説明

高純度タングステン粉末の製造方法

【課題】タングステン焼結体ターゲットの製造に有用な高純度タングステン粉末製造方法の提供。
【解決手段】不純物であるリンをタングステン中の換算で1wtppm以上含有するタングステン酸アンモニウム溶液を出発原料とし、これを50℃以下で塩酸により中和してpHを4以上、7未満としてパラタングステン酸アンモニウム11水塩結晶を沈殿させ、これをさらに70〜90℃に加熱し、高温状態でろ過してパラタングステン酸アンモニウム5水塩結晶を得、さらにこれをか焼して酸化タングステンとし、これを水素還元して高純度タングステン粉末とすることを特徴とするリン含有量が1wtppm未満である高純度タングステン粉末の製造方法。さらには、塩酸により中和する工程のpHを4以上6以下とし、同じ手順で高純度タングステン粉末とすることを特徴とするリン含有量が0.4wtppm以下である高純度タングステン粉末の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
一般に、IC、LSI等のゲート電極あるいは配線材料等を形成する場合に、タングステン焼結体ターゲットを用いたスパッタリングによる成膜方法が多く使用されているが、本発明は、このタングステン焼結体ターゲットを製造する際に特に有用である、高純度タングステン粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、超LSIの高集積化に伴い電気抵抗値のより低い材料を電極材や配線材料として使用する検討が行われているが、このような中で抵抗値が低く、熱及び化学的に安定である高純度タングステンが電極材や配線材料として使用されている。
この超LSI用の電極材や配線材料は、一般にスパッタリング法とCVD法で製造されているが、スパッタリング法は装置の構造及び操作が比較的単純で、容易に成膜でき、また低コストであることからCVD法よりも広く使用されている。
ところが、超LSI用の電極材や配線材をスパッタリング法で成膜する際に使用されるタングステンターゲットは、300mmφ以上の比較的大きな寸法が必要であり、且つ高純度、高密度が要求される。
【0003】
従来、このような大型のタングステンターゲットの作製方法として、電子ビーム溶解を用いてインゴットを作製し、これを熱間圧延する方法(特許文献1)、タングステン粉末を加圧焼結しその後圧延する方法(特許文献2)およびCVD法によってタングステンの底板の一面にタングステン層を積層する、いわゆるCVD−W法(特許文献3)が知られている。
しかし、前記の電子ビーム溶解したインゴットあるいはタングステン粉末を加圧焼結した焼結体を圧延する方法は、結晶粒が粗大化し易いため機械的に脆く、またスパッタリングした膜上にパーティクルと呼ばれる粒状の欠陥が発生し易くなるという問題があった。またCVD−W法は良好なスパッタリング特性を示すが、ターゲットの作製に多大な時間と費用がかかるという問題があった。
【0004】
また、リン(P)を2〜20ppm含有するタングステン粉末を原料として、ホットプレス及びHIPにより焼結し、平均粒径φ40μm以下のタングステンターゲットとする技術が開示されている(特許文献4参照)。
この場合、リンを2ppm以上含有させることが要件となっているが、リンの含有は、焼結体の粒界強度を低下させるという問題を生じた。特に、リンが多く含有されると、大寸法のタングステンターゲットの場合、局所的に異常粒成長が起こりやすく、500μm〜2mm程度の粒子が点在するようになる。このような異常粒成長した結晶は、さらに強度を低下させると共に、ターゲットを研削する機械加工時に、チッピングが発生して、製品歩留まりを低下させるという問題を生じた。
このようなタングステンの異常粒成長の問題を解決するために、焼結条件を工夫することも考えられるが、製造工程が複雑になるばかりで、安定した製造ができ難いという問題もあった。
【0005】
また、高純度タングステンターゲットとして、3N5〜7Nとし、さらに平均粒径を30μmとする技術も開示されている(特許文献5参照)。しかし、この場合は、単に総不純物量と半導体で好ましくない不純物(Fe、Cr、Ni、Na、K、U、Thなど)を規定するだけで、リンについての問題については、一切開示がない。
