説明

高純度シリカの製造方法

【課題】高純度のシリカを、簡易にかつ低コストで製造しうる方法を提供する。
【解決手段】(A)シリカ含有鉱物粉末とアルカリ水溶液を混合して、pHを11.5以上に調整し、液分中のSi濃度が3.0質量%以上に溶解させた後、固液分離する工程と、(B)得られた液分と酸を混合して、pHを3.0未満に調整した後、固液分離する工程と、(C)得られた液分をアルカリ源と混合してpHが4.0未満である水溶液を調製し、及び/または40〜100℃に加温した後、固液分離する工程と、(D)工程(A)と工程(B)の間、及び/または、工程(B)と工程(C)の間で、前工程で得られた液分に対してイオン交換処理、及び/または活性炭処理を行う工程と、(E)工程(C)で得られた固形分と酸溶液を混合して、pHを3.0未満に調製した後、固液分離して、SiOを含む固形分と、不純物を含む液分を得る工程、を含む高純度シリカの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ含有鉱物粉末を原料とする高純度シリカの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高純度シリコンは、半導体デバイス、触媒担体等に用いられている。
高純度シリコンの製造方法として、例えば、金属シリコンから製造された高純度のシリコン塩化物(トリクロロシラン)を原料として用いる方法が提案されている(特許文献1)。
特許文献1に記載の方法によると、非常に高純度のシリコンを得ることができる。しかし、この方法は、工程が煩雑でかつ高コストであるという問題がある。このような事情下において、高純度のシリコンを、低コストかつ大量に製造することのできる技術が望まれている。
これを解決すべく、二酸化ケイ素を含有しかつ多孔質で微細構造を有する原料を精製して高純度シリカを製造し、次いで、この高純度シリカを原料としてシリコンを生成し、得られたシリコンにレーザを照射することなどによって、高純度シリコンを製造する方法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−001804号公報
【特許文献2】特開2006−188367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2に記載の方法によると、従来技術に比して、低コストでかつ簡易に、高純度のシリコンを得ることができる。シリコンの原料となる高純度シリカを、より低コストでかつ簡易に得ることができれば、好都合である。
そこで、本発明は、高純度シリカを、簡易にかつ低コストで製造することのできる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、シリカ含有鉱物粉末とアルカリ水溶液を混合して、液分中のSi濃度が特定の値以上になるようにSiを液分中に溶解させた後、不純物を固形分として回収し、次いで、pHを3.0未満に調整して、不純物(例えば、有機物)を析出させた後に、得られた液分を、アルカリ源と混合、及び/または加温して、Siをゲルとして析出させて、次いで、得られた固形分と酸溶液を混合して、不純物(例えば、Al、Fe)を溶解させること、さらに、pHを3.0未満に調整する工程の前後のいずれか一方または両方の時点でイオン交換処理、及び/または活性炭処理を行ない、不純物(例えば、ホウ素(B)、有機物等)を除去することによって、前記の目的を達成することができることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[6]を提供するものである。
[1] (A)シリカ含有鉱物粉末とアルカリ水溶液を混合して、pHが11.5以上のアルカリ性スラリーを調製し、液分中のSi濃度が3.0質量%以上となるように、上記シリカ含有鉱物粉末中のSiを液分中に溶解させた後、上記アルカリ性スラリーを固液分離して、Siを含む液分と、固形分を得るアルカリ溶解工程と、(B)前記Siを含む液分と酸を混合して、pHを3.0未満に調整して、液分中の不純物を析出させた後、固液分離を行い、Siを含む液分と、固形分を得る不純物回収工程と、(C)工程(B)で得られた液分をアルカリ源と混合してpHが4.0未満である水溶液を調製し、及び/または40〜100℃に加温して、上記液分中のSiをゲルとして析出させた後、固液分離を行い、SiOを含む固形分と、液分を得るシリカ回収工程と、(D)工程(A)と工程(B)の間、及び/または、工程(B)と工程(C)の間に設けられる工程であって、前工程で得られた液分に対してイオン交換処理、及び/または活性炭処理を行い、不純物を回収する不純物回収工程と、(E)工程(C)で得られたSiOを含む固形分と酸溶液を混合して、pHが3.0未満の酸性スラリーを調製し、上記固形分中に残存する不純物を溶解させた後、上記酸性スラリーを固液分離して、SiOを含む固形分と、不純物を含む液分を得る酸洗浄工程、を含むことを特徴とする高純度シリカの製造方法。
