説明

高純度水酸化カルシウムの製造方法

【課題】塩素含有量が少なく、かつ不純物金属の含有量が少ない高純度水酸化カルシウムを製造する。
【解決手段】A)石灰石を焼成して得られる生石灰に水を反応させて、水酸化カルシウムスラリーを調製する工程と、B)水酸化カルシウムスラリーに、pH9.5〜11.5の範囲内となるように硝酸を添加する工程と、C)硝酸を添加して得られた溶液を濾過して、濾液を得る工程と、D)濾液にアルカリ金属水酸化物を添加し、水酸化カルシウムを析出させる工程と、E)析出した水酸化カルシウムを濾過することにより、水酸化カルシウムを分離する工程とを備えることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナトリウム、鉄、マグネシウム、ストロンチウムなどの不純物金属の含有量が少なく、かつ塩素の含有量が少ない高純度水酸化カルシウムの製造方法並びに該方法により得られる水酸化カルシウムを用いて高純度炭酸カルシウム、高純度硝酸カルシウム、及び高純度フッ化カルシウムを製造する製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
主に水酸化カルシウムを原料として製造される炭酸カルシウムは、セラミックコンデンサなどの電子材料の原料として使用されている。炭酸カルシウム中に、ナトリウム、鉄、マグネシウム、ストロンチウムなどの不純物金属が混入していると、所望の電子特性が得られないという問題を生じる。
【0003】
また、フッ化カルシウムは、半導体製造用の露光装置レンズ等に用いられているが、不純物金属が混入していると、露光の際の光透過率が大きく低下するという問題を生じる。
【0004】
また、硝酸カルシウムは、デジタルカメラのレンズ等に用いられているが、不純物金属が混入していると、同様の理由で、光の透過率が大きく低下するという問題を生じる。
【0005】
従って、炭酸カルシウム、フッ化カルシウム、及び硝酸カルシウムを、電子部品や光学材料の原料として使用する場合には、不純物金属の含有量が極めて低い必要がある。
【0006】
また、塩素が多量に含有されていると、鉄の不動態皮膜が孔食と呼ばれる局部腐食を起こすことによって、電子部品や光学材料自体の劣化及び腐食が生じるという重大な問題を引き起こす。
【0007】
炭酸カルシウム、フッ化カルシウム、及び硝酸カルシウムの原料としては、一般に水酸化カルシウムが用いられており、上記の理由により、不純物金属の含有量が少なく、かつ塩素含有量の少ない高純度水酸化カルシウムが求められている。
【0008】
特許文献1においては、ストロンチウム含有量の少ない炭酸カルシウムを製造するため、水酸化カルシウムスラリーを水相と分離することにより、ストロンチウムの少なくとも一部を水相に溶出除去し、硝酸アンモニウム及び塩酸アンモニウムの内の少なくとも一方を含有するアンモニウム塩水溶液に水酸化カルシウムを溶解し、この溶解操作において発生した不溶物を除去することにより、残存ストロンチウムを分離除去している。
【0009】
特許文献2においては、炭酸カルシウムの水性スラリーにキレート剤を添加し、加熱処理することにより、炭酸カルシウム中の鉄含有量を減少させている。
【0010】
特許文献3においては、水酸化カルシウムの水性懸濁液に、塩酸もしくは硝酸、または塩化アンモニウムまたは硝酸アンモニウムの水溶液を加えて、水酸化カルシウムを溶解させた後、アンモニア水を加え、水酸化カルシウムの沈殿とともに不純物を沈殿させ、沈殿した不純物とカルシウム塩水溶液とを分離し、分離したカルシウム塩水溶液に炭酸ガスを吹き込んで炭酸カルシウムを析出させている。
【0011】
特許文献3においては、水酸化カルシウムを溶解するのに、硝酸を用いることが記載されているが、その後の工程において、アンモニア水を添加している。このため、硝酸を用いた場合、アンモニア水を添加した際に、爆発性を有するため取扱いが非常に危険な硝酸アンモニウムが析出する。従って、一般には、塩酸を用いて、水酸化カルシウムを溶解している。しかしながら、塩酸を用いた場合、得られた水酸化カルシウム中の塩素含有量が高くなるという問題を生じる。塩素含有量が高くなると、上述のように、鉄の不動態皮膜が孔食と呼ばれる局部腐食を起こすことにより、電子部品や光学材料自体の劣化や腐食を生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭62−36021号公報
