説明

高糖度流動食品の流動性改善剤

【課題】長期保存後あるいは低温条件、ヒートサイクル条件における保存後も流動性が安定化された高糖度流動食品(例えば、チョコレートシロップ、加糖練乳など)を提供する。
【解決手段】ポリグリセリン脂肪酸エステルからなることを特徴とする高糖度流動食品の流動性改善剤であって、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの主構成脂肪酸が好ましくは炭素数14〜22の脂肪酸であるものを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工食品、飲料等の原材料として、また、家庭では料理、デザート等のトッピング用として広く利用されている高糖度流動食品の流動性改善剤に関する。また、保存中の流動性の変化が抑制されていることを特徴とする高糖度流動食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ショ糖やブドウ糖などの糖類は、多種多様な食品を製造する上において欠かせない成分であり、結晶状、液状、粉末状などの様々な形態で提供され、使用されている。中でも、液状に調製された糖類、いわゆる液糖は、その取扱の容易さから広く用いられ、高濃度の液糖は、シロップとしてそれ自体食品としても利用される。
【0003】
しかし、液糖を高濃度に含む食品は、長期保存あるいは低温条件下において保存すると、糖類の析出等によって経時的に増粘し、流動性に欠けたものとなる。この場合、容器からの取り出しに時間がかかったり、使用前に加温するなどして粘度を低下させる必要がある。また、アイスクリーム等の低温食品に対して使用する際には、加温することができず容器内に残存しやすく、経済的なロスも大きくなる。
【0004】
これらを解決するために、対糖0.01〜0.5%重量のショ糖脂肪酸エステルを糖類水溶液に添加することを特徴とする安定な高濃度糖類水溶液の製法(特許文献1)、蔗糖脂肪酸エステルとカルボキシメチルセルロースナトリウムを特定の割合で配合する方法(特許文献2)などが知られている。しかし、液糖中にカカオ成分や乳成分等の固形分を添加した場合は、特定の条件でしか糖類の析出、流動性の悪化を抑制することはできず、さらなる改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭45−6055号公報
【特許文献2】特開平2−109940号公報
【0006】
また、高糖度流動食品は保存により増粘するだけでなく、粘性が低下する場合がある。これは、糖類の析出による自由水の増加に起因するものと思われ、糖類の湿潤性が増大している20℃以上では生じ難く、糖類が結晶化し易い低温条件で生じ易い。特に、高糖度流動食品の品温の上昇(ヒートショック)時において顕著であり、この場合、高糖度流動食品から水分が分離し、食感や外観が著しく損なわれたものとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点の解決を意図するものであり、高糖度流動食品の保存中の粘度変化を抑制し、安定して使用できるように高糖度流動食品の流動性改善剤を提供すること、経時的な流動性の変化が抑制された高糖度流動食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が鋭意研究を重ねた結果、高糖度流動食品にポリグリセリン脂肪酸エステルを配合することによって高糖度流動食品の流動性を安定に保てることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、ポリグリセリン脂肪酸エステルからなることを特徴とする高糖度流動食品の流動性改善剤に関する。さらに、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とする高糖度流動食品、特に、カカオ成分および/または乳成分から選択される1種または2種以上を含有する高糖度流動食品に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る高糖度流動食品の流動性改善剤は、高糖度流動食品中に存在する糖類、カカオ成分、乳成分等の析出、分散状態などに影響を及ぼし、高糖度流動食品の流動性を安定化させることができ、例えば、チョコレートシロップ、加糖練乳等の流通、保存後も流動性が維持された高糖度流動食品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を実施形態に基づき以下に説明するが、本発明の範囲はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で、変更等が加えられた形態も本発明に属する。
【0012】
本発明における高糖度流動食品とは、糖類を主原料とする流動状のものを意味する。具体的には、蜂蜜、シロップ、果実シロップ、チョコレートシロップ、加糖練乳などが挙げられる。高糖度流動食品は、当該分野で公知の配合範囲及び方法に準じて製造すればよく、糖類の含有量としては、本発明の所望の効果が得られる限り特に限定されるものではない。
【0013】
