説明

高熱伝導性熱可塑性エラストマー組成物および熱伝導性シート

【課題】熱伝導性および放熱性に優れ、かつリサイクル可能な高熱伝導性エラストマー組成物およびこれらからなる熱伝導性異方性に優れたシートを提供する。
【解決手段】熱可塑性エラストマーに熱伝導性充填剤として、アスペクト比が3以上かつ長さ2μm以上の炭素系繊維を10〜600重量%配合した高熱伝導性熱可塑性エラストマー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い熱伝導性を有すると共に、表面性あるいは密着性の良い、熱を発生する電子部品の放熱シートとして使用するのに好適な高熱伝導性熱可塑性エラストマー組成物および該エラストマー組成物を用いた熱伝導装置などを組み立てるに適すると共に、熱伝導性異方性に優れた熱導電性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型情報機器、特にノート型パソコンの小型化、高性能化に伴い、CPU(中央演算処理装置)から発生する熱量も増大し、この熱を如何に外部に逃がし、冷却するかが大きな問題となっている。従来、このような放熱対策としては、例えば、ヒートパイプが接続されたアルミニウムなどの放熱板などが広く用いられている。この放熱板は、CPU上に固定させる必要があり、一般的にネジで締める方法が採られている。
【0003】
しかしながら、この場合、必然的に、CPUと放熱板との接触界面に熱抵抗が生じてしまうため、放熱部品本来の性能を発揮することができず、放熱性も低下する。また、熱抵抗が大きすぎると、CPUからの輻射による熱拡散も大きくなってしまい、周辺部品に悪影響を及ぼすことが考えられる。従って、CPUと放熱板との接触抵抗を低減させて効率良く放熱板に熱を伝えることが重要となってくる。
【0004】
この接触熱抵抗を小さくする手段として、特許文献1(特開平6−155517号公報)、特許文献2(特開平7−266356号公報)、特許文献3(特開平8−238707号公報)などに開示されるように、熱伝導性を高めるために金属粉あるいは酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなどのセラミックス粉あるいは天然黒鉛、カーボンブラックなどのカーボン粉などの充填剤を粘着性シリコーンゴム基材に添加した放熱シリコーンゴムシートが提案されている。
【0005】
しかしながら、このようなシリコーンゴムシートの熱伝導率は、最終的に充填剤粒子どうしの接触頻度に大きく影響されるため、充填剤本来の持つ高い熱伝導性が十分に発揮されず、接触熱抵抗は低減するものの未だ放熱性能が不十分であるという問題があった。一方、接触頻度を高めようとして充填剤の配合量を多くすると、基材が硬化しない、あるいはでき上がったゴムシートの粘着性が低下するという製造工程上の問題もあった。
【0006】
また、特許文献4(特開平7−207160号公報)には、シリコーンポリマー基材に増稠剤と称される微粉末充填剤および金属あるいは合金を混練し、さらに炭素繊維などの炭素材料を配合させることにより、熱伝導性および導電性に優れたシリコーン組成物を製造する方法が開示されている。さらに、特許文献5(特開平11−279406号公報)には、シリコーンゴム基材に長さが10〜150μmの炭素繊維を加えたことを特徴とする高熱伝導性シリコーンゴム組成物が開示されているが、これは、単に、長繊維を混ぜることで接触確率が向上することを期待するものである。
【0007】
しかしながら、上記組成物は、あくまでも該シリコーン組成物の導電性あるいは熱伝導性を向上させるあるいは安定化させる目的のみの成分であり、バインダーとしては、シリコーン材料成分以外は開示されていないため、炭素系繊維を用いて熱可塑性エラストマー組成物に高い熱伝導性を付与する方法については何ら開示されていない。
【特許文献1】特開平6−155517号公報
【特許文献2】特開平7−266356号公報
【特許文献3】特開平8−238707号公報
【特許文献4】特開平7−207160号公報
【特許文献5】特開平11−279406号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、熱伝導性および放熱性に優れた高熱伝導性熱可塑性エラストマー組成物および該組成物を成形してなる熱伝導性異方性に優れた熱伝導性シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、熱可塑性エラストマーに、熱伝導性充填剤として、アスペクト比が3以上かつ長さ2μm以上の炭素系繊維を10〜600重量%配合した高熱伝導性熱可塑性エラストマー組成物(以下、「エラストマー組成物ともいう」)に関する。