【特許文献2】特表平10−509129号公報
【特許文献3】特開2007−161515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、塩素含有量が少なく、かつ不純物金属の含有量が少ない高純度水酸化カルシウムを製造することができる方法及び該方法により得られる水酸化カルシウムを用いて高純度炭酸カルシウム、高純度硝酸カルシウム、及び高純度フッ化カルシウムを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の高純度水酸化カルシウムの製造方法は、A)石灰石を焼成して得られる生石灰に水を反応させて、水酸化カルシウムスラリーを調製する工程と、B)水酸化カルシウムスラリーに、pH9.5〜11.5の範囲内となるように硝酸を添加する工程と、C)硝酸を添加して得られた溶液を濾過して、濾液を得る工程と、D)濾液にアルカリ金属水酸化物を添加し、水酸化カルシウムを析出させる工程と、E)析出した水酸化カルシウムを濾過することにより、水酸化カルシウムを分離する工程とを備えることを特徴としている。
【0015】
本発明においては、水酸化カルシウムスラリーに、pH9.5〜11.5の範囲となるように硝酸を添加している。塩酸を用いることなく、硝酸を用いているので、本発明によれば、塩素含有量が少ない水酸化カルシウムを製造することができる。
【0016】
また、pH9.5〜11.5の範囲と内となるように硝酸を添加しているので、不純物金属の含有量の少ない水酸化カルシウムを、収率よく製造することができる。pHが9.5未満であると、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)などの不純物の含有量が高くなる。pHが11.5を越えると、水酸化カルシウムを十分に溶解することができず、最終的な高純度水酸化カルシウムの収率が低下する。
【0017】
また、本発明の工程Dにおいては、水酸化カルシウムを硝酸によって溶解させた溶液にアルカリ金属水酸化物を添加し、水酸化カルシウムを析出させている。このアルカリ金属水酸化物は水酸化カリウム、水酸化リチウムなどでも良いが、反応性が良く安価な水酸化ナトリウムが望ましい。なお、硝酸カルシウムにアンモニア水を添加しても反応性が悪く、反応が起こっても危険物である硝酸アンモニウムを生成するため好ましくない。また、アルカリ金属水酸化物として水酸化ナトリウムを使用した場合、濾液中に含まれている、硝酸カルシウムと水酸化ナトリウムの反応により生成する硝酸ナトリウムは、水に対する溶解度の高い化合物であるので、濾過することにより容易に除去することができ、ナトリウム含有量の少ない高純度水酸化カルシウムを製造することができる。
【0018】
本発明の工程Eにおいては、析出した水酸化カルシウムを濾過することにより、水酸化カルシウムを分離している。本発明においては、濾過する前に、水酸化カルシウムが析出した溶液を60℃以上に加熱することが好ましい。水酸化カルシウムは、温度が上昇すると、溶解度が低下する。一方、ストロンチウム(Sr)などの金属化合物は、温度が上がると溶解度が上がるので、50℃以上に加熱することにより、Srなどの金属化合物をさらに溶解させることができ、濾過することによりこれらを濾液中に除去することができる。
【0019】
本発明においては、工程Eで得られた水酸化カルシウムを再び水中に分散させて水酸化カルシウムの分散液とし、この分散液を50℃以上に加熱し、濾過する工程を少なくも1回以上繰り返すことが好ましい。これにより、さらにストロンチウムなどの金属化合物を除去することができる。
【0020】
工程E、及び工程Eの後の上記工程における加熱温度は、50℃以上であることが好ましく、さらに好ましくは60℃以上であり、80℃以下であることが好ましい。
【0021】
