説明

高純度シリカ粉末の製造方法

【課題】 残留炭素に起因する黒色粒子のない高純度シリカ粉末を生産性・操作性良く製造し、該粉末を溶融して得られる高純度、且つ、高品質の石英ガラスを提供する。
【解決手段】 テトラメトキシシランを加水分解する際、水/テトラメトキシシラン(モル比)が7以上20以下であり、反応時の最高温度を40℃以上64℃未満に調節し、温度が低下し始めた後に静置し、得られた湿潤シリカゲル体を粉砕した後に乾燥して、該シリカゲル粉末を焼成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、残留炭素化合物に起因する黒色粒子のない高純度シリカ粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体分野、光学分野で使用される各種石英ガラス製品において、高純度の要望が高まっている。溶融法によって製造される石英ガラス製品の原料シリカ粉末としては、従来より天然の水晶を粉砕したものが利用されてきた。しかしながら、天然の水晶は各種金属元素を数百ppb以上含有しているため、より不純物含有量の少ない合成シリカ粉末が使用されるようになってきた。
【0003】
高純度の合成シリカ粉末の製造方法は、例えば、アルコキシシランの加水分解反応、いわゆるゾルゲル法で得られたシリカゲルを焼成する方法が一般に知られている。しかし、該製造方法で得られた焼成後のシリカ粉末中には、残留炭素化合物に起因する黒色粒子が存在することがある。そして、これを原料として溶融法、例えば酸水素炎溶融や電気溶融等で製造された石英ガラス素材は、炭素化合物の燃焼で生成したCOまたはCOガスによる微泡の発生が問題となる。
【0004】
この微泡の原因となる黒色粒子の残留炭素化合物の由来は、アルコキシシランの加水分解反応で生成したアルコールやシロキサン骨格構造中に残留した未反応のアルコキシ基と考えられている。
【0005】
そこで、従来より該製造方法で得られた焼成後のシリカ粉末において、黒色粒子の生成回避策が検討されてきた。加水分解反応の際、珪酸エステルに混合する水の使用量が、該珪酸エステル1モルに対し、2モル未満であると、珪酸エステルの加水分解反応の進行が不十分になり、得られる乾燥ゲルを焼成すると、残留アルコキシ基が炭化して製品が黒色を帯びるため、水の使用量を、該珪酸エステル1モルに対し、2モル以上200モル以下としている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、加水分解反応の際、撹拌槽にテトラメトキシシランと、これに対して2.5倍当量の水を仕込み、得られた湿潤ゲルを粉砕した後、該湿潤ゲルを第一段乾燥し、該粉状乾燥ゲル(カーボン含有量10000ppm)を4倍重量の純水中に浸漬して30分間撹拌した後、ゲルを濾過により回収し、第二段乾燥した後、該粉状乾燥ゲル(カーボン含有量1000ppm)を1200℃で20時間保持して焼成を行ない、合成シリカガラス粉末を製造する方法(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【0007】
特許文献1では、乾燥ゲル中の残留アルコキシ基に起因する黒色粒子の生成を回避する手段として、加水分解反応の際、イオン交換水12モル(216g)を入れたフラスコを温度15℃に調節した水浴にセットし、撹拌下、正珪酸メチル1モル(152.2g)を1時間かけて徐々に仕込み、更に1時間かけて撹拌を続けた後、混合液を調製しているが、工業的規模における生産性・設備面を考慮した有益な操作方法や、乾燥ゲル中の残留炭素濃度と黒色粒子生成の関係については開示されていない。
【0008】
一方、特許文献2の方法では、黒色粒子のない合成シリカガラス粉末が得られている。しかしながら、加水分解反応の際、アルコキシシラン対水のモル比を1:2〜1:50の範囲とし、第一段乾燥して粉状乾燥ゲルとするが、その粉状乾燥ゲル中の含有炭素量を低減する手段として、ゲルの水洗処理が必要であり、更には、後工程として第二段乾燥が必須となる。このため、工程数の増加に伴う設備費のアップやランニングコストのアップが問題となる。
【0009】
以上のことから、工業的規模で、効率良く高純度シリカ粉末を製造する方法について開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平4−238832号公報