以上から、タングステンターゲットが持つ問題点、すなわちターゲットの不良品の発生、ターゲット製造工程での歩留まりの低下、製造コストの上昇等の問題を有していた。
【0006】
このような中で、本出願人(改称前の出願人「日本鉱業」)が開発した下記特許文献6が高純度タングステン粉末を製造するために最も有効である。例えばメタタングステン酸アンモニウムを水に溶解して含タングステン水溶液を生成し、該含タングステン水溶液に無機酸を添加しそして加熱してタングステン酸結晶を析出させ、固液分離後、該タングステン酸結晶をアンモニア水に溶解して精製パラタングステン酸アンモニウム結晶析出母液と鉄等の不純物を含む溶解残渣とを生成し、該溶解残渣を分離除去し、該精製パラタングステン酸アンモニウム結晶析出母液を加熱し、そして無機酸の添加によりpHを調整することによりパラタングステン酸アンモニウム結晶を析出させて、高純度パラタングステン酸アンモニウム結晶を製造する。
この方法で得られたパラタンダステン酸アンモニウムの結晶を、さらにか焼して酸化タングステンとし、更に、高温度で水素還元を行ない、高純度タングステン粉末を得るものである。多くの点で、特許文献6は、高純度タングステン粉末を製造する上で、基本となる技術であるが、リン含有量の低減化の要請が厳しい現状では、さらに低減化の改良を行う必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−107728号公報
【特許文献2】特開平3−150356号公報
【特許文献3】特開平6−158300号公報
【特許文献4】特開2005−307235号公報
【特許文献5】WO2005/73418号公報
【特許文献6】特開平1−172226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
タングステンの異常粒成長とターゲットの強度の低下は、リンの含有が大きな影響を与えることが分かった。特に、リンが1ppmを超えて含有する場合には、タングステンターゲットに異常粒成長した結晶粒子が存在するようになり、さらに500μm以上の粒子が点在するまでに至る。このような異常粒成長した結晶は、さらに強度を低下させることが分かった。
【0009】
このため、タングステンに含有するリンを、有害な不純物として強く認識すると共に、さらにリン含有量が1ppm未満となるように、さらにできるだけ少なくなる製造方法を開発し、タングステンの異常粒成長の防止とターゲットの製品歩留まりを向上させることを課題とするものである。
また、このリンの含有量を低減化し、高純度化したタングステンが開発できれば、ターゲットに限らず、タングステン中のリンが不純物として認識される他の用途にも使用できることは言うまでもない。本願発明は、これらに適用できる高純度タングステン粉末の製造方法を獲得することを課題とする。以下の説明においては、理解を容易にするために、本願発明により製造された高純度化タングステンが、主としてターゲットに利用された場合の得失を述べることとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明者らは、次の発明を提供するものである。
1)不純物であるリンをタングステン中の換算で1wtppm以上含有するタングステン酸アンモニウム溶液を出発原料とし、これを50℃以下で塩酸により中和してpHを4以上、7未満としてパラタングステン酸アンモニウム11水塩結晶を沈殿させ、これをさらに70〜90℃に加熱し、高温状態でろ過してパラタングステン酸アンモニウム5水塩結晶を得、さらにこれをか焼して酸化タングステンとし、これを水素還元して高純度タングステン粉末とすることを特徴とするリン含有量が1wtppm未満である高純度タングステン粉末の製造方法
2)好ましくは、塩酸により中和し、pHを4以上、6以下としてパラタングステン酸アンモニウム11水塩結晶を沈殿させ、これを更に70℃〜90℃に加熱し、高温状態でろ過してパラタングステン酸アンモニウム5水塩結晶を得、さらにこれをか焼して酸化タングステンとし、これを水素還元して高純度タングステン粉末とすることを特徴とする、リン含有量が0.7wtppm以下である高純度タングステン粉末の製造方法
【発明の効果】
【0011】