本発明においては、工程Cにおける濾過として、限外濾過を用いてもよい。限外濾過を用いることにより、Si、Alなどの不純物金属をさらに低減することができる。この場合、濾過する溶液のpHが高いため、限外濾過の膜の材質としては、例えば、PS(ポリスルフォン)製のものを用いることが好ましい。
【0022】
本発明においては、工程Eにおける濾過として、限外濾過を用いてもよい。限外濾過を用いることにより、さらに不純物濃度を低減させることができ、より高純度な水酸化カルシウムを製造することができる。
【0023】
本発明の工程Dにおいて添加するアルカリ金属水酸化物は、水溶液として添加することが好ましい。アルカリ金属水酸化物の水溶液の濃度は、特に限定されるものではないが、0.5モル/リットル以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.25モル/リットル以下である。アルカリ金属水酸化物の水溶液の濃度を、0.5モル/リットル以下とすることにより、不純物金属含有量が低く、BET比表面積が4.0m/g未満である水酸化カルシウムを製造することができる。BET比表面積が4.0m/g未満の水酸化カルシウムを用いて炭酸カルシウム等を製造することにより、高い収率で、不純物金属含有量が低い高純度炭酸カルシウム等を製造することができる。
【0024】
本発明の高純度水酸化カルシウムは、上記本発明の製造方法で製造されたことを特徴としている。
【0025】
本発明の他の局面に従う高純度水酸化カルシウムは、不純物金属含有量が200ppm未満であり、BET比表面積が4.0m/g未満であることを特徴としている。このような高純度水酸化カルシウムを用いることにより、不純物金属含有量が低い高純度炭酸カルシウム等を、高い収率で得ることができる。本発明の高純度水酸化カルシウムは、Na含有量が20ppm未満であり、Sr含有量が10ppm未満であることがさらに好ましい。このような高純度水酸化カルシウムを用いることにより、より高純度な炭酸カルシウム等を製造することができる。
【0026】
本発明の高純度炭酸カルシウムの製造方法は、上記本発明の方法で製造された水酸化カルシウムを用いて炭酸カルシウムを製造することを特徴としている。
【0027】
本発明の高純度炭酸カルシウムの製造方法によれば、上記本発明の水酸化カルシウムを用いているので、塩素含有量が少なく、かつ不純物金属の含有量が少ない高純度炭酸カルシウムを製造することができる。
【0028】
本発明の高純度硝酸カルシウムの製造方法は、上記本発明の方法で製造された水酸化カルシウムを用いて硝酸カルシウムを製造することを特徴としている。
【0029】
本発明の高純度硝酸カルシウムの製造方法によれば、上記本発明の水酸化カルシウムを用いているので、塩素含有量が少なく、かつ不純物金属の含有量が少ない高純度硝酸カルシウムを製造することができる。
【0030】
本発明の高純度フッ化カルシウムの製造方法は、上記本発明の方法で製造された水酸化カルシウムを用いてフッ化カルシウムを製造することを特徴としている。
【0031】
本発明の高純度フッ化カルシウムの製造方法によれば、上記本発明の水酸化カルシウムを用いているので、塩素含有量が少なく、かつ不純物金属の含有量の少ない高純度フッ化カルシウムを製造することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、塩素含有量が少なく、かつ不純物金属の含有量が少ない高純度水酸化カルシウムを製造することができる。
【0033】
また、本発明の高純度炭酸カルシウム、高純度硝酸カルシウム、及び高純度フッ化カルシウムの製造方法によれば、塩素含有量が少なく、かつ不純物金属の含有量が少ない高純度炭酸カルシウム、高純度硝酸カルシウム及び高純度フッ化カルシウムを製造することができる。
【0034】
BET比表面積が4.0m/g未満の本発明の高純度水酸化カルシウムを用いることにより、より高純度の炭酸カルシウム等を高い収率で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の高純度水酸化カルシウムの製造方法においては、工程Aにおいて、石灰石を焼成して得られる生石灰(酸化カルシウム)に水を反応させて水酸化カルシウムスラリーを調製する。例えば、石灰石をキルン内で約1000℃で焼成して、生石灰を生成し、この生石灰に約10倍量の熱水を投入し、30分間攪拌させることにより、水酸化カルシウムスラリーを調製することができる。上記の反応を、化学反応式で示すと以下の通りである。