【特許文献2】特開平5−246708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、従来課題であった残留炭素化合物に起因する黒色粒子のない高純度シリカ粉末を生産性・操作性良く製造する方法を提供することであり、該粉末を溶融して得られる高純度、且つ、高品質の石英ガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、シリカ粉末中の黒色粒子の生成回避策として、焼成前の乾燥ゲル中の残留炭素化合物、特に加水分解反応時の残留アルコキシ基の低減に着目し、加水分解反応を均一、且つ、効率良く十分に進行させるための操作方法として、水/テトラメトキシシラン(モル比)が7以上20以下であり、加水分解反応時の最高温度と液温の経時変化から反応終点を的確に見極めることで、水洗処理することなしに乾燥して得られたシリカゲル粉末を焼成しても、黒色粒子が含まれない高純度シリカ粉末が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち本発明は、テトラメトキシシランを加水分解してなるシリカゲルを乾燥・焼成することによりシリカ粉末を製造する方法において、テトラメトキシシランを加水分解する際、水/テトラメトキシシラン(モル比)が7以上20以下であり、反応時の最高温度を40℃以上64℃未満に調節し、温度が低下し始めた後に撹拌を終了して静置し、得られた湿潤シリカゲル体を粉砕した後に乾燥して、該シリカゲル粉末を焼成することを特徴とする高純度シリカ粉末の製造方法であり、該粉末は、半導体分野、光学分野で使用される各種石英ガラス製品、特に溶融石英ガラス製品の原料として好適に使用される。
【0014】
以下に、本発明の高純度シリカ粉末の製造方法を詳細に説明する。
【0015】
合成シリカ粉末の製造方法としては、(1)アルコキシシランの加水分解反応、いわゆるゾルゲル法、(2)アルカリ珪酸塩水溶液と酸との反応、(3)四塩化珪素の酸水素炎加水分解反応が一般に知られている。本発明の高純度シリカ粉末の製造方法は、(1)のアルコキシシランの加水分解反応に基づくものである。本発明で用いるアルコキシシランとしてはテトラメトキシシランであり、加水分解反応が速やかに進行するため好ましい。また、蒸留精製した金属元素含有量の少ないテトラメトキシシランが好適であり、その不純物含有量としては、少なくともNa、Al、Ca、Cu、Fe、K、Li、及びMgの各金属元素含有量が各々50ppb以下であることが更に好ましい。また、加水分解反応で使用する水は、イオン交換樹脂等を通して十分に精製された、金属元素をほとんど含まない超純水が好ましい。
【0016】
加水分解反応は、水/テトラメトキシシラン(モル比)が7以上20以下、好ましくは7以上10以下である。前記モル比が20を超えると、シリカ粉末中の黒色粒子の生成回避策としてそれ以上の利点はなく、逆に、工業的規模の生産において、反応槽のサイズが著大となり、また、後工程においてシリカゲルの乾燥に多大のエネルギーを必要とするため、好ましくない。また、前記モル比が7未満であると、シリカ粉末中の黒色粒子の生成回避が芳しくなく、好ましくない。
【0017】
該反応を、反応時の最高温度を40℃以上64℃未満に調節して行い、温度が低下し始めた後に静置させると、均質な湿潤シリカゲル体が得られる。また、該反応を、例えば、パドル型、プロペラ型、タービン型等の撹拌翼を用いた撹拌下に行うことが好ましく、更に温度が低下し始めてから15分以内に撹拌を終了させることが好ましい。
【0018】
前記静置までの操作時間は、原料の仕込み開始から1時間程度である。反応時の温度が高くなると生産性は向上するが、反応温度が64℃に達すると、生成メタノール(沸点64℃)の気化に伴い反応槽の内圧が高くなるため、その耐圧性能や還流冷却器の能力等、装置仕様上の負荷が多大となる。そのため、反応時の最高温度は64℃未満である。一方、発熱反応時の最高温度が40℃未満の場合、除熱に多大のエネルギーを必要とし、また、時間がかかり、生産性が低下するため、好ましくない。
【0019】
本発明では、加水分解時の最高温度を調節し、温度が低下し始めた後、特に15分以内に撹拌を終了することが好ましい。反応開始初期から中盤の発熱反応期は、テトラメトキシシランと水が相分離しており、得られるシリカゲルは不均質であり、焼成後のシリカ粉末中には、残留アルコキシ基に起因する黒色粒子が多数存在する。また、発熱反応後の放熱期は、反応液の温度が徐々に低下するが、低下し始めてから15分を越すと、縮重合反応の進行に伴い、反応液の粘性が次第に上昇し、撹拌機の負荷が増大する。また、反応の均一性において向上効果も見られない。