また、本発明では、上記エラストマー組成物100重量部に対し、配向促進剤を3〜50重量部配合することが好ましい。
上記熱可塑性エラストマーは、飽和型の熱可塑性エラストマーであることが好ましい。
また、上記炭素系繊維は、カーボンナノチューブおよび/またはピッチ系炭素繊維であることが好ましい。
さらに、配向促進剤としては、スメクタイト、変性スメクタイト、合成スメクタイト、モンモリロナイト、変性モンモリロナイト、ベントナイト、変性ベントナイト、雲母および合成雲母の群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
次に、本発明は、これらの組成物を成形することにより得られる熱伝導性シートに関する。
上記シートの厚さ方向の熱伝導性は、2W/M・K以上であることが好ましい。
また、配向促進剤を加えた本発明の熱可塑性エラストマー組成物を用いて成形した熱伝導性シートは、通常、厚さ方向と水平方向の熱伝導性異方性が10倍以上異なる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、熱伝導性および放熱性に優れ、表面性および密着性の良好な、高い熱伝導性を有する高熱伝導性熱可塑性エラストマー組成物および該組成物を用いて成形した熱伝導性異方性に優れた熱伝導性シートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に用いられる熱可塑性エラストマーは特に限定されるものではなく、公知のものを用いることができ、特にハードセグメントとソフトセグメントの選択により、種々の材料が用いられる。具体的に述べれば、熱可塑性エラストマーは不飽和成分を含むSB(スチレン−ブタジエンゴム)、SBS(スチレン−ブタジエン−スチレンゴム)、SIS(スチレン−イソプレン−スチレンゴム)など、あるいはこれらの水素添加品型の飽和型熱可塑性エラストマーのいずれも使用できるが、飽和型の熱可塑性エラストマーが好ましく用いられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を併用しても良い。
【0012】
なお、上記熱可塑性エラストマーは、架橋、加硫は不要であるが、耐熱性や耐クリープ性を改良するために、成形後、あるいは成形と同時に、架橋、加硫を実施しても良く、架橋方式においてはパーオキサイド架橋、多官能架橋、UV架橋、電子線架橋、加硫剤による加硫などのいずれをも選択できる。また、これらの熱可塑性エラストマーには、補強剤、分散剤、耐熱向上剤、難燃性付与剤、導電性付与剤、顔料などの公知の添加剤を添加してもよい。
【0013】
本発明で定義する熱伝導性充填剤としての炭素系繊維とは、アスペクト比が3以上かつ長さ2μm以上の炭素からなる繊維であり、具体的には、(A)気相成長法炭素繊維と(B)上記(A)以外の炭素繊維に大別される。(A)の気相成長法炭素繊維は、気相で成長させた炭素繊維であり、単層カーボンナノチューブ、2層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、VGCFなどがある。(B)の(A)以外の炭素繊維としては、ピッチ系、ポリアクリロニトリル系およびレーヨン系の炭素繊維などがある。(B)の炭素繊維は、繊維を不溶融化後、炭化処理した繊維であり、その形状としては、チョップド繊維、ウィスカー状繊維などがある。
【0014】
上記熱可塑性エラストマーに配合することのできる炭素系繊維としては、アスペクト比が3以上かつ長さ2μm以上の炭素系繊維であり、上記の炭素系繊維の1種単独であるいは2種以上を混合して用いることもできる。
【0015】
本発明においては、これらいずれの炭素系繊維も使用することが可能だが、なかでも高い熱伝導性を容易に発現させることのできるカーボンナノチューブおよび/またはピッチ系炭素繊維が特に好ましい。
【0016】
本発明において炭素系繊維は、以下に詳述するように繊維長と繊維径の比、すなわちアスペクト比が3以上のものである。好ましくは、10以上である。アスペクト比は、さらに好ましくは25〜5,000である。アスペクト比が3未満では、熱可塑性エラストマー内における炭素繊維どうしの接触が得られ難く、熱伝導性充填剤の効果を発揮することができないため好ましくない。なお、アスペクト比が5,000を超えると、熱可塑性エラストマー内において炭素繊維の分散性が低下するため好ましくない。
