説明

高純度原子炉用黒鉛

とりわけ原子炉用途に利用可能な高度に等方性の黒鉛が開示される。この黒鉛は、灰分含有量が300ppm未満で、ボロン等量が約2ppm未満であり、黒鉛精製後処理を要しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、針状コークス基材から原子炉での使用に適した黒鉛を製造するプロセスに関する。より詳細には、本発明は原子炉用に使用するための、黒鉛精製後処理を必要としない高度に等方性の高純度黒鉛を形成する方法に関する。「高度に等方性」とは、特に粒子の目に逆らった方向のCTE(熱膨張率)を粒子の目に沿った方向のCTEで割った2方向のCTE比として定義され、等方性の比率が約1.5未満の黒鉛を意味する。本発明はまた、そうして製造された高純度原子炉用黒鉛を含む。
【背景技術】
【0002】
寸法範囲が全体的に約450mm径以上で、900mm長以上の「ラウンズ」(即ち、円筒形のビレット)から、体積が0.6立方メーター以上の矩形ブロックまでの黒鉛部品が、新しい世代の高温核分裂や超高温核分裂原子炉における燃料要素や、減速材ブロックや、反射体ブロックとして用いられている。本質的に、これらの原子炉は、プリズマティック 型とペブルベッド型という2つの主な型からなる。これら原子炉型のいずれにおいても、黒鉛が中性子反射体として用いることができるのと同様に、中性子を熱運動化するための減速材に用いることができる。さらに、黒鉛は燃料や原子炉を囲む冷却ガスのための流路系(network of channels)に用いられる構造的燃料要素として用いることもできる。
【0003】
原子炉の稼働は、原子炉を構成し維持するために用いられている黒鉛体と接触するかなりの量の放射物を生み出す。放射線に晒された黒鉛体は、黒鉛体としての性能に欠陥を引き起こし、最悪の場合には黒鉛成分が破壊されるような物理的及び構造特性的変化をしばしば経験する。さらに、原子炉の黒鉛の不純物が、2つの望ましくない効果を引き起こすことがある。ある特定の不純物は、核分裂連鎖反応を維持するために必要な中性子を吸収してしまう。また、ある不純物は、黒鉛が最終的に原子炉から切り離され、廃棄物として処理される際に、非常に健康を害する有害な同位元素に変化することがある。従って、従来の原子炉黒鉛材料の製造プロセスは、灰分やホウ素といった不純物を低減又は除去するために、追加の精製工程が必要であった。
【0004】
原子炉用黒鉛材料の従来の製造方法では、中間体の粒子特性(medium grain characteristic)を備えた高CTEか焼コークスを使用するとともに、黒鉛を所望の形状にするための、押出成形、単軸成形、振動成形、又は等方圧(静水圧)成形(isostatic molding)のいずれかを使用するものであった。しかしながら、黒鉛を原子炉用途で用いるために必要な純度レベルを達成するためには、使用される高CTEか焼コークスが、もともと不純物を含んだ石炭又は精製原油から得られるということが根本的な問題となる。一般的に、コールタールから形成された高CTEか焼コークスの不純物には、かなりの量の灰分が含まれている。またほとんどの場合、精製原油から形成された高CTEか焼コークスの不純物には、オリジナルの原油に由来した高濃度の灰分が含まれている。
【0005】
一般的に、原子炉用黒鉛を生成する従来技術のプロセスでは、まず、か焼コークスの種類を選択し、続いてこのコークスを小片に粉砕し、さらに黒鉛に加工する前に、破砕又はミリングされる。ほとんどの場合、破砕されたか焼コークスは、一種のバインダーと、最も一般的にはピッチと混合される。ピッチはコールタール又は石油タールを熱処理したものから得られる多核芳香族化合物の複合混合物である。室温において、ピッチは固体に見えるが、実際には極めて低い流動性を有する液体である。このピッチは、破砕されたコークスと混合されて、黒鉛工業分野で生物品(green article)として知られる比較的固体の生成物を形成する。
【0006】
従来の製造方法では、この時点で、生物品は最終原子炉黒鉛生成物として望ましい形状に形成される。通常、黒鉛化の前にこの生物品の全体形状を形成するために、押出成形が用いられる。
【0007】
当技術分野で周知のように、押出成形はバインダーとコークスの混合物をダイに押し込んで、固定した断面を有する物品を形成するプロセスである。黒鉛体の形成において、生物品はより容易にダイに流れ込むように加熱され、よってより小さな圧力で一般的な形状を得ることができる。
