説明

高甘味度甘味料とモルトエキスを含有する甘味料組成物

【課題】スクラロースやステビア抽出物などの高甘味度甘味料の味質の改善、特に甘味の後引き感などを改善する。
【解決手段】高甘味度甘味料とモルトエキスを含有する甘味料組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高甘味度甘味料とモルトエキスを含有する甘味料組成物、及び高甘味度甘味料にモルトエキスを添加する高甘味度甘味料の味質の改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品、医薬品等の経口組成物に用いる甘味料として、砂糖(ショ糖)が、良質な甘味とコク味(ボディー感)を有し、保湿性、粘度の付与等の特性も優れていることから、広く利用されている。しかし、ショ糖は良質な甘味とコク味を有するものの、肥満や虫歯の原因となるので、最近の健康志向や低カロリー志向から敬遠されるようになってきている。特に、飲料や菓子などの嗜好品においては、低カロリー化が進んでおり、これらについて、ショ糖と同等の良質な甘味を有し、かつ、低カロリー化できる甘味料が望まれている。
【0003】
このような要望に応えるショ糖に代わる甘味料として、いわゆる高甘味度甘味料があり、これらの多くはショ糖より強い甘味を有するため、少ない使用量で甘味を付与することができる、低カロリー甘味料としての特徴を併せ持っている。しかし、高甘味度甘味料の多くは、ショ糖と同等の良質な甘味とコク味(ボディ感)を有しているものは少なく、独特の苦味や渋味を有している、甘味の立ち上がりが遅れる、甘味が後を引く等といった欠点を持つものが多い。
【0004】
その中でも、スクラロースは、それらの欠点の少ない、きわめて砂糖に近い甘味質を有する合成の高甘味度甘味料である。また、スクラロースは甘味質が優れているだけでなく、レトルト殺菌やUHT殺菌のような食品の加熱殺菌工程中でも安定であり、長期保存や缶コーヒー等の保温販売などにおける保存安定性にきわめて優れていることにより、加工食品の甘味付与に最も優れた甘味料の一種であり、広く用いられている。しかしながら、スクラロースの味質において、甘味の後引き感が少なからず違和感を与えることがあり、さらにコク味においてもショ糖に劣るため、これらの改善が求められている。
【0005】
また、高甘味度甘味料の中でもステビア抽出物は、近年の天然物志向から、好んで使用されるようになってきている。しかしながら、ステビア抽出物には甘味の後引き感があることや、コク味に欠けることに加えて、甘味の発現が遅いことや、独特の苦味を有しているという問題点もある。
【0006】
スクラロースやステビアなどの高甘味度甘味料のこれらの味質を改善する方法として、種々の提案がされている。特許文献1では、スクラロースにリンゴ酸やグルコン酸などの有機酸又はこれらの塩を添加して、甘味の後引き感を調整する方法が開示されている。
また、特許文献2では、キナ酸またはキナ酸を含むコーヒー豆加水分解物からなる高甘味度甘味料の甘味改善剤を、アスパルテーム、ステビア、アセスルファムK、スクラロースなどの高甘味度甘味料を含有する飲食品や医薬品に添加することにより、高甘味度甘味料の不快な後味や、苦味、エグ味、刺激味を抑制することが記載されている。さらに、特許文献3では、焙煎コーヒーの溶媒抽出物を、高甘味度甘味料を含有する飲食品又は医薬品に添加することにより、高甘味度甘味料の不快な後味や苦味、エグ味を改善できることが記載されている。
【0007】
モルトエキス(麦芽エキス)は、麦芽汁を濃縮、糖化させたもので、ビール風味の炭酸
飲料への香味付け(特許文献4)や、甘味料などに用いられている(特許文献5)。特許文献4には、モルトエキス(麦芽エキス)と単糖類、二糖類、多糖類との併用が記載されているが、高甘味度甘味料との併用は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−210147号公報
【特許文献2】特開2001−321115号公報
【特許文献3】特開2006−81544号公報
【特許文献4】特開2003−250503号公報
【特許文献5】特開2004−350570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1〜3に記載された手法は、いずれも高甘味度甘味料の味質の改善、殊に甘味の後引き感などを改善するには十分ではなく、さらに酸味などの余分な味も同時に付与されてしまうため、好ましいものではなかった。そのため、高甘味度甘味料の味質を改善する技術の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記従来技術の問題点に鑑み、鋭意研究を重ねていたところ、高甘味度甘味料とモルトエキスを含有する甘味料組成物とするか、又は高甘味度甘味料にモルトエキスを添加することにより、高甘味度甘味料の味質を改善できることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は下記に掲げる甘味料組成物に関するものである。
項1.高甘味度甘味料とモルトエキスを含有することを特徴とする甘味料組成物。
項2.高甘味度甘味料が、スクラロース又はステビア抽出物である項1記載の甘味料組成物。
【0012】
さらに、本発明は下記に掲げる高甘味度甘味料の味質の改善方法に関するものである。
項3.高甘味度甘味料にモルトエキスを添加することを特徴とする高甘味度甘味料の味質の改善方法。
項4.高甘味度甘味料が、スクラロース又はステビア抽出物である項3記載の高甘味度甘味料の味質の改善方法。
項5.高甘味度甘味料の味質の改善が、甘味の後引き感の改善、コク味の付与又は苦味の軽減である項3又は4記載の高甘味度甘味料の味質の改善方法。
【発明の効果】
【0013】
