説明

高硬度アルミ製タッピンねじ及びその製造方法

【課題】アルミニウム製品のリサイクル化を進展させ、しかも、高硬度なアルミ製タッピンねじの量産化を可能にした高硬度アルミ製タッピンねじ及びその製造方法を得る。
【解決手段】頭部2と周囲にねじ山10を有する脚部3とからなるねじ素材に表面処理を施したタッピンねじ1において、ねじ素材をアルミニウム合金製とし、ねじ素材の脚部3にねじ山10を転造加工し、ねじ山10が形成されたねじ素材に溶体化熱処理を行った後、無電解ニッケル鍍金処理とこれに続いて亜鉛鍍金処理が施された積層構造の皮膜を有する高硬度アルミ製タッピンねじであるので、アルミニウム合金製のワークの下穴に同一素材のねじ部品で直接雌ねじを形成しながらねじ込むことが可能になる。また、鍍金皮膜が滑らかに形成され、腐食の発生原因が解消されて耐食性が向上する。更に、ワークとねじとはともにアルミニウム合金であるので、分別処理が不要になりリサイクル率が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金あるいはマグネシウム合金等の軟質材製のワークに部品を取り付けるためのねじ及びその製造方法であって、このような軟質材製のワークに形成された下穴に雌ねじを形成しながらねじ込まれる高硬度アルミ製タッピンねじ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年多く普及している携帯電話、パソコン及び携帯型音楽プレーヤ等の電気製品や自動車部品あるいはアルミ製建具等においては、その軽量化、小型化及び加工性の良さからアルミニウム合金やマグネシウム合金が多く使用されており、このような軟質材製のワークに部品を取り付けたり組み立てたりするのに多くのねじが使用されている。このようなねじは前記軟質材製のワークへの締結強度を維持する必要から近年各種開発されているが、これらはワークに雌ねじが形成されたねじ込み用下穴としての雌ねじ穴をあらかじめ形成し、この雌ねじ穴にアルミ製のねじをねじ込んで部品を取り付けたり、組み立てたりするようになっている。また、最近では下穴へ雌ねじを形成しながらねじ込まれるタッピンねじも使用されつつあるが、これの製造方法としては図6に示すように、圧造加工工程120及び転造加工工程121により成形されたアルミ合金製ねじ素材に熱処理工程122で熱処理し、続いてこのねじ素材に硬質陽極酸化処理(アルマイト処理)工程123で硬質陽極酸化処理を施してその表面硬度を向上させて製品としたものが主流となっている。しかしながら、未だにこれら軟質材製のワークと同一種類の材料で雌ねじを形成しながらワークに安定してねじ込むことのできる安定した高い強度を有するアルミ製タッピンねじの量産化が十分に進んでいない。
【0003】
このようなアルミニウム合金製のねじとしては特公平7−92101号公報に示すようなものも開発されている。これは、アルミニウム合金製ボルトの製造方法に関するものであり、7000系アルミニウム合金製の線材を冷間圧造してボルト形状に成形した後、480℃を超える温度からの急冷と150〜220℃の範囲内での時効処理とを含む熱処理を加え、次いで亜鉛メッキ、クロム酸酸化、及び陽極酸化から選択されたいずれかの表面処理を行うようにしてボルトを製造する方法である。このような工程によりボルトを製造しているのは、圧造によって乱れた材料内部の結晶構造の歪みを緩和するとともに結晶粒界を強化するためであり、応力腐食発生を防ぐのに必要とされている。このような製造方法におけるボルトのねじ山としてはこのねじ山のねじ山頂角(α)がJIS規格により設定された角度即ち、60°に形成されており、これにより、ボルトによる雌ねじの成形を容易にしている。