上記のリン含有量を1wtppm未満、好ましくは0.7wtppm以下、さらに好ましくは0.4wtppm以下とすることによって、タングステンの異常粒成長を効果的に抑制することができる。これによって製造した高純度タングステン粉末を、例えば焼結体ターゲットの製造に用いた場合には、ターゲットの強度の低下を防止でき、タングステン焼結体ターゲットが持つ問題点、すなわちターゲットの不良品の発生、ターゲット製造工程での歩留まりの低下、製造コストの上昇等の問題を一挙に解決でき、さらにタングステン配線膜のユニフォーミティーを向上させることができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の高純度タングステン粉末の製造方法は、タングステン酸アンモニウム溶液を出発原料とする。この場合の出発原料としては、メタタングステン酸アンモニウム溶液又はパラタングステン酸アンモニウム溶液のいずれも使用できるが、通常パラタングステン酸アンモニウムは不純物であるリンを1.6wtppm超、タングステン中の換算で2.3wtppm超含有する。
さらに、前記溶液を塩酸により中和してpHを4以上、7未満としてパラタングステン酸アンモニウム11水塩結晶を沈殿させる。なお、この場合の中和温度は、50℃以下とする。高温になると11水塩の5水塩化が進行し、リンの低減効果に悪影響を及ぼし、塩酸が揮発して環境を汚染すると共に、収率が悪くなるので、50℃以下の温度とするのが望ましい。
先に述べた特許文献6では、80〜95℃に加熱しながら、pHを6以上、8以下とするものであるから、本願発明との差異は明らかである。また、特許文献6では、対象とする不純物であるNa、K、Fe、Uを低減することが狙いであり、目的も異なるものである。
【0013】
なお、参考までに、出発原料となる市販パラタングステン酸アンモニウムの純度を表1に示す。この場合、1.69wtppmのリンが含有されていた。なお、表1に示す純度以外の分析値は、他にMg、Ca、Cu、Zn、Zr、Hf、Ta、Pb、Th、Uを測定したが、これらは全て定量下限以下であった。
また、メタタングステン酸アンモニウム溶液を使用する場合も、同じ手順によりリンの低減が可能である。
例えば、メタタングステン酸アンモニウムを水に溶解して含タングステン水溶液を生成し、該含タングステン水溶液に無機酸を添加しそして加熱してタングステン酸結晶を析出させ、固液分離後、該タングステン酸結晶をアンモニア水に溶解して精製パラタングステン酸アンモニウム結晶析出母液と鉄等の不純物を含む溶解残渣とを生成し、該溶解残渣を分離除去し、該精製パラタングステン酸アンモニウム結晶析出母液について、50℃以下で塩酸により中和して、pHを4以上7未満として、パラタングステン酸アンモニウム11水塩結晶を沈殿させる方法を適用できる。
【0014】
【表1】

【0015】
前記中和後の溶液は、さらに70〜90℃に加熱し、高温状態(前記加熱温度状態)でろ過してパラタングステン酸アンモニウム5水塩結晶を得る。さらに、これをか焼して酸化タングステンとする。これをさらに水素還元することにより、リン含有量が1wtppm未満である高純度タングステン粉末を得ることができる。
さらに、塩酸により中和する際には、pHを4以上、6以下としてパラタングステン酸アンモニウムを沈殿させることがより望ましい。以上によりパラタングステン酸アンモニウム中のリン含有量を0.7wtppm未満、特に0.4wtppm以下、さらには0.2wtppm以下とすることが可能である。
この場合のパラタングステン酸アンモニウム中のリン含有量であるが、タングステン中、例えばパラタングステン酸アンモニウム中のリン含有量が0.7wtppm未満の場合は、タングステン中では1(0.7÷0.7=1)wtppm未満となる(明細書中では、同様の計算による)。
【0016】
本発明の製造方法の要件以外については、前記特許文献6に記載の技術を利用できることは言うまでもない。
高純度タングステン粉末をターゲットに加工する場合には、公知の方法で焼結することができる。例えば、真空下で高周波電流を通電してタングステン粉末表面間でプラズマを発生させるプラズマ処理した後に、真空中で加圧焼結するか又はタングステン粉末を真空下で高周波電流を通電してタングステン粉末表面間でプラズマを発生させるプラズマ処理と同時に加圧焼結する公知の方法を用いることができる(特許第3086447号参照)。なお、この公知技術も亦、本出願人が開発した方法である。