【0008】
原子炉用黒鉛を形成するための先行技術の生物品を成形するための更に別の手段としては、一般的に圧力を一又は二方向から加えて、生物品を所望の構造に変形させる加圧成形がある。加えて、この混合物を加熱することによって、より容易に所望の形状に成形できるようにしても良い。
【0009】
黒鉛を製造する先行技術のプロセスの次の工程は、通常、生物品を焼成することで、揮発性成分を除去することと、より重要なのは、ピッチバインダーを固体の炭素材料に変え、硬い形状を保持し、維持することである。焼成中、生物品から放出されるガスが、しばしばこの物品内に小さなチャネルや微細孔を生じさせて、炭素体全体に伸びて開口した多孔を形成することがある。この場合、さらに、ピッチをこの焼成した物品に含浸して、揮発性ガスが抜けたあとの空孔を埋めてこの焼成した炭素体の密度を高める。一般的に、含浸するピッチは室温で固体であって、含浸に適した低粘度液体に変換するために、高温に予備加熱する必要がある。含浸用ピッチを加える前に、炭素体を高温に予備加熱しておくことも、従来用いられている。
【0010】
次に、このピッチが含浸された炭素体は、冷却されて炭素体の中に含浸剤を凝固させる。ピッチが炭素体に含浸された後、通常この含浸された炭素体は、再びベークされて含浸剤を炭化する。このプロセスは数回繰り返されて、後に黒鉛化されるための所望の密度の炭素体を得る。
【0011】
先行技術における炭素体の黒鉛化には、電流を用いた通常約2000℃から3500℃の熱処理が含まれる。ほとんどの場合、熱処理には数日を費やし、炭素体を、内部格子形構造を有する黒鉛材に変換する。
【0012】
原子炉用黒鉛では、黒鉛構造の中の不純物レベルが極端に低いこと、とりわけ灰分の量が300ppm未満で、ボロン等量が10.0ppm未満、より一般的には5.0ppm未満、通常は2.0ppm未満であることが必要なので、通常、この黒鉛には温度約2000℃以上でガス処理する黒鉛精製後処理がなされる。より詳細には、黒鉛中の不純物濃度が、灰分で300ppm、ボロン等量で2ppmを超えないように、この黒鉛には不純物を取り除くために約2200℃から約2600℃でハロゲンガス雰囲気中の熱処理がなされる。黒鉛のボロン等量は、「等量ボロン定数」とも呼ばれ、すべての不純物の中性子吸収容量について、各不純物の種類と量から計算され、ボロンの等量当たりの中性子吸収性能に換算して表現される。ボロン等量は、ASTM C 1233で規定された方法を用いて算出することができる。
【0013】
また、灰分含有量が300ppm未満で、ボロン等量が5.0ppm未満になる程度に不純物を低減するための黒鉛精製後処理は、この精製処理に高熱エネルギーの消費が必要なために、極端に費用がかかる。しかも、かかる追加の精製処理は、いくつかの原子炉に必要な大きな黒鉛ブロックに対しては効果がない場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、等方性の性質を有し、相対的に高い結晶化度を有し、黒鉛精製後処理が不要で、灰分で約300ppm未満、ボロン等量で約5.0ppmの不純物レベルを有する、改良された原子炉用黒鉛(即ち、原子炉での使用に適した黒鉛材料)を製造する方法が望まれる。さらに、黒鉛体が相対的に大きなブロックに形成可能であることが望ましい。実際、原子炉用途で黒鉛を使用する場合には、等方性の性質と、相対的に高い結晶化度と、別個の精製工程無しに先行技術より低い不純物レベルを達し得るという特徴を合わせもつことが、望ましいことであると解っている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、等方性で、相対的に結晶化度が高く、黒鉛精製後処理を必要としない改良した特性を有する、原子炉用途に適した黒鉛を提供する。本発明の黒鉛は、従来見られなかった純度と結晶化度と等方性を併せ持つ。加えて、針状コークス原料から改良した黒鉛を製造する本発明のプロセスは、独特のプロセス条件を利用し、それによって黒鉛精製後処理が不要な灰分含有量が約300ppm未満で、ボロン等量が約5.0ppm未満の黒鉛を供給する。より詳細には、本発明の原子炉用黒鉛は、粒子の目に逆らった(against−grain)方向のCTE(熱膨張率)を粒子の目に沿った(with−grain)方向のCTEで割って求める等方性率で約0.85から約1.5を有する。