そして、これと同様の形状に冷間圧造成形されたアルミニウム合金製のボルトをワークに使用することで、製品全体の軽量化を可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平7−92101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、一般に普及している前記ねじ山形状を有するボルトあるいはタッピンねじの素材をアルミニウム合金製とした場合、これに硬質陽極酸化処理、所謂、硬質アルマイト処理して製品化を行っても、強度は増すが、アルミニウム材を素材として冷間圧造成形した場合、特に、ねじ山を転造加工で成形すると、ねじ山はほぼ成形されるが、転造加工による素材の流れが複雑になり、図7に示すように、ねじ山210の谷部の表面には肌荒れが生じ、この肌荒れが生じた表面に前記硬質陽極酸化処理を施してもこの肌荒れ面が障害となって十分な耐食性を有する被膜を維持できない。更に、ねじが比較的小さい場合、この肌荒れがねじ込み抵抗となってねじ込み作業に影響し、このため、ねじ込みトルクが増大し、自動ねじ締め機でのねじ込み時において焼き付けが生じやすくトルク管理に悪影響が生じている。しかも、ねじ山頂角(α)は通常60°に設定してあり、その頂部213及び入り隅部214(ねじ山谷面とフランク面との交叉部)は角を有していることから、このようなねじに硬質陽極酸化処理を施してもねじ山頂部213や入り隅部214の角には細い筋状の割れや隙間217が発生したり、一方、被膜が形成されてもこれが極端に薄くなったりし、これをワークにねじ込んだ際にこの部分からねじ山の潰れが生じやすい。この原因は表面を覆う被膜の厚さが30〜40μmと薄いためねじ山のように凹凸が多いとこの境には十分な厚さが得られないとともに表面硬度もHv300〜350と低いことに起因している。そして、ねじとワークの下穴との間で凝着状態が生じ、ねじは完全にねじ込まれず、ワークからねじの座面が浮いた状態、所謂、ねじ浮き現象も生じている。しかも、ワークがアルミニウム合金製あるいはこれに類似の性質を有するマグネシウム合金製で、これに使用するねじが鉄製あるいはステンレス製であると、アルミニウム合金製のねじを使用した場合に比べてねじとワークとの間の電位差が高くなり、その間に水分が介在すると、ねじとワークとの間に接触腐食が発生している。その上、熱伝導効率の高いアルミニウム合金やマグネシウム合金製等のように放熱効果の大きいワーク例えば、窓枠などのアルミサッシに鉄あるいはステンレス製のねじを使用すると、これらねじは熱伝導効率が低いため、室内温度の変化に短時間に対応できないのでねじに水滴が付着する。一方、アルミニウムやマグネシウム合金等の軟質材と鉄やステンレス材とはその膨張係数が異なることから、即ち軟質材は鉄やステンレス材に比べてその膨張係数が大きいので、これらワークとねじとの間に隙間が生じ、前記水滴が繰り返しこの隙間に入り込み、腐食が進行しやすい。また、これの製造において用いられる陽極酸化処理は、処理鍍金槽においてアルミ製ねじに1本宛電流を導通させねばならず、このためのコストが上昇している。しかも、このようにコストが上昇することでねじの単価が上がり、この方法で製造されたねじはその使用個所が限定される等の諸々の課題を有している。
【0006】
本発明の目的は、このような課題を解消するとともにアルミニウム合金製のワークが使用された製品のリサイクル化を進展させ、しかも、高硬度なアルミ製タッピンねじの量産化を可能にした高硬度アルミ製タッピンねじ及びその製造方法を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的を達成するための高硬度アルミ製タッピンねじは、駆動穴4を形成した頭部2と、この頭部2に一体に形成されて周囲にねじ山10を有する脚部3とからなるねじ素材に表面処理を施したタッピンねじにおいて、前記ねじ素材をアルミニウム合金製とし、このねじ素材の脚部3にねじ山10を転造加工し、ねじ山10が形成されたアルミニウム合金製のねじ素材に溶体化熱処理を行った後、無電解ニッケル鍍金処理とこれに続いて亜鉛鍍金処理が施された積層構造の表面処理皮膜を有する構成を特徴としている。