[2] 工程(B)において、前記Siを含む液分と酸の混合が、前記Siを含む液分を酸に添加することによって行われる、前記[1]に記載の高純度シリカの製造方法。
[3] 工程(D)において、上記イオン交換処理が、キレート樹脂またはイオン交換樹脂を用いて行なわれ、上記イオン交換処理で回収される不純物が、ホウ素、リン、アルミニウム、鉄、ナトリウム、チタン、カルシウム、カリウム、及びマグネシウムからなる群より選ばれる一種以上であり、上記活性炭処理で回収される不純物が、有機物である、前記[1]又は[2]に記載の高純度シリカの製造方法。
[4] 工程(A)と工程(B)の間に、(B1)工程(A)で得られた液分と酸を混合して、pHを10.3を超え、11.5未満に調整し、液分中の不純物を析出させた後、固液分離を行い、Siを含む液分と、固形分を得る不純物回収工程、を含む前記[1]〜[3]のいずれかに記載の高純度シリカの製造方法。
[5] 工程(A)の前に、(A1)シリカ含有鉱物粉末を水洗して、粘土分及び有機物を除去する原料水洗工程、を含む前記[1]〜[4]のいずれかに記載の高純度シリカの製造方法。
[6] 工程(A)の前に、(A2)シリカ含有鉱物粉末を300〜1000℃で0.5〜2時間焼成して、有機物を除去する原料焼成工程、を含む前記[1]〜[5]のいずれかに記載の高純度シリカの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の高純度シリカの製造方法によると、操作が簡易であり、処理効率が高いことなどに起因して、従来技術に比して低い製造コストで高純度シリカを得ることができる。
さらに、本発明の製造方法により得られる高純度シリカは、シリカの含有率が高く、また鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、リン(P)、有機物(C)などの不純物の含有率が低いという特長がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の高純度シリカの製造方法の実施形態の一例を示すフロー図である。
【図2】珪質頁岩の一例についてのCu−Kα線による粉末X線の回折強度を示すグラフである。
【図3】珪質頁岩の一例についてのオパールCTの半値幅を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の高純度シリカの製造方法を詳しく説明する。
なお、以下の工程(A1)〜工程(E)中、工程(A)、(B)、(C)、(D)及び(E)は、本発明において必須の工程であり、工程(A1)、(A2)及び(B1)は、本発明において必須ではなく、任意で追加可能な工程である。
[工程(A1);原料水洗工程]
工程(A1)は、シリカ含有鉱物(岩石状又は粉末状)を水洗して、粘土分及び有機物を除去する工程である。水洗後のシリカ含有鉱物は、通常、フィルタープレス等を用いて、さらに乾燥させる。
シリカ含有鉱物としては、珪藻土、珪質頁岩等が挙げられる。シリカ含有鉱物は、アルカリに対する溶解性が高いことが望ましい。
ここで、珪藻土とは、珪藻が海底や湖底に沈積し、長い年月の間に体内の原形質その他の有機物が分解し、非晶質シリカを主体とした珪藻殻が集積して堆積したものである。
珪質頁岩とは、珪質の生物遺骸等に由来する頁岩である。すなわち、海域には、珪質の殻を有する珪藻などのプランクトンが生息するが、このプランクトンの死骸が海底中に堆積すると、死骸中の有機物の部分は徐々に分解され、珪質(SiO;シリカ)の殻のみが残る。この珪質の殻(珪質堆積物)が、時間の経過や温度・圧力の変化などに伴い、続成作用により変質して、硬岩化することにより珪質頁岩となる。なお、珪質堆積物中のシリカは、続成作用によって、非晶質シリカから、結晶化してクリストバライト、トリデイマイトへ、さらに石英へと変化する。
【0010】
珪藻土は、主に非晶質シリカであるオパールAからなる。珪質頁岩は、オパールAより結晶化が進んだオパールCTまたはオパールCを主に含む。オパールCTとは、クリストバライト構造とトリディマイト構造からなるシリカ鉱物である。オパールCとは、クリストバライト構造からなるシリカ鉱物である。このうち、本発明では、オパールCTを主とする珪質頁岩が好ましく用いられる。