【0016】
本発明の原子炉用黒鉛は、高度に等方性の高純度黒鉛の大きなブロックを製造するためのまったく新しいアプローチによって生み出された。この新規なプロセスには、例えば石油から生成された針状コークスのような生の(即ち、焼成されていない)針状コークスをミリングして微粉末にするプロセスと、このコークスの微粉末にバインダーピッチを混合するプロセスと、続けてこの混合物をミリングして成形粉にするプロセスと、この粉を所望の形状の黒鉛物品に等方圧(静水圧)的に成形するプロセスと、こうしてできた生物品(green article)を、焼成するプロセスと、高密度化するプロセスと、黒鉛化するプロセスとが含まれ、高純度で高等方性の黒鉛を製造するものである。実際に、本発明に係るプロセスで製造された黒鉛は、等方性に近い(near isotropic)、つまり等方性率で約1.15以下又は、ほぼ等方性(even isotropic)、つまり等方性率で約1.10以下のものとして特徴づけられる。有利な点は、本発明のプロセスで製造した黒鉛の不純物レベルが、精製プロセスが不要な程度に低く、従って著しいコスト削減を達成できることである。
【0017】
生針状コークス原料を用いることの別のメリットは、X線回折で測定して高度の完全結晶性を有し、しかも比較的等方性を維持した黒鉛となることである。もしか焼き針状コークスを使用していたなら、形成される物品の結晶完全性は同程度でも、黒鉛はもっと大きな選択配向性又は異方性を示すはずである。高い結晶化度は、原子炉用黒鉛にとって望ましい、というのは、「アニールアウト(anneal out)」と呼ばれる照射損傷が、低い結晶化度の黒鉛に較べて良好であると考えられているからである。等方性は、従来の原子炉用黒鉛において、結晶化度より高く評価されてきた。そのため、黒鉛は高いCTEの等方性コークスから製造されてきた。等方性をさらに促すために、等方圧(静水圧)成形と共に生針状コークスを用いることで、従来のプロセスでは得られなかった純度と結晶秩序と等方性の組み合わせを得ることができる。
【0018】
従って、本発明の目的は、灰分含有量が約300ppm未満で、ボロン等量が約5.0ppm未満の、針状コークスから生成された黒鉛を提供することである。
【0019】
本発明のもう1つの目的は、高純度で、等方性率が約0.85から約1.15の改良された等方性を有し、原子炉で用いることのできる黒鉛を提供することである。
【0020】
本発明のまた別の目的は、原子炉用に改良された黒鉛を提供するための、高純度で、相対的に結晶化度が高く、等方性の黒鉛を製造するプロセスを提供することである。
【0021】
本発明のさらに別の目的は、高純度の生針状コークスを用い、特定のサイズにミリングし、その後の黒鉛精製後処理が不要な高純度黒鉛を製造する工程を含む、高純度で高等方性黒鉛を製造するためのプロセスを提供することである。
【0022】
当業者には以下の記述を検討することで明らかになるであろうこれらの態様等は、例えば石油由来の針状コークス(別名石油コークス)のような高純度生針状コークスを用い、この生の針状コークスを微粉末に製粉(ミリング)し、続けてこの微粉末をバインダーピッチと組み合わせ、その混合物を成形粉に製粉(ミリング)し、成形粉を所望の形状の黒鉛物品に等方圧的(静水圧的)に成形し、さらにこの黒鉛物品をベーキングし、圧縮し、黒鉛化して高純度で等方性に近い黒鉛を製造することで成し遂げることができる。結果として得られた黒鉛は、約0.85から約1.5の等方性率を有し、より好ましくは約0.85から約1.15の等方性率を有し、最も好ましくは約0.85から約1.10の等方性率を有し、灰分含有量が約300ppm未満であり、同様にボロン等量が約5.0ppm未満であって、黒鉛精製後処理を経ていないものである。1つの実施例において、等方性率は1.15未満である。
【0023】
原子炉用途に適した黒鉛を製造するこの独自のプロセスは、実質的に不純物を含まないにもかかわらず、改善した等方性と、制御可能な平均密度と、曲げ強度を有する黒鉛を生み出す。有利なことに、この新規なプロセスで製造された黒鉛は、プリズマティック型炉又はぺブルベッド型炉を含む次世代の高温及び超高温の核分裂原子炉に対して用いることができる。
【0024】