また、繊維長さは、2μm以上、好ましくは2〜10,500μm、さらに好ましくは5〜7,000μm、より好ましくは10〜3,000μm、特に好ましくは30〜2,000μmである。繊維長が2μm未満では、熱の伝導ロスが大きくなり好ましくない。
【0017】
熱可塑性エラストマーに対する、熱伝導性充填剤としての特定アスペクト比を有する炭素系繊維の添加量は、通常、10〜600重量%、好ましくは30〜400重量%、さらに好ましくは50〜200重量%である。ここで、添加量が10重量%未満では熱可塑性エラストマーにおいて炭素系繊維どうしの接触頻度が低下し、所望の熱伝導率を得ることができなくなるため好ましくない。一方、600重量%を超えると、炭素系繊維が熱可塑性エラストマーに均一に分散、混合することが困難になるのと同時に、機材が成形でき難くなったり、得られるエラストマー組成物の均一性や表面性が低下するため好ましくない。
【0018】
本発明では、一般にカーボンナノチューブやVGCFなどの(A)気相成長法炭素系繊維をそのまま使用するか、あるいは(B)該(A)成分以外の炭素繊維を切断、粉砕することにより上記のような繊維長さとした炭素系繊維を得ることができる。繊維長さが上記範囲に満たない場合、炭素系繊維との接触頻度あるいは接触点が減少するため好ましくない。なお、上記好ましい範囲を超えた場合、エラストマー内における分散性が低下し、炭素系繊維どうしが絡み合ってしまい、目的を果たすことができないことがある。
【0019】
本発明に使用される炭素系繊維の熱伝導率は、通常、100W/M・K以上、好ましくは300W/M・K以上、より好ましくは400W/M・K以上のものを使用することができる。
【0020】
本発明では、さらに、これらのエラストマー組成物に配向促進剤を加えることにより、エラストマー組成物をシートに成形すると、そのシートの厚さ方向と水平方向の熱伝導性異方性が10倍以上異なる熱伝導性シートを製造することができる。
配向促進剤は、板状結晶を有する化合物で、具体的にはスメクタイト、変性スメクタイト、合成スメクタイト、モンモリロナイト、変性モンモリロナイト、ベントナイト、変性ベントナイト、雲母および合成雲母などが挙げられる。
【0021】
変性スメクタイトとしては、スメクタイト結晶間のNaイオンを四級アンモニウム塩で反応させた、有機溶剤に可溶性を示すナノ材料を意味する。これらの鉱物はSi(OH)の四面体構造とAl(OH)、またはMg(OH)の八面体構造からなるアルミノシリケートで代表される。類似の材料として天然の粘土鉱物であるベントナイト、雲母が挙げられる。変性ベントナイトとしては、{Si(Al3.34Mg0.620・(OH)Na0.66)}で示される親水性のベントナイトを有機カチオンで交換し有機溶剤になじむようにした材料であり、{Si(Al3.34Mg0.66)O20・(OH)}(NRの式で1例として表され、ここで、Rは置換若しくは非置換の炭素数4〜24の一価炭化水素基(例えば、ブチル基、ヘキシル基、2−エチルブチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ウンデシル基、ステアリル基などのアルキル基、不飽和結合を1コ以上含有するアルケニル基、シクロヘキシル基およびシクロペンチル基などのシクロアルキル基、フェニル基、トリル基などのアリール基、フェニルエチル基などのアラルキル基などであり、これらの基はその水素原子の一部または全部をアルコキシシリル基或いはシアノ基などで置換されていても良い)を表す。また、上記有機カチオンとしては、アンモニウム塩、フォスフォニウム塩、スルフォニウム塩などのオニウム塩などが挙げられる。
これら配向促進剤は、1種単独でも、2種以上を併用して用いることもできる。
これらの配向促進剤を加えることにより炭素系繊維の配向が促進されて高い熱伝導性異方性が発現される。
【0022】
配向促進剤の添加量としては、本発明の高熱伝導性熱可塑性エラストマー組成物100重量部に対し3〜50重量部、好ましくは、5〜50重量部である、3重量部未満では、配向促進効果が小さく、一方、50重量部を超えると熱伝導性が低下する。
【0023】