【0017】
特に、リンの含有量が0.7wtppm、さらには1wtppmを超えると、ターゲットの表面近傍で500μmを超える異常成長領域がある。この異常成長領域が発生する領域はリンの含有量が1.0wtppm未満では、表面近傍に留まるが、その量が1.0wtppmを超えて増加すると、次第にタングステンターゲットの内部に広がっていく。また、異常成長した粒子の発生頻度も増加する。この傾向は、リン含有量が増加するにしたがって顕著となる。
【0018】
一般に、このような異常成長した粗大粒子が存在する場合、表面を研削することにより除去できるが、異常成長領域が内部に広がっていく場合には、それを除去するための研削の量は大きくなっていくことは否めない。これは、製品の歩留まりを著しく低減することになる。また、粗大粒子の存在は、機械加工時のチッピングを発生するので、さらに歩留まりが低下し、製造コストを悪化させる原因となる。
【0019】
このため、機械加工を制限して、平均粒径が50μmを超える異常粒の存在を黙認したタングステンターゲットとする手法もあるが、このように、粗大粒子が存在する場合には、スパッタリング速度が不均一となり、また成膜された膜のユニフォーミティー低下の原因となる問題が新たに発生する。
したがって、上記の異常粒の発生領域は、表層から1mm以内の層の範囲内に留めることが好ましいと言える。リンを低減した場合には、このような平均粒径が50μmを超える異常粒子の発生は極めて少なくなる。
【0020】
さらに、本発明の製造方法によって得られたリン含有量が1.0wtppm未満、特0.7wtppm以下、さらに0.4wtppm以下である高純度タングステン粉末は、総不純物濃度を10wtppm以下、ガス成分である酸素含有量及び炭素含有量が、それぞれ50wtppm以下とすることが望ましい。ここに示すものは、不可避的不純物であるが、いずれも低減させるのが好ましい。
【0021】
このように、本発明のリン含有量が1.0wtppm未満、特に0.7wtppm以下、さらには0.4wtppm以下である高純度タングステン粉末は、例えばタングステン焼結体スパッタリングターゲットとして使用した場合は、結晶の異常粒成長を効果的に抑制することができる。
そして、これによってターゲットの強度の低下を防止でき、タングステン焼結体ターゲットが持つ問題点、すなわちターゲットの不良品の発生、ターゲット製造工程での歩留まりの低下、製造コストの上昇等の問題を解決することが可能となる。
【0022】
さらに、本発明のリン含有量が1.0wtppm未満、特に0.7wtppm以下さらには0.4wtppm以下である高純度タングステン粉末を用いて製造されたターゲットを用いてスパッタリングすることにより、タングステン配線膜のユニフォーミティーを向上させることができるという優れた効果を有する。
さらに、このようにして得られたスパッタリングターゲットは、密度が向上し、空孔を減少させ結晶粒を微細化し、ターゲットのスパッタ面を均一かつ平滑にすることができるので、スパッタリング時のパーティクルやノジュールを低減させ、さらにターゲットライフも長くすることができるという効果を有し、品質のばらつきが少なく量産性を向上させることができるという効果を有する。
【実施例】
【0023】
以下、実施例および比較例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例によって何ら制限されるものではない。すなわち、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限されるものであり、本発明に含まれる実施例以外の種々の変形を包含するものである。
【0024】
(実施例1)
不純物であるリンを2.0wtppm含有するパラタングステン酸アンモニウム粉末100gを70℃で35%塩酸(HCl)と反応させ、タングステン酸(HWO)を沈殿させた。次に、これを純水で洗浄した後、29%アンモニア水70mlで溶解した。さらに、純水で370mlに定容した。
これを常温(20〜40℃)で、35%塩酸により中和してpHを4.46とし、パラタングステン酸アンモニウム11水塩結晶を沈殿させた。次に、80℃で1時間加熱し、この温度を維持し高温状態でろ過し、パラタングステン酸アンモニウム5水塩結晶を得た。これをさらに純水で洗浄し、さらに乾燥した。