従来、高甘味度甘味料の味質において、特に甘味の後引き感などが少なからず違和感を与えるという問題点があったが、高甘味度甘味料とモルトエキスを含有する甘味料組成物とするか、又は高甘味度甘味料にモルトエキスを添加することにより、高甘味度甘味料の味質の改善、特に甘味の後引き感の改善、コク味の付与、苦味の軽減などをすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、高甘味度甘味料とモルトエキスを含有することを特徴とする甘味料組成物に関する。高甘味度甘味料としては、スクラロース、アセスルファムカリウム、アスパルテーム、ステビア抽出物、ソーマチン、グリチルリチン、ネオテーム、ラカンカ(羅漢果)抽出物、サッカリン、サッカリンナトリウムなどを例示することができるが、スクラロース又はステビア抽出物が好ましい。スクラロースは、1−α−D−ガラクトピラノシル−2−β−D−フルクトフラノシド分子(D−ガラクトースとD−フルクトースとが還元基どうしで互いにグリコシド結合した非還元性二糖分子)内のフルクトース残基の1、6位およびガラクトース残基の4位の三つの水酸基が塩素分子で置換された構造の高甘味度甘味料で、砂糖の約600倍の甘味を有する。また、ステビア抽出物は、キク科の植物であるステビアレバウディアナ・ベルトニの葉部から抽出精製したものであり、ステビオサイドやレバウディオサイドAなどの成分を含有するもので、砂糖の約300倍の甘味を有する。
【0015】
本発明で使用するモルトエキスは、麦芽又はこれを焙煎したものを抽出した麦芽汁を糖化することにより得られるモルトエキスであれば、特に限定されることなく使用することができる。好ましくは、麦芽又はこれを焙煎したものを水で抽出した麦芽汁を、糖化したものを使用することができる。具体的には、麦芽又はこれを焙煎したものに対して0.5〜100倍、好ましくは5〜20倍量の水を用いて、室温〜100℃で30分間〜15時間麦芽を浸漬し、必要に応じて攪拌することにより抽出、糖化されたモルトエキスを得ることができる。かかるモルトエキスは、さらに噴霧乾燥などにより粉末化して使用することもでき、液体、固体、ペースト品などその使用形態を問わない。
【0016】
この発明の甘味組成物は、高甘味度甘味料とモルトエキスの粉末とを粉体混合したものでもよく、また、高甘味度甘味料の溶液とモルトエキスとを混合した後、乾燥させて得られたものでもよい。さらに、高甘味度甘味料にモルトエキスを噴霧したものでも良く、逆に高甘味度甘味料の溶液をモルトエキスの粉末に噴霧したものでも良い。乾燥の方法にも特に制限はなく、スプレードライ、凍結乾燥など種々の方法を使用できる。さらに、粉末状、顆粒状、固形状、液状といった剤型を問わず、また、一剤であるか二剤であるかも問わない。
【0017】
高甘味度甘味料とモルトエキスの含有割合は、高甘味度甘味料の種類や、適用する製品の種類などによって異なるが、高甘味度甘味料1重量部に対し、モルトエキスを固形分換算で0.005〜1重量部、好ましくは0.01〜0.5重量部、さらに好ましくは0.02〜0.25重量部である。高甘味度甘味料1重量部に対して、モルトエキスの含有量が0.005重量部より少ないと、高甘味度甘味料の甘味の後引き感などの改善効果が十分ではなく、1重量部より多いと、高甘味度甘味料のバランスの取れた本来の味質が損なわれ、またモルトエキスによる着色も見られるので、いずれも好ましくない。さらにこの発明の甘味組成物には、本発明の効果を阻害しない限度において、香料、色素、酸化防止剤、保存料、ビタミン類、カルシウム類、ミネラル類など、その他の食品・食品添加物類を含有することもできる。
【0018】
さらに本発明は、高甘味度甘味料にモルトエキスを添加することを特徴とする高甘味度甘味料の味質の改善方法に関するものである。
【0019】
高甘味度甘味料にモルトエキスを添加する時期や順序には特に制限はなく、必ずしも同一の食品中に高甘味度甘味料とモルトエキスが添加されている必要もなく、異なる食品にそれぞれ別々に含まれる場合であっても、食する時点において高甘味度甘味料にモルトエキスが共存していれば足りる。この例としては、高甘味度甘味料を含有するヨーグルトに、別添のモルトエキスを含有するソースをかけ、混ぜ合わせて食する場合が挙げられる。高甘味度甘味料に対するモルトエキスの添加割合は、上記の甘味組成物で示した通りである。この発明により改善される高甘味度甘味料の味質としては、高甘味度甘味料の甘味の後引き感(不快な後味)の改善、コク味の付与(増強)、苦味の軽減などが挙げられる。
【0020】
本発明が適用される製品は、経口摂取される製品(可食製品)並びに口腔内利用される製品であり、例えば、食品やシロップ剤等の医薬品、口内清涼剤、うがい剤、歯磨き等の医薬品部外品を挙げることができる。本発明の対象となる食品としては、特に制限はされないが、好適には、柑橘果汁や野菜果汁等を含む果実飲料又は野菜ジュース、コーラやジンジャエール又はサイダー等の炭酸飲料、スポーツドリンク、ニアウォーター等の清涼飲料水、コーヒー、紅茶や抹茶等の茶系飲料、ココアや乳酸菌飲料等の乳飲料などの飲料一般;ヨーグルト、ゼリー、プディング及びムース等のデザート類;ケーキ、クラッカー、ビスケット、パイや饅頭等といった洋菓子及び和菓子を含む焼菓子や蒸菓子等の菓子類;米菓、スナック類;アイスクリームやシャーベット等の冷菓並びに氷菓;チューインガム、ハードキャンディ、ヌガーキャンデー、ゼリービーンズ、等を含む糖菓一般;果実フレーバーソースやチョコレートソースを含むソース類;バタークリーム、フラワーペーストやホイップクリーム等のクリーム類;イチゴジャムやマーマレード等のジャム;菓子パン等を含むパン;焼き肉、焼き鳥、鰻蒲焼き等に用いられるタレ、トマトケチャップ、ソース、麺つゆ等の調味料一般;蒲鉾等の練り製品、ソーセージ等の食肉加工品、レトルト食品、漬け物、佃煮、珍味、惣菜並びに冷凍食品等を含む農畜水産加工品を広く例示することができる。これらの食品中に高甘味度甘味料は、その種類によっても異なるが、通常1〜5000ppm含有され、モルトエキスは高甘味度甘味料に対する上記割合で含有される。
【実施例】
【0021】
以下、本発明の内容を以下の実験例や実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0022】
実験例1
砂糖6%水溶液、およびそれと同等の甘味度を有するスクラロース0.014%溶液を作製し、モルトエキスを各濃度で添加して、パネル5名で味質の改善効果を確認した。
なお、モルトエキスとしては、麦芽を水で抽出後糖化し、粉末化したパウダーを用いた。
【0023】
【表1】

