説明

高純度シリカの製造方法

【課題】高純度のシリカを、簡易かつ低コストで製造できる方法を提供する。
【解決手段】(A)シリカ含有鉱物粉末と、アルカリ水溶液を混合して、pHが11.5以上のアルカリ性スラリーとし、上記珪質頁岩の粉状物中のSi、Al、Feを液分中に溶解させた後、該アルカリ性スラリーを固液分離して、Si、Al、Feを含む液分を得るアルカリ溶解工程と、(B)工程(A)で得られた液分をキレート樹脂で処理して、当該液分中のFe等の重金属を除去する重金属除去工程と、(C)工程(B)で得られた液分と酸を混合してpHを10.3以上11.5未満とし、液分中のAl、Feを析出させた後、固液分離を行い、Siを含む液分を得るSi液分分離工程と、(D)工程(C)で得られた液分と酸を混合してpHを9.2以上10.0未満とし、液分中のSiを析出させた後、固液分離を行い、SiOを含む固形分を得るシリカ分離工程を経て得られる高純度シリカの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子材料、触媒担体、太陽電池、充填剤、高純度ガラス等の製造原料として用いられる高純度シリカの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子材料、触媒担体、太陽電池、充填剤、高純度ガラス等の製造原料として、高純度シリカが使われている。かかる高純度シリカの製造方法としては、例えば、珪藻土の粉粒体に水篩による選別方法、テーブル選別方法、磁気選別方法および電気的選別方法等の物理的選別を施すことを特徴とする高純度二酸化ケイ素の製造方法が知られている(引用文献1)。この方法によれば、安価な珪藻土を用いて、高純度の二酸化ケイ素を効率よく製造することができるとされている。
また、生物起源珪藻土にアルカリ水溶液を加えてシリカを溶解させ、pHコントロール下に溶解したシリカを沈殿させた後、シリカ沈殿物を回収することを特徴とする高純度シリカの製造方法が知られている(引用文献2)。この方法によれば、太陽光発電用シリコン半導体製造用等に使用可能な実質的にホウ素を含まない高純度シリカを効率よく、低コストで、かつ安定的に供給することができるとされている。
ここで、更に高純度のシリカをより低コストで簡易に得ることができれば、前記の電子材料、触媒担体、太陽電池、充填剤、高純度ガラス等の低コスト化に貢献することができ、好都合である。
そこで、本発明は高純度のシリカを、低コストかつ簡易に製造できる方法を提供することを目的とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−230875号公報
【特許文献2】特開2001−097711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、キレート樹脂を用いることによりFe等の重金属の含有量が少ない高純度のシリカを得ることができる方法を見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は具体的には、
(A)シリカ含有鉱物粉末と、アルカリ水溶液を混合して、pHが11.5以上のアルカリ性スラリーとし、上記シリカ含有鉱物粉末中のSi、Al、Feを液分中に溶解させた後、該アルカリ性スラリーを固液分離して、Si、Al、Feを含む液分を得るアルカリ溶解工程と、
(B)工程(A)で得られた液分をキレート樹脂で処理して、当該液分中のFe等の重金属を除去する重金属除去工程と、
(C)工程(B)で得られた液分と酸を混合してpHを10.3以上11.5未満とし、液分中のAl、Feを析出させた後、固液分離を行い、Siを含む液分を得るSi液分分離工程と、
(D)工程(C)で得られた液分と酸を混合してpHを9.2以上10.0未満とし、液分中のSiを析出させた後、固液分離を行い、SiOを含む固形分を得るシリカ分離工程
を経て得られる高純度シリカの製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、高純度のシリカを、簡易かつ低コストで製造できる方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、本発明の高純度シリカの製造方法について詳しく説明する。
本発明で用いる高純度シリカは、以下の(A)アルカリ溶解工程、(B)重金属除去工程、(C)Si液分分離工程、および(C)シリカ分離工程を経て得られるものである。
【0008】
[工程(A);アルカリ溶解工程]
本工程は、シリカ含有鉱物粉末と、アルカリ水溶液を混合して、pHが11.5以上のアルカリ性スラリーとし、シリカ含有鉱物粉末中のSi、Al、Feを液分中に溶解させた後、該アルカリ性スラリーを固液分離して、Si、Al、Feを含む液分を得る工程である。
前記シリカ含有鉱物粉末としては、珪藻土、珪質頁岩等が好ましい。。
本工程において、スラリーのpHは11.5以上、好ましくは12.5以上、より好ましくは13.0以上となるように調整する。該pHが11.5未満であると、シリカを十分に溶解させることができず、シリカが固形分中に残存してしまうため、得られるシリカの収量が減少する。pHを上記数値範囲内に調整するためのアルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等が用いられる。