【0008】
また、前記構成において、ねじ素材の脚部は角部が円弧形状となっていることを特徴としており、これにより表面処理皮膜が剥がれにくい。
また、前記構成において、無電解ニッケル鍍金処理と亜鉛鍍金処理との間に、ねじ素材に溶体化熱処理温度より低い一定高温下で所定時間熱処理する熱処理工程26を配置し、無電解ニッケル鍍金処理されたねじ素材を熱処理することを特徴としているので、安定した高い表面硬度を有するタッピンねじが得られる。
また、前記構成において、亜鉛鍍金処理に続いてクロメート処理工程25が配置され、亜鉛鍍金されたねじ素材にクロメート処理を施すことで、耐食性及び光沢のあるアルミ製タッピンねじが得られる。
【0009】
更に、本発明の高硬度アルミ製タッピンねじの製造方法は、駆動穴4を有する頭部2を形成する圧造加工工程20と、この頭部2に一体形成された脚部3の周囲にねじ山10を転造成形する転造加工工程21とからねじ素材を形成するタッピンねじの製造方法において、前記ねじ素材をアルミニウム合金製とし、前記転造加工工程21に続いてねじ山10が転造成形されたアルミニウム合金製のねじ素材に溶体化熱処理を行う溶体化熱処理工程22を配置し、この処理工程に続いてこれにより内部強度が高められた素材に対して更に表面硬度を高めるとともにねじ素材とニッケル鍍金及び後処理工程としての亜鉛鍍金処理工程24における亜鉛鍍金との密着性を向上させる無電解ニッケル鍍金処理工程23を配置し、積層構造の表面処理皮膜を有するアルミ製タッピンねじを製造する構成を特徴としている。
【0010】
また、前記製造方法において、無電解ニッケル鍍金処理工程23と亜鉛鍍金処理工程24との間に、無電解ニッケル鍍金処理されたねじ素材を溶体化熱処理温度より低い一定高温下で所定時間熱処理する熱処理工程26を配置したことを特徴としている。
また、前記製造方法において、亜鉛鍍金処理工程24に続いて亜鉛鍍金されたねじ素材に耐食性を向上させるクロメート処理するクロメート処理工程25を配置したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アルミニウム合金製の鋳物や板材等の軟質材製のワークの下穴にアルミニウム合金製のねじ部品で直接雌ねじを形成しながらねじ込むことが可能になる。また、このねじ山は隣接するねじ山のフランク面が全て円弧形状の面で接続されているので、鍍金皮膜処理により形成された鍍金皮膜が曲面に沿い滑らかに形成され、腐食の発生原因が解消されて耐食性が向上する。しかも、アルミニウム素材に転造により形成されるねじ山は、従来のようにねじ山部分に角がないので、ねじ山の谷部での肌荒れの発生が解消されてねじ山表面が滑らかになり、これの表面に前記被膜処理を施すことにより耐食性を長く維持させることができる。更に、ねじが比較的小さい場合でも、この肌荒れが発生しないので、ねじ込み作業に影響せず、ねじ込みトルクが安定し、自動ねじ締め機によるねじ込み時のトルク管理が容易になる。しかも、ねじ山頂角は通常70°を中心としてその許容範囲は±5°に設定され、その頂点部の断面及び入り隅部の断面はどちらも円弧形状であることから、これらには被膜が均等に形成されるので、筋状の割れが発生したり、皮膜が薄く形成されたりすることがなく、厚みの安定した皮膜が得られる。このため、ねじには光沢及び美観が維持されるとともにねじは確実にねじ込まれて安定したねじ込み作業が得られる。
【0012】