【0024】
実験例2
砂糖6%水溶液、およびそれと同等の甘味度を有するステビア抽出物(守田化学工業(株)製のレバウディオJ-100を使用)の0.03%溶液を作製し、モルトエキスを各濃度で添加して、パネル5名で味質の改善効果を確認した。
【0025】
【表2】

【0026】
表1及び表2の結果から、スクラロースやステビア抽出物に対してモルトエキスを添加することにより、これらの高甘味度甘味料の甘味の後引き感が改善され、コク味が付与され、苦味も軽減されることがわかる。
【0027】
実施例1:ニアウォーター
表3の処方(数値は質量部を示す)に従い、水にグレープフルーツ香料を除く下記の原料を溶解させ、93℃まで加熱後、グレープフルーツ香料を加えて容器に充填し、ニアウォーターを調製した。
【0028】
【表3】

【0029】
モルトエキスを添加した実施例1は、比較例1と比べて、コク味が付与されており、また甘味の後引き感が改善されていた。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明により、高甘味度甘味料の味質の改善、特に高甘味度甘味料の甘味の後引き感などが改善されるので、高甘味度甘味料のさらなる使用が促進され、食品工業において特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高甘味度甘味料とモルトエキスを含有することを特徴とする甘味料組成物。
【請求項2】
高甘味度甘味料が、スクラロース又はステビア抽出物である請求項1記載の甘味料組成物。
【請求項3】
高甘味度甘味料にモルトエキスを添加することを特徴とする高甘味度甘味料の味質の改善方法。
【請求項4】
高甘味度甘味料が、スクラロース又はステビア抽出物である請求項3記載の高甘味度甘味料の味質の改善方法。
【請求項5】
高甘味度甘味料の味質の改善が、甘味の後引き感の改善、コク味の付与又は苦味の軽減である請求項3又は4記載の高甘味度甘味料の味質の改善方法。