【0036】
CaCO→CaO+CO
CaO+HO→Ca(OH)
【0037】
次に、得られた水酸化カルシウムのスラリーに、pH9.5〜11.5の範囲となるように硝酸を添加する。これにより、水酸化カルシウムと硝酸が反応して、硝酸カルシウムとなり水溶液中に溶解する。化学反応式で示すと以下の通りである。
【0038】
Ca(OH)+2HNO→Ca(NO+2H
硝酸カルシウムは水に易溶性であるため、水溶液中に溶解するが、pHを9.5〜11.5の範囲内としているので、鉄(Fe)やマグネシウム(Mg)などの不純物金属は、水酸化物の状態を維持しており、水に難溶性である。従って、次の工程Cで硝酸を添加して得られた溶液を濾過することにより、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)などの不純物金属を除去することができる。
【0039】
また、工程Cにおいて、濾過として、限外濾過を用いることにより、さらにSi、Alなどの不純物金属を高い精度で除去することができる。
【0040】
工程Dにおいては、濾液に、水酸化ナトリウムを添加し、水酸化カルシウムを析出させる。化学反応式で示すと、以下の通りである。なお、水酸化ナトリウムはpHが12.0以上となるまで添加することが好ましく、さらにはpHが12.5〜13.0の範囲となるまで添加することが好ましい。
【0041】
Ca(NO+2NaOH→Ca(OH)+2NaNO
次に、工程Eで、水酸化カルシウムが析出した溶液を50℃以上に加熱し、濾過することにより、水酸化カルシウムを分離する。水酸化カルシウムは、温度が上昇すると、溶解度が低下する。一方、ストロンチウム(Sr)などの金属化合物は、温度が上昇すると溶解度も高くなる。また、副生成物である硝酸ナトリウムも、温度が上昇すると、溶解度が高くなる。このため、工程Eにおいて、水酸化カルシウムが析出した溶液を50℃以上に加熱することにより、水酸化カルシウムの溶解度を低下させる一方で、ストロンチウムなどの不純物金属の化合物及び硝酸ナトリウムの溶解度を高めた状態で濾過することができ、効率的に不純物を除去することができる。
【0042】
また、工程Eで得られた水酸化カルシウムを再び水中に分散させて水酸化カルシウムの分散液とし、この分散液を50℃以上に加熱し、濾過する工程を少なくとも1回以上繰り返すことにより、さらに不純物の含有量を少なくすることができる。
【0043】
また、工程Eにおいて、濾過として、限外濾過を用いることにより、より効率的に濾過することができ、さらに不純物の含有量を少なくすることができる。
【0044】
本発明によれば、Na、Mg、Fe、Sr、Si、Alなどの不純物金属の含有量を、例えば、10ppm以下にすることができる。または、本発明においては、塩酸を用いていないので、塩素含有量を、例えば、10ppm以下にすることができる。
【0045】
また、本発明によれば、シュウ酸反応性(TpH7)が5以下である高純度水酸化カルシウムを製造することができる。シュウ酸反応性(TpH7)は、シュウ酸を添加したときの水酸化カルシウムの活性度を示す指標である。具体的には、純水を用いて5.0重量%に調整した水酸化カルシウムスラリーを25±1℃に保ち、同様に25±1℃に保った0.5モル/リットルのシュウ酸水溶液40gを一気にこの水酸化カルシウムスラリーに添加し、シュウ酸水溶液を添加したときからpH7.0になるまでの時間(分)を測定し、これをTpH7とする。シュウ酸水溶液を添加すると、いったんpHが下がり、徐々にpHが上昇する。pHが7.0になったときの時間を測定する。
【0046】
本発明により製造することができる高純度水酸化カルシウムとしては、シュウ酸反応性(TpH7)が5以下であることが好ましく、さらに好ましくは3以下であり、さらに好ましくは1以下である。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を具体的な実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