上記概要と以下の詳細な説明の両方が、本発明の実施形態を定めるものであり、請求項に係る本発明の特質と特徴を理解するための要旨の骨子を提供することを意図していると理解されたい。
【発明を実施するための形態】
【0025】
上で述べたように、原子炉での用途に適した本発明の黒鉛(以下、原子炉用黒鉛と称す)は、まず生針状コークスをミリングして粉末にし、このミリングした粉末にピッチを混合して混合物を形成し、続けてこれをミリングして、最終的に原子炉用黒鉛となるように処理する。より詳細には、この針状コークスは、重量で95%のものが、メッシュサイズ約100ミクロンのスクリーンを通過するサイズに製粉(ミリング)されている(「100ミクロン通過」粒子と称す)。より好ましくは、製粉された粉の粒子サイズは約75ミクロン、より好ましくは約44ミクロン(米国メッシュサイズ325に相当)のメッシュを通過する。実用的な見地から、この針状コークスは少なくとも約2ミクロンの平均径になるまでミリングされる。この製粉された針状コークスの粒子サイズは、黒鉛の特定の所望の物理的特性、例えば曲げ強度、密度、電気抵抗、熱伝導度等に従って選択されるが、このことは、当業者の範囲内のことである。
【0026】
本発明のプロセスは、石炭ベースの針状コークスの他、その他の原料からの針状コークスも用いることができるけれども、原子炉用黒鉛の基本カーボン成分として、石油由来の高純度生針状コークスを使用するのが好ましい。針状コークスの特定の特性は、適切なカーボン原料が針状コークスに変換されるコークス化過程の制御特性によって決定される。一般的に、針状コークスは、CTE(熱膨張率)特性が30℃から100℃の範囲で測定して0.4ppm/℃未満のものであると定義することができる。高いCTEのか焼コークスの代わりに生針状コークスを使用するメリットは、針状コークスを製造するための石油を基にした原料が、相対的に灰分を含まないことである。この灰分成分は、コークス化過程において針状コークスの生成を妨げてしまう。一般的に、高純度の生針状コークスを製造するには、コークス化過程の間、適切な中間相を形成するために、スタート原料中の不純物レベルが低いことが必要とされる一方、高CTEか焼コークスの生成にはかなりの量の不純物があっても支障がない。針状コークスには、相対的に高い結晶化度の黒鉛を製造するという別のメリットもある。か焼コークスの代わりに生針状コークスを使うことによって、黒鉛をより等方性に形成することができる。
【0027】
生針状黒鉛を製粉(ミリング)することは、原子炉用黒鉛に異方性の性質が発現するのを妨げるために、コークス粒子の黒鉛結晶配向性を最小にするに効果的である。これは、か焼することで、コークスを製粉(ミリング)する際に裂けた光学ドメイン境界(optical domain boundaries)に沿って亀裂を生じさせるからであり、従って、各粒子内の結晶選択配向性が強調されるからである。生針状コークスは、配向した亀裂を含まないので、より配向性の小さな粒子に裂ける。
【0028】
次に、この粉末の針状コークスは、石炭タールのバインダーピッチなどのピッチと混合される。ピッチと粉末のコークスが均質に混合されるに適切なように、このピッチは予備加熱されて低粘度の液体に変換される。また別の実施形態では、針状コークスとピッチの混合物の均一性が向上するように、このコークスもピッチに加えられる前に予備加熱される。一般的に、ピッチと針状コークスの混合物は、コークス100部(重量部)に対してバインダーピッチが約20部から約80部の間程度含まれ、好ましくは、コークス100部に対して約40部から70部のバインダーピッチが含まれる。
【0029】
この針状コークスとピッチの混合物は、後で行う等方圧(静水圧)成形プロセスのために、通常、ミリングされて成形粉にされる。一般的に、この混合物は、成形粉用に、粒子サイズが約150ミクロンを通過する程度に、好ましくは約100ミクロン、最も好ましくは約75ミクロンを通過するサイズに製粉(ミリング)される。針状コークスを成形粉に比較してより細かなサイズに製粉することによって、針状コークスの異方性の性質はいっそう解消されて、ほとんど異方性を有さない高純度成形粉が得られる。
【0030】
針状コークスから等方性の黒鉛を製造できる他の原子炉用黒鉛製造プロセス、例えばBAN処理と称され、全体的に英国特許第1、098、882号に記載されたプロセスと同様に、製粉前に針状コークスとピッチの混合物を焼成することは不要であり、本発明のプロセスはコストと時間の節約を提供する。