スラリーの固液比(溶液1リットル中のシリカ含有鉱物粉末の粉状物の質量)は、好ましくは150〜350g/リットル、より好ましくは200〜300g/リットルである。該固液比が150g/リットル未満では、スラリーの固液分離に要する時間が増大するなど、処理効率が低下する。該固液比が350g/リットルを超えると、シリカ等を十分に溶出させることができないことがある。
スラリーは、通常、所定時間(例えば、30〜 90分間)攪拌される。
攪拌後のスラリーは、フィルタープレス等の固液分離手段を用いて、固形分と液分に分離される。液分は、Si、Al、Feを含むものであり、次の工程(B)で処理される。
なお、本工程においてアルカリ性スラリーを得る際の液温は、35〜100℃ に保持されることが好ましく、35〜80℃ に保持されることが、エネルギーコストの観点から、より好ましい。液温を上記範囲内とすることにより、処理効率を高めることができる。
また、本工程においてシリカ含有鉱物粉末の形態は特に制限されるものではないが、シリカ含有鉱物粉末の形態が粉状物または粒状物であれば、処理効率を高めることができるのでより好ましい。
【0009】
[工程(B)重金属除去工程]
本工程で除去の主対象とされる金属はFeであるが、その他、Pb、Ni等の2価または3価の金属も除去可能である。
用いるキレート樹脂は、例えば、イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂、アミノメチルホスホン酸基を有するキレート樹脂、ポリアミン基を有するキレート樹脂等を挙げることができる。
キレート樹脂の形態は、特に限定されるものではなく、ビーズ状、繊維状、クロス状等が挙げられる。キレート樹脂への液分の通液方法もなんら限定されるものではなく、例えばカラムにキレート樹脂を充填して連続的に通液する方法などを用いることができる。
【0010】
[工程(C);Si液分分離工程]
本工程は、工程(B)で得られた液分と酸を混合して、pHを10.3以上11.5未満とし、液分中のAl、Feを析出させた後、固液分離を行い、Siを含む液分を得る工程である。
本工程において、酸との混合後の液分のpHは、10.3以上11.5未満、好ましくは10.4以上11.0以下、特に好ましくは10.5以上10.8未満である。該pHが10.3未満であると、Al、Feと共にSiも析出してしまうため、得られるシリカの純度が低下する。一方、該pHが11.5以上では、Al、Feが十分に析出せずに液分中に残存するため、得られるシリカ中の不純物が多くなり、シリカの純度が低下する。
pHを上記数値範囲内に調整するための酸としては、硫酸、塩酸等が用いられる。
pH調整後、フィルタープレス等の固液分離手段を用いて、固形分と液分に分離する。このうち、固形分(ケーキ)は、Al、Fe等を含むものである。液分は、Siを含むものであり、次の工程(D)で処理される。
なお、本工程においてpH調整を行う際の液温は、35〜100℃ に保持されることが好ましく、35〜85℃ に保持されることが、エネルギーコストの観点から、より好ましい。液温を上記範囲内とすることにより、処理効率を高めることができる。
【0011】
[工程(D);シリカ分離工程]
本工程は、工程(C)で得られた液分と酸を混合して、pHを9.2以上10.0未満とし、液分中のSiを析出させた後、固液分離を行い、Si(具体的にはSiO)を含む固形分を得る工程である。
該pHが9.2未満では、シリカの収量は増大せずに、酸の使用量が多くなるため、薬剤コストの観点から好ましくない。一方、該pHが10.0以上では、十分にシリカが析出せずに液分中に残存するため、得られるシリカの収量が減少する。
pHを上記数値範囲内に調整するための酸としては、硫酸、塩酸等が用いられる。pH調整後、フィルタープレス等の固液分離手段を用いて、固形分と液分とに分離する。固形分は、Si(具体的にはSiO)を含むものである。
なお、本工程においてpH調整を行う際の液温は、35〜100℃ に保持されることが好ましく、35〜80℃ に保持されることが、エネルギーコストの観点から、より好ましい。液温を上記範囲内とすることにより、良好な固液分離性を有する固形分が得られ、処理効率を高めることができる。
【0012】
得られたシリカ(SiO)を含む固形分は、Al、Fe等の不純物が低減された高純度のシリカである。
本工程で得られたシリカを含む固形分に対して、適宜、次の工程である酸洗浄工程を行うことができる。酸洗浄工程を行うことにより、より高純度のシリカを得ることができる
また、本工程で得られたシリカを含む固形分には、上記特定のpH域における4段階の調整(具体的には、上記工程(A)〜(D);アルカリ溶解工程、重金属除去工程、Si液分分離工程、シリカ分離工程)と同じ操作を1回以上(通常は1回)、繰り返し行うことができる。工程(A)〜(D)を繰り返すことによつて、さらに高純度のシリカを得ることができる。
