を抑制することができるようにしたマッド材が提案されている(特許文献5参照)。
このマッド材においては、土状黒鉛の添加により、焼結の進行が抑制され、開孔作業を容易にすることが可能になる。
【特許文献1】特開2000−53472号公報
【特許文献2】特開2001−335374号公報
【特許文献3】特許第2992211号公報
【特許文献4】特開平11−199337号公報
【特許文献5】特開2004−35354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来技術では、横孔の低減には一定の効果があるが、十分な耐用性が得られないという問題点がある。特にろう石を多く使用すると耐スラグ性が低下し、出銑孔の口径の拡大速度が速くなるため出銑時間が短くなるという問題点がある。
また、カーボンブラック、土状黒鉛を多く使用すると耐メタル性が低下するため出銑孔を長く保つことが困難になるという問題点がある。
【0010】
本発明は上記課題を解決するものであり、横孔の発生を低減することが可能で、かつ、出銑時間を確保し、出銑孔深度を維持することが可能な高炉用出銑孔閉塞材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の高炉用出銑孔閉塞材は、
耐火骨材及び耐火微粉末からなる粉体を、タール及び/またはフェノールレジンと混練することにより形成される高炉用出銑孔閉塞材であって、
揮発分が除去された後の状態において、CaOを0.2〜10mass%の割合で含有すること
を特徴としている。
【0012】
また、本発明の高炉用出銑孔閉塞材においては、CaO源として、アルミナセメント、ポルトランドセメント、高炉スラグ、転炉スラグ、カルシアクリンカー、炭酸カルシウム、消石灰からなる群より選ばれる物質を、単独、もしくは2種類以上複合して用いることが好ましい。
【0013】
本発明の高炉用出銑孔閉塞材(マッド材)においては、揮発分が除去された後の状態において、CaOを0.2〜10mass%の割合で含有させるようにしているので、出銑孔深度と出銑時間を確保しつつ、横孔を低減させることが可能になる。そして、その結果、高炉稼働率の向上を図ることが可能になるとともに、マッド材の使用量の低減、作業負荷の軽減を実現することが可能になる。したがって、本発明の高炉用出銑孔閉塞材は、高い産業的価値を有している。
【0014】
本発明の高炉用出銑孔閉塞材(マッド材)において、CaO源として、アルミナセメント、ポルトランドセメント、高炉スラグ、転炉スラグ、カルシアクリンカー、炭酸カルシウム、消石灰からなる群より選ばれる物質を、単独で、もしくは2種類以上複合して用いることにより、特にコストの増大を招いたりすることなく、上述の作用効果を奏する高炉用出銑孔閉塞材を提供することが可能になり本願発明をより実効あらしめることが可能になる。
【0015】
本発明の高炉用出銑孔閉塞材(マッド材)において、揮発分が除去された後における、CaO成分の割合を0.2〜10mass%の範囲とするのが好ましいのは、CaO成分の割合が0.2mass%未満になると、マッド材どうしの接着性が不十分になり、横孔を防止する効果が十分に得られないことによる。
【0016】
例えば、CaOを含有しないSiO2−Al23系の酸化物あるいは、CaOを微量含有するベントナイト(SiO2一Al23−CaO)を添加しても、旧マッド材と新規に充填されたマッド材との接着強度を顕著に向上させることはできないことが確認されている。
【0017】
また、CaO成分の割合が10mass%を超えるとマッド材の耐食性が低下するため、耐用性が低下し、特に出銑時間と出銑孔深度が低下するので好ましくない。
すなわち、CaO源として、アルミナセメント、ポルトランドセメント、高炉スラグ、転炉スラグ、カルシアクリンカー、炭酸カルシウム、消石灰などのCaO成分を含有する複合物質を、揮発分が除去された後におけるCaOの含有割合が、0.2〜10mass%の範囲となるように添加することにより、マッド材どうしの接着強度を向上させることが可能になる。
【0018】
また、本発明において、CaO源として例えば高炉スラグを用いる場合、図1に示すSiO2一Al23−CaO系の状態図からもわかるように、高炉スラグ(CaO源)の組成は、融点が1315℃〜1400℃付近にある。
一方、高炉内で生成される溶銑及びスラグの温度は、おおよそ1500〜1550℃である。