さらに、上記エラストマー組成物と併用可能な添加剤として、各種カーボンブラック、導電性カーボンブラック、フラーレンおよびその誘導体などの炭素材料、ならびに金属炭化物、金属酸化物、窒化ホウ素などが挙げられ、具体的には酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、二酸化ケイ素、酸化ベリリウム、キュービック窒化ホウ素、ヘキサゴナル窒化ホウ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素などが挙げられ、これらは1種および2種以上を併用してもよい。これらの添加により、エラストマー組成物の硬度や機械的特性を変えることが期待される。
【0024】
熱可塑性エラストマー組成物の製造は、湿式と乾式が可能である。湿式プロセスでは、熱可塑性エラストマーをあらかじめ、作業しやすい粘度となるように芳香族系、脂肪属系の溶剤により希釈もしくは溶解ないし分散して使用することができる。これらの溶液あるいは分散液に炭素系繊維および必要に応じて各種の添加剤を加えて混合することにより製造することができる。混合方法としては、超音波混合、ミルミキサー、ジェットミキサー、ナノマイザーなどの装置を用いて混合できる。一方、ドライシステムでは、あらかじめタンブラーやオムニミキサーで炭素系繊維と熱可塑性エラストマーをブレンドし、さらに必要に応じて炭素系繊維を配向させるために特定の配向促進剤を使用することができる。
【0025】
本発明の高熱伝導性熱可塑性エラストマー組成物から上記熱伝導性シートを得る場合、あらかじめ所望の厚みとなるような所定量の該高熱伝導性熱可塑性エラストマー組成物を成形容器に充填し硬化させて該シートを得ることができる。また、上記熱可塑性エラストマー組成物をブロック状に成形し、そこから所望の厚みのシートを切り出すこともできる。この場合、上記熱可塑性エラストマー組成物が柔らかすぎて切り出しが困難な場合は、該組成物を切り出し可能な温度まで冷却させてから切り出すことができる。冷却手段としては、冷蔵庫、冷凍庫、氷、ドライアイス、液体窒素、液体ヘリウムなどを適宜選択して用いることができる。このように、いずれの手法を用いても上記熱可塑性エラストマーシートを得ることができる。
成形方法としては、上記シートモールディングのほか、押し出し成形、射出成形などの手法が使用できる。
【0026】
本発明では、高熱伝導性熱可塑性エラストマー組成物をシート状に成形して、放熱シートとして好適な熱伝導性シートを製造することができるが、最終的なシートの厚みは、通常、0.1〜10mm、好ましくは0.5〜5mm、さらに好ましくは0.8〜3mmである。上記熱可塑性エラストマーは、放熱部と発熱部との接触熱抵抗を限りなく小さくするために、製造時の厚みに限定されることなく潰して薄くした状態でも使用することができる。シート厚さはシートを用いる用途、部位などにより異なる。
【0027】
本発明で得られる高熱伝導性熱可塑性エラストマー組成物あるいは熱伝導性シートを用いて、発熱部と放熱部を接続した熱伝導装置を得ることができる。具体例として、本発明の高熱伝導性熱可塑性エラストマー組成物をパソコンの放熱シートとして用いることができる。また、本発明の熱伝導性シートに複数の放熱板および/またはCPUなどの複数の発熱部品を接続することもでき、放熱板と放熱板の間に熱伝導性シートを挟んで積層して用いることもできる。
【0028】
本発明において、熱伝導性シートの熱伝導率は高ければ高いほど好ましい。本発明の熱伝導性シートの熱伝導率は、好ましくは2W/M・K以上、さらに好ましくは10W/M・K以上、より好ましくは30W/M・K、特に好ましくは50W/M・K以上である。
【0029】
本発明の高熱伝導性熱可塑性エラストマー組成物は、上記熱可塑性エラストマーに炭素系繊維、さらに必要に応じて、無機系の配向促進剤が配合されているので、リサイクルが可能である。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
なお、実施例中の物性は、次のようにして測定した。
熱伝導率
ネッチェ(NETZSCH)社のXeフラッシュアナライザー LFA447Nanoflashにて測定した。
【0031】
実施例1
あらかじめトルエンに溶解した熱可塑性エラストマー(JSR(株)製、商品名:Dynaron 8900)10重量%溶液に、熱伝導性充填剤として、熱伝導率約1,200W/M・K、長さ約20μm、アスペクト比100の気相成長炭素繊維であるVGCF(昭和電工(株)製)40重量%を添加し、十分な攪拌混合を行いスラリーとし、200×200×2mmのポリテトラフルオロエチレン(米国デュポン社製、テフロン樹脂、以下同じ)製容器に高さ約2mmまで流し込み、脱泡および乾燥処理を行って熱可塑性エラストマー組成物を得た。得られた組成物を容器から取り出し、厚さ約0.5mmの熱可塑性エラストマーシートを得た。このシートの熱伝導率を測定したところ2.8W/M・Kで、熱伝導性に優れる高熱伝導性エラストマーシートが得られた。