その上、ねじ素材はAl−Zn−Mg系であって、JIS規格の材料記号A7050、A7075のアルミニウム合金材料とし、この材料に圧造及び転造加工を施してから、所定温度に加熱した後、急冷して機械的性質を調整し、この後、再度熱処理(時効硬化であるT73処理)を行う溶体化熱処理を行ってから、このねじ素材に無電解ニッケル鍍金処理を施したねじを使用することで、例えば、ワークがアルミニウム合金ダイキャスト(JIS規格のADC12)であっても、このねじの表面硬度がHv350以上で、これの心部硬度がHv170〜200であり、この表面硬度もこれ以上に高いことことから、下穴に雌ねじを形成しながらねじ込む、所謂タッピンねじとしての使用に十分に対応できる。更に、ねじとワークとの材質の違い、例えば、アルミサッシをステンレス製ねじを用いて組み立てた場合に比べて、アルミニウム合金製のねじを使用した場合は熱伝導率がほとんど同じでこのため、放熱効果に差が生じないので、結露の発生も減少する。しかも、ワークとねじ部品とは膨張係数が同じであることからねじ込まれたねじ部品とワークとの間にほとんど隙間が発生せず、結露により生じた水滴が繰り返しこの隙間に入り込むといったこともなく、これが原因での腐食進行も減少する。また、ワークとこれにねじ込まれているねじとはともにアルミニウム合金であるので、再利用における分別処理が不要になりリサイクル率が向上する等の特有の効果がある。更に、鍍金被膜を施したねじ部品の脚部にクロメート処理を施すことで、美観が向上するとともに潤滑効果も得られる等の特有の効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態を示す拡大要部部分正面図である。
【図2】本発明の実施の形態であるタッピンねじの全体正面図である。
【図3】図2の底面図である。
【図4】本発明に係るアルミ製タッピンねじの製造工程を示す概略工程図である。
【図5】本発明のもう一つの実施例を示す要部概略工程図である。
【図6】本発明の従来例の処理工程を示す概略工程図である。
【図7】本発明の従来例の拡大要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図1乃至図5に基づき説明する。図2及び図3において、1は頭部2とこれに一体に形成された脚部3とからなるアルミニウム合金製で且つ雌ねじ成形機能を有する高硬度アルミニウム合金製のねじ部品の一例としてのタッピンねじである。前記頭部2にはタッピンねじ1にドライバビット(図示せず)からねじ込み駆動力が伝達される駆動穴4が形成されている。この頭部2と一体の前記脚部3には一条のねじ山10が頭部2の座面5の近くから脚部3の先端にかけて形成してあり、この脚部3の途中から頭部側にかけては一般的なタッピンねじと同様の高さで、その高さの等しい完全ねじ山部が形成された通常ねじ山部11となっている。また、この通常ねじ山部11に連続して脚部3の先端にはねじ山10が先端に達するにつれて高さが低くなった不完全ねじ山部となっている案内ねじ山部12が形成してあり、これら通常ねじ山部11と案内ねじ山部12とからなるねじ部のねじ山10の稜線を形成するねじ山頂点部はその全長に渡って断面円弧形状に形成されている。そして、前記通常ねじ山部11及び案内ねじ山部12に渡ってねじ山の稜線を形成している。
【0015】
また、図1に示すように、ねじ山10はリード線に対する直角断面においてそのねじ山10を形成する追い側フランク面13と進み側フランク面14とから構成されており、これらフランク面13、14による角度(α)は70°±5°の範囲に設定されている。そして、これらフランク面13、14から構成されるねじ山頂点部は断面円弧形状の頂面15とフランク面13、14とが滑らかに接続されて構成されていることで図4の無電解ニッケル鍍金処理工程23での硬質ニッケル鍍金皮膜がその表面に均等に形成されることを可能にしている。一方、このねじ山10の谷部を形成する谷面16とねじ山10のフランク面13、14との間も円弧形状の弧状面17で接続してあり、このようにしてねじ1の軸線に沿うねじ山断面は角が形成されることなく円弧で夫々接続された曲面形状を有しているので、このねじ素材に無電解ニッケル鍍金皮膜処理を施しても被膜に筋状のひびや割れが発生することがなくなる。