そのため、マッド材に含有されるCaO源(高炉スラグ)の融点の方が、高炉内で生成される溶銑及びスラグの温度よりも低く、本発明のマッド材を実機に使用した場合、この部分が溶融し、マッド材を構成する粒子間に浸入して、粒子の成分をその温度での平衡組成になるまで溶解させる。この効果によりマッドどうしが融着するため、旧マッド材と新規に充填されたマッド材との接着強度が向上する。
【0019】
また、CaO源であるCaO含有物質が多くなりすぎた場合には、粒子間の溶融物量が多くなり、多量のマッド材成分が溶解することになるため、耐食性が低下し、出銑時間や出銑孔深度が著しく低下する。
【0020】
また、CaO源としての、アルミナセメント、ポルトランドセメント、高炉スラグ、転炉スラグ、カルシアクリンカー、炭酸カルシウム、消石灰などのCaO成分を含有する複合物質は、CaO成分が0.2〜10mass%の範囲になるように単独で用いてもよく、また、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
また、本発明の高炉用出銑孔閉塞材(マッド材)においては、耐火原料(耐火骨材及び耐火微粉末)として、一般にマッド材に使用される天然ボーキサイト、バンド頁岩、電融アルミナ、ろう石、炭化珪素、窒化珪素鉄、粘土、シリカヒューム、コークス、カーボンブラック、土状黒鉛、粉末ピッチ、金属シリコン、フェロシリコン、金属アルミニウムなどを種々の割合で含有させることが可能である。
【0022】
また、本発明の高炉用出銑孔閉塞材(マッド材)においては、バインダーとして残炭素有機化合物が用いられるが、この残炭素有機化合物としては、無水タール、フェノールレジンなどが例示される。
【0023】
上述のように構成された本発明の高炉用出銑孔閉塞材(マッド材)によれば、旧マッド材と新規に充填されたマッド材との接着性を向上させて横孔の発生を低減し、高い耐用性(出銑時間の確保と出銑孔深度の維持)を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に本発明の実施例を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0025】
表1に示すような割合でアルミナ微粉、ろう石、炭化珪素、コークス、窒化珪素鉄、粘土、カーボンブラック、土状黒鉛、粉末状ピッチ、金属シリコン、金属アルミニウム、CaO含有物質(この実施例では高炉スラグ)、無水タールを所定の割合で配合してなる高炉用出銑孔閉塞材(マッド材)を作製し、下記の耐食性試験、接着性試験、および実機試験に供した。
なお、高炉スラグの組成はSiO2が34・8%、Al23が14.4%、CaOが42.9%、MgOが6.8%のものを用いた。
【0026】
[耐食性試験]
マッド材を40×40×160mmの直方体の形状に4MPaで加圧成型した後、コークスブリーズ中で、500℃、4時間の加熱処理を行って揮発分を除去し、これを試料とした。
【0027】
このようにして得られた試料の耐食性を、高周波炉内張り法により評価した。耐食性の評価には銑鉄と高炉スラグを用い、1580℃で5時間保持することにより行った。なお、スラグ成分の飽和を防ぐために1時間に1回、スラグの入れ替えを行った。
そして、試験終了後に、試料を中心で切断し、スラグに接触していた部分の切断面における侵食面積を測定した。
【0028】
その結果を表1に併せて示す。なお、侵食面積は、CaO含有物質(この実施例では高炉スラグ)を添加していない比較例1の浸食面積を100とする溶損指数で表した。すなわち、溶損指数は小さいほど耐食性が良好であることを示している。
【0029】
[接着性試験]
接着させる試片は、上述の組成の、実施例1のマッド材を40×40×80mmの直方体の形状に4MPaで加圧成型した後、コークスブリーズ中で、500℃、4時間の加熱処理を行って揮発分を除去した後、コークスブリーズ中で1400℃×3時間の還元焼成を行ったものを用いた。
【0030】
そして、図2に示すように、1400℃×3時間の還元焼成を行った焼成後マッド成型体1に、生マッド材を40×40×80mmの直方体の形状に4MPaで加圧成型した生マッド成型体2を接着させた。なお、生マッド成型体2の焼成後マッド成型体1への接合圧力も4MPaとした。
その後、焼成後マッド成型体1と生マッド成型体2の接合体3を、コークスブリーズ中で、500℃、4時間の条件で加熱処理することにより揮発分を除去した後、コークスブリーズ中で1400℃×3時間の還元焼成を行った。
【0031】
それから、焼成後の接合体を試料とし、3点曲げ試験機を用いて図3に示すような方法で3点曲げ試験を行い、接合体が折れたり、接合部で剥離したりしたときの力を接着強さとした。