【0032】
実施例2
あらかじめトルエンに溶解した熱可塑性エラストマー(JSR(株)製、商品名:Dynaron 8900)10重量%溶液に、熱伝導性充填剤として、熱伝導率約600W/M・K、長さ250μm、アスペクト比25のピッチ系炭素繊維XN−100−20Mを熱可塑性エラストマー基材に対して4重量%を添加し、十分な攪拌混合を行いスラリーとし、200×200×2mmのテフロン樹脂製容器に高さ約2mmまで流し込み、脱泡および乾燥処理を行って熱可塑性エラストマー組成物を得た。得られた組成物を容器から取り出し、厚さ約0.5mmの熱可塑性エラストマーシートを得た。この該シートの熱伝導率を測定したところ2.6W/M・Kで、熱伝導性に優れる高熱伝導性熱可塑性エラストマーシートが得られた。
【0033】
実施例3
あらかじめトルエンに溶解した熱可塑性エラストマー(JSR(株)製、商品名:Dynaron 8900)10重量%溶液に、熱伝導性充填剤として、気相成長法炭素繊維材料(A)成分として熱伝導率約1200W/M・K、長さ約20μm、アスペクト比100のVGCF(昭和電工製)および炭素系繊維(B)成分として熱伝導率約600W/M・K、長さ250μm、アスペクト比25のピッチ系炭素繊維XN−100−20Mを熱可塑性エラストマー基材に対して1対1の割合で混合して40重量%を添加し、十分な攪拌混合を行いスラリーとし、200×200×2mmのテフロン樹脂製容器に高さ約2mmまで流し込み、脱泡および乾燥処理を行って熱可塑性エラストマー組成物を得た。得られた組成物を容器から取り出し、厚さ約0.5mmの熱可塑性エラストマーシートを得た。該シートの熱伝導率を測定したところ3.5W/M・Kで、熱伝導性に優れる高熱伝導性エラストマーシートが得られた。
【0034】
実施例4
実施例1で用いた熱可塑性エラストマーに配向促進剤として、板状フィラーの変性スメクタイト(コープケミカル社のSAN)を熱可塑性エラストマーに、10重量%添加し、しかる後に熱伝導性充填剤として、(A)気相合成法の炭素繊維材料である熱伝導率約1,200W/M・K、長さ約20μm、アスペクト比100のVGCF(昭和電工)および(B)熱伝導率約600W/M・K、長さ250μmピッチ系炭素繊維XN−100−20Mを該エラストマーに対して40重量%を添加し、実施例1と同様にして成形した。実施例1と同様に厚さ約0.5mmの熱可塑性エラストマーシートを得た。このシートの熱伝導率を測定したところ、厚さ方向2.4W/M・Kシート方向が43W/M・Kで、異方性の大きい熱伝導性に優れる高熱伝導性エラストマーシートが得られた。
【0035】
実施例5−1〜5−4
実施例4で用いた熱可塑性エラストマーに、配向促進剤の種類、量を変量して添加した。十分な攪拌混合を行ってから、200×200×20mmのテフロン樹脂製容器に高さ約2mmまで流し込み、脱泡および乾燥処理を行って熱可塑性エラストマー組成物を得た。得られた組成物を容器から取り出し、実施例1と同様に厚さ約0.5mmの熱可塑性エラストマーシートを得た。このシートの熱伝導率を測定したところ、表1に示すように熱伝導性に優れる高熱伝導性エラストマーシートが得られた。
【0036】
【表1】

【0037】
実施例6
実施例4で用いた熱可塑性のエラストマーとしてDYNARON 8900の代わりにDYNARON 8600を用いた以外は、同様にしてサンプルシートを作製した、200×200×20mmのテフロン樹脂製容器に高さ約2mmまで流し込み、脱泡および硬化処理を行って熱可塑性エラストマー組成物を得た。得られた組成物を容器から取り出し、実施例1と同様に厚さ約2mmの熱可塑性エラストマーシートを得た。このシートの熱伝導率を測定したところ、熱伝導性に優れる高熱伝導性熱可塑性エラストマーが得られた。
すなわち、このシートの熱伝導率を測定したところ、厚さ方向2.8W/M・K、シート方向は37W/M・Kであった。
【0038】
実施例7−1、7−2
実施例2と同様にして実験を行なった。実施例2で使用したピッチ系炭素繊維XN−100−20Mのアスペクト比を変化させて同様の実験を行なった。結果を表2に示した。