【0016】
更に、この脚部3は図3に示すように、その底面図及び軸直角断面において略三角形状となっており、ねじ込み時の雌ねじ形成時の抵抗が僅かでも軽減されるようになっている。しかも、前記案内ねじ山部12の先端近くに位置する前記略三角形状の三頂点で形成される軌跡円直径はワーク(図示せず)に形成されている下穴(図示せず)の直径と同径かこれより僅かに大きくて前記通常ねじ山部11より小さいねじ山径に設定されている。このため、ねじ込み開始時における下穴には僅かにねじ山稜線による筋状の雌ねじ(図示せず)が形成される程度となっている。
【0017】
しかも、この案内ねじ山部12が通常ねじ山部11に達するにつれてねじ山10が高くなっていることから、このタッピンねじ1をねじ込むにつれて前記下穴には雌ねじが形成されるようになっている。尚、前記実施の形態では脚部3の軸直角断面が略三角形状のタッピンねじ1により説明したが、脚部3を円形形状としたタッピンねじであってもよく、この場合は、前記略三角形状となったタッピンねじ1に比べてねじ山10と雌ねじとの接触ヶ所が多くなることから僅かにねじ込み時のトルクが高くなる傾向がある。
【0018】
図4はこのようなアルミニウム合金製のタッピンねじ1を加工するための製造工程図であり、20は所定長さのアルミニウム合金素材(図示せず)に頭部2を形成するための圧造加工工程である。この工程で頭部2が一体形成された素材は次に配置されている転造加工工程21に移り、脚部3の周囲にねじ山10を転造成形するようになっている。このようにして得られたねじ素材には次の工程として配置されたアルミニウム合金製のねじ素材に溶体化熱処理を行う溶体化熱処理工程22に移り、このねじ素材は具体的には所定温度に加熱した後急冷して素材の芯部の硬さや粘り等の機械的性質を調整し、この後、再度熱処理(時効硬化であるJISに定められているT73処理)を行う溶体化熱処理を行う構成となっている。この処理により素材は硬くなる。この処理工程に続いて、これにより内部強度が高められた素材に対して、更に表面硬度を高めるとともにねじ素材とニッケル鍍金及び後処理である亜鉛鍍金処理工程24における亜鉛鍍金との密着性を向上させる無電解ニッケル鍍金処理工程23が配置されている。この工程において、前記アルミニウム合金製のねじ1にはその表面に硬質ニッケル鍍金皮膜が施されるようになっている。これにより、アルミニウム合金の表面の硬度が素材状態より更に高くなっている。
【0019】
前記T73処理は一般的にJIS規格に示されているアルミニウム合金の材料記号1000、2000、5000、6000、7000番台及びその他のものを用いて製造されたねじ1に使用されており、その中でも特に、Al−Zn−Mg系であって、JIS規格の材料記号A7050、A7075のアルミニウム合金で、頭部2の圧造及び脚部3にねじ山転造加工を施してねじ素材を形成し、これにT73処理を伴う溶体化熱処理を加えてから、無電解ニッケル鍍金皮膜処理を施すことにより得られるねじは、表面硬度がHv350以上で、これの心部硬度がHv170〜200であり、これはタッピンねじ1には最も好適である。このT73処理はJIS規格の材料記号A7050、A7075の合金で必要な処理であり、アルミニウム合金の種類が変われば当然にこの処理の必要ないものや異なる他の処理が必要になるものがあることは当然に理解されることである。
【0020】