<実験1>
(実施例1)
超高速昇温電気炉を用い、石灰石を1000℃で3時間焼成して生石灰を生成した。その生石灰150gに80℃の純水1500gを加え、30分間攪拌しながら水化して水酸化カルシウムスラリーを調製した。水酸化カルシウムスラリー中の水酸化カルシウムについて、不純物金属の含有量を、ICP−AES分析法(島津製作所製、ICPS−8100)を用いて測定した。また、塩素含有量を、イオンクロマトグラフィ法により測定した。測定結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
水酸化カルシウム100gを含む水酸化カルシウムスラリーに、室温下で、60%硝酸を攪拌しながらpHが9.5になるまで添加した。
【0051】
得られた溶液を、濾紙で濾過し、濾液を得た。なお、濾紙としては、定量濾紙5C(ADVANTEC社製、直径110mm)を用いた。
【0052】
得られた濾液について、UFモジュール(膜材質:ポリスルフォン、膜内径1.4mm、分画分子量10000)を用いて、限外濾過し、濾液を得た。
【0053】
得られた濾液に、1モル/リットルの濃度の水酸化ナトリウム水溶液をpH12.5になるまで添加し、水酸化カルシウムを析出させた。
【0054】
次に、水酸化カルシウムが析出した溶液を、80℃に加熱した後、上記と同様の濾紙を用いて、濾過した。濾過した後、濾紙上に残った水酸化カルシウムを乾燥させて、高純度水酸化カルシウムを採取した。
【0055】
(実施例2)
水酸化カルシウムスラリーに、pH10.0になるまで硝酸を添加する以外は、上記実施例1と同様にして高純度水酸化カルシウムを製造した。
【0056】
(実施例3)
水酸化カルシウムスラリーに、pH11.0になるまで硝酸を添加する以外は、上記実施例1と同様にして高純度水酸化カルシウムを製造した。
【0057】
(実施例4)
水酸化カルシウムスラリーに、pH11.5になるまで硝酸を添加する以外は、上記実施例1と同様にして高純度水酸化カルシウムを製造した。
【0058】
(実施例5)
実施例2の操作において、濾過した後の水酸化カルシウムを再度イオン交換水に6.0重量%となるように分散して分散液とし、この分散液を80℃に加熱し、濾過した。この工程を3回繰り返した後、濾過して濾紙上に残った水酸化カルシウムを乾燥して、高純度水酸化カルシウムを採取した。
【0059】
(実施例6)
実施例2の操作において、水酸化カルシウムが析出した溶液を、80℃に加熱した後、UFモジュール(膜材質:ポリスルフォン、膜内径1.4mm、分画分子量10000)を用いて限外濾過し、UFモジュール内の水酸化カルシウムを乾燥して、高純度水酸化カルシウムを採取した。
【0060】
(比較例1)
水酸化カルシウムスラリーに、pH9.0になるまで硝酸を添加する以外は、上記実施例1と同様にして高純度水酸化カルシウムを製造した。
【0061】
(比較例2)
水酸化カルシウムスラリーに、pH12.0になるまで硝酸を添加する以外は、上記実施例1と同様にして高純度水酸化カルシウムを製造した。
【0062】
(比較例3)
水酸化カルシウムスラリーに、pHが9.0になるまで塩酸を添加する以外は、実施例1と同様にして高純度水酸化カルシウムを製造した。
【0063】
(比較例4)
水酸化カルシウムスラリーに、pHが10.0になるまで塩酸を添加する以外は、実施例1と同様にして高純度水酸化カルシウムを製造した。
【0064】
〔高純度水酸化カルシウムの不純物含有量の測定〕
実施例1〜6及び比較例1〜4で得られた高純度水酸化カルシウム中の不純物含有量を測定した。Na、Mg、Fe、Sr、Si、及びAlについては、上記と同様のICP−AES分析法により測定した。Clについては、イオンクロマトグラフィ法により測定した。測定結果を表2に示す。
【0065】
〔収率〕
実施例1〜6及び比較例1〜4において、最終的に得られた高純度水酸化カルシウムの収率を、水酸化カルシウムスラリー中の水酸化カルシウムの100gに対して算出し、表2に収率として示した。