【0031】
次に、成形粉は、参照することにより本明細書に組み込まれる米国特許第5、107、437号で議論されているように、等方圧成形によって大きなブロック状に形成される。等方圧成形とは、粉末状の合成物をコンパクトな形状に圧縮するための加圧成形であって、理論密度に近づけるのに十分な圧力を加えるものである。成形粉は適切な液状媒体、好ましくは液体により作用する圧力によって圧縮されて、無指向性の大きな生密度(green density)が得られる。押出成形も、一軸成形も、振動成形も、その成形品は成形品の形状に沿った粒子の配向性を有するので、原子炉用黒鉛の成形には適切ではない。この配向性は、原子炉用途にはまったく適さない異方性を有する黒鉛製品を生み出す。
【0032】
針状コークス粉とピッチからなる成形粉の等方圧(静水圧)成形において、合成物は従来のエラストマー型(elastomeric mold)又は設計したバッグ(design bag)内で、圧縮されたコンパクトな形状に押圧される。等方圧成形は、次に密封されて静水圧流体の浸入を防ぎ、次に支持構造に取り付けられて成形体を形成する。この成形体は、圧力容器の中に置かれ、この圧力容器は続けて静水圧流体で満たされ、密封される。一般的に、等方圧成形用加圧ポンプを作動して、制御されたレートで圧力を上昇させることで、針状コークスとピッチの粉末からなる生物品の密度が所望の密度に達する。ひとたび等方圧成形内の混合物がその密度に達すると、システムを減圧して、この新規の生物品を取り出す。一般的に、この密度は黒鉛製品の最終密度を反映しており、約1.2g/ccから約1.8g/cc、より好ましくは約1.5g/ccから約1.8g/ccである。従来の押出成形や一軸成形を用いることなく、等方圧成形によって成形粉を生物品に成形しているので、成形中に潜在的な選択配向が進む傾向はかなり減じられている。
【0033】
等方圧成形の後、成形された生物品は温度約700℃から約1100℃で、より好ましくは約800℃から約1000℃でベーキングされ、ピッチバインダーを炭素処理して固体コークスにし、不変の形状と、高い機械的強度と、良好な熱伝導性と、比較的低い電気抵抗とを有する炭素質の物品を形成する。ほとんどの場合、この新規な生物品は比較的空気が薄い状態でベークされることで酸化を防ぎ、最終温度に達するまで一時間当たり約1℃から約5℃のレートで昇温される。ベーキング後、この炭素質の物品は、開孔に追加のピッチコークスを堆積させるために、一回以上ピッチの中に含浸させても良い。好ましくは、この炭素質の物品を1回だけピッチ材料の中に含浸させる。ベーク後、この状態の物品を炭化原子炉用黒鉛前駆体と称し、次に、これを黒鉛化する。
【0034】
黒鉛化は、最終温度が約2500℃から約3400℃の間で、炭化原子炉用黒鉛前駆体の炭素原子を、不完全な配列状態から黒鉛結晶構造に変換させるのに十分な時間にわたる熱処理によって行われる。黒鉛化は、炭化原子炉用黒鉛前駆体を少なくとも温度約2700℃に維持して行うことが有利である。また、温度約2700℃から約3200℃の間で行うことが、より有利である。これらの高い温度において、カーボン以外に存在していた成分は、揮発し、気体となって抜けていく。本発明のプロセスで用いられる黒鉛化温度を維持するために必要な時間は、約12時間以下である。
【0035】
黒鉛化が完了すると、出来上がった原子炉用黒鉛は、適当なサイズにカットされるか、又はそのままの形状で残される。また、灰分含有量が約300ppm未満、ボロン等量が約2.0ppm未満であるので、黒鉛化後の精製処理は不要である。
【0036】
本発明に従って製造された原子炉用黒鉛の等方性は、約0.85から約1.5であり、好ましくは約0.85から約1.15であり、最も好ましくは約0.85から約1.1であって、30℃から100℃で測定して、原子炉用黒鉛の粒子の目に沿った方向のCTE(熱膨張率)は約3ppm/℃から約6ppm/℃で、粒子の目に逆らった方向のCTEは約3ppm/℃から約6ppm/℃である。本発明の黒鉛は、光学的に調査可能であり、個々の大きなドメインのサイズが、コークスの粒子サイズに略等しく、平均で約100ミクロン未満、好ましくは75ミクロン未満、最も好ましくは約44ミクロン未満である。反対に、原子炉用黒鉛を高CTE等方性コークスから製造した場合、光学的ドメインサイズは粒子サイズよりはるかに小さくなり、平均で約5から25ミクロンである。1つの実施例において、光学的ドメインは10ミクロンより大きい。別の実施例において、光学的ドメインは25ミクロンより大きい。