また、無電解ニッケル鍍金処理工程23に続いて亜鉛鍍金処理工程24が配置されており、これによりこの後工程であるクロメート処理工程25におけるクロメートの密着性を向上させている。更に、この亜鉛鍍金処理を行うことで、高い防錆効果を得ることができ、優れた耐食性を発揮することができる。しかも、前記亜鉛鍍金処理工程24の後には亜鉛鍍金されたねじ素材の耐食性を向上させるクロメート処理をするクロメート処理工程25が配置され、アルミ製タッピンねじ1の美観を向上させている。このように、アルミ合金製タッピンねじ1は三層となった積層構造の表面処理皮膜を有することになり、その耐久性及び美観が優れたものとなっている。
【0021】
このような処理により得られたタッピンねじ1であっても十分に使用可能であるが、更に図5に示すように、前記無電解ニッケル鍍金処理工程23と亜鉛鍍金処理工程24との間に無電解ニッケル鍍金処理されたねじ素材を溶体化熱処理温度より低い一定高温下(この実施例では200℃前後)で所定時間(1時間程度)熱処理する熱処理工程26を配置してもよく、これを配置することによって、ねじ素材の表面を更に硬化させることができ、最終的にはHv500近くの硬度が得られる。このときの熱処理温度はアルミ合金素材が溶解しない程度の温度あるいは前記無電解ニッケル鍍金がねじ素材から剥離しない程度の温度と時間にすることは言うまでもなく、この具体的な数値は実験から得られたものである。
【0022】
尚、これらの実施の形態では、主としてワークの下穴に雌ねじを形成しながらねじ込むタッピンねじ1について説明したが、これ以外に例えば、図示しないが、アルミ合金製の小ねじに前記と同様の工程による鍍金被膜を施すことにより高硬度のアルミ製小ねじを得ることができる。
【0023】
このようにして得られたアルミニウム合金製のタッピンねじ1をあらかじめワークに形成されている下穴に対してねじ込みを開始すると、ねじ込み開始時には図2及び図3に示されたタッピンねじ1の脚部3の案内ねじ山部12が下穴に押し込まれる。この状態においてタッピンねじ1は回転しているから続いて、空転することなく、下穴に食い付いて雌ねじが形成されながらねじ込まれる。
【0024】
このねじ込み作業により、雌ねじが形成されることになり、通常ねじ山部11のねじ山10は雌ねじへの接触が緩和された状態となってねじ込まれる。このようにしてタッピンねじ1の座面5がワークに着座すると、ねじ込み作業は完了する。このようなねじ込み作業において、タッピンねじ1には前記亜鉛が付着していることから、ねじ込み時のねじとワークとの間には潤滑効果が僅かではあるが得られ、タッピンねじ1とワークとの間での焼き付きが防止され、滑らかなねじ込み作用が得られる。
【0025】
この本発明のアルミ製タッピンねじと従来の硬質アルマイト被膜を施したアルミ製タッピンねじとをサンプルとして夫々5本を準備し、夫々の破断トルクを測定し、この結果を比較すると表1のようになった。この測定におけるねじの呼びはM4、これをねじ込むワークはアルミ合金ダイカスト(ADC12)で厚みt=5mm、下穴径は3.6mm及び3.7mmとし、夫々のねじの破断トルクを測定した。
【0026】
【表1】

【0027】
その結果、ワークの下穴径3.6mmの場合は、従来例の破断トルクがサンプル5本中2本は本発明の破断トルクより僅かに大きかったが、これを平均すると、本発明のタッピンねじ1の破断トルクが大きくなっている。一方、ワークの下穴径3.7mmの場合は、本発明のアルミ製タッピンねじ1のサンプル5本全ての破断トルクが従来例に比べて大きな値を示していることから、本発明のアルミ製タッピンねじ1の強度が大きいことが裏付けられている。また、この他にも無電解ニッケル鍍金処理を行ってから亜鉛鍍金処理に変え、他の表面処理即ち、無電解フッ素樹脂分散ニッケル鍍金を施したねじを同一条件で試験したところ、無電解フッ素樹脂分散ニッケル鍍金したねじの場合は頭部の首飛びが発生したり、塩水噴霧試験において錆が発生する等の問題が生じているとともにこの処理における費用が高価になる等の問題が発生している。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のアルミ製タッピンねじ及びこのねじの製造方法はねじ以外の締結部品であるボルト、リベット、ナット等にも適用でき、アルミ製締結部品の大量生産に広く普及するものである。