【0066】
〔BET比表面積〕
実施例1〜6及び比較例1〜4において得られた高純度水酸化カルシウムのBET比表面積を、流動式比表面積自動測定装置(島津製作所製、フローソープII2300型)を用いて測定し、表2にBET比表面積として示した。
【0067】
〔シュウ酸反応性試験〕
実施例1〜6及び比較例1〜4において得られた高純度水酸化カルシウムのスラリーを純水で5.0重量%の濃度に調整する。濃度調整した水酸化カルシウムスラリーを25±1℃に保ち、同様に25±1℃に保った0.5モル/リットルのシュウ酸水溶液40gを、この水酸化カルシウムスラリーに一気に添加する。シュウ酸水溶液を添加してからpHが7.0になるまでの時間(分)を測定し、シュウ酸反応性(TpH7)として表2に示した。
【0068】
【表2】

【0069】
表2に示す実施例1〜4と比較例1〜2の比較から明らかなように、水酸化カルシウムスラリーに、pH9.5〜11.5の範囲となるように硝酸を添加することにより、不
純物含有量が少なく、シュウ酸反応性(TpH7)に優れた水酸化カルシウムを高い収率で得られることがわかる。
【0070】
また、実施例1〜4と比較例3〜4の比較から明らかなように、硝酸を用いることにより、塩素含有量を少なくすることができ、かつ不純物金属の含有量の少なく、シュウ酸反応性(TpH7)に優れた高純度水酸化カルシウムを、高い収率で得られることがわかる。
【0071】
また、実施例2と、実施例5または6との比較から明らかなように、加温濾過工程を繰り返すことにより、あるいは限外濾過工程を用いることにより、塩素含有量及び不純物金属含有量をさらに低減でき、シュウ酸反応性(TpH7)においてさらに優れた高純度水酸化カルシウムが得られることがわかる。
【0072】
(実施例7)
本実施例では、実施例2で得られた水酸化カルシウムを用いて、高純度炭酸カルシウムを製造した。実施例2において濾紙上に残った水酸化カルシウムを乾燥せずに純水を加え、濃度6.0重量%の水酸化カルシウムスラリーを調製した。この水酸化カルシウムスラリーに炭酸ガスをpH7.0になるまで吹き込んで、炭酸カルシウムを析出させた。析出させた炭酸カルシウムを濾過した後、乾燥することにより、高純度炭酸カルシウムを製造した。
【0073】
(実施例8)
本実施例では、実施例2の水酸化カルシウムを用いて、高純度硝酸カルシウム(4水和物)を製造した。実施例2の水酸化カルシウムに硝酸(濃度60重量%)を加えて高純度硝酸カルシウム水溶液(濃度20重量%)を作製し、これをUFモジュール(膜材質:ポリスルフォン、膜内径1.4mm、分画分子量10000)を用いて限外濾過し、限外濾過工程によって加温された濾液を室温まで冷却させて結晶化させた。
【0074】
また、実施例7で製造した高純度炭酸カルシウムに硝酸を加えて、高純度硝酸カルシウム水溶液を作製した場合も、同様に高純度硝酸カルシウムを製造することができた。
【0075】
(実施例9)
本実施例では、実施例2の水酸化カルシウムを用いて、高純度フッ化カルシウムを製造した。内側がテフロン(登録商標)樹脂でコーティングされた密閉容器内で、実施例2の水酸化カルシウムにフッ酸水溶液(濃度50重量%)を加えて密閉した後、約110℃程度に加熱して反応させた。その後、生成した高純度フッ化カルシウムスラリーを濾過し、室温で乾燥させた。
【0076】
<実験2>
(実施例10)
実施例2において、濾液に添加する水溶液ナトリウム水溶液の濃度として、1モル/リットルに代えて、0.1モル/リットルの濃度の水溶液ナトリウム水溶液を用いること以外は、上記実施例2と同様にして高純度水酸化カルシウムを製造した。
【0077】
(実施例11)
実施例2において、濾液に添加する水溶液ナトリウム水溶液の濃度として、1モル/リットルに代えて、0.25モル/リットルの濃度の水溶液ナトリウム水溶液を用いること以外は、上記実施例2と同様にして高純度水酸化カルシウムを製造した。
【0078】
(実施例12)
実施例2において、濾液に添加する水溶液ナトリウム水溶液の濃度として、1モル/リットルに代えて、0.5モル/リットルの濃度の水溶液ナトリウム水溶液を用いること以外は、上記実施例2と同様にして高純度水酸化カルシウムを製造した。