【0037】
また、針状コークス粉末のサイズを約2ミクロンから約75ミクロンまで変化させることで、所望の曲げ強度と密度と熱伝導度を有する原子炉用黒鉛を形成でき、特定の原子炉用途に適合させることができる。
【0038】
また、製造された原子炉用黒鉛の平均密度は約1.5g/ccから約1.8g/ccである。この新規な黒鉛の曲げ強度は、一般的に約25MPaから約40MPaで、熱伝導度は約85W/(m・K)より大きく、好ましくは約120W/(m・K)より大きい。灰分やボロン等量が低濃度であることと共に、上記のこれらの特徴とによって、原子炉用に理想的に適合した改良黒鉛が提供される。
【0039】
本発明をさらに説明するために以下に実施例を示すが、これは本発明を限定するものではない。別段示さない限り、すべての部及び割合は重量単位であり、開示したプロセスの特定の段階における生成物を基準としたものである。
【0040】
生針状コークスは、平均粒径25ミクロンに製粉(ミリング)されて、約160℃で石炭タールバインダー60部対コークス100部の割合で混合される。この針状コークスと石炭タールの混合物は、平均サイズ35ミクロンに製粉(ミリング)され、続けて等方圧(静水圧)成形される。こうして出来た成形生物品は、温度約800℃でベークされて、続けて圧縮されて、原子炉用黒鉛前駆体を形成する。この前駆体は、次に3000℃以上で黒鉛化されて、新規の原子炉用黒鉛を生み出す。この新規の原子炉用黒鉛は、灰分含有量が約300ppm未満であり、ボロン等量が約2.0ppm未満である。また、原子炉用黒鉛の等方性率は、約1.4未満であり、曲げ強度は25MPaより大きく、熱伝導度は約130W/(m・K)で、黒鉛精製後処理をしなくとも、原子炉応用に適した黒鉛となる。
【0041】
上述の記載は、当業者が本発明を実施できるようにすることを意図したものである。本明細書を読んだ当業者にとって明らかであろうあらゆる変形や改良を詳述することを意図したものではない。しかしながら、かかる変形や改良が、添付の特許請求の範囲で規定された本発明の範囲内に含まれるべきことは意図している。かかる特許請求の範囲は、本文中で特に逆の事を示していない限り、本発明の意図する目的に合致する有効なあらゆる改良又はシーケンスからなる構成及び工程をカバーすることを意図している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.生針状コークス粉末とバインダーピッチとを混合してコークス混合物を形成する工程と、
b.前記コークス混合物を製粉して成形粉を形成する工程と、
c.前記成形粉を等方圧成形して生物品を形成する工程と、
d.前記生物品を黒鉛化して、黒鉛精製後処理すること無しに、等方性率約1.5以下で、灰分含有量約300ppm未満、及び、ボロン等量約2ppm未満の黒鉛体を得る工程と、
を含む黒鉛体の製造方法。
【請求項2】
平均粒径約75ミクロンの製粉された生針状コークスと、石炭タールバインダーピッチとの混合物で構成された生物品であって、
前記バインダーピッチと前記針状コークスとの混合物の割合が、20:100〜80:100であることを特徴とする生物品。
【請求項3】
等方性率が約1.5以下であり、灰分含有率が約300ppm未満であり、ボロン等量が約2ppm未満であり、そして、個々の大きな光学的ドメインが約100ミクロン未満であることを特徴とする原子炉用途に適した黒鉛体。

【公表番号】特表2010−507550(P2010−507550A)
【公表日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−528380(P2009−528380)
【出願日】平成19年8月28日(2007.8.28)
【国際出願番号】PCT/US2007/076985
【国際公開番号】WO2008/079452
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(507393218)グラフテック、インターナショナル、ホールディングス、インコーポレーテッド (22)
【氏名又は名称原語表記】GrafTech International Holdings Inc.
【Fターム(参考)】