【0025】
工程途中のパラタングステン酸アンモニウム11水塩結晶中のリン含有量は2.0wtppmに対し、パラタングステン酸アンモニウム5水塩結晶中のリン含有量は0.1wtppmであった。また、回収パラタングステン酸アンモニウムが63.4gであった。すなわち回収率は63.4%となった。後述する実施例2及び比較例1、2と比べて、本発明の範囲でpHが低い方が、リン含有量の低下が認められた。
さらに、これをか焼して酸化タングステンとし、これを水素還元して高純度タングステン粉末とし、リン含有量が0.1wtppmの高純度タングステン粉末を得ることができる。この工程の概要と結果を、他の例と対比して表2に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
(実施例2)
同様に、不純物であるリンを2.0wtppm含有するパラタングステン酸アンモニウム5水塩粉末100gを70℃で35%塩酸(HCl)と反応させ、タングステン酸(HWO)を沈殿させた。次に、これを純水で洗浄した後、29%アンモニア水70mlで溶解した。さらに、純水で370mlに定容した。
これを常温で、35%塩酸により中和してpHを5.43とし、パラタングステン酸アンモニウム11水塩結晶を沈殿させた。次に、80℃で1時間加熱し、この温度を維持し高温状態でろ過し、パラタングステン酸アンモニウム5水塩結晶を得た。これをさらに純水で洗浄し、さらに乾燥した。
【0028】
工程途中のパラタングステン酸アンモニウム11水塩結晶中のリン含有量は2.0wtppmに対し、パラタングステン酸アンモニウム5水塩結晶中のリン含有量は0.2wtppmであった。また、回収パラタングステン酸アンモニウムが73.3gであった。すなわち回収率は73.3%となった。pHを上げると回収率は増すが、リン含有量が増加する傾向が見られた。
さらに、これをか焼して酸化タングステンとし、これを水素還元して高純度タングステン粉末とし、リン含有量が0.3wtppmの高純度タングステン粉末を得ることができる。この工程の概要と結果を、他の例と対比して、同様に表2に示す。
【0029】
(実施例3)
同様に、不純物であるリンを2.0wtppm含有するパラタングステン酸アンモニウム粉末100gを70℃で35%塩酸(HCl)と反応させ、タングステン酸(HWO)を沈殿させた。次に、これを純水で洗浄した後、29%アンモニア水70mlで溶解した。さらに、純水で370mlに定容した。
これを常温で、35%塩酸により中和してpHを6.75とし、パラタングステン酸アンモニウム11水塩結晶を沈殿させた。次に、80℃で1時間加熱し、この温度を維持し高温状態でろ過し、パラタングステン酸アンモニウム5水塩結晶を得た。
【0030】
工程途中のパラタングステン酸アンモニウム11水塩結晶中のリン含有量は2.1wtppmに対し、パラタングステン酸アンモニウム5水塩結晶中のリン含有量は0.5wtppmであった。また、回収パラタングステン酸アンモニウムが83.4gであった。すなわち回収率は83.4%となった。この例においても、pHを上げると回収率は増すが、リン含有量が増加する傾向がみられた。
さらに、これをか焼して酸化タングステンとし、これを水素還元して高純度タングステン粉末とし、リン含有量が0.7wtppmの高純度タングステン粉末を得られるが、リンの低下ということでは若干の問題があった。この工程の概要と結果を、他の例と対比して、同様に表2に示す。
【0031】
(比較例1)
実施例と同様に、不純物であるリンを2.0wtppm含有するパラタングステン酸アンモニウム粉末100gを70℃で35%塩酸(HCl)と反応させ、タングステン酸(HWO)を沈殿させた。次に、これを純水で洗浄した後、29%アンモニア水70mlで溶解した。さらに、純水で370mlに定容した。
これを60℃に加熱した状態で、35%塩酸により中和してpHを4.83とし、パラタングステン酸アンモニウムを沈殿させた。次に、80℃で1時間加熱し、この温度を維持し高温状態でろ過し、パラタングステン酸アンモニウム結晶を得た。
【0032】