【符号の説明】
【0029】
1 タッピンねじ
2 頭部
3 脚部
4 駆動穴
5 座面
10 ねじ山
11 通常ねじ山部
12 案内ねじ山部
13 追い側フランク面
14 進み側フランク面
15 頂面
16 谷面
17 弧状面
20 圧造加工工程
21 転造加工工程
22 溶体化熱処理工程
23 無電解ニッケル鍍金処理工程
24 亜鉛鍍金処理工程
25 クロメート処理工程
26 熱処理工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動穴を形成した頭部(2)と、この頭部に一体に形成されて周囲にねじ山(10)を有する脚部(3)とからなるねじ素材に表面処理を施したタッピンねじにおいて、前記ねじ素材をアルミニウム合金製とし、このねじ素材の脚部にねじ山を転造加工し、ねじ山が形成されたアルミニウム合金製のねじ素材に溶体化熱処理を行った後、無電解ニッケル鍍金処理とこれに続いて亜鉛鍍金処理が施された積層構造の表面処理皮膜を有する構成であることを特徴とする高硬度アルミ製タッピンねじ。
【請求項2】
ねじ素材の脚部は角部が円弧形状となっていることを特徴とする請求項1記載の高硬度アルミ製タッピンねじ。
【請求項3】
無電解ニッケル鍍金処理と亜鉛鍍金処理との間に、ねじ素材に溶体化熱処理温度より低い一定高温下で所定時間熱処理する熱処理工程を配置し、無電解ニッケル鍍金処理されたねじ素材を熱処理したことを特徴とする請求項1記載の高硬度アルミ製タッピンねじ。
【請求項4】
亜鉛鍍金処理にはこれに続いてクロメート処理工程が配置され、亜鉛鍍金されたねじ素材にクロメート処理を施すことを特徴とする請求項1記載の高硬度アルミ製タッピンねじ。
【請求項5】
駆動穴を有する頭部を形成する圧造加工工程(20)と、この頭部に一体形成された脚部の周囲にねじ山を転造成形する転造加工工程(21)とからねじ素材を形成するタッピンねじの製造方法において、前記ねじ素材をアルミニウム合金製とし、前記転造加工工程に続いてねじ山が転造成形されたアルミニウム合金製のねじ素材に溶体化熱処理を行う溶体化熱処理工程(22)を配置し、この処理工程に続いてこれにより内部強度が高められた素材に対して更に表面硬度を高めるとともにねじ素材とニッケル鍍金及び後処理工程としての亜鉛鍍金処理工程(24)における亜鉛鍍金との密着性を向上させる無電解ニッケル鍍金処理工程(23)を配置し、積層構造の表面皮膜を有するアルミ製タッピンねじを製造する構成を特徴とする高硬度アルミ製タッピンねじの製造方法。
【請求項6】
前記製造方法において、無電解ニッケル鍍金処理工程と亜鉛鍍金処理工程との間に、無電解ニッケル鍍金処理されたねじ素材を溶体化熱処理温度より低い一定高温下で所定時間熱処理する熱処理工程(26)を配置したことを特徴とする請求項5記載の高硬度アルミ製タッピンねじの製造方法。
【請求項7】
前記製造方法において、亜鉛鍍金処理工程に続いて亜鉛鍍金されたねじ素材に耐食性を向上させるクロメート処理するクロメート処理工程(25)を配置した構成を特徴とする請求項5記載の高硬度アルミ製タッピンねじの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−112476(P2012−112476A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263063(P2010−263063)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000227467)日東精工株式会社 (263)