【0032】
上述のようにして調べた接着強さを表1に併せて示す。接着強さの値が大きいほど、マッド材どうしの接着性が良好であることを示している。なお、マッド材どうしの接着性が高いほど、溶銑滓の浸入が抑制され横孔の発生が少なくなるため好ましい。
【0033】
[実機試験]
5000m3クラスの高炉の出銑孔に、マッドガンを用いて実際に表1の各マッド材を充填し、出銑孔深度、出銑時間、横孔発生率を調査した。
その結果を表1に併せて示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1に示すように、本発明の要件を満たす実施例1〜5の試料においては、CaO源である高炉スラグの添加量が増えると溶損指数が若干低下するが、接着強さは向上することが確認された。
【0036】
また、実機試験においては、本発明の要件を満たす実施例1〜5の試料の場合、CaO源の高炉スラグの添加量が増えると横孔発生率が低下し、出銑孔深度はほとんど変わらず問題がないことが確認され、また、出銑時間については、CaO源の高炉スラグの添加量が増えると若干短くなる傾向が見られたが、実使用上問題ないレベルであることが確認された。また、実施例1〜5の試料の場合、いずれにおいても、横孔発生率を低減する効果が得られることが確認された。
【0037】
これに対し、従来のマッド材である比較例1は接着強さが低く、また、実機使用結果において、出銑孔深度と出銑時間は問題ないが、横孔発生率が高く実使用上問題があることが確認された。
【0038】
また、CaO源の高炉スラグを少量添加している比較例2の試料の場合、接着強さは僅かしか向上しないことが確認された。また、実機使用結果においても横孔発生率が殆ど低下せず、効果が不十分であることが確認された。
【0039】
また、本発明の範囲を超えてCaO源の高炉スラグを多量に添加した比較例3の試料の場合、接着強さは向上しているものの、溶損指数が著しく低下することが確認された。また、この比較例3の場合、実機使用時に出銑孔深度と出銑時間の著しい低下が予想されるため、実機での使用は行わなかった。
【0040】
なお、上記実施例では、CaO源として高炉スラグを使用しているが、CaO源として、転炉スラグ、アルミナセメント、ポルトランドセメント、カルシアクリンカー、炭酸カルシウム、および消石灰のいずれを用いた場合にも、ほぼ同じ効果が得られることが確認されている。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の高炉用出銑孔閉塞材を用いることにより、出銑孔深度と出銑時間を確保しつつ、横孔の発生率を低下させることが可能になり、結果として、高炉稼働率の向上、マッド材の使用量の低減、作業負荷の軽減を図ることができる。
したがって、本発明は、産業的価値がきわめて高く、高炉の出銑孔に充填して出銑孔を閉塞するために用いられるマッド材として広く用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】SiO2−A123−CaO系の状態図である。
【図2】本発明の実施例において接着性試験に供した試料(マッド材の接合体)の作製方法を示す図である。
【図3】接着強さを調べるために、焼成後の接合体について3点曲げ試験を行う方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0043】
1 焼成後マッド成型体
2 生マッド成型体
3 焼成後マッド成型体と生マッド成型体の接合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火骨材及び耐火微粉末からなる粉体を、タール及び/またはフェノールレジンと混練することにより形成される高炉用出銑孔閉塞材であって、
揮発分が除去された後の状態において、CaOを0.2〜10mass%の割合で含有すること
を特徴とする高炉用出銑孔閉塞材。
【請求項2】
CaO源として、アルミナセメント、ポルトランドセメント、高炉スラグ、転炉スラグ、カルシアクリンカー、炭酸カルシウム、消石灰からなる群より選ばれる物質を、単独、もしくは2種類以上複合して用いることを特徴とする請求項1記載の高炉用出銑孔閉塞材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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