このパラタングステン酸アンモニウム結晶中のリン含有量は2.1wtppmであった。また、回収パラタングステン酸アンモニウムが76.7gであった。すなわち回収率は76.7%となった。高温で中和した場合、リン含有量が増加し、本願発明の目的から外れた。なお、pHを上げた場合でも、比較例1に比べて収率も低下した。pHの上昇は必ずしも得策でないことが分かる。
さらに、これをか焼して酸化タングステンとし、これを水素還元して高純度タングステン粉末とし、リン含有量が3.0wtppmの高純度タングステン粉末を得たが、リンの低下ということでは大きな問題があった。この工程の概要と結果を、他の例と対比して、同様に表2に示す。
【0033】
(比較例2)
実施例1と同様に、不純物であるリンを2.0wtppm含有するパラタングステン酸アンモニウム粉末100gを70℃で35%塩酸(HCl)と反応させ、タングステン酸(HWO)を沈殿させた。次に、これを純水で洗浄した後、29%アンモニア水70mlで溶解した。さらに、純水で370mlに定容した。
これをホットスターラーで70℃に加熱した状態で、35%塩酸により中和してpHを5.05とし、パラタングステン酸アンモニウム11水塩結晶を沈殿させた。次に、80℃で17時間加熱し、この温度を維持し高温状態でろ過し、パラタングステン酸アンモニウム5水塩結晶を得た。
【0034】
このパラタングステン酸アンモニウム結晶中のリン含有量は1.2wtppmであった。また、回収パラタングステン酸アンモニウムが79.8gであった。すなわち回収率は79.8%となった。70℃以上の条件における中和だと、リン含有量が増加し、本願発明の目的から外れた。
さらに、これをか焼して酸化タングステンとし、これを水素還元して高純度タングステン粉末とし、リン含有量が1.7wtppmの高純度タングステン粉末を得たが、これもリンの低下ということでは大きな問題があった。この工程の概要と結果を、他の例と対比して、同様に表2に示す。
【産業上の利用可能性】
【0035】
高純度タングステン粉末のリン含有量を1wtppm未満、好ましくは0.5wtppm以下とすることによって、タングステンの異常粒成長を効果的に抑制することができる。これによってターゲットの製造に利用した場合には、強度の低下を防止でき、タングステン焼結体ターゲットが持つ問題点、すなわちターゲットの不良品の発生、ターゲット製造工程での歩留まりの低下、製造コストの上昇等の問題を一挙に解決でき、さらにタングステン配線膜のユニフォーミティーを向上させることができるという優れた効果を有する。本願発明による製造方法は、用途に応じてリン含有量を1wtppm未満に、好ましくは0.7wtppm以下に、より好ましくは0.4wtppm以下に、さらに好ましくは0.2wtppm以下に、それぞれ調整した高純度タングステン粉末を提供することが可能であり、この高純度タングステン粉末を使用して製造したスパッタリングターゲットは、LSI配線膜用ターゲット材として、極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物であるリンをタングステン中の換算で1wtppm以上含有するタングステン酸アンモニウム溶液を出発原料とし、これを50℃以下で塩酸により中和してpHを4以上、7未満としてパラタングステン酸アンモニウム11水塩結晶を沈殿させ、これをさらに70〜90℃に加熱し、高温状態でろ過してパラタングステン酸アンモニウム5水塩結晶を得、さらにこれをか焼して酸化タングステンとし、これを水素還元して高純度タングステン粉末とすることを特徴とするリン含有量が1wtppm未満である高純度タングステン粉末の製造方法。
【請求項2】
塩酸により中和し、pHを4以上、6以下としてパラタングステン酸アンモニウム11水塩結晶を沈殿させ、これを請求項1の手順で高純度タングステン粉末化することを特徴とする、リン含有量が0.4wtppm以下である高純度タングステン粉末の製造方法。

【公開番号】特開2011−74477(P2011−74477A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229570(P2009−229570)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【出願人】(391002683)日本新金属株式会社 (14)
【Fターム(参考)】