さらに、Cu−Kα線による粉末X線回折において、石英の2θ=26.6degのピーク頂部の回折強度に対するオパールCTの2θ=21.5〜21.9degの回折強度は、石英を1とした場合の比率で0.2〜2.0の範囲が好ましく、0.4〜1.8の範囲がより好ましく、0.5〜1.5の範囲が更に好ましい。該値が0.2に満たない場合には、反応性に富むオパールCTの量が少ないため、シリカの収量が低下する。一方、該値が2.0を超える場合には、オパールCTの量が石英よりはるかに多くなり、このような珪質頁岩は資源的に少なく、経済性に劣る。
なお、石英に対するオパールCTの回折強度の比率は、以下の式で求める。
石英に対するオパールCTの回折強度の比率=(26.6degのピーク頂部の回折強度)/(21.5〜21.9degのピーク頂部の回折強度)
また、珪質頁岩のCu−Kα線による粉末X線回折において、オパールCTの2θ=21.5〜21.9degの間に存在するピークの半値幅は0.5°以上が好ましく、0.75°以上がより好ましく、1.0°以上がさらに好ましい。該値が0.5°未満では、オパールCTの結晶の結合力が増大し、アルカリとの反応性が低下して、シリカの収量が減少する。ここで、半値幅とは、ピーク頂部の回折強度の1/2に位置する回折線の幅をいう。
本発明で用いる珪質頁岩は、シリカ含有率が70質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましい。このような珪質頁岩を用いることにより、より高純度のシリカを低コストで製造することができる。
シリカ含有鉱物粉末は、例えば、珪質頁岩等のシリカ含有鉱物を粉砕装置(例えば、ジョークラッシャー、トップグラインダーミル、クロスビーターミル、ボールミル等)で粉砕することによって得ることができる。
[工程(A2);原料焼成工程]
工程(A2)は、シリカ含有鉱物粉末を300〜1000℃で0.5〜2時間焼成し、有機物を除去する工程である。
なお、工程(A1)と工程(A2)の双方を実施する場合、その順序は特に限定されないが、有機物の除去効率の観点から工程(A1)を先に行うことが好ましい。
【0011】
[工程(A);アルカリ溶解工程]
工程(A)は、シリカ含有鉱物粉末とアルカリ水溶液を混合して、pHが11.5以上のアルカリ性スラリーを調製し、液分中のSi濃度が3.0質量%以上となるように、上記シリカ含有鉱物粉末中のSiを液分中に溶解させた後、上記アルカリ性スラリーを固液分離して、Siを含む液分と、固形分を得るアルカリ溶解工程である。
シリカ含有鉱物粉末とアルカリ水溶液を混合してなるアルカリ性スラリーのpHは、11.5以上、好ましくは12.5以上、より好ましくは13.0以上となるように調整される。該pHが11.5未満であると、シリカを十分に溶解させることができず、シリカが固形分中に残存してしまうため、得られるシリカの収量が減少する。
pHを上記数値範囲内に調整するためのアルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等が用いられる。
スラリーの固液比(アルカリ水溶液1リットルに対するシリカ含有鉱物粉末の質量)は、好ましくは100〜500g/リットル、より好ましくは200〜400g/リットルである。該固液比が100g/リットル未満では、スラリーの固液分離に要する時間が増大するなど、処理効率が低下する。該固液比が400g/リットルを超えると、シリカ等を十分に溶出させることができないことがある。
スラリーは、通常、所定時間(例えば、30〜90分間)攪拌される。
攪拌後のスラリーは、フィルタープレス等の固液分離手段を用いて、固形分と液分に分離される。液分は、Si及び他の成分(Al、Fe等の不純物)を含むものであり、次の工程(B)で処理される。液分に含まれるSiの濃度は、3.0質量%以上、好ましくは5.0質量%以上、特に好ましくは8.0質量%以上である。Si濃度が3.0質量%未満だと、後述する工程(C)においてシリカが充分に析出せずに液中に残存するため、得られるシリカの収量が減少する。
なお、本工程においてアルカリ性スラリーを得る際の液温は、20〜100℃に保持されることが好ましく、35〜80℃に保持されることが、エネルギーコストの観点から、より好ましい。液温を上記範囲内とすることにより、処理効率を高めることができる。
【0012】
[工程(B1);不純物回収工程]