【0020】
前記シリカゲルは、例えば、ポリエチレン、ナイロン、テフロン(登録商標)等の樹脂製スクリーンに通して粉末状に粉砕した後、乾燥を行なう。ここでの粉砕条件で、シリカ粉末の粒度を制御できる。また、乾燥方法は、減圧でも常圧の通気式でも制限されない。例えば、セパラブルフラスコ内に窒素流通下、100〜200℃に加熱して、シリカゲルに含まれる水やメタノールを除去して回収することができる。
【0021】
本発明の製造方法において、メタノール回収後に得られるシリカゲル粉末は、残留炭素濃度が1000ppm以上5000ppm未満と著しく少ないものとなる。また、該シリカゲル粉末は、例えば、BET比表面積が300〜800m/g、窒素吸着法にて測定した細孔容積が0.2〜0.5mL/gの多孔質粉末であり、後工程の焼成過程において、シリカ粉末中の残留炭素化合物を燃焼除去することができる。
【0022】
乾燥シリカゲル粉末は、該シリカゲル粉末を石英ガラス製容器に入れて、電気炉中で大気雰囲気下、例えば、最高温度1100〜1300℃、保持時間10〜100時間で焼成を行なうと、本発明である黒色粒子のない高純度シリカ粉末が得られる。
【0023】
そして、本発明の高純度シリカ粉末は、Na、Al、Ca、Cu、Fe、K、Li、及びMgの金属元素含有量は各々50ppb以下である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、焼成前のシリカゲル粉末の水洗処理なしに、黒色粒子のない高純度シリカ粉末を生産性・操作性良く製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例1で得られた溶融石英ガラスインゴットを切断し、光学研磨した石英ガラスの写真を示す。
【図2】比較例2で得られた溶融石英ガラスインゴットを切断し、光学研磨した石英ガラスの写真を示す。
【実施例】
【0026】
本発明を以下の実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0027】
実施例1
パドル型撹拌翼を備えた容積10Lの石英ガラス製セパラブルフラスコに、超純水を3830g入れ、これを20℃に調節した恒温水槽に設置した。次いで、テトラメトキシシラン(多摩化学工業製 純度98.0%以上)を4045g仕込み、水/テトラメトキシシラン(モル比)を8とした。パドル型撹拌翼の周速は1.0m/秒とした。反応液温度は徐々に上昇し、最高45℃となり、以後低下した。反応液温度が低下し始めてから10分後に、撹拌を終了した。そして、該反応液を90分静置させると透明感のある湿潤シリカゲル体が得られた。撹拌時間は延べ58分であった。
【0028】
該湿潤シリカゲル体をポリエチレン製のスクリーン(目開き760μm)に通して粉末状に粉砕した後、石英ガラス製セパラブルフラスコに仕込み、これをマントルヒーターにセットした。続いて、フラスコ内に窒素ガスを1L/分で流しながら、マントルヒーターを温度200℃に昇温・保持し、シリカゲルに含まれる水とメタノールを加熱除去して、乾燥シリカゲル粉末を得た。
【0029】
該乾燥シリカゲル粉末の炭素濃度をLECO製CS−444分析装置で定量すると3300ppmであり、また、ベックマン・コールター製OMNISORP360X装置で測定したBET比表面積は687m/g(相対圧P/P=0.1、0.2、0.3)、窒素吸着によるBET法で求めた細孔容積は0.4mL/g(相対圧P/P=0.98)であった。
【0030】
続いて、乾燥シリカゲル粉末を石英ガラス製容器に1130g入れた後、電気炉にセットし、大気雰囲気下、1200℃で45時間焼成を行ない、シリカ粉末950gを得た。
【0031】
得られたシリカ粉末中に黒色粒子は観察されなかった。また、誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP−AES)による不純物分析の結果を表1に示す。各々の金属元素含有量はいずれも50ppb以下であった。この高純度シリカ粉末を酸水素炎溶融して得られた石英ガラス中に問題となる微泡は実質的になく、品質は良好であった。