なお、工程(A)〜(D)と同じ操作を繰り返し行う場合、酸洗浄工程は、1回目の処理工程の終了時と、2回目の処理工程の終了時の両方あるいはいずれか一方のみに行うことができる。
すなわち、次の(1)〜(3)のいずれのパターンでも行うことができる。
(1)工程(A)→工程(B)→工程(C)→工程(D)→酸洗浄工程→工程(A)→工程(B)→工程(C)→工程(D)→酸洗浄工程
(2)工程(A)→工程(B)→工程(C)→工程(D)→工程(A)→工程(B)→工程(C)→工程(D)→酸洗浄工程
(3)工程(A)→工程(B)→工程(C)→工程(D)→酸洗浄工程→工程(A)→工程(B)→工程(C)→工程(D)
中でも、シリカの純度を高める観点から、上記(1)が好ましい。
本工程または次の工程(E)で最終的に得られたシリカを含む固形分は、適宜、乾燥処理及び/又は焼成処理を行うことができる。乾燥処理及び/又は焼成処理の条件は、例えば、100〜800
℃ で1〜5時間である。
【0013】
[工程(E);酸洗浄工程]
本工程は、工程(D)で得られたSiOを含む固形分と酸溶液を混合して、pHが1.5以下の酸性スラリーとし、前記固形分中に残存するAl、Fe等を溶解させた後、前記酸性スラリーを固液分離して、SiOを含む固形分と、液分を得る工程である。
本工程における酸性スラリーのpHは、1.5以下、好ましくは1.2以下である。酸性スラリーのpHを上記範囲内に調整して酸洗浄を行うことにより、工程(D)で得られた固形分中にわずかに残存するAl、Fe等の不純物を溶解して液分中へ移行させることができ、固形分中のシリカ含有率を上昇させることができるため、さらに高純度のシリカを得ることができる。
pHを上記数値範囲内に調整するための酸としては、硫酸、塩酸等が用いられる。pH調整後、フィルタープレス等の固液分離手段を用いて、固形分と液分に分離する。
なお、本工程においてpH調整を行う際の液温は、35〜100℃ に保持されることが好ましく、35〜80℃ に保持されることが、エネルギーコストの観点から、より好ましい。液温を上記範囲内とすることにより、処理効率を高めることができる。
【0014】
本発明で得られるシリカは、シリカの含有率が高く、またAl、Fe等の不純物の含有量が低いものである。
本発明の高純度シリカ中のSiOの含有率は、好ましくは99.0質量%以上、より好ましくは99.5質量%以上、特に好ましくは99.6質量%以上である。
特に、工程(A)〜工程(D)と同じ操作を1回以上繰り返し行うことによって、特に高純度のシリカを得ることができる。
そして、前記の工程を経て製造された高純度シリカは、電子材料、触媒担体、太陽電池、充填剤、高純度ガラス等の製造原料として用いられる。
【実施例】
【0015】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[高純度シリカの製造]
珪藻土(成分組成; SiO:91.3質量%、Al:0.80質量%、Fe:0.28質量%)を、ボールミルを用いて粉砕し、珪藻土の粉状物(最大粒径:0.5mm)を得た。
次いで、得られた粉状物250gに、2.5N水酸化ナトリウム水溶液1000gを混合して、60分間混合撹拌し、pHが13.2であるスラリーを得た。このスラリーを減圧下でブフナー漏斗で固液分離し、液分800gを得た。
次に、得られた液分を、カラムに充填したイミノジ酢酸基を有するキレート樹脂(ダイヤイオンCR11、三菱化学社製)に通液して重金属を除去した。
次いで、得られた液分に対して98%硫酸を添加して、pHを10.5に調整した後、減圧下でブフナー漏斗で固液分離し、鉄、アルミニウム等を含む含水固形分50gと、Siを含む液分800gを得た。
更に、得られた液分に対して98%硫酸を添加して、pHを9.9に調整した後、減圧下でブフナー漏斗で固液分離し、シリカ(SiO)を含む含水固形分330gと、液分430gを得た。
得られたシリカを含む含水固形分に対して、98%硫酸溶液を添加し、pH1.0のスラリーとした。このスラリーを固液分離し、シリカを含む含水固形分を310g得た。
なお、各反応中の液温は、70℃ に保持した。
ここで得られた含水固形分は、乾燥後に、SiO:99.5質量%、Al:2600ppm、Fe:8ppmの成分組成を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)シリカ含有鉱物粉末と、アルカリ水溶液を混合して、pHが11.5以上のアルカリ性スラリーとし、上記珪質頁岩の粉状物中のSi、Al、Feを液分中に溶解させた後、該アルカリ性スラリーを固液分離して、Si、Al、Feを含む液分を得るアルカリ溶解工程と、
(B)工程(A)で得られた液分をキレート樹脂で処理して、当該液分中のFe等の重金属を除去する重金属除去工程と、
(C)工程(B)で得られた液分と酸を混合してpHを10.3以上11.5未満とし、液分中のAl、Feを析出させた後、固液分離を行い、Siを含む液分を得るSi液分分離工程と、
(D)工程(C)で得られた液分と酸を混合してpHを9.2以上10.0未満とし、液分中のSiを析出させた後、固液分離を行い、SiOを含む固形分を得るシリカ分離工程
を経て得られる高純度シリカの製造方法。