本工程は、工程(A)で得られた液分と酸を混合して、pHを10.3を超え、11.5未満に調整し、液分中のSi以外の不純物(例えば、Al及びFe)を析出させた後、固液分離を行い、Siを含む液分と、固形分を得る工程である。
なお、本工程で回収されずに液分中に残存する不純物は、工程(B)以降の工程で回収される。
本工程において、酸との混合後の液分のpHは、10.3を超え、11.5未満、好ましくは10.4以上、11.0以下、特に好ましくは10.5以上、10.8以下である。該pHが10.3以下であると、不純物(例えば、Al及びFe)と共にSiも析出してしまう。一方、該pHが11.5以上では、十分に析出せずに液分中に残存する不純物(例えば、Al及びFe)の量が多くなる。
pHを上記数値範囲内に調整するための酸としては、硫酸、塩酸、シュウ酸等が用いられる。
pH調整後、フィルタープレス等の固液分離手段を用いて、固形分と液分に分離する。
このうち、固形分(ケーキ)は、不純物(例えば、Al及びFe)を含むものである。
液分は、Siを含むものであり、次の工程(B)で処理される。
なお、本工程においてpH調整を行う際の液温は、35〜100℃に保持されることが好ましく、35〜85℃に保持されることが、エネルギーコストの観点から、より好ましい。液温を上記範囲内とすることにより、処理効率を高めることができる。
【0013】
[工程(B);不純物回収工程]
本工程は、前工程(工程(A)または工程(B1))で得られたSiを含む液分と、酸を混合して、pHを3.0未満に調整し、液分中の不純物(例えば、有機物)を析出させた後、固液分離を行い、Siを含む液分と、固形分を得る工程である。
シリカゾル(具体的には、SiO)は、弱酸性から弱アルカリ性でゲル化する性質を有する。そのため、工程(B)は、pHが弱酸性から弱アルカリ性の領域を通過しないか、あるいは、極めて短時間で通過することが望ましい。具体的には、工程(B)は、(i)前工程(工程(A)または工程(B1))で得られた液分を酸に添加する方法、(ii)前工程(工程(A)または工程(B1))で得られた液分と酸を一時に混合する方法、のいずれかによって行なうことが好ましい。中でも、前記(i)の方法は、pHが3.0〜10.3である領域を通過しないので、特に好ましい。
本工程において、前工程で得られたSiを含む液分と、酸との混合後のpHは、3.0未満、より好ましくは2.5未満、さらに好ましくは2.0未満、特に好ましくは1.0以下である。pHが3.0以上であると、不純物の析出量が少なくなり、本工程における不純物の回収量が少なくなる。
pHを上記数値範囲内に調整するための酸としては、硫酸、塩酸、シュウ酸等が用いられる。
pH調整後、フィルタープレス等の固液分離手段を用いて、不純物からなる固形分と、Siを含む液分に分離する。
液分は、Siを含むものであり、次の工程(C)で処理される。
【0014】
[工程(C);シリカ回収工程]
本工程は、工程(B)で得られた液分をアルカリ源と混合して、pHを4.0未満に調整し、及び/または、40〜100℃に加温して、上記液分中のSiをゲルとして析出させた後、固液分離を行い、SiOを含む固形分と、液分を得る工程である。
本工程において、工程(B)で得られた液分とアルカリ源を混合することで、シリカを析出することができる。混合後の液分のpHは、4.0未満、好ましくは3.7未満、より好ましくは3.4未満である。pHが4.0以上であると、後述する工程(E)において固形分中に残存する不純物(例えば、Al及びFe)が充分に溶解しないため、高純度のシリカを得ることができない。
アルカリ源の添加量は、シリカを十分に析出させ得る量であればよく、諸条件によっても異なるが、好ましくはpHが0.5以上上昇する量であり、より好ましくは、pHが1.0以上上昇する量であり、特に好ましくはpHが1.5以上上昇する量である。
混合後の液分のpHの下限値は、諸条件によっても異なるが、好ましくは2.0以上、より好ましくは2.5以上である。
アルカリ源としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物等が挙げられる。また、アルカリ源の形態は、固体でもよいし、水溶液でもよい。
また、工程(B)で得られた液分を加温することでも、シリカを析出することができる。加温された液分の温度は、40〜100℃、好ましくは50〜90℃、より好ましくは60〜80℃である。40℃未満だと、液中のシリカが充分に析出せずに液中に残存するため、得られるシリカの収量が減少する。100℃を超えると、エネルギーコストの観点から好ましくない。