【0032】
図1に、溶融石英ガラスインゴットを切断し、光学研磨した石英ガラスの写真を示す。写真より、石英ガラス中に微泡が実質的にないことが明らかである。
【0033】
【表1】

【0034】
この表から、本発明の高純度シリカ粉末は、金属元素含有量が各々50ppb以下であることが明らかである。
【0035】
比較例1
パドル型撹拌翼を備えた容積0.5Lの石英ガラス製セパラブルフラスコに、超純水を63g入れ、40℃に調節した恒温水槽に設置した。続いて、テトラメトキシシラン(多摩化学工業製 純度98.0%以上)を107g仕込み、水/テトラメトキシシラン(モル比)を5とした。パドル型撹拌翼の周速1.0m/秒で撹拌下、反応液の混合状態を目視にて観察し、撹拌時間21分で撹拌を終了し、該反応液を静置させたところ、得られた湿潤シリカゲル体は上層部が白濁しており、不均質であった。
【0036】
比較例2
加水分解反応の際に、水/テトラメトキシシラン(モル比)を5とした他は、実施例1と同様な操作を行った。
【0037】
パドル型撹拌翼を備えた容積10Lの石英ガラス製セパラブルフラスコに、超純水を2930g入れ、20℃に調節した恒温水槽に設置した。続いて、テトラメトキシシラン(多摩化学工業製 純度98.0%以上)を4950g仕込み、パドル型撹拌翼の周速1.0m/秒で撹拌下、反応液温度が最高39℃に到達し、該反応液温度が低下し始めてから8分後に、撹拌を終了し、該反応液を90分静置させると透明感のある湿潤シリカゲル体が得られた。撹拌時間は延べ60分であった。
【0038】
メタノール回収後の乾燥シリカゲル粉末の炭素濃度は、12000ppmであり、BET比表面積は582m/g、細孔容積は0.3mL/gであった。
【0039】
焼成後のシリカ粉末1kgを目視にて観察したところ、黒色粒子の個数は26個であった。このシリカ粉末を酸水素炎溶融して得られた石英ガラス中には微泡が多数発生した。
【0040】
図2に、溶融石英ガラスインゴットを切断し、光学研磨した石英ガラスの写真を示す。写真より、石英ガラス中に数百μm程度の微泡が多数発生していることが明らかである。
【0041】
比較例3
加水分解反応の際に、水/テトラメトキシシラン(モル比)を6とした他は、実施例1と同様な操作を行った。
【0042】
パドル型撹拌翼を備えた容積10Lの石英ガラス製セパラブルフラスコに、超純水を3270g入れ、20℃に調節した恒温水槽に設置した。続いて、テトラメトキシシラン(多摩化学工業製 純度98.0%以上)を4600g仕込み、パドル型撹拌翼の周速1.0m/秒で撹拌下、反応液温度が最高38℃に到達し、該反応液温度が低下し始めてから8分後に、撹拌を終了し、該反応液を90分静置させると透明感のある湿潤シリカゲル体が得られた。撹拌時間は延べ75分であった。
【0043】
メタノール回収後の乾燥シリカゲル粉末を焼成して得られたシリカ粉末1kgを目視にて観察したところ、黒色粒子の個数は4個であった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の高純度シリカ粉末の製造方法によれば、残留炭素化合物に起因する黒色粒子のない高純度シリカ粉末を生産性・操作性良く製造することが可能となり、高純度、且つ、高品質の石英ガラス製造用シリカ粉末として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラメトキシシランを加水分解してなるシリカゲルを乾燥・焼成することによりシリカ粉末を製造する方法において、テトラメトキシシランを加水分解する際、水/テトラメトキシシラン(モル比)が7以上20以下であり、反応時の最高温度を40℃以上64℃未満に調節し、温度が低下し始めた後に静置し、得られた湿潤シリカゲル体を粉砕した後に乾燥して、該シリカゲル粉末を焼成することを特徴とする高純度シリカ粉末の製造方法。
【請求項2】
請求項1で得られた高純度シリカ粉末を溶融して得られる石英ガラス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−236738(P2012−236738A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106503(P2011−106503)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】