【0039】
比較例1
アスペクト比がほぼ1のピッチ系炭素繊維を用い、実施例7と同様に実験を行なった。結果を表2に示した。
【0040】
【表2】

【0041】
比較例2
200×200×20mmのテフロン樹脂製容器に、シリコーンゴム)を高さ約2mmまで流し込み、脱泡および硬化処理を行ってシリコーンゴム組成物を得た。得られた組成物を容器から取り出し、実施例1と同様に厚さ約2mmのシリコーンゴムシートを得た。該シートの熱伝導率を測定したところ、0.16W/M・Kであった。
【0042】
以下に、実施例および比較例で用いた原料をまとめて示す。
熱可塑性エラストマー:JSR(株)製 商品名:DYNARON 8630P
熱可塑性エラストマー:JSR(株)製 商品名:DYNARON 8900P
熱可塑性エラストマー:JSR(株)製 商品名:DYNARON 8600P
炭素系フィラー:
日本グラファイトファイバー(株)製 ピッチ系炭素繊維 商品名:XN−100−20M(熱伝導率約900W/M・K、長さ約200μm)
昭和電工(株)製 気相成長法炭素繊維 商品名:VGCF(熱伝導率約1,200W/M・K、長さ約10〜20μm)
板状フィラー:コープケミカル(株)製合成スメクタイト 商品名:ルーセンタイト(SAN)
板状フィラー:(株)ホージュン 製 有機ベントナイト 商品名:エスベンNX
板状フィラー:(株)ホージュン 製 有機ベントナイト 商品名:エスベンNZ
板状フィラー:コープケミカル(株)製 合成雲母 商品名:MK−100
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の高熱伝導性熱可塑性エラストマー組成物は、熱伝導性および放熱性に優れ、該組成物から得られる熱伝導性シートは熱伝導性異方性に優れているため、パソコンの放熱シート、複数の放熱板および/またはCPUなどの複数の発熱部品の接続シート、放熱板と放熱板の間に本発明の熱可塑性エラストマーシートを緩衝材として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマーに、熱伝導性充填剤として、アスペクト比が3以上かつ長さ2μm以上の炭素系繊維を10〜600重量%配合したことを特徴とする高熱伝導性熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の高熱伝導性熱可塑性エラストマー組成物100重量部に対し、配向促進剤を3〜50重量部配合した高熱伝導性熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
熱可塑性エラストマーが、飽和型の熱可塑性エラストマーである請求項1または2記載の高熱伝導性熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
炭素系繊維が、カーボンナノチューブおよび/またはピッチ系炭素繊維である請求項1〜3いずれかに記載の高熱伝導性熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
配向促進剤が、スメクタイト、変性スメクタイト、合成スメクタイト、モンモリロナイト、変性モンモリロナイト、ベントナイト、変性ベントナイト、雲母および合成雲母の群より選ばれた少なくとも1種である請求項2〜4いずれかに記載の高熱伝導性熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載の高熱伝導性熱可塑性エラストマー組成物を用いて成形した熱伝導性シート。
【請求項7】
シートの厚さ方向の熱伝導性が2W/M・K以上である請求項6記載の熱伝導性シート。
【請求項8】
請求項2記載の高熱伝導性熱可塑性エラストマー組成物を用いて成形してなる、厚さ方向と水平方向の熱伝導性異方性が10倍以上異なる熱伝導性シート。

【公開番号】特開2008−37916(P2008−37916A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−210755(P2006−210755)
【出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(597114270)株式会社国際基盤材料研究所 (24)
【出願人】(000201113)船井電機株式会社 (7,855)
【出願人】(505303059)株式会社船井電機新応用技術研究所 (108)
【Fターム(参考)】