工程(B)で得られた液分をアルカリ源と混合すること、及び/または加温することで、シリカを析出することができるが、得られるシリカの収量の観点から両方行うことが好ましい。また、加温のみでシリカを析出する場合、アルカリ源を用いなくてよいという利点がある。加温のみでシリカを析出させる場合、得られるシリカ中のNaの含有量が小さくなり、Naを水洗で除去する手間が軽減されるという利点がある。
アルカリ源と混合、及び/または加温後、フィルタープレス等の固液分離手段を用いて、固形分と液分とに分離する。
固形分は、Si(具体的には、SiO)を含むものである。
【0015】
[工程(D);不純物回収工程]
本工程は、工程(A)と工程(B)の間、及び/または、工程(B)と工程(C)の間に設けられる工程であって、前工程で得られた液分に対してイオン交換処理、及び/または活性炭処理を行い、不純物を回収する工程である。
本工程で回収される不純物は、ホウ素(B)、リン(P)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、ナトリウム(Na)、チタン(Ti)、カルシウム(Ca)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、及び有機物(C)からなる群より選ばれる一種以上である。
イオン交換処理は、キレート樹脂、イオン交換樹脂等のイオン交換媒体を用いて行なうことができる。
イオン交換媒体の種類は、除去対象元素に対する選択性を考慮して、適宜定めればよい。例えば、ホウ素を除去する場合、グルカミン基を有するキレート樹脂や、N−メチルグルカミン基を有するイオン交換樹脂等を用いることができる。
イオン交換媒体の形態は、特に限定されるものではなく、ビーズ状、繊維状、クロス状等が挙げられる。イオン交換媒体への液分の通液方法もなんら限定されるものではなく、例えばカラムにキレート樹脂またはイオン交換樹脂を充填して連続的に通液する方法などを用いることができる。
イオン交換処理及び活性炭処理を行う際の液温は、各処理に用いる材料の耐用温度以下であれば、特に限定されない。
工程(D)を工程(B)と工程(C)の間に設ける場合、工程(B)による不純物の回収によって、液分中の不純物の量が少なくなっているので、工程(D)におけるイオン交換媒体(例えば、キレート樹脂、イオン交換樹脂等)の負荷が低減され、イオン交換媒体の取替え頻度が減少するなどの利点がある。
イオン交換処理及び活性炭処理の両方を行うことで、さらに高純度のシリカを得ることができる。
【0016】
[工程(E);酸洗浄工程]
工程(C)で得られたシリカ(SiO)を含む固形分は、B、P等の不純物が低減された高純度シリカである。
工程(C)で得られたシリカを含む固形分に対して、適宜、工程(E)(酸洗浄工程)を行うことができる。酸洗浄工程を行うことにより、より高純度のシリカを得ることができる。
工程(E)は、工程(C)で得られたSiOを含む固形分と酸溶液を混合して、pHが3.0未満の酸性スラリーを調製し、上記固形分中に残存する不純物(例えば、Al、Fe)を溶解させた後、上記酸性スラリーを固液分離して、SiOを含む固形分と、不純物(例えば、Al、Fe)を含む液分を得る工程である。
本工程における酸性スラリーのpHは、3.0未満、好ましくは2.0以下である。酸性スラリーのpHを上記範囲内に調整して酸洗浄を行うことにより、工程(C)で得られた固形分中に残存するアルミニウム分、鉄分等の不純物を溶解して液分中へ移行させることができ、固形分中のシリカ含有率を上昇させることができるため、高純度のシリカを得ることができる。
pHを上記数値範囲内に調整するための酸としては、硫酸、塩酸、シュウ酸等が用いられる。
pH調整後、フィルタープレス等の固液分離手段を用いて、固形分と液分に分離する。
なお、本工程においてpH調整を行う際の液温は、20〜100℃に保持されることが好ましく、20〜80℃に保持されることが、エネルギーコストの観点から、より好ましい。液温を上記範囲内とすることにより、処理効率を高めることができる。
【0017】
本発明の製造方法によって最終的に得られたシリカを含む固形分は、適宜、乾燥処理及び/または焼成処理を行うことができる。乾燥処理及び/または焼成処理の条件は、例えば、100〜1000℃で1〜5時間である。
【0018】
本発明で得られるシリカは、シリカの含有率が高く、またアルミニウム、鉄、ホウ素、リン等の不純物の含有量が低いものである。