【0079】
(実施例13)
実施例2において、濾液に添加する水溶液ナトリウム水溶液の濃度として、1モル/リットルに代えて、2.5モル/リットルの濃度の水溶液ナトリウム水溶液を用いること以外は、上記実施例2と同様にして高純度水酸化カルシウムを製造した。
【0080】
〔高純度水酸化カルシウムの不純物含有量の測定〕
上記と同様にして、得られた高純度水酸化カルシウム中の不純物含有量を測定した。測定結果を表3に示す。
【0081】
〔BET比表面積〕
上記と同様にして、得られた高純度水酸化カルシウムのBET比表面積を測定した。測定結果を表3に示す。
【0082】
〔純水使用量〕
水酸化カルシウムを製造する上記各実施例においては、析出した水酸化カルシウムを濾過した後、濾紙上に残った水酸化カルシウムに、純水を添加して洗浄している。洗浄に使用した後の液の電気伝導度に変化がなくなるまで純水の洗浄を行っている。この洗浄に用いた純水の使用量を、表3に「純水使用量」として示す。
【0083】
なお、表3には、1モル/リットルの濃度の水酸化ナトリウム水溶液を用いた実施例2の結果も併せて示している。
【0084】
【表3】

【0085】
表3に示すように、水酸化カルシウムを析出させるために添加する水酸化ナトリウム水溶液の濃度が低くなるにつれて、得られる水酸化カルシウムの不純物金属含有量が低くなるとともに、BET比表面積が小さくなることがわかる。なお、表3に示すように、得られた水酸化カルシウムの洗浄に用いる純水の使用量は、表3に示すいずれの実施例においてもほぼ同程度である。
【0086】
表3に示す結果から、水酸化カルシウムを析出させるのに用いる水酸化ナトリウム水溶液の濃度を、0.5モル/リットル以下とすることにより、得られる水酸化カルシウムのBET比表面積を4.0m/g未満とすることができ、さらには0.25モル/リットル以下とすることにより、得られる水酸化カルシウムのBET比表面積を1.0m/g未満にできることがわかる。
【0087】
(実施例14〜17:高純度炭酸カルシウムの製造)
上記実施例2及び10〜12で得られた高純度水酸化カルシウムを用いて、高純度炭酸カルシウムを以下のようにして製造した。
【0088】
水酸化カルシウム50gを、2リットルビーカーに入れて0.5リットルの純水を加え、攪拌棒(シャフト径8mm、羽根長さ100mm)を用いて回転数500rpmで30分間攪拌し、150μmのメッシュを通した後、さらに純水を加えて濃度6.0質量%の水酸化カルシウムスラリーを調製した。
【0089】
この水酸化カルシウムスラリーに炭酸ガスをpH7.0になるまで吹き込んで、炭酸カルシウムを析出させた。析出させた炭酸カルシウムを濾過した後、乾燥することにより、高純度炭酸カルシウムを製造した。
【0090】
〔高純度炭酸カルシウムの不純物含有量の測定〕
上記の高純度水酸化カルシウムの不純物含有量の測定と同様にして、高純度炭酸カルシウム中の不純物含有量を測定した。測定結果を表4に示す。
【0091】
〔BET比表面積〕
上記と同様にして、得られた高純度炭酸カルシウムのBET比表面積を測定した。測定結果を表4に示す。
【0092】
〔収率〕
以下の式から、高純度炭酸カルシウムの収率を算出した。高純度炭酸カルシウムの収率を表4に示す。
【0093】
収率(%)={高純度炭酸カルシウム製造量(g)/高純度水酸化カルシウム使用量(g)}×{74(水酸化カルシウムの分子量)/100(炭酸カルシウムの分子量)}
【0094】
【表4】

【0095】
表4に示す結果から明らかなように、実施例10〜12の原料水酸化カルシウムを用いた実施例14〜16の炭酸カルシウムは、実施例2の原料水酸化カルシウムを用いた実施例17に比べ、不純物金属含有量が低くなっており、より高純度であることがわかる。また、BET比表面積が4.0m/g未満である実施例10〜12の原料水酸化カルシウムを用いた実施例14〜16においては、実施例2の原料水酸化カルシウムを用いた実施例17に比べ、高い収率が得られていることがわかる。特に、BET比表面積が1.0m/g未満である実施例10及び11の原料水酸化カルシウムを用いた実施例14及び15においては、さらに高い収率が得られている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)石灰石を焼成して得られる生石灰に水を反応させて、水酸化カルシウムスラリーを調製する工程と、