前記糖類とは、食品用として通常用いられるものであれば特に限定されず、当該分野で公知の任意の糖類であり得る。糖類の例としては、果糖、ブドウ糖等の単糖類や、ショ糖、乳糖、麦芽糖等の二糖類や、マルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖等のオリゴ糖や、糖アルコール等の結晶性糖類が挙げられる。糖類は、1種類のみで用いられてもよいし、2種類以上が組み合わされて用いられてもよく、水飴、還元水飴、カップリングシュガー等の非結晶性糖類などを含んでもよい。
【0014】
本発明におけるポリグリセリン脂肪酸エステルは、平均重合度が2以上のグリセリン重合体と脂肪酸とのエステル化物であり、従来公知のエステル化反応等により得られる。ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸としては、動植物油脂類を起源とする食用可能な脂肪酸であれば特に制限はないが、好ましくは、炭素数14〜22の脂肪酸を主構成脂肪酸とする。好ましくは炭素数14〜22の飽和脂肪酸であり、より好ましくは炭素数18〜22の飽和脂肪酸を使用する。ここで、主構成脂肪酸とは、ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸の大部分は前記脂肪酸よりなるが、本発明の目的、効果が達成される範囲で、他の脂肪酸が一種または二種以上含まれてもよいとの意味である。炭素数8〜22の飽和脂肪酸としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸等が例示される。一方、炭素数8〜22の不飽和脂肪酸としては、デセン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコセン酸、エルカ酸等が例示される。
【0015】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンとしては、特に限定されないが、平均重合度が2〜20であれば良く、平均重合度が4〜20であるとより好ましい。例えば、ジグリセリン(平均重合度2)、トリグリセリン(平均重合度3)、テトラグリセリン(平均重合度4)、ヘキサグリセリン(平均重合度6)、デカグリセリン(平均重合度10)等が挙げられる。ここで平均重合度(n)は、末端分析法による水酸基価から算出される値であり、詳しくは、次式(式1)及び(式2)から平均重合度(n)が算出される。
(式1)分子量=74n+18
(式2)水酸基価=56110(n+2)/分子量
【0016】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLBとしては、好ましくは12以下、より好ましくは8以下、さらに好ましくは6以下のものを使用する。ここで、HLBとは、一般に乳化剤の親水性と親油性(疎水性)の程度を表わす尺度であり、親水性の強いものほど値が大きい。HLBの求め方としては既存の種々の手法が利用されるが、本発明においては、Griffinの経験式(式3)が用いられる。
(式3)HLB=20(1−SV/NV)
SV:エステルのケン化価
NV:脂肪酸の中和価
【0017】
本発明における流動性改善剤の使用量は、保存温度や期間、高糖度流動食品の含水率などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、高糖度流動食品に0.01〜2.0重量%、好ましくは0.05〜1.0重量%の割合で添加することにより十分な効果を得ることができる。0.01重量%未満では本発明の目的とする効果が期待できず、2.0重量%より多いと機能的メリットに対するコスト高が許容されない場合がある。
【0018】
本発明の流動性改善剤を配合してなる高糖度流動食品には、その使用目的に応じて適宜他の乳化剤、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等を併用してもよい。
【0019】
本発明におけるカカオ成分としては、カカオマス、カカオバター、ココアケーキ、ココアパウダーのことをさし、カカオ成分の少なくとも一部を与えるものとしてチョコレート生地、準チョコレート生地などを用いてもよい。
【0020】
本発明における乳成分としては、牛乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、調製粉乳、ホエイパウダー、バターミルクパウダー、クリームパウダー、濃縮乳、生クリーム、無糖練乳、バター、脱脂乳などを挙げることができる。
【0021】
上記成分以外に、本願の目的を損なわない範囲で、適宜選択した副原料を用いてもよい。例えば、増粘安定剤、食物繊維、澱粉、小麦粉、油脂、果汁、香料、色素、酸味料、調味料、pH調整剤、酸化防止剤等を任意に添加することができる。必要に応じて鉄、マグネシウム、リン、カリウム等のミネラル類、ビタミン類などを添加してもよい。
【0022】
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0023】
<実施例1>
水23重量部、ブドウ糖果糖液糖(水分;25%)30重量部に、ショ糖38.6重量部、ココアパウダー(油分;24%)8重量部、食塩0.2重量部、増粘安定剤(キサンタンガム)0.1重量部、流動性改善剤0.1重量部を添加し、加熱攪拌して、チョコレートシロップを得た。流動性改善剤には、ポリグリセリンステアリン酸ベヘン酸エステル(ポリグリセリンの平均重合度10、HLB4)を用いた。