本発明の高純度シリカ中のSiOの含有率は、好ましくは99.0質量%以上である。また、本発明の高純度シリカ中のAl、Fe、B、Pの含有率は、各々、好ましくは100ppm以下、10ppm以下、0.1ppm以下、0.4ppm以下である。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
珪質頁岩(成分組成;SiO:80質量%、Al:10質量%、Fe:5質量%、B:150ppm、P:330ppm)を、ボールミルを用いて粉砕し、珪質頁岩粉末(最大粒径:0.5mm)を得た。
原料として使用した珪質頁岩について、Cu−Kα線による粉末X線の回折強度、オパールCTの半値幅を、粉末X線回折装置(株式会社リガク製、RINT2000)を用いて測定した。回折強度を図2に、半値幅を図3にそれぞれ示す。使用した珪質頁岩は、石英の2θ=26.6degのピーク頂部の回折強度に対するオパールCTの2θ=21.5〜21.9degのピーク頂部の回折強度の比率が、0.68であった。また、オパールCTの半値幅は、1.4°であった。
次いで、得られた珪質頁岩粉末250gと、2.5N水酸化ナトリウム水溶液1000gを混合して、60分間混合撹拌し、pHが13.5であるスラリーを得た。
このスラリーを減圧下でブフナー漏斗で固液分離し、Siの濃度が8.0質量%の液分700gを得た。
次いで、得られた液分に対して98%硫酸を添加して、pHを10.5に調整した後、減圧下でブフナー漏斗で固液分離し、Fe、Al等を含む含水固形分10gと、Siを含む液分700gを得た。
なお、上記反応中の液温は、70℃に保持した。
【0020】
得られたシリカゾル溶液を10%硫酸中に滴下し、pHが1.0になるように調整した後、減圧下でブフナー漏斗で固液分離し、有機物等を含む含水固形分10gと、Siを含む液分1400gを得た。
次いで、シリカゾル溶液に対して、活性炭(関東化学社製、商品名:活性炭素(粉末))を用いて、有機物の除去を行った。
次いで、得られたシリカゾル溶液に2.5Mの水酸化ナトリウム溶液を添加して、pHを3.0に調整し、ゲルを析出させた。
得られた粗製シリカに対して、10%硫酸溶液を添加し、pHが0.5のスラリーとした。このスラリーを固液分離した後に、蒸留水を用いて、得られた固形分を水洗した。その後、105℃で1日乾燥させ、精製シリカ150gを得た。
なお、シリカゾル溶液を10%硫酸中に滴下する工程からは、常温にて反応を行った。
得られた精製シリカ中のアルミニウム(Al)、鉄(Fe)の濃度を測定した。その結果を表1に示す。
得られた精製シリカは、乾燥後に、SiO:99.9質量%、Al:10ppm、Fe:8ppm、B:0.05ppm、P:0.1pm未満の成分組成を有していた。
【0021】
[実施例2]
実施例1と同様にして得られた珪質頁岩粉末250gと、2.5N水酸化ナトリウム水溶液1000gを混合して、60分間混合撹拌し、pHが13.5であるスラリーを得た。
このスラリーを減圧下でブフナー漏斗で固液分離し、Siの濃度が8.0質量%の液分700gを得た。
次いで、得られた液分に対して98%硫酸を添加して、pHを10.5に調整した後、減圧下でブフナー漏斗で固液分離し、Fe、Al等を含む含水固形分10gと、Siを含む液分700gを得た。
なお、上記反応中の液温は、70℃に保持した。
【0022】
得られたシリカゾル溶液を10%硫酸中に滴下し、pHが0.72になるように調整した後、減圧下でブフナー漏斗で固液分離し、有機物等を含む含水固形分10gと、Siを含む液分1400gを得た。
次いで、シリカゾル溶液に対して、活性炭(関東化学社製、商品名:活性炭素(粉末))を用いて、有機物の除去を行った。
次いで、得られたシリカゾル溶液をウォーターバスによって70℃に加温した後、30分間放置して、ゲルを析出させた。
得られた粗製シリカに対して、10%硫酸溶液を添加し、pHが0.5のスラリーとした。このスラリーを固液分離した後に、蒸留水を用いて、得られた固形分を水洗した。その後、105℃で1日乾燥させ、精製シリカ150gを得た。
なお、活性炭処理後にゲルを析出させる場合を除いて、各反応中の液温は常温に保持した。
得られた精製シリカ中のアルミニウム(Al)、鉄(Fe)の濃度を測定した。その結果を表1に示す。
得られた精製シリカは、乾燥後に、SiO:99.9質量%、Al:10ppm未満、Fe:5ppm、B:0.05ppm、P:0.1pm未満の成分組成を有していた。
【0023】
[比較例1]
酸洗浄処理を施さない以外は実施例1と同様にして、精製シリカを作製し、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)の濃度を測定した。その結果を表1に示す。