B)水酸化カルシウムスラリーに、pH9.5〜11.5の範囲内となるように硝酸を添加する工程と、
C)硝酸を添加して得られた溶液を濾過して、濾液を得る工程と、
D)濾液にアルカリ金属水酸化物を添加し、水酸化カルシウムを析出させる工程と、
E)析出した水酸化カルシウムを濾過することにより、水酸化カルシウムを分離する工程とを備えることを特徴とする高純度水酸化カルシウムの製造方法。
【請求項2】
水酸化カルシウムが析出した溶液を50℃以上に加熱した後、濾過することを特徴とする請求項1に記載の高純度水酸化カルシウムの製造方法。
【請求項3】
工程Eで得られた水酸化カルシウムを再び水中に分散させて水酸化カルシウムの分散液とし、この分散液を50℃以上に加熱し、濾過する工程を少なくとも1回以上繰り返すことを特徴とする請求項1または2に記載の高純度水酸化カルシウムの製造方法。
【請求項4】
工程Cにおける濾過として、限外濾過を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の高純度水酸化カルシウムの製造方法。
【請求項5】
工程Eにおける濾過として、限外濾過を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の高純度水酸化カルシウムの製造方法。
【請求項6】
アルカリ金属水酸化物が水酸化ナトリウムであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の高純度水酸化カルシウムの製造方法。
【請求項7】
アルカリ金属水酸化物を水溶液として添加することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の高純度水酸化カルシウムの製造方法。
【請求項8】
アルカリ金属水酸化物の濃度が、0.5モル/リットル以下であることを特徴とする請求項7に記載の高純度水酸化カルシウムの製造方法。
【請求項9】
アルカリ金属水酸化物の水溶液の濃度が、0.25モル/リットル以下であることを特徴とする請求項7に記載の高純度水酸化カルシウムの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法で製造されたことを特徴とする高純度水酸化カルシウム。
【請求項11】
不純物金属含有量が200ppm未満であり、BET比表面積が4.0m/g未満であることを特徴とする高純度水酸化カルシウム。
【請求項12】
Na含有量が20ppm未満であり、Sr含有量が10ppm未満であることを特徴とする請求項11に記載の高純度水酸化カルシウム。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれか1項に記載の水酸化カルシウムを用いて炭酸カルシウムを製造することを特徴とする高純度炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項14】
請求項10〜12のいずれか1項に記載の水酸化カルシウムを用いて硝酸カルシウムを製造することを特徴とする高純度硝酸カルシウムの製造方法。
【請求項15】
請求項10〜12のいずれか1項に記載の水酸化カルシウムを用いてフッ化カルシウムを製造することを特徴とする高純度フッ化カルシウムの製造方法。

【公開番号】特開2011−126772(P2011−126772A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253649(P2010−253649)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(598039965)白石工業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】