【0024】
<実施例2>
流動性改善剤に、ポリグリセリンステアリン酸エステル(ポリグリセリンの平均重合度6、HLB7)を用いた以外は、実施例1と同様にしてチョコレートシロップを得た。
【0025】
<実施例3>
流動性改善剤に、ポリグリセリンミリスチン酸エステル(ポリグリセリンの平均重合度4、HLB3)を用いた以外は、実施例1と同様にしてチョコレートシロップを得た。
【0026】
<実施例4>
流動性改善剤に、ポリグリセリンオレイン酸エステル(ポリグリセリンの平均重合度10、HLB5)を用いた以外は、実施例1と同様にしてチョコレートシロップを得た。
【0027】
<比較例1>
流動性改善剤に、グリセリンステアリン酸エステル(HLB4)を用いた以外は、実施例1と同様にしてチョコレートシロップを得た。
【0028】
<比較例2>
流動性改善剤に、ショ糖ステアリン酸エステル(HLB5)を用いた以外は、実施例1と同様にしてチョコレートシロップを得た。
【0029】
<比較例3>
流動性改善剤に、ショ糖ステアリン酸エステル(HLB15)を用いた以外は、実施例1と同様にしてチョコレートシロップを得た。
【0030】
<比較例4>
流動性改善剤を使用せず、実施例1と同様にしてチョコレートシロップを得た。
【0031】
実施例1〜4、比較例1〜4で調製したチョコレートシロップの調製直後および2か月間保存(5、25℃)後の流動特性として、回転粘度計により降伏値と塑性粘度を求めた。なお、測定はチョコレートシロップの品温を10℃にして行った。その結果と併せて調製直後からの増粘率を表1、表2に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
実施例1〜4の流動性改善剤を用いたチョコレートシロップは、比較例に比べて降伏値、塑性粘度の増減が抑えられたものであった。比較例1〜4のチョコレートシロップは保存温度によっては降伏値の大幅な上昇が見られ、ボテた状態となり、流動性が著しく悪くなった。チューブ状の容器に充填したこれらのチョコレートシロップを搾り出したところ、本発明の流動性改善剤を添加したチョコレートシロップは、5℃で保存したものでは液だれが抑制され、25℃で保存したものでは、小さな外力で流動し、搾り出して使用することが容易であった。
【0035】
<実施例5>
原料乳300重量部にショ糖44重量部、流動性改善剤0.1重量部を添加し、これを殺菌(荒煮)した後、ブリックスが75%となるまで濃縮した。この濃縮乳を30℃まで冷却してシーディングを行い、加糖練乳を得た。流動性改善剤には、ポリグリセリンステアリン酸ベヘン酸エステル(ポリグリセリンの平均重合度10、HLB10)を用いた。
【0036】
<実施例6>
流動性改善剤に、ポリグリセリンステアリン酸エステル(ポリグリセリンの平均重合度6、HLB6)を用いた以外は、実施例5と同様にして加糖練乳を得た。
【0037】
<実施例7>
流動性改善剤に、ポリグリセリンミリスチン酸エステル(ポリグリセリンの平均重合度4、HLB5)を用いた以外は、実施例5と同様にして加糖練乳を得た。
【0038】
<比較例5>
流動性改善剤に、グリセリンステアリン酸エステル(HLB4)を用いた以外は、実施例5と同様にして加糖練乳を得た。
【0039】
<比較例6>
流動性改善剤に、ショ糖ステアリン酸エステル(HLB11)を用いた以外は、実施例5と同様にして加糖練乳を得た。
【0040】
<比較例7>
流動性改善剤に、ショ糖ステアリン酸エステル(HLB15)を用いた以外は、実施例5と同様にして加糖練乳を得た。
【0041】
<比較例8>
流動性改善剤を使用せず、実施例5と同様にして加糖練乳を得た。
【0042】
実施例5〜8、比較例5〜8で調製した加糖練乳について、室温条件下で6か月間保存後の流動性、均質性を評価した。その結果を表3に示す。
【0043】
【表3】

<評価>
○:流動性が十分に高く、乳脂肪などの浮きおよび糖類の沈殿がない
△:流動性が高いものの、乳脂肪などの浮きおよび/または糖類の沈殿がある
▲:流動性が低いものの、乳脂肪などの浮きおよび糖類の沈殿がない
×:流動性が低く、乳脂肪などの浮きおよび/または糖類の沈殿がある
【0044】
実施例5〜7の流動性改善剤を用いた加糖練乳は粘度の上昇もなく、滑らかな舌ざわりを有したものであった。対して、比較例5〜8では、著しく増粘したり、口に含んだときにザラツキ感があったり、加糖練乳としては不適当なものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリグリセリン脂肪酸エステルからなることを特徴とする高糖度流動食品の流動性改善剤。
【請求項2】
ポリグリセリン脂肪酸エステルが、炭素数14〜22の飽和脂肪酸を主構成脂肪酸とすることを特徴とする請求項1に記載の高糖度流動食品の流動性改善剤。
【請求項3】
請求項1ないし請求項2の何れかに記載の流動性改善剤を含有することを特徴とする高糖度流動食品。
【請求項4】
カカオ成分および/または乳成分から選択される1種または2種以上を含有する請求項3に記載の高糖度流動食品。