得られた精製シリカは、乾燥後に、SiO:99.9質量%、Al:6332ppm、Fe:1802ppm、B:0.09ppm、P:0.1ppm未満の成分組成を有していた。
【0024】
[比較例2]
活性炭処理後のシリカゾル溶液に2.5Mの水酸化ナトリウム溶液を添加して、pHを6.0に調整し、ゲルを析出させた以外は実施例1と同様にして、精製シリカを作製し、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)の濃度を測定した。その結果を表1に示す。
得られた精製シリカは、乾燥後に、SiO:99.9質量%、Al:123ppm以下、Fe:14ppm、B:0.05ppm、P:0.1pm未満の成分組成を有していた。
【0025】
【表1】

【0026】
実施例1及び2の結果から、本発明の製造方法により得られたシリカは、シリカの含有率が高いと共に、比較例1及び2に比べて、不純物であるアルミニウム及び鉄の含有率が少ないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)シリカ含有鉱物粉末とアルカリ水溶液を混合して、pHが11.5以上のアルカリ性スラリーを調製し、液分中のSi濃度が3.0質量%以上となるように、上記シリカ含有鉱物粉末中のSiを液分中に溶解させた後、上記アルカリ性スラリーを固液分離して、Siを含む液分と、固形分を得るアルカリ溶解工程と、
(B)前記Siを含む液分と酸を混合して、pHを3.0未満に調整して、液分中の不純物を析出させた後、固液分離を行い、Siを含む液分と、固形分を得る不純物回収工程と、
(C)工程(B)で得られた液分をアルカリ源と混合してpHが4.0未満である水溶液を調製し、及び/または40〜100℃に加温して、上記液分中のSiをゲルとして析出させた後、固液分離を行い、SiOを含む固形分と、液分を得るシリカ回収工程と、
(D)工程(A)と工程(B)の間、及び/または、工程(B)と工程(C)の間に設けられる工程であって、前工程で得られた液分に対してイオン交換処理、及び/または活性炭処理を行い、不純物を回収する不純物回収工程と、
(E)工程(C)で得られたSiOを含む固形分と酸溶液を混合して、pHが3.0未満の酸性スラリーを調製し、上記固形分中に残存する不純物を溶解させた後、上記酸性スラリーを固液分離して、SiOを含む固形分と、不純物を含む液分を得る酸洗浄工程、
を含むことを特徴とする高純度シリカの製造方法。
【請求項2】
工程(B)において、前記Siを含む液分と酸の混合が、前記Siを含む液分を酸に添加することによって行われる、請求項1に記載の高純度シリカの製造方法。
【請求項3】
工程(D)において、上記イオン交換処理が、キレート樹脂またはイオン交換樹脂を用いて行なわれ、上記イオン交換処理で回収される不純物が、ホウ素、リン、アルミニウム、鉄、ナトリウム、チタン、カルシウム、カリウム、及びマグネシウムからなる群より選ばれる一種以上であり、上記活性炭処理で回収される不純物が、有機物である、請求項1又は2に記載の高純度シリカの製造方法。
【請求項4】
工程(A)と工程(B)の間に、(B1)工程(A)で得られた液分と酸を混合して、pHを10.3を超え、11.5未満に調整し、液分中の不純物を析出させた後、固液分離を行い、Siを含む液分と、固形分を得る不純物回収工程、を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の高純度シリカの製造方法。
【請求項5】
工程(A)の前に、(A1)シリカ含有鉱物粉末を水洗して、粘土分及び有機物を除去する原料水洗工程、を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の高純度シリカの製造方法。
【請求項6】
工程(A)の前に、(A2)シリカ含有鉱物粉末を300〜1000℃で0.5〜2時間焼成して、有機物を除去する原料焼成工程、を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の高純度シリカの製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−241113(P2011−241113A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114